複雑・ファジー小説
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- 「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚
- 日時: 2014/09/06 03:26
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: ykAwvZHP)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2/index.cgi?mode=view&no=8089
【目次】
語り部紹介 >>1
『前説』 >>2
『足音』 >>3-4
『とん、ぴとん』 >>5
『八十年蝉』 >>6
『小隊、此処に並び飛ぶ』 >>7-8
『渋滞の多い道』 >>9
『天使の音楽会』 >>10
『土蔵の猫』 >>14
『すずがらす』 >>15
『訳あり物件のエクソシスト?』 >>16
『静謐の犯人』
——————————————————————————————————
そう、全ては「だて」なのであります。
そう、「すいきょう」なのであります。
一夜を明かしませう。
あおぐろい光の下で。
—————————————————————————————————
【前書き】
何時だってどうも始めまして、駄文士のSHAKUSYAです。
別の所であれこれ書いていますが、それとは全く関係のない、駄文士の息抜きホラー短編集です。
良ければ流し読み程度に。
【注意】
・ この小説はジャンル「一応全年齢」「一人称」「和風ホラー」「オムニバス」「ごく軽微なグロ」「軽い死ネタ」を含みます。でも期待しすぎはNGです。
・ スレ主自体に霊感は全くありません。何も見えない人の創作だと思って、お気楽にお読み下さい。
・ 一般に言う『荒らし行為』に類するコメントの投稿はおやめ下さい。荒らしはスルー、これがこのスレ内の基本です。
・ 更新は不定期です。予めご了承下さい。
・ コメントは毎回しっかりと読み、噛み締めさせていただいておりますが、時に駄文士の返信能力が追いつかず、スルーさせていただく場合が御座います。予めご了承いただくか、あまり中身のないコメントの羅列はお控えいただくようお願い申し上げます。
・ この物語はフィクションです。
【お知らせ】
・ 根緒様の御題屋(URL参照)から、御題『天使の音楽会』を頂きました。根緒様、コメントもありがとうございました!
(平成二六年八月五日 改)
- Re: 奇譚、有ります。 ( No.13 )
- 日時: 2014/08/05 09:00
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: 6Q1uGoC5)
返そう返そう返さなきゃ、そう思い続けて二ヶ月。
真夏真っ盛りなのにまだ話が一桁しか進んでない件。
>>11
狐さま
コメントありがとうございます、ご無沙汰しています。
ずっと前にコメント自体は読んでいたのですが、何やかやとあった挙句放置プレイになってしまいました。お詫び申し上げます。
実は私、割と一人称も書いちゃう人なんですけどね(´・ω・)<上手ではありませんが
でも飛びついていただけて何よりです。
雑談板でもお話しましたが、桔梗さんのことを言及してくださったのは狐さんが初めてです! 桔梗さんの語り口は割と悩んでいたので、一定のリアクションがいただけてとても嬉しいです、ありがとうございます!
十人分の口調の書き分けは私にとって良くも悪くも難しい課題です……問題はこれがどこまでちゃんと維持できるかですね(´・ω・`)<最初と最後で口調が変わっちゃうからなあ、僕
冬どころか、このペースだと一年掛かっても終わりそうにないですorz
よければ、長い目でご愛読くださいませ。
コメントありがとうございました!
>>12
根緒さま
いえいえ、お久しぶりです。忘れてなんかいませんよ!
お題の方、大変重宝させていただきました。
百物語、しかも「座談」という設定上、実際にその場で語っているような語りにしたい、と思ってこんな形式と相成った次第。あまりない一人称で不慣れな部分も露呈していますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
す、素敵だなんてそんな///
話単体でコメントいただけるのもとても嬉しいです。ありがとうございますっ。
実はこのお題、もうちょっとオカルティックなオチにしたかったんですが、「天使の音楽会」という美しい言葉の響きをオカルトでぶち壊すのはマズいと思い、ストーリーラインをかなり変更していたりする裏話。
ピアノを心から愛し続けた先生だから、そしてようやく司書先生のリクエストを叶えられたから「楽しげ」なんでしょう、と自文自釈しておきます。でも、佐野先生の心情は皆様の捉え方次第です。
出会いにwktkするのも人生の楽しみです。
それでは、コメントありがとうございました!
