複雑・ファジー小説
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- 悪魔祓いのヴァルキリー
- 日時: 2013/08/25 20:55
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
どうも、初めましての方は初めまして。ノヴァと申します。
今回で4作目の小説を書くことにしました。これから大変だ……。
わかってます。自業自得です、はい。
今回書くのは、戦乙女のオリジナル小説です!
初めてのオリジナルということでかなり苦労するかと思いますが、どうか温かい眼で見守ってくださいm(__)m
取り合えず主人公の紹介です。
「暁 綺羅」(あかつき きら)
性別・女
年齢・13歳(中学一年)
性格・かなり陽気で、喜怒哀楽の差が激しい。優しさ、正義感共に人一倍。
特徴
・結構なオタクで、好きな小説、アニメなどが関わると目の色が変わる。
・学力は中の中。
・髪の色は茶髪で、セミロング。
なおキャラクター設定は後々追加するので、楽しみにしてください!
それでは、そろそろ始めようと思います!
*********
<プロローグ>
……この世には3つの世界があるのをご存じだろうか。
1つは人間界。無論、人間が住む世界だ。
……そして、あと2つ。天女界と悪魔界という物が存在する。
2つは互いに干渉しあい、激しい対立を続けてきた。
……そして、ついには人間界までもが戦場となった。
悪魔はそのうち人間界の支配を企み、天女は人間に立ち向かう力を与え、共に戦った。
……天女は人間の少女に武器と鎧、戦う力を授けた。
……それを悪魔と天女はこう呼んだ。
…………戦乙女、ヴァルキリーと……
- Re: 悪魔祓いのヴァルキリー ( No.6 )
- 日時: 2013/09/16 09:12
- 名前: ノヴァ (ID: HDoKOx/N)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「ヴァルキリー……?」
その単語は綺羅も耳にした事はある。
北欧神話に登場するワルキューレという半神とは同意義で、戦場において勝敗を決するとかなんとか。伝承によっては8〜12人がいるらしい。そんな人数で大丈夫かと突っ込みたくなる。
「まぁ、人間界の神話の世界とはかなり設定が違いますけど。ちなみに人間だけでなく武装した天使もヴァルキリーですよ」
「へぇ……そうなんだ」
「今言えるのはこのくらいですね、時間も惜しいですし。それに、敵も待ってはくれないみたいですから」
そこまで言うと、リーサは突然戦闘態勢に入った。
「え、ちょっと何あれ!?」
何事かと振り向くと、大通りの奥から何かがこちらに向かって進撃してくるのが見えた。数はそれなりに多く、大体10〜20体程。全員同一の種族らしく、緑色の肌に筋肉質の背の低い身体、髪の無い頭と棍棒を持っている点が共通している。
「あれは悪魔の下っ端の下っ端、『ゴブリン』です」
「ど、どうするの!? こっちに向かって来てるよ!?」
「もちろん倒すに決まってるでしょう。行きますよ、綺羅さん!」
そんなことを普通にいい放ったリーサは、綺羅の手をとりゴブリンの群れに駆け出した。
「ちょっと、ちょっとちょっと! 人間って悪魔の下僕には無力じゃなかったの!?」
「それは下っ端までの話です! 下っ端の下っ端のゴブリンならプロレスラーくらいの力があれば倒せます!」
「私はプロレスラーじゃなぁい!!」
綺羅が悲痛の叫びを上げる合間に、リーサはゴブリンの群れの最先端と対峙できる距離まで接近してしまった。
「綺羅さん、初めに言っておきますがゴブリンは力はありますが知能は低いですし動きも鈍いです。首の後ろに衝撃を与えれば簡単に気絶しますから、素早く動いて一撃を叩き込んでください」
