複雑・ファジー小説

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アビスの流れ星
日時: 2013/05/22 20:35
名前: 黒田奏 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
参照: http://ameblo.jp/gureryu/




名前変えました。「緑川遺(ミドリカワユイ)」といいます。
これからもよろしくお願いします。

ちゃんと丁寧に最後まで完結させたいなと思います。

(登場人物)>>3

序章「記憶喪失の少女の追憶」
>>1

第一章「生きるという責任の在り処」
>>2 >>6 >>9 >>12 >>14 >>15 >>16 >>17

行間
>>22 >>25

第二章「生きる理由」
>>29 >>32 >>33 >>34 >>35 >>38 >>39 >>40

行間二
>>41

第三章「人は自分を騙し通すことは出来るか?」
>>44 >>47 >>48 >>49 >>51 >>52 >>53 >>56 >>57

最終章「シューティングスター・オブ・アビス」
>>58 >>59 >>60 >>61 >>63 >>64 >>65 >>66 >>67 >>68 >>69 >>70 >>71(New!!)

行間三
>>72

登場人物 2
>>73(New!!)

Re: アビスの流れ星 ( No.69 )
日時: 2013/03/08 19:55
名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: x6P.sSUj)




   9



 紅色の刃が、アビスの胸元に突き立って貫通していた。
 手応えは無かったものの、それでも、それがアビスにとって致命傷であることを直感で悟った。
 アビスは目を見開いていたが、やがて目を細めた。
 そして化け物は、全てが終わることを受け入れたのか、やがてぽつりとつぶやいた。
 あまりにも切ない微笑みで、その目尻には一粒の滴を浮かべて。



「畜生、生き残れなかった」



 世界が暗転する。
 それから、自分が居る空間全てが一面の鏡であったかのように、周囲の全てに遍く亀裂が走った。
 そして、割れて砕け散った。無数のかけらが、きらきらと光を乱反射して地上へ落ちてゆく。
 開けた視界の先には、青だけが広がっている。
 無意識のうちに、果てしなく広がる青空に手を伸ばしていた。自らが纏っている装備、否、フミヤそのものにも、至るところに亀裂が入っていた。
 グラスが落とされて、欠片を散らす音が響いた。同時に、フミヤも細かく砕け散って、青空の向こうへ吸い込まれていく。
 いつぞや映像の中だけで見た、桜と言う植物の花びらが風に煽られて流れてゆくさまと、よく似ていた。
 無数の銀色の光と、一面の晴天と、背後から押し寄せる風に包まれて、私の身体は落ちていく。
 そして私は、誰ともなく言った。

「終わったよ、フミヤ」

 その言葉に応えるものは誰も居ない。



 

Re: アビスの流れ星 ( No.70 )
日時: 2013/03/08 20:58
名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: x6P.sSUj)




   10



 全世界を震撼させた『ブラック・クリスマス』は、正午を前に収束を迎えた。
 単身アビス本体に乗り込んだ、旧日本支部のシドウ准将——同件の功績により昇進したため、当時は大佐——の活躍によるものであるという話であったが、本人の意向により、その事実は一般には公開されず『ライブラ』内の機密事項となっている。
 同第一部隊のスギサキ少佐は、一連の件で責を問われ、自らライブラを後にした。そのため、以後の消息は一切不明である。
 そして同第一部隊に所属『していた』フミヤ少尉は、アビス内でシドウ准将の手により葬られたとのことであった。その証言には曖昧な点が多いものの、確かめようにも既に一切の証拠は消え去っている。
 そもそも、バハムートの翼で構成された装備を失った彼が、どうやって無事に地上まで帰還したのかも、本人でさえ判らないというのだ。
 ブラック・クリスマスの終わりと同時に、旧日本地域上空に浮かんでいたアビスは跡形も無く消失した。
 レイダーも、まだある程度の数が地上に残り活動しているものの、増えることはなくなった。
 地上各地のライブラ隊員の手により、着々とその数を減らしつつある。
 レイダーの掃討により一般市民の居住区も広がり始め、実に半世紀ぶりの平和が、その姿を垣間見せていた。
 しかし、同時にひとつ奇妙な現象も観測された、という報告が各地の隊員から寄せられている。
 桜だ。
 レイダーの襲来によって荒廃した世界で、桜の樹など殆ど残っていなかった。だが、世界各地の、一定の緯度の地域で、たびたび桜の木が目撃されるというのだ。
 研究者達は誰もがこの、謎の桜の木に釘付けであるという。アビスが消失したことに由来するものだとか、新たな侵略者であるだとか、様々な憶測が飛び交っているが、詳しいことはいまだ判っていない。
 確かにいえることは、一つ目は、この桜の木自体には何ら害はないということ。
 もうひとつは、三月上旬にでも、各地で満開の桜の花が見れるのではないかということであった。



