複雑・ファジー小説
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- ある森の狩人の話
- 日時: 2014/03/26 23:39
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
本当は「お久しぶり」なのですが…。
あえて言いましょう。初めまして!
徒然に、衝動に身を任せて小説を綴るNiSi(ニシ)と申す者です。
今回、こちらの「小説カキコ」以外の小説掲示板に投稿し、そして完結した小説を、少々のアレンジを加えてこちらにも投稿したいと思います。
この作品は今からかなり以前に完結し、実質「初めてインターネットの世界に投下した小説」といえる物で、個人的には大変思い入れのある話です。
皆さんにもぜひ、目を通すだけでもして頂ければ幸いです。
《登場人物》
『僕』
主人公。「都会」育ちの青年。
猟師として山中で暮らしている。
『彼女』
「僕」と出会った少女。
記憶喪失をしているらしいが…?
『先輩』
「僕」の先輩にあたる。ベテランの猟師。
それでは。物語の始まりです。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.11 )
- 日時: 2014/03/26 22:29
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−第10話 狩猟解禁日−
あれから、「森の掃除」を終えて、
僕たちは帰路に着いた。朝方のモヤモヤはすっきりしていた。
今日は、今まで行かなかった場所にも足を運んだせいで、帰り道を見失う事も一時はあったが、それもそれで楽しかった。
「初めてかもな。こんな気持ちになるのも。」
僕は道中ボソリとそう呟いた。
この森に住みついてから、もうちょうど2年目くらいだろう。
いつも森は、自分の住処として、暮らしていくための「場所」としてしか見ていなかった。
でも、今では、まるで「公園」で遊び回っているかのように、森の中を歩き回ると心が躍った。
何か変わった草木は無いかな。動物の住処なんて見つけたらおもしろいのにな。などなど、色々な景色に思いを馳せながら森の中を駆け巡った。
きっと、彼女のおかげだ。
そう思うしかなかった。否定する理由も見つからないし。
実際に、森ではしゃぎまわる彼女について行くと、さまざまな発見もあった。それが助けになっていると僕は思っていた。
ふと彼女は立ち止まった。僕は不思議に思いながら彼女の視線を追った。
大きな木が切り倒されていた。
多分他の狩人が薪に使うために伐ったのだろう。かなり大胆に、バッサリと伐られていた
その伐り株から、新しい枝がたくさん生えていた。
元の伐り株の木肌と色が違うせいでもあって、まるでサナギの抜け殻から美しい蝶が出るような、新しい何かが生まれ出てきているような感じがした。
「へえ・・・木もやっぱり生きてるんだな。なんか神秘的だな。」
僕がそう独り言を言っていると、彼女は、
「うん。」
と満足気に答えた。
木が、新しく枝を伸ばすその姿を、母親が成長していく子供を見るような優しい目で見つめていた。
「いきてる。」
最後に、こう呟いた。
明日からは、ついに狩人の仕事が始まる。
この3,4ヶ月間(多分それ以上)、禁止されていた動物の狩猟が、明日、春先の訪れと共に解禁される。ワクワクはしない。生活を賭けた動物との戦いが始まるのだ。むしろ気が引き締まる。
「よし、準備はオッケーだな。」
僕は猟銃の整備をして言った。小さいカバンには、銃弾やナイフなどが入っている。明日に備えて、今日は何も考えずに早く寝ることにした。
彼女が準備中。不思議そうに僕を見ていたのには少し気掛かりになったのだけれど……。
朝。
ついにこの日が来た。
『狩猟解禁日』。
僕は昨晩用意していた道具一式を担いで、ドアに手をかけて言った。
「じゃあ、暖炉には気をつけて、留守番を頼むね。」
昨日の晩に決めておいた。さすがに狩に一緒に行くのは彼女のことを考えると危険に思えた。ので、狩の間は、彼女に留守番を頼むようにしておいた。
「……。」
彼女は、昨日の晩は留守番について同意してくれたのだけれど、
なぜか今日は朝から様子がおかしい。何も言わない。
「……どこ行くの?」
そう、一言聞いてきた。
「え……?ああ、狩に出かけるんだ。昨日言ったような気がするけど…?」
