複雑・ファジー小説

〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】
日時: 2017/06/11 12:52
名前: 狐
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16159

獣人の住む国ミストリアの次期召喚師、ファフリ。
召喚術の才が見出せず、父王に命を狙われることとなった彼女は、故郷を捨て、逃亡の旅に出るが……。

国を追われた彼女が背負う、残酷な運命とは――?

………………

はじめまして、あるいはこんにちは!狐と申します。
(※この度、銀竹に改名致しました!)

本作は、狐による創作小説〜闇の系譜〜の一作目です。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。
コメント等は大歓迎です。して頂けたら飛び上がって喜びます(笑)

暇潰しにでも読んで頂ければ幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。

………………

>>1-300

〜目次〜

†登場人物† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†序章†『胎動』 >>3 >>6-9

†第一章†――安寧の終わり

第一話『隠伏』 >>10 >>13-16

第二話『殲滅』 >>17-19 >>22-30

第三話『策動』 >>35-46 >>52 >>55-58 >>67-68

†第二章†――邂逅せし者達

第一話『異郷』 >>71-79

第二話『果断』 >>80-93

第三話『隘路』 >>94-107 >>112-118

†第三章†――永遠たる塵滓

第一話『禍根』 >>119-137

第二話『慄然』 >>138-143 >>145-160
(※若干難しい内容です。意味不明だという場合は仰ってください。)

第三話『落魄』 >>161-186

†第四章†――対偶の召喚師

第一話『来訪』 >>187 >>190-225

第二話『慧眼』 >>226-237 >>240-243 >>245-251

第三話『偽装』 >>252-286

†第五章†――回帰せし運命

第一話『眩惑』 >>287-350

第二話『覚醒』

第三話『帰趨』

†終章†『光闇』

五分くらいで大体わかる〜闇の系譜〜(ミストリア編) >>144

PV >>244


【その他の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(サーフェリア編)《複ファ》
ミストリア編よりも前のお話。
幼少期より召喚師としての生を強いられてきた、ルーフェンを巡る物語。

・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。

・(合作)闇に嘯く《複ファ》
風死さん、末端ライターさん、noisyさん、みすずさんと共に執筆させて頂いております。
よろしければ、こちらも是非。 

・旅館『環』においでませ!《コメライ》
経営難に苦しむ旅館『環』の従業員たちが、赤字を黒字にするためにとった秘策とは……?
狐の執筆ものではないです。
狐が丸投げした設定を、コメライで活躍している心優しい優日(夕陽)ちゃんが、拾って書いて下さるというものです!

・〜可能性の魔法使い〜《複ファ》
月白鳥さん原作の作品を、銀竹が執筆させて頂いたものです。
可能性を操り、奇跡を起こす魔法使いたちの物語。
主人公は烏くんです。


【執筆予定のもの(いつになるやら(笑))】
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後のお話。
闇精霊の統治者、召喚師エイリーンの思惑とは……?

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
〜闇の系譜〜、完結編。
ツインテルグの召喚師、グレアフォールによって、隔絶された国々、種族、そして召喚師の秘密が明かされる……!


………お客様………

夕陽さん
はるさん
カナタさん
Rさん
羽瑠さん
ヨモツカミさん
まどかさん
ゴマ猫さん
ルビーさん

【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で4位頂いておりました( ;∀;)
大会期間中ほぼ更新していなかったのにも関わらず、投票して下さった方がいたとは……本当に光栄です、ありがとうございます!

・ちょいちょい外伝のほうに私の描いた適当な挿絵を載せさせて頂いたのですが、この度、とりけらとぷすさん、乃詞さんに正式に〜闇の系譜〜シリーズの挿絵を描いて頂くことになりました!
私も時々載せさせて頂くかもしれませんが、是非ご覧ください(*´ω`)

>>10 >>30 >>83にとりけらとぷすさんによる挿絵を掲載いたしました!
是非ご覧ください^^

・サーフェリア編が2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
投票してくださった皆様、ありがとうございます^^

