複雑・ファジー小説
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- ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-13更新!
- 日時: 2013/11/24 14:50
- 名前: 風猫 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel2a/index.cgi?mode=view&no=873
プロローグ
世界は1度滅びた。
正確には人間という存在が生まれた星はなくなったってこと。
俺が生まれる500年以上も昔。
人間たちは過ぎた力に自制を失って、第三次世界大戦引きおこす。
圧倒的な破壊の嵐。
命はゴミのように消え、環境は崩れちった。
生きのびたごく僅かな人間たちは、シュナイデンという博士が戦時に提唱(ていしょう)した時空間移動装置(ワープマシン)を使い新天地を目指す。
未完成だったマシンで空間移動に成功し、人間が生きていける惑星へ到着したのは奇跡以外の何者でもないだろう。
それからご先祖様たちは必死に、人類の復興を推進した。
本来なら全滅を待つだけである状態から、当時最先端のクローン技術や開発技術をすべて使い、何とか生きながらえた彼ら。
だが、彼ら全員には危惧することがあった。
すでに自分たちの技術は1つの惑星で収まりきるものではないと気づいていたのだろう。
彼等は命をつなぎとめると、次はワープを完成させ宇宙開発を開始した。
交渉し、時には武力を使うことすらためらわず、手当たり次第に知的生命体にコンタクトをとっては、併呑していく。
それはまるで、過ぎた力を求める神々への冒涜ようなものだっただろう。
だが、神のために滅べるほど人間は大人じゃなかった。
「そう、大人じゃなかった。俺は餓鬼(がき)だ。だから、望む。宇宙のどこかにあるラストシャンバラ」
俺は今時分珍しい、プレミア物の紙製書物を閉じてつぶやく。
今俺が住んでいる世界は箱庭だ。
見上げれば突き抜けるような、青い空がある。
あるはずのない青空。
本来、溶岩惑星の上に存在するガルガアース第14居住天体フレイムには有り得ないもの。
悪条件という天然要塞に建てられた安全都市フレイム居住区は、巨大なドーム上の鎧に囲まれた全てが人工でできた世界だ。
絶対溶けることのないとされる鉱物でつくられ、完璧な温度制御装置を有する最先端都市。
これが俺達の住む世界の姿。
馬鹿げた安全神話と、見て見ぬふりで塗りつぶされた偽りの空間。
だから、俺にとっては全てが空ろに映る。
色はついているさ。
でも、その色に何も感じられないんだよ。
ただ1つを除いては……
しかし、遅いな。
待ち合わせ時間1時間過ぎてるよ。
普段は俺が待たせる立ち番だが、待つってのは意外と辛いもんだな。
そんなことを考え嘆息(たんそく)したとき、俺の名を呼ぶ飴玉を転がすような甘い声。
「ヴォルトォ!」
“ただ1つを除いては”
そんな中で唯一(ゆいいつ)色鮮やかに見える女
今時珍しい横巻きツインテールの活発な笑顔を絶やさない、俺の幼馴染ノヴァ。
透き通るような白い肌と、小柄ながら整ったその容姿はどうしても目をひく。
俺の通(かよ)う高校ではミスコン常連(じょうれん)だ。
「やっと来たか」
「うー、おめかししてたら遅れてしまいましたぁ。それにしても相変わずヴォルトは暇だと空見てるねぇ? 嫌いだって言いまわってるわりにはさ?」
そっけない声で言う俺。
本当はやっと彼女にあえて泣きたいほど嬉しい情けない自分。
だって、彼女がいないと俺はこの空虚な世界で1人になっちまう。
親父なんざどこにいるかも分からないし、母も空虚にしか見えないから。
あぁ、また俺空眺めてたのか。
でもさぁ、仕方ねぇじゃん。
俺の目的、ラストシャンバラは——
偽者の太陽を握り潰すように手中に収めて、俺は胸中で決意を固めるように握り拳をつくる。
するとノヴァは俺の横へと歩み寄りささやく。
