複雑・ファジー小説
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- 日常カレンダー
- 日時: 2012/12/09 21:33
- 名前: 夏野秋 ◆drbSuAlx76 (ID: wgp3kh6n)
はじめまして
とりあえず中傷・荒らしなどは一切なし
馴れ合いもなしの方向で。
それでは早速始めたいと思います。
- Re: 日常カレンダー ( No.1 )
- 日時: 2012/12/09 21:55
- 名前: 夏野秋 ◆drbSuAlx76 (ID: wgp3kh6n)
プロローグ*
「っるっせーな! 泣くなって言ってんだろ!?」
女性特有の甲高い怒鳴り声が、薄暗い部屋に木霊した。その怒声に驚き、女性の子供らしき男の子は、再び泣き出す。
「あぁ〜…、なんでガキなんて産んじまったんだろ…。ったく」
ゆるくウェーブした茶色の毛。服装はミニと、若者らしい女性はテーブルをどんと叩いて立ち上がる。
冷蔵庫を開け、中を覗き込むと、缶ビールと人参、卵しか入っていなかった。この食材で何を作れるのだろうか。
女性は缶ビールを取り出し、プルタブを開ける。時刻はまだ午前十時だ。
子供はまだ泣いている。
「あー、うるせーな。」
女性はまだ中身が残っている缶を男の子に向かって投げつける。当然、その中身は、男の子の肩から腹部にかかった。
男の子は、一瞬だけピタリと泣き止んだが、事態に気付くと、先ほどよりもさらに激しく泣いた。
五歳位であろうその男の子は、ゆらゆらと立ち上がると、おぼつかない足取りで、隣の部屋に向かった。
そして、ドアを静かに閉める。
「やっと寝る気になったか、あの馬鹿息子。」
女性は短く舌打ちをし、何かを探し始めた。
「あっれ〜? どこにいったかな〜、リモコン〜」
テレビの隣にある、物が積み重なった場所から、新聞が積んである場所など、様々な箇所を探っていると、やはりあった。リモコンは、テーブルの上の、昨日の広告に挟まっていた。
「よっしゃ、やりぃ〜」
ちょうど、その時だった。
玄関のチャイムが鳴り響いた。
いつ依頼だろう、鳴ったのは、なんてことを考えながら、女性はドアを開けた。
「はーい。」
ドアの向こうに立っていたのは、カーキ色のトレンチコートを着た、強面の中年男性が二人。
女性は、それまでに他人に見せたこともないような、怯えた表情になった。
「藤崎美結さんですね? 少し、署までご同行をお願いします。」
そう言い、ややもう一人の前に立っていた男性は警察手帳を女性に見せながら言った。
- Re: 日常カレンダー ( No.2 )
- 日時: 2012/12/17 20:11
- 名前: 夏野秋 ◆drbSuAlx76 (ID: wgp3kh6n)
「おっはよー」
やや眠そうな声の少年は、気怠そうに教室内へ入った。
しー…んと静まり返る教室内。それもそうだ。だって、今教室で行われているのは朝のHR。
静まり返るのも当たり前。
「おい、何やってんだ旭。遅いぞお前ー…ふぁーぁ…。」
教壇に伸し掛っていたむさ苦しいメガネのおっさんに言われ、旭と呼ばれた少年は、のそのそと自分の席に着いた。
相田旭。十七歳————……。
今、春が——……。怒涛の、汗にまみれにまみれた青臭〜い春が、始まる————………。
第一章*光の後ろがわ / 一話+桜風邪
in職員室の隅っこ。
「なーんで旭くんは、そんなに登校時間がおっそーいのかなー?」
メガネのおっさん教師—、相田充は猫なで声で言う。それも、やけに「遅い」の「お」と「そ」のイントネーションを強めて。対する旭くんはぶすくれている。
「朝、俺言わなかったっけ〜? 今日は朝に清掃あるから早めに登校してねーって?」
充は額に血管を浮かべているが、まだ顔は笑っている。
旭ははーあ、と、長い溜め息をつくと、ぶりっ子声のギャル口調でこう言う。
「えぇ〜? だってぇ、お父さんがぁ〜、なんかさぁ、言ってた、ヵモ? しれないけどぉ、俺はぁ、ようつべ見てたからぁ? わかるわけないじゃぁ〜ん?」
男二人がこんなやり取りをしてるのもなかなかシュールだが、この二人の関係はさらにシュールなものであった。
「あ゛ぁ!? でもお前は普段の登校時間もおっせぇんだよこの馬鹿息子が!」
充は鬼の形相で、椅子から立ち上がり、旭の胸ぐらを掴んだ。
「きゃー、こわぁーい。」
旭はひるむ様子もなく、棒読みでただ、それだけ。周りにいた若い女教師がクスクスと二人の様子を見て、笑った。
