複雑・ファジー小説

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ある暗殺者と錬金術師の物語(更新一時停止・感想募集中)
日時: 2015/02/18 00:42
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

魔法、科学等様々な分野で発展する世界。広い世界には様々な国がありそれがいくつあるか、どんな国があるのか、どれだけの分野の学問があるのかそれらを知る者は誰もいなかった。


一般的な人間は他の国に興味を持たず、その日その日を普通に生活するものだった。例外はもちろんいた。一般的に知られているのは旅人。世界を回り生活をする人間。そういった人間はその国にはない文化を伝える場合もあり、国の発展に貢献することがある。 

しかし一般には知られない人間もいる。それが隠密行動を行う者。情報収集などを中心としたスパイ、人の命を密かに奪う暗殺者等が当たる。

そのいくつもある国の中の一つから物語は始まる

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初めまして。今回ここで小説を書かせてもらおうと思います鮭といいます。

更新は不定期ですが遅くても一週間に1話と考えています。人物紹介等は登場する度に行っていきます。実際の執筆自体は初めてということがあり至らない点はあると思いますがよろしくお願いします。

・更新履歴

 11/3 3部21話追加
 11/7 3部22話追加
 11/14 3部23話追加
 11/22 3部24話追加
 12/3 3部25話追加
 12/10 3部26話追加
 12/17 3部27話追加
 12/20 3部28話追加
 12/26 3部29話追加
 12/30 3部30話追加
 12/31 人物詳細2追加
 1/4  3部31話追加
 1/7  3部32話追加
 1/10 3部33話追加
 1/14 3部34話追加
 1/18 3部35話追加
 1/23 3部36話追加
 1/25 人物詳細3追加
 1/31 3部37話追加
 2/4 3部38話追加
 2/10 番外編追加
2/18 番外編追加 更新一時停止


・本編

 第1部
 人物紹介
 キル リーネ サクヤ カグヤ ジン>>5

 第1話>>1 第2話>>2 第3話>>3 第4話>>4 第5話>>6
 第6話>>7 第7話>>8 第8話>>9 第9話>>10 第10話>>11
 第11話>>12 第12話>>13 第13話>>14

 第2部 
 人物紹介
 リーネ フラン シン バード リンク フィオナ カグヤ>>16

 第1話>>15 第2話>>17 第3話>>18 第4話>>19 第5話>>20
 第6話>>21 第7話>>22 第8話>>23 第9話>>24 第10話>>26
 第11話>>27 第12話>>28 第13話>>29 第14話>>30 第15話>>31
 第16話>>32 第17話>>33 第18話>>34

 第3部(後々鬱、キャラ死亡等含むため閲覧注意)
 人物データ1>>36
 人物データ2>>46

 第0話>>37
 第1話>>38 第2話>>39 第3話>>40 第4話>>41 第5話>>42
 第6話>>43 第7話>>44 第8話>>45 第9話>>47 第10話>>48
 第11話>>49 第12話>>50 第13話>>51 第14話>>52 第15話>>53
 第16話>>54 第17話>>55 第18話>>56 第19話>>57 第20話>>58
 第21話>>59 第22話>>60 第23話>>61 第24話>>62 第25話>>63
 第26話>>64 第27話>>65 第28話>>66 第29話>>67 第30話>>68
 第31話>>70 第32話>>71 第33話>>72 第34話>>73 第35話>>74
 第36話>>75 第37話>>77 第38話>>78

 人物・用語詳細1(ネタバレ含)>>25
 人物詳細2(ネタバレ含)フィオナ リオン レミ>>69
 人物詳細3(ネタバレ含)ジン N マナ(I) シン バード>>76

・筆休め・気分転換
 番外編

 白騎士編 
 >>79 >>80

 2部終了に伴うあとがきの様なもの>>35

 軌跡
 7/18 参照400突破
 10/14 参照600突破
 12/7 参照700突破
 1/28 参照800突破

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.76 )
日時: 2015/01/25 16:03
名前: 鮭 (ID: n9Gv7s5I)

キャラ詳細3

ジン・ヴァンド

村をN、Jに滅ばされキルによって命を拾った少年。生還後は妹であるマナを探して旅に出る。剣術は家系の影響を大きく受けており、高速の抜刀による居合いと刀と鞘を組み合わせた二刀流が基本的な攻撃手段となっている。普段から楽観的な考えを持っておりそんな性格が立った一人での旅を続けることが出来た要因でもあった。
実力自体は高くキルやフィオナに次ぐ力を持っている。

・妖刀
村に伝わっている刀であり元々は何人もの生き血を吸った刀と恐れられていた。その刀をジンの子孫が何代にも渡って清めていき浄化された。刀の名前自体は古すぎることから忘れ去られたが何代もの間に錆びることもなかったことから宝剣として扱われるようになった。特徴として持ち主の身体能力や技の強化能力を持っている。

・時空の眼
限界を超えてすべての身体能力を引き上げる力で視力は対象の隅々までの細かい動きが見え、聴力は空気の音から人の心音などあらゆる音を拾うことで疑似的に見えるもののすべての動きがスローに見え身体能力の強化により自分だけは普段と変わらないように動ける感覚となる。
ジンの住む村の一部の人間にだけ受け継がれている特殊能力で現在その力を受け継いでいるのはジンとマナの二人だけ。急激に身体能力が上がるため体への負担が大きくジンの場合は約5分が制限時間となる。


