複雑・ファジー小説
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- 黎明の天使-リアンハイト-
- 日時: 2014/03/02 14:39
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=7972
—プロローグ—
死んだ。今の自分には、その言葉がピッタリだ。
その時になってしまえば死は突然すぎて、気付けばもう生きることを諦めていた。
それでも後悔はしない。未練などない。今までそのような生き方はしてこなかったのだから。
身内には稼ぎのいい兄弟がいるので、親の老後も心配はない。
兄も弟も、自分よりもあらゆる方面で"出来る"存在であり、逆に親や周囲からは毎日白い目で見られていた。
最もまだ中学二年生なので、"出来る"がどうとか言われる筋合いはないのだが。
そもそも弟が出来るのはピアノだけで、親が馬鹿みたいに愛情込めて育てていたのだ。
そりゃ、愛情の欠片も注がれずに育ってきた僕よりは出来て当たり前の存在になるだろう。
僕は何をするにしても中途半端な存在なのだ。
小学生の頃に、努力をしても所詮は無駄で報われない、と悟って以来このような性格となった。
何故そう悟ったのか、それはまた別の話だが、とにかく自分という存在はそのような存在なのだ。
対して四人いる兄弟のうち、二人の兄は若くして会社のトップに躍り出ている。
弟一人はまだ赤ちゃんだが、もう一人の小学三年生の弟は、前述のとおりピアノという芸に長けている。
だからどうでもいい存在だった。だから死んでも構わない存在だった。だから、未練なんてない。
最近新聞やニュースでよく聞く、突然死の話を思い出した。
近頃年齢や性別などを問わず、突然脱力感に襲われて死ぬという話が世間を騒がせている。
現に老若男女合わせて数十人が犠牲者となっているらしい。
どうやらこの脱力感。その一端に巻き込まれたらしい。
いよいよ、身体が動かなくなった。このまま死ぬのだろうか。だが怖くはない。
何故か。それは自分が、誰よりも何よりも"諦める"ということに長けているからだ。
生きることからすらも諦め、死を受け入れることが出来る。なんだ、こんな自分でもいいところがあるじゃないか。
やがて意識が朦朧としてきて、闇にそれを手放した———
◇ ◇ ◇
URLは、私が立てたリク依頼・相談掲示板のものです。
ここにてオリキャラやイラストなどの募集を行っていますので、よろしければご応募ください。
(URLが間違っていたらすみません)
黎明の天使-リアンハイト-
プロローグ —死んだ—>>0
一章 —背中に羽が—
>>1 >>2
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.1 )
- 日時: 2014/03/02 10:52
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
どのくらいの時が経っただろうか。
再び意識がはっきりしてくるのを感じ、彼は眠い目を擦って軋む体を無理矢理に起こした。
はっきりしかけた意識はまだ一部が朦朧としているが、彼は周囲の物色を始める。
「———起きた、のか?」
自分に問いかける言葉としては些か不適切だが、彼の口から出た言葉はそれだった。
そして言葉を発したことで、意識にかかっていた靄は確実にはっきりとした。寝起きの良さは相変わらずらしい。
(———あれ?)
そして意識が完全にはっきりしたところで、彼はいくつかの疑問を抱いた。
自分が今いるここは何処だ。まずその疑問が浮かんだ。
彼が今いるこの場所は、小さな部屋の豪華な寝台の上だった。
開け放たれた窓からは幻想的な光が差し込んでおり、その先の景色は雲の上の世界が広がっている。
空やその雲は茜色に染まっており、所々に浮遊する島のようなものもある。
宛らこれは天国ではないか。そう考えた彼だが、その考えも納得がいった。
自分は一度死んだのだ。だったら天国か地獄、どちらかにいてもおかしくはない。
あるいは、自分は死んでいなくてただ夢を見ているだけか。
他にも様々な考えが彼の脳裏を過ぎったが、そんなことを考えていては限がないので頭の片隅に追いやることに。
そう、自分はあの時脱力感に襲われて死んだのだ。だからここは天国に違いない。
彼は身体を起こしてからそんなことを考えていたが、考えることに一度限を付けたとき、背中に妙な感覚を覚えた。
「?」
背中にある何かが動く。いや、正確に言えば自分の意思で動かすことが出来る。
一体背中に何があるのだろうか。無性に知りたくなった彼だが、動くにはまだ辛いのでそれは叶わなかった。
因みに部屋の扉付近には姿見が置いてある。だが悲しいかな、それは更に隣のクローゼットのほうを向いている。
彼の居場所は死角になっていて、ここからでは丁度姿が見えない。
「はぁ……」
そして次いで浮かんできた疑問。自分は誰だということを考え始めたときだ。
「——!」
突如、扉をノックする音が響いた。
それにより、彼の自分が誰なのかという事に関しての思考は見事に一刀両断される。
そして一瞬返事をしようかと迷った彼だが、その前に扉は開かれた。
無言で入ってきたのは、とても美しい女性だった。宛ら女神ではないかと思えるほどに。
彼女は流れるような金の長髪を、部屋に入ってくる風に遊ばせている。
