複雑・ファジー小説

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みんなに、ありがとう。
日時: 2014/05/25 11:18
名前: フォルテ (ID: gOBbXtG8)
参照: 短編集、かも

 仄暗い部屋の中で一人、私はギターを抱えていた。
 爪弾けばその音は、開いた窓の外へと溶けてゆく。

 オレンジ色に照らす街明かりの中で、いつものように騒ぐ仲間達がいる。
 孤独を恐れていた私が出来る恩返しは、ギターの旋律に乗せて感謝の思いを伝えることしかない。
 でもみんなは、私の手を引いて導いてくれた。

 ————だから、ありがとうの気持ちを贈るよ。

 みんなに、ありがとう。どうか届きますように。

Re: みんなに、ありがとう。 ( No.1 )
日時: 2014/05/25 11:15
名前: フォルテ (ID: gOBbXtG8)
参照: けいおん!のパクリとかじゃないよ

 私〈大川朱音〉は、昔から引っ込み思案で人見知りで、それでいて孤独感を恐れていた。
 もし学校が無かったなら、今頃私は引き篭もり——俗に言うニートになっていたかもしれないんだ。
 高校受験だって一回落ちた。原因は多分、面接だと思う。それで已む無く、私は第二希望へと進学した。
 それくらい、私は人付き合いが苦手だったんだ。みんなと仲良くなりたいけど、どうすればいいのか分からない。そればかりで。

 結局第一希望に落ちた私は、看護師っていう将来の夢を叶えることが出来ずに三日三晩泣いたっけ。

 でも今は、第二希望の学校で良かったって思ってる。
 幾千もの学び舎の中で、私達「軽音楽部」が出会えた奇跡。
 もう、私は孤独じゃない。みんながいる。仲間がいるから。
 そしてこの出会いはきっと、忘れられない思い出になる。手放すことの無い、一生の宝物になる。

 だって、軽音楽部で出会った仲間達が、私を変えてくれたのだから。



 ————ありがとう。

Re: みんなに、ありがとう。 ( No.2 )
日時: 2014/05/25 19:34
名前: フォルテ (ID: gOBbXtG8)

 私は椚ヶ丘高等学校というところに入学した。
 そこはあまり賢い高校じゃないから、私の知ってる人なんて一人も来なかった。
 そんなこともあって、入学して暫くは、肩身を狭くして毎日を過ごしていた。

 やがて慣れない生活に目を回していると、いよいよ部活を選ぶときが来た。
 バレー部やハンドボール部を初めとした球技、陸上に水泳、花道、弓道、写真部とか、私が思いつく類のは全部あった。
 というより、常識的に考えて思いつく部活は多分、全部あると思う。
 ルール的には、今日から1週間は見学期間で、その後2週間は転部が自由に出来る仮入部期間、それか1週間で本入部になる。
 見学中でも入部は認められるけど、転部は出来なくなる、とのこと。

 私は運動が苦手。かといって文化部は、正直どれもイマイチなものばかり。
 結局、楽器の演奏が唯一の特技だったから、軽音楽部に入部する予定にした。
 そして自分に合わないんだったら、もう部活には入らない。そう決めた。ママには怒られちゃうけど。

(いいから部活には入部しなさい!)

 ————今日の朝、ママが怒鳴ってたのを思い出した。どうしよう。


  ◇ ◇ ◇


 放課後、とりあえず軽音楽部の見学だけでも行こうかなって思った。
 だけどこの学校、全体的な構造がまるで迷路だ。マップが無いと迷ってしまいそうなほど。
 それから私は軽音楽部の部室に行こうと頑張ってたけど、何か人気(ひとけ)の無い場所まで来てしまった。
 旧校舎——というわけではないみたいだけど。

 しばらく歩いて疲れてきた頃、どこかの教室から数名の話し声が聞こえてきた。
 一体どこだろう。きっと軽音楽部だ。私は音を頼りにして周囲を探し回った。

 やがて、第三音楽室の準備室にたどり着いた。
 扉の上には「軽音楽部」と書かれているダンボールで出来た看板がかけてある。
 ようやく見つけた。ここまで長かったなぁ。多分30分は歩いたと思う。
 私は気を取り直して、早速教室の扉に手を掛けて中に入ろうとした。けど、教室の中を見てその手は固まった。