N

R、Gと共に主に行動しており実力は二人に劣るも二人に比べて知識や参謀としての能力が高いため二人の代わりに会議に参加、標的が決まっている暗殺、下級兵士の管理が主な任務となっている。刀を使った戦闘が得意で奥義を使い分けることで複数戦闘も可能となっている。跳躍能力に特化しておりIが組織に入る以前は組織内の最速とも言われていた。

・妖刀「白夜」
光の属性を持つ妖刀。入手の経緯は不明。最大の特徴は白い刀身でジンの刀同様に浄化が施されている。能力は奥義の強化でNの扱う奥義もこの刀により本来の何倍もの威力に引き上げられていた。他に身体強化で特に敏捷性のアップに繋がる。

・奥義
主に4つの奥義を取得しておりそれぞれ「朱雀」「青龍」「白虎」「玄武」と呼び火、水、風、地の属性を持っている。それぞれには状況に応じた使用用途があり「朱雀」は広範囲攻撃、「青龍」は一点攻撃、「白虎」は高速攻撃、「玄武」が自己防御となっている。


マナ(I)

組織内でK、L、Jと同等の力を持つ組織の中でも5本の指に入る実力者。主要武器は弓を炎系統の術。また身体強化の改造を受けておりすべての能力が常人よりも遥かに高い。特に脚力は組織内でもっとも高くそのこともあり、仲間にさえも姿を晒すことが殆どなく秘密裏な暗殺や諜報活動が主になっている。幼いころに別れたジンの妹でもあり密かに村を滅ぼした原因のNやJを狙っている。

・弓
組織内では珍しく自家製の一般的な弓を使用している。弓自体には魔力を通わせることで硬度を引き上げている。矢も同様に通常のものに魔力を通わせて威力を引き上げている。攻撃の範囲は半径にして100mの範囲であれば正確に射抜け、正確さを落とせばさらに遠くへの攻撃も可能。

・特殊能力
ジン同様に時空の眼を持ち幼いころに覚醒したためにJに目を付けられ素体として連れて行かれた。基本的な能力はジンと同様であるが発動の制限時間が特にない。
炎系の術は具現化が主な能力で特に矢として扱う場合や近距離戦のための鞭など状況に応じて使い分けることが出来る。


シン・エトワル

街の役場に勤める役員として働いている少女。元々は家族と旅をしていたが盗賊に襲われて家族を亡くし街にやってきた。その際にシンを助けたのはバードだという噂があるものの真相は不明。特別な能力を持っているわけでもない一般人だが生きるために戦闘術を学び未成年ながらもフィオナの眼に止まり今に至る。マグナムとライフルによる遠距離、ナイフや体術による近距離が可能なことからオールラウンドに立ちまわれる。

・武器
マグナムは父親の形見であり黒いリボルバー式の銃。反動が一般的なものよりも大きい代わりに威力は高い。ライフルはカグヤお手製のもので元々は組み換え式なものだったがさらに改造を施され通常のライフルになった。スコープ付きで威力だけならマグナム以上。ただし二発しか弾が入らないために連射性は悪い。
他にナイフを所持しているものの殆ど使うことはない。一般人にしては脚力も高く対人戦ならばそれなりの威力もある。

・感情
家族を失って以降滅多に感情を表に出すことがなくなり死に対しても過剰に反応してしまう体質になってしまった。付き合いの長さからバードやフィオナに対してはある程度表に出すようで慣れて来た相手に対してもある程度は心を開く。バードに対しては特に無遠慮な部分が多く特別な感情があるのかもしれないがその真意は不明。

・ロン
三人の召喚獣から生み出された赤い龍。まだ赤ん坊ということから大きな力もなくどのような力を秘めているかも分からない存在。現状はシンの中で召喚されるその日を待っている状態。

・継承
召喚獣と契約者が亡くなっている場合に次の契約者に対して稀に起こる現象。召喚獣の前の契約者の能力や力を受け継ぐものであるがこの現象を起こすには前契約者のことを知っていることやその召喚獣との相性が影響する。また継承が出来ても必ずしも自分にプラスに働くとも限らないために継承が出来たからといって必ずしもいいとは言えない。


バード・ウィンゲル

シン同様の役員。元々は賞金稼ぎとして旅をしておりその途中で盗賊に襲われているシンを助けて今の街にまで来たというが二人の出会いの経緯は不明。シン同様特別な能力を持っているわけでもなく大剣、帯剣、銃が主な武器となっている。他のメンバーに比べて年齢が高いことから面倒見がよく特に付き合いが長いメンバーには気を使っている。防御力や動体視力の高さ、大剣を使うことから前衛専門として敵に立ち向かう。

・武器
黒い刃の大剣は大型の魔物と戦う場合に使用し帯剣は対人戦にと状況に応じて使い分けて戦う。大剣の重量はそれなりで一般人で扱えるのは彼くらいということもあり賞金稼ぎ時代ではそれなりに恐れられていた。
銃は接近のためのサブウェポンとして持つ銃は黒を主にした命中重視の自動拳銃で単体の威力は低い代わりに高度な射撃を可能とするものになっている。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.77 )
日時: 2015/01/31 14:23
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

第37話

「そろそろ行く…」

時間にして数分、シンはバードを抱きしめたままその場を離れようとしなかった。このまま立ち去ることもできたマナであったがなくなった人間からの願いを無碍にするのは今のマナにはできなかった。仕方なく二人を見つめていたマナはシンの腕や足の具合を確認してから手を引いて無理矢理立たせた。