「それができたら苦労しないよ……」
そう言いつつも、綺羅は足元に落ちていた鉄パイプを掴んだ。もう殺るしか無いのだ。
「それでは……戦闘開始です!」
リーサの掛け声を合図に、綺羅は勇気を振り絞り無我夢中でゴブリンの群れに向かって駆け出した。
早速その中の一匹が綺羅に気付き、左手に持った棍棒を振り上げた。しかしリーサの言う通り動きは鈍く、具体的に言えば、扇風機の首降りより少し速いくらいのスイングスピードだ。当然避けるのは容易で、その隙を狙い、綺羅はゴブリンの右側面に移動し、首の後方に鉄パイプの一撃を叩き込む。
「えいっ!」
ぽかん。
そんな音がしたかと思うと、ゴブリンは呻き声を上げ地面に倒れ伏した。まさかこんな簡単に倒せるとは。
リーサの方に目を向けると、こちらは素手でゴブリンを制圧していた。一匹の首筋にチョップを食らわせたかと思うと、別の一匹に回し蹴りを見舞う。やはりこの世界の人間では無いのだと改めて実感した。
そうしてゴブリンの群れを蹴散らしていくと、不意に目の前に巨大なゴブリンが現れた。先程まで戦ってきた個体は精々綺羅より20cmほど低いだけだったが、巨大ゴブリンはそれの2倍はある。
「どうやら、今回の騒動の原因はこのゴブリンのようですね」
「ってことは、これを倒せば一件落着?」
「そういう事ですうぉん!?」
こちらに話す暇を与えるつもりが無いのか、巨大ゴブリンは刺付き棍棒を地面に降り下ろした。ぎりぎりで避けたものの、地面には直径3m程のクレーターができた。しかも降り下ろすスピードも格段に上がっている。
「こいつは私に任せてください!」
そう叫んだリーサは、瞬く間に巨大ゴブリンとの間隔を狭めた。それに気付いた巨大ゴブリンはリーサに向かい刺付き棍棒を降り下ろす。が、リーサはそれを難なくかわし、降り下ろされた腕を駆け上がり両手を組んだ。
「はぁっ!!」
撃ち抜かれたリーサの拳の一撃を食らい、巨大ゴブリンは地響きを立てて倒れた。
「こ、これで終わったの……?」
「そうでしょうね。さて、警察が来る前にとっとと退散しましょ……」
ドズンッッ!!!
突如鳴り響いた巨大な地響きがリーサの声を掻き消した。まさか、まだ敵はいるのか。
二人が振り向くと、いつの間にか通りの真ん中に巨大な狼が姿を現していた。その大きさは巨大ゴブリンの比ではなかった。少なくとも体高はビルの4階はある。体長は明らかにそれ以上だ。
その狼を見た瞬間、リーサの顔が凍りついた。
「あれは…………ガルム! 綺羅さん、ここから早く逃げ」
その瞬間、綺羅には何が起こったのか分からなかった。が、数秒の内に理解した。
ガルムと呼ばれた狼の前足の一撃で、リーサがビルの壁に叩きつけられていた。
- Re: 悪魔祓いのヴァルキリー ( No.7 )
- 日時: 2013/09/13 05:40
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「リーサちゃ……あわっ!?」
綺羅が咄嗟にリーサに駆け寄ろうとした瞬間、ガルムの降り下ろされた巨大な前足が行く手を阻んだ。
しかしガルムは綺羅に一瞥もくれることなく、リーサに歩み寄り始めた。まさかとどめを刺すつもりなのか。もしそうだとしたら、リーサは一巻の終わりだ。更に、リーサ自身も激突の衝撃で気を失ったらしく、身動き一つしない。
「な、何か武器になりそうな物……。あ、あった!」
辺りを見回すと、都合よく足元に消火器が転がっていた。栓も抜けておらず、このまま使えそうだ。
直ぐ様綺羅はそれを拾い上げリーサの元へ駆けつけると、ガルムと対峙し消火器の栓を引っこ抜いた。
「食らえぇぇぇぇっ!!」
綺羅は消火器の煙を、ガルムの鼻先目掛けて猛烈に噴射させた。その途端、ガルムは鼻先を押さえ悶え始めた。見た目が狼なだけに、やはり鼻が弱点だったのかもしれない。
