複雑・ファジー小説

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学園マーシャルアーティスト
日時: 2017/12/12 17:46
名前: 大関 ◆fd.I9FACIE (ID: 9ihy0/Vy)

どーも皆さん。青銅→白樫→大関です。
現在書いてる『気まぐれストリートファイト』が少々アイディアに詰まってしまい、リハビリ感覚で新しい小説を作りました。
下らない内容ですが頑張っていきたいと思います。

=ご警告
・荒らし、中傷はやめてください。
・パロディ等があります。
・かなり汗臭い感じになります。
・亀どころかナマケモノ以上に遅い更新です。
・やってる事は『気まぐれストリートファイト』と同じです。
・少々リメイクしました。


=登場人物(※注意:ネタバレ多々有り)
黒野 卓志 >>4
白石 泪 >>4
春風 弥生 >>4
佐久間 菊丸 >>11
愛染 翼 >>16
大道寺 重蔵 >>17
立花 誠 >>25


=バックナンバー
+日常編
第1話 武闘派学園生活開始 >>2 >>3
第2話 カチコミ退治も楽ではない >>5 >>6
第3話 番長見参 >>7 >>8 >>9 >>10
第4話 決死のタイマン >>12 >>13 >>14 >>15
第5話 "消える左"の天才ボクサー >>18 >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24
第6話 黒野と弥生と空手部と >>26 >>27 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第7話 電光石火の一撃 >>35 >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.38 )
日時: 2016/12/09 19:03
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

 それから翌日の放課後。相撲部には黒野と白石が集っていた。黒野は白石による稽古をつけてもらっていたのである。

「ダンナ、今回ばかりはダンナの持ち前のタフネスは何の意味もなさない。絶対に全力の攻撃を受けてはならないんだ。」
「調子狂わせてくれる相手だぜホント。」

 黒野とて対策を施してないわけではないのは、既に周知の事実ではある。しかし、やはり持ち味が失われるのは黒野にとっては厳しいものである。

「須藤君のスタイルは空手。つまり打撃中心で攻めることは間違いない。だから普通なら組技で挑めば問題ないはずだけど……正直、今回はその戦術を信用することは出来ない。」
「どうしてだ?」
「相手は学浜最大の大会であるGFCの優勝者。つまりレスリングや柔術などの組んで投げるタイプの格闘技とも渡り合っていたに違いないからさ。」

 須藤はこの学浜で数多くの経験を積み、様々な格闘技の対策を練っているであろう。それを容易に想像することが出来る。そうでなければ最強候補の一角に躍り出るのは不可能。白石はそう感じ取った。

「……要するにこっちも対策練っちまえば、どうにでもなるだろ?」
「それが出来たら苦労はしないんだよダンナ。」
「心配すんな。何とかしてやるからよ。」

 自分が戦うというのに、清々しいまでに能天気な黒野を見て、白石は思わずため息をつく。その直後、チャイムが鳴り響いた。

「おっ、もうこんな時間か。」
「黒野先パイ。お待たせ。」

 チャイムがなり終わると同時に、部室に立花が上がりこむ。

「よぉ、立花。今日も頼むぜ。」
「へへっ、まかせてよ。」
「それじゃ僕は一先ず上がるよ。また家でね。」

 稽古を立花に任せることにした白石は、部室から立ち去っていった。

「先パイ、準備は大丈夫だよね。」
「あったりめぇよ。こちとら何時でも」
「おぅ、スマンが邪魔するで。」

 横から突然入ってくる野太い声。それに振り向くと、黒野たちの目に映るのは、一際目立つ巨体にリーゼントパーマ。応援団の重蔵である。

「学校ももう少しマシな部室くらい用意してもらいたいもんだね。」
「予算的に無理でしょうが。」

 重蔵に続き、副団長の菊丸と翼の2人も入ってくる。

「あぁ、番長。それに菊丸たちも。一体どうしたんスか?」
「聞いたぜ黒ちゃん。空手部の須藤ちゃんと喧嘩するんだって?」
「……もう広まってるの?」
「目ざとい新聞部の皆さんや、学浜の情報屋を勤める人たちを中心に広まりましたよ。」

