複雑・ファジー小説

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RACING LIFE
日時: 2014/05/09 12:43
名前: 46猫 (ID: gOBbXtG8)
参照: 初めまして。基本、私が休みの日だけの更新となります。

—プロローグ—


 ニューヨークの市街地で、一台の救急車が患者を乗せて走っている。
 目立った渋滞こそないが、患者は頭部からの大量出血という重体に陥っており、一刻も早く治療を受ける必要がある。
 それでも運転手はマイペースなのか、適度な速度を保ちながら病院へと向かっている。

「患者は20代後半の男性。頭部から大量の出血があるわ。丁度20分くらいで着くから、早めにERの準備を」

 救急車を運転する茶髪ショートの女性<速水怜奈>は、そういい残して通信を切った。
 切るや否や後ろから、頭が禿ているがそれでいて若々しい男性<ステファン・ガルエニ>が顔を出す。
 彼はレース監督を務めており、現在運ばれている患者はレースで事故をしたところだ。

「くそ、10分も持たないぞ20分でどうにかしろ! 近道くらい知らないのか!?」

 ステファンは何やら慌てている。
 自分のチームに所属するドライバーが事故を起こしたのだ。当然と言えば当然である。

「近道? まあ、無いわけじゃないけど……」

 怜奈は一瞬だけステファンを振り返った。
 思った以上に顔が近くにあったので戸惑ったが、表情は冷静なままだ。

「じゃあシートにしっかり捕まってて! 酸素マスクも押さえておくのよ!」

 渋々といった様子で、怜奈はステファンに少しきつい口調で言い放った。
 頭にハテナを浮かべつつもステファンは、とりあえず酸素マスクを抑えて固定し、シートに捕まる。
 彼がシートに捕まった途端、救急車は突然スピードを上げた。怜奈が、大きくアクセルを踏み込んだのだ。

「うお!?」

 シートに捕まっていたステファンだが、思わぬGに仰け反って倒れてしまった。

 タイヤが空回りして白煙を上げ、あの独特な音を立てて疾走を始める。
 そのまま大通りを突っ切るかと思いきや、救急車は路地裏へと入り込んだ。
 普通にドリフトをこなしながら角を曲がっていくのだが、神がかったハンドル捌きによって一切住宅にぶつかっていない。
 それでもスピードはかなりのものだ。

 宛らレースカーのような走行を公道の、しかも裏路地でこなした結果、救急車はものの5分で病院に到着した。

Re: RACING LIFE ( No.1 )
日時: 2014/05/09 13:21
名前: 46猫 (ID: gOBbXtG8)

「どこであんなテクニックを身につけたんだ?」

 地面に座り込み、救急車に寄りかかって休憩している怜奈がいた。
 胸の部分を少しだけ晒している彼女に目のやり場に困りつつ、彼女の元へステファンがやってきた。
 「あんなテクニック」とは、言わずもがな怜奈が先ほど見せた運転技術のことである。
 お陰で患者の命に別状はないそうだ。

 神妙そうな表情を浮かべるステファンに対し、怜奈はただ見上げるだけである。

「レースの経験でもあるのか?」
「ふふっ……勿論、毎日ね。ここに愛車もあることだし」

 怜奈は寄りかかっている救急車のボディを、茶色の手袋を嵌めた手でコンコンと叩いた。
 叩かれた救急車には小さな傷がたくさんついており、所々落ちない汚れも沢山付着している。
 見たところ随分年季が入っているようだが、これはただ怜奈の無茶な運転が幸いしてこうなっているだけである。

 だが、そんな無茶をしていても周囲は彼女を評価している。
 実際に彼女が運転する救急車に助けられた患者は、これまで治療が間に合わずに逝ったケースがない。

 そんな怜奈を、ステファンは大いに感心した様子で見ていた。
 暫くの沈黙の後、彼は何かを決意したような表情で一つのカードを懐から取り出し、再び話しかける。

「素晴らしかったぞ。私の目が間違っていなければ、君は才能を持っている。決して捨ててはおけない、すばらしい才能がな」
「才能? 私の?」

 何の才能か、怜奈は何となく察しがついた。
 ステファンは取り出したカードを怜奈にみせる。

「これから重要なレースがある。決して負けられない一戦だ。手当てはつけるから、これからサーキットで残業できないか?」

 ステファンは暗に、怜奈にこれから行われるレースに参加してほしいと言っている。
 怜奈はただ、目をぱちくりさせて彼を見るだけであった。

Re: RACING LIFE ( No.2 )
日時: 2014/05/09 19:49
名前: 46猫 (ID: gOBbXtG8)