この隙を見逃さず、綺羅はリーサを背中に背負い込み一目散にその場から離れた。どうにか逃げられるところまで逃げないといけない。綺羅の本能はただひたすらにそれを察していた。疲労が溜まる足に鞭打ち、走り続けた。
「うっ……あっ、綺羅さん!」
その時、漸くリーサが目を覚ました。
「よかった、リーサちゃん……。このまま起きなかったらどうしようかと……」
「た、助けてくださってありがとうございます。けど、まさかガルムが人間界に来ているなんて……」
リーサはそこで声のトーンが一気に落ちた。かなり予想だにしなかったことなのだろう。
「ところで、ガルムって一体何なの?」
綺羅は先程から疑問に感じていたその質問をリーサにぶつけた。
「ガルムは悪魔の手下として扱われている存在です。手下ですから下っ端よりは弱冠強力で、まず人間では太刀打ちできません」
「そ、そんなに強いの……?」
とは言うものの、先程は消火器で隙を作れたのだが。やはり弱点を突いたのが大きかったのだろうか。
「ちなみに、私はナビゲーターですからもちろん敵いません。だから今は逃げて、一刻も早くヴァルキリーとなる少女を探さないと……。今はそれしかガルムを倒す方法はありません!」
確かに、リーサの言うことが本当ならそれしか方法は無さそうだ。
「ところで、ヴァルキリーになれる女の子ってどうやって探すの?」
「えっとですね、まず人間の少女がヴァルキリーになるには天使凱装と呼ばれるアイテムが必要なんです。天使凱装はそれぞれにあった少女と惹かれ合うので、天使凱装が示す方向を目指せば……」
バゴオォォォォォンッ!!
その時、背後から鳴り響いた爆音がリーサの声を掻き消した。二人が振り向くと、数十メートル程後方でこちらを睨み付けるガルムの姿が見えた。心なしか怒りを露にしているのは気のせいだろうか。
『グオォォォォォォォォォォッ!!』
ガルムは巨大な咆哮を上げると、こちらに向かって駆け出した。捕まれば恐らくすぐにあの世行きは確実だろう。
「ヤバい! 取り合えず近くの路地に……」
しかしその瞬間、背後からの一閃の斬撃が路地の入り口に炸裂。衝撃でサイドの建物の壁が崩壊し、路地への入り口を塞いでしまった。まさか、今のはガルムが前足を振って起こした斬撃なのか。
その一瞬で隙を見せたのがいけなかった。
進路を一部絶たれた動揺による隙を見逃さず、ガルムは二人に飛びかかった。もう、逃げる暇はない。
綺羅にとって、その時間はとても遅く感じた。瞬間、自分の終わりを悟る。
「(もう……だめだ……。助けて…………神様っ!)」
—その時、奇跡が起きた。
突然綺羅のスカートポケットが光輝き、そこから放たれた目を覆わんばかりの光がバリアを瞬時に作り出し、ガルムの巨体を瞬く間に弾き飛ばした。
「えっ……何が……起きたの?」
綺羅は光を放ち続けるスカートのポケットに手を入れた。確かここに入れたのは、公園の木に引っ掛かっていた剣の装飾付きネックレス。
引っ張り出してみると、光はやはりそのネックレスから放たれていた。しかし普通なら目を覆いたくなるほどの光のはずなのに、何故か綺羅にはそれが眩しく感じられなかった。むしろ心が安らぐようだ。
と、背後でそれを見ていたリーサの顔が一瞬で驚きの表情に変わる。
「ええっ!? それ、私が落とした天使凱装! なんで綺羅さんが持ってるんですか!?」
「い、いや公園の木に引っ掛かっていたのを拾ったんだけど……」
「って、それ以前に! 天使凱装が綺羅さんに反応していますっ!!」
リーサはテンションが上がると同時に、どんどん声量が荒ぶってきた。しかし、リーサは今、天使凱装が綺羅に反応していると言った。
「えっと、それってつまり……?」
「綺羅さんがヴァルキリーに選ばれたってことですよ!!」