 学浜は喧嘩が盛んな学園であり、故に様々な喧嘩の情報を商売の種にするべく、新聞部を筆頭に数多くの情報屋が集っている。彼らは異様なまでに鼻が利き、このようなビッグマッチとも呼べる戦いには必ずといっていいほど、彼らが関わってるのである。

「黒野さん、相当厳しい人を相手にしましたね。いくら重蔵さんと引き分けたとはいえ、学浜の最強候補を」
「わーったわーったって。こちとら、部員確保の為には避けて通れねぇし、要するに勝ちさえすればいいんだろ? 楽勝よ。」
「しかし……。」
「まぁ、黒野の言うとおりじゃけぇのぉ。はなっから、負けること考えて喧嘩っちゅうんはできんわい。」

 心配する翼を他所に、重蔵はその一言に賛同し、豪快な笑い声を上げた。

「ねぇねぇ、黒野先パイ。」

 突然入ってきた番長たちを見て、立花は中空に疑問符を挙げる。

「どうした、立花。」
「この大きいオジサンってだれなの?」
「お前、バカッ! 俺がよく言ってるだろ! 番長だよ!」
「あぁ、番長先パイなんだ。」

 流石に初対面だからとはいえ、立花の失言に黒野は慌てふためく。

「黒野。そいつはあれか? 部員か?」
「えっ? あぁ、番長がこの間紹介してくれたじゃないスか。」
「ワシが紹介した?」

 重蔵は顎に手を当て、黒野と会話したときを思い浮かべる。しばらく考えた重蔵は、何かを思い出したかのように口を開いた。

「ひょっとして……こいつが"消える左"か?」
「そう、それ。」
「ホンマか……。」

 驚きと共に、まだ疑いの目を向ける重蔵。 

「番長、疑う気持ちは分かるけど、こいつ1年な上に、チンチクリンだからって舐めない方がいいッスよ……こいつ相当強ぇッス。」
「なるほど……お前さんがそこまで言うんじゃけぇ、強さは折り紙つきっちゅうわけか……。」

 重蔵は黒野の言葉を聞き、全てを信じて言った。

「しかし、1年でボクシング部最強たぁ、なかなか見込みのある奴じゃのぉ。」
「へへっ、番長先パイも黒野先輩から、お話聞いてるよ。黒野先パイと戦って引き分けたってこと。」
「ほぅ、ワシの事も聞いとるか。それは嬉しいが……さっきからワシを『番長先輩』言うとるが、語感悪くないんか?」
「えっ? だって番長先パイのお名前って『番長』なんでしょ?」
「いや、ワシの『番長』っちゅう呼び名は本名ちゃうわ! 黒野! オンドリャ、名前くらいちゃんと教えんかい!」

 その一言と同時に、黒野の頭に拳骨を叩き込む。

「アイタッ! いや、番長を本名呼びするのはさすがに……。」
「その気持ちは有り難いと言えば、有り難い。じゃが、それで名前間違えられたら本末転倒じゃろうが!」
「まぁ、落ち着いてよ。番長先パイ。」
「て言うか、番長はなんでここに来たんスか?」
「……おぉ、そうじゃった。菊丸!」

 重蔵が一言発すると、菊丸はスマートフォンを取り出した。

「黒ちゃん、これよこれ。」
「どれどれ……。」

 菊丸が画面を見せると、そこに写っていたのは少し前に体育倉庫で行われていた、須藤と権田の喧嘩の様子であった。

「こいつは……。」
「俺っちがいざという時のために仕入れた喧嘩の情報さ。」
「ボク達は黒野さんに出来る限り協力したいのです。これくらいしかボク達に出来ることはありませんが……役立てられますか?」

 黒野は動画をまじまじと見つめていた。しばらくした後、黒野はニヤリと笑みを浮かべ、翼たちのほうへと向いた。

「この情報……大いに役立てさせてもらうぜ。菊丸、翼、そして番長……ありがとな!」

 その言葉を聞き、3人は思い思いの表情を浮かべる。

「黒野! この喧嘩……勝ってこいや!」
「押忍! 任せてくれって!」
「えぇ返事じゃ……菊丸! 翼! 行くど!」
「押忍!」

 そう言うと応援団の3人は相撲部の部室から去っていった。

「立花……それじゃ頼むぜ!」
「うん! 行くよ!」

 黒野と立花は改めてトレーニングを始めたのだった。

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.39 )
日時: 2016/12/11 19:32
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

