複雑・ファジー小説

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銃声と道化師
日時: 2014/07/05 14:56
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)
参照: ※エロ、グロ表現があります。

 君は誰?
 私は道化師。貴方が思う存分操る、からくりピエロ。

 君は何処にいる?
 私は貴方のそばにいる。貴方だけの道化師としての役割を果たすために。

 君に生きる意味はある?
 私に生きる意味はない。私たらしめる私も、貴方の中の私ももう死んだ。

 それは何故か?
 何故なら、私は只の人形なのだから。
 はい、よく出来ました。

 ————私の人生、こんなはずじゃなかった。ねぇ……何で貴方は、私を見てくれないの?


  ◇ ◇ ◇


—銃声と道化師—

一章—別れ—

零話〜秘密基地〜>>1
一話〜夏休みの日常〜>>2
二話〜遠くへ〜>>3
三話〜会いたい〜>>4
四話〜答えは簡単〜>>5
五羽〜駆られた衝動〜>>6

Re: 銃声と道化師 ( No.3 )
日時: 2014/05/03 22:49
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)

 ————とまあ、こんな調子で夏は過ぎていった。

 一日ずつ。少しずつゆっくりと。
 エッチに発展しそうになってもやめて、会話が無いかと思えばいつの間にか会話が元に戻ってる。
 そんな毎日の繰り返し。
 だけどある日、奏ちゃんの元に凶報が届いたんだ。

 それは8月の1日の事だった。

「っ……」
「ごめん……怜奈!」

 その日の私は、駅にいた。
 一日に数本しか通らない電車を待っているのは、荷造りを終えた奏ちゃん。
 奏ちゃんは泣きながら、同じく泣いている私をギュッと抱きしめてくれる。

 奏ちゃんはやがて、電車に乗っていってしまった。


  ◇ ◇ ◇


 奏ちゃんが帰った先は、今の彼の家じゃない。
 帰った先は、奏ちゃんのおばあちゃんがいるところ。ここから凄く遠い。
 会いに行こうと思って会える距離じゃないのが明白なほど。

 おばあちゃんが、病気で倒れちゃったんだって。

 そうして、私を置いていった。


 ————会いたい。でも会えない。


 ————胸が苦しい。今にも息が止まりそうだ。


 私は一人で、このログハウスでの夏の終わりを迎えることになる。
 愛した人と遠距離になる。こんな結末なら、エッチのひとつでもしてあげればよかった。
 聞けば、返ってきてほしい期日は予てより聞かされてたんだって。

 ————何で、私に言ってくれなかったんだろう。

 その疑問だけが、私の脳裏を渦巻いている。
 もしかしたら、私を悲しませたくなかったのかもしれない。
 だとしたら、今私は凄く悲しい。

 ————何で、言ってくれなかったんだろう。もっとしてあげれること、あったはずなのに。

 涙が止まらない。
 ここにいても、私の胸が締め付けられるだけだ。

 もう、帰ることにした。


 このときの私は知らなかった。
 奏ちゃんの姿が、既に滲んでいたなんて。

Re: 銃声と道化師 ( No.4 )
日時: 2014/06/15 17:01
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)
参照: 久し振りの更新でごめんなさい!

「え〜、奏君は急ですが、一時的に学校を休むことになったそうです」

 夏休みがあけて、始業式の今日。
 ホームルームで先生が話をしていた。よりにもよって、奏ちゃんの話を。
 夏休み前の思い出話とかもしてくる。私は、あふれ出る涙を堪えるのに必死だった。
 ここで泣いたら、きっと情けないって思われる。だから、我慢だ。

 でも、ホームルームを終えても、私は無口になりがちだった。


  ◇ ◇ ◇


「怜奈ちゃん、大丈夫?」
「辛かったら頼っていいからね? いつでも力になるから。ね?」

 下校中、私の友達〈園田綾〉と〈山下朱美〉が、私の背中をさすってくれた。

「ありがとう……」

 私はただ、そういって泣くことしかできなかった。

 もし、遠距離が辛いって言って別れ話を切り出されたら。
 もし、奏ちゃんが向こうで誰かと付き合っていたら。
 そう思うともう、耐え切れない。私という存在が壊れてしまいそうだ。
 今この場に友達がいなかったら、私は多分動けなかった————

 友達と別れた後、不意に私の携帯が鳴った。
 明るいメロディーなのに明るい気分になれないまま、私は携帯を鞄から取り出す。

 ————奏ちゃんからだ。

「!?」

 私は我を忘れてメールボックスを見た。

〔明日、1日だけ会える。カフェ亭コトリの前に午前10時に来てくれないか?〕

 そんな文が、画面に羅列されていた。
 ————とても信じられない。でも、返事など決まってる。

 会いたい。会って、奏ちゃんの温もりを感じたい。
 夏休みの残った一ヶ月、ずっと泣いて過ごした日々を吐き出したから。

Re: 銃声と道化師 ( No.5 )
日時: 2014/07/05 14:20
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)

