複雑・ファジー小説
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- 紅のアクア 1章第1話Part5執筆中 キャラ募集
- 日時: 2015/06/20 21:41
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=92
「プロローグ」
2016年2月14日。
日本はバレンタインを迎えていた。当然ながら、恐怖の大王が空から降ってくるなどという類の予言は、その日に存在せず。国民の大くは当たり前のように、その甘い一時を楽しんでいる。恋人たちが愛をささやき合うには最適なこのイベント。
告白をして結婚を決める者たちも多いのだろうこの時が、人類最悪の時間となるとは誰も思わないだろう。そう、崩壊は突然に起るのだ。漫画や映画のように伏線など有りはしない。世界は人々に優しくなどないのだから。
「あっ、雪。雪が降ってきたよぉ。変わった色ぉ」
イルミネーションや雪だるまなどで彩られた木々が並ぶ街道を歩く男女。制服は着ていないが両方高校生くらいだろうか。10センチ程度の身長差がちょうど良い雰囲気をかもし出すお似合いの2人だ。その片割れ、女子のほうが空を指さして言う。男は空を見上げ、その雪を見て瞠目した。なぜならその雪は赤かったから。
「おいおい、赤い雪なんて」
そう言って彼女のほうを振り向くとすでに女はそこには存在せず、衣服だけが路上に落ちていた。辺りを見渡せばそこら中衣服だらけで。男は頭を抱え叫んだ。
「どういうことだ!? ユウ……ユウッ! 一体何がどうなってやがるんだあぁぁぁっ」
「おっ、適正者発見」
甘い女の声が男の耳元でささやく。青年は相手を確認しようとするが、体中からくる寒気で動くことができずそれも叶わない。そしていつの間にか全身から力が抜けていくのを感じ、気づくと冷たい路面に横たわっていた。
『声が……出ねぇ』
助けを呼ぼうにも声は出せず、指1本動かせない状況下。それでも頭は回転する。今まで体験したことのない異常事態が起っていることを、理解する程度には。
End
第1章第1話へ
————————————
※上の参照からオリキャラ募集スレに飛べます! もしオリキャラを下さるなら、参照のほうのスレに書き込んでくださいませ。また、感想は参照のスレでお願いします。無論、物語が保留中の状態でもコメOKです。
(更新履歴)
第1章第1話
>>1 >>2 >>3 >>5
物語更新毎に更新
(その他)
キャラ紹介や番外編、もらい物の絵など、更新毎に更新
注意事項
・更新は1ヵ月に2回できれば良い方だと思います。遅いのはご了承。
・エロ描写やグロ描写が普通に入ると思います。苦手な方はリターンをば。
・荒しや広告行為はNG。
・コメントは参照のURLのところに書いてください。物語が保留中でも書き込みOKです。
・誤字脱字や文法、矛盾のご指摘や感想などは大歓迎です。
2015年 2月11日 更新開始
- Re: 紅のアクア 1章第1話Part1更新 キャラ募集 ( No.1 )
- 日時: 2015/03/25 17:47
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: g8eYpaXV)
紅のアクア 第1章 月光に消える 第1話「ブラッディバレンタイン」Part1
同日夜8時。それはすぐさまニュースで報道される。血の雪が降ったのは東京千代田区。その駅前通り周辺だった。多くの人々はそのはらりと降り落ちる雪を、その身に受け消滅したという。雪がさえぎれるはずの屋内にいた者達も例外ではない。
消えた瞬間を監視カメラが取っていたのだから、嘘だと頭をふるうことも叶わず。政府は千代田区駅周辺を立ち入り禁止区域と定め、周辺住民に避難を命じた。原因不明の赤い雪。それは国中に恐怖を。
友や家族を失った者たちに喪失感や虚脱感を与え、粛々と彼らの胸中をドリルがごとくえぐり続ける。ある者は間違えじゃないかと関連機関に電話を入れたり、千代田区へと行こうとするが、それはことごとく警察などに止められたらしい。最悪の混乱は何とか抑えられていた。
だがそれは長く続かない。同日日本時間9時。絶望の夜が口を開く。イギリス、ロンドン郊外にて赤い雪が降り始めたのだ。
「ねぇ、お母さん、雪って白い物じゃないの?」
