複雑・ファジー小説

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円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】
日時: 2014/03/01 20:26
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: XpbUQDzA)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

————始まりを探すゲーム。

 そんなこと、誰も興味はないだろうなと、彼は思った。ほら、みんな見向きもせず楽しそうに殺しあっている。三月兎は特にだ。
 彼の右手にも鈍色を宿す銃が。あぁ、そうか。結局こんなもんか。こんなもんだよね。

 誰にも認められることなく、彼は空の左手で虚空を握りしめる————






・このスレにはグロテスクな表現や暴力的な表現が含まれます。予め御了承ください。
・私は不思議の国のアリスが好きです。こうしてそれをモチーフにした作品を書くまでに至りました。
 ですが、それによって他のアリスファンの方々のイメージを壊してしまう可能性がございますので、見る方は自己責任でお願いします。
・オリキャラを募集しております。参照のURLよりリク依頼・合作依頼掲示板のスレへ行けますので是非御投稿下さい。




目次

序幕 >>1

一話 汝夢見し >>3-16

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.12 )
日時: 2014/02/10 19:21
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: aR6TWlBF)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

 直接何かされたわけではない。遮られたわけでも、またぞろ銃器を向けられたわけでもない。発する前に、思わず飲み込んだのだ。
 咄嗟の判断だった。予感、と言うよりかは確信めいた、もっと鋭く恐ろしいものが、近くに。肌で感じる。ぴり、と僅かな痛みを伴う、冷気を。体が自然と萎縮し、どろりと嫌な感触で血管が脈打った。そうさせるだけの鋭利な何かが、少女の瞳に、容貌に、潜んでいる。
 曰く——"ただ聞きなさい"と。
 闇の中に光を閉じ込めた瞳が、小さく眇められる。美しく妖しい、煌めき。同時に繊細で、儚げで、だが弱々しくはなく。触れれば切れそうな、工芸品の刃物のような——
「……聞いてます? 聞いてませんね?」
 思考が遮られる。それは鈴のなるような、女性らしい声によるものでは、無い。
 自重に逆らい浮かぶ体。彼の胸ぐらを少女が掴み上げている。伸縮性の無いシャツが、皮膚を擦った。おかしい。足がつかない。少女はこんなに大柄ではなかった筈だが。一体どれだけの腕力が必要だというのだ。
「聞きなさい。これを知らずして、帰れる道理はないでしょう」
「っ、か……」
 言葉が喉につかえる。
 帰る? 何処へ? どうやって? 聞かなければいけないことは満載だった。しかしそれを言葉にすることは叶わない。いや、息をすることすら難しい。焦る気持ちに、思考が追い付かない。
「ではまず——」
 少女はちっとも表情を変えず、淡白に言った。
「ようこそ、このゲームの舞台兼、唯一の世界"閉ざされた街≪the depth≫"へ。私を含む一部の人たちはあなたを歓迎します。——まぁ、恐らくは」
 どうでも良さそうに付け加え、続ける。
「これからあなたが参加するのは泡沫の遊戯。得られるのは勝者が手にする、たった一つの権利のみ。名誉も栄光も、期待しないことですね」
「っ、ぁ……」
 頭が暑くなるような感覚。膨張するようなそれの原因は簡単だ。酸素不足である。呼吸がままならないのだ。これでは分かる話も分からないだろうに、止まらない。話し続ける。
「ゲームは参加者同士の決闘≪the hand≫で構成されています。その勝敗によって、このゲームにおける得点と言えるもの——ツールが配分され、勝者が決まる。そう難しくもないでしょう。問題なのは、この決闘に関し皆さんが拒否権を有していると言うことです。それがゲームの停滞を招いているのですが、まぁ。主の意向ですからね。なにも言わずにおきましょう。さて、では決闘に関してですが……」
 少女はふと言葉を切る。ようやく彼の状態に気がついたらしい。やや意外そうに眉を上げる。彼は無造作に放られ、再び床に転がった。埃が立つ。噎せる。だが起き上がる気力もない。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.13 )
日時: 2014/02/12 20:34
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: caCkurzS)