 黒野が須藤に啖呵を切った日から、一週間が経過した。相撲部部室前、白石と弥生がそこで待っていた。しばらく沈黙が走る。
 その沈黙を破るように『スタッ、スタッ』と足音が響く。

「……待たせたな。」

 角刈りに剃られた頭髪、年季が入り、多少くすんだ色となった空手着。そう、足音の主は須藤であった。

「やぁ、須藤くん。」
「黒野はどうした?」
「ダンナはまだ来てないよ……まぁ、逃げる人じゃないから、安心してよ。」

 白石の言葉を聞いた後、須藤はもう何も喋らず、瞼を閉じて、ただその場に立ち尽くしていた。そして時は過ぎていく。

「……黒野の奴、遅いのぉ。」
「まぁ、逃げないと言っても時間にはルーズそうだしねぇ。」
「ただ待つ。それしかありませんよ。」
「……あのさ、何で番長たちがいるのさ。」

 時が過ぎていく中で、相撲部部室前にシートを広げて、観戦する気満々の状態で居座る応援団の3人に、白石は言い放つ。

「そりゃお前さん、こんなオモロい戦いを見逃すわけにはいかんじゃろ。」
「いや、それにしたって」
「須藤、お前さんはワシらが邪魔だと思うか?」

 白石の言葉を遮り、重蔵は須藤に語りかける。須藤は軽く重蔵のほうへ向き、口を開いた。

「問題ありません。」
「だそうじゃ。ワシらが居っても居らんでも関係ないわい。」
「……それならまぁ……しょうがないか。」

 色々と諦め、白石は再び黒野を待つ。
 そして10分が経過したが、黒野は現れない。

「遅い……16時まで後3分だ……。」

 流石の須藤も苛立ちを隠しきれず、まだかまだかと待ちわびていた。
 その時だった。須藤の視線の先で、土ぼこりを巻き上げながら、走っていく2人組の影が映った。

「うおぉぉぉっ!」

 それは紛れもなく、黒野と立花の2人であった。黒野たちはだんだん近づいていく。やがて、全身がハッキリと見えるくらいにまで近づいた時、2人は急ブレーキを掛け、須藤の目の前で止まった。

「ぜぇ……ぜぇ……ギリギリ間に合ったぜ!」
「遅かったな。」
「悪い悪い。」

 肩で息をしながら、黒野は軽く須藤に向けて謝罪の言葉を放った後、共に走ってやってきた立花に顔を向けた。

「立花! 最後の調整にまで付き合ってくれてサンキューな!」
「えへへ。黒野先パイ、必ず勝ってよ!」
「勿論でぇ! お前の協力、無駄にはしねぇよ!」

 立花は黒野の言葉を聞いた後、白石たちの下へとかけって行った。駆け寄った立花を見て、白石は口を開く。

「あのさ、立花くん。今までダンナと何したの?」
「最後のウォーミングアップだよ。」
「ウォーミングアップねぇ……。」

 白石は黒野の方に向く。自信満々そうな顔をした黒野をしばらく見詰めていた。

(ダンナ、僕には分かってるんだよ……どうせキミは当たらなければいいと思っているんだろう。だから立花くんにボクシングのフットワークを教わっていたんだ)

 白石は黒野の考えをすでに見破っている。故に一週間仕込んだだけの技術で勝てるとは踏んでいないのである。

「黒ちゃーん!」
「あぁ、菊丸。それに番長たちも。」
「黒野!気張っていったれや!ワシらを退屈させんでくれよ!」
「へへっ……勿論ッスよ!」

 番長たち応援団の檄を聞き、黒野はますます気合の入った表情で須藤と合間見える。

「黒野、この場を持ってお前を潰させて貰うぞ……。」
「そう簡単に潰されるほど柔じゃないんでね。」

 須藤の言葉と同時に、一触即発の空気を作り出す。

「ゴングの代わりだ。」

 黒野は塀に向けて指を刺す。その塀の上には、相撲部の飼い猫であるネコマタが佇んでいた。

「ネコマタちゃんが『ニャア』と鳴いたら、勝負開始だぜ。」
「……解かった。」

 二人はその言葉の後、構えを取った。暫くの沈黙が走る。塀の上のネコマタは二人の様子を眺めつつ、前足で頭をなでる。そしてネコマタは口を開く。その口から、『ニャア』と高い泣き声が響き渡った。