銀髪の無垢な少女が窓の外を見てつぶやく。バレンタインムードに染まりきっていた子供の母が「白くない雪なんてみたことない」と笑いながら言う。そして、その瞬間少女は理解しがたい光景を目にして絶句する。
少女が見た赤い雪。それが家の中にまで侵入してきているのだ。天井を見上げても貫通した様子はなく。少女は不思議そうにしているが、その赤い粒が母親に触れた瞬間、彼女が何事もなかったように消えるのを見て少女はその場に倒れこむ。
「えっ、嘘? 何で……」
思考が追いつかない。少女の常識にはない現象。しかし自分の家族が目の前で唐突に消滅したのは事実で。自分の体に雪が何度も付着したというのに、消えていないことなど考えもせず彼女は走り出す。
「はっはっ、お父さんっ、お父さん!」
父もすでに帰ってきている。今日は皆でバレンタインを楽しんでいたから。消えてないでくれ、そう願って父の部屋を覗く。
「あ゛っあぁっ」
父の部屋は無音で。ただ椅子の上には父がいつも着ている服だけが落ちていた。少女は瞳一杯に涙をたたえながら叫び声を上げる。
「いやアァァァァァああぁぁアアアアアアァああああああぁぁぁああぁぁぁああぁぁあああぁっ」
下手をすれば近所中に響き渡るだろう声。普通なら誰かしらは驚いて、彼女の家を覗くだろう。しかし彼女の声に反応する者は誰一人いなくて。叫びつかれた少女はがくりと倒れ込む。かすれ気味の高い声が反響する。
「お父さん、お母さん、フェリを置いて行かないでっ。1人じゃ、あたし」
絶望に涙を流しながら、少女は嗚咽(おえつ)をもらす。そんな床に倒れこみ泣きしゃくる少女の耳元で渋い男性の声がとどく。
「おや、これはずいぶんと可愛らしいお嬢さんだ。どうやら貴女は合格らしい。では、失礼」
目を向けるとそこには白いスーツをビシッと着こなした、50台程度の小柄な男が立っていた。余裕にあふれた表情と月夜に輝く銀髪が、少女に恐怖を呼び起こさせる。フェリは表情をゆがめながら、差し伸べられた男の手をはねのけて叫ぶ。
「やっ! 何をするのっ!?」
「そう、声を上げないでくれたまえ。別に今すぐ君がどうなるというわけでも……」
親が唐突に意味も分からず消えたのだ。そして彼女はそれを認識しているのだから予想通りの反応ではあるのだが、やはり気分の良いものではない。男は額に手をあて大げさに顔を左右させ嘆く。
「あーあー、ガキ相手にいつまで遊んでんだロートル? 説明だのしねぇでさっさと力を行使しちまえば良いだろうがっ」
そんな初老の男にかけられる声。落ち着いた渋い彼の声とはまるで違う高めの響く男性のものだ。言っている内容から察するに、どうやら相当に気が短い男らしい。何がどうなっているのか分らず、ただフェリは沈黙する。
「まったく君は相変わらず狼のように、野卑(やひ)な態度だね。偉大なる我らが王の息子だというのに。気品のかけらもないのは、いかがなものかな? ねぇ、ワルキューレ君」
白スーツの男は突然の来訪に驚いた様子もなく、声のした方向をむくとまた頭をふるいながらため息混じりに言う。それと同時に何もなかった空間が突然ぐにゃりと湾曲しそこから手が伸びる。何の比喩でもなく本当にいきなり手が現れたのだ。最早フェリは黙り込むしかない。
強引に別の世界から現れたワルキューレと呼ばれた男。おそらくは先に現れた小柄な男と同類なのだろう。夕焼けのように赤い長髪を乱雑に後ろで結んだ男はどこからどこまで派手な印象だ。服は派手な赤色で体中にシルバーアクセサリを身につけ、ノースリーブから出るたくましい二の腕にはタトゥーまでしてある。
全てにおいて鋭角的で恐怖を感じさせる顔つきもあいまって、10に満たない少女にとっては悪魔のようだ。そんなワルキューレはただでさえ狂犬のような目つきをさらに細めて白スーツの男を睥睨。手ぐすねをひきながら啖呵(たんか)をきった。
「親父と俺を比べるなって何度言ったんだ。おい、ジョニー・バレンタインさんよぉ。なめくさった態度とってると今ここで灰にするぞ?」
どうやら偉大なる父に大きな重圧と脅威を感じているらしい野卑な男は、老父のフルネームを憎憎しげに口にし、ひときわ目立つ骸骨の彫像がほどこされた指輪を指から外す。瞬間、大地が鳴動しワルキューレの体が赤い燐光(りんこう)を放つ。