「すみません。失念していました」
 そう言う少女の顔には、少しも悪びれるような色は無かった。それを裏付けるように、また淀み無く言葉を綴る。
「では、続けますが……決闘のルールに関しては、特に規定はありません。双方の同意さえあれば、賭けでも殺し合いでもご自由にどうぞ。ただ、中止と言うのはあり得ません。また、その際審判を選出することを忘れないよう。でないと無効になってしまいますから。……さらに、審判が勝敗を決し、勝者はツールと、もう一つ得ることが出来るものがありまして。それが、私たちに一つだけ質問する権利です。ゲームの意欲を高めるための工夫、らしいですが。勿論回答はすべて真実ですからね。……あとは——」
 す、と。彼女は視線を宙へ逸らす。まるで何かを諳じるように。虚ろな瞳は景色を透過し、ここにはない何かを見ている。
「……役≪card≫、について。現在このゲームの参加者は12名。各々ゲームの参加資格でもある役名を与えられています。意味は……ご自分で考えて下さい。まぁ、有るとも無いとも限りませんが。参加者の意思で他人に譲渡することは出来ませんし、名乗らない限りは分からないでしょう。ただ、決闘を開始する時点で互いの名は名乗ってもらいますので。——貴方の」
 息が途切れる。このとき、ほんの一瞬だけ、少女の瞳がしかと彼を捉えた。そう見えた。
 近い筈もない。だが、彼の視界には清んだ闇色が満たす。為す術も無く飲み込まれてしまいそうな、圧倒的な光。暗く昏く、不透明に、尖鋭に。
 彼を射竦める。
「貴方の、名は——」
 淡いロゼの唇が、抑揚無く言葉を紡ぐ。
 聞き漏らすまいと、彼は知らず全身で耳を傾けた。一滴も溢さないよう。静かに水を受けるように。
「——……っ、は、ぁ」
 それらをすべて呑み込んで。
 急に、緊張の糸が緩んだ。
 浅く息を吐く。小さく。段々と大きく、正常に。体の機能が戻ってくる。頭の中で反芻し、咀嚼し。
 彼を押さえ付ける黒のブーツはもう無い。少女の切りつけるような視線も、氷のように冷徹な声も、今はない。自由だ。彼の体は今、何にも縛られていない、が。
 それでも、立ち上がれない。
 体に力が入らなかった。内側から動きを拒否しようとする力が働くような。意識の不調和。酷く怠い感覚が体に絡み付く。彼の中に重石として有るのは、数多の疑問と困惑と、それともう一つ。
 あまりに先行きが見えない。あまりに突拍子もない。あまりに勝手だ。けれど、それでもその中でたった一つだけ、異彩を放つ確固たる事実がある。それは彼の胸の内を熱く抉った。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.14 )
日時: 2014/02/24 19:32
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: jJ9F5GeG)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833


「……っておい、待て!」
 彼の声に、少女はいかにも怪訝そうな顔で振り返る。
 いつの間にか彼女は、部屋から出ていこうとしていた。聞きたいことなど山ほどあるのだ、引き留めないわけがない。
「勝つって何! 何に勝つんだ? 何のために? それは俺にとってやるべきことなのか? つか、俺は誰なんだ。お前はどこの誰で、俺はどこの誰なんだよ? 何で俺は撃たれたりされなきゃなんねーんだよ。あと、お前、さっき撃たれたじゃねーか。なんで大丈夫なんだ?」
「……最後の質問にのみ答えましょう」
 少女は表情を変えず。しかし、声だけ僅かに重く、億劫そうに口を開く。
「確かに当たりました。が、もう治った。それだけのこと」
「……嘘だろ」
「嘘ですね」
 それだけ言って踵を返す。破けた白いワンピースの裾が不規則に揺れ、知らず視線が吸い寄せられる。
 ちらと視線を脇にやって、彼女は囁くように言った。
「出てきなさい、キング。いつまで赤子のように隠れているの」
「っ……誰が赤子だ、誰がッ! くそっ」
 キャビネットの陰から、蜂蜜色の頭が覗いた。キョロキョロといっそ滑稽なほど周囲を伺ってから、ようやく顔を出し、それに見合わぬ尊大な声を上げる。彼に向かってだ。
「開始早々リタイアすんしゃねーぞ! まった面倒な手順を踏まなきゃなんねーからな」
「私達がね。貴方は関係ないでしょう」
「うるせぇルーク! このっ……なっ、何でもねぇ!」
 言葉が途切れる。子供はそれだけ言って部屋を出ていった。早い。完全に逃げ腰だった。顔が見えなくても分かる。狼狽だ。少女に怯えているのだ。彼自身、この数分の経験のみで、少なからず少年に共感することが出来そうである。かの少女は常に自然体で儚く、透明で朧気で——同時に何かを仕出かしそうな、危うい空気があるのだ。見た目通りの細々しい少女でないことは、つい先ほど躊躇いも無く彼を掴みあげたことが証明している。
「……そう言えば、一つ助言を」
 部屋から出る寸前、彼女は急に立ち止まり肩越しに視線を寄越した。
「この建物、いきなり出歩いたりしない方がいいかもしれません」
「……は? え? それどういう——」
「では」
 短く言い残したその言葉を尻目に、部屋のドアが閉まる。
 重々しい金属の音は、何処か無情。
 残されたのは記憶喪失の彼と、先ほどから身動ぎ一つしない男、のみ。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.15 )
日時: 2014/02/26 18:33
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: vlOajkQO)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