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Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.285 )
日時: 2017/06/04 00:51
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 全身の内臓を押し潰されたような、激しい痛みに悶絶する。
しかし、ルーフェンには目もくれず、エイリーンは、よろよろと後ずさると、震える両手で白い顔を覆った。

「……あの男を、王と呼ぶな」

 地を這うような低い声で、呻きながら言う。
途端、エイリーンの身体から腐敗臭が立ちのぼり、突然、皮膚がどろどろと溶け始めた。

 顔面や手を覆う皮膚、そして肉が、じゅうっと煙をあげながら、溶けて蒸発していく。
そうして、半分白骨化したような姿になりながら、エイリーンは、凄絶な光を瞳に浮かべて叫んだ。

「我らを忘却の砦に幽閉した、あのおぞましき精霊族の略奪者が……。その残虐さも、恐ろしさも知らぬくせに、その名を出すな……!」

 エイリーンの声と共に、ルーフェンの身体にのしかかる妖気が、更に重みを増す。
ルーフェンは、重圧に耐えきれず、みしみしと悲鳴をあげる骨格の音を、ただ聞いていることしかできなかった。

 そんなルーフェンを横目に、エイリーンも、浅い呼吸を繰り返していたが、やがて、ふと近くに立っていた木に触れると、低い声で何かをぶつぶつと唱え始めた。
すると、触れている部分から木が腐敗し、枯れ朽ちていくのと同時に、その生気を吸いとったかのように、エイリーンの肉体が再生し始める。

 エイリーンは、完全に元の姿に戻ると、落ち着きを取り戻した様子で、冷たい視線をルーフェンに向けた。

 ルーフェンは、自分の血で染まった掌を握りこみ、胸元を押さえて立ち上がろうとした。
しかし、止まぬ激痛が全身を突き抜け、再び咳き込むと、口元を覆った指の間から、ぼたぼたと鮮血が落ちる。

 エイリーンは、退屈そうに瀕死状態のルーフェンを眺めていたが、しばらくして、小さく息を吐くと、すっと手をかざした。

「汝、調和と精緻を司る地獄の総裁よ。従順として求めに応じ、可視の姿となれ……。──ブエル」

 エイリーンの詠唱に合わせて、五芒星の描かれた魔法陣が、ルーフェンの周りに浮かび上がる。
魔法陣は、眩い光を放ち、ルーフェンをゆっくりと包み込むと、ルーフェンの全身の損傷は、みるみる治癒されていった。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.286 )
日時: 2017/06/07 23:37
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 妖気が消え、全身を蝕む激痛に解放された後でも、ルーフェンは、すぐには動けなかった。
うずくまって、荒い呼吸を繰り返しながら、強い目眩に耐えていたが、やがて、木を支えによろよろと立ち上がると、弱々しくエイリーンを睨んだ。

「……っは、勘弁、してくださいよ。貴方達と違って、こっちは、生身なんですから……」

 げほっと咳をしながら、掠れた声で言う。
エイリーンは、不愉快そうに目を細めて、ルーフェンを見つめ返した。

「ならば、その無作法な口を閉じろ、小童。思い上がるなよ、下等な人間ごときが」

「…………」

 凄惨な目付きで言われて、思わずルーフェンは黙りこむ。
だが、微かに息を吐くと、困ったように首を振って、小さく肩をすくめた。

「……別に。思い上がってなんて、いませんよ。現に、ここまで約束通り、ちゃんと事を進めてるでしょう? 心配しなくても、今後も上手くやります。ミストリアの次期召喚師一人くらい、隠して生かすくらい、造作もない。……幸い、俺の周りにいるのは、それを優しさから来る行動だと信じて疑わない、馬鹿がほとんどですからね」

 エイリーンは、はっとほくそ笑んだ。

「……その言葉、あの獣人混じりの小娘や、リオット族の者達が聞けば、どのような顔をするのであろうな。サーフェリアの真の売国奴が、お前であると知って、屈辱に顔を歪ませる奴等を見るのも、また一興やもしれぬ」