- Re: 奇譚、有ります。 ( No.14 )
- 日時: 2014/12/19 02:33
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: QOcWa.9/)
- 参照: 漆 (語り部:桜庭 賢)
『土蔵の猫』
「佐野先生」って聞いてなんか引っ掛かってたけど、あの人じゃねぇか。
確か、凄い権威のあるコンクールでいきなり金賞掻っ攫っていって、世界中のピアニストをびっくり仰天させた人だろ。オレはあんまり詳しくないけど、オレの父さんがすげぇ大ファンでさ。訃報を聞いた日は自棄酒かっくらって、まだ中学生だったオレに絡み付いて一晩中泣いてたんだぜ。キモいだろ、大の男が絡みつくんだぜ。
そっか、司書の先生と仲良しだったのか……でも楽しそうに弾いてたなら、それはそれで良かったんじゃねぇのかな。司書の先生だって、思い出して辛く思いこそすれ、怖くは無かったんだろ?
——萩さんに美ぃちゃんと、因縁譚が二つ出てきたけど、あいにくオレはそういうのは一つも持ってなくてね。桔梗さんみたいな、口直し系の軽い話しかネタが用意できなかった。今からの話はその中でも一番軽めの奴で。
そうだな、京さんとおんなじくらいのノリで、軽ーく聞いてくれ。
まあ、まず、前提の話をしよう。オレん家にある土蔵についてだ。
皆知ってるかもしれないが、あの土蔵含めた土地は、元々オレの祖父さんだか叔父さんだかが持ってた所でな。今や桜庭家の家人はオレしか居ないから、一応オレが預かってるんだけど、この家の土蔵にちょっと問題があって……待てや姐さん。耐震性はクリアしてるから。震度七の地震が来ても崩れねぇから。
ったくよ、話を脱線させようとするなっつの。
……で、その土蔵な。霊の通り道の真上にあるんだよ。
いやさ、オレの祖父さんも、敬さんの本業と似たようなことやってたから、その関係なんだろ。その祖父さんの話も後でする予定だから、この話はちょっと後回し。本筋に戻ろう。
んで、土蔵が霊の道の真上にあるって話だが、オレが今から話したいのはそっちじゃない。まあ、土蔵の位置と、少なからず関係はあるだろうがさ。でも本題は、土蔵にずっと住み着いてる、猫のことだ。
——そう、オレん家の土蔵には、猫が住み着いてるんだ。ミケって名前だった。
それも、オレが知る限り、オレの祖父さんが生きてた頃から。だからまあ、少なくとも二十年以上も前から、ずっとそいつは土蔵に住み続けてる。死んだ父さんも苦笑いしてたよ、「あんだけ長生きするなら、いつか尻尾が増えて踊りだすんじゃないかな」ってさ。
でも——父さんが病気で入院した位の頃から、ミケが急に元気を失くしちまって。どうしたんだって心配してる内にミケは姿を消した。もう今から五年前、オレが成人する前で、父さんが死ぬ一週間前のことだった。
……そしたら、の話だ。
それは、去年の夏。ちょうど今みたいな、黄昏時をちょっと過ぎたくらいの時間だ。
オレはその時、やっとこさ買った希購本を仕舞おうと思って、鍵の束片手に、真っ暗な土蔵の奥にいた。
桐ちゃんとか姐さんは知ってるだろ、土蔵の奥がどんなに暗いか。やっぱり何か居るんだろうな、オレん家の土蔵は裸電球五十個つけてもまだ真っ暗い場所で、裸電球から五メートルも離れたらもう足元が覚束ない。……そう、だから何時もは懐中電灯を持って入るんだけど、まあその時は両手に本抱えてたからな。
まだ整理できてない本とか、散々ネズミに食われてダメにされた本とか、そんなのを足で退けながら、ようやくオレは希購本を仕舞う本棚に辿りついた。その時だ。
「なぁお」「なぁあ」
つって、猫が鳴いてるんだよ。あの、土蔵に住んでた奴と、全く同じ——あのミケが。
いや、オレ的にはビックリギョーテンものだよ。確かにアレは随分前から住んでたけど、でもオレが成人する直前にはもう姿を消してたんだ。土蔵の鳴き声が聞こえなくなった、流石のミケももう大往生かって、病院でチューブに埋もれてた父さんに笑ったことは忘れちゃいない。
嗚呼。もう五年も前に居なくなってたはずの奴だ。何で今更ってのと、何であのミケがってのとで、怖いとか何とか言う前にハテナマークで頭が一杯だった。俺は口閉じるのも忘れて、本抱えたまま突っ立ってた。
「なぁ」「なごぅ」
また声がした時にゃ、随分時間が経ってたな。はっとして本を近くに置いて、見てみたケータイの時計は七時過ぎ。三十分くらいオレはその場でボーっとしてたらしい。そんで、そこで何故か「本どうにかしなきゃ」って、何か変に真っ当なこと考えてさ。握りしめてた鍵束がちゃがちゃして、本棚の鍵を開けた。
その時が、一番心臓が止まるかと思ったね。
ミケが、いたんだ。
全然変わってなかった。やたらドデンとした太い身体も、ちょっとボサボサした毛並みも、ニンマリした黄色い眼も、まだら模様が入ったヒゲも、何もかも。ただ、今まで半野良だったはずのそいつの首元には、赤い首輪と金色の鈴がはっきり見えたよ。……悪かったな猫好きで。
でも、おかしいと思うだろ?