「…………」
「…………」
「ええええええええええええええええええっ!?」
綺羅は人生一番のカミングアウトを聞き、人生一番の大声を出した。
まさか。
自分が。
ヴァルキリー。
「ならさっそく戦いましょう!」
「ええっ、いったいどうすれば!?」
「慣れですよ慣れ! 大切なことは実戦で学んでください! はい、天使凱装首に掛けて、手をかざす!」
「こ、こう……?」
リーサに言われるがまま綺羅はネックレスを首に掛け、剣の装飾に手をかざした。
「そして叫んでください、『装着』と!」
いったいどうなってしまうのだ。オタクの自分が戦いなど、想像すらしなかった。
しかし、やるしかない。
綺羅は覚悟を決め、叫んだ。
「『装着』!!」
- Re: 悪魔祓いのヴァルキリー ( No.8 )
- 日時: 2013/09/13 23:37
- 名前: ノヴァ (ID: 6.Nua64i)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
綺羅の口がその言葉を紡いだ瞬間、天使凱装の剣の装飾に取り付けられていた宝玉が、辺り一面を白一色に塗り潰す程の輝きを放つ。
その光は一瞬で綺羅の身体に集束。人間である綺羅を、ヴァルキリーへと変えていく。
身に付けた制服を瞬く間に分解、下腹部の一部と肩を露出させた漆黒のボディースーツへと再構成。
か弱い少女の身体を護るように、銀世界より純白の鎧が両腕、胸部、下腹部、両足に余す所無く装着されていく。
下腹部の鎧からは、機動性も考慮した二段フリルのミニスカート。
セミロングの茶髪は更に伸び、白銀のリボンでポニーテールに結われる。
そして剣の装飾は本来の姿、黄金色に輝く柄を持つ聖剣、アブソリュートへと変化し、綺羅の左手に握られる。
そして全ての装着シークエンスを終えた時、突然光が弾けた。
そこに立っていたのは、ヴァルキリーへと姿を変えた綺羅だった。
「えっ、ちょっと何この格好!? しかもヘソ出しじゃない!」
ヴァルキリーとなった自分の格好を見て、綺羅は驚愕した。産まれてこのかたこんなに派手な服は着たことなどない。このまま町中を歩いたらありとあらゆる人々が道を開けてくれるだろう。無論変な目で見ながら。しかも今気付いたが、左手には下半身程もある巨大な剣。絶対銃刀法に真っ向から違反しているだろう。
「格好いいです綺羅さんっ!! さすがはヴァルキリーに選ばれただけのことはあります!」
「えっ、まさかこの格好で戦うの!?」
「決まってるじゃないですか」
「絶対無理だよ、こんな軽い鎧じゃ!」
「え、軽い?」
何故かリーサは「意味がわからない」と言いたげな表情で綺羅を見つめた。
「だってこんな金属製の鎧なのに、ぜんぜん着た感覚がないんだもん! まるでいつもの服を着てる感じだし、それくらいこの鎧薄いんでしょ?」
「えっとですね。ぶっちゃけ言いますけど、その装備全部ひっくるめて50㎏以上はありますよ」
「なっ……。ごじゅう!?」
それはおかしい。リーサの言う通りこの装備が50㎏もあるとすれば、今ごろ綺羅は地べたに這いつくばって立つことすらできないだろう。
それなのに、綺羅は何の弊害も無く普通に立っている。
一体どういうことなんだ。
「ヴァルキリーになると人間の時と比べて、身体能力が格段に上がるんですよ。ですからその鎧を身に付けても何の不自由もないって訳です」
「格段って……。どのくらい?」
「それは自分で確かめてください。……それよりも、ガルムの方をよろしくです」
「えっ……ああっ、忘れてた!!」
なんだかんだでガルムのことをすっかり忘れていた。
見るとガルムは、バリアで吹っ飛ばされた先でどうにか起き上がっているところだった。意外にもあのバリアは威力があったらしい。