そして入ってくるなり、彼の存在に気付いてその蒼穹の瞳を彼に向けた。
「あら、起きたの?」
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.2 )
- 日時: 2014/03/02 14:20
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
彼が目を覚ます数日前の事である。
彼女"ノルン"は早朝早々、ゆっくりする暇もなく広場へきていた。
因みにこの"天界"と呼ばれる天国と言ってもいい世界は、いくつもの浮遊島が雲の上に浮かんで形成されている。
その島に一つはある、各島々を繋ぐワープシステムで、ノルンは早足に広場へ来れている。
そして早朝から何事かと言えば、彼女の眠りを妨げてまで戦神オーディンが報せをしてきたからだ。
曰く、第三の島の広場で所属不明の天使が倒れている、である。それを聞いたノルンは、天使たちを統括するという仕事柄、放っておくわけにはいかないのでこうして騒ぎの中に紛れ込んでいた。
倒れていた天使は一見そこらの天使と変わりないのだが、所属不明という以上、何か曰くつきであると考えるのが普通。
故にノルンはマスコミが騒ぎ始める前に、その天使を保護し、自分の家の一部屋に寝かせておくことにした。
魔法と似て非なる"奇蹟"によって生命力を維持させ、目が覚めるまで養うことにしたという。
◇ ◇ ◇
「つまり、天使ですか。僕は」
「そうよ」
そんな話をノルンから聞かされた彼は、肯定はしてもイマイチ事情が飲み込めずにいた。
とりあえずこの世界が先ほどまで自分がいたはずの世界ではないことは理解できたが、何故天使なのか。
次々と疑問が彼の脳裏を過ぎり始めるが、どっち道信じる信じない以前にこれは紛れもない現実なのだ。
今の状況におかれた以上、とにかく次々と浮かんでくる疑問は頭の片隅に追いやらねばならない。
「そうだわ、貴方の名前を聞かせてもらえるかしら?」
「あ、え、えっと……」
彼は自分の名前を口にしようとした。
だがそれは拒まれた。頭では理解しているのに身体が否定している。
喉まで出かかっている、かつての自分の名前。それはどうしても口に出来ない。
やがてノルンが首を傾げ始めた頃、彼はようやく自分の名前を口にすることが出来た。
「リアン……リアンハイト……です」
だがようやく言葉に出来た名前は、頭では違うと言っている。
自分はこんなにも長い名前であったか。また疑問が浮かんできたが、やはりそれも頭の片隅に追いやることにした。
ここで違うといって言い直そうとしても結果は見えている。先ほどのように靄がかかり、身体が否定するだけだ。
「リアンハイト、ね」
ノルンはそんなことを彼が考えているとも知らず、その名をメモ用紙に書き記した。
ちらっと見えたその紙面には、彼——リアンハイトが知らない文字が綴られている。
正確に言えば、理解も出来るし書くこともできる言語ではあるが、自分が今まで使っていたそれとは違っている。
「確か、古代言語で"黎明"って意味だったわね」
黎明——それは夜明けや明け方の事であり、転じて新しい時代や文化の始まろうとする時期の考え。
辞書的な意味で言うならば——リアンハイトの生前(?)の意味でだが——そういう事となる。
新しく口にしたこの名前に、自分が転生した切欠と何か関係があるのだろうか。
だが今になってみれば、考えることが段々と馬鹿らしくなってきているので、やはり頭の片隅に追いやった。
やがてノルンと名乗るその美しい女性は、寝台付近の椅子に腰掛けた。
「ちょっと、私の質問に答えてもらえる?」
「あー、はい。構いませんが……」
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.3 )
- 日時: 2014/03/02 19:31
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
「……聞けば聞くほど、不思議な話ね」
ノルンはリアンハイトにいくつかのぶつけ、それを答えさせていた。
だが、リアンハイトの答えにはノルンにとって不可解なものが多く、彼女は少し困惑した。
例えば、何処から来たのかという質問には"分からない"という答えにもなっていない答えが。
例えば、今まで何をしていたのかという質問には"勉強をした後で床に転がっていた"という答えが。
そして大半の答えは"分からない"だったが、一部の答えは彼の生前の記憶に由来する答えが返ってきている。
演技をしているようにも見えない。ノルンにとってリアンハイトとは、不思議な少年だった。
「分かったわ。……じゃあ、貴方は暫くここで過ごしてなさい。いいわね?」
「はい」
優しさと慈愛に満ちた表情を向けられたリアンハイト。
彼は少しだけホッとすると、安心したような目で部屋を出て行くノルンを見送った。
◇ ◇ ◇
ノルンが部屋を出て行った後、先ほどよりも具合がよくなったリアンハイトは姿見の前まで来てみた。
そこに映った自分の姿は一言で言えば、信じられない、だった。少なくとも生前の姿ではない。
この時の彼は緩い白の装束に身を包んでおり、らしくもなく肌の所々が露出している。
そして何より一番信じられないのは、自分の背中に生えている羽だった。
(これ、本物の羽……なのか?)