「ラストシャンバラ、あると良いねぇ?」
この宇宙には楽園があるという。
人々はそれをラストシャンバラ(最後の楽園)と呼ぶ。
そこには、人々が望む全てがあるという。
もちろん、多くの人々は眉唾(まゆつば)だと吐き捨てる類のものだが、俺はそいつを信じてる。
いや、こんな場所で一生暮らしたくないだけさ。
例えなくてもあると信じて求めたい。
「あるさ……神様は残酷でふざけた奴だが、だからこそ」
ノヴァは俺の言葉をいつも肯定(こうてい)してくれる。
常識ある9割以上の人間が戯言と笑う俺の夢を。
だから、だからこそ俺はっっ。
手にしたいんだ。
この住み辛い世界から逃げるだけじゃない。
自分の目的をこの手に握って、ノヴァと愛を育(はぐく)むと。
ノヴァが俺の手を握る。
小さい手。
細い指。
かすかに、だけどたしかに伝わる温もり。
「見つけたら、私も招待してほしいな」
ただでさえ小さい体をかがめて、彼女はにこりと笑った。
「何言ってやがんだよ? お前はクルーになるに決まってんだろ?」
俺は間髪いれずに言う。
それは俺にとっての決定事項。
「ははっ、それが嬉しいなぁ」
彼女はいつのように笑った。
本当の日溜りってのは知らないが、きっと太陽みたいな笑顔ってのは、こういうのを言うんだろうな。
________________________________
※一番上の参照は、シリダクで書いているラストシャンバラ〔B〕のURLです。
この物語は、主人公2人の視点から描かれる形になっています。
初めましての方々は初めまして。お久しぶりの方々はお久しぶり。
いつも来てくださっている方々はいつも有難うございます。
風猫と申します。
今回は、SF能力ファンタジーという詰め込みまくりのジャンルをやろうと思います。
最も、正直科学知識などの面は、?となる所が沢山あると思いますがそこは生暖かい目で
ちなみにこの作品と同名のヴォルト・ジルとは違う主人公視点で描かれるタイトルをシリダクで描きたいと思います。
<注意>
1.宣伝や雑談、中傷、荒しといった行為は行わないでください。
2.恐らく物凄く更新頻度は低いです。ご了承を。場合によっては1ヶ月以上あくこともあるかと。
3.突然、更新をやめる可能性があります。そこもご了承を。
更新を打ち切るときは宣伝し、ロックします。
4.感想や指摘、誤字脱字の報告などは大歓迎です^^
5.エロ描写やグロ描写が入ると思われます。
<お客様>
柚子様
メフィストフェリス様
よしの、様
アスカ様
利丙様
F様
黒田奏様
氷空様
日向様
萌姫様
天様
只今、11名
コメントくださって本当にありがとうございます!
<更新話>
ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園—
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」
Part1 >>10 Part2 >>22 Part3 >>29 Part4 >>40 PART5 >>42 Part6 >>47 Part7 >>52 Part8 >>54 Part9 >>58 Part10 >>61 Part12 >>63 Part12 >>67 Part13 >>71
<その他>
月森和葉様作 ノヴァ >>41
モッチリ様作 リズリー >>50
モッチリ様作 クリミア >>55
貰い物や番外編、企画など
10/17 更新開始
- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-9 更新 ( No.61 )
- 日時: 2013/08/15 07:50
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
- 参照: 久々更新なので少し長くなりました——
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part10