ぶっちゃけ希購本用の本棚なんか、年に何度も開けたり閉めたりするようなところじゃない。ミケがもし以前オレがアレに触れたとき手違いで入ってたってんなら、多分干からびたミイラになってる。それに、猫があんな密閉空間で、あんな悠然と丸くなってるワケがない。
あのパニック状態で、そこまで打算的なことを考えちゃいないけども。でも一目見て変な状況だし、ミケがあんまりにもニンマリ顔で箱作ってるもんだから、呆れたよ。
「ミケ、何やってんだ」
「なぁご」
尻尾ぱったんぱったんさせながら、「分かれよ」って言ってるみたいに一声鳴いて。むっくりその場に立ち上がったかと思うと、ミケはオレの足元に擦り寄ってきた。それからもう一声。分かれよって。
——あー、喋る猫って奴? ミケもその類だろうな。昔からよく喋ってたよ。なごなご五月蝿い奴だった。
そうだな、飯要求してるのはすぐ分かった。でも、正直言ってオレは本を早く片付けたいわけで。後にしろよってちょっと邪慳にしたら、オレの背に爪立てて、カッターシャツばりばり引っ掻いて、また鳴いて。でもこのままにしとけないからってまた邪慳にした。
そしたら、そいつの声色が変わってな。
「ばぁか」
そんな風に鳴いた。変だと思うかもしれないけど、確かにそんな風な声を出したんだ。他の何でもない、確かにミケがそう鳴いた。……少なくとも十九年は付き合ってきたオレが言うんだから間違いねぇぞ。
嗚呼。ばぁかって何だって、ぎょっとして振り向いたら、ミケの姿はもう無かった。ただ、ミケの走る後姿だけが、物凄い速さで遠ざかっていくのが見えたよ。オレはそれをボーっと見てることしか出来なかった。
でも、不思議と怖くはなかったよ、足音が消える最後まで。今だって怖かない。
——何たって、あいつが帰ってきたんだから。
父さんが一番可愛がって、最後の最後まで会いたがってた、あのミケが、さ。
何だか湿っぽい話だったかな。
次の人、明るい話でよろしく。
- Re: 「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚 ( No.15 )
- 日時: 2014/12/19 02:34
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: QOcWa.9/)
- 参照: 捌 (語り部:桐峰 千鶴)
『すずがらす』
ニンマリ顔のミケちゃんかー。いいなぁ、現物に会いたかった。最近の猫ちゃんって皆美猫ばっかなんだもん、たまにはそういうさ、古風って言うか、日本風のベトンってした猫をもふもふしたいな。
……でもさぁ賢ちゃん、それも十分因縁譚だと思うんだけど。だって、猫とは言え係わり合いの深いコなんでしょ? 二十年も一緒に居て、そんな子とまた会ったって言うんなら、何かご縁があるんじゃないかしら。
ま、わたしのはホントに因縁譚じゃないんだけどね。まだ一桁だし、軽い話よ。オバケですらないわ。
そう、千刻堂に来るよりちょっと前、大学受験の時だったかしら。
わたしは元々県外住まいで、高校の時からアパートの一階で一人暮らししてたんだけどね。
そう、受験中は皆カリカリして、酷い目にあった人も多いと思う。わたしも大変だったのよ。勉強しなきゃ勉強しなきゃ、でもバイトもしなきゃで、ご飯がまともに喉通る日が全然なくって。成績もなし崩しに落ちてくし、一夜漬けしてるうちに夜は気が立って眠れなくなって、トイレで便器抱えながら一晩過ごしたこともザラ。
で、どんどん合格圏内から成績が外れてくから、その内勉強するのも何するのも怖くなってきちゃってね。家に閉じこもって電話線全部切って、ベッドの上で枕抱えたまま動けなかった。
……ゴメンね、みぃちゃん。そういえば大学受験だったっけ。……あれ、もう決まってたの? 推薦?