確かに本物の羽だ。
今まで使ってこなかった——というより無かった——筋肉を使うことで、その真っ白な羽を羽ばたかせることが出来る。
ただ、飛べる気配はない。比較的大きな羽ではあるが、精々滑空が出来るかどうか、それすらも怪しい羽だ。
ただの飾りのような、そんな羽である。
そんな自分の姿を嫌々認めたリアンハイトは、再び寝台へと戻った。
しかし、仰向けで寝ると何か妙な気分になる。羽がある所為だろうか。
彼は仕方なく、右半身を下にして丸くなりながら寝ることにした。
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.4 )
- 日時: 2014/03/06 18:26
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
リアンハイトの寝ている部屋を後にしたノルン。
彼女は紅茶を淹れ、リビングの高級なテーブルに頬杖をついて神妙そうな表情を浮かべていた。
何故なら、今の彼女の脳裏には、リアンハイトに関する一つの事実が過ぎっているからだ。
(このタイミングで……グローリー……?)
グローリー。それは古代言語では"栄光"という意味がある。
もう一つの意味として、神々の運命が決まる最終戦争"ラグナロク"が始まる前に現れる天使という意味もある。
ノルンの思う事実とは、そのグローリーと呼ばれる天使が、リアンハイトと一致していること。
記憶が曖昧で一部それの欠落が見られ、大きくすがすがしいほどの純白な羽。それらがグローリーの特徴である。
他の天使と比べると、その羽の大きさは一目瞭然——とまではいかないかもしれないが、少なくとも2倍の差はある。
しかし、これはとても悩ましい事実であった。
いっそのことリアンハイトを安楽死させようとも考えたが、殺したところで事実は変わらないとすぐに思い直した。
(困ったわね……)
ラグナロクが起きるということは、世界が崩壊するといっても過言ではない。
そもそも神とは、一つの物事に対して最高の力を持っているのだ。
神如何では強さこそ異なってこれど、その争いが始まるともなればどうなるか分かったものではない。
例として、下級の神単体で二柱。そんな勢力でも争いを始めれば、この星の一部が滅ぶ。
やがて思い立ったように立ち上がったノルンは、リアンハイト宛に置手紙を残して家を後にするのだった。
この世界が滅ぶのを阻止するために。
◇ ◇ ◇
ノルンが向かった場所は、運命の狭間と呼ばれる場所だった。
運命の神である彼女だけが来れる場所で、ここでは世界の行く末がどうなるかという情報が全て詰まっている。
その情報は古代言語で表されており、その文字一つ一つが発する青白い明かりだけがこの場所の照明となる。
ここは洞窟のような場所だった。
「……仕方ないわね」
運命を司る神は、勿論運命を変えることも出来る。
つまり、未来に起こる確定事実の情報を書き換えることが出来るのだ。
彼女は此処へ来て、ラグナロクの開戦の情報を見出した。
(AD2222319……やっぱり……)
暦2222年3月19日、ラグナロク開戦。とあった。
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.5 )
- 日時: 2014/08/23 14:07
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
寝ようと努力するも、一向に寝付けない。
リアンハイトは結局、ベッドから起き上がって部屋をうろつくことにした。
しかし、とても幻想的な光景といえよう。
雲の上に島が浮いていて、島の一部からは水が流れ出ている。水は留まることを知らず、リアンハイトが見ている限りではずっと流れっぱなしだ。そして流れた水は下へと落ちていき、やがて蒸発して雲となる。
その水に反射する太陽の光はプリズムのような煌きを放っていて、見る度に眩しい。
『暇だなぁ』
本当に暇である。
今暇つぶしが出来るものと言えば、ノルンが置いていった小さなパズルと窓の外に広がる光景だけ。
その光景は非常に美しいものだが、所詮は景色に変わりなし。見ていれば、何れは飽きる。
かといって、彼はパズルをやる性分でない。あと部屋にあるものはクローゼットと鏡、サイドテーブル、照明だけだ。
「ちょっと失礼しまーす……」
自分用の服でも入っているのかと思い、リアンハイトはクローゼットを開けてみる。
しかし、中に入っていたものは予想を大きく超えるものが大半を占めていた。
『な、何で武器?』
そう、中に入っていたのは武器の類だったのである。
各種銃、剣、弓、槍などに加えて、盾や手甲などといった防具も少しだけ入っている。
入っているものはそれだけだった。ただし、そのクローゼットの下段を除いては。
リアンハイトは下段を開け、中身を見るなり息を飲んだ。
入っていたものは下着。それも女性用のばかりである。
「で、でか……」
試しにブラジャーを一個手にとって、リアンハイトは思わず声に出してしまった。
彼の記憶が正しければ、この大きさはノルンの胸が丁度いいサイズである。
大きさ的にはEカップ辺りか————
「はっ! 一体何を考えてるんだ、僕は」
彼は急いで手に持っているものをしまった。
こんなところで如何わしいことを考えている場合ではない。
正確に言えば暇なのでそういったことを考えてる時間はあるのだが、それ以前に考えないといけないことがある。
それは、自分のこれからについてだ。
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