「……悪趣味なことで」

 そう呟いたルーフェンに、エイリーンは、面白そうに唇を歪めた。

「お前にだけは、言われたくないのう。我は長く生きてきたが、自らの国を売る召喚師など、お前が初めてじゃ」

「……そりゃ、どうも」

 ため息混じりに返事をして、ルーフェンは、血で濡れた袖を鬱陶しそうに捲る。

「まあ俺は、サーフェリアなんて、昔から大嫌いですからね。ツインテルグを滅ぼすという貴方の策略に協力することで、召喚師という立場から解放されるなら、これは、俺にとっても損な話じゃない。だから、安心していて下さいよ。サーフェリアの生温い連中を騙して、陥れるくらい、なんの躊躇いもなくやれますから」

 エイリーンは、ルーフェンの言葉を黙って聞いていたが、やがて、ふっと笑うと、哀れむような目でルーフェンを見た。

「人間は、残酷な種族だな」

 一瞬、目を伏せたルーフェンは、そのままエイリーンから視線を外す。

「……はは、何を今更。それに、貴方が言ったのでしょう?」

 そして、頭だけ振り返り、ルーフェンは、薄い笑みを浮かべた。

「──騙される方が、悪いんだってね」



To be continued....

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編) ( No.287 )
日時: 2017/06/09 21:30
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


†第五章†──回帰せし運命
第一話『眩惑』


 サーフェリアでの暮らしは、ユーリッドとファフリにとって、とにかく目新しい発見に満ちたものであった。
まず、年中温暖な気候のミストリアに対し、サーフェリアには四季があるのだ。

 ルーフェンの家で暮らし始めた頃は、青々と繁っていた山の木々も、秋が深まり、冬の足音が近づいてきた今では、すっかり葉を落として、乾いた幹や枝がむき出しになっている。

 初めは、慣れない寒さに戸惑っていた二人だったが、季節によって変わる食べ物や、冬特有の澄んだ空気など、未知のものに触れていく内に、ミストリアとは違う生活様式を楽しむようになっていた。
特に、雪がちらついた日には、ユーリッドもファフリも、城下で遊ぶ子供たち以上に興奮していたものである。
ミストリアでは、雪なんて数十年に一度お目にかかれるか、かかれないかの奇跡なんだと、ユーリッドは力説したが、そのあまりのはしゃぎっぷりには、トワリスも苦笑するしかなかった。

 トワリスは、時折シュベルテに戻ることがあったが、やはり心配だというので、ユーリッドたちと共にルーフェンの家で暮らしていた。
だが、その心配とは裏腹に、三人は恐ろしいくらいに穏やかな日々を過ごしていた。

 もちろん、ユーリッドもファフリも、自分達が置かれている立場や、ミストリアで起きたことを忘れたわけではない。
このままサーフェリアで、ずっと安穏と暮らしているわけにもいかないことだって、十分に分かっている。
しかし、それでも、追っ手に襲われることのないサーフェリアでの生活に慣れていく内に、『自分達の今後についての話』が、自然と口から出なくなってしまっていた。

 そんな暮らしの中で、少しずつ変化が起き始めたのは、ルーフェンの家に移り住んで四月が経った頃だった。
ファフリが、体調を崩したのである。

 最初は、生まれて初めて冬の寒さを経験し、風邪を引いただけなのかと思っていたが、かれこれ、一月は寝込んでいる。
ユーリッドもトワリスも、流石に不自然だと感じ始めていた。

 加えてファフリは、魂が抜けてしまったかのように、ぼんやりとすることが多くなった。
サーフェリアに来てから、一人で物思いに耽っていたり、何かを思い悩んでいるような姿を見せることが多くなっていたが、それとは違う。
本当に、人形のように放心して、一日中座り込んだまま動かないこともあるのだ。

 かといって、サーフェリアの医術師にファフリを診せるわけにもいかないし、そもそも、熱があるとか、痛む場所があるとか、具体的な症状は出ていないのだ。
ユーリッドもトワリスも、打つ手はなく、ただファフリを見守ることしか出来なかった。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.288 )
日時: 2017/06/11 21:21
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 その日も、朝からファフリは、寝台から起きてこなかった。
日によっては、普通に起床して、朝食を食べながら会話する時もあるのだが、徐々にそういった日も減ってきている気がする。

