複雑・ファジー小説
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- 黒蝶の鱗粉
- 日時: 2013/12/31 23:15
- 名前: 桜 ◆N64vfsjfrs (ID: I/L1aYdT)
黒い蝶が舞う。月光で輝く黒紫の鱗粉を散らしながら。
「…………」
少女は思う。人間は愚かだと。
少女は思う。だから人間は面白いと。
「…………」
少年は探す。何時もとは違うことを。
少年は探す。有り得ない非日常を。
「…………」
人は思う。力の強いものは恐ろしいと。
人は思う。黒い蝶は呪われていると。
ある日街から黒い蝶が消えた。
ある日街から人ではないモノが消えた。
それらは警察に捕まり、警察の手によって消された。
しかし人ではないソレはただ一人だけ残っていた。
蝶のように孤独に暗闇を舞うソレは
憎しみすら持たない人形。
黒い蝶は一匹暗闇を舞う。
孤独に舞い、狂い、人を斬る。
無心にただひたすら人を殺す。
自分の大切なモノを傷つけ壊し消し去った愚かな生き物を。
「人間は愚か……」
___だから面白い___
鮮やかに舞う少女を見る傍観者。
「黒い蝶ねぇ……」
黒い影もまた
黒き蝶に魅入られる。
「人外も捨てたもんじゃないね」
それに気づかぬまま
彼は笑う。
非日常を求める人間と日常に生きたいと願う人間。
また、それを壊す者。
この街では
様々な人間が生息している。
その中に
黒い蝶が迷い込んだ。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
第一章【歯車は動き出す】
第一節【邂逅 -カイコウ-】
第一話「非日常に憧れた少年」
>>1 ___僕のこと___
>>2 *___黒蝶と少女を見つけた___*
>>3 誘う少年と笑う少女
第二話「影の傍観者」
>>4 ___危険な人……?___
>>5 **___ただ興味があるだけ___**
>>6 影の送ったメール
第三話「大人しい少女とナンパ少年」
>>7 ___彼女は案内人___
>>11 ***___私の新しい、友達___***
>>12 §___知りたい。助けたい。___§
>>14 転校生
>>15 *___誘ったあの子___*
第四話「好戦者」
>>16 ___面倒で、面白い人 a___
>>17 ___面倒で、面白い人 b___
>>18 一人の人外と四人の人間
第五話「大人組」
>>19 ___迷子になって___
>>20 説明 (〆2013年12月26日)
>>21 §§___先輩と___§§
>>22 射撃場の三人
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
クリックありがとうございます。
今日は、初めまして、お久しぶりです。
アドバイス、コメント等大歓迎です。タイトルはあんまり関係無いかもしれない上にまだ素人ですが頑張ります。
尚、今回はエログロ多々有りますので苦手な方は注意してください。ほぼグロよりです。
荒しや宣伝などは止めてください。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
2013年 12月11日(水) 参照100突破
2013年 12月24日(火) 参照200突破
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.19 )
- 日時: 2013/12/25 14:15
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
第五話「大人組」
___迷子になって___
僕は屋上で昼食をとった後、普通に授業を受けた。今は下校中、左には宮野さん、右には西原さん、前には永原さんが居る。彼等は僕の“トモダチ”と言うことになった。宮野さんと永原さんの場合は自然にそうなっていた。
彼等が街を案内してくれるらしいので僕は三人についていく。廊下にはいそいそと歩く教師、昇降口には帰宅する生徒達、グランドや体育館には部活などをする生徒達が居る。
何故そんなに楽しそうなんだ? 何故そんなに一生懸命になれる?
僕は疑問を抱きながらも靴を履き替え校舎から出た。三人と一緒に。
永原さんは校門から出ると此方を向いた。
「先ずは此処から近い所とかからだな!」
彼は楽しそうにそう言う。何故? 人に町案内するのは面倒だろう。どうしてそんなに楽しそうにしているんだ?