しかしそれと同時に男の体は吹き飛ぶ。フェリの家はその衝撃で屋根と壁が全て倒壊するが、どうやら白スーツの男ジョニーに助けられたことで無傷らしい。意味が分らないことばかり起こっているが、少女にも分ることはある。どうやら彼らは普通の人間ではないということ。
「はーぃ、バーカッ! 速くしろとか発破掛けにきといて、何計画遅らせるようなことしてるのかしらねぇ?」
また、新しい声。今回は音程の高さから察するに女性のようだ。少し高めの甘い感じ。さっきまでいた母親に似てる気がして、希望を胸に声のした方向を振りむくフェリ。しかし当然ながらそこには母親とはまったくの別人が立っていた。
月明かりの中でも目立つ白衣を着込んだ、癖がある青のショートボブをした色白のグラマラスな凛とした印象の美女。暗くて表情は良く分らないが口調や態度から呆れを感じているのは確かなようだ。計画という不穏な言葉が聞こえたが無視したい。
壁がなくなって周りの道路などが見えるようになったが、誰一人歩いていないことも気になる。あの雪に触れて他の人々も消えてしまったのだろうかと、フェリは恐怖におののく。そんなことをして彼らは何をしようとしているのか。少女の常識がきしみをあげて壊れていくのが分った。
「おや、アスタルテ女史はもう終わったのかね?」
「えぇ、ジョニー叔父さん、この娘で最後よ」
ジョニーが女性に声を掛ける。それに対してアスタルテと呼ばれた彼女は、何で驚いているのかという風情で投げやりに答えた。
「なっ、なっ……何なのよ貴方たち?」
分らないことが多すぎて不意に声が出てしまう。恐怖は人を沈黙させるが、ある一定をこえると逆に声を出させてしまうものなのだ。いつのまにかフェリの横にはアスタルテが立っている。知的さ愛らしさをかねそなえた20台程度の美女。自分はその年までも生きられないだろうと悟りフェリは目を閉じた。そんな少女に彼女は慈母のような優しさに満ちた声音でささやく。
「信じるかどうかは分らないけど、お嬢さんも吸血鬼って知ってるわよね?」
「絵本とかに出てくる……」
“吸血鬼”
人、特に処女の血を好んで吸う西洋発祥の悪魔。本当にいるなんて信じている人はそうそういないだろう、絵空事(えそらごと)の存在。彼女は自分たちがそれだと言うのだ。本当なら笑うところなのだろうが、自分の置かれている状況、そして彼女たちの異常さを目の当たりにして少女はそれを否定できなかった。
「あら、よく知ってるじゃない。偉いわねぇ。じゃぁ、さようなら」
フェリの首筋にアスタルテの白くて細い指がそえられる。何か呪文めいた言葉を白衣の女性がつぶやくと同時に、少女の体は弛緩し糸が切れたわら人形のように倒れこむ。遠のく意識の中、ワルキューレの高く響く声がとどいた気がする。
「最初からこうしておきゃぁ良かったんだよジジイッ」
最後に聞く台詞がこんなものだなんて、と少女はなげかずにはいられなかった。堕ちていく。どうしようもなく深い黒の中に。意識は混濁し、あらゆる感情が途切れて……
- Re: 紅のアクア 1章第1話Part2更新 キャラ募集 ( No.2 )
- 日時: 2015/06/05 17:35
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
紅のアクア 第1章 月光に消える 第1話「ブラッディバレンタイン」Part2
何一つ装飾品などない、ただひたすらに暗く広い石造りの空間、その中央にある椅子の上。純白のローブをまとった銀髪の、威厳に満ちた老人は何もせず座っていた。物音1つない空間に突然、軋みを上げるような響きが伝わる。四十万の世界でそれはとてもうるさく。
老人は閉じていた瞳を開け、正面にある門を見つめた。唯一の外へ出れる扉の中央には、自らの息子であるワルキューレ・ヴァズノーレンの姿。夕焼色の思慮深い瞳で大老はワルキューレを見つめ、深く低い厳(おごそ)かな声で言い放つ。
「我が息子よ。この計画に不満があるか?」
「あぁん、親父殿。文句がなかったらそもそも話しにこねぇよ」
自分の髪をバリバリとうっとうしそうに掻きながら、ワルキューレは自らの父にして吸血鬼の王ウルガフ・ヴァズノーレンを睨む。感情に満ちたいつもの口調ではなく、厳しい怒りがこもった声で言う。およそ家族中は最悪だろうことが想像できる。
「そうだな」
「で、どうしてだよ。何でこんなまどろっこしいことやってんだ? とっとと暴れてぇって奴が5万といるってのに!」
