複雑・ファジー小説
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- 堕天使フェリオテーザ
- 日時: 2014/03/23 16:45
- 名前: タンポポ ◆JjwOOJMv2c (ID: gOBbXtG8)
—プロローグ—
「ぐあっ!」
自殺志願者が一人、落ちてきた。
当時周囲にいた人々は、誰もが例外なくそう思った。
否、落ちてきたそれは人ではない。
美しい朝焼けが、後に雨を降らすことを告げる午前7時。
一点の汚れもない西洋の町並みの一角で、数枚の黒い羽と共にそれは落ちてきた。
その羽は、烏のものではない。
落ちてきたそれの持ち主だ。
落下による外傷はあまり負っていないが、衝撃により肋骨を初めとする骨が数本折れたのが分かった。
初めから負っていた外傷は少なからずあるので、それに加えた骨折の痛みで更に意識が朦朧としてくる。
鮮血が滴り続て止まることを知らず、全身の血液の量は明らかに足りなくなってきている。
「くっそぉ……」
それでも尚ちょっとした悪態をつき、片膝をつきながら立ち上がる。
落ちてきたそれは年の頃15近くの、堕落した漆黒の天使だった————
- Re: 堕天使フェリオテーザ ( No.1 )
- 日時: 2014/03/23 21:12
- 名前: タンポポ ◆JjwOOJMv2c (ID: gOBbXtG8)
獣人や妖精など、人ではない種族はこの世にはごまんと存在する。
ただ、天使や悪魔というのは極めて個体数が少なく、中でも堕天使は存在しないといっていいほど少ない。
というより、堕天使は今まで存在していなかったと言い切ったほうが正しい。
天使に至っては、天界からやってきては人々と交流をかわして再び天界へ戻っていくが、堕天使はそうはいかない。
故にその場にいた人々は、ほぼ全員がその場を立ち退いた。
この漆黒の天使が何者なのかを知らないためだ。
だが、落ちてきたその堕天使『フェリオテーザ』は、そんなことなど微塵も気にしないまま服についた土を払った。
同時に、魔法に似て非なる『天術』を使用して自らの傷を癒す。
天術は魔法に近い性質を持っているが、魔力を使用しないために半永久的に使用することが出来る。
これは天使にしか成せない技だが、堕天使でも元々天使なので天術は使える。
因みに天使の着る服装は、翼を衣服から出さねばならないために特殊な構造をしている。
単に服に穴が開いているわけではない。銀の装飾が目立つ、黒い装束衣装だ。
その黒い衣装も元は白だったが、堕落したために、神から翼と共に塗り替えられてしまった。
これでよし。天術で傷が消えたのを確認したフェリオテーザは、それと同時に自分に話しかける存在を確認した。
「あのー」
「?」
どこだ。
そう思いつつ辺りをキョロキョロしていると、背後からフェリオテーザの黒い翼を突く者がいた。
反射的にバサッと翼を一つ動かし、フェリオテーザは背後を振り返る。
そこには、金髪の長い三編みと水色のぼんやりした目が印象的な少女が立っていた。
フェリオテーザの赤い目と、少女の水色の目が丁度同じ位置にある。
「何だ?」
機嫌が悪いわけではないが、フェリオテーザは渋々と言った風にぶっきらぼうに反応する。
少女はそんな彼の反応に少し驚いた様子を見せたが、それは至って当然である。
天使は御伽噺の中だけでなく、実際に存在する天使も例外なく優しい性格をしている。
加えて、世間が堕天使という存在が実在すると知っているはずもない。
故に、フェリオテーザが堕天使だということを知らないので、少女は彼を天使と勘違いしているらしい。
「て、天使さん……ですよね?」
だが、天使たちの住まう天界では、堕天使という存在は当たり前のような存在となっている。
そのせいでフェリオテーザは一瞬「コイツは何を言っているんだ」と思ったが、堕落した天使が地上にいることなど此処の世間は知らないはずだとすぐに思いなおした。
「俺は天使ではない」
「えっ……じゃあ、何ですか?」
あぁ、やっぱり。
地上の世間は堕天使という存在を知らないらしい。
フェリオテーザは渋々、少女の瞳を見据えたままに答える。
「俺は堕落した天使……堕天使だ」
「だ、堕天使さん……?」
「そうだ。今の俺は天使ではない」
それを聞いた少女は驚きと疑問を隠せずにいた。
- Re: 堕天使フェリオテーザ ( No.2 )
- 日時: 2014/03/23 22:29
- 名前: タンポポ ◆JjwOOJMv2c (ID: gOBbXtG8)
その後フェリオテーザは、話を詳しく聞きたいというその少女『エルミカノン』と町の外へ出てきていた。