「そうですね……。助かります」
だが後々迷子になるのは嫌なので一緒に行くことにする。
「よっしゃ! じゃあ行くぞー!」
「ぁ、待ってよ普臣!」
永原さんに続き、宮野さんも走っていく。この場に居るのは西原さんと僕だけ。
「気にしなくても良いですよ。何時もあんな感じなので……」
彼女は苦笑いして僕に言うとゆっくり歩き出す。
「あ、勿論ゆっくりで良いですからね?」
彼女は微笑む。最初会ったときの暗い顔など無かったかのように。
「はい……」
僕は歩みを進め、彼女の隣を歩いた。
空は何処までも青く雲一つ無い晴天だった。
「___おかしい」
僕は今街中のカフェの前に居る。近くにはカフェのスタッフであろう人がチラシを配ったりしている。その少し離れた所で僕は一人突っ立っている。
さっきまで僕は三人の友達と一緒に行動していた。が、いつの間にか一人になっていた。引っ越してきたばかりで見慣れない街並み、知らない人達に少し不安になる。
そう、僕は_____迷子になってしまった。
下手に動けば違う街や変な場所に行ってしまうだろう。僕はどうすることも出来ず徒辺りの景色を見ているしかなかった。
「其処のお嬢ちゃーん、どうしたのー?」
そんな僕は、聞き覚えのない声を掛けられた。世に言うナンパか、それとも何か別の……
「まぁまぁ、そんな警戒しなくて大丈夫だよ」
気がつけば目の前に二人の男女が居た。双方共に二十代半ば程でにっこり笑って居た。
男は栗色の髪に髪と同じ色をした瞳を持ち、女は薄い赤色の髪に紅色の瞳を持っていた。
「あなた方は何方ですか?」
知らぬ人間に警戒しないなど徒の馬鹿ではないか、そう思い問った。
「私達は徒の通りすがりの一般市民よ」
女の方が微笑んで言う。けれど決して一般市民などではないだろう。勘だがそう思う。だってこの人達の笑みは___
他の人間とは少し違うから
「そうですか……」
「……あ、もしかして迷子とかになってた?」
僕が適当に返事を返すと男の方が図星を突いてきた。最初から迷子だと想定して話しかけてきたのだろう。
「…………」
「図星みたいね〜」
女は笑ってそういうと僕の方に近付き僕の頭に手を乗せ撫でた。
「っ……。何してるんですか……」
僕はいきなりのことで吃驚した。初対面の人に撫でられるのは想定外だ。と言うか迷子になること事態想定外だった。
「あはは、ごめんごめん。ねぇ、ちょっと付き合ってくれない? 迷子なら私用序でに送ってあげるから」
ね? と言いウインクをして肯定を待っている。何故だ? 僕が付いていっても何も利はない筈だ。
だがしかし、家まで送ってくれると言っているのだ。肯定せずにはいられない、僕は口を開き
「良いですよ……」
肯定した。女は嬉しそうに笑みを溢すとまた僕を撫でた。
「じゃあ行こうか!」
男も嬉しそうに言い、私の手を繋いだ。
「あの……?」
何故手を繋ぐんだ? 僕は不思議そうに彼を見た。
「逃げられたら困るから、ねっ」
語尾に音符の付くような勢いで言うと彼は僕の手を握ったまま歩き出した。
暗い路地裏に停まっていた黒い車の所へと。
「___で、何故僕がこんな格好をしなければいけないのですか」
僕は今、メイドの格好をしている。前には賑やかな雰囲気の建物が。そう、其処はメイド喫茶だ。
何故だ? 僕はバイトをしたいなんて言った覚えは無いぞ?