 教室の中には上品な円卓があって、それを人が4人囲んでいる。
 よく見れば、教科書や課題みたいなものが机に広がっている。私は目がいいから分かる。あれは楽譜とかじゃない。
 本当にここが軽音楽部なのか、ちょっと怪しくなってきたけどまあ、私は扉を開けた。

「し、失礼します……」

 とりあえず、入室の挨拶をしてみる。
 すると座っていた4人とも、私のほうに気付いた。

 カチューシャで髪をまとめているショートヘアの女の子が最初に動きを見せた。
 よく見れば、全員上級生だった。今日の今のところは、私だけが見学に来たみたいだ。

「あちゃー、見られちゃったかー」

 額に手を当てて、然も「しまった!」とでも言いたげな表情を浮かべている。
 一体どういうことだろう。机の上にある課題の件なのかな。

「新入生だよね? ようこそ、軽音楽部へ。まあゆっくりしていきなよ」

 部長っぽい溌剌としたその女の子が、私の元に歩み寄ってきた。

「入ってきたところ悪いけど、ごめんねー君。ここ、あんまり軽音楽の練習とかしてないんだよねー」
「……?」
「だもんでー、あー……はっきり言って見学しても意味ないよ」

 ほら、と言ってその人は、教室の奥を指さした。
 指先は明らかに、件の机に向いている。見れば、残った3人のうち2人は私に手を振っていて、1人は本に視線を固定している。
 一応、小さく礼だけをしておいた。

「それでもそのー……何だ。あたしとしては、入部を考えといてくれると嬉しいな。勿論、あの子達にとってもね」
「は、はぁ……」

 後頭部を掻きながら、照れくさそうにその人は言う。

 これは好都合だ。と私は考えた。
 ここに入部しておけば、楽な生活が送れるどころかママに怒られることもない。
 それに、あの様子だと課題をやっても良さそうだ。

 私はもう、入部を決定した。

「あの……」
「うん?」
「私、ここに入部します!」

Re: みんなに、ありがとう。 ( No.3 )
日時: 2014/06/01 17:26
名前: フォルテ (ID: gOBbXtG8)
参照: 久し振りの更新でごめんね

 言い切った。私は言い切れた。
 幾ら臆病者でも、どれだけ引っ込み思案でも、やりたいことはやりたいんだから。
 それでも私は、自分でもビックリしていた。でも目の前にいるその人は、結構驚いた風に目を大きく見開いていた。
 なんて思ってたら、その人はいきなり私に抱きついてきた。

「ありがとー! マジでありがとう! もう廃部かと思ってたよ〜……」

 廃部という単語が引っ掛かった。この軽音楽部、そんなに人数が少ないのかな。
 曰く、部活を成り立たせるためには顧問1人と部員5人以上がいることが条件とのこと。
 ————つまり、私が5人目になって部は何とか成立した、というわけだ。

 何だか上手く乗せられた気がした。

「涼香、その子、嫌がってる」
「うおわっと、ごめんね!」
「あ、い、いえ……別に……」

 でも、楽しくやっていけそうな気がする。


  ◇ ◇ ◇


 葦原涼香と名乗った部長さんはその後、私に部活動の写真を見せてくれた。
 聞けば、みんなそれぞれ楽器を扱う腕前がよくて、学校外でも活動していることが多いんだって。

 ————普段あまり練習をしていないって理由、何となく分かった気がした。
 つまり、今いる部員の皆さん。きっと物凄い上級者なのかもしれない。

 溌剌とした部長の葦原涼香。寡黙な長門由美。おっとりとしている鷹野優菜。はっちゃけキャラの安藤三恵。
 確かに、何か4人とも凄いオーラが漂ってる気がする。まずいかも。私、みんなに追いつけるか分からなくなってきた。

