複雑・ファジー小説
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- 悪魔のフォーク
- 日時: 2014/05/23 13:36
- 名前: おせんべい (ID: gOBbXtG8)
〜プロローグ〜
とある生体研究所————
「おい! 一体どういうことだ!?」
「そ、それが……本職にも分かりかねます……」
「分かりかねます、ではない! あれがどれだけ恐ろしいものか、お前らも知らないわけではないだろう!」
ブラウン調の机を1つ挟んで、上司と部下という関係であろう人物2名が揉めている。
禿げていつつも残った白髪をきっちり整えた老人が、眼鏡をかけた白衣姿の研究者に向かって怒鳴っているのだ。
酷い剣幕だ。時折、狭くて薄暗いこの部屋に老人が机を叩く音が響き、研究者はその音を聞くたびに震え上がる。
先ほどからこれの繰り返しで、終わりの兆しはとても見えない。
「ぐぬぬ……ならば第一研究対象を全力で追いかけ、そして命を絶て! どんな手段を使ってでもだ!」
「は、はいぃ!」
開始から2時間。ようやく、一方的な口論は終結したようだ。
終わるや否や、退室時の礼や言葉さえも忘れ、研究者は大慌てで部屋を飛び出していった。
残った老人は机に置いてあるモニターを見ながら、大きく溜息をついて椅子に座る。
モニターには、一本の赤いフォークが映し出されていた。
- Re: 悪魔のフォーク ( No.1 )
- 日時: 2014/05/24 16:05
- 名前: おせんべい (ID: gOBbXtG8)
僕は波多野秋弘。とある中学校に通う、しがない虐められっ子だ。
今まで僕が受けてきた虐めはかなり酷いもので、それは僕が保育園だった頃から続いている。
加えて、今の今まで虐めが止んだことは無い。正に悪夢だ。
虐められている原因は、坂本修也っていう子の所為だ。僕は今まで生きてきた中で、坂本を一番怨んでいる。
虐められ始めた切欠は些細なことだった。
保育園だった時分、何らかの拍子に怒鳴った僕をあいつが笑い出してからだ。
それ以来あいつは、でっちあげで僕の悪いところを勝手に作ってはみんなに言いふらしてきたんだ。
なんだかんだで今まで耐えてきたけど、そろそろ僕も堪忍袋の緒が切れそうだ。どうしようかと今、かなり悩んでいる。
いつかあいつを殴ってしまいそうで。そのままの勢いで殺してしまいそうで。
◇ ◇ ◇
今日は金曜日。みんな週末という事で浮かれている。
事態が動いたのは、その日の給食の時間のこと。
どうやらうどんをミートソースに入れて食べる献立らしく、僕は給食当番だった坂本からフォークを配られた。
だけど、そのフォークは変だった。
やけに真っ赤なのだ。形は他のそれと変わらないのだけど、まるで血に染まったかのように僕のフォークは赤い。
何かしたのだろうか。僕は渋々、坂本に問うた。
「何だよ、これ」
「あぁ、ただの赤いフォークだろ。でもまあ気色悪いし? 丁度いいからお前使えよ」
坂本が僕をおちょくった、その時だった。
「っ!」
どうやら、僕の沸点は臨海に達したらしい。
フォークを握る右手に自然と力が入るのが分かる。
僕は乱暴に席を立ち上がり、そして気付けば、僕は数メートル離れている坂本にフォークで斬りかかっていた。
「おっとぉ」
勿論、フォークのリーチなんて高が知れている。
それに坂本は喧嘩もそこそこ強い。僕程度の攻撃など、まるで呼吸をするようにかわせる。
つまり僕は、コイツ目掛けてフォークで斬りかかったところで、単に無駄足を踏んだだけという事になる。
————だが、現実は違った。
「ぐあぁ!」
途端に坂本が悲痛な悲鳴をあげ、右肩から血を流しているのが見えたのだ。
坂本は左手で血の吹き出る肩を押さえ、必死に出血を止めようとしている。
こればかりには僕は愚か、悲鳴を聞いた他の生徒や先生でさえ固まっていた。
フォークは届かなかったはず。それは周囲の人間達も分かっていたはずだ。
別に投げたわけではない。それなのに今、坂本はフォークが命中したかのような傷を負っている。
僕はフォークを見直した。
何故か呪われたように、それは手から離れようとしない。
そして、不思議とフォークそのものが脈を打っているような感じさえわかる。
さらに、いつの間にかフォークはオレンジ色に変色しており、黒いアラベスクのようなラインの装飾が入っている。
明らかにさっきまでのフォークとは違う。
僕は試しにもう一度、坂本の左肩を目掛けてその場でフォークを振るってみた。
その時、僕は自分の眼を疑った。きっと周りの人たちも、僕と同じように自分の眼を疑っているだろう。
————何故なら、フォークが伸びていたからだ。振るったときの遠心力で伸びたのだろうか。
案の定、フォークは坂本の左肩に命中していた。また坂本から血が吹き出て、先のような悲鳴が上がる。
気付けば、僕は嗤っていた。
これで仕返しが出来る。神様は僕を哀れんで、味方してくれたに違いない。
僕は坂本を、今までとは逆の立場となって見下ろす。
「さぁ、殺しあおうか」
僕の口からは、不意にそんな言葉が漏れていた。
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