「いくぞ黒野!」

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.40 )
日時: 2017/07/03 18:33
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

 須藤は一気に間合いをつめると、黒野の胴体目掛けて回し蹴りを放った。それを黒野は両腕を使い、問題無くそれを受け止める。

「……これでもそれなりに力を込めたつもりだがな。」
「悪いな。こっちも進化してんだ。それなりの攻撃じゃ通用しねぇよ!」

 今度は黒野が間合いをつめると、突っ張りのために腕を振りかぶった。

「はぁっ!」

 須藤は大きく振りかぶる黒野よりも先に、その拳を黒野目掛けて突き出す。しかし、黒野はそれを咄嗟に身を屈して回避した。

「へっ、喰らいやがれ!」

 がら空きとなった須藤の腹部に、黒野はその掌を叩き込んだ。

「やった!まずは一発だよ!」
「流石にコイツは聞くじゃろうのぉ。」

 見物していた立花と重蔵は思い思いのことを口にする。
 だがしかし、須藤はそれを何事も無かったかのように、表情一つ変えずにそれを耐え切った。

「……手応えあるのにちっとも効いてねぇや。」

 黒野はいったん間合いを取り、己の手を軽く振って、そう言った。

「どういうことじゃい。黒野のテッポウ(突っ張りの意)が全然効いとらんようじゃが。」
「それこそがフルコンタクト空手の競技特性だよ……フルコンタクトは顔面への拳での攻撃が禁止だから、その分腹部に意識が集中できるんだ。だから腹筋を極限まで鍛え、鳩尾すら塞ぐ筋肉の鎧を作り出して自身の身を守るのさ。」

 驚く重蔵に対し、白石は淡々と解説を行った。

(結構力込めてテッポウ打ったんだけどなぁ……するってぇと、こいつを破れるのは全力のテッポウ、それかぶちかましくらいか……。)

 黒野は頭の中でいろいろと考えながら、須藤を見る。一見すると、ドッシリと構えをとっているが、微かにその足はステップをとっている。寄らば直ぐに動ける状態である。

(……だけどコレ、素直に撃たせてくれないよなぁ)

 先の立花や重蔵との戦いで黒野は身に染みて学んでいる。動作の大きいぶちかましでは命中率に期待は持てない。何の策も無しに打てば、一撃必殺の正拳突きが飛んでくること間違いない。

(腹がダメなら……顔面しかねぇよな!)

 黒野はそう考えると、須藤に駆け寄り、顔面目掛けて突っ張りを繰り出す。須藤はそれを難なく前腕でそれを捌くが、黒野は構わずに2発、3発と突っ張りを連打。

「甘い!」

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.41 )
日時: 2017/07/07 21:55
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

 須藤は黒野の突っ張りをすり抜けるように間合いを詰めて密着すると、黒野の頬目掛けてボクシングのフックのような回し突きは放つ。黒野は密着した直後に、須藤の帯を掴んで投げに移ろうとしたが、わずかに須藤の回し突きが早かった。須藤の拳を受け、黒野は怯んだ。

「終わりだ! 黒野!」

 そして須藤は怯んだ黒野に左掌を向け、右拳を思い切り引いた。

「白石、あの攻撃は……。」
「まずい……ダンナ! 必殺の正拳突きが来るよ!」

 まさしくその構えは、須藤の十八番である正拳突きの構え。その狙いは黒野の顔面であった。

「せいやぁ!!!」

 強烈な叫びと共に黒野目掛けて、一撃必殺の正拳突きが今、放たれた。誰もが黒野の負けを確信した。しかし、その直後、周りは衝撃の光景に戦慄した。
 それは黒野が須藤の正拳突きを紙一重で回避し、須藤の腕と交差させるように腕を伸ばし、その顔面に渾身の突っ張りを繰り出していたのである。