俺の涙雨も止んでそれなりに時間がたった。
まぶたが痛くなるほど泣いたせいか、心は明鏡止水(めいきょうしすい)のごとく穏やかだ。
ってほどでもねぇか。
つーか、さっきからノヴァが俺のこと君付けしねぇで呼ぶんだが、これは関係が進展したってことでいいよなぁ。
いいよなっ、なっ。
誰に言ってんだよ。
テンパって勝手に嘆息とか、全然落ち着いちゃいない俺。
「あっ! もう、パロパロ大会始まっちゃうじゃーん! 急がないとっ! ほら、行くよヴォルトッ」
そんな俺のすそを引っ張りながらノヴァがいきなり大声を出す。
あぁ、もう12時前かっ。
パロパロ大会。
パロパロって名付けられた10色の円が等間隔に描かれた絨毯(じゅうたん)の上で、流れる音楽にあわせて踊るっていう。
いわゆる音げーの一種なんだが。
しょうじき、それほど知名度が高いイベントでもねぇ。
だがどういうわけかノヴァは、5歳くらいころからそれにはまってる。
ちなみに歴がなげぇってのもあってか、結構な上位ランカーだ。
「おっおう! あんまり引っ張るなって……転ぶぞ馬鹿」
「はぁはぁー、良かったぁ。まだ、大丈夫っぽいねっ! ヴォルトォ、少し待っててねっ」
あんまり運動神経もよくないのにそんなに急ぐなって。
まだぎりぎり間に合う。
って、指摘しても聞いてねぇし。
「いやいや、言われなくても待ちますから」
ノヴァの台詞に半ばあきれた感じの返事を返して、俺は都合よく誰も座っていないベンチに腰を下ろした。。
「すいませーんっ! あっあの私も参加しまーっす!」
「おっ、来たな嬢ちゃん! いつも最前列で並んでっから心配だったんだぜぇ?」
元気が乗りまくって上ずったノヴァの声。
最高に心地よい響きに目を細める俺の耳に、次の瞬間入ってきたのはしゃがれた親父の声だ。
パロパロ大会主催者にして受付も担うハゲール・ロンヴァーノ氏、齢F(よわい)は47歳だ。
ノヴァとはすでに長い付き合いなので、あいつとは親子みたいな感じで話しやがる。
とうぜん俺とも面識があるが正直なところ、いちいち親しげに俺のノヴァと語りやがって気に食わない。
「おい、おっさん。ノヴァをマスコット扱いするんじゃねぇぞ」
ので、人込み——ってほどでもない程度にいるエトセトラどもをかき分けおっさんに怒鳴(どな)り込む。
このおっさんは俺のノヴァを自分の商戦道具に思ってる節(ふし)がある。
気に入らねぇ。
そりゃぁ確かに彼女はそこらの女なんかよりよほど美人で客引きには使えるわなぁ。
だが俺が許さんっ。
「ヴォッヴォルトッ!?」
「悪ぃ悪ぃ、でもよヴォル坊。つっても嬢ちゃんはスゲェ美人だし実際人気あるんだぜぇ」
驚くノヴァの声も素敵だ。
おい待て、禿頭(とくとう)マッチョ。
てめぇはいっつも俺を“坊”なんてつけて親しげに呼びやがるが、俺はてめぇになにも心許してねぇぞ。
あぁーっ、人に好かれるとかなんとかどうでもいいわぁ。
最初からそんなの分ってだよ。
ただ俺は……俺はぁ、ノヴァに他の野郎の目が向けられてるのが気に食わないだけだ。
今日こそは言ってやりたいことがある。
思い切って言ってやろう、そう身を乗り出したとき。
ノヴァのエルボーが俺のわき腹に命中。
俺は思わずよろけ苦悶(くもん)の表情を浮かべ身をよじらす。
「まぁまぁ、ヴォルトォ……周りが見てるから、さ?」
「ちっ」
俺は周りを見回して撤退した。
もちろん周囲の目を気にしてとかじゃなくて、ノヴァがお願いしているからだ。
俺はふたたびベンチに戻って座る。
5分くらいしてノヴァが嬉しそうな表情で戻ってきた。
どうやらおっさんになにやら笑顔になるようなことを言われたらしいな。
嫉妬丸出しに苛立って柄(がら)にもないことを俺は言う。
「おっせぇぞノヴァ。受付にどんだけかかってんだ!?」
「もーぅ、ヴォルト変に気にしすぎぃ! もっと、泰然自若(たいぜんじじゃく)と構えててよぉ」
とうぜんながら彼女は俺が苛立っている理由を分ってて。
少し呆れた調子でつぶやく。
少し経って顔を見合わせて笑い合い、手を繋いで歩き出す。