 眠り込むファフリの額に手を当てて、ユーリッドは、細くため息をついた。

「熱は、ないな。……これ、やっぱり悪魔とかの影響だと思うか?」

 問いかけられて、トワリスは首を振った。

「わからない。でも、そうとしか考えられないよね。ルーフェンさんに、近々相談できればいいんだけど……」

「……ああ」

 ユーリッドが頷いて、微かに目を伏せる。
その横顔は、暗く沈んでいて、少しやつれたようにも見えた。

 ファフリの様子がおかしくなって以来、ユーリッドも、思い詰めたような顔をすることが増えた。
トワリスが話しかければ、思い出したように笑顔になって答えるが、夜もあまり寝ていないらしく、その空元気も、見ている方が痛々しい。

 一時的とはいえ、ミストリアの追っ手から解放され、サーフェリアの生活を楽しそうに送っていたのに。
少し前まで見られた、ユーリッドとファフリの笑顔が、みるみる消えてなくなってしまったのは、トワリスにとっても辛いことだった。

「とにかく、ここで二人してぼんやりしてても仕方ない。私は朝食を作ってくるから、ユーリッドはファフリをみてて」

「……悪い、ありがとう」

 ユーリッドが礼を言うと、トワリスは少し寂しそうに笑って、部屋を出ていった。

 残されたユーリッドは、隣部屋から聞こえてくる包丁の小気味良い音を聞きながら、ファフリの白い寝顔をじっと見つめていた。

 こうして黙っていると、ミストリアでの出来事が、次々と頭に甦ってくる。
ミストリア兵団を脱退し、ファフリを守ろうと決めた時のこと。
刺客に襲われ、目の前でアドラを殺されたこと。
そしてファフリが、召喚術を用いて、狼たちを殲滅させたこと──。

 何度も死線をくぐり抜け、トワリスと出会い、ハイドットのことやミストリアの悪政まで目の当たりにしてきた。
全てが悪いことばかりだったわけじゃない。
しかし、そのどれもが、自分の心を深く抉り、鮮烈な痛みとして記憶に止まっている。

(……全部、覚えてる。忘れちゃいけない。……だけど……)

──だけど、思い出して考えたところで、これからどうすれば良いのかが、分からない。
ミストリアに戻れば、また追っ手に襲われ、いずれは捕らえられ、国王リークスに殺されてしまうだろう。
だが、いつまでもこうして、サーフェリアに居座っているわけにもいかない。

 そんな、居場所もない自分達に、一体何ができるというのか。

 ユーリッドは、不意に熱くなった目を閉じて、ただじっとしていた。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.289 )
日時: 2017/06/13 22:26
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 その時、ふと寝台のきしむ音がしたかと思うと、ファフリが唸って、ゆっくりと目を開けた。

「ファフリ!」

 慌てて立ち上がって、ファフリの顔を覗き込むと、ファフリは虚ろな目で小さく呟いた。

「ユーリッド……もう、朝?」

 ユーリッドは、ほっと胸を撫で下ろすと、肩をすくめた。

「朝どころか、昼近いよ。どうだ、具合が悪いところとか、ないか?」

 ファフリは、緩慢な動きで首を横に振ると、寝台から起き上がった。

「……夢を、見てたの」

「夢?」

 ユーリッドが首を傾げて、聞き返す。
するとファフリは、ふわりと笑って頷いた。

「……うん。すごく、幸せな夢。……もう少し、見ていたかったな」

 ファフリの穏やかな顔に、ほっとしつつも、ユーリッドは困ったように言った。

「これ以上寝ようなんて、やめてくれよ。俺、ファフリがもう目覚めないんじゃないかって、毎回心配してるんだからな」

「…………」

 ファフリは、まだどこか意識がはっきりしない様子である。
ユーリッドは、ファフリの手を握ると、隣の部屋を示した。

「とりあえず、朝御飯食べようぜ。今、トワリスが作ってくれてるんだ」

 そう言って手を引いても、ファフリは、立ち上がらなかった。
そして、ユーリッドを見上げると、こてんと首を傾げた。

「トワリスって、なに……?」

「え……?」

 ユーリッドの胸に、ぞくりとしたものが走る。
この感覚には、覚えがあった。

(そうだ……確か、ミストリアの渓流で襲われた時も……。ファフリは、悪魔に乗っ取られてる時の記憶がなかった)

