複雑・ファジー小説
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- フショウラブノウ
- 日時: 2014/01/27 23:03
- 名前: 梃子 ◆qDzlvlEahQ (ID: Uk5rHr53)
≪:prologue≫
———"恥ノ多イ生涯ヲ送ッテ来マシタ。"
太宰治の記した、『人間失格・第一の手記』の冒頭部分である。
今日も、僕は鏡の前で呆然と立ち尽くす。
どうして僕だけ。僕だけ。
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
(どうしてなんだろう ?)
ドス赤い瞳の眼球は、ぎょろりと正面を捉えている。
鼻はぼこっと窪み、ぐにゃりとひん曲がった血色の悪い唇は、まるで肉ヒダのようだ。
吸血鬼のように尖った犬歯と耳先、浅黒い皮膚、痩せてこけた頬。
幸い四肢はあり、身長も…まあ高校生ならこんなもんだという位にはある。
体重は平均を下回っているものの、骨と皮だけって程ではない。髪の毛もちゃんと生えている。
他の皆と同じように黒くて、ちょっとくせの入った髪の毛。
だからこそなぜ顔だけがこんなにも醜く生まれてしまったのか、両親にさえわからなかった。
そんな低劣な僕だけれど、唯一つだけ、言わせて欲しい。
「僕は 確かに人間でした」
******
皆様おはようございます、こんにちは、こんばんは。
梃子です。
タイトルは漢字で「負傷恋愛脳」と書きます。
ロシア語で「どうでもいいよ」という意味の「フショー・ラヴノー」から取りました(笑)
気まぐれ更新ですが宜しくお願いします♪
①たまーにえっろーい描写が入ります
②グロも普通に常駐してます注意!(16歳以上閲覧推奨)
④コメントくれるとめっちゃ喜びます*^^*
⑤最低限のマナーを守ってお過ごしください。
- Re: -負傷恋愛脳-【親記事必読】 ( No.1 )
- 日時: 2014/01/27 23:52
- 名前: 梃子 ◆qDzlvlEahQ (ID: Uk5rHr53)
#1
少し、昔話をしてもいいかな。
僕には、"親"という概念が無かった。
この世に存在したその瞬間から、僕はひとりぼっちだった。
これは後々聞いた話だけれども。
僕の実母は風俗嬢で、当時彼氏だった父親との間に偶然出来た子が僕だったらしい。
つまり二人は結婚していなかったのだ。
風俗で働く女にとって、子供は邪魔者以外の何でもなかった。
そして———
生まれて翌日。
僕は早々に捨てられた。
古いゆりかごに、申し訳程度の毛布と、小さな手紙を添えて。
『———豹くん!!』
一番古い記憶は5歳の頃。
同じ孤児院の子に、登り木から突き落とされた時の事。
『どうしたの!?こんなに傷だらけにして、』
『…』
『言わないと分からないでしょう?』
その先生は"ナッチャン"と呼ばれていた。
ナッチャンは孤児院の職員の中でも、特に人気者だった。
穏やかで優しくて、元気いっぱいなナッチャン。
僕もそんな彼女が大好きだったし、実の母親のように彼女を慕っていた。
そんなナッチャンが、こんなに動揺している。
強く掴まれた両肩が痛い。
僕自身も困惑していると、彼女は急に悲しそうな顔をして言った。
『…またお友達にいじめられたのね』
そして、彼女はそっと僕を抱きしめた。
両親から与えられることは無かった、抱擁という名の、その温もり。
ナッチャンに抱きしめられていると、ひどく安心した。
何を言っても、許されるような気がした。
『しかたないよ。ぼくはバケモノだから』
そう呟いた途端。
パチンと乾燥音が響き、右頬に感じる鈍い痛み。
咄嗟の事に唖然となり、僕はナッチャンを無心で見つめる。
…泣いていた。
ナッチャンはぽろぽろと雫を頬に伝らせ、静かに泣いていた。
混乱と痛みがごっちゃになって、僕の目からも大粒の涙がこぼれ始める。
「…っ!」
終いにはうああああ、と大声で泣き出した僕を見て、急にナッチャンは気を取り戻したように雫をゴシゴシと拭った。
そして無言で立ち上がり、廊下の先へと消えていく。
わけもわからず僕がわあわあ泣き続けていると、ナッチャンは数秒もたたないうちに戻ってきた。
後ろ手に、何かを隠して。
- Re: -負傷恋愛脳-【親記事必読】 ( No.2 )
- 日時: 2014/01/29 20:49
- 名前: 梃子 ◆qDzlvlEahQ (ID: Uk5rHr53)
『…さっきはごめんね。これ、豹くんにプレゼント』
突然顔面に何かを被せられ、軽くパニックになる。
光は遮断され、目に合わせ開けられた小さな穴からは、ニコニコと笑うナッチャンが見えた。
『うちの家系に代々伝わる、妖狐の仮面だよ』
『ヨーコ?』
『豹くんにはちょっと難しいかしら』
「ふーん」とだけ呟き、ずしりと重いそれに触れる。
ひんやりとしていて、近所の祭りで買ってもらうモノとは幾分違う感触。
『これ、仮面?ぼくにくれるの?』
やや重たくなった頭部をもたげ、ナッチャンに尋ねる。
『ええ。それがあれば、これからは皆と一緒に遊べるわよ』
『ほんと!?』
もうこれからは
クツを隠されたり泥団子を食べさせられたり
階段から突き落とされたりドッジボールのボール役になったり
頭から汚水をかけられたり服を便器に突っ込まれたり
ご飯にウジ虫を混ぜられたりしなくてもいいんだ!