ノヴァの歩幅に歩くのが好きだ。
そんなささやかだけど俺にとって絶対的な小さな幸せをかみ締めていたとき。
とつぜん、後ろから良く通ったハスキーな声が響く。
「そこの君! そこのツインテールの君だよ!」
悪寒(おかん)。
耳にした瞬間に感じたのはそれ。
背筋に無数の棘(とげ)が刺さったかのような痛み。
ただの寒気じゃなくて確信めいた不安となってそれは俺の胸中に広がっていく。
心の堤防に小さな隙間が開いて少しずつひび割れやがて砕けるような予感。
嫉妬して笑って手ぇ繋いで愚痴を言う。
そして子供は何人がいいとか将来ラストシャンバラにいくとか、未来や夢を語る。
そんな日常がこれからもずっと続くってこのときの俺は思ってた。
あぁ、あの時感じた痛みがまた——
End
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- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-10 更新 ( No.63 )
- 日時: 2013/09/07 16:59
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part11
イテェ。
頭の中に直接響く。
音叉打ったときに出るような超高温が至近距離で。
体が揺れる。
頭が振り子のように揺らいで、地面と空がグチャグチャだ。
あぁ、暗くなっていく。
眩暈(めまい)が酷くてヤバイ。
少し待て。
何打これはあの時の症状とも違う。
初めての感じ。
「力が欲しいか?」
あれは、親父。
この耳障りな声は間違いなく餓鬼の頃聞いたことがある声だ。
「親父!? てめぇ、どういうことだ!?」
周りを見回しても何の姿も見えない。
あの時ははかなげな表情をしたノヴァが見えたが、今回は何もかも黒一色だ。
不安は焦燥感になり俺は喚き散らす。
「親父! 居るなら答えろよ! 何がどうなって……」
そもそも、親父なんてここに居るはずが無いのに何を言っているんだ。
そんな違和感を感じながらも俺は叫ばずに居られない。
「欲しいのなら、光に触れろ。入らぬなら、闇の中で永遠に彷徨(さまよ)い二度と目を覚ます必要はない」
「なっ、てめぇっ!? 俺の話はっ」
叫びすぎて喉がマグマの水でも飲んだかのように熱くなった頃だ。
俺の言葉なんて堂々と無視したような、完全に自分の言いたいことだけを告げているような台詞。
あぁ、絶対殴ってやりたいと思えるあのクソ野郎らしい自己中っぷりだぜ。
多分絶対コミュニケーションなんて取れねぇな。
俺は1つ嘆息し周りを見回す。
「光? 見当たらっ」
「有るじゃないか? そこにお前の魂が」
闇の中から突然現れた腕。
筋肉質ながら細身で無駄のない、いつぞや以来見る親父の腕の形とそっくりだ。
何で昔と全く変わってないのかは結局これが自分の記憶内で起こってることだってのを示唆(しさ)してるんだろう。
そいつの指が俺の心臓を指差す。
俺が目を下ろすと突然現れた腕と変わらないくらい唐突に、俺の胸は淡い水色の光を放ちだした。
「何だ!? いきなりっ」
「シャングリラを目指すものがその程度でビビるなよ? 箱庭から外に出たらもっとやべぇことが幾らでもあるぜ?」
驚いて心臓を押さえるようにする俺。
今度は俺に語りかけてくる声のほうが嘆息して。
嘆かわしそうな風情で説教を垂れやがった。
他人の言葉にも反応できるじゃないかと、少し関心もしたがやっぱりむかつく。
本当にあの男は自分勝手で人をおちょくるのが好きらしい。
「ちょっと待て! これが光だって言うなら俺はすでに光に触ってねぇか!? 一体どうなるんだよ!」
「一々うるさい奴だ。そんなこと俺が説明する義理はねぇ。まぁ、どうせ今すぐどうこうってこたぁねぇさ。気楽にしてろ」
何だってんだよ。
結局、何の考えも無く突発的でも何かしら起こるってことか。
畜生(ちくしょう)。
「無責任な……」