 ユーリッドは、ぱっと手を離すと、ファフリの方を睨んだ。

「お前……カイムか……?」

 緊張した声音で、強く問いかける。
しかしファフリは、混乱した様子で、ふるふると首を振った。

「ユーリッド、何言ってるの……? カイムって、なんのこと?」

「なんのこと、って……」

 まさか、カイムのことまで忘れているのか。
ファフリは、悪魔に意識を乗っ取られているわけじゃないのだろうか。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.290 )
日時: 2017/06/15 22:25
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 様々な疑問が、頭に渦巻いて、ユーリッドの思考を侵食していく。
ユーリッドは、怪訝そうにファフリを見つめながら、戸惑ったように言った。

「お前、悪魔じゃないのか……? 本当に、ファフリなのか? だったら、なんでトワリスやカイムのこと忘れて……」

 ファフリは、何も答えず、寝台の上で身を縮めている。
まるで、何かに怯えているように、その身体はかたかたと震えていた。

「やめて……忘れたいの。思い出したく、ないの……」

 そううわ言のように呟きながら、ファフリが手で耳をふさぎ、首を振る。
その手──袖口からのぞく皮膚が、黒い鱗のように変色しているのを見て、ユーリッドはぎょっとした。

(あれは、悪魔の……!)

 直接説明されたことはないが、前にミストリアで、トワリスとファフリの会話を聞いてしまったとき、確かにファフリが言っていた。


──……日に日に、広がっていってるの……。多分、悪魔の皮膚だと思うわ……。

──これが肌を全て覆ったら、きっと私も死ぬのよ。悪魔に、心も体も喰い尽くされて……。私には、それを抑えられる力も理由も、ないもの。


 ユーリッドは思わず、震えているファフリの両肩に、手を置いた。

「ファフリ! おい、ファフリ! しっかりしろ!」

 瞬間、ファフリの全身が、どす黒いもやに包まれる。
すると、ファフリに触れていた手に、電撃に貫かれたような痛みが走って、ユーリッドは思わず後ずさった。

「ユーリッド?」

 騒ぎに気づいたトワリスが、扉を開けて部屋に入ってくる。
そして、異様な光景──寝台の上で黒いもやに包まれ、震えているファフリを見ると、トワリスは息を飲んだ。

「なにこれ……一体どうしたのさ!」

「わ、わからない! ファフリが起きたと思ったら、急に、こうなって……!」

 未だ痺れたように痛む両手をおさえながら、ユーリッドが答える。
同時に、あることに気づいて、ユーリッドの全身にはっと緊張が走った。
よく見れば、縮こまって震えているファフリの身体が、みるみる黒く変色していっているのだ。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.291 )
日時: 2017/06/17 20:10
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 いてもたってもいられず、ユーリッドは、再びファフリに手を伸ばした。

「────っ!」

 鋭い痺れが、手から全身に広がり、次いで、炙られているような熱さが襲ってくる。
まるで、灼熱の業火に、直接手を突っ込んでしまっているかのようだ。

「……ファフリ……っ!」

 それでも手を離さず、歯を食い縛ると、ユーリッドは、ファフリの華奢な身体を無理矢理抱き込んだ。

「ファフリ、落ち着け……!」

 もはや、ちゃんと声として出ていたかも分からない。
全身を蝕む黒い炎に焼き尽くされて、息を吸うことすら、ままならなかった。

「ユーリッド! ファフリから離れて!」

 黒い炎が危険であると察したのだろう。
トワリスが、鋭く叫ぶ。
しかしユーリッドは、ファフリを抱いたまま、頑なに離れようとしなかった。

 咄嗟に、トワリスもユーリッドに手を伸ばしたが、黒い炎から発せられるあまりの熱気に、近づくことができない。
周囲の寝台や壁が燃えていないことから、あの黒い炎は、幻の類いなのかもしれないと思ったが、その解除方法も、二人を助け出す方法も、トワリスには思い付かなかった。