「あのなぁ!?」
充は、旭の胸ぐらを掴んだまま、旭を揺らす。
「きゃー、おまわりさんたいへーん。ここに変態がいまーす。」
旭は先ほどよりも大きな声で棒読みのセリフを吐き出した。
そこへ、偶然通りかかった人物が一人。
「おや、相田先生じゃないですか。旭くんもご一緒で?」
ずっしりと構えた大きな体型に、白髪頭。通りかかった人物とは、校長のことだった。
「校長せんせー、助けてください。僕、虐待されてるんですー。いま。」
旭は、なおも棒読みで助けを求めた。
「そうか、それは大変だな旭くん。相田先生もそのへんで。…おや、朔夜くんはどうしました?」
充は、仕方なく旭の胸ぐらから手を離す。校長はきょろきょろと、辺りを見渡した。が、朔夜という人物はいないようだ。
「あー、そうだ、朔夜は今日欠席です。なんかどうも風邪らしくて…。」
充は苦笑いをする。旭は、フンと、鼻で笑うと「どうにもこうにも、多分今日がヤマだぜ! きっと!」と嘲笑う。
「この馬鹿…。…そういや、朔夜、熱何度あった?」
「三十八度七分」
旭は充の問いに、素っ気無く答える。そのやり取りを聞いていた校長は仰天する。
「三十八度!? 大丈夫なのかい、朔夜くんは?」
「あー、大丈夫っすよ、アイツは。ってか、コイツらは。見た目より頑丈ですから。」
充はそう笑うと、旭の頭に、ポンと手を置いた。旭は、その手を嫌そうな顔をしてよけた。
「まあいいや、旭。もう教室戻れ。」
充は旭に退けられた方の手を、もう片方の手でなでながら言う。そして、手で追い払う真似をした。
「はーっ、またこの人は! いっつもこうなんだからぁー。」
まるで主婦のような口調で、旭は、今朝、教室に入ってきたときのように、のそのそと職員室を出て行った。
旭が出て行ったのを見送った二人は、なおも話を続けた。最初に切り出したのは校長だ。
「相田先生も大変ですねぇ。男手一つで、双子の男の子二人も育てるだなんて」
校長は、すべてを包みこむような笑顔で言う。充はデスクに置いてあった、一時間半ほど前に淹れた、冷たいコーヒーを啜る。
「男の子なんてモンじゃないですよ、あいつらは。野獣とでも言ってください。」
充はまたも苦笑いをする。でも、その苦笑いは決して苦しそうではなく、むしろ嬉しそうだった。
「それでも、大事な二人息子でしょう?」
校長はのほほんと笑った。——…それに釣られて、充も自然と笑顔になるのだった。
***
玄関は、夕空のオレンジで照らされていた。
「ふぃー、たっだいまー。」
つかれきった声で、旭は部屋に戻った。部屋、と言っても、双子の兄、朔夜の部屋である。
「…ん、なに? お前、帰ってきたの?」
兄の朔夜は、ベッドから身を起こす。旭の声で、目が覚めたのであろう。
双子なので、顔はどことなく似ているが、髪の色は、旭の亜麻色と違い、朔夜は、黒。旭は前髪を、女から貰ったという、明らかに女物のヘアピンで留めているが、朔夜はそのままにしている。
朔夜はよほど具合が悪いのであろう。額には市販のヒエピタ、ベッドの横には、吐いたときでも大丈夫なように、百均で販売されていそうなプラスチック製の風呂おけがある。
「ん。」
旭は、五百ミリリットルのポカリを、朔夜に差し出して、キャスター付きの椅子に腰掛けた。朔夜は、ポカリを受け取ると、キャップを開け、中身を少しだけ飲んだ。
「美味い?」
旭が何気なく聞くと、朔夜は困ったように「鼻、馬鹿になってて、味よくわかんねーや」と笑った。でも多分美味い、と最後に付け足して。そして、ポカリのキャップを閉めた。
「あそ。」
旭は、朔夜の机にあったアルバムのページを捲りながら、つまらなそうに言った。
「つーかお前、このポカリどうしたの?」
「え? …いや、別に買ってきただけだけど。」
旭は、なぜそんなことを訊くのか、とでも言いたげな顔で答える。
「ふーん、そうなんだ。そりゃどうも」
不本意ながらのありがとうだった。
朔夜は、ポカリをランプの傍に置いたが、置いた瞬間、旭に奪われる。
「え、なにそれ。飲んじゃうの?」
朔夜がそう言ったのも束の間、旭はそれをごくごくと飲んでしまう。
「あー…、飲んじゃったー。……お前死ぬんじゃない、病弱っぽいし。夜がヤマなんじゃないか?」
朔夜はにへらと笑う。
“今夜がヤマ”って……。俺と同じこと考えてんじゃねえよ、パクリ野郎。
旭が、そっとそんなことを考えてるうちに、朔夜は寝てしまった。朔夜が寝息を立てるのを聞いて、旭は立ち上がり、朔夜の顔を覗きこむ。
寝た……?