へぇえ、良かったじゃん! おめっとー!
——って、祝福してたら夜が明けちゃう。話戻そ。
そう、で、ストレスで家から出られなくなってた頃かな。
窓もカーテンも締め切って、隙間から日の光が漏れてやっと昼か夜か分かるような、そんな暗い部屋で、わたしはその時も枕抱きかかえて丸くなってた。その時は水も何も採ってなかったから、もうからからのミイラみたいだったと思う。耳鳴りが凄くてほとんど何も聞こえてなかったわ。
でも、その時に聞いたの。不思議な声。
ころろろろっ——ころろろろっ——ころろろっ——
って。鳥の声だったわ。
何て言ったらいいのかしら。その時は一瞬、水笛みたいって思ったけど、でも全然違うの。他のどんな鳥でもない、不思議な、でもとても綺麗な鳴き声だった。
そう、わたしね、鳥大好きだから。声の主がすごく気になって、その時三日ぶりにベッドから降りたの。それで、もう一ヶ月も開けてなかったカーテンを開けた。
でも、わたしの前に鳥はスズメ一匹居なかった。サッシ窓の外から見えたのは、家のベランダと、その向こうで立ってた女の人だけ。鳥が飛んでった影もなし。でも女の人が持ってた鳥形の水笛ならよく見えたわ。
何で? ってなるでしょ。わたし、死に掛けのミイラさんになってたことも忘れて、ベランダに繋がるサッシ開け放して、ベランダまでよろよろ。寒風が身体に痛かった。
でもね、そんなこと気にしていられない。わたしはふらふらしながら、とにかくベランダの手すりに縋りついて、突っ立ってわたしを見てた女の人に声をかけた。さっき鳥を見ませんでしたかって。
女の人は黙ったまま。そうかと思うと、面白そうにちょっと笑ってね。ゆっくりガラスの笛を口に当てたの。
——ころろろっ——ころろっ——ころろろろっ——
はっとした。笛からあんな音が出るなんて、思いもしなかったから。
目がまん丸になるのがよく分かった。口もぽかーんってしちゃって、手すりに寄りかかってなかったら、きっと腰も抜けてたと思う。そのくらい、聞いた音と笛のギャップが凄かったの。その時のわたしは、あれの主が鳥だってばかり思い込んでだから、笛が犯人なんて予想もしなかったわ。そんな余裕もなかったし。
そう、でね。
ぽけーってしてるわたしをじろーっと見てたかと思うと、女の人がお腹抱えて笑い出して。真っ赤な口紅を引いた口が三日月みたいで、ちょっと不気味だった。絶句して、手すりによっかかって、わたしは笑い転げてるその人を見ることしかできなかったわ。
それから、どの位経ったかな。
何処からかスズメの鳴き声がしたと思ったら、女の人がぱたっと笑い止んでね。真っ白な地に真っ黒なカラスの刺繍が入った、寒々しい浴衣の裾をぱたぱたひるがえして、ベランダの傍まで来たの。それから、またニヤッて、変な風に笑って、笛を吹き始めるのよ。
——ころろっ——ころろろっ——ころろろろっ——
すぐ近くで鳴ってるはずなのに、すごく遠くから聞こえてた。音は何回も何回も、寂れた住宅街の中で反響して、山彦みたいに遠ざかる。不思議な響きで、またしばらくぽーっとしちゃって。
何かの振動……まあ、手すりを何かが叩いた衝撃で我に返ったら、その人は真っ赤な口で笑ったまま。吹き口の所にちょっと紅のついちゃった笛をキセルみたいに持って、鳶色の眼を足元に眇めてたわ。開けっぴろげの浴衣のあわせから、ちょっと谷間が見えちゃってたのが目の毒。
……賢ちゃん、次貧乳って言ったらぶちのめすよ。
あはは……何でもない何でもない。
それでね、そうやって少し寂しそうな感じで、彼女はぽつっと、何か言ったの。
「すずがらす」
——うん。言ってること、一瞬よく解んなかった。