『もう誰も豹くんの事オバケなんて言わないわ。だって、こんなステキな仮面をつけてるんだもの』
『ぼく、せいぎのヒーローみたい?』
『うふふ。ヒーローになるなら、かっこいいマントとクツも買わなくちゃね』
『やったぁ!』
『…だけどね、豹くん』
すっかり浮き足立った僕をなだめるように、ナッチャンは言う。
『これから、その仮面はずっと着けてなきゃダメよ』
『? どーして?』
すると、途端に言いにくそうな表情を浮かべるナッチャン。
『…その仮面は、今日から豹くんのもうひとつの"顔"になってくれるわ』
『そんなの嘘だー!!だって僕の顔は、これだけだもの!』
眼前の仮面を取っ払い、ずいっと顔をナッチャンに近づけてみせる。
醜く汚い…妖魔のような、その顔を。
他の子にすれば、間違いなく悲鳴をあげられるであろう。
だけど、ナッチャンは違った。
『そんな事ない』
『…ナッチャン?』
『豹くん。人はね、何枚…いえ、何千何万もの仮面を着けて生きているのよ』
『ナッチャンも?』
『ええ。私だって"先生"の仮面と、"部下"の仮面と、"女"としての仮面を持っているわ』
細かいところまでは数えられないけど、とナッチャンが苦笑する。
『だから、豹くん。あなたはラッキーよ』
『???』
ナッチャンが何を喋っているのかわからない。
考えてみれば、まだ生まれて5年余りの子に、こんな哲学的な話など無理があるのだ。
完全思考停止に陥った僕はよたよたとナッチャンから身を離し、そのままステンと座り込む。
ナッチャンは続ける。
『普通の人は私みたいに何枚も仮面を替えるのに比べ、豹くんはそれ一枚で、全ての"顔"が成り立つ。
つらいときも悲しい時も、誰にもそれを悟られずに済む』
『つまり、ぼくは"トクベツ"って事?』
『…そう』
『じゃあ僕はマントとクツなんか無くても、この仮面だけでヒーローになれるね!
だって"トクベツ"だもん!』
『ヒーローは泣いたりしないのよ?とっても強いの』
ナッチャンが僕の涙を優しく、強めに拭ってくれた。
涙の跡が、消えるくらいに。
『だからね、豹ちゃ…』
『ナッチャンも仲間にしてあげるからしんぱいいらないよ!だってコレをくれたもん』
『あーもう……。つまり私が一番言いたい事はね、』
目の前にいるのは、いつもと同じ、穏やかで優しい笑みを浮かべたナッチャン。
大好きな大好きな、ぼくのおかあさん。
『————とってもよく似合ってるよ。豹くん』
…ナッチャンが事故で死んだのは、その1週間後の事である。
- Re: -負傷恋愛脳-【親記事必読】 ( No.3 )
- 日時: 2014/01/26 11:55
- 名前: みーこ. (ID: Ueli3f5k)
初めまして。みーこです。
すんごくおもしろいと思いました!続きが早く読みたいです(〃'▽'〃)
お面…謎です。なっちゃんも謎!
また来るので、更新がんばってください!
- Re: -負傷恋愛脳-【親記事必読】 ( No.4 )
- 日時: 2014/01/27 23:59
- 名前: 梃子 ◆qDzlvlEahQ (ID: Uk5rHr53)
- 参照: http://nanos.jp/shin2517/album/3/1/
コメントありがとうございます♪
まさかこんなに早くコメントが来るとは予想してませんでした(´◇`;
更新まちまちですが頑張りますー☆
ちなみに、お面はこんなイメージで書いてます↑
- Re: フショウラブノウ ( No.5 )
- 日時: 2014/01/29 20:49
- 名前: 梃子 ◆qDzlvlEahQ (ID: Uk5rHr53)
「————————!!」
買出しの帰り、急に突っ込んできたトラックに轢かれたのだ。
運転手の呼気からは、多量のアルコールが検出されたという。
何も言わずに、とつぜんいなくなってしまった。
ただひとり、スーパーの袋を握り締めて、トラックの下敷きになったなっちゃん。
僕を優しく抱きしめてくれた腕は、めちゃくちゃな方向に折れ曲がっていた。
ただ一人僕を見つめてくれた目は、あるべき場所には無かった。
僕の名前を呼んでくれた喉は掻き潰され、ただの肉塊になっていた。
(ああ、ぼくは)
けたたましく響くサイレン。
アスファルトに飛び散った血は、僕のと同じ色だ。
駆けつけた院長先生が、大声で泣き崩れる。
『古賀夏美サン、コガナツミサン』
僕の知らない人の名前を、何度も何度も呼んでいる。
(なっちゃんのほんとうのなまえも、しらなかったんだなあ)
涙は、出なかった。
***
それからというものの。
手の平を返したように、僕への虐めは無くなっていった。
…どころか。
僕を中心に人が、話題が、集まり始めたのだ。
孤児達は皆、揃えて口にする。
「そんなカッケー仮面見たことない」、と。
間違いなくこの仮面には何か力がある…そう思える程の、変化だった。
(ありがとうナッチャン、ナッチャンの、死は、無駄死に、じゃなかったよ)
ふと、仮面の縁をなぞってみる。
最近少しだけ顔に馴染んできた、それ。
否、もうこれは、ただの仮面じゃない。
ナッチャンがくれた、おかあさんがくれた、僕の"カラダ"の一部だ。
————ねえ、なっちゃん。
(あなたも僕と、同じだったんでしょ?)
ナッチャンの笑顔が、脳裏でちらついた。
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