複雑・ファジー小説

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レイの旅-SEED-
日時: 2014/06/08 17:42
名前: 雪うさぎ (ID: gOBbXtG8)

〜プロローグ〜


 いよいよ明日である。
 住み慣れたこの家、あの世へと逝った両親、焼け果てた故郷に別れを告げて旅に出よう。
 青年〈レイ・フォールスクウェイバー〉の心に、魔性の種が1つ蒔かれた。


  ◇ ◇ ◇


キャラ紹介


〈レイ・フォールスクウェイバー〉男 17歳
黒いホストヘアに緑の瞳を持つ文系男子。
基本的に無表情で、口調や性格も淡々としている。

〈モード〉女 年齢不詳
腰まで伸びた蒼穹の髪に赤い瞳を持つ理系少女。
レイと同じくクールで、ボンヤリした瞳からは何を考えているのか察しがつかない。

〈リントヴルム〉性別不詳 年齢不詳
モードに付き従う巨龍。碧い鱗が特徴。
人の言葉は話せないが、念話で人と会話できる。念話で聞こえる声は、若い青年の声をしている。


〜目次〜


——序章——

零話—3つの魂と1つの企み—>>1
一話—復讐—>>2
二話—焼けた故郷に別れを告げて—>>3

Re: レイの旅-SEED- ( No.1 )
日時: 2014/06/01 16:01
名前: 雪うさぎ ◆rsq0lAj0.g (ID: gOBbXtG8)
参照: トリップ付け忘れてました。

「帰ったか。どうだ?」

 低く覇気のある声が響く、城の王宮のような場所があった。
 鎮座する数々のインテリア、壁、床。どれもこれも白黒となっている。
 敷かれているレッドカーペットのようなものも、白黒の布として敷かれている。
 レッドカーペットならぬ、白黒カーペットというべきか。その途中で、左半身に1つの白い翼を生やした青年が立っていた。

「そうだね……あの子はやりやすかったよ」

 その青年は翼だけでなく、衣服や髪も白い。
 瞳は空色に光っており、身体の至る所に包帯が巻かれているが、怪我をしているわけではないようだ。

 そんな青年の先には、座り心地のよさそうな背もたれの高い椅子に座る男性がいた。
 深く被った黒いニット帽子が仮面のような役割を果たしており、素顔が隠されて見えない。
 足を組んで肘を椅子にかけているその男性。右手には、宝石のような輝きを放つクリスタルが抓まれている。

 男性が座っている椅子も、やはりというか白黒だ。そもそもこの場所そのものが白黒で、全てはただの白黒ではない。
 何かを司るような、魔性の篭った白黒である。白い翼を持つ青年が、まるでこの場の"白"を司っているようだ。

「本当に上手くいったのか?」

 白い翼を持つ青年と同じ声が響く。
 発生源は、椅子に座っている男性の隣で腕を組んで立っている、黒い翼を1つ生やした青年だ。
 白い翼を持つ青年とは違い、黒い翼を持つその青年は衣服も髪も黒に染まっている。
 瞳からは赤い光が放たれていて、この場の"黒"を司っているような様だ。

 そんな黒の青年に、白の青年は愉快そうに笑いかけた。

「あはは、任せてって言ったじゃないか。次はあの子が対象だよ」

 白の青年と黒の青年。
 性格は正反対だが、容姿は一卵性双生児かのように似通っている。
 見た目はただ、白か黒か、それだけだ。

「仮に失敗していたとしても、またチャンスは巡ってくる。今は待つぞ」

 椅子に座っている男性はそういうと、扉のないこの場所から白と黒のオーラを放って消えた。
 今のは空間転移の一種であり、男性は立つ鳥跡を濁さず、どこか別の場所へとワープをしたのだ。

「ま、今は主の言うとおりだな。いくぞ」
「うん」

 残された白の青年と黒の青年。
 彼らもそれぞれ白いオーラ、黒いオーラを放ってその場から消え去った。

Re: レイの旅-SEED- ( No.2 )
日時: 2014/06/04 19:00
名前: 雪うさぎ (ID: gOBbXtG8)

 とある山間部にある村の中。
 チュンチュンと小鳥が囀る鳴き声、眩しい朝日、開け放たれた窓から吹き込む爽やかな風。
 様々な要素が、青年〈レイ・フォールスクウェイバー〉に朝を告げに来た。