「うっ…なっ…なんですか!」
「もう行く…弔わないと…」

マナの言葉でシンは自分の表情が崩れてしまっていることに気付き涙を拭きいつものように表情を無表情にした。その様子を見たマナは小さくため息をし、バードの亡骸を肩に乗せそのまま街の外に向かって歩き始めた。
そんな中でシンは足を引きづり付いてきた。

「あなたは来る?この人の弔い…」
「はい…」
「その足と手…処置しないと切断…」
「構いません…」

躊躇することなく答えていくシンにマナは内心驚きながら街の外へと歩いていった。

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「いい加減…倒れてほしいわね…」
「ムリダ…」
「なら…」

街の人間を逃がす為に襲撃してきたGと一騎打ちを挑み抑えている形だった。
魔力をローラーブレードに通わせたカグヤは再びGへと向かって飛び込んだ。ローラーブレードによってカグヤの移動速度は大幅に上がり簡単にGの後ろを取った。それと共にローラーブレードでとび蹴りを放った。

「これでどうよ!」

とび蹴りに対しGはすぐに振り返り振り返りざまに右手で蹴りを横から弾いた。バランスを崩したカグヤを見るとGはそのままの勢いで左腕から拳を放つ。

「…っ!」

すぐにカグヤは左足を畳みローラーブレードで拳を受け止めた。本来魔力が通ったカグヤのローラーブレードに素手で触れるのは不可能に近い。しかしGは全く関係なく攻撃を受け止めたカグヤの体を吹き飛ばし、そのまま民家の2階のベランダへと吹き飛び壁に叩きつけられる形となった。

「いたた…。もう!何なのあいつ!」

体に付いた埃を叩いて落として立ち上がるとGはカグヤに視線を向けたままその場を動こうとはしなかった。

————誘導は一応成功か…

建前上の目的は達成できたもののすぐに片付けるつもりでいたカグヤにとっては不満が残るものだった。ベランダの手摺に手を掛け再び下に下りたカグヤはその場で身構えてある違和感に気付いた。

「そういえば…あんた…全然動かないわね…どういうつもりよ?」
「ヒツヨウ…ナイ…」

突然Gの右腕が微かに光り、それが魔力によるものだとカグヤが認識した時、咄嗟に片手を翳し魔力を用いた半透明の障壁を作り出した。障壁越しにカグヤが見たのはGが腕を振り上げる姿でそれと共に強い衝撃がカグヤを襲った。障壁はガラス細工のように簡単に砕け散りそのまま民家に叩きつけられた。

「けほ…何なのよ…あいつ…」

土煙越しに見えるのはゆっくりとした足取りで歩み寄ってくるGの姿だった。すぐに起き上がったカグヤは地面を強く蹴り一気に距離を詰めた。しかし突然の横からの衝撃に目を見開いた

「かは…!?」

カグヤが確認したのは拳を突きだそうとして空いた隙へと的確に放たれたGの蹴りだった。その衝撃で地面へと転がり落ちた。

「くっ…やってくれるわ…」
「ヒケ…オマエデハ…カテナイ…」
「言ってくれるわね!なら…そろそろ…本気で行くわよ」

魔力を両腕に集中させたカグヤはGに視線を向けた。その眼には嫌悪に満ちており右手を後ろに引く形で身構えた。

「本当に…何から何まで…私の…技ばかり!!」

後ろに引いた腕を振り上げたカグヤがそのまま勢いよく振り下ろした時Gの右斜め上から4本の衝撃波が発生しGを襲った。

「グッ!?」
「まだよ!」

そのまま左手を今度は横薙ぎに振るうと今度はGの左から4本の赤い軌跡を映しその衝撃がGに直撃した。

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「魔力の具現化?」

フィオ姉が私に教えてくれたのは魔力の操作の仕方だった。フィオ姉と違い完全な魔道士でない私には魔力が限られていることからその限られた魔力を有効に使わないといけない。それがフィオ姉からの教えだった。

「魔力はね?ある意味では命そのものなのだから完全に0にはならなくて大体8割くらい使うと打ち止めになるの」
「それと魔力の具現化に何が関係あるんです?」
「うーん…説明するより実践が一番かな。あの木をいつもみたいに攻撃してみて」

フィオ姉が何を押したかったのか分からなかった私は言われるがままに腕に魔力を集中させその拳を大木にぶつけその衝撃で木が倒れていく様子を確認した。

「これでいいの?」
「うん。ただこのままだと魔力の消費が大きいかな。カグヤちゃんなら今の半分も使わずに倒せるはずだよ」
「うそ?でも…今のでも殆ど魔力を込めていないのに…」
「もう一度手に魔力を込めて見て」

フィオ姉の言葉が理解できず再び拳を握り締め魔力を腕に込めた。そしてそのまま手に魔力をより高めようとした時…

「はい!そのまま!」
「えっ?でもこのままだと…」
「そう…このまま魔力を上げていくことによって余計にカグヤちゃんは魔力を使っているの」

フィオ姉の話を聞きなんとなく言いたいことが分かった。つまり私の一撃一撃には余計な魔力が消費掛っているということのようだ。

「それじゃあ…どうした方がいいんです?」
「そこで具現化よ。これは魔力をイメージした形にするの。例えば剣のような武器、矢や銃弾のような使い捨ての武器にもなるの」
「結構いろいろ使い道があるんだ…でもそれがどうして魔力節約になるんです?」
「それはね…」