   11



 剣を鞘に収めた。
 目の前では、私より二倍ほど高い体躯のレイダーが音を立てて崩れ落ちてゆく。
 准将と言う地位に就き、レイダーの活動も比較的収まりはしたものの、私は未だに最前線でレイダーの掃討に加わり続けていた。
 誰かに命令されたわけではなく、自ら志願してそうしているのであった。

 あの後、次に気が付いたとき、私は空を見上げて瓦礫の上に呆然と立っていた。
 驚くべきなのは、私の身体が全くの無傷であったことだ。アビスの攻撃によって受けた傷さえもが、綺麗さっぱりに消えていた。何より、私は確かに地上へ落下していったはずなのに。その後、考察に考察を重ねるも、結局答えは出なかった。

 今、第一部隊のメンバーは、私一人だけである。
 これも、私が自らそう頼んだのだ。力量で言ってもそれで充分だったので、あっさりとまかり通った。
 ただ、どうしてわざわざそんなことをしたのかは、私自身にも判らない。
 或いは、まだ私はあの二人が帰ってくることを期待しているのだろうか。
 我ながら、未練がましいと思う。
 自嘲気味に、ひとつ笑った。
 空を見上げる。あの日と同じ、真っ青な空だった。その空には、もう、アビスの黒い星は無い。


 どこから流れてきたのか、桜の花が風に舞っている。
 その中で私は、しばらく呆然と立ち尽くし、彼女が消えていったあの大空を見上げていた。


Re: アビスの流れ星 ( No.71 )
日時: 2013/04/25 17:11
名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: 3dpbYiWo)
参照: http://pspから。




 彼女のことを思い出しても、もう涙は出そうになかった。私が冷たい人間であるという証明なのだろうか。
 時間にしてみればたった数か月の間だった思い出が、堰を切って溢れだす。
 今にも壊れそうな笑顔で笑う貴女と出会ったあの日。
 耐えきれなくなって涙をぼろぼろとこぼしたあの日。
 ライブラの支部の中を二人で歩きまわって、陽が沈みかけた空を、屋上から二人で見上げたあの日。
 中身は等身大の少年であるのに、計り知れない重圧を一身に背負う貴方が私たちの許へ来たあの日。
 三人で馬鹿なことで騒いだあの日。
 三人で、満天の星空を見上げたあの日。
 ただ一緒にいるだけで、安らいだあの日々。
 私が抱いていた思い出の数は我ながら驚くほどのものだったようで、前後のつながりさえわからないほど無数の映像が浮かんではさらに浮かんでゆく。
 後半は彼女の笑顔ばかりが浮かんだ。自分で自分に呆れて、鼻で笑った。
 ああ、そうか。私は彼女のことが、……

「……フミヤ」






















「呼びましたか、シードウさんっ」





 聞き覚えのある声が、鼓膜を震わせた。
 何かの合図のように、桜の花吹雪が、ひとつ強い風と共に流れてゆく。
 振り返った先に居たのは、左目を包帯で隠した少年と、灰色の髪の——。



「——ただいま。」


Re: アビスの流れ星 ( No.72 )
日時: 2013/04/25 17:34
名前: 緑川遺 ◆vcRbhehpKE (ID: 3dpbYiWo)
参照: http://pspから。