「頑張ってください綺羅さん! ヴァルキリーになった今なら、互角以上に戦えるはずです!」
「物影から言われても説得力無いよ!」
言葉通り、リーサは先程崩れたガレキの後ろに隠れつつ声援を飛ばしていた。もっと前に出てきてサポートしろという気にもなったが、ガルムに歯が立たないリーサは隠れながらの方が一番安全なのだろう。
仕方なく綺羅は剣を構え、ガルムと対峙した。
が、正直いって怖い。
しかしそんな綺羅の心情は露知らず、ガルムは唸り声を上げながらその巨体を空中に踊らせ、綺羅に飛びかかった。
「あ、あわわわわっ!? こ、こっち来ないでぇっ!!」
綺羅はガルムが迫る恐怖の余り、手にした剣を振り回した。
すると信じられないことに、綺羅が剣を振った太刀筋の一閃一閃が斬撃となって、ガルムを強襲したのだ。想像だにしなかった攻撃を全弾くらい、ガルムは吹き飛ばされた。身体が小刻みに震えているのを見ると、どうやらかなりのダメージになったらしい。
「い、いける……。私、やれる気がする!!」
その瞬間、綺羅の何かのスイッチが入った。
- Re: 悪魔祓いのヴァルキリー ( No.9 )
- 日時: 2013/09/23 17:30
- 名前: ノヴァ (ID: L3izesA2)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
そう直感した綺羅は、起き上がろうとするガルムに一気に接近、肉薄。アブソリュートを構え、思い切り下から振り抜きガルムの肩口を切り裂く。
『オォォォォォォォォォッ!!?』
斬撃による痛みに耐えかねたのか、ガルムが苦痛を伴う咆哮を上げた。それと同時に、切り裂かれた肩口から大量の鮮血が噴き出した。
「綺羅さん、ガルムが怯んだ今がチャンスです! 一気に畳み掛けて……」
が、リーサの発言が終わる前に、綺羅は後ろ向きに跳躍しリーサの傍らに。そしてそのまま片膝をついて蹲ってしまった。
「綺、綺羅さん……?」
「うっ…………ぶはぁっ!」
ばしゃばしゃ。
リーサが駆け寄った途端、綺羅は嗚咽と共に路面に嘔吐し始めた。
「ごほっ…………おえっ!」
「綺羅さん!? し、しっかりしてください!!」
「げほっ……げほげほっ! ………………」
リーサが必死に鎧の上から背中を擦ると、しばらくして嘔吐が止まった。しかし落ち着いては無いらしく、未だ呼吸は不規則に乱れたままだ。
「……ご…………めん……。ゴブリンと戦った時から……我慢してたんだけど…………。悪魔の……下っ端でも……生き物は生き物だし…………。傷つけるのに抵抗があって……」
「綺羅さん……」
どうやら、この戦闘は綺羅に精神的なダメージを負わせていたようだ。確かに戦い慣れしているならともかく、戦いが身に染みていない一般人である綺羅が突然戦闘の中に放り込まれるのは、地獄絵図を目の当たりにする以外の何物でもないだろう。
そして、戦闘での鉄則。「相手を倒さなければ、自分が死ぬ。」、「生き残りたければ戦え」。
それは、戦いを知らない綺羅にとっては苦行にしか見てとれない。
それなのに、自分は綺羅を戦いの中に招き入れてしまった。
「……戦わないといけないのは…………分かってる。……でも、その中で相手が傷つくのが…………どうしても……耐えられなくて……っ!」
綺羅の眼は光を失い、既に涙で溢れ、こぼれた涙の一滴一滴が、腕の天使鎧装に溜まっていた。心が折れる寸前になるほど葛藤しているのだと、リーサにも感じ取ることができる。いや、もはや放心状態といってもいい。
しかし、このままではガルムを倒せない。ヴァルキリーである綺羅でないとガルムには対抗できないが、当の綺羅はとてもでは無いが戦える状況ではない。
どうしたら、どうすれば。
「綺羅、どこだ! いたら返事しろ!」
その時、どこからともなく男性の声が聞こえた。しかも綺羅のことを探してるらしい。と、そんな事を考えている間に、後方から一人の青年が走ってくるのが見えた。