フィオ姉は私がいつもやるように魔力を集中させた。それと共に腕を横に振ると大木に4本の爪跡が残った。

「こんなところかな…カグヤちゃんはブーストさせる形で魔力を使っていたのに対して今回はその魔力を使ってより広範囲な攻撃が出来るの」
「でもそんなことしたら魔力がさらに使うんじゃ…」
「具現化の便利な部分は消費した魔力だけ強くなること。そして具現化した者が破壊されない限り魔力を消費しないことなの。まあ理論はいいよ。まずは頭に攻撃のイメージを生み出すことだよ」

正直よく分からなかったけど要は破られない限り魔力消費を抑えて攻撃できるってことだと認識した。

「あれ?でも今フィオ姉は何を具現化したの?」
「ふふ…今具現化したのはね…————」

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「ナンダ…イマノハ…」

Gが見たのはカグヤの両手が淡く光り続けゆっくりと右手を振り上げていく姿だった。

「知る必要はないわ…今…吹き飛ばすから…」

そのまま腕を勢いよく振り下ろすとそれに合わせて赤い4本の軌跡がGに命中しそのまま腕を動かすたびに赤い閃光がGに命中していき片膝をついたGの姿を確認するとそれに合わせて再度腕を振り下ろし赤い閃光がGに直撃した。

「これで…」
「なかなか進まないと思ったが…邪魔ものがいたか」

ゾクッとした寒気にカグヤは思わず振り向きながら回し蹴りを放った。しかしその蹴りは空を切りカグヤの眼に入ったのは黒いローブに身を包んだ人物だった。

「何…あんた…」
「俺はJ…まさか俺の傑作品のGをここまで追い込むか…」
「J?あんたもあいつの仲間ってわけ!?」
「しかし面白い技だな。まさか攻撃その物を具現化するとはな」
「えっ…?」
「体を動かすことで思い描いた位置に攻撃できるのだろう?普通の魔術と変わらないようだが威力は高く攻撃範囲も視界内。一番の利点は魔力を消費しないことだな」

的確に自分の術を説明していくJにカグヤは眼を見開いた。実践でこの術を使ったのは今回が初めてということからたった一度の使用で攻撃を読まれてしまったことがカグヤに危機感を与えた。
そんな中でJは片手を軽く下に振り下ろす。その時カグヤの眼に入ったのはボロボロになり地面に倒れたGの姿だった。

「えっ?だって…そいつは…」
「こいつは俺の傑作品だと言っただろ?そしてこいつはまだ力を出し切っていないぞ」

その言葉と共にGの体は禍々しく光り始めてゆっくりと立ち上がった。それに合わせてカグヤは距離を取り身構えた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.78 )
日時: 2015/02/04 20:45
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

第38話

「本気じゃない?やられた言い訳のつもり?」
「言い訳ではないぞ。少し操作すればな」

Jの言葉には笑みのようなものを感じ正直気分がいいものではない…
そんなことを考えているとJはGに向けて指さしその指の先端には手のひらサイズの小さな魔法陣が浮かび上がりそれがゆっくりとGの頭部に向かっていきその魔法陣を受けた時ただでさえ禍々しかった雰囲気に拍車が掛ってもう人間とさえも思えなくなった。

「いまGに掛けていたリミッターを外した」
「リミッター…?」
「こいつは力が強すぎる上に自我も薄くてな…以前も放置したら村を際限なく破壊したんだ。だから普段は俺が力を抑えているんだ」

その言葉の正しさを示すようにGは腕を横に振るうとその衝撃が民家に直撃し壁に穴が開くのが確認できた。自分の力加減とは違い力だったようでGは指をパキパキと鳴らして私に視線を向けた。

「G…まだ仕事はあるんだ。あまり遊びすぎるなよ」

Jはその言葉を残しその場を離れようとした。本来は安心すべきことなのかもしれない。ただ私には一つの嫌な予感が頭をよぎった。

「ちょっと…どこに行くつもりよ!?」
「決まっているだろ…逃げようとしている奴らを処理しないとな」
「ちょっと!まち…っ!?」

Jを追いかけようとして遮ったのはGの蹴りだった。咄嗟に腕を出してその攻撃をガードするもその威力に堪えることが出来ずに気がついたら民家に叩きつけられていた。

「いたた…この!」

視線を再びJに向けようとした時にはその姿はなく代わりに映ったのはGが腕に魔力を集中させている動作だった。そしてその動きからGが何をしようとしているか理解できた。

「嘘!冗談じゃないわよ!」

すぐに立ち上がった私は腕に魔力を集中させ、Gが腕を勢いよく振り下ろした時、赤黒い閃光の軌跡が眼に映り、それに合わせるように私も腕を振り上げて魔力の爪を生み出し相殺した。

「こいつ…まさか…」
「ワタシハ…イチド…ワザヲミレバ…ツカエル…ヨリ…タカイ…イリョクデ…」

その言葉と共に腕を横に振ったGの動作と共に横から感じる衝撃波に倒れてしまった。
現状こいつは魔力を使った肉体強化、腕を振ることで生み出す衝撃波、そして私の使った魔力の爪が武器。しかもどれも私では防御しきれない攻撃。

「気に入らないけど…総合的には勝てないわね…だったら!」

腰に納めていたマシンピストルを構えすぐにオート連射で発砲した。その間にGは片手を前に出し半透明の魔力の壁を作り出しており弾丸を防御した。

「障壁まで?なら…これならどう!」

銃を連射したまま魔力を集中させ銃に纏わせた。それに合わせて銃から放たれるようになったのは淡く光る弾丸。それは障壁に命中するとそれを砕きG本人に命中させた。多少のダメージはあると思ったけど全く堪えている様子もなかった。