『行間三』



「結局、最後までわからないことだらけだったなあ」
「………………」
「自分以外のだれかを簡単に切り捨てることができるかと思えば、自分以外の誰かのために本気になったり」
「………………」
「そういえば、どうして僕じゃなくて彼らの味方をしようと思ったんだい?」
「……わかんない」
「自分のことなのに、わかんないの?」
「わかんない」
「そっか。不思議だね」
「………………」
「結局おいしいも、まずいも、好きも、嫌いも、楽しいも、つまんないも、他にもいろいろ……わかんないままだったなあ」
「………………」
「おいしいって、どんな感覚だった?」
「……辛かったりとか、甘かったりとか、しょっぱかったりとか……いろいろ」
「うん、やっぱりわかんない」
「………………」
「……彼らと居て、幸せだった?」
「……きっとあなたには、幸せもわからないのに?」
「でも、見てたらなぜか、幸せそうだなって思った」
「……うん、幸せだった」
「楽しかった?」
「楽しかった」
「……戻りたい?」
「……でも、私はもう……」
「でも、じゃなくて」
「……うん」
「君は、君をレイダーだと思う? それとも人間だと思う?」
「……わたし、は」
「うん」
「私は人間、だ」
「そっか」
「……うん」
「僕は、人間が好きだったよ。僕の知らないことをたくさん知っていて、幸せそうに笑う君たち人間が大好きだった。僕も、君たちの中に混じりたかった。もっと話したかった。一緒に笑いたかった。」
「……『アビス』?」
「僕が食べてきた『人間』の部分は君にあげる。だから、ちゃんとずっと幸せでいること」
「……うん」
「僕は、いつでも君を見守っているから」
「うん」



「それじゃ、いってらっしゃい。」
「うん。いってきます。」



Re: アビスの流れ星 ( No.73 )
日時: 2013/05/22 20:33
名前: 紅蓮の流星 ◆vcRbhehpKE (ID: 76WtbC5A)
参照: http://ncode.syosetu.com/n4418bo/

(登場人物2)



フェミア・ルーク
(推定15〜16歳・性別♀)
警戒地区で放浪していたところを、後述の少年とともに、シドウ准将に保護された少女。
国籍不明。
黒髪をツインテールにしており、瞳の色は水色という容貌。

好物は甘いもので、中でもプリンを好む。
日々起こったことを日記に書き記す習慣がある。

以前、ライブラ日本地区支部に所属していた「フミヤ少尉」とは容姿が酷似しているが、関係性は不明。



タルト・ルーク
(推定16〜17歳・性別♂)
警戒地区で放浪していたところを、前述の少女とともに、シドウ准将に保護された少年。
国籍不明。
黒髪で、左眼を覆い隠すように包帯を巻いている。

少々ものぐさな面が見られるものの、頭の回転が早く、同年代の子供よりも冷静な面を見せる。
身体能力も高いのだが、それを披露する機会は少ない。

以前ライブラに籍を置いていた「スギサキ少佐」とは外見が酷似しているが、関係性は不明。
本人は「フェミアの兄」を自称している。



獅堂 英輔(シドウ エイスケ)
(19歳・性別♂)
最年少で「ライブラ」の将校に就位した青年。
主に使用する武器は一対の剣で、二刀流と類を見ない機動力による近接・高速戦闘を最も得手とする。
特に、その扱いに関しては「ライブラ」本部を含めた全支部を見渡しても、右に出るものはいない。

だが、レイダーの脅威が去った後はライブラを辞め、教職の道へ進むべく勉強を始めている。

スリムな見た目によらず大食漢で、好物は駄菓子類全般。

赤い髪と赤い瞳という容貌。
戦地へ赴くときは黒いコートを愛用していた。



アビス
(年齢・性別不明)
宇宙をただよう、ひとつの巨大な「星」そのもの。
他の星を取り込み、喰らうことでエネルギー源とし、悠久のときを宇宙で彷徨い続けていた。
すべてのレイダーの生みの親。

レイダーは、彼が地球を捕食するための前段階として、地上の生物すべてを食い尽くすために送り込んだ尖兵。
「フミヤ少尉」……レイダー「ナイアラトテップ」は、特にレイダー撃退能力が高い人間達を殺すために、ライブラに送り込まれたスパイ的役割を果たしていた。

「ブラック・クリスマス」の際に、彼(あるいは彼女)は人の姿を借り、シドウとコミュニケーションをとることに成功する。
「人間」という生命体に興味を示し、観察を続け、己が餓死する限界まで捕食を躊躇った彼、あるいは彼女が、果たして何を考えていたのか。
いまとなっては真実を知るすべはない。


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