 暫し呆然とし、我に返り、ああでもないこうでもないと長考したのち思考を放棄し、さんざん周囲を探索した挙げ句、彼はようやく気絶している男との対話を試みることにした。
 部屋の外も覗いてみた。が、無理だ。すぐさま諦める。一歩たりとも踏み出せそうにない。
 鉄のような、鼻を突く臭い。経験したこともない——記憶がないのだからある意味当然だが——涙腺を刺激する悪臭。青臭く、また焦げ臭く、自然に発生する、例えば花や虫の臭いなどとは比べ物にならない、悪意のような香り。
 今居る部屋の内装と同じような鉄製の壁や床を、目の眩むような赤色が染めている。危険色だ。赤く、本来ならば晒されることなど無い、艶々した液体。体が痺れるような、毒々しい極彩色。
 斑な模様と生乾きの艶は、小洒落たアートにしては生々しすぎた。
 進めない。視線を上げることすら出来ない。目の端に映った、廊下の隅に転がる肌色の物が、誰かの手だと認識するのが精一杯だった。
 咄嗟にドアを叩き付けるように閉め、両の手で口を塞ぐ。
 唾液が溢れる。
「……っう、ぐ、うぅ。……」
 胃を宥め、歯を食いしばって。声を殺す
 嫌だ、と泣きたい。どうして、何故と文句の一つも言いたい。だが、そうして泣き帰る所すらないのだ。慰めてくれる者も居ないのだ。足りない。自分には何もかもが足りなさ過ぎる。ならば、進むしかあるまい。 
 先ず、彼は音を立てないよう、必要以上にゆっくりとした速度で男に近付いた。相手は動かない。完全に気絶している。ばらまかれた金属類の下に、険しい表情で瞼を閉じている男の顔がある。意識がなくともその表情か。彼は唾を飲み込み周囲に視線を走らせる。
 探しているものは、銃。男の拳銃だ。あれがあっては出来る話も出来ない。そして安全の確保は何より重要だ。既に二度、男に銃を向けられたが、その際は即座に逃げるという考えがなかった。呆然としていたのだ。現在の状況も分からなかったのだから。
 だがあれは愚行だった。間違いない。一歩間違えば——すでに間違ってたのだが——死んでいた。
 同じ轍は踏まない。彼は一丁、銃を見つけ、そろそろ手を伸ばす。銃身の方を掴んで、予想以上の重さに肩が強ばる。
 ——果たして。こんなものを迷い無く打つ男と、会話ができるものだろうか。
 ふと頭をもたげた疑念を、即座に打ち切る。ならば外へ出るか。無理に決まっている。
 少し考えた後、銃は壁際に置いた。さらに探す。もう一丁。男を跨いで少し離れたところにあった。大袈裟なくらい迂回し、回収する。
 持ち上げた瞬間、鉄の重さと冷たさとを掌に感じた。やはり重い。硬い。自然物では有り得ない、禍々しいほどの存在感だった。
 不意に、音。衣擦れの音。僅かな音も、この静かな部屋では銅鑼の音色に等しい。
 瞬時に顔をあげた彼と漆黒の瞳が、かち合った。

Re: 円舞の国のアリス——Who are you?【キャラ募集中】 ( No.16 )
日時: 2014/03/01 20:07
名前: ブラウ ◆Tegn1XdAno (ID: XpbUQDzA)
参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7833