今は路地裏に居る。メイド喫茶の中に居るのがしんどくて出てきた。
「さぁな……」
僕の隣には一人の男の人が居る。深緑の髪に灰色の瞳の男は路地裏の壁にもたれて僕との会話を繋ぐ。
別に答えなくても良かったのに……。彼は僕がとある男女二人組に引っ張られて乗せられた車の中に居た人だ。運転手はまだ車の中に居るだろう。
男は落ち着いていて大人しい、何処かの男女とは大違いだ。因みにその男女は今メイド喫茶で接待やら何やらをしている。
「貴方は行かないのですか……?」
あの二人と居たのだから彼もその仲間だろうと思いそう問った。
格好良い部類に入るであろう彼の執事服姿は嘸客受けが良いことだろう。
「馬鹿なことを言うな。俺はそんなのには興味ねぇ……」
落ち着いた口調で静かに言う彼は今まで見てきた人間とは違った何かを持っているように見えた。
「そうですか……」
「ま、無理すんな。あの馬鹿共は無視して此処で休んどけ」
男はそう良い僕の頭を撫でた。今日はよく頭を撫でられるな……。
にしても彼は大分優しく撫でてくる。優し過ぎて何をしているのか分からないくらいだ。
「本当に、優しいんですね……」
そう言うと彼は照れたのか黙り込んでそっぽを向いた。耳が赤い、シャイな人だな……。
人間は面白い
たった一言で照れるのだから。
人間は面白い
初対面の子供に優しくする。
「御名前……お伺いしても宜しいですか?」
「あ、あぁ……俺は藤波境介だ」
「藤波さん、ですか……。僕は深淵今宵です。宜しくお願いしますね……」
これからはもう会うことはないだろう人に僕はそう言った。
「あぁ……」
初対面の僕に、彼は微笑んだ。嬉しそうに、照れながら。
これだから人間は見ていて飽きないんだ。
宜しくね
藤波境介さん___
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.20 )
- 日時: 2013/12/26 16:21
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
説明
遅くなりました。話の途中ですが話数の下に書いている台詞、言葉(以下サブタイトル)の説明をさせて頂きます。
サブタイトルは登場人物の視点で書かれているものとナレーターの視点で書かれているものに別れています。
登場人物が視点の場合アンダーバーで囲まれています。アンダーバーが無いサブタイトルは、ナレーター視点で書いています。
以下各登場人物のサブタイトルの表記です。登場人物の名前が出てきてからなど、随時追記します。
___ ___ 主人公、深淵今宵
*___ ___* 宮野光
**___ ___**
***___ ___*** 西原暗菜
§___ ___§ 永原普臣
§§___ ___§§ 五戲奏
§§§___ ___§§§ 藤波境介
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.21 )
- 日時: 2013/12/29 20:28
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
§§___先輩と___§§
俺は帰宅後、制服を脱いで私服に着替え買い物序でに町を散歩している。
何時も不良を負かしている俺だが別に噂になってないし恐がられている訳でもないため普通にこうして街を歩いている。
こうしているもたまに知り合いと会うだけでばったり先輩と会ったりなんかしな……くもなかった。
「先輩……?」
俺は賑やかな某メイド喫茶の近くの路地裏で自分の先輩を見つけた。
そして今日会ったばかりの知り合いも居た。
「? あぁ、奏か」
深緑の髪が揺れ、灰色の瞳が此方を向いた。彼は俺の先輩で俺が通ってる高校の卒業生だ。
俺が戦って勝てなかった数少ない人物の内の一人でもある。そんな先輩の隣には今日俺の学校に転校してきた少女が居た。