無用な問答だったかと一瞬肩をすくめるウルガフ。それに対してワルキューレは派手な身振り手振りを加えながら、たたみかけるような口調で問う。彼自身自らの父ウルガフの深遠なる叡智は理解している。だが実際問題、多くの吸血鬼たちが疑問を持っていることだ。
むろん、それは彼にとって口実でしかなく、目の前の父に一泡吹かせてやりたいというのが本音だ。いかな権力者でも多数決の力に耳をかさないわけにはいかない。つまりワルキューレは自らが、眼前の泰然自若たる厳父に総合力で負けていると理解していることになる。
「意外だな。貴様は浮き足立った弱者を、虐殺するのが好みだったか」
「どちらにしろ圧勝は目に見えてるだろうがよ」
冷たく輝く双眸(そうぼう)をわずかに動かし、大老ウルガフは問う。いかに疎遠で不仲とはいえ、むしろだからこそ息子の考えは理解しているつもりだった。しかし目の前にいる男は衝動を抑えられないようだ。
魔の力を軽んじ、科学に頼った人類は現状吸血鬼に損傷をあたえることも不可能だろう。これは長年世界の裏側から人間を見てきた彼らの共通認識。つまり傷を負わされることもなく、自らたちはこの戦いに参加するだろう軍部の者たちを壊滅させれると踏んでいる。
ウルガフは瞑目(めいもく)し深い溜息を吐く。長期的な視点に立っていないドラ息子の短慮に眩暈(めまい)を覚えるといった様子だ。
「はたして、どうかな。今はそうでも遠い未来は違うかも知れぬ。反乱する可能性もない家畜など、飼っていてもつまらぬだろう?」
「…………」
鋭い剣がごとき、閃いたウルガフの言葉。簡潔だがそれは、深慮せねばならぬ道理だった。現状にだけ目をやっていた愚かさを、ワルキューレは嘆く。人類は過去魔法を信奉していた。彼らにその重要性を思い出させれば、人々もそれの研鑽(けんさん)を開始するだろう。
強大なる力を持つ吸血鬼たちは、すべからく戦いを愛す。蹂躙ではない。血で血を洗う肉と骨のぶつかり合いだ。圧倒的戦力差を見せ付けるより、何かしらのデモンストレーションを見せ小さな希望を残すべき。偉大なる王ははるか未来を見据えていた。
気圧されワルキューレは黙りこむ。
————————
『何の音?』
暗闇の中で音が響く。不規則な女性のあえぎ声と、少し高めの抵抗するような男声。そして何かが叩きつけられるような音。小さな光がまぶたをつらぬく。自分が生きていることを感じさせる。だが目を開けたくない。意識が混濁していて、倦怠感が体を支配していて。
しかし徐々に力が戻ってくるのを感じ、少女はおそるおそる目を開けた。ぼやけた視界。ふかふかのベッドに自分は寝そべっているらしい。一体ここはどこなのか、自分はなぜ生きているのか。てっきり食料にでもされてしまうのかと思っていたので、生きているのが不思議だ。
目をこすりながら少女は部屋を見回す。深海のように深い碧眼(へきがん)には、不鮮明ながら気持ち悪くなるような色使いの空間が見えていた。虹色に染められた悪趣味な壁、天井は吹き抜けになっていて青空がのぞく。
そして、周りには赤を基調とした豪奢なベッドが等間隔に計8つ並んでいる。年齢性別さまざまな人々が寝転がっており皆、寝息1つ発さない。そんな中、妙なあえぎ声と不規則に拍手をするような音は続く。のろのろと少女はその方向へと顔を向ける。
「No17! 良いっ、良いよっ! もっと、僕を感じさせてっ!」
「止めろっ! 何なんだっ!? 俺はお前らの玩具(おもちゃ)じゃないんだぞっ」
目に映ったのは闇夜のように黒い髪をした男。それにワンピースをたくし上げ、下半身裸で馬乗りになっている小柄な少女。女が腰を上げると、何か棒状のものが見える。青年と思われる、顔が判然としない彼もまた、下半身は裸のようだ。10歳に満たないフェリはその行為が何なのか分らず、ただ息をのむ。
夕焼けのように鮮やかな真紅の長髪を乱しながら、女は強引に男を責める。声音から10代後半程度と思(おぼ)しき青年は彼女を引き剥がそうと、左手で顔面を殴りつけたが。とてつもない反射速度で赤髪の少女はそれを受け止め、わずかに感情の薄い赤目をゆらす。そして品の良い桜色の唇から舌をちらりと出し、狂獣のような陰険な笑みを浮かべた。
「そんなこと言わないでよぉ、実際気持ち良いだろセックス……」
「ふっ、ふざけるなっ! お前らみたいな悪党にっ」
