複雑・ファジー小説

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ゼブラ柄あたっちめんと。■ 性描写アリ苦手な方は(ry
日時: 2014/08/01 08:07
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: ZoJzIaOM)


 「実はおれ、女なんだよね」



 ただいま昼下がり午後3時、スターバックス。
 ぶはっと吹き零しそうになった本日のキャラメルを、私は必死に飲み込んだ。



 「あ? おま、ちょ、いま何て」



 目の前に座っている二浪野郎は、さも愉快そうに口角をあげた。
 左手でつくったピースサイン、ワザとらしい下手なウィンク&舌半出しのキラキラスーパースマイルを投げ掛ける目の前の男は、どうやら相当楽しんでいるっぽい。




 「聞こえんかった? おまえとついてるもん同じや。砂丘はあるが、アレは、ない」







—————————————————————————————————


しばらくカキコ離れしていたのですが、夏だし、ちょっとだけ戻ってきました。
今回は、ryukaの友達の、性同一障害の人の話を書こうかなと。


少しでも多くの人に、どちらの性別にも属せない人のことが分かってもらえたらな、と。


Re: ゼブラ柄あたっちめんと。■ 過激じゃないけど性描写アリ ( No.2 )
日時: 2014/07/31 22:06
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: T32pSlEP)

■ゼブラ柄あたっちめんと。



 さて、私と彼の話をしよう。




 出会ったのは高校一年生のとき。
 新入生歓迎会の後、バスケ部の部室を訪れた若き私に、はじめて話しかけたその人が彼である。


 
 「あ、しんにゅーせい?? うっしゃ! 入り入りー」

 
 
 恐る恐る薄暗い部室を覗き込むと、部屋の奥には窓があって、そこから入る夕日を逆光に、一人の人影があぐらをかいて、まるで招き猫のように、手首から上だけ、くいっくいっ、と動かしてこちらを見ている。

 
 「あ、お邪魔していいんですか」
 「おう、今日からここがお前の家よ」

 そう言って彼は手招きした。ここでまずいちに不自然に思ったのが、どうして女子部室に堂々と男があぐらをかいて、スルメを噛んでいるのか、ということだった。
 しかし高校に入りたての私には、いろいろなことが不慣れすぎて、そんなことにこだわっている余裕は無かった。


 「名前は、」
 「あっ、乙海です」
 「ふうん、」

 彼は立ち上がると、したしたと私の方へ近づいた。案外、小柄だった。


 「入るの、バスケ部」
 「あっ、はい」

 「……スルメ、好き?」
 「あっ、はい」

 すると彼は可笑しそうに笑って、私の声をまねて、

 「あっ、そうですか」

 と、言った。



 「しっかし、残念やなぁ」

 彼は私の顔をじろじろと眺めまわした。私も見返した。よく見れば、案外、優しそうな顔立ちをしていた。物腰と違って、その顔のラインは女性的な柔らかさを持っている。割合に大きな目も、やはりどこか女性的だった。


 「お前とならうまくやっていけそうなのに」

 「えっ、もしかして三年生でしたか。じゃあすぐ引退……」

 「違う」

 頭を軽く振って、彼は右手に持っていたスルメの袋から、一本、太いのを取り出して、そして遠慮なく私の口に突っこんだ。



 「まだ二年生だけどな。今日で俺、学校やめるんだわ」




 それが、しばらくの間、私と彼との最初で最後の会話となった。


Re: ゼブラ柄あたっちめんと。■ 性描写アリ苦手な方は(ry ( No.3 )
日時: 2014/08/07 23:13
名前: ryuka ◆wtjNtxaTX2 (ID: T32pSlEP)


 それからしばらくは、すっかり彼の事など忘れていた。
 
 高校一年生の一学期が終わった日だっただろうか。たったの二十分で終わった終業式の後に、部室を掃除しようということになった。部室の中には大きなゴミ箱があったが、みんな面倒くさがってゴミを捨てに行かなかった結果、ごみ箱から溢れ出たゴミたちはその周囲を占拠し、ついには私の領地にまで入って来ていたのだ。そのほかにも、マットは皆の汗を吸って異臭を発していたし、積み上がったマンガはたまに来る3.11の余震の度にぶっ倒れて、そこかしこに散らばっていた。ついでに誰のだか分からないタオルとかも轢かれた蛇のように伸びている。謎にブラジャーとかも落ちていて、たぶん、男子が見たら相当ショックだろうな、とぼんやりと思った。


 「いっやー、ひでぇな、こりゃ」
 相沢先輩がマットを引っぺがしながら叫ぶ。と、同時にもうもうと埃と煙が立ち上がる。マットを剥がされた裸の床は、ただの打ちっぱなしコンクリートで、無機質な灰色が、ひやりと冷たかった。


 「あ、スルメ落ちてる」
 マットの下に挟まっていたのあろうか。もとから干からびているだけあって、スルメはオーディナリーなスルメの形を保ったままだった。


 「あ、そういえば、スルメ好きな先輩いたんですよね? 私、新入生歓迎会のあと、ここで会ったんですけど」
 あの、不思議な彼のことを思い出しながら私は相沢先輩に問い掛けた。特にどうという意味も込めていなかった。

 しかし相沢先輩は答えない。ほかにも先輩は三人いたが、誰も答えなかった。微妙な沈黙が流れる。

 「あ、もしかしてスルメ好きじゃなかったのかな。なんかエセ関西弁っぽいの話す男の人だったんですけど」


 相沢先輩が神経質に瞬く。長いまつげが蝶のように上下する。


 「あ!やっべー、私、担任と面談だわ!!」
 相沢先輩が私の質問には答えずに、突然素っ頓狂な声を上げた。

 「ごめん乙海、マット任せたわ!」
 相沢先輩は両手を合わせて、スマン!と元気に行って、マットを放り出して部室の外へと飛び出してしまった。


 「まったくもーあいっちはドジだなぁ」
 他の先輩方がやれやれ、といった風に笑う。
 さっきの沈黙などまるで嘘のように、そこにはいつも通りの、穏やかな風景が取り戻されていた。

 
 どうしてだれも、答えないのだろう?
 その時はじめて、私は、これは聞いてはいけない質問であるらしいことを悟ったのだった。


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