「ぐぅっ!」

 強烈な突っ張りを受け、今度は須藤が怯んだ。直ぐに須藤は体勢を立て直すと、黒野の肩から腕の部分目がけ、中段回し蹴りを繰り出す。それを黒野は足をそのまま踏ん張らせ、上半身のみを後ろに反らせて、それを避けた。さらに蹴りの大きな隙を黒野は逃さない。顔面目がけて突っ張りの連続で殴りつけた。
 黒野の攻撃を受けた須藤は大きく距離をとる。黒野は追撃せずに、両掌を顎の近くに置き、足は軽やかなステップを踏んだ構えで須藤を見据えた。

「ねぇ、白石くん……あれって相撲じゃないよね……。」
「その通りだよ弥生ちゃん。あの動きは相撲じゃない……あれは間違いなくクロスカウンターとスウェーバック!つまりボクシングの動きだ!」

 先ほどの黒野の繰り出した技術、そして今の構え、どう見てもボクシングのそれである。白石たちはそれに目を見張る。驚くオーディエンスを余所に、黒野は白石に目を向け、口を開いた。

「相棒よ、言っただろ? サプライズってよ。」
「サプライズ……まさかダンナ……ボクシングのフットワークじゃなくて、ボクシングそのものを一週間で学んだっていうのかい!?」

 黒野の言葉に対し、白石はさらに驚きの声を上げて立花の方へと顔を向ける。立花は鼻を指で擦りながら、笑顔で黒野を眺めていた。

「まぁ、俺様とて前々からスピードに関しては見直さねぇと思ってたしな……その点を立花に頼んで教えてもらったんでぇ。」
「それでも一週間で出来る動きじゃないよ……。」
「そこが俺様のスゴいところよ! これこそ立花が仕込んで俺様が改良した、俺様作の相撲ボクシングでぇ!!」

 高らかに叫ぶと黒野は間合いを詰める。須藤は走り寄る黒野の顔面目がけて足の裏を叩きつけるような前蹴りを繰り出すが、黒野はまたしても見事なスウェーバックでそれを避ける。須藤が足を戻す前に須藤の側面に回り込み、そのままボクシングのストレートのような突っ張りを繰り出す。
 須藤は紙一重でそれを回避すると、今度は黒野に密着し、肘打ちを放つ。それすらも黒野はしゃがみこんで回避した。そして黒野が次に繰り出したのは、己の強烈な足腰のバネで瞬時に飛びあがり、須藤の顎に目がけて繰り出されるアッパー気味の突っ張り。以前、立花が見せたカエルアッパーの応用形である。
 須藤はそれをとっさに両掌で顎を覆うが、徹底した下半身の強化を施された力士、ひいては特異体質によって普通では比べられないほどの筋肉を持つ黒野の足腰から繰り出されるカエルアッパー(のような突っ張り)の衝撃を到底抑えられるものではない。須藤は大きく弾き飛ばされ、後ろへ倒れこんだ。

「っしゃあ! どうでぇ!」
「………。」

 須藤は無言で立ち上がると、腕を曲げたり伸ばしたりして、負傷があるかどうかを確かめた。強烈な突きであったが、その腕は問題なく動く。それを確認すると須藤は瞼を閉じ、息を整えると、再び構えた。

「まぁ、そりゃ立ち上がるよな。まだまだ勝負は始まったばかり。こっからよ!」

 構える須藤に向けて黒野は向かっていく。素早いフットワークで須藤を撹乱させるように動き、側面に回りこみ、腕を引いて渾身の突っ張りを繰り出そうとした時だった。『パシンッ』と言う音と共に、黒野は大きく仰け反った。その隙を須藤は見逃さない。一歩踏み込んで、黒野の側頭部目掛け、高速の上段回し蹴りを繰り出した。黒野は咄嗟に頭部を守るように腕を上げ、何とか蹴りをガードしたが、衝撃を抑えられず、地面に座り込むように倒れた。