「屈(くっ)せとは言わないけど、今は様子を見るときじゃないかなぁ? 僕たちは君らに希望を見ているんだからさ」
男声のこぶしを軽くはらうと、肩をすくめて少女は溜息混じりにつぶやく。どうやら彼女は自らの体と技術に、大きな自信があるらしい。誇張するように身振り手振りをするのが、その証拠だろう。しまいには完全にワンピースを脱ぎ捨て、上半身まで裸になり胸を揺らす。
そしてわずかに声を上ずらせながら、抵抗する青年の唇を強引に奪う。男声の口からわずかに血がつたう。どうやら吸血鬼と思わしき女性が彼の口内に歯を立て血を吸ったようだ。ささやかな笑みを浮かべ女は男の口吻から顔を離し、冷淡な口調で子供を諭すようにささやいた。来るべきチャンスがあるというような示唆。
「逃げ、ないと……」
あの女は危険。そう判断したフェリはいまだに倦怠感が支配する体を強引に動かし、ベッドから降りようとするも。それを女は見逃さなかった。5メートル程度あった距離を一瞬で詰め、フェリの耳元に息をかけるように声をかける。
「おっ、22号も目が覚めたみたいねぇ」
「ひっ!」
不可解な化け物に対する死の恐怖が全身をはしり、フェリは体を弛緩(しかん)させ床へと倒れこむ。そして後ろへと後ずさりながら涙を流す。全裸の女はすぐさまフェリの横へと移動し、彼女の唇に自らの指をあてがった。
「大丈夫だよ。リラックスして22号。君は死なないから」
そしてフェリを抱きかかえささやく。便宜上(べんぎじょう)フェリはここで22号と呼ばれているらしい。最初は自分のことだと理解できず周りを見回すフェリ。そんな彼女に全裸の女は“君のことだよ”と教え、さらに言葉をつむぐ。
「君たちはこれから絶望を見る全人類にとっての、砂粒ほどしかない希望になってもらうんだ」
「…………」
女の言葉がフェリは理解できず困惑する。自分が希望とはどういう意味か、人類が絶望するというのはなぜか。もはや何も分らずうつむく。黒髪の青年は女に血を取られてから、死んだか貧血を起こしたかで動かない。他の者たちが起きる様子もなく、とたんに部屋は静かになった。
「やれやれ、まだ黙り込むのは早いんじゃないかな?」
女はつまらなそうに1人愚痴る。そして脱ぎ捨てた青地のワンピースを広い着なおすと、一瞬で部屋から姿を消す。
————————
ただひたすらにまっすぐな装飾もない蛇の腸を思わせるような回廊。青いワンピースを着た赤髪の女は、そこをワインレッドのヒールで歩く。石をハンマーでたたくような、大きな音を鳴らしながら。もう少し男性との性行為を楽しみたかったのだろう。彼女の表情は暗澹(あんたん)としている。
「リール女史か。貴様の部屋にいる者たちは何人が目を覚ましたのだ?」
そんな彼女に後ろから掛けられる声。リールと呼ばれた女性が振り返ると、そこには筋肉質の小柄な老人ジョニーが立っていた。格上の吸血鬼相手とはいえ簡単に後ろを取られたことを、リールは額に手を当て体を小刻みに震わせ嘆く。
「現状25パーセントかな。もう少し起きてもらった後のほうが良いよねやっぱり」
そして勤めて冷静な口調で、男の問いに答える。内心はそんなつまらない話を振ってくるなと、苛立っているのは言うまでもない。
「何じゃ、この手は?」
「ちょっと溜まってるんだ叔父様。遊ぼうよ」
「……我輩は主のような娘とやる趣味はない」
その上で意趣返しとばかりに体をよせ、猫なで声で老紳士を誘惑するが。自分の色気を持てる限り発し行為を要求するリールに、なかば呆れた様子でジョニーは断りをいれる。どうやら彼に幼女趣味はないようだ。
「そう、ケチだね」
目を細めいまいましげに舌打ちをするリール。
「何とでも言うが良いさ小娘が」
自分のプライドは護るとでもばかりに少女の手をはらい、老人は歩幅を広めて歩きリールを置き去りにして進んでいく。
「あーぁー、やっぱりこのモヤモヤはぁ、人間たちぶっ潰して晴らすしかないな」
嗜虐的な笑みを浮かべ、リールは未来へと思いをはせるような口調で言った。きわめて身勝手な、強者あるいは捕食者らしい発言を——
- Re: 紅のアクア 1章第1話Part3更新 キャラ募集 ( No.3 )
- 日時: 2015/06/18 17:28
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
紅のアクア 第1章 月光に消える 第1話「ブラッディバレンタイン」Part3