 私は翌日、奏ちゃんとよく一緒に言っていたカフェ亭コトリまでやってきた。
 それはもう、自分でも信じられないくらいに必死だった。
 今日という時間を作り出すのにあらゆる犠牲を払った。ただ奏ちゃんに会えるということだけが脳内を支配してて。

 ————でも、答えは簡単。待ち合わせは4時間前で、ここには私1人だけがいる。所詮はそれだけのことだ。

 街行く人々は、稀に私のほうを見ては様々な視線を向けてくる。
 カフェ亭の前に広がる大通りを往復する人なら尚更。
 私を見て嘲笑ったり、可哀想に、と一言だけ呟いていく人がいたり、それはもう様々だ。

 何度も何度も、同じようなメールした。
 だけど奏ちゃんから答えは返ってこない。時間だけが過ぎていくんだ。
 この答えを受け入れることで、私は前に進めるかもしれない。
 簡単なことだ。奏ちゃんは、私を捨てたんだ。でも、信じられない。認めたくない。
 私の事を愛してくれた奏ちゃんが、私を捨てるなんて————

 やがて日は暮れ、星空が見え始めた。
 私はカフェ亭から離れ、近くにあった公園のブランコに座ることにした。
 さっきから溜息しか出ない。これじゃあまるで、恋する乙女よろしくじゃないの。
 皮肉にも、現状的には合ってるけど。

「あれ? 怜奈ちゃん?」

 聞き慣れた声がした。
 けど今の私には、地面に落ちた視線を持ち上げる気力さえ残っていない。
 きっと声の持ち主は綾ちゃんだろう。

「おーい、どうしたー?」

 綾ちゃんは私の頬を手で包んで、顔を持ち上げた。

「ちょ、どうしたの?」

 何があった。そんな質問に答えたくない。
 どうか察してほしい。
 答えるだけで、涙が溢れそうだから。
 でも、もう私は泣いていたみたいだ。
 綾ちゃんが私の目元を拭う。そのハンカチは、明らかに濡れている。

「どうしたの? 奏君と何かあったの?」
「うぅ……察してよ……答えさせないで……」

 口に出すと、奏ちゃんが私を捨てたという答えを認めてしまいそうだったから。
 だから、私は口に出して言いたくなかった。
 すると綾ちゃんは不意に、私を優しく抱きしめてくれた。

「綾ちゃん……?」
「もう、泣きたかったら私の胸で泣いていいから。まずは落ち着いたら?」

 その後、私は涙が止まらなかった。


   ◇ ◇ ◇


 綾ちゃんに慰められて、私は何とか落ち着きを取り戻した。
 その後、何も会話は交わしていない。
 綾ちゃんはただ黙って、私を家まで送ってくれたんだ。

「おばさん、今は何も聞かないであげてください」
「あら……」

 ママが私と綾ちゃんを出迎えた。
 その際、綾ちゃんがママに代わりに伝えたいコトを伝えてくれた。
 ママも、分かってくれたのかな。

「分かったわ。ありがとうね」
「いえいえ、それでは! じゃあね怜奈ちゃん!」
「うん……バイバイ」
「あはは、やだなぁ怜奈ちゃんたら。そこは"おっぱいいっぱい"って言わなきゃ!」
「も、もう……学校のネタをこんなところにまで持ち込まないでよね……」

 こんなとき、綾ちゃんのキャラが私の傷を癒してくれる。
 少しだけ、笑うことが出来た。

Re: 銃声と道化師 ( No.6 )
日時: 2014/07/05 14:54
名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: gOBbXtG8)

 あれから2年もの時が流れ、奏ちゃんとは音信不通になってしまった。
 暇さえあればメールを送った。でも、着信拒否はされてないみたいだけど、返信は一向に来ないばかり。
 電話もかけたけど、全然出ないばかり。まさに、電話にでんわ、だ。
 奏ちゃん、今頃どうしてるのかな————

 ある日、進路の選択に追われる日々を送っていると、一通のメールが来た。

 奏ちゃんからだ。
 でも、私はメールボックスを開かなかった。

 奏ちゃんが、滲んで見えないんだ。
 愛していた奏ちゃんが。全霊をかけてでも会いたいって願った奏ちゃんの姿が。
 滲んだシミはやがて、汚れとなって落ちる。それと同じで、私は奏ちゃんの姿が滲んでいる。
 もう、忘れかけているのだ。

(忘れられたら、どれだけ楽になれるんだろう……)