「のぉ、白石……今のは一体なんじゃ。」
「……秀でてるのは一撃の重さだけじゃないってことかい……今のは空手の『刻み突き』。ボクシングで言うところのジャブさ。威力は段違いだけど。」

 空手は一撃必殺を目標に掲げているが、何もそれは威力だけではない。空手はポイント制の競技も存在し、如何に相手が裁けない速さで正確に突きを打てるかと言う状況も想定されている。それ故に『一撃の重さ』も勿論重要だが、『一撃の速さ』も含めて『一撃必殺』と成しているのである。

「確かに不意は突かれたが、所詮は付け焼刃。種が割れれば如何と言うことは無い。」

 黒野を見下ろして言い放つ。黒野はすぐさま立ち上がり、再び構える。それは先ほどと同じ相撲ボクシングの構え。見破られてなおも、これで挑むつもりだ。

Re: 学園マーシャルアーティスト ( No.42 )
日時: 2017/12/12 17:02
名前: 大関 ◆C5p8guYtTw (ID: 9ihy0/Vy)

「悪いがそれはもう通用しない。」
「まだ終わっちゃいねぇよ。この相撲ボクシング、本質はまだ見せちゃいねぇよ!」

 再び黒野は軽やかなフットワークで一気に間合いを詰め、突っ張りを繰り出す。

「甘い!」

 須藤は再び刻み突きを黒野の顔面に放つ。それを黒野は腕を上げ、掌でそれを受け、それと同時に須藤にフック気味の張り手を繰り出す。しかし、須藤はそれを間合いを離して回避し、その隙を逃さずに顔面目がけ、今度こそ上段回し蹴りをぶち込んだ。流石にスピードを優先したため、威力そのものは本気の蹴りには劣るが、それでも衝撃は非常に大きい。黒野は仰向けに倒れこんだ。

「くっ……やるじゃねぇか……。」
「言ったはずだ。付け焼刃で俺には勝てん。」

 立ち上がる黒野に向け、須藤は言い放つ。黒野は再び足でステップを踏み、今度は須藤の様子を伺っていた。

「来ないのなら……次はこっちから行くぞ!」

 須藤は間合いを詰め、顔面に素早く突きを放つ。黒野はそれを再び回り込むような動きで回避し、ジャブの要領で素早い突っ張りを2、3発繰り出す。それを須藤は的確に回避し、黒野の横腹に蹴りを見舞う。黒野は一瞬怯み、それを逃さずに黒野の後頭部を徐に押さえ、顎にアッパーの様な突きを放つ。上げ突きという技だ。
 だがしかし、須藤がそれを放つ瞬間、黒野は須藤の空手着の帯を掴んだ。そのまま須藤を引き寄せてがっぷり四つ。一瞬の出来事に須藤の上げ突きは不発に終わり、それを見計らった黒野は、須藤を吊り上げ、そのまま地面に叩き付けるように投げ飛ばした。相撲四十八手『吊り落とし』である。倒れこむ須藤に、四股踏みの要領で踏みつけに掛かるが、須藤は咄嗟に転がって回避し、その身を起こした。

「ちっ、外したか。」

 須藤は警戒するように即座に構えを取った。当の黒野は追撃をせず、再び相撲ボクシングの構えを見せた。

「ただの付け焼刃というわけでは無さそうだな……。」
「確かに『ボクシング』は付け焼刃よ。『ボクシング』はな。だけどこれはボクシングじゃねぇ! 俺様作の『相撲ボクシング』、つまり相撲の発展系でぇ! 相撲は俺様の人生のほぼ全て! 俺様と人生を共にしてきた、この相撲の腕前! これを付け焼刃とは呼ばせねぇぞコラ!」

 そう、黒野が扱うのはボクシングではなく、あくまでボクシングの技術を応用した相撲である。技術そのものは付け焼刃ではあるものの、それを余りある相撲テクニックで完全にカバーしているのである。それを須藤は見落とした。