旭はその顔を、意味もなく見つめていた。
意外にまつげ長いのな、コイツ、とか思いながら。……本当に俺らって双子?
旭は、リュックから折りたたみのミラーを出し、鏡に映った自分の顔をまじまじと見る。
朔夜ほどは長くはない、か? いや、でもそんな変わりないか。
「う〜……。寒っ。」
四月とは言え、まだ少し冬の寒さが残る。雪が降る地方もあるくらいだ。
旭は、することもなく、再び朔夜の勉強机に向かった。机の上には、旭が知らない、外国の作家の本が沢山あった。こんなん読んで面白いのか…?
ペラペラとページを捲ってはいたが、大抵面白くもなさそうだ。
むしろ眠く……眠く…………………………………。
***
ふー…。
結構、今日は寝たな…。風邪も治りかけ——…てはいないが、今朝よりは大分マシにはなっただろう。熱も微熱程度にはなっただろうか。
ふと、ベッドの横のランプのスイッチを入れてみる。薄暗く照らされた部屋の中に人影があった。
「旭……? 何やってんの……?」
朔夜は不審には思い、呼びかけてみる。が、反応はない。
「旭………?」
朔夜は、まだふらつく体を起こして、ベッドから出た。
何やってんだか。
旭の亜麻色の髪に目をやると、何か紙のような物が付いているのがわかった。手でつまむ。
桜——……?
桜だ。相田家の縁側にも、桜の木が一本のみそびえ立っている。なんでも、父が生まれた日に植えたのだとか。
窓を開けてみると同時に、風が吹きつけ、桜の花弁が部屋の中に舞い散った。仕方なく窓を閉める。
「寒っ!?」
風によって起こしてしまったのだろうか、旭が声を上げた。
「ああ、悪い。起こした?」
朔夜はあまり感情のこもってない声で訊いた。
「いや、別に…。あのさ、そんなことよりさ。」
「何?」
旭は机にうつぶせたまま、一瞬黙ってから吐き出す。
「気持ち悪い……。」
と、ただ一言。
「ほら、やっぱりポカリだよ。飲むなって言ったのに。」
朔夜は呆れた。
「立てる?」
「え…、下降りなきゃダメ? もう寝たいんだけど…。」
旭はなおもうつぶせたまま続ける。
「んじゃ、寝てろ。俺、なんか食べ物持ってくから。」
そう言い、二人は部屋を出る。
「…、兄ちゃん。」
旭がふと呟く。
「何?」
「桜。」
「え?」
朔夜は意味が分からずに聞き返した。
「桜だよ…。頭、付いてる。」
旭はそう、へらっと弱々しく笑った。朔夜は後頭部を抑える。
「もうそろそろしたら、暖かくなるかな…。俺寒いの嫌いなんだから…。早くしてよね………。」
- Re: 日常カレンダー ( No.3 )
- 日時: 2013/01/18 20:21
- 名前: はるか (ID: LIyXzI4u)
はじめまして!
主さんの文才にびっくりです。
その文才を私にちょっと分けてください...w
旭くんより、朔夜くんより、相田先生がタイプですw。
これからも、執筆頑張ってください
応援してます
- Re: 日常カレンダー ( No.4 )
- 日時: 2013/02/17 14:13
- 名前: 夏野秋 (ID: 2awtZA.D)
はるかさん>>
嬉しいコメントありがとうございます!!
涙で前が見えません(´;ω;`)
相田先生もきっと喜んでいらっしゃるはずです。
頑張って更新します\(*⌒0⌒)♪
Page:1