「なんなのよ…銃弾も効かないなんて」
「ボウギョハ…ソシキデ…イチバン…コノテイド…キカナイ」
「要は一番倒すのが大変ってわけね…まったく…これが所謂貧乏くじってわけね!」

銃を腰に戻したカグヤは地面を強く蹴り飛び込んだ。当然その動きを予測していたGは横からその長い脚で蹴りを放ちそれを素早くしゃがんで避け、その間に両手に魔力を込めていたカグヤは腕を横に縦にと腕を何度も振るいその間にもGをいくつもの赤い閃光が走り続け怯んだように後ろに一歩下がった。

「これで!いい加減倒れなさい!」

とどめとローラーブレードに魔力を込め放った蹴りはGの腹部に命中してその衝撃で地面に足を付けたまま吹き飛んだ。それでも地面に倒れる様子もなく攻撃が命中した個所も傷一つ付いているようには見えなかった

「オワリ…カ?」
「参ったわね…私の火力じゃ傷さえも付けられないんだ…」

------------------------------------------------------------------

「これで…ようやく全員ですね…」

住民たちの避難に集中したことによりリンクはようやく全員の避難を完了させることが出来た。

「リンクさん?」
「サクヤさん。大丈夫したか?」
「はい…カグヤちゃんやキル達は?」
「分かりません…ただ今からカグヤさんの加勢に行きます」

避難してきたサクヤにリンクはここまでに起こったことを簡単に説明していった。最も彼が知っているのはカグヤが足止めをしてえくれたことだけで他のことは知らなかった。

「では…皆さんにはここを動かないようにお願いします」
「はい…分かりました。リンクさんも気を付けてください」

サクヤの言葉を聞きすぐにリンクは街へと引き返し始めた。引き返すつもりだった。目の前に黒いローブに身を包んだ人物が現れるまでは。

「こんなところにいたのか」
「貴方は…」
「Jだ・今回の参謀の役目をさせてもらっている」

街へと向かう足をすぐに止め、後ろに一度視線を向け避難民から離れていることを確認した。その間にリンクの問いかけに答えながら片手を前に出したJの腕が赤く光った時それに合わせてリンクの周辺は炎に包まれた。

「これは!?」
「とりあえず…お前には犠牲者第2号になってもらおう」
「第2?」

リンクが疑問を感じるとともにリンクを包む炎は竜巻のように辺りを熱風で包み込んだ。

「んっ?まだ…面倒な奴がいたか…」

Jが呟くと共にリンクは炎の竜巻を突き抜けてレイピアを持つ手を引くとそのままJに向かい目にも止まらぬ突きをいくつも繰り出した。

「惜しいな…相手が俺でなければな」

突きが当たろうとした時リンクの腕を掴んでとめたJはそのままリンクを投げて木に叩きつけた。

「くっ…」
「悪いがもうお前の負けだ」
「まだ…うっ…」

Jの言葉と共にリンクは体に感じる虚脱感で立ち上がれなくなった。それと共にリンクが見たのは自分の腕から何か淡い緑の光がJに向かい流れ込む様子が見えた。


「こ…れは…」
「見えているのか?魔力の流れを」
「何を…」
「俺は触れたものの魔力を奪う能力がある。もうお前には手を出さなくていいだろう」

リンクが最後に聞こえたのはJの言葉とその場を立ち去っていく足音だった。

-------------------------------------------------------------------------

「あぐ!」

壁に叩きつけられたカグヤは体の痛みを堪えて立ち上がった。たび重なる攻撃を受け続けたことでメガネには罅が入り視界の悪化に繋がると判断しメガネを外した。

「後で弁償してもらうわよ!」

そのまま腕を振り下ろすことで放たれた赤い閃光はGに直撃するもまったく応えておらず、逆にGの腕を振り上げることで放たれる衝撃波で地面に倒れた。

「ソロソロ…アキタ…オワリ…スル」

カグヤがGに視線を向けた時衝撃波が自分に向かって来る様子が見えた。すぐに回避と考えながらも体はすぐに動かせず直撃を覚悟した。
その時一閃の光が地面に突き刺さり衝撃が二つに割れる様子と綺麗にカグヤを避けていくように通過した。その後に二人が見たのは地面に突き刺さった一本の槍だった。青の柄に銀色の刃というシンプルな槍でカグヤにとっては初めて見るものだった。

「いくらなんでも無茶のしすぎだ…カグヤ」
「…うるさいわね…大体来るのが遅いのよ…」

その言葉と共に槍は光りに包まれて槍は姿を消し持ち主の元に戻った。

「オマエハ…」
「僕はフラン…お前には悪いが…この戦い…続きは僕が戦うよ」

槍をくるくると回して構えたフランはGに視線を向けた。いきなり男場に当然納得がいかないカグヤはすぐに立ち上がった。

「ちょっと!待ってよ!こいつは!」
「すまない…こいつには聞きたいこともある…それに避難している人も助けてあげてくれ」

自分が近づくと多少なりとも反応を示すフランがまったく動揺しない様子からカグヤは一度ため息を漏らした。何を言っても許してくれないだろうと判断したカグヤはバシッとフランの背中を叩いた。

「だったら瞬殺してさっさと手伝いに来なさい!」
「分かった…」

すでにG に集中している様子のフランに力なく笑いそのまま避難民のいる集合地へと向かいカグヤはローラーブレードを走らせた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.79 )
日時: 2015/02/10 18:49
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