「このままじゃ、あんたまで危ないよ! ユーリッド!」

 熱さに目を細めながらも、トワリスが再び叫ぶ。
しかしユーリッドには、もうその声すら聞こえていなかった。

 焼かれる内に、全身の感覚もなくなってきて、次第に、視界すら真っ暗になってくる。
もはや、ちゃんとファフリを抱いているのかすら、分からない。

 しかし、そうして、ただただ身悶えするほどの苦しさに耐えていると、不意に、どこからか笛のような音が聞こえてきた。
それは、歌うように美しい旋律を奏でながら、恐怖と焦りでささくれていたユーリッドの心の表面を、緩やかに溶かしていく。

 同時に、強張っていた全身からも力も抜け、いつの間にか、ユーリッドを蝕む苦しみは、何もなくなっていた。

(……駄目、だ……ファフリを、離しちゃ……)

 そう思うのに、全身に力が入らず、だんだんと思考力も奪われていく。
気づけば、周囲の景色も見えなくなって、ユーリッドは、どこか暖かい空間にふわふわと浮いているような感覚に陥った。

(…………)

 優しい歌声を聴きながら、まるで真綿に包まれているような心地よさを感じて、ユーリッドは、ゆっくりと意識を手放した。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.292 )
日時: 2017/06/19 20:00
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


──リッド! ユーリッド!


 誰かが、名前を呼んでいる。


──おい、ユーリッド……!


 その、どこか懐かしい呼び声に、意識を引きずりあげられて、ユーリッドは、はっと目を開けた。

「おい、ユーリッド! ぼーっとして、どうしたんだ? 食事中だぞ」

「え……?」

 暖かい日だまりのような空間から、一気に呼び起こされて、頭が覚醒する。
同時に、手に握っていた何かがぽろんとこぼれ落ちて、ユーリッドは、咄嗟に視線を下に動かした。

「…………」

 からん、と音を立てて床に落ちたのは、小さな木匙(きさじ)であった。
何故匙なんか持っていたのだろうと、目線をあげると、目の前には、ほのかに湯気の立ち上る雑炊が置いてある。
自分はどうやら、椅子に座って、この雑炊を食べていたらしい。

(ここは……どこだ……?)

 状況を把握するため、周囲に頭を巡らすと、今ユーリッドがいるのは、木造建築の一室のようだった。
朝日の差し込む大きな窓からは、そよそよと涼しい風が入ってきて、後ろにある暖炉では、燠(おき)がぱちぱちと音を立てながら、赤く光っている。

 暖炉にかかった両手鍋には、自分が食べているものと同じであろう雑炊が、くつくつと煮えており、そこから立ち上る良い香りが、部屋中に充満していた。

 自分は、いつの間にこんなところに来たのか。
そもそも、部屋で食事を始めた記憶なんてない。

 未だ事態が飲み込めず、ユーリッドはただ、このどこか見覚えのある部屋を、呆然と見渡していた。

「なんだ、どうしたってんだユーリッド? まだ寝惚けてるのか?」

 呆れたような笑いが聞こえてきて、その声の主が、拾った木匙を軽くテーブル掛けで拭き、ユーリッドに差し出してくる。
その人物──がたいの良い人狼の男を見て、ユーリッドの心臓は、大きく跳ねた。

「……と、父さん……?」

 呟いて、目を大きく見開く。
自分に話しかけてきていたのは、かつて、ミストリア兵団の団長として名を馳せた、父マリオスであったのだ。

「なっ、なんで……父さん……っ!」

 ユーリッドは、青ざめた顔で後ずさると、思わず席から立ち上がった。

 父、マリオスは、ユーリッドが十歳のときに、隣のスヴェトランとの争いに出兵して、殉職したのだ。
はっきりと、覚えている。
その後に、殉職したマリオスの地位を継いで、アドラがミストリア兵団の団長に任命されたはずだ。