「——っ」

 掛け布団を除けると、むくりと起き上がり大きく伸びをする。
 数秒もたたないうちに、彼は黒縁のシャープな眼鏡をかけて布団から出た。
 どうやら、朝には強いようだ。

 布団も片付けないまま、無気力に洗面所へと赴いたレイ。
 洗顔や歯磨きなどの洗面を済ませると、そのまま着替えのために自室へと戻っていく。
 リビングへは行く気がないらしい。

 クローゼットを開けた彼。
 様々な服がずらりと並ぶ中で、彼は迷わず黒を基調とした服を一着手に取った。
 朝の寝起きとは思えないスピードで、そのまま彼は着替えを済ませる。

「ふぅ」

 一息つく。
 といっても溜息をついただけで、真っ黒な刀を携えて彼はまた自室を後にした。
 行き先はリビング。彼は足音も立てずに階段を降りた。
 そして、降りてすぐそこにあるドアノブに手を引っ掛ければ、かちゃ、と音がして戸が開く。
 扉の向こうはリビングに面していた。

 リビングでは悲惨な光景が広がっていた。

 壁や天井、床に机など、この部屋のあらゆる箇所が血飛沫で穢れている。
 床には、腹を深々と切り裂かれた人の死体が二つ転がっている。レイの両親だ。
 そして死体の近くでは、転寝をしている男が4人。何れも、騎士の甲冑を身につけている兵士である。

 レイは横になっている兵士達に近付き、刀を抜刀した。
 すると兵士の一人が、金属同士が擦れ合う音に気付いて目を覚ました。
 音の発生源を確認する兵士。レイの姿を認めるなり、若干逃げ腰になりながら立ち上がり、床に落ちていた剣を構える。

「貴様、何者だ。何故、どこから侵入してきたのだ?」

 逃げ腰状態でも兵士の声は震えておらず、寧ろ凛としていて覇気がある。
 相当な腕前を持っていることに違いは無いだろうが、レイは表情1つ変えずに呟いた。

「——僕はこの人たちの息子だ。居てもおかしくは無いだろう」

 刀をしまっていた鞘の先が、床に転がっている二つの死体をさす。
 柄を右手で握る刀の先は兵士に向いている。細身の身体でも尚、刀を片手で操れるようだ。
 レイが持つ緑色の瞳が、鋭い目つきへと変わった。

「あくまでも仇をとりたいと言うのだな? ならば相手をして——」

 剣を構えなおした兵士は、その先の言葉を発せ無いままに倒れた。
 レイが放った神速の居合い切りが、兵士の甲冑を真っ二つに切り裂きながら兵士の腹を深々と切断したのだ。
 昏倒して倒れた兵士の亡骸。まるで、死んだ両親とそっくりではないか。
 彼はこんな皮肉に涙を流し、怒りの混じった表情を悲愴へと変えて歪ませた。

(ごめんよ、母さん、父さん。僕は、こんなことしか出来なかった……)

 その後彼は叫びながら、起きる気配のなかった仇の対象を切り刻んだ。
 決して切れ味が落ちる事のないその刀で、肢体を解体して微塵切りにするまで。
 飛ぶ血がなくなるまで。跡形もなくなるまで一心不乱に。

 だがこの時、レイは分かっていた。
 復讐などしても、結果的には悲しみしか生み出さないのだと。
 この程度で気が済むなんて、あるわけがないと。
 より多くの涙を流しはじめるレイ。昨夜の記憶が脳裏で再生される。


  ◇ ◇ ◇


 就寝の挨拶を告げ、自室に戻って2時間が経ったときだった。
 突然階下から、両親の悲痛な悲鳴が聞こえてきたのだ。

「っ!?」

 甲冑が木製の床を叩く音。
 聞き覚えのある声の悲鳴。
 そして、人を斬る剣の音。

 これらがまどろみかけていたレイの鼓膜を揺らし、彼の目を一気に覚まさせた。
 だが、今までに無かった音に対して感じた恐怖でその場を動けない。
 叫びたくても声が出ない。体は壊れた機械のようにガタガタと震え、まるで言うことを聞かない。

 やがて何とか、自分の獲物である刀を掴んだ。
 だがその頃には、既に階下からの悲鳴は途絶えていた。
 代わりに、宴でも始めたかのように歌い叫ぶ知らない声が4つ聞こえてくる。