何もない、ただ只管に広く暗澹(あんたん)とした部屋。アスタルテは全能なる王、ウルガフに傅(かしず)く。
「ジェロードナッハ人間管理長官。進捗(しんちょく)は?」
抑揚はあれど感情のともなわない声で、ウルガフが問う。
「全32人中14名が目を覚まし、彼らの調整はとどこおりなく進んでおります。1週間ていどの準備期間があれば……」
「いけんな。それでは人類に与えれる時間が少なすぎる。もう少し遅らせるが良い」
冷厳たるその問いに、アスタルテは事務的な口調で答える。しかし彼女のわずかに揺れる瞳からは、ウルガフへの畏怖が見て取れ。そんなアスタルテを一瞥すると、男は一々威圧感を放つようでは子供だと、自嘲気味な表情を浮かべ額に手を当てた。
一拍おいて大老は改めて命令をくだす。それはアスタルテにとって意外な命令で。彼女は瞠目するが。すぐさま考え直し苦虫をかんだような表情を一瞬浮かべる。眼前にいる存在の深慮、唯人察すべからず。重役を担い吸血鬼の支配階級に属す彼女さえ、頂点たる彼が前では凡百。
「了解しました。いつまでにすませれば?」
「1ヵ月。できるか?」
「偉大なる貴方の言葉ならば」
清濁を無表情の仮面に押し込め、アスタルテは抑揚にとぼしい声で命をこう。思慮深くあごに手を沿え、数秒黙考したのちウルガフは答える。捕虜となった人間の生命維持や、元々血気盛んな者が多い吸血鬼を抑える手間は軽くは無い。
むろんウルガフもそれを理解しているのだ。ゆえにわざわざ労わるような言葉をかけたのだから。しかしアスタルテにとってそれは、もはや可能なことにとらえられた。なぜなら発言者が王だから。彼は不可能を口にしない。うやうやしく頭(こうべ)をたれ、アスタルテは了承の念を口にする。
「下がるが良い。余はこれより眠りに入る」
『全く微動だにしない。だが、この状態でも露ほどの勝機も見だせない。さすがは我らが偉大なる王』
ゆっくりと瞑目するウルガフ。先ほどまでの、氷の刃で磔にされたような冷たい緊迫感は音もなく引く。しかしそれでも圧倒的な畏怖は、アスタルテの全身に纏わりついて離れない。彼女とて決して弱くはないのだ。むしろ通常の吸血鬼から見れば怪物と言える。それは特別な地位を得ていることからも分るだろう。
彼女を含め、ジョニー、ワルキューレ、リースたちは皆が、吸血鬼のトップに属するネアーと呼ばれる怪物だ。力が全ての魔界において、最高の種族たる吸血鬼。およそ500万人をなす集団における50名の頭目たちである。いわばエリート中のエリート。そんな彼女がただ座っているだけの眠りこけた老人に敬意を払わずにはいられない。
名目上同じネアーに位置づけられるウルガフだが、とても同等とは思えない質がそこには存在していた。アスタルテは恐怖と尊敬の念をこめ、一礼し何もないその部屋を出た。
——————
謁見の間と呼ばれる王の部屋を抜けた先はまぶしかった。天井はおろか床までもガラス張りの回廊。一体なぜこのような造りをしているのか。まるで見当がつかない。飛び込む光は反射しあい、気色の悪い光沢をつくる。眩暈を覚えたように頭をふるうアスタルテ。
「よぉ、謁見は終わったのか。何か言ってたかよ?」
そんなアスタルテを待ちわびたように、丁度彼女の死角に座り込んでいたワルキューレが問う。
「ワルキューレじゃない? どうしたの?」
「親父殿は何か言ってたかって聞いてんだっ!」
突然声をかけられたにも関わらず驚いた様子はなく、アスタルテは軽い口調で聞き返す。それに対し犬歯をむきだしてワルキューレは吠える。その声にはそんなこと聞かなくても分るだろうという、苛立ちがにじみ出ていて。アスタルテは溜息をつく。普段はここまで余裕がない男では断じてないのだ。
「決戦は1ヵ月後だってさ」
「そうか。あぁ、怖いなぁ。あの人の言うことは全て、一部の例外なく正しい」
しかしワルキューレが焦りを覚えている理由は、アスタルテにも少なからず心当たりがある。常に偉大すぎる父親と比べられている、特大の重圧も。つとめて平坦な口調で彼女は、最低限の情報を彼に伝える。
憔悴(しょうすい)しきった顔で下を向きながら、ワルキューレはつぶやく。いつでも戦いは挑めるはずなのに、なぜ戦争の開始を先延ばしするのか。時間を与える人類は準備するだろうに、理解に苦しむ。だがウルガフの先を見通す力は常軌を逸脱しているのは事実。人類に吸血鬼は紳士的だから、意外と付け入る隙はあるのだなどと宣伝しているつもりなのだろうか。慮外(りょがい)の存在に立ちむかわなければならない、時期皇帝候補という立場を呪うように男はうめいた。