 色々思いつつも、私は好奇心半分にメールボックスを開いた。

〔そんなに会いたいなら、お前がこっち来いよ〕

 その一文を見た瞬間、私の奏ちゃんに対する感情が一気に変化した気がした。


   ◇ ◇ ◇


 更に時は流れて冬休み、私は受験勉強もせずに電車に乗っている。
 雪の降る地へと向かうので、服はふわふわなコーデで決めてみた。
 帽子も被って、マフラーもして、カイロも持ってと、完全な防寒対策をして。

 電車は何度も乗換えをした。
 バスにも乗った。バス停からも、しばらく歩いた。
 私がやってきたのは、山間部の田舎町。
 それも、更にそこから少し離れた山小屋のようなところだ。

 私はインターホンを押す。
 私は全く知らないこの場所に、誰が住んでいるのかを知ってる。

「おぉ、怜奈! 会いに来てくれたか!」


 ————出てきたのは予想通り、奏ちゃんだった。

Re: 銃声と道化師 ( No.7 )
日時: 2014/07/18 15:35
名前: ワッフル (ID: gOBbXtG8)
参照: トリップをメモした紙を失くしまして。一応言っとくと、本人です。

「いやー、久し振りだな。結構しばらく振りじゃないか?」

 奏ちゃんは山の中を縫うようにして、私を連れまわしていた。
 曰く、景色の良い丘があるからそこへ連れて行ってやる、との事。
 ちょっと興味もあったりしたけど、私はそれ以前に、重大な決断をしてこの場にいるのだ。
 景色を楽しんでいる暇はない。

「奏ちゃん」

 やがて丘についたころ、私は奏ちゃんを呼び止めた。

「ん? どうした怜奈?」

 振り返った奏ちゃんの顔は、完全に滲みきっていた。
 好きだった笑顔を見せてくれているはずが、全くドキドキしない。
 手も握ってくれてるけど、全然ときめかない。
 もしかしたらこれは、奏ちゃんの事がどうでもよくなってきた証拠かもしれない。

 私は奏ちゃんの手を振り払い、距離をとる。

「れ、怜奈?」

 私は今まで、いっぱい悲しい思いをしてきた。
 心は癒されることなく、傷だけが増えていく一方だった。
 そうして覚えた心の痛みはもう慣れたけど、思い出すたび何時しか、私の感情は真っ黒い憎悪へと変わるようになった。
 乙女心を玩んだ罪は大きい。つまりはそういうこと。

 私は鞄から、拳銃を取り出した。

「——っ!」

 奏ちゃんが固まった。そりゃそうだ。
 かつて愛し合った仲である女の子に、いきなり銃口を向けられたのだから。
 これは決して玩具ではない。銘柄は分からないけど、正真正銘、本物の拳銃だ。
 でも、手に入れるのに苦労はしていない。何せ外国製だから。
 一時私はアメリカに留学していたので、その時に拳銃の免許を取って、合法で銃を持っていたことがある。
 そこから日本に持ち込むなんて、至極簡単なこと。
 特殊なブラックケースに入れておけば、どうということはないの。

「怜奈……お前、それが何なのか、分かってて俺に向けてるんだろうな!?」

 この拳銃が本物だと分かったらしい奏ちゃんの目つきが変わる。
 とても怖い目つきをしているけど、私は怯まない。

「うん。拳銃でしょ? 分かってるに決まってるよ」

 本物の拳銃は、持つたびに思うけど結構重たい。
 私だと両手で構えないといけないくらい、重量がある。

 怒る奏ちゃんを目の前にして、私は告げた。
 今日この日、この場所へ来た目的を。

「私はこれでね、奏ちゃんを殺すの」
「!?」

 奏ちゃんの居場所はママが教えてくれた。
 だから予てより奏ちゃんには会えたはずなんだけど、やっぱり彼の姿は、その時から滲んでいたの。

「山の中にいるからって、メールが出来ないわけじゃないでしょ?」
「——あぁ」
「だったら、何でメールの返信くれなかったの? 私がどれだけ苦しんだか、どうせ分かってないんでしょ……」
「————」
「ねぇ、何で?」
「————」
「答えて!」

 私は声を荒げ、セーフティを外す。
 何を訊いてもだんまりな奏ちゃんに、私は失望した。
 私はこんな男にファーストキスを奪われ、会えないことに苦しんでいたのか、と。

 奏ちゃんが目を閉じた頃、私は躊躇いなく引き金を引いた。

 サイレンサーのお陰で銃声はなかった。
 飛んでいく弾が、奏ちゃんの肩へ命中する。

 甘かった。
 命中精度が悪いのは私の癖。
 よって、奏ちゃんを殺すことは出来なかった。

 それでも、まだ弾薬は十分にある。
 今度こそは殺す。
 そう胸に誓ってまた引き金を引こうとしたときだ。


 奏ちゃんは、泣きながら笑っていた。


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