聞いたことない単語って、何だか飲み込むのに時間掛かるでしょ。だから、最初に「へ?」って言ったきり、目ぱちくりしちゃったりとかして。その人はまたちょっところころ笛を鳴らしながら、もう一度、すずがらすって。
そう、それ何って話になるでしょ。わたしも聞いたわ。そしたら、もっとワケ分かんなくなっちゃった。
「すずがらすは悪い虫を食べるから、黒いの」
……間抜けな声って出るものよね。
「へ?」って。変な声上げて、とりあえず目ぱしぱししてたら、その人は心底面白そうにニヤニヤして、ちらちらって手を振った。それからわたしが正気に戻って、待ってって言う頃にはもう、何処かに走っていなくなってた。
まあね、もちろん。聞いたわ。
その人、ご近所さんでも有名な、所謂「頭のおかしい人」だったみたい。時々やってきて、ああやって笛を鳴らしては、変な言葉を呟いて、何もしないで何処かに消えていくんだって。
……でもね、わたしは今でも、その人がおかしな人だったなんて思えないの。
- Re: 「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚 ( No.16 )
- 日時: 2014/09/06 03:24
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: ykAwvZHP)
- 参照: 玖 (語り部:藤堂 薫)
『訳あり物件のエクソシスト?』
すずがらす。
鈴みたいに鳴くカラスなのやら、鈴みたいな音を出すガラスなのやら。きっとどっちもね……
あら、会ったことはないわよ。そもそも住んでる場所が全然違うじゃない。
えぇそう、引っ越したわ。千刻堂に近いほうがいいと思ったのと、前の家はいわく付きだったっていうのとでね。今からする話は、そんな前居で起こった小話。あんまり長いと閊えるし、短めに話しましょ。
平たく言うと、アタシが前に住んでたアパートの部屋は『訳あり物件』だったのよ。
ポルターガイスト、ラップ現象、謎の隙間女に意味不明な蟲が一杯。金縛りは毎日、リビングの真ん中で首吊りなんて日常茶飯事。時にはカビ一つ浮いていない水周りから腐肉臭がしたり、ほとんど空の冷蔵庫一杯に蛆が湧いたり。なるほど家賃が一万円だって、このアタシが納得できるくらい酷い家だった。さすがに冷凍庫にまで蛆ゴキブリの類が湧いたときには、どーしよーこれーって頭抱えたけど。
でも、アタシはそんなものもう慣れっこだったからね。普通に生活してたわ。
……ゴメンね皆、晩御飯食べてきたばっかりなのにこんな話で。もうこんなこと言わないから許して。
——でも、そんないわく付き生活も随分早く終わったわよ。すごく変な方法で。
その日は今からきっかり二年前。まさに二年前の今日の、深夜二時を回りかけた頃ね。
そう、心霊現象は起こった。
ファミレスのランチみたいに日替わりで出てきたけど、その日は人に見えない蟲が家中に一杯。
いくら見えないって言っても、あんなにいたら移動しにくいったらありゃしないわ。仕事に行ってる間はよかったけど、それから帰ってきて晩御飯食べてお風呂入って寝るまでが、もうね。
まとわりつかれて泥みたいに重たい足を引きずって、何とかベッドの傍まで行ったんだけど。
その時ね、物凄い音がしたの。壁から。
あんまり詳しく内容は言えないんだけど、その……ドストレートに言うと……喘ぎ声が。
ええ、そう、もう、幽霊に出会うよりビックリ。
壁蹴りたくって、すごい勢いで何か口走ってるの。
しかもそれ、男の声よ? どうしようもなくて立ち尽くしちゃったわよ。壁はポルターガイストが起きたときよりめちゃくちゃに鳴るし、出るだの何だのいう喘ぎ声はどんな幽霊の声より野太くて怖いし。正直、幽霊なんかより、こんな奴に襲われる方がおっそろしいことだと思うの。