何時もは黒いコートを着てフードを被っているが今は違う。何でか知らないがメイド服を着ていた。
艶やかな黒髪に光を受け入れない紅い瞳、何時もは隠れている容姿を見るのは初めてでつい見入ってしまった。
「あ……五戯さん……」
俺は彼女の声で我に帰ると二人に近づいた。
「何してるんっスか?」
「あー、別に? あの馬鹿二人が勝手にこいつ連れて来てよ、今休憩させてただけだ」
「へー……」
視線を先輩から転校生、深淵今宵の方へ移す。メイド服を着させられたのが嫌だったのか彼奴は此方を軽く睨んでくる。まぁ深淵なら普段こんな派手な格好はしないだろうしな。
「……何ですか?」
「別に、やっぱそういうの着んの嫌か?」
「いいえ……好きと言えば嘘になりますが嫌いではありません」
俺が思ったことを問うと意外な言葉が返ってきた。嫌だから睨んでるんじゃなかったのか。
「ただ、恥ずかしいんです」
ああ、見られるのが嫌だから睨んでたのか。俺は其処でやっと納得した。
「意外だなー……嫌いかと思ったぜ、そういう服」
「着替えたかったら着替えれば良いぞ。元々来てた服は車にあるし馬鳥羽は買い物にでも行かせるから」
先輩は深淵の頭を撫でて言う。
先輩の言った馬鳥羽とは先輩達の乗ってる車の運転手だ。車の持ち主であり自身の車に過剰な愛情を注いでるある意味変な奴。
「分かりました、ありがとうございます」
深淵は頷くと車の中へ消えた。それに入れ違うように運転席から男が降りてきた。
黒髪に緑の瞳のその男はさっき言った車の運転手、馬鳥羽謙介。因みに先輩の名前である境介と似ているので間違え易い。
「で……彼奴は一体何者なんだ……?」
先輩が真剣な顔で俺に問う。馬鳥羽はパシられて買い物に行っていて路地裏には俺と先輩しか居ない。
「さぁー? 今日会ったばっかなんで詳しくは知らないっスけど……かなり強いと思いますよ」
俺は頭を掻きながら言う。その答えを聞き、先輩は眉を寄せた。
「やっぱり戦ったのか……」
先輩が溜め息をつきながら言う。別に戦ったって良いじゃねぇか、結局彼奴も強かったんだし死人も出なかったし。
「悪いっスかー?」
「いや……。なぁ、彼奴の回りに蝶飛んでなかったか?」
「は? 蝶……? 飛んでなかったと思いますけど……」
「そうか……」
何なんだ? 蝶? 蝶が回りに飛んでたら何かあったのか?
蝶で思い当たるっていやぁ……あの呪われた人外の……ま、違うか。
「……どうかしましたか?」
「うぉっ!?」
真後ろから声がかかった。いつの間にか深淵が俺の後ろに居た。
「あ……すみません。大丈夫ですか?」
「お、おう……」
にしてもいつの間に来たんだ? 俺は不思議に思いながらもそう言った。
「着替え終わったのか?」
「はい。ありがとうございました……」
「ん、これからどうする? どうせ彼奴等まだ終わらねぇだろうし……先帰るか?」
「あの……街を案内して下さいませんか? 友達に案内してもらうつもりだったんですけどはぐれてしまって……」
どうりであの人達に連れていかれた訳か。あのテンション高い二人なら迷子とか関係無く連れてくるもんな……。
「そうか……後々迷ったら大変だしそうしたほうが良いな……。時間もあるし良いぞ」
「ありがとうございます……」
「奏、お前はどうする?」
不意に問われた。俺は別にこの後何もすることは無いが先輩の迷惑になるだろうから……
「あー、俺はいいっスよ。用事あるんで」
嘘の口実をついた。正直先輩に嘘をつくのは気が引けたがまあ良いか。
「そうか、ならまた今度な」
「それではまた明日……」
先輩と深淵は別れの挨拶をすると車の中に消えた。
エンジン音が聞こえた、少しすると黒い車はもう見えなくなった。
「蝶か……」
蝶を回りに纏う人外、人間を殺せる力を持った、化け物。