「あの人は我々と違う種族よ」
ぐるりを剣山で埋めつくされたような、地獄の無限回廊を進む。ワルキューレはそんな苦悩の道を進もうとしている。誰一人ウルガフの王座に疑念を抱く者は存在せず。多くの者たちが次期王座などというのは、ありえない非常時のスペア程度に思っている中だ。茨の道という言葉すら生温いだろう。
それでもワルキューレの考えは間違いではない。代々学者の家計に育ったアスタルテはそう考えている。だが挑む存在は余りに強大ゆえ、それほど肩の力を入れても無意味とも思うのだ。彼女は膝をつきワルキューレの目線に顔を並べ、リラックスするようにうながす。
「それでも永遠に同じ指導者が座り続けるべきじゃねぇだろう」
「分っちゃいるわよ。貴方の葛藤もね」
案の定ワルキューレは焦燥感に満ちた声でくらいついてきた。アスタルテは優しく彼の体を抱き、嘘偽りのない本心で答える。慈愛に満ちた彼女には珍しい振る舞いに、ワルキューレは自分の至らなさを恥じるような表情を浮かべたが。思いの衝動は止まらず。
「お前は感じないか。ウルガフと対峙してると自分の無力を」
これがワルキューレの本質なのだろう。元来魔界は弱肉強食、共通の食料を求め全ての種族が覇を争う世界だ。ゆえにこそ自らの種族以外に、酷く排他的なところがある。ほぼ全ての物が何ゆえか、吸血鬼として枠外にいるウルガフを当然のように受け入れているが。彼は許容すべきではないと感じているのだろう。動物的本能よりは、1番長くウルガフと接触した存在だからかもしれない。
「ずいぶん疲れてるみたいねワルキューレ。少し休んだら」
「1つだけ見地を教えてくれ。俺は本当にあの人の血を引いてるか?」
「…………」
目の前にいる。体温や匂いを感じている存在の考えが、にわかに自らの想定から乖離(かいり)したことにアスタルテはとまどうが。平常じゃない相手を批判すべきではないと考え、冷静に言葉をつむぐ。
初めてアスタルテの目から自分が普通ではなく映っていることを理解したワルキューレは、今までにない冷静な口調で彼女に問う。普段の鮫にも似たギラついた意思は隠れ、声音は小鳥のさえずりがごとく弱弱しい。
「アスタルテっ、何で黙るっ!?」
「ごめんなさい。私では答えられないわ」
だが彼の問いにアスタルテは答えられなかった。質問の意図は分るのだ。吸血鬼は現在魔界で最強の種族だが、その最大の理由は多くの他種と交配しそれの良い所を得ることができるゆえ。せめて吸血鬼の血があの男に流れていると思いたかったのだろう。
知った上でアスタルテは嘘をつけなかった。はっきりとウルガフの血液を調べたわけではないのだから。本来なら同族の識別ができないはずはないのだが。あれほどの存在なら全て偽装だとしても、納得できてしまう。アスタルテはきびすを返し、何も言わずその場を去った。
「疲れた……寝よう」
そう一言。ワルキューレはその場で倒れこみ、容姿からは想像もつかないほど静かな眠りにつく。
- Re: 紅のアクア 1章第1話Part4執筆中 キャラ募集 ( No.5 )
- 日時: 2015/06/19 17:58
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
紅のアクア 第1章 月光に消える 第1話「ブラッディバレンタイン」Part4
「決戦は1ヵ月後とする」
世界中にウルガフの宣戦布告は配信された。謎の赤い雪による人類大量消失の原因が、ウルガフたちだと人類が知って間もない時期。世界が混沌の渦に飲み込まれたのは言うまでもない。連日多くの者が犯罪に駆られ、慟哭(どうこく)と暴力が横行。
政府は恐慌状態となる国民をなだめるだけで、大半の人手を裂くこととなる。相手は一瞬で100万以上の命を奪う、殺戮兵器を持った集団。それも1つの国を襲うわけではない。とても1つの国で対処できる相手ではなく。各国での連携が必要だ。
しかし当然ながら混乱状態に対処しながら、組織を連合させるなど簡単にはできず。結局ほとんど何もできないままに決戦の日を迎えた。