白騎士編

「ねえリオン…そろそろお腹空いたよ…」
「またか…さっき昼を食べたばかりだろ…俺の分まで食べただろ…」
「あれだけじゃあ成長期の女の子には足りないの!」

リオンと呼ばれる少年は白い甲冑に身を包んだ蒼髪の大人びた雰囲気を感じさせる。そんなリオンは呆れたように少女に視線を向けた。少女は少年とは違い動き安さを重視した軽装の鎧に身を包み金髪の長髪が特徴的な少女は喋らなければ幼さを残しながらもそれなりな騎士と見えているかもしれなかった。

「レミ…お前卒業式前にダイエットするとか言ってなかったか?」
「私くらいの年はそういうのは却って体に悪いってフィオナが言っていたの!フィオナみたいになるなら今からしっかり栄養を取らないとね!」

リオンは学生時代の友人をこの時ばかりは恨んだ。

「余計なことを…」

二人は先日魔法学校を卒業して騎士となるリオンは挨拶ということで生まれ故郷の村に向かっていた。
一応学校の宿舎にいる間に蓄えていた資金はあったが村までの旅の期間を考えた場合レミに合わせて食事を繰り返していた場合すぐに資金不足になるのが目に見えていた。

「はあ…こうなったら到着したらお腹いっぱい御飯を食べるからね」
「勝手にしろ…到着すれば資金の心配もいらないからな…」

広い草原の道なき道を歩いていきながらため息を漏らすレオンに対してレミは鼻歌交じりに歩いていたが二人にとってはこの状態の旅がごく普通のものだった。

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「リオン!焼けたよ」

夜になり俺とレミは水辺となる川辺を見つけてそこを今夜の野宿の場所に決めた。たき火で串に刺さった魚を焼きそれを挟んで向き合う形で俺達は転がっていた石に座り、魚の焼き具合を見たレミが話しかけて来た。

「ああ…しかし…よくこんなに獲ったな…」
「学校でもらったあの子のおかげだよ。ディキは魚を獲るのが得意みたい!」
「まったく…変な才能を見つけるのは本当に得意だな…」
「変なじゃないよ!生物の個々には必ずだれにも負けない才能があって…」
「分かった分かった…」

ディキはレミが魔法学校の卒業記念にもらった召喚獣で主に肉弾戦を得意としていた。それだけに意外な才能に感心してしまった。レミは卒業前から召喚獣という者に興味があり様々な召喚獣と契約とまでは行かずとも言葉を交し合うということはできていた。そういう意味では扱いが難しいと言われる今回の召喚獣もしっかりと自分のものにしていた。

「明日は山越えだな…」
「あの山かぁ…最近は魔物に盗賊がたくさん出るらしいから大変そう…」
「だからあそこは基本休みなしで一気に通過していくからな」
「ええ!?」
「分かったらさっさと寝るんだな…」
「って!どこ行くの?」
「俺はあっちで寝る…見張りもいるだろ…」
「たまには一緒に寝ようよ」

年頃のはずの女が言うセリフには思えずため息を漏らして俺は黙って手をひらひらと振ってその場を立ち去った。
去り際にレミがないか言っているようだったが特に歩みを止めることもなくその場を立ち去った。

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二人が今歩いていたのは村に向かうために越えなければならない山の登山口だった。昔は様々な鉱石が取れていたということだったが現在はすっかり寂れてしまい所々にある木々が生えているだけで他はボロボロの岩ばかりが転がっている荒れた状態だった。

「ここかぁ…」
「今から登れば明日には超えられるだろ…さっさと行くぞ…」
「えー…」

レミの言葉に特に答えることなくリオンは山へと足を踏み入れ始めた。




「ねえリオン…」
「黙って歩け…」

細い山道を歩いているとレミは周辺から感じる気配に辺りを見ないようにしてリオンに話しかけたが前を歩くリオンは特に何かを言うこともなく歩き続けた。崖に挟まれた細い道にまでやって来るとリオンは足を止めた。

「ここでいいだろ…」
「なるほどね…そういうことね」

リオンの意図が分かったレミはリオンに対して背を向けて背中合わせの状態で二人は剣を抜いたそれに合わせるように細い道の出入り口を塞ぐように男達が現れた。

「盗賊だな…」
「おまけに…それなりにやるみたいだね…まあ…襲う相手を間違えたよね」

逆手に腰に下げた2本の剣に手を掛けたレミはそのまま抜いてくるりと剣を回転させ持ち替えた。それに合わせてリオンも背中の大剣を引き抜いた。

「こらー!!あんたら何しているのよ!?」

突然の大声にリオンとレミは声の主がいると思われる頭上を見上げた。
すぐに目に付いたのは特徴的な栗色の髪の少女だった。小柄な身長に髪は短髪でタンクトップの上に黒のジャケット、下は白の短パンに黒のブーツを履いていた如何にも盗賊という服装だった。