そう虚無の空間で毒づくと同時に黒はカーテンを開けたかのように一瞬で消え、凄まじい光が目を焼く。
「くっ!」
「ほぇっ?」
凄い長い間暗黒の中で彷徨っていた気がしたんだが、どうやら案外時間は経っていないようだ。
証拠に突然の声にノヴァが驚きの声を上げているのが、意識を戻すと見えると同時に耳に入る。
俺はゆっくりと後ろへと振り向く。
声を掛けた相手の姿を確認するために。
End
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- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-12執筆中 ( No.67 )
- 日時: 2013/10/27 13:15
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part12
長身でスタイルのいい銀髪。
身体的特徴を焼き付けろ。
何かがおかしい。
1番の特徴はこの辺では珍しい浅黒く焼けた肌の持ち主で、サングラスに黒いスーツ。
いや、待て。
あの左胸ポケットの紋章。
破壊の象徴たる獅子(しし)を、再生の象徴たる蛇が締め付けて殺そうとしているあのマーク。
あれには見覚えがあるぞ。
ココルギネア。
本来いかにサンファンカーニバル中とはいえ、絶対にこの居住区にいてはいけない存在のはず。
怪しいじゃない。
確定だ。
こいつは警戒すべき敵。
「ちょっと待てよ。あんた何者だ? ノヴァをどうする気だよ、しらばっくれるんなら1つ教えてやるぜ! この区にココルギネアのスカウトマンが来るとかありえないってな」
一瞬、相手の動きが硬直(こうちょく)する。
どうやら知らなかったらしい。
ココルギネアの社員ならありえないことだ。
少しの間無言で立ち尽くすと、健康的な黒い肌の女スカウトマンの口角がつり上がった。
見破られて気でもふれたか。
そんなばかな。
「へぇ、意外と警戒心が強いんだな。フレイム居住区の連中はかなり警戒心が緩いって、ある人から聞いたんだけどなぁ」
待て。
コイツ可笑しい。
自分の悪意が見破られて動揺するどころか、楽しそうにしてやがるっ。
狂気。
俺がノヴァを愛する気持ちとはまた違うベクトルの。
だが待てよ。
それ以上にさっきの台詞には違和感が。
"ある人”だと。
ある人ってのは誰のことだ。
そもそも物言いが引っかかる。
わざわざ俺に突っ込ませたいような……
俺を知っている人間。
いやありえない。
そんなのコイツ自身が俺を知っていないと可笑しいだろ。
分からない。
だが、とにかく俺の勘が言ってる。
それを問え、と。
「なぁ、あんたある人から聞いたって言ったな? 誰だ!? おい、答えろよっ!」
声を荒げる俺。
それに対して凄絶(せいぜつ)なまでに、表情を歪ませる目の前の女。
そして嬉々(きき)として女は口を開く。
大して暑い日でもないのに、額から汗が滲(にじ)む。
俺の心臓が警鐘(けいしょう)を鳴らしている。
早鐘(はやがね)をうって息が苦しい。
聞いてしまったことを後悔するんじゃないか、そんな予感が体中を駆け巡ったそのとき。
「アッサーマン、アッサーマン・ジルだ」
「親父……だと!?」
その女の口から出た名前。
それは俺の父親の名前だった。
勝手に家族を捨てて故郷を飛び出し、10年以上音信不通のクソ親父の名。
その馬鹿親父とコイツは関わりを持っている。
何者なんだコイツは——
とにかく、ろくでもない奴であることは違いない。
そして、その女はさらに言葉を続ける。
「やっぱりか、君はヴォルト・ジルだな?」
あぁ、頭がクラクラするぜ。
何で見ず知らずの人間に名前まで……
あんた親父とどんな関係だよ。
End
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- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-12更新! ( No.71 )