「あっ! 大丈夫か綺羅!」
その青年は綺羅を見つけると、即座に駆け寄り綺羅を抱え込んだ。
「お……お兄ちゃん……」
「えっ、お兄ちゃんってことは……」
「俺は綺羅の兄の叶汰だ。って何て格好してんだ綺羅!」
明らかに現状の突っ込み所がおかしい。
「それは……後で……。でも……どうしてお兄ちゃんが……ここに?」
「町が大騒ぎって聞いて急いで逃げてたら、スウィーティアのマスターが『綺羅ちゃん、中心街の方に行っちゃったよ』なんて呑気に紅茶沸かしながら抜かすもんだから探しに来たんだよ!ってなんだあのでかい狼!?」
叶汰が驚愕の表情で見つめる先には、肩口から血を滴らせ、僅かにふらつきながら立ち上がっているガルムがいた。その眼は怒りに満ちた深紅に染まっていた。
「そ、それよりも早く逃げてください! ここに居たら危険です!」
「それはお前らも同じだろ! とにかく、俺が時間を稼ぐから、お前は綺羅を連れて逃げろ!」
「む、無茶ですよ! 生身であいつに立ち向かうなんて自殺行為です!」
「お願い……お兄ちゃん……。一緒に……逃げよう……」
しかし叶汰は二人の声に耳を貸す様子も無く、先程崩れたビルの瓦礫からコンクリートの塊が先端に付いた鉄筋を引っ張り出した。
「……7歳も離れた兄が、7歳も下の妹を守れないでどうする。あれに立ち向かうのは俺の勝手だ」
そう言って、叶汰は走り出した。
すぐさまガルムは標的を叶汰に絞り、口の中から火球を連続で撃ち出し、叶汰を強襲する。しかし怒りの余り狙いが定まらないのか、火球は叶汰に当たること無く、ビルの壁やがら空きの路面を容赦無く打ち砕く。
叶汰は火球の着弾による爆風で体勢を崩しながらも、とうとうガルムと対峙できる距離まで迫った。
そして叶汰は鉄筋を構える。
「食らえ、このデカブツ狼っ!!」
ボキン。
妹を守るため放った叶汰の鉄筋は、ガルムに傷ひとつ付けることなく無慈悲に折れた。
『ゴォアァァァァァァァァッ!!』
「がぁっ!!?」
自身の無力さに茫然としていた叶汰を、ガルムは躊躇無く踏みつけた。あまりの圧力に肋骨が悲鳴をあげ、そのうちの1つが音をたて折れる。
「叶汰さん!」
「お、俺に構うな……。お前らは……早く、逃げ……がぁぁぁぁっ!!」
綺羅とリーサを逃がそうとする叶汰の口を封じるように、ガルムは執拗に前足で何度も踏みにじる。
「お……おにい……ちゃん……」
「綺羅……早く逃げろ…………。早く……」
と、不意にガルムがその巨大な前足を振り上げた。まさか、あれを降り下ろすつもりなのか。仮にそうだとしたら、叶汰の即死は免れない。
「や……やめて…………」
ガルムの前足は、とうとう最頂点に達した。
「お兄ちゃんを…………殺さないで……」
『ゴォォォォォォォォォォッ!!』
「お願い…………」
ガルムはその前足を、渾身の力と共に降り下ろした。
「お兄ちゃんに手を出すなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ドズン。
ガルムの降り下ろされた前足が着弾した。
しかしそれは叶汰の真上にではなく、その後方数メートル先に。
前足だけが。
「……ガルム。お前は私の家族、たった一人の兄妹を殺そうとした」
「き、綺羅さん……」
驚愕するリーサの傍らには、アブソリュートを振り抜いた綺羅が立っていた。
ガルムが前足を降り下ろした瞬間、高速の斬撃を飛ばしてガルムの前足だけを切り落としたのだ。その結果、ボールを投げるように前足は吹き飛び、叶汰に前足が落とされることは無かった。
「もう、私は迷わない……。全身全霊で、お前を……悪魔を倒すっ!!」
そう宣言しガルムを睨み付けた綺羅の眼は、先程までの綺羅では無かった。
それは、ただ純粋なる戦士。