……ほんっとにゴメン。座談の最初っから気分悪くさせちゃってるわね。でももう終わるから安心して。
でよ。目もばっちり冴えて、まだドンドン鳴ってる壁を睨んでたら、急に別の声がしてね。
「ご、ごめんなさい……怖いです……ごめんなさい……」
気弱そうな男の人。姿は見えなかったけど、声色が今にも泣きそうだったのがお笑いね。
でね。その声と気配が遠ざかるのと同時に、まとわりついてた蟲もぜーんぶ消えた。それからその日以来、ポスターガイストも幽霊も何もかも、皆なくなっちゃったのよ。絶対これ、あのゴリラみたいな喘ぎ声のせいよ。
うん、あの日ナニしてた人に感謝はしてる。あんなのにまとわりつかれ続けるのも大変だったから。
——でも、次の日うるさかったって注意しに行ったら、もやしがでてきてボーゼン。こんな細っこい男からあんな声が出てたまるかって、思わずそいつのこと蹴りたくりそうになっちゃったわ。
……うーん、オチがないのよね、これ。
ホンット、最後までごめんね。店長の話に期待するわ、アタシ。
- Re: 「奇譚、やります。」 ——千刻堂百物語譚 ( No.17 )
- 日時: 2014/09/06 03:37
- 名前: SHAKUSYA ◆fnwGhcGHos (ID: ykAwvZHP)
- 参照: 拾 (語り部:菊間 礼二)
『静謐の犯人』
……若干引かれているよ、薫さん。話の一桁で出すには刺激が強すぎたんじゃないかね。確かに得がたい経験なのかもしれないが、物事には限度ってものがあるよ。
ぼくかい? ぼくの話もまあ、うん、ちょっとキツいけど……でも大丈夫さ、ほどほどに聞いておくれ。
まず前提として、ぼくは霊感持ちって言えるようなものじゃあない。
薫さんのように見えざるものが見える体質でもないし、桔梗のように薄くてもちゃんと幽霊が見えるわけでもない。だからこそ、僕は菊間家の次男坊でありながら、こんな風にのうのうと百物語が出来るわけなのだけれども……いや、この話はまた別のことだ。いつかまた別の所で追々話そう。
そう——だがね、ぼくはその代わり、他の人の霊感に中てられやすい性質なんだ。だから、霊感の強い人と一緒にいると、それが見ているのと同じものを見る。ぼく一人では何も起こらない場所でも、霊感持ちと一緒に行けば何かが起こる。お陰で、ぼくもこの年になるまでに随分色んなものを見たものだよ。
今からする話も、そんな「他人と一緒に見た怪異」の話だ。
それが起こったのは、確か高校一年の冬だった。
その頃、ぼくはちょっと耳をおかしくしていたんだ。元は交通事故に遭って、その時に鼓膜を破いてしまったせいからだったんだが、それが治った後も妙に音が遠くてね。聞こえる音も妙に篭っていて聞き取り辛いし、耳を塞がれている——と言うのが一番近い感覚だったかな。
嗚呼、病院の方で何度も診て貰ったけど、原因は分からず仕舞い。遂には医者から「私にも分かりません」とばかり匙を投げられて、ぼくはほとんど何も聞こえない状態のまま、学業に復帰することになった。
まあ、それはぼくが望んでやったことだから、ぼくから恨み言を言う気はさらさらないけれども。
……うん、結構な大事故でね。詳しい詳細は伏せるけど、ぼくは一ヶ月くらい休学していた。今でも腕とかアバラとかに縫い痕があるくらいだ、生きていられたのは悪運のお陰かな。
ええと。
そう、復学してから——四日目だった。
ぼくにはその当時、特別霊感の強い親友が一人いたんだが、そいつはぼくが復学してきたその日からインフルエンザで休んでいてね。熱が引いて来れるまでに四日かかった、とか話を聞いた。ハッキリ覚えている。
嗚呼そうだ。その友人が、学校に来てぼくを一瞥するなり言うのさ。
