複雑・ファジー小説

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媚薬と血飛沫
日時: 2014/06/22 19:41
名前: 不死鳥 (ID: gOBbXtG8)
参照: エロ、グロ注意

 白いカーテン。ウッド調の暖かな床。黒い羽毛のカーペット。
 何れにも血が飛んで染み付き、胴体と切り離された男の首が転がった。
 血に濡れた1本のナイフがその首を目掛けて飛び、命中してまた血が飛び、周囲はさらに血で穢れる。

 部屋は風の音を残し、静寂に包まれた。
 そんな中で媚薬入りの高級ローションを片手に、全裸の男に跨る少女がいた。
 妖しく美しい彼女はまだ少し幼く、頬だけ少し赤らめたまま表情は無となっている。

「——騙される方が悪い」

 ポツリとそういい残すと、少女は脱ぎ捨てたワンピースと下着を身につけた。
 服を着終えると、脳味噌を振り撒いたナイフを引き抜き、男の持ち物を回収してそのまま部屋を後にする。
 男の亡骸はただ、ゆっくりと腐ってゆくのだった。


   ◇


目次

1話〜悦楽〜>>1

Re: 媚薬と血飛沫 ( No.1 )
日時: 2014/06/22 19:38
名前: 不死鳥 (ID: gOBbXtG8)

 少女は家に帰宅した。
 玄関を開けると、黒装束に身を包んだ男が1人、彼女を出迎えた。
 歓迎するかのように、男は両手を芝居じみた仕草で大きく広げる。

「身体を張った暗殺任務、お疲れ様でしたリーファ様」
「当然。まず、私も殺したかったし」

 リーファと呼ばれた少女が放った言葉に、男は顔を引き攣らせる。
 相変わらず真顔で物騒なことを言う。一体何処でどんな環境の下で育ったら、こんな風になるのやら。
 男は恐らくは一生晴れないであろう疑問を抱えつつも、懐から封筒を取り出した。

「そ、そうですか。では、これが今回の報酬となります。上のお方が褒めていらっしゃいましたよ」
「——これで報酬分か。文句ないね」

 リーファは封筒を受け取って中身を見た。配当金は1000万。
 身体を張った、リスクが大きかった、時間がかかったなどを踏まえての報酬だが、それでも高い方だ。
 リーファは男の手の甲に一度だけ口付けすると、1000万を懐にしまってそのまま玄関から家を出て行った。

 しばらく男は硬直していた。
 予想外のリーファの行動に、現実を受け入れられなかったのかもしれない。
 すると彼の背後から、同じ黒装束の別の男がやってきた。

「やれやれ、君も相変わらずだねぇジェームス」

 皮肉じみた仕草を以って発された言葉に、ジェームスと呼ばれた男は慌てかける。

「いや、違うぞ! 俺はリーファ様に惚れていたわけではない」
「おいおい、誰もそんな事聞いてないだろ?」
「っ!」

 嵌められた。
 ジェームスは大きく溜息をつき、それと同じくらい大きく肩を落とした。
 この男〈シュウ〉と一緒にいると、どうも調子を狂わされる。

「あはは、冗談だよ冗談。そんなことより、リーファちゃんはもう出かけたのかい?」
「リーファ様、だ! 全く何度言えばわかることやら……あぁ、そうだ。リーファ様は目的地も告げずに出かけられた」
「ふうん。心配だし、誰か護衛を付けさせようか?」
「いや、必要ないだろう。何せリーファ様だ。あのお方を狙う輩など、返り討ちに遭うだけだ」
「ま、それもそうだね」

 いまいち腑に落ちないといった様子のシュウ。
 それでもジェームスの言い分で無理矢理自分を納得させ、部屋に戻っていった。
 残されたジェームスも、自分専用の部屋に戻ることにした。


  ◇ ◇ ◇


 右手にナイフ。左手に媚薬。これが少女〈リーファ〉のモットー。
 今日も彼女は、性的快感と人殺しという至福の悦楽を求めて町を行く。
 それでも、罪のない人を無闇に殺すわけにはいかない。
 故に"暗殺の仕事が自分に来るまで"は、殺戮衝動は抑えておかねばならないものだ。
 だが、抑えきれない殺戮衝動は何故か忽ち性欲へと変わり、結果的には欲求を満たすことが出来る。
 便利なのか不便なのか、よく分からない癖だ。

