複雑・ファジー小説

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舌と葉 (完結)
日時: 2013/10/13 19:18
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


 ああ、こうして大人になるんだろうな。

 こどもの世界にさようなら。
 君との世界にせようなら。



 いつだったかな、ひどく哀しい梅雨の夜に、わたし一人で帰ったんだっけ。
 鬱蒼とした雨夜の竹林の中で、自転車脇に押して、一人で大泣きして。



 それで気が付いたんだ。
 きっと、もうわたしはこどもじゃない。こどもじゃいられないんだって。



 泣いて迷って傷つけた、私のおはなし、聞いてください。







 *短編/高校生
 

Re: 舌と葉 (短編) ( No.1 )
日時: 2013/10/13 19:03
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


 あさよじはん。



 ふっと目覚めた早朝四時半。

 薄暗い部屋の隅には、いつも通り、あなたの影が立っていた。
 ゆらゆらって、黒いかげ。いつもわたしの近くにいるの。



 気怠く半身を起して、少しだけ開けていた窓を見る。
 黒い雨戸と雨戸の間からのぞく、薄色の空は、早朝らしく澄んでいた。


 甘い桃色と爽やかな水色。それに、ほんの少しだけ地平線に色づいた太陽の色。



 今日も一日がはじまります。
 ふと振り向くと、あなたの影はいなくなっていた。



Re: 舌と葉 (短編) ( No.2 )
日時: 2013/10/13 19:09
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)


 顔を洗って、歯を磨いて、髪をといて。


 それから、あなたの仏壇へと向かいます。

 きっと、今頃生きていたら十六歳だね。
 ふと笑って、お線香を焚いて、手を合わせた。写真の向こうでは、まだ幼い笑みがこちらを見ている。


 ゆらり。
 影がそばに立った。そして楽しそうにキャッキャッと笑う。



 「そっか、楽しい? それは、良かったね」
 優しく言うと、少し元気に跳ねてから、すっと煙が掻き消えるようにあなたはいなくなった。






 それを最後に、あなたはすっかりいなくなってしまった。
 なんでだろう。何度も考えた。でも、わからない。





 


 ◇◇



 今日もあの日のように、朝早く目覚めた私は、お線香を立てに行きます。

 もう私は十八歳になった。
 あなたは今頃十七歳だろう。

 あれから十年も経ったなんて、全然信じられないや。


Re: 舌と葉 (短編) ( No.3 )
日時: 2013/10/13 19:17
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: hzhul6b3)

 それからの日々は、あまり覚えていないのだけれど。


 わたしは今、こうして土砂降りの夜に、挑んでいた。

 何に? わからない。
 でも、私にとってはひどく大きくて、手強くて、それでいて、切ないモノ。


 それだけは確か。




 濡れたワイシャツが、ぴったりと肌に着く。
 濡れた前髪が、ぴったりと頬に、額に、吸い付く。視界が狭まる。


 スカートもぐしゃぐしゃになって、プリーツもめちゃめちゃ。
 ローファーはとっくに泥水で犯されている。



 それでも、私は挑むのをやめない。

 ここでやめたら、きっと一生負け続ける。


 勝つのだ。勝つのだ。


 生きるために。







 ……つけてしまった傷跡は流せやしないけれど。

 それでも、どこかに残っているはずだから。
 わたしは、もう、こどもじゃいちゃいけないから。



 だから、取り戻そうと思う。
 気のすむまで。



 こうして、竹林で、黒い雨に打たれて、歌うの。
 



 最後のこどもの唄を。






 ひらひらと、おちる竹の葉の味。


 私の舌で、あじわってあげよう。


 


                (おわり)


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