もし深淵が人外で、危険で恐ろしい何かなら……俺や先輩は彼奴と戦うことになるのか……。
「だとしたら……全力で向かわなきゃな」
じゃねぇと勝てねぇし
俺の方が殺される。
俺はこれから起こることに期待し、家路についた。
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.22 )
- 日時: 2013/12/31 00:25
- 名前: 雛(元:桜 ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
射撃場の三人
今、俺は知り合いの車の中にいる。車内は俺と運転手の馬鳥羽以外にもう一人居る。
黒いコートは着ているものの、何時も被ってるらしいフードは外している。そのお陰で素顔がよく見える。
艶やかな黒髪に光を受け入れない紅い瞳、整った顔立ちに白い肌。稀に居そうな美少女だが瞳の奥は無心、無感情のように見える。
こいつは普通じゃない、俺がそう思った理由の一つだ。
「此処がデパート、彼処が公園だ。交番は公園の近くにあるぞ」
俺はその少女、深淵今宵に街を紹介する。偶俺の馬鹿な仲間が深淵を連れて来て色々あってこうなった。
彼女は此処に引っ越してきたばかりで迷子になるのは嫌だから街の案内をしてほしいとのこと。
此処は結構広いので案内しても迷う奴は多々居る。こいつがそうならなければ良いんだが……。
「……あの、あれは……?」
案内の途中、彼女が声を発して興味を示したモノを指した。彼奴の指した先は射撃場、基本本物の銃やライフルを使ってする大人しか遊べない所だった。
「あー、あれは大人しか……って、居ねぇ……」
助手席に座っていた俺が後部座席へ振り向くと少女は居なくなっていた。
車は信号で停止していたので降りられなくは無かったがドアを開け閉めする音、足音は一切聞こえなかった。
「おい、其処ら辺の駐車場に停めて待っとけ」
俺は馬鳥羽にそう指示を出すとシートベルトを外し外へ出た。
しかし彼女の姿はもう近くには無かった。
「…………」
黒いコートを羽織りフードを被った少女が一人町を歩く。回りには老若男女が街を歩いていたため人の波に押されそうになっていたが少女はなんとか目的地の前まで来ることが出来た。
射撃場と黒文字で書かれた看板があり、壁は防音効果のあるものが使われていた。
普通では恐らく存在しないであろう場所に彼女は居た。其処は大人なら一般人でも射撃が出来る場所、勿論ガードマン付き。
しかし少女はガードマンの目を盗んで勝手に中へ入っていった。
それを一人の男が見ていた。口角を上げて、怪しく笑いながら。
「…………」
中に入ると大きな発砲音が絶えず聞こえる。大人が数人射撃をしていた。仕切られた空間で、誰にも邪魔されることなく楽しんでいた。
「人間は危ないな……」
「そんな所に来てる子供はもっと危ないんじゃない?」
少女は冗談で言うと、背後から声がかかった。少女は聞き覚えのある声に思わず振り向いた。
「っ……! 何の用ですか……」
「別に〜? ただ射撃場に来てる駄目な子供を叱りに来ようと思ってさ」
「嘘吐かないでください……」
へらへらと笑って言う男に対し、少女は警戒心を強め睨みながら言う。
「はは、ばれちゃったか。ま、当然だね……」
少し間を空けて、男が再び口を開く。
___射撃、やってみてよ___
相変わらず笑ったまま、怪しくそう頼んだ。
「……別に良いですけど」
少女は了承した。これは彼女が初めて人にの銃の腕を見せる時だった。
少女と男は仕切られたスペースの所に移動し、彼女はヘッドホンを着け銃を持ち、彼は少し離れたところでヘッドホンを着けながら壁にもたれてそれを見ていた。
少女が撃とうとしたまさにその瞬間、誰かがそれを阻止した。
「…………?」
「ちょっとー、何邪魔してんのさ境ちゃーん」
「だからその名前で呼ぶな!」