「何だあいつ?こいつらの仲間か?」
「でも…違うみたいだよ?」

突然の乱入者に困惑する二人に対して周りの男達は特に応じる様子を見せなかった。

「なんだセレナ?たった二人の盗賊団がまた縄張り争いかよ?」
「うっさい!大体ここは私達のエリアでしょ!」

セレナと呼ばれた少女は盗賊達のボスと思われる他の盗賊達よりも重装備な鎧と巨大な斧を持つ男に喧嘩腰に話していく。

「これって…縄張り争い?」
「そのようだな…付き合う必要もない…行くぞ…」

盗賊団の争いに興味がないリオンは無視をして進行方向にいる下級と思われる5人の盗賊の男達に歩み寄っていった。

「逃がすな!やっちまえ!」

その言葉がと共に2つのことが同時に起こった。リオンの前にいる5人は倒れいつの間にかリオンを追い抜いて剣を納めるレミと逆側では盗賊のボスが倒れそのすぐ後ろには先ほどまで崖の上にいたセレナが立っていた。その手に握られていたのは黒い片手剣だった。

「さっさと出て行きなさい。次は本気で斬るわよ」

倒れていた盗賊のボスは自慢の斧を破壊された状態であるものの息はまだあり残った部下達が男を連れてそのまま逃げて行った。レミが倒した盗賊達も仲間を追いかけるようにその場を立ち去った。

「あの子強いねぇ…」
「そうだな…単純な早さならお前くらいかもな」
「ええ…そんなことないよ…」

二人が会話している間にセレナは片手剣を腰に下げた鞘に納めて歩み寄った。

「ごめんねえ。巻き込んじゃったよね」
「気にするな。特に被害があった訳ではないからな…」

二人の様子を見たセレナは安堵の表情を浮かべた。盗賊達の口ぶりから彼女も盗賊だと考えていた二人だったがここまでの様子や行動からはそのように見えなかった。

「さて…二人はこの山にどんな用なの?」
「何の用も何もただ通りたかったの。この山を越えた場所に用事があるからね」
「ふーん…近道教えてあげようか?」
「近道?そんなものがあるのか?」

この山に近道があるということが分からなかった二人は当然のことのようにセレナの言葉を疑った。

「ああ…まずは自己紹介しないとね。私は義賊「」のお頭を務めているセレナ。残念だけど二人は私達の獲物の条件に当てはまらないから大丈夫よ!」
「お頭!?」
「そう!貴女はいい反応してくれるね!」

自己紹介に対して一番驚くべき部分で反応を示したのはレミだった。そのリアクションに満足そうに頷いたセレナはレミの肩をポンポンと叩いた。

「ただで教えてもらうのが嫌なら…勝負する?それで私が負けたら教えてあげる」
「おもしろいかもね…あなたとは単純に腕試ししてみたいもの」

セレナの申し出にレミは笑顔を浮かべて腰に納めた2本の剣を抜いた。当然セレナも片手剣を抜きその黒い刃が煌めいた。そんな二人の様子にリオンはため息を漏らした。

「やるのはいいがもう少し広い場所でしたらどうだ?」

そう言い残し崖に挟まれた道を上っていく中二人は壁を蹴りながらリオンを追い抜き開けた場所までやって来るとそれぞれ剣を構えた。

ある暗殺者と錬金術師の物語 ( No.80 )
日時: 2015/02/18 00:43
名前: 鮭 (ID: Y9aigq0B)

白騎士編

俺がゆっくりと歩き二人に追いつくころには終わっているだろうと考えていたがその予想は裏切られた。二人の剣技は形だけ見ると互角に見えた。しかし余裕のないレミに対してセレナの表情は柔らかく笑みが浮かんでいた。

「驚いたな…ずいぶん必死だな」

俺の言葉が聞こえていないのかレミは必至な表情で、それでもいつもと変わらない調子で剣を振るい続けていた。振り下ろされたレミの剣を横から軽く剣で衝撃を当て、高速の突きは上から叩いて攻撃の軌道を次々とずらし続けるセレナ。

「まるで剣舞だな…」

とても腕試しの場には見えない二人の腕試しは昼から始めたのにも関わらず気がつけばもう少しで日が沈みかけるまで続いた。その終了は突然だった。どちらからということもなく二人はその場に倒れた。仰向けになったまま倒れた二人は対照的な表情だった。勝利を得られなかったレミはいつも俺やフィオナに負けた時のように悔しそうな表情を浮かべ、セレナにおいては遊び疲れた子供のように満足げな笑みを浮かべていた。

「くやしー!もー!」
「あはは…楽しかったねぇ」

疲れを見せながら体を起こすレミに対して笑顔を絶やすことなく体を起こしたセレナを見て違和感に気付いた。

「セレナだったか…お前感情がコントロールできないのか?」
「あらら…バレた?普段はいいんだけど戦いになるとどうしても楽しくなってしまうの」
「なんかそれ聞いたことあるかも…笑剣だったかな?」

笑剣。文字にするとふざけているようにしか見えないが戦いにおける表情が見えない特殊な剣技でもある。単純に言うと笑いながら戦えばいい。しかし戦いにおいて常に笑っているというのは実際困難で格下が相手ならともかく互角、あるいは格が上の相手には表情が引き締まるのが普通だ。だからと言って表情のことを考えると肝心な戦闘能力の低下に繋がる。

「こんな剣技が使えるのは余程戦いが好きな戦闘狂か…あるいは…」

視線をセレナに向けるとすでに呼吸を整え、剣を鞘に納めていた。その様子にレミは不満が残るようで頬を膨らませて剣を鞘に納めた。

「なんだ?勝てなくて不満だったか?」
「不満だよ!あの子…全然こっちに攻撃して来なかったし…」

レミの声が聞こえているのか聞こえていなかったのか分からないまま戦いのときとは変わらない笑顔を向けた。

「今夜は遅いし泊めてあげる。今日は留守番で一人だったから退屈だったんだよね」

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「はい!口に合えばいいけど…」

セレナに案内されたのは山の中腹の辺りにある洞窟だった。入ってすぐの位置にあったのは所謂居間というものでキッチンも一緒に配置されていた。奥にさらに続く道も別れるように二つ存在し、二人が聞いた話によると奥は寝室になっているという話だった。そして今テーブルに並べられたスープ、絵に描いたような骨付き肉、そして近くの森で取ったという山菜料理だった。