 ふと、人気(ひとけ)のない町でリーファは肩から提げている鞄の中を見た。
 自分にとっての悦楽を満たすための道具と、多額の資金だけが入っている。
 リーファはそのうちのナイフを取り出し、先ほど付着した血を拭き始めた。
 手入れを怠っては、悦楽を満たすどころか暗殺の仕事もこなせない。

 暫くもしないうちに手入れを終えたリーファ。
 ナイフをしまうのと同時に、人がいないことを良いことに下着を全て脱ぎ、鞄に突っ込んだ。
 そして果てにはワンピースさえも脱ぎ、まさに一糸纏わぬ姿となった。
 野外での露出。これも、彼女にとっての悦楽の1つである。

「っ……」

 ただ、こんなところで媚薬を使っては取り返しのつかないことになりかねない。
 あくまでも程々にしておく。彼女に僅かに残る理性が、やっと媚薬の使用を禁止する。
 彼女は自分の理性に感謝さえしていた。過ぎたるは及ばざるが如し、であるのだから。

 やがて5分ほど全裸で町を歩き、誰にも見つからなかったことに彼女は満足して服を着始めた。

Re: 媚薬と血飛沫 ( No.2 )
日時: 2014/08/09 22:08
名前: 不死鳥 (ID: gOBbXtG8)

 のんびりと町を歩いていると、鞄の中で携帯電話が震えるのが分かった。
 リーファはそれを取り出し、電話に応答する。彼女に電話をかけてきたのはジェームスだった。

「リーファ様、暗殺の依頼が届いておりますが、如何致しましょうか」
「じゃあ、まず内容を聞かせて」

 リーファは悦楽がもう直ぐ目の前に訪れる現実に胸を躍らせた。
 人を殺せるなど、願ってもない機会である。頻度こそ比較的多目だが、それでも何時依頼が来るかわからない。
 なるべく依頼は受けるべきである。

「暗殺対象はローガン・フロウツ。ナインストリートにあるアパートのプロピンに住んでいる男性です」
「期日と報酬は?」
「期日は特に指定がありませんでした。可及的速やかに暗殺してほしいと言われただけです」
「ふうん。アバウトだね」
「あはは、そうですね。それと、報酬は500万だそうです」
「特徴は?」
「相手は性欲が旺盛との情報が入っております。容姿は50代前半、白髪の禿かけた頭に、白い顎鬚を生やしています」
「分かった。受理する」
「了解です」

 電話を切るリーファ。彼女の表情にはちょっとした笑みが浮かんでいる。
 これは性欲と殺戮衝動を同時に満たすことの出来る、またとない機会である。
 1日だけ休んでから暗殺に行くことにして、リーファはホテルへ足を運んだ。


   ◇  ◇  ◇


「やらああぁぁ! お願い、止めてぇ!」
「止めない」

 宿泊先で、過去の記憶が甦る。封印していた、思い出したくもない記憶が。
 それは、父親による"調教"の日々。
 止まる事を知らない振動、上下運動、摩擦運動。それらが毎日のように、代わる代わる襲い来る。
 股間が痛々しく腫れ上がり、幾度もの絶頂を迎え、身体から殆どの水分が飛んだとしても。
 そして————

「愛してたのに。酷い」
「り、ふぁ……」

 父親を、自らの手で殺した経験。
 相手の命を代償に得れる悦楽は非常に大きい。それが、人を殺すということ。
 初めて殺した人間は、憎くて憎くて仕方がなかった自分の肉親。

 これが、殺戮衝動と異常な性欲の発端————


   ◇  ◇  ◇


「っ!」

 リーファは飛び起きた。
 ふかふかで寝心地の良いベッドを軋ませ、白く汚れのない布団を肌蹴ながら。
 額からは冷や汗が流れている。気味が悪い。

 彼女は時計を見た。指し示す時間は、夜中の1時。まだまだ寝てよい時間帯である。
 次いで、近くの窓から外を見た。綺麗だった夜景は、建物の照明がかなり消えたことから情緒がなくなっている。

 夢か。一言呟いて、リーファは再び布団に潜り込む。
 ごそごそと厚い布が擦れ合う音がした後、彼女の目からは、暗闇でも僅かな明かりで光り輝く雫が零れた。
 枕を強く抱きしめる。何かに縋るように、そこに誰かがいるかのように。

『私って、一体……』

 零れた雫は、白いシーツに染みを作った。


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