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.293 )
日時: 2017/06/21 18:33
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 ユーリッドは、目の前にいるマリオスを、強く睨み付けた。

「お前、誰だ! 父さんは、七年前に死んだはずだ……!」

 鋭い声で言って、身構える。
しかしマリオスは、ぽかんとした表情でユーリッドを見つめると、やがて、げらげらと笑い出した。

「だっ、ははは……っ! 死んだ? 俺が? 勘弁してくれよ、ユーリッド。冗談にしちゃあ、ちときついぜ」

 そのあまりにも豪快な笑い声に、思わず拍子抜けする。
だが、すぐに気を引き締めると、ユーリッドは再びマリオスを睨んだ。

 自分は、冗談を言っているつもりも、ふざけているつもりもない。
マリオスは、確かに死んだのだ。
自分で墓標まで立てたのだから、間違いはない。

 そんなユーリッドの態度に、嘘を言っているつもりではないことを悟ったのだろう。
先程まで楽しげに笑い飛ばしていたマリオスは、途端に心配そうな顔になると、席から立って、ユーリッドの額に手を当てた。

「熱は……ねえみてぇだが……。なんだ、どうした? 兵団の仕事がきつくて、疲れてんのか?」

「へ、いだん……?」

 続いて出た、兵団という言葉に、ますます頭が混乱する。
ユーリッドは、マリオスの手を思いっきり弾くと、更に一歩下がって叫んだ。

「一体、何のことを言ってるんだ! 俺は兵団なんて、もうとっくに脱退して……!」

 そこまで言って、ユーリッドは、言葉をつまらせた。
次の言葉が、どうしても出てこないのだ。

(脱退、して……? 兵団を脱退して、俺は何をしてたんだ……?)

 自分は一体、今まで何をしていたのか。
確実に今の状況がおかしいと思っているのに、どうしてそう思っているのかが分からない。
何故、目前に存在している父を、死んだはずだと主張しているのか。

 頭に浮かんでくる疑問に、もはや思考する力もなくなっていく。
そうして黙り込んでいると、マリオスは、困ったように息を吐いた。

「何のこと言ってるんだって、そりゃあ、こっちの台詞だぞ。脱退したって……お前、この前ようやく十歳になって、兵団に見習いとして入団したばっかじゃねえか」

「……は? 十歳、って……」

 反論する気力もなく、ユーリッドは、慌てて近くの水甕(みずがめ)を覗きこんだ。
そして、溜まった水を水鏡に、自分の姿を見て、目を疑った。
マリオスの言う通り、自分が十歳の頃の容姿になっていたからだ。

「そんな……俺は、今年十七で……」

 信じられない、といった様子で、一回り以上小さくなった、己の両手を見つめる。

 この場所に来る以前、一体どこで何をしていたのかは、思い出せない。
だが、今こうして父マリオスと過ごしているこの状況は、やはり何かが不自然だ。
ここは、お前の居場所じゃないのだと、頭の中で誰かが警鐘が鳴っているようだった。

 その時、家の外から、カーンカーンと、甲高い鐘の音が聞こえてきた。
それを聞いた途端、困って立ち尽くしていたマリオスが、血相を変えて、食卓の傍に置いてあった荷物を背負う。

「まずい! もう登城の刻だ! 急ぐぞ、ユーリッド!」

「えっ、ちょっ!?」

 何かを言う暇もなく、マリオスがユーリッドを担いで、食卓もそのままに家を飛び出す。
十歳の身体では、大柄な父に抵抗できるはずもなく、ユーリッドは、強制的にミストリア城へ連行されたのだった。

 

Re: 〜闇の系譜〜(ミストリア編)【奇数日更新】 ( No.294 )
日時: 2017/06/22 08:54
名前: 北大路 さくら ◆8udsPUAZG2
参照: http://www.kakiko.info/bbs_talk/read.cgi?no



フェイフェイダヨ−

北大路さくらダヨ−

え?なんか文句あんの?勝手にてめ-の小学生以下の小説に書いてもいいじゃん

文句なら映像板で待ってるぞ

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