阻止したのは深緑の髪に灰色の瞳の男、藤波境介だった。彼は少女が車内から居なくなった後、射撃場に入っていくのを見たらしく、直ぐに探し出すことが出来た。
「藤波さん……」
「お前も何こんなとこに入ってきてんだよ、馬鹿か」
境介は軽く少女の頭を叩くと彼女から銃を奪った。
「にゅ……すみません……」
「あー、境ちゃん子供に暴力振るったー」
「るっせぇっ。おい、帰るぞ」
「いって!」
境介は思いっきり男に拳骨を喰らわせると少女の手を引っ張り射撃場から去っていった。
「チッ……折角銃の腕を拝見させてもらえそうだったのに……。ま、いっか」
男はベッドホンを元の場所に戻すとまた怪しく笑って帰っていった。
「ったく、勝手に出歩くんじゃねぇよ」
「すみません……」
僕は今藤波さんに引っ張られながら黒い車の許へ戻っている。先程までは射撃場に居た、何とか彼の目を盗んで出ていけたものの結局は見つかってしまった。少しは射撃したかったのに。
車まで後少しのところ、急に彼は足を止めた。
「藤波さん……?」
「なぁ……お前は一体_____何者なんだ?」
彼は口を開き、そう僕に問った。勘の鋭く面倒な人によく問われることを。
- Re: 黒蝶の鱗粉 ( No.23 )
- 日時: 2014/01/03 13:31
- 名前: 雛(元: ◆Uu32iDB2vY (ID: I/L1aYdT)
§§§___記憶力の問題じゃねぇだろ___§§§
「僕が何者か、ですか?」
少女は問い返してきた。俺はああ、と頷き逃げられないよう腕を掴む力を少し強めた。
「……僕は徒の一般市民ですよ?」
予想通りだ。この答えはもう聞き飽きた。他と違う何かに限ってそう答えてくる。それは相手を弄ぶかのように、軽い口調で。
だが俺はこう言うのに深入りしたくはない。
「そうか……。だがまぁ嘘はつかない方が良いぞ」
俺は腕を掴む力を緩めると少女、深淵今宵と共に車へ入っていった。
運転席で寝ていた馬鳥羽を起こし、車を発進させた。外の風景は一気に変わっていった。
* * *
「大体は終わったな」
あれから暫くして町の大体のものを紹介し終わり公園付近に来ていた。
「結構広いですね、この街」
深淵がそう言い車の中から辺りを見回した。初めて此処に来た奴は大体そういう。
この街は道路も広く交通量も多い、街の面積も広い上にビルも立ち並んでいる、所謂都会だ。
この広さに入り組んだ道だと一日では覚えきれない。が、深淵はその予想を覆した。
「よし、覚えました」
「は……?」
「だから、町並みを覚えたんです……」
僕、記憶力だけは良いので、と言い深淵は車を降りた。あれだけ複雑な町並みを一瞬で覚えるとかあり得ないだろ……。
「送ってかなくて大丈夫か?」
「はい、案内ありがとうございました……」
深淵は一礼するとドアを閉め、そのまま歩いて帰っていった。
「凄いっスね……あの子……」
馬鳥羽が驚いた顔をして言った。
馬鳥羽も町並みを覚えられたのはつい最近のことだ。まぁまず街全体を散歩しようとする奴は居ない、ちゃんとしたツアーガイドを連れて街を歩く奴でさえ覚えきれていない。
「記憶力の問題じゃねぇだろ……」
俺は呆れながら呟くと引き続き馬鳥羽に運転してもらいその場から去った。
「ふぅ……」
僕は街案内をしてもらい終わったあととあるカフェにで一服した。
茶色い机には烏龍茶とチョコレートのティラミスが一つ。銀色のフォークとナイフが太陽の光を反射させている。
普通なら烏龍茶ではなく珈琲とかのイメージがあるが気にしないでほしい。僕は珈琲が飲めない、あんな苦いもの飲めるはずがない。
と言うことで今は烏龍茶を飲みながらティラミスを食している。
「前、良いかな?」
ふと聞き覚えのある声が聞こえた。恐る恐る顔を上げ相手の顔を伺う。
声の主は、さっき射撃場で会った____
「やあ、また会ったね」
彼は初めて会った時と同じように、始終笑っていた。