ヴァルキリーの眼だった。
- Re: 悪魔祓いのヴァルキリー ( No.10 )
- 日時: 2013/10/03 00:00
- 名前: ノヴァ (ID: /B3FYnni)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel3a/index.cgi?mode
「……リーサちゃん。私がガルムの気を引くから、その間にお兄ちゃんを安全な所にお願い」
「えっ……あっ、はい!」
突然の事に驚きを隠せないリーサだったが、気を持ち直し綺羅に頷いた。
それを確認すると、綺羅は再びガルムと対峙し、アブソリュートを構える。
『オオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!』
大ダメージを受けたうえに片前足を切り落とされたガルムは怒り心頭に発し、見るだけで威圧感を感じさせる程の殺気を放っている。
が、今の綺羅にそんなものは無意味に等しい。ただ単に、たった一人の兄を殺そうとしたこと。今のガルムの怒りを感じさせない程、純粋に戦う意思を持つにはそれだけで充分だった。
「………………いくよっ!!」
その掛け声を合図に、綺羅はガルムに向かい走り出した。同時に感じるのは、ガルムがこちらに向かう大地の震動。相対的作用により縮まっていく互いの距離。瞬く間に零距離に達し、双方攻撃の一手を打ち出す。
綺羅を押し潰さんと降り下ろされるガルムの片足。それを綺羅は通常より足を強く踏み込み加速。その一撃を難なくかわし、構えた剣を二三度振るい、ガルムの胸から腹にかけてを縦横無尽に切り刻む。
ブシュゥゥゥゥ…………!!
間欠泉の如き勢いで血が噴き出すが、もう戦意は削がれない。寧ろ斬れば斬るほど、殲滅させなければいけないという感情が増していく。
『ゴアォォォォォォォォ…………ッ!!」
あまりの連続攻撃に堪えかねたガルムは、四肢を支える力を失いその場に倒れ伏した。寸前に脱出した綺羅は間合いを取るため後方に飛び、ガルムの出方を伺う。
「あっ、綺羅さん!」
と、後方からリーサがこちらに駆けてきた。
「リーサちゃん、お兄ちゃんは………!?」
「大丈夫です。今、救急隊の方々に頼んで病院に運んでもらいましたから、ひとまずは」
「よかった…………! よし、なら後は目の前のこいつを倒すだけだね」
兄の無事を確認し安堵の息を漏らすと、綺羅はガルムに向き直った。
これ以上被害を出さない為にも、次の一撃で決める。
リーサを安全の為離れるように指示し、綺羅は精神を集中し始めた。最後の一撃に全てを込めるため、アブソリュートにパワーを注ぎ込む。
そして綺羅が刀身を掌でなぞると、柄と刃を繋ぐ宝珠が光を放ちはじめ、その光はやがて刀身を包み込み巨大な一本の刃を形成した。
その光景を見て恐怖を感じたのか、ガルムはやっとの思いで立ち上がり、口に火球を作り出し始めた。それは大きさが先程打ち出した物の比ではなく、前者がピンポン玉なら、こちらは建物解体に使われる鉄球と形容してもよい。
だが、ガルムが火球を作り上げるより先に、アブソリュートの輝きはこれ以上にない程にまで光輝いていた。
「邪悪なる悪魔の手先よ……。光のヴァルキリーが、天使に代わり裁きを下す!」
綺羅は高らかにそう宣言すると、アブソリュートを天高く振り上げた。
「グローリー・レイ・ソーサラァァァァァァァァッ!!」
綺羅の叫びと共に振り下ろされたアブソリュートの刀身の光が、巨大な斬撃となりガルムを強襲。その体躯を余すとこなく飲み込んでいく。その光の中で、ガルムの体躯は繊維が解けるように霧散、消失。
その光が消え去った後には、ガルムを思わせる物は何一つ残ってはいなかった。
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