国同士での連携は貧弱で、とても手を取り合って戦える状況ではない。当然だろう。世界200カ国近くが手を取り合い、一糸乱れぬ統率力を持つなど。そうそう簡単ではないのは明白だ。どこをいつ襲うという宣言まで相手はしたが、それも本当に護られるか分らないだろう。
「午前10時。奴らの指示した時間ですね」
「さて、船も何も見えんが……!?」
大方の者たちは敵対者は奇襲で攻め入るものだと思っていた。なぜならそれのほうが効率が良いから。一方で危惧(きぐ)もある。相手方は完全に人類を下に見ている嫌いがあるから、合理性など関係なく攻めてくる可能性もあるということ。結果、太平洋沖、アメリカと日本の連合艦隊の前に現れたのは30人足らずの生身をさらす吸血鬼たち。
「壮観だね。巨大な鉄の塊が何十席も海に浮いている……」
中央に立つ白いタキシードを着た金髪の男が、なんとも皮肉に溢れた声でつぶやく。嘲笑まじりに放たれた言葉は大きくはないはずだが、なぜか全軍艦の船員にとどいた。普通に考えれば異常なことだが、最早敵勢である吸血鬼は人類の常識は通じない。そもそも洋上に足で立っているところから、まともではないのだから。
「全軍撃てぇぇっ! わざわざ真正面に生身で現れた馬鹿どもを吹き飛ばしてやれっ!」
言葉を重ねるのも愚かと考えた総指揮官が、憎しみのこもった怒声を張り上げる。巨大な砲弾が大量に放たれ、槍の雨がごとく棒立ちの敵に向かって殺到。誰もが馬鹿な奴らは木っ端微塵になると信じて疑わなかった。
「ふぅん、人類の兵器もここまで進歩したのか。でも、君たちの力は我々に通じない。それが全てさ」
砲弾の轟音と共に発される、炎と水がない交ぜになった柱。そのカーテンがじょじょに落ちていく。そこには最早何もないはず。思いのほかあっさり終わったな、と口にするはずだったのに。眼前には誰一人死ぬところか無傷で立っている敵の姿。
「無傷」
「さて、と。もう良いかな? まさかこれだけではないのだろう」
全く汚れの無いタキシードを手で払いながら、金髪をオールバックにした優男が凄絶な笑みを浮かべる。司令官の男はあまりに予想とかけ離れた事態に困惑し恐れ戦(おのの)く。今度はこちらの番だ。敵軍の兵たちがおもむろに武器を取り出す。圧倒的大虐殺が始まった。
- Re: 紅のアクア 1章第1話Part5執筆中 キャラ募集 ( No.6 )
- 日時: 2015/06/25 16:12
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: xMHcN6Ox)
紅のアクア 第1章 月光に消える 第1話「ブラッディバレンタイン」Part5
今、世界は炎に染まっている。それは怨嗟であり、戦火。絶望が発露しおぞましいほどに巨大な濁流としてうねる。まさに虐殺の限りがつくされ、何もできず軍隊は破れ逝く。何万の命が失われただろう。膨大な数の人々が弾け消えるのには長い時間を要さず。
「まだ、1日経ってないぞ!? たった数時間がこんなにも長いものなのかっ!?」
疲弊しきった兵士が叫ぶ。相手が強大であろうことは理解していたはずだ。未知の大量殺戮兵器を有し、何も持たずに炎や雷を放つ神出鬼没の怪物たちだとも。だが、聞いていない。現代兵器の全てが効かないなどということは。
「有りえない! 何であいつら傷1つつかないんだよ!?」
攻撃は命中している。防御されたとか、別の場所に飛ばされたなどという様子はない。そう、ただただ直撃して無傷でいるということ。ただ1日で世界中の大半の兵士が思った。何をしても奴らに勝てないだろう、と。
自棄酒や妄想に走る者。戦線から退けてくれと上司に懇願(こんがん)する輩。当たり前だろう。兵士といえど人間で、仲間同士のつながりもあって。それが何もできず一瞬で全て断たれていくのだ。相手を1人殺すところか、傷すら与えられない。
毒ガス。核兵器。確かに試していない兵器もある。だが、使わなくても結果は見え透いているような気がして。敵の被害に対して、人類側は余りに被害多過多。もはや勝負として成り立っていないのは火を見るよりさだか。
「奴らを殺しうる兵器はないのか?」
憔悴(しょうすい)しきった顔で悲歎(ひたん)の念を口にする上官。それに答える声があった。
「魔術。それが我々を殺しうる手段です」
何の脈絡も無く、突如現れた金髪の男に驚き腰を抜かす上官と思しき男。
保留
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