魔獣の心配があるが、ここであれば誰かに話を聞かれる可能性も低くなる。エルミカノンのささやかな配慮だ。
そんな配慮をされたとは全く気付いていないフェリオテーザは、然も当然かのように指示された場所へと赴く。
町から一歩出ると、そこからは森林道が続いている。
そんな道で、やがて手ごろな岩を見つけた二人は、その岩に座って話を開始した。
太陽が南中しようとしているが、朝焼けが美しかったので雲に隠れてあまり見えない。
隠す雲は灰色で、何ともいえない感覚で気が滅入る。そんな人も少なからずいるだろう。
「で、聞きたいことって何だ」
「まず、堕天使と天使の違いについてを」
「あー……」
まさか、そんなことも知らないのか。
そう言いかけたフェリオテーザだが、先ほど彼は察している。
地上の世間には、堕天使に関する一切の情報が出回っていない、と。
すぐに思い直して頭を抱えそうになった彼だが、何とかその衝動を抑えて説明を始めた。
「堕天使……その名の通り、天使から堕落した存在だ」
「堕落?」
「そうだ」
天使には元々、戒律というものが存在する。
その戒律を故意に5回以上破る、或いは天使を管轄する神に過度に逆らうと、その天使は堕落する。
堕落した天使は装束と翼が黒く塗り替えられ、拷問を受けた後に地獄へと落ちる。
はずなのだが、フェリオテーザの場合は異例で何故か地上へと落ちた。
何故地上へ落ちたのかは謎だが、通常は地獄へと落ちて悪魔と共に暮らすこととなる。
「ふうん……」
そんな話をフェリオテーザから聞かされたエルミカノンは、神妙そうな表情で何度か頷いている。
「じゃあ次に。フェーザって何で堕落したの?」
「フェーザ?」
唐突に出てきた単語に、フェリオテーザは一瞬困惑した。
そんな彼を見たエルミカノンは、あ、といいながら明るい表情で言う。
彼女の白く小さい、右手の人差し指が顔の近くで立てられる。
「君の愛称! フェリオテーザって、何か長いしね」
「俺のかよ……まあ、別にいいか」
「やったぁ!」
はぁ、と溜息をつくフェリオテーザ。
もしかしたら気に入られたか。そういう気がしてならないのだ。
先ほどまで敬語だったのも解除され、今や普通に馴れ馴れしい態度と口調で相対されている。
馴れ馴れしいのは嫌いだが、エルミカノンもやけに人懐っこいので、こちらも無闇に邪気に出来ない。
つまるところ、一番面倒なパターンだ。
そう思って頭を抱えている彼を見たエルミカノン。どうかしたかといわんばかりに、彼の顔を覗き込んだ。
「どしたの?」
「!?」
目を開けたフェリオテーザ。
鼻と鼻がくっ付きそうなほど近くにあったエルミカノンの顔を見て、彼は思わず上半身だけ半歩ほど引いてしまった。
ほぼ同時に、彼の額から冷や汗が流れる。
「お、驚かせるなっての……」
「あはは、ごめんねっ」
曖昧な苦笑いを浮かべるエルミカノン。やがて、先ほどの話の続きを促した。
「それでフェーザ、何で堕落したの?」
「あぁ? 堕落の理由?」
だが、よく考えてみれば馬鹿げた質問である。
堕落する理由は先ほど話したはずであり、エルミカノンも——少なくとも見た目では——理解していなかったわけではない。
そう思ったフェリオテーザは、腕を組んでやれやれと首を振った。
「何故堕落するか。それはさっきも話しただろう」
すると、彼の思っていたことはエルミカノンの知りたかったこととは違ったらしく、彼女は膨れっ面で形のいい眉根を顰めた。
その勢いでフェリオテーザの顔に再び自分の顔を近づける。近付かれた距離分だけ、フェリオテーザは彼女から身を引く。
「私が知りたいのはそうじゃなくて、堕落するに至った切欠は何かってこと!」
「あぁ……要は、俺の過去が知りたいのか」
「うん!」
ようやく意味を理解したフェリオテーザは、納得するようにまた溜息をついた。
それでもエルミカノンは気にすることなく、先ほどの膨れっ面を元に戻して話を楽しみにしている。
仕方ないので彼は、自分のそう遠くない過去を話すことにした。
「知ってるか? 己の私利私欲がために自己中心的なことを言うのは、何も人間だけじゃねぇんだぞ」
「えっ……? じゃあ天使も?」
「それだけじゃねぇ。お前らがよく信仰してる神々全てもだ。人類を思うように操作して何かをしてやがる……ま、分かりたくもない事実だから俺が知ったことではないがな」
前置きとして話された事実を聞き、エルミカノンは思わず硬直してしまった。
まさか、普段から自分たちが信仰している神々が醜行をやってのけるはずがない。
そう疑えて仕方ないからである。
「人類という名の玩具で遊んでる神々はな、どいつもこいつも醜いんだよ」
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