「なるほどね……無茶苦茶だけどダンナらしい結論だよこれは……。」

 白石は納得半分、関心半分の気持ちで、黒野を素直に賞賛した。

「須藤! 一気に行かせてもらうぜ!」

 黒野はそう叫ぶと、須藤に向けて走り寄る。猛烈なダッシュから腕を振りかぶり、突っ張りを繰り出した。須藤はそれを避けると、黒野に再び回し突きを繰り出す。それを黒野は上半身を反らせて回避し、2発3発と連続の突っ張りを放つ。腕を十字に交差させ、それを防御すると、須藤は右肘を黒野の顔面目掛けて繰り出した。黒野はその肘に向けて、頑丈な額を叩き込んだ。『ガキンッ』という音と共に、肘は弾き返され、須藤は多少後方に下がった。それを見計らい、黒野は須藤の帯を掴み、下手投げで己の後方へと投げ飛ばした。

「行けるよダンナ!」
「先パイ! そのままたたみ込んで!」
「任せろぉ!」

 投げ飛ばされた後、即座に体勢を立て直した須藤に向け、黒野は向かっていく。

「はぁっ!」

 須藤は起き上がり様に黒野の顎目掛け、上げ突きを繰り出す。急ブレーキを掛けて黒野は止まり、上半身を反らせてそれを回避する。

「いっくぞぉ!」

 黒野は上半身を戻し、その勢いを利用して須藤の顔面目掛けて突っ張りを繰り出す。その時だった。『ゴンッ』という鈍い音と共に、黒野の頭部に強烈な衝撃が走る。黒野の目の前が一瞬真っ暗になった。須藤は上げ突きで振り上げた拳の側面を、黒野の頭部に思い切り振り下ろしたのである。空手技の一つ、『鉄槌打ち』だ。

「武道と人生を共にしてきたのが……お前だけだと思うな!」

 須藤はそう叫ぶと、再び拳を思い切り引いた。

「せいやぁっ!!」

 須藤の十八番、正拳突きが放たれる。その瞬間、黒野は無意識のうちに須藤の正拳突きを下から突き上げるように掌を押し、須藤の正拳突きの軌道を逸らした。相撲の防御テクニックである『おっつけ』である。さらにそのまま須藤の腕を掴み、須藤を引っ張り込んで、背負うように投げる。柔道との共通技にして相撲48手の一つ『一本背負い』だ。

「くっ、まだ俺の正拳を防ぐか……!」

 須藤は的確に受身を取り、再び構えを取る。

「ダンナ! 大丈夫かい!?」

 白石は須藤を攻めつつも、大ダメージを受けた黒野に声を掛ける。意識が朦朧としているのか、よろけつつ黒野は白石の声に反応し、振り向いて口を開いた。

「おぅ、相棒……ちょっと聞くけどいいか?」
「な、なんだい?」
「……あの空手野郎、誰だ?」

 黒野の口から、思いもよらぬことが飛び出る。白石はおろか、周りの人間も耳を疑うほどのものであった。

「だ、誰って……須藤くんだよ?」
「須藤……おぉ、思い出した。俺様は須藤と戦ってたんだった。」

 白石は恐る恐る、黒野の質問に答える。黒野はそれを聞くと、また先ほどまでの調子に戻って口を開いた。

「ダンナ、一体何が……。」
「チクショウ、トンでもねぇ野郎だぜ。一瞬、意識と記憶飛ばしやがって……。」

 頑丈な黒野から意識と記憶を一瞬だけとはいえ奪う攻撃。黒野も改めて須藤の危険性を再認識した。正拳突きだけでなく、他多くの技が黒野をKOできるだけの威力を秘めている。黒野は殴られた箇所を押さえる手を離し、構えた。

「黒野先パイ、大丈夫だよね?」
「安心しな、立花。記憶飛んだっつっても一瞬だ。お前に仕込まれた技術まで忘れちゃいねぇよ。」
「まぁ、意識なかったということは本能だけで体を動かして正拳を防いだということだからね……ダンナも流石に忘れては無いと思うよ。」

 黒野は軽快なステップを踏み、須藤を見据える。一方の須藤は構えを見せたまま動かない。次の瞬間には須藤は何を思ったのか、その構えを解いた。

(此処まで俺の正拳を対策しているとはな……止むを得ん……)

 次の瞬間、彼は正面を向いて拳を握り、右腕を胸辺りまで上げ、左腕を腰辺りにまで下げた構えを取った。


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