「お前、耳聞こえないだろ?」
ってね。まあ、勿論その声もほとんど聞こえないわけだが、その言葉だけは何となく分かったよ。小学校以来の腐れ縁が成せる業、だろうかね。
……そんなにショゲないでおくれよ桔梗。お前とだって三十年来の付き合いじゃないか、ぼくはお前とツーカーだと思っているんだよ。
話が少し逸れたか。戻そう。
そうだ。自分の声も聞こえないから、ぼくは聞こえなくなってからしばらく何も喋っていなくてね。言葉はちと悪いがまさしく聾唖で、そいつの質問にも頷いただけだった。で、そいつはそんなぼくの様子を見て、随分深刻な顔をしたものだよ。ぼくの肩を引っつかんで、顔を真っ青にして言うのさ。
「何か良くわかんないけど、マズい奴が耳にいる」
目が本気だったよ。親友があんな怖い顔をしたのは、後にも先にもあの時だけだ。
んで、呆然と固まってるぼくを見て、そいつはますます怖い顔をしてね。見ろ、って言って、ぼくに手鏡を渡してきた。女の子でもないのに何だ女々しい、と思うかもしれないけれど、そいつはどうにも背後を振り向くのが苦手らしくってね。後ろを見るにはいつも鏡を使っている。今もそうさ。
で、ぼくにもそれをやらせたわけだ。ぼくは最初、何がそんなに怖いのかって思って受け取らなかったんだけど、そいつの押しがあんまりにも強いのと、この何も聞こえない状態を何とかできるかもって気持ちで、鏡を受け取って覗いてみたわけだ。
……いやぁ、死ぬかと思ったね。心臓が縮んだよ。
——ぼくの耳をね、塞いでるんだ。
こう、血塗れの手が、中指を突っ込んで。
そう。人間の手だけだった。
他の部位は何処にもなくて、手首から上だけ。
見たのは一瞬だけだったからよく分からなかったけど、女の手じゃなかったかな。
肌がぞーっとするほど白くて、左手の薬指に着けてた銀色の指輪が、血でてらてら光っていた。
……そこから先は、実はぼくもよく覚えていないんだ。
気付いたら、ぼくはまた病院のベッドの上に居て、医者からは「全治二週間」と言われたよ。どうやら、ぼくが記憶を吹っ飛ばしていた間に、また鼓膜が破けていたらしいんだ。見舞いに来てくれた親友が、記憶のない間のことを語ってくれた。
曰く。
ぼくが鏡を覗き込んだその後、ぼくの耳を塞いでた手が、こうやって……ぼくの耳ん中に指を思いっきり押し込んだらしい。で、ぼくが思わずその手の上から耳を押さえたもんだから、中指が思いっきり鼓膜を突き破ったんだと。そのままぼくはぶっ倒れて、救急車でこっちまで運ばれたとか。
……うん、うん。
ぼくが退院した後も、クラスは少しざわざわしてたね。何しろ、普段はそんなおっかない目に遭わないのらくらした奴が、事故の後で立て続けにそんな騒ぎを出したんだからさ。先生からもやけに気を遣われて、ぼくは心霊体験よりも、クラスの皆がよそよそしいことの方が怖かったものだよ。
んー? その手の正体かい?
さあねぇ。その親友は「教えても得にならない」って、教えてくれやしなかった。
でも、ぼくは多分、あの時事故にあった運転手さんの生霊だと思うよ。事故を起こしたその人は、丁度結婚したての若い女の人で、事故の日も左手の薬指に指輪を着けていたからねぇ。車に思いっきりはね飛ばされて、ぽーんと空中高く舞い上がりながら、そんな所ばかりよく記憶に残っているんだ。
それにその人、事故の時にどうやら、自分の腕をエアバッグ代わりにしちゃったみたいでねぇ。丁度ここ、手首の所に思いっきり額をぶつけて、両腕を骨折したらしいんだ。
どうだい、ぼくの耳に指突っ込んでた奴と、特徴がぴったり符合するだろう。
でも、恐ろしい話だね。
明らかに向こうが悪い事故なのに、逆恨みしてもう一回耳を潰してやろうだなんて、その気概が。