 悲鳴を木霊させていた両親はどうなったのだろうか。
 その疑問だけが胸を渦巻いていたが、まだ残っている恐怖感でその場を動けない。
 彼は寝る事にした。最悪の事態を想定し、気持ちを落ち着けながら。

 それに、どうせ殺される運命なら、寝ていて意識の無いうちに殺されるほうが良い。


  ◇ ◇ ◇


 その時から、レイは分かっていたのだ。

(——復讐しても、僕には何も残らない。あの時理解していたはずなのに……)

 返り血を浴びた刀の手入れもせず、レイは窓の外を見た。
 時間的に、いつもなら近所が人々の声で騒がしくなっていてもおかしくは無い。
 それが今や、村中が静寂に包まれている。響く音は風と小鳥の囀りと、どこかの家が焼ける音だけ。

 この村で生き残った命はいくつあるだろうか。
 きっと数えるほどしかない。否、自分以外生き残っていないかもしれない。
 そして自分は、人を殺めた。復讐という名目の鬱憤晴らしで。
 こんなしょうもない殺人など、誰も許しちゃくれないのだろう。

 レイは暫く、血に塗れて焼け果てたこの村の一部を眺めていた。
 その表情が再び消えるまで。

Re: レイの旅-SEED- ( No.3 )
日時: 2014/06/08 17:31
名前: 雪うさぎ ◆rsq0lAj0.g (ID: gOBbXtG8)
参照: すみません、またトリップ付け忘れました。

 やがて表情が表より消え去ったレイは、旅支度を終えて外に出ていた。
 この焼けた故郷に別れを告げ、新たな住居探しと観光を兼ねて旅に出るためだ。

 村から旅立って数日後の事。
 ラナトル共和国の城下町に向かう途中で回り道し、レイは大型魔獣の出やすい危険な街道を歩いていた。
 何故回り道をしたのか。理由はというと、旅に早く慣れる為。故に、あえて危険な道を通るのだ。

 その街道は左右に迷いの樹海が広がっており、そのうちここだけは日の光が差し込んでいる。
 因みに迷いの樹海とは、一歩足を踏み入れると羅針盤が狂うとされ、更には危険な魔獣も数多潜んでいるという死の森のこと。
 「迷いの樹海を抜ける」という言葉は不可能の代名詞ともされており、熟練の冒険者でも命を落としやすい。
 その死亡率は95パーセント。その証拠に、樹海の中では人の屍がいくつも存在している。
 中には死体のまま蠢く屍もある。俗に言う「ゾンビ」という奴だ。

 そんな樹海を左右に控えながら、レイは平然とピクニック気分で道を歩いている。
 この道を歩き始めてから感じている、魔獣より放たれるいくつもの殺意さえも気にしないまま。
 別段彼は、この樹海の事を知らないわけではない。どちらかというと、一般人よりはよく知っているほうである。

「——」

 だからだろうか。
 魔獣が飛び出て襲い掛かってきても、冷静な対応を取ることができるのは。
 現在道を行くレイの後には、魔獣の死体がこれでもかというほど転がっている。
 中には大型魔獣も含まれており、知恵は人に劣っても力は数十倍ある〈ベヒモス〉が一番多い。
 右手に棍棒を持ち、腰に魔獣の皮を巻きつけた紫色の巨人〈ベヒモス〉たち。
 彼らの腹は大きな円形の穴が穿たれている——というより刃で丸く切り取られた——痕跡があり、内臓を撒いている。

 そうして日も暮れかけ、道もそろそろ抜けれるかと思った頃。
 レイは今までになかった強烈な殺意を感じて動きを止め、臨戦態勢になりつつ周囲を模索し始めた。
 常に殺意は何処からでも感じているが、今は特に目の前から強く、ただ単純なそれを感じている。
 この目の先に一体何がある。と思っていたら突然、すぐ目の前で闇魔力の爆発が起こった。
 突然の出来事に驚いたレイは咄嗟に後ろに飛んで避けたが、爆風は彼を巻き込もうとしてどんどん肥大化していく。
 このままでは闇に飲まれてしまう。