何も考えずに、僕はさらりと言った。
彼女はそれを聞いたとたん、いきなり自分の部屋へと駆けていった。
どうしたのだろうと思って、あわてて僕も後を追おうとした。
しかし、その必要は無く、彼女はすぐに部屋から出てきた。
でも僕は駆け寄らなかった。
いや、驚きで、恐怖で、駆け寄れなかった。
僕の目に映っているのは、
短剣を抜き放ち、僕の方へと刃を向ける彼女だった。
- Re: ある森の狩人の話 ( No.12 )
- 日時: 2014/03/26 22:57
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−最終話(前編) 「ありがと。」−
僕と彼女が共に暮らすようになって、どのくらい経つだろうか。
彼女は僕に、いろいろな顔を見せてくれた。
初めて見たときは、怯えた顔だった。まあ、初対面だったから当たり前か。
あの顔から、次第に笑顔が増えてきて、今では笑顔がトレードマークの彼女であった。
しかし、今日の彼女の顔は、あの頃の様に怯えた顔だった。
「ど・・どうした・・・!?」
僕は理解できずに、じりじりと後ろに下がるだけだった。
彼女はそれに合わせて、僕へと近寄ってくる。
剣は、僕に向けられたまま。
「あ…危ないから早く納めて…。」
「……いやだ……。」
「へ……?」
彼女は目じりに涙を浮かべながら、今までに無いほど大きく叫んだ。
「ころすなんて・・いやだああああああああ!!!!」
そう叫び、剣を振り上げ突っ込んできた。僕はとっさに動けなかった。
振り下ろされる剣を、僕は猟銃を盾にして防いだ。
それでも彼女はそのまま剣を銃へ押し付ける。銃を折ろうとするかのように。
「な、なんだ!?昨日まではなんとも言っていなかったじゃ無いか!!」
「……いやだ!いやだ!いやだ!いやだあ!」
さっきから、彼女は狂ったかのように『嫌だ』としか言わない。
剣と銃がこすれて、ギリギリ、と嫌な音を立てる。
僕が狩人であることは一番初めに教えたことだ。
だから彼女は、荒く言うと僕が森の生き物を殺して生活を営んでいることは理解している筈だった。
今になってこんな事をしてまで僕を止めようとする事が、僕には理解できなかった。
「いったい何が嫌なんだ!?」
そう言って、僕は彼女を押し倒して剣を取り上げようとした。
だけど彼女は、剣をしっかりと持って放そうとしない。
「この手を放せ!!いくら僕でも許さないぞ!!」
彼女に対して、ここまで強く当たったことは無かった。
そんな一面を初めて見せる僕に、彼女は全く驚いていなかった。
さらに彼女の剣を握る力が強くなる。
「ころすなんて……っ」
更に力が入っていくのが判った。掴まれた腕を振り解こうとする。
僕は、それに気圧されて彼女の腕を掴む力を抜いてしまった。
「いやあああああっ!」
渾身の叫びと共に体を起こし、そのまま僕の手を振り解き剣を振るう、
僕は体を横によじって避けようとした。
何とか体に突き刺さらなかったが、腕を浅く斬ってしまった。
「……っつ!!」
「…!?」
切れた傷口から血が流れ出てくる。
僕はその場で動けずに、傷口をかばうことしか出来なかった。
その時、彼女は我に返ったのか、ピタッと動きを止めた。
「あ…ああ………。」
力なく出した声と同時に、彼女は剣を床に落とした。
彼女は自分のした事がどれほどのものか理解したらしく、悲しげな顔をしていた。自分はどうしたらいいのか、わからない様子だ。
「いいよ。ちょっとかすっただけだ。手当てすれば……。」
僕は彼女に救急箱を取ってくるように言おうとした。
が、彼女がそれよりも前に、驚くような事をし始めた。
いきなり彼女は、僕の傷口に顔を近づけ、
傷口を舐めてきた。
溢れ出ている血を、舌で受け止めるように、
まるで傷ついた動物が、その傷口を舐める様に。
「えええっ……!ち、ちょっと!!」
勿論驚いた僕は慌てて傷口から彼女を離した。
そのときに、ハッと気付いた。
そういえば、彼女にはまだ、傷の手当ての仕方を教えていなかった。
それでも、なぜ彼女はよく昔から言われる『傷なんて舐めてりゃ治る。』事を知っていたのだろうか。それもまた、僕は教えていなかったとに気が付いた。
とにかく手当てをすばやく済ませた。少し痛むけれど、動くのには差し支えなかった。彼女はというと、手当ての間、ずっと黙っていた。
「よし……。もう大丈夫。」
僕がそう言うと、彼女は立ち上がって、僕にこう言った。