- 日時: 2013/11/24 14:49
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part13
「どういうことだ、何であんた俺の名前をっ!?」
親父のことを知っているのなら、俺の名を知っていてもおかしくないのに。
そんなことに思い至らない状態の俺はただ当惑するばかりだ。
「その発言は可笑しいだろう? 私は君の父親と仲が良いんだよ」
「あんなっ、あんな奴は父親じゃない!」
そしてズバリと正鵠を射る浅黒い肌の女。
俺はかすれ気味の声で反論する。
精一杯の唯単なる強がり。
当然俺をからかっている相手側はうすら笑いを浮かべ俺をバカにしている。
「ヴォルト!? なっ、何なんですか貴女!? いったい、私達に何のようなんですか!」
「あぁ、実際に用があるのはあんたの方なんだがな?」
「何で!?」
俺の辛そうな表情をチラリと見てノヴァは叫ぶ。
すると女は解せない返答を返す。
ノヴァが狙い。
どういうことだ。
俺は逡巡する。
アッサーマンと関わりがあるなら、俺を狙いそうなものだが。
そもそも親父は何を。
いやその問いは後か。
こいつはヤバい。
逃げないと。
「ノヴァ、逃げるぞ!」
「ちょっ、ヴォルト!?」
俺はとにかくおもむろにノヴァの手を引き寄せる。
驚き声を上げるノヴァに反応する余裕は無い。
1番近場のテレポートマシンへと走り出す。
「俺は、俺はお前を失いたくないから絶対守る。分るだろ、あいつは俺達にとって危険だ!」
「ねぇ、ヴォルト。あの人達、どうやってこの広いフレイム居住区から私達を見つけたのかな?」
「そんなのフレイムの場所は親父から聞いたんだろうし、顔も知って……いや、いやいや、顔を知ってたってそんなピンポイントで」
とりあえずその場から逃げた俺達は息を整える。
ノヴァにあの場を離れた理由を告げ、今度は地元民からは迷宮区と呼ばれる入り組んだ区間へと進む。
その最中にノヴァは俺に問う。
俺は今はそんなことどうでも良いとでも言うように、見つかりづらい場所に移動しなければと主張するが。
確かに考えてみれば妙だ。
そう、どう考えても異常。
俺が今口にした情報だけでそんな速く正確に。
「そうだよ。私達の居る場所を把握できる装置か何かを持ってるって考えるのが……」
「だとしたら、俺達は奴らからどう逃げる?」
確かにノヴァの言う通りなら理に適う。
何かしらの装置を使い俺達の位置を把握しているなら、どうやって奴から逃げとおす。
いや待て、相手がテレポートマシンの使い方が分らないなら、ラグは生じるはずだ。
そうだ、テレポートマシンの連用でかく乱すれば。
「テレポートマシンを多用して逃げ回って警察がくるまで待つ、とか」
「そうだな。あいつは地元民じゃなさそうだしテレポートマシンの使い方も」
どうやらノヴァも俺と同じ考えに達していたらしい。
警察に先ず通報して、それから逃げ回れば……
えっ、何で。
目の前にはあの女がいた。
End
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- Re: ラストシャンバラ〔A〕 —最後の楽園— 1−1-13更新! ( No.72 )
- 日時: 2013/11/30 23:25
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: 68i0zNNK)
ラストシャンバラ〔A〕 ——宇宙の楽園——
第1章 第1話「呪うような声で、誓うだろう」 Part13
「テレポートマシンで逃げ回っていれば、いづれ警察が動き始めて逃げ出すようになるとでも思ったかな?」
「それは、テレポートのアドン!?」
「くそっ! 逃げろっ逃げろノヴァッ」
「ヴォルトツ! 逃げなきゃっ! ヴォルトが体張ってるんだからっ」
「無意味」
「ノヴァッ! ノヴァアァッ!」
「じゃぁな。また、会えるといいな」
「うおおぉぉぉおああぁぁぁぁぁぁぁァッッッッグアッ、あァァァァァァァッッ」
保留