「あ、これこれ!」
「ふぁい!?」

 そんなことばかり考えてぼうっとしていた私。
 涼香先輩の声に、思わず間の抜けた返事をしちゃった。

「ふぁいって、可愛いっ」

 三恵先輩が笑い出す。私は恥ずかしいのと情けないのとで、頬が紅潮するのがわかった。

「三恵〜、笑うのはよくないと思うよぉ〜?」
「あははは、ごめんね朱音ちゃん」
「い、いえ……」

 場が少し収まった頃合を見計らい、私は再び、傍観していた涼香先輩が持つアルバムを覗き込んだ。
 指差している写真を見ると、凄くカッコいい男の人がエレキギターを持ってそれを演奏していた。
 学校外でのライブだったらしく、その男の人は写真でも分かるくらいにハイテンションだ。

「こいつ、以前あたしたちの部にいた奴なんだけどねー」
「……罪悪感がどうので、退部しちゃったんだっけ?」
「あーそうそう。本当に馬鹿だったよねあいつ」
「あ、あのー?」

 勝手に話を進める先輩たちについていけず、私は口を挟むタイミングに困った。

「あーごめんね。いや、こいつなんだけどさ……」

 涼香先輩は、どこか悲しそうな表情を浮かべて話を始めた。

Re: みんなに、ありがとう。 ( No.4 )
日時: 2014/06/01 17:59
名前: フォルテ (ID: gOBbXtG8)
参照: 言い忘れてた。エッチい内容あるから、気をつけて

 涼香side


 丁度一昨年あたりだった。
 立ち上がって数年も立たないこの部活で、あたしはある男子に恋をしちゃったんだ。
 それが、その写真に写っている男子〈花村幸太郎〉

 幸太郎は小さい頃からギターを習っていて、部活ではプロと言っても良いほどの実力を発揮していたっけな。
 そんであたしは幸太郎に認めてもらえる人物になりたくて、毎日ドラムの練習を頑張った。手に肉刺が出来ても尚。

 その甲斐あって、去年の春に幸太郎があたしにこう言ってくれた。

「お前のドラム最高だな。いつか合奏するとき、一緒にやろうぜ」

 ————って。

 あたしは反射的に、幸太郎に抱きついていた。
 もう、彼無しじゃ生きていけない気がして。もっとずっと、一緒にいたいと思って。
 でも、嬉しいこと言ってくれたとしても、きっとあたしじゃ受け入れてくれない。
 そうと分かってはいたけど、一度だけでもいい。想いを伝えたかった。

 ————好きだよって。

 絶対付き合ってくれない。幸太郎は他の女子からモテモテで、ファンクラブまで出来ている。
 だから、結ばれない。そう思ってたけど、現実は違った。

 俺も好きだって、言ってくれた。




 付き合うことになったあたし達。それから月日は流れて————




 凶報が飛び込んできた。

「涼香ちゃん知ってる? 幸太郎君、特別指導受けてるよ」

 それはクラスメイトからの情報だった。
 幸太郎が特別指導を受けている。退学さえ許されず、苦しんでいる。
 慌てたあたしは情報を得たその日の放課後、幸太郎がいるはずの指導部の教室前まで行った。

 行くなり、指導部の先生の怒声が無人の廊下に木霊した。

「花村! 葦原に妊娠させるとは何事だ!」

 やっぱり、想像通りだった。
 当時あたしは、件の情報を得た時点で何となく予想が付いてたんだ。

 あたしと幸太郎は、性交をやってしまったのだ。一時の情に負けて。
 処女を貫いた幸太郎は案の定、あたしを妊娠させたわけだけど————

 あたしは幸せだった。
 赤ちゃんが出来たという現実に、凄く幸福感を抱いていたんだ。
 産みたいと願った。だけど、周囲はそれを許しちゃくれなかった。
 あたしの両親は、あたしのお腹にいる赤ちゃんを強制的に下ろしてしまったんだ。
 しかも強姦されたと勘違いされ、抗弁の余地も無いままに学校に連絡された。

 幸太郎が、あたしに強姦したと。

 当時のあたしはもう、未来像は完璧だったんだよ。
 あたしが学校を辞めて、そのまま幸太郎と結婚してればよかった。
 でもさ、現実ってそう上手くはいかないんだよね。

 結果的に、幸太郎は特別指導を受けることになった。

 あたしはそのあと、何度も誤解だと言い張った。
 だけどみんなは、可哀想な子を見るような目であたしを見るだけだった。

 そして幸太郎は、この学校を去った。




 これが、その写真に写る男子とあたしの過去だ。


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