「わたし…たすける。」
「へ?」
どういう意味かわからなかった。
でも、次の言葉に、僕は固まってしまった。
「わたし……なかま…まもる…!」
そう言って、ドアを開けて出て行こうとした。
その時に、彼女の言葉を理解できず硬直する僕を見て、
「……ありがと。」
そう、優しく、また悲しみを湛えた(たたえた)目で言った。
僕は、後悔した。
あれは別れの挨拶なんだと悟った。
僕は、「さよなら」という言葉を、彼女に教えていなかった。
「ごめん」という言葉も。
あの「ありがと」には、その二つが込められていたんだ。
『もう彼女に会えない』。この言葉が脳裏を過ぎった。
「ま、待ってくれよ!」
慌てて僕は彼女を追いかけるため、
狩の道具を担いでドアを勢い良く開けた。
ー後編へ続く−
- Re: ある森の狩人の話 ( No.13 )
- 日時: 2014/03/26 23:10
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−最終話(後編) 物語の終焉−
森の中を、1人の少女が駆けていく、
その少し後ろから、1人の少年が走っていた。
その少年は、その少女を追っているようだ。
僕は走り続けた。低木を跳び、下り坂は滑りながら降りた。
それでも彼女との距離は縮まらない。彼女は軽やかに森の中を駆ける。
「待って……止まって!」
立ち止まり、僕は叫んだ。でも彼女は立ち止まってくれなかった。
彼女にはまだ聞きたいことや言いたいことが沢山ある。
なのに、こんなにあっけないお別れで済ませるなんて。単純に僕には堪えなれなかった。
走り行く彼女を追って、僕は再び走り出した。直後、
パーン…。
久しぶりの銃声が森に響いた。
遠くで誰かが撃ったようだ。
それを聞いた彼女の足はさらに早くなった。
もう僕には追いつけそうもない。そう思った。
すると彼女が根か何かに躓いた(つまずいた)のだろう、ばたりと倒れた。 あの時、逃げようとして倒れた彼女と重なって見えた。
好機だと思って僕は走り出した。
すると、彼女のすぐそばの茂みから、巨大な塊が飛び出してきた。
「フグオオオオオオォォォァァァッ!!!」
そいつは叫びながら現れた。
ツキノワグマ……!
それも驚くほどの大きさだ。僕の家ほどではないだろうかと思う。
その巨体に驚くと同時に、僕は先輩のある言葉を思い出した。
−この森には、長くこの森を住処として生き、
獲物を見つけると大暴れする巨大グマがいる。
とても荒れた性格から、「森の暴れん坊」と呼ばれている。—
そんなクマが、彼女を見て舌なめずりしている。
彼女は倒れて動かない。靴が根に絡まって、動けないのだろうか。
逃げれない彼女に、「暴れん坊」はゆっくり近づいていく。
助けなきゃ。
僕はすばやく銃を構え、弾を装填した。
狙いは頭。
一発目を撃つ。だが、少し狙いがずれた。「暴れん坊」の目の前をかすめただけで終わった。
それで僕を存在を知った「森の暴れん坊」は、自分を討とうとする僕めがけて走ってきた。
僕は再装填して、狙いを定める。
が、出来なかった。
手がガタガタと震えていた。突進の勢いに気圧されてしまっていた。
『何をしてる…早く引かないと……』
引き金に指をかけるが、引く力が入らない。
僕の恐怖心が「暴れん坊」おの距離が縮まるごとに大きくなってゆく。
必死に自分自身を叱咤激励する。
『引けっ!!』
そう心で叫び、自分の指がそれに応えようとした時、
僕の体全体が痺れた。視界は、気付けば空を見ていた。
突進で飛ばされたのだ。
「うぐっ!!」
そのまま背中から落ちた。一瞬息が詰まったが、腐葉土のおかげで、気絶せずにすんだ。
「グゴォオッ!!」
「森の暴れん坊」は、とどめをさそうと突進を再開した。
僕は寝転んだまま、足の方向から振動が迫ってくるのを感じた。
気が付くと、手に猟銃は握られていなかった。飛ばされたときに離してしまったのだ。
「く……ぁ……。」
腹に力が入らないせいで起き上がれない。
このままでは「暴れん坊」に踏み潰され、八つ裂きになって彼の食事になってしまう。まさに絶体絶命というやつだ。
それでも、彼女が助かるなら、それでいいやと、
不思議にも悔しさは込み上げて来なかった。
そう思っていたら、ふと、右手が何かに触れた。
その手の先を見ると、彼女の付けていた短剣が転がっていた。
走って落としたのか。そう思うと、不意に右手に力が入った。
「まだ……死んでたまるかっ!!」