「はぁ!」

 避けようもないそれにレイは神速の居合い切りを放ち、光の魔力を乗せた真空刃を前方に飛ばした。
 刹那、がちん、という何ともいえない音がして、数メートル先で真空刃が消え去る。
 やがて闇の魔力は相殺され、彼の前から障害物は消え去った。あくまで、見た限りでは。
 レイは警戒を解かなかった。殺意は消えたが、代わりに何かの存在感を感じ取れたのだ。

「あら、なかなかやるわね」

 すると、そんな艶めかしい声と共に前方に巨大な龍が現れた。
 どうやら、その巨龍は透明化していたらしい。水が流れるようなエフェクトと共に現れたのが何よりの証拠だ。
 少しだけ緑がかった紺色の龍鱗が、太陽の光に反射して鈍く輝くその巨龍。
 背中に二対の翼を持ち、人のような姿勢で二足歩行状態でただレイを見据えて立っている。

 近くには、レイと同じくらいの年頃の少女が立っていた。
 黒いワンピースに灰色の胸鎧、赤い瞳と、長い水色の髪が印象的である。
 先ほどの声の持ち主でもある彼女は、まるで従えているかのように巨龍に話しかける。

「リン、もう大丈夫よ」
『了解です。では、私はこれで』

 リンと呼ばれたその龍は念話で少女とコンタクトを取ると、大きな翼をはためかせて大空へと舞い上がった。
 人の数十倍はある巨体だったが、ものの数秒でその身体は豆粒程度に小さくなっていった。
 かなり飛行能力に長けているらしい。

 残された2人。レイが警戒心を露にしていると、少女は顔色を一切窺わせないまま彼に近付いた。

「そんなに警戒しないで」

 続いて発された一言に、レイは思わずころびそうになった。
 先ほどの攻撃を手向けたのはお前だろう。そう言いたくて仕方ないが、今はそんなことを言っている場合ではない。
 そして、警戒心も解いている場合でもない。

「誰だ?」
「愚問ね。私のことを聞くなんて」
「いいから答えろ」
「……はやとちり」

 レイに負けず劣らず無表情な少女は、渋々〈モード〉と名乗った。
 名乗られたら名乗り返すのが礼儀なので、一応レイも名前だけ名乗っておくことにする。特に理由はないが、苗字は伏せた。
 少女〈モード〉は、半ば強制された自己紹介を続ける。

「あの巨大な龍の名前がリントヴルム。って言ったら分かる?」
「リントヴルム?」

 レイはその名を知っていた。

Re: レイの旅-SEED- ( No.4 )
日時: 2014/06/15 08:33
名前: 雪うさぎ ◆rsq0lAj0.g (ID: gOBbXtG8)

 量子の巨龍〈リントヴルム〉
 かつてこの世界を、量子という存在によって存在を定着させた伝説の巨龍の名である。
 だがそれはあくまでも伝説上であり、実際にいたのか、或いはまだ存在しているのか、はたまた本当に量子を司っているのか、などという議論が昔から考古学者の間で交わされてきた。
 その討論は世界的にも有名なため、辺境の村に住むレイでも知っていた。

「で、さっきのがリントヴルムだと?」
「そうよ。って言っても、どうせ信じないでしょうけど」

 リントヴルムは、説を唱える学者によって容姿が変わってくる。
 故に唱えられてきたリントヴルムの容姿は多岐に渡っていて、これと言って特に確定していないのが現状である。
 しかも、ドラゴンはこの世に山のようにいる。善か悪かの差はあれど。
 そんなこともあって、多くの人々は「これがリントヴルムだ」と言っても信じないのが一般的である。

 だが、レイだけは違った。
 誰も知らないリントヴルムに纏わる情報を、彼は1つだけ知っていた。

 量子という存在でこの世界が成り立っているなら、リントヴルムは無敵とも言える存在となる。
 裏を返せば、思ったことを何でも具現化できる龍なのだ。先ほどの透明化も、量子を操って身体を透明化させたのだろう。

 レイは知っていたそのことを話し、リントヴルムという存在を認めるに至った。
 聞かされたモードはかなり意外そうな表情を浮かべたが、直ぐにそれは消え、ありがとうと一言だけ呟いた。

「それで、その龍が何故僕の前に現れた? ピクニックなどと抜かすんじゃないだろうな」
「あら、案外馬鹿ではないのね」

 モードは小さく笑うと、自分がレイの目の前にやってきた理由を話し始めた。


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