 何だかんだで流れでサーキットにやってきた怜奈。
 ここはもてぎスーパースピードウェイという日本のレースコースを再現した場所だった。
 怜奈自身も一度訪れたことがあるが、あまりに似ているために思わずビックリしているようだ。

「こっちだ」

 レーサーの服に着替えた怜奈はステファンに連れられ、ピットのガレージまでやってきた。
 真っ白で見たことのない車が、まるで佇むように停車している。如何にも速そうな見た目だ。
 だがステファン曰く、この車——実は〈ジネッタG4〉——はそう対して速くないそうだ。

「たとえレース未経験者でも、十二分に上手く操れる車だ。君なら確実に優勝を狙えるだろう」
「ふーん……」

 車の鍵とヘルメットを持ったまま、怜奈は物珍しそうにジネッタを見ている。

「他のドライバーもこの車で出走する。色が違うだけで、全く同じ性能だ」
「要は、勝てばいいのよね?」
「そうだ。健闘を祈る」


  ◇ ◇ ◇


(あら、思ったよりも楽しい……?)

 時間になり、怜奈はサーキットに出ていた。
 どのドライバーもどの観客も、飛び入りの新人——つまりは怜奈——がいることで大いに盛り上がっている。
 実況のほうも熱が入ってきたようだ。

『怜奈、聞こえるか?』

 ピットから、ステファンの通信がはいる。

「うん」
『よし、いいな。ルールはさっき教えたとおりだ。あまり緊張するなよ?』
「分かってる」
『いい返事だ。サーキットを三週して、順位2位までにゴールしてくれ』

 通信が切れる。

 ステファンと通信している間に、他のドライバーがアクセルをふかし始めた。
 スタートの合図である信号が変わろうとしており、チェッカーフラッグの旗も構えられている。
 怜奈は気合を入れなおし、救命士の実力を見せてやろうといわんばかりに、勢いよくアクセルを踏み込む。

『レース、スタートです!!』

 実況の声と共に刹那、信号が変わった。チェッカーフラッグも旗を振っている。

 怜奈は爆音と共にロケットスタートを成功させた。
 タイヤが白煙を上げ、前に5台いるドライバーも車を発進させる。
 そんな中で怜奈は、ロケットスタートのお陰でライバルを2台オーバーテイクした。

「何!?」
「あいつ、何モンだぁ!?」

 抜かされたドライバーは、怜奈の速さを前にしてそう叫んだ。

 もてぎコースの特徴は、大円と小円だけという二つのコーナーからなるスピード勝負のコースだ。
 戦法としては、相手のスリップストリームにどう入ればいいのか、そしてどうオーバーテイクすればいいかが鍵になる。
 怜奈は予めステファンから教わった知識を元に、前にいる相手のリアにピッタリとくっ付いた。

 相手のリアにいれば、風の抵抗を受けないのでスピードは格段に上がってゆく。
 得た速度を頼りにオーバーテイクし、次の車のリアに付き、そしてまた抜かす。怜奈はそんな戦法を取った。
 典型的ではあるが、これが一番分かりやすい。
 中にはプレッシャーに耐え切れず、ハンドル操作を誤ってスピンするドライバーもいた。

 やがて怜奈はラストラップで最後のドライバーを抜かし、見事1位でゴールすることが出来た。

Re: RACING LIFE ( No.3 )
日時: 2014/08/11 01:29
名前: 46猫 (ID: gOBbXtG8)
参照: 一章〜レーサーとしての実力〜

 ————それが、私"速水怜奈"とステファンの出会いだった。

 正直言って、あの時のステファンは正気とは思えなかった。
 私に幾ら才能があるからって、いきなり素人に実際のサーキットで本格的なレースカーを運転させたんだから。
 もし私に何かあったら、どう責任をとってくれたというのか。

 まあ、今は出場してよかったなって思っている。
 私は草レースだったけど1位を獲得できたわけだし、思わぬ大金も手に入った。
 その証拠に、私の部屋のサイドテーブルには金色に輝くトロフィーが誇らしげに置かれている。1つの宝物だ。
 これで私は自信がついて、ステファンの元で実際にレースをするプロレーサーにデビューすることになったの。
 ステファンも専属レーサーが入院してから、彼の元で走るレーサーがいなくなってたみたいだし、丁度良かったかな。

 でもその後、どれだけ経ってもレースはそれっきりった。
 ステファンは非常に大きな計画を企てていて、私にはその計画を成功させる足がかりになれって彼は言ってた。
 よって今の私は、ステファンの監修の下で鬼のような特訓を受けている。
 まるで、有り金を全部私の特訓につぎ込むかのような勢いだ。ここまでするなんて——彼、何を考えてるんだろう。
 まあでも、私の新たな人生が幕を開けたんだから、それでいいかな。


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