「凄い…初めて見る料理もあるしおいしそう!」
「一応栄養管理も私がしているからね。まあ部下の体調管理もお頭の務めだからね!」
「だが二人ってさっきの奴らは言ってなかったか?」
「そういう細かいことはなし!」

相変わらず笑顔を絶やさずに話すセレナに何かを思う様子を見せるリオンに対しレミはスープを一口飲んでから表情を緩ませた。

「おいしい!こんな味初めてだよ!」
「決め手は私達独自の調味料の味噌だよ!」

気分よく料理の話をするセレナとその話を一生懸命聞くレミの様子を見てリオンが考えたのはセレナの境遇についてだった。ここまでに至るまでの経緯は彼女の不安定な感情状態がものが立っているように思えた。

「あれ?リオン?食べないの?」
「もしかして口に合わなかった?」
「いや…少し考え事をしていた。俺もレミと同じ感想だ。というよりもその年でここまでしっかりしていると思うぞ。」
「そりゃあ18にもなればこれくらいはね」
「うそ!年上!?だって…てっきり…」
「見えないでしょ?いろいろあってね!」

セレナの笑顔の内には何かあると分かりながらも二人はそれ以上何かを聞くこともなく食事を続けた。

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「ねえ…リオン…起きてる?」
「…なんだ…?」

2段ベッドの上で私は下で寝ているリオンに話しかけた。天井を見上げればすぐに届きそうな天井。でも布団は暖かくて久しぶりにまともな寝床で寝られていると思う。そんな中で本来なら気持ちよく寝るつもりだだったのにいつまで経っても眠れなかった。

「セレナって…何でああなったのかな?」
「さあな…だが俺達が考えるべきことじゃないよな…」

リオンの言葉に思わず体を起こしリオンに視線を向けた。辺りは暗くなっていたが目が慣れてしまっていたこともあり横になっているリオンの姿が目に入った。

「でも気にならないの?」
「俺達にやれるのはこれ以上セレナのような人間が生まれないようにすることだ…」
「でも…」
「セレナは少なくとも今が不幸だと思っていないようだぞ?」
「えっ?」

リオンの言葉に私は言葉に詰まった。頭に浮かんだのはセレナの笑顔。剣を何時間も交えている間セレナが浮かべていたのは本当に自然な笑顔だった。勝てなかったのは悔しかったけど…でも…

「楽しかったんだろ?セレナとの腕試し…」
「…楽しかった…あんなに燃えたのは久しぶりだったかも…」

卒業前は二人とも忙しかったせいでまともな腕試しを出来ずにいた私が全力で戦ったのは数カ月ぶりだったし
そもそも二人との戦いだと戦い方の違いから相性とかそういうのを言い訳にして負けても悔しさがなくなっていた気がした。この二人が相手だから仕方ないそんなことばかり考えていた。

「でも…今日は違った…言い訳できないくらいだよ…」
「セレナも同じだと思うぞ?不思議な奴だよ…何でも心から楽しんでいる」
「そうだね…セレナがかわいそうだと思うのは失礼だし…そもそもおかしかったんだね」
「分かったら寝るんだな…そんな格好だと風邪ひくぞ?」

リオンが逸らしたままなことに気付き、視線を自分に向けた時大変なことに気付いた。洗濯するからと衣服をセレナに預けて自分が下着姿だったということを…。

「ば…っ!…ばか!」

顔が真っ赤になる感覚と共に声も出せず布団に潜り込んだ。

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「騎士か…じゃあ二人と仲良くしておけば私達にとっては好都合かな」
「お前達が目立つようなことをしなければだ…」

山道をセレナに案内されながら二人は山道を進み続けて他愛もない会話をしていた。3人は山を登るということが殆どなく山を横切るように道を進んで行った。抜け道ということだけあり魔物などに遭遇することもなく進んで行き案内された道を抜けると二人が普段通っていた山道の終わりまで来ていた。

「ここに抜けるのか…これならもう出口だな…」
「本当だね。いろいろありがとうセレナ」
「お互い様だよ!騎士になったらまたおいでよ!」

二人は私の案内に満足してくれたようで二人が近くの名もない村に住んでいること、魔法学校の卒業生だということ。いろいろ話をした。山道の終わりに近づいてくると私は足を止めた。

「じゃあ私の案内はここまでだね」
「ねえセレナ?またよかったら一緒に来ない?歓迎するよ?」

レミからの言葉は素直に嬉しかった。この二人とはこれからも友人としていたいと思う。でも…

「ううん…私にはここで待っている人がいるから…だから残るよ」
「そうか…なら…また再会できる時を楽しみにしている…」
「私も!セレナに今度は完膚なきまで倒してあげるんだから!」

二人と交わした会話はこれが最後だった。覚えているのは笑顔で大きく手を振るレミと軽く手を振り自分の村へと向かって見えなくなっていった。


ここまでいい出会いは本当に久しぶりで私は上機嫌だったのを今でも覚えている。でもその後二人に会うことはなかった。ただ数年後…私はこの二人の話を聞くことになるけどそれはまた別のお話。


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