「——っ!」
 幸か不幸か。彼の右手には拳銃。僅かな、一瞬にも満たない躊躇の後、拳銃を男に向け、見よう見まねで構え。
 瞬きする間に距離を詰めた男が、その右腕を体の外側へ弾いた。
「いっ……!?」
 目まぐるしい。景色が回る。視界が混ざる。
 意図せず訪れた浮遊感に驚く間もなく、彼は後ろの棚にぶつかる。鉄の音。五月蝿い。
 鋭利なものの、感触。背だけではない。正面もだ。男の片手には、獰猛な刃物の煌めきが握られていた。
 決して大ぶりではない。だが確かな形。人の営みを、立ちきる形。それが流れるように、彼の喉へと吸い付く。
 また、一体何処からそんなものを。半ば感心すら抱きながら、彼はそれを視界に納めていた。
 逃避気味の、些細な感傷かもしれない。だが思った。
 自分は弱い。どうしようもなく、自分は弱いのだ。だから死ぬのだ。ここはそう言う場所らしい。この男しかり、先の少女しかり。少なくとも今この空間はそうで、自分は不適合者だ。ここでの活動には、適していない。
 腹立たしくはある、反発心も当然ある。抗えるものなら抗おう。だが、どうこうできるわけでもない。知るのが遅すぎた。諦観と義憤が、並行して入り乱れる。
 終わりが迫る。ナイフの尖った切っ先が、喉の皮を貫き肉を抉り空気が漏れだすその時。指先一つ動かす暇もなく。
 終わって。
「——なんで!」
 男が叫んだ。
「何でだよッ! 何で——ッ!」
 彼は目を閉じなかった。
 平然としていたのではない。恐怖も憤りもある。ただたんに、時間が無かったのだ。だから見た。
 男の手が、腕が、不自然な唐突さで静止したのを。
 ぎちり、と。人体の軋む音すら聞こえそうなほど、力の込められた腕は 、しかしそれでも前に進まない。空気が硬化してしまったように、男の腕がその場に縫い付けられている。
 燃えるような憎悪と、困惑と、僅かな不安が入り交じり、黒い瞳はありったけの怒気を彼に叩きつけた。

「——てめぇを殺せねーんだよッ!」

 喉の皮で微かに感じる、小さな切っ先。
 それは、小さく震えていたように、彼には思えた。
 情動から来るものなのか、或いはただ筋肉の痙攣か。
「二度だ、二度殺し損ねた! 何で掠りもしない? 俺の目が節穴だとでも? な訳あるか、んな距離で! でもってこれだ、何で刺せない!? いきなり湧いてきやがって! お前何なんだよッ!」
 ナイフは変わらず向けられている。だが、動かない。届かない。とどめは、刺されない。男は明らかに動揺していた。いや、激昂していた。
 殺意。いわれのない、とは断言できないが、やはり理不尽だ。まるで生きていることを咎めるかのような姿勢である。何故と疑問が膨らむ。聞きたいのはこちらだ。加えて不平不満もこの短時間で山のようにある。いきなり銃を向けるな、打つな、踏むな、人の話を聞け、等。
 男の質問には知らない。と言うしかない。そもそも回答が得たくて問うたわけではないだろう。ただの八つ当たりのように見えた。先ほどまでの冷酷さ冷静さをかなぐりすて、腹立たしさに任せた感情的な攻撃。手を出せないが故の舌端。彼はふと、その言葉の一つだけ解答し得ることに気付く。
 知らず知らず、止めていた息を吐き出す。乾燥した唇を舐める。
「俺は、」
 言葉に詰まる。呼吸を整えたつもりが、また止めていた。酸欠だ。落ち着け。吸え。
 彼は先ほどの熱い感覚を反芻しながら、答えた。
「——アリス」
 初めて名乗る、はすだ。しかしおかしい。地に足がついたような、妙な安定感がある。何一つ事態は好転していないが、肩が重く、体にしっかりとした輪郭が出来るような。
 夢から、覚めるような。

「俺はアリス、だ」

 もう一度。噛み締めるようにその名を口にする。たった一つ、自分が持つ、確かに与えられた、明確なもの。
 本名ですらない。だが十分だろう。名前は名乗るためにあるのだ。人に認識されれば問題は無い。無いと困るが、必要以上に飾り立てる必要はないのだ。ならば、人は何で構成されるのか。
 記憶だ、勿論。
 それがない。ならば、探す。そして作ろう。
 過去の自分を。この先の自分を。幸いまだ、終わらないようだから。
 彼は形作られた心中の思いに唇を引き結び。

——男の目をしかと睨み返した。


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