そう叫んぶと、不思議と全身に力がみなぎってきた。
剣を握り締め、起き上がりと同時に剣を前へ突き出した。
ほんの偶然だった。
突き出した剣は「暴れん坊」の胸元に突き刺さった。
突進の勢いもあったせいで、剣は分厚い皮と肉を突き破ったのだ。
そして、心臓を貫かれた「森の暴れん坊」は断末魔の叫びをあげることなく崩れた。
僕は唖然としていた。生きているのか、一時は疑った。
「…………! あ、あいつは……!?」
僕は彼女を思い出して立ち上がった。
そして彼女のいたところへと走る。
彼女がいたと思われる場所に着いたとき、僕は立ち止まって動かなかった。
服が無造作に脱ぎ捨てられていた。
靴は、片方根に絡まったままだった。
その先にあったのは、力強く地面を蹴った跡。
しかし、それは人間の足跡ではなく、
鹿の足跡だった。
僕はそれを消さないようそっと歩み寄り、足跡を見た。
そして、ふうっと息を吐き、さらにその先の森を見つめた。
心は、自分でも怖いほど穏やかだった。
「よかった。」
僕は森を見、空を見上げてそう言った。
−終わりー
- Re: ある森の狩人の話 ( No.14 )
- 日時: 2014/03/26 23:17
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−エピローグ 「物語」−
「…………。これで、このお話は、お終い。」
男性は、いすに座ったまま、ふうっと一息ついた。
同時に、その話を聞いていた子供たちがわっと騒ぎ始める。
『集落』の子供たちと森の散歩をしたその男性は、自分の家に子供たちを招き、「物語」をしてあげたという。
今回だけでなく、過去にも何度か違う物語をしてあげたこともあるらしい。
今日の話はいつもとは違って、主人公は彼自身だった。
「ねえ……おじさん。」
1人の少女が男性に聞く、男性はほほ笑みながら少女に目をやる。
「なんだい?」
「今の話って、本当にあったの?」
男性は子供たちを連れて、大きな老木へっと行った。
『集落』の子供たちははしゃいでその老木へとよじ登る。
そしてこう口々に言った。
「おじさーん! みて!そら! そら ちかいよ!」
男性は眩しそうに子供たちを見ていた。
子供たちが帰った後も、男性はその老木の大きな根に腰掛けていた。
ぼんやりと、ただ空を見上げていた。
と、いうよりも、何か感傷に浸っているようにも見えた。
かさっ、
男性の近くで小さく物音がした。
物音に反応し、その音源へと男性は目をやった。
鹿だ
狩人である彼は猟銃をすばやく構え引き金へと指をかける。
が、そこで止った。
鹿はその場で動かない。男性をじっと見つめる。
その黒い瞳からは、警戒の感情は読み取れない。
鹿は、彼は自分を撃たないと確信しているようだ。
「……ああ。」
男性は銃を下ろし、鹿へと近寄る。
鹿は逃げない。
男性はそのまま鹿の額をなでた。
鹿は、目を閉じていた。
男性はすべてを悟ったように、笑顔で鹿にささやいた。
「よう、久しぶり。」
—これで、この話は、お終い。—
- Re: ある森の狩人の話 ( No.15 )
- 日時: 2014/03/26 23:37
- 名前: NiSi ◆y2eau8XC5Y (ID: /GuZTiav)
−おまけ 「作者から。」−
ここまで御覧頂き、本当にありがとうございました。
冒頭でも申したとおり、この作品は、今(2014/3月)からほぼ3年前に、僕が作った初めての本格的(?)な小説です。文才に恵まれない僕の処女作ですので、色々無理な展開が見受けられますが、そこはどうか生暖かい目で見逃していただけると幸いです(汗)。
今回、こちらに投稿するにあたって、旧作そのままではなく、何度か読み直して、不足を補ったり、余分をそぎ落としたりと…色々手を加え、リメイクしたモノをこちらに投稿しました。正直、手直しして悪化してないか心配しております(苦笑)。
現在、新しい小説の原案を作成中です。(絶賛ペースダウン中)
これもまた、こちらの掲示板に投稿しようと思います。
感想、コメント、せん越ながらお待ちしております。
苦情、指摘も受け付けております。製作中の小説に活かしたいと思います。
ただ、あまり強く当たらないでいただけると嬉しいです。
豆腐より強度の無いメンタルの持ち主でして…(苦笑)
長々と書き連ねましたが、最後に、
こんなつたない小説でも読んでくださった皆様、
本当に、本当にありがとうございました!