複雑・ファジー小説
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- 妖退治屋 いざよい
- 日時: 2014/10/16 16:37
- 名前: 蜂蜜 (ID: NihAc8QE)
あやかしが闊歩する夜。
あやかし退治屋いざよいもまた、動き出す———。
☆参照100突破感謝!
☆大切なお客様
「本当にありがとうございます!皆さんのお言葉を励みにしてがんばります。」
モンブラン博士さん
オカルトさん
☆キャラ紹介
・十六夜 空 / いざよい くう
肩までの短い黒髪。目は漆黒。
動きやすい紺の和服を着ている。基本夜型。
・斑毛 / まだらげ
白地、背中に茶色い斑模様。目は赤。
十六夜家の守神。1メートルほどの白犬の姿。
首に数珠のような封印具をつけている。
・水華/すいか
単茶。くりくりした黒目。
空の守獣。十数センチのかまいたち
武器はかまで、妖術がつかえる。
☆目次
[人食い女]
>>1
[間章]
>>2
[かまいたち]
>>5
[赤鬼と青鬼]
>>6 >>7 >>9
>>12 >>13
[なぎなた]
>>14 >>15 >>16
☆用語集
・守神(もりかみ):人間を守るあやかし。多くが主従関係を築いている。
・守獣(まもりじゅう):ある特定の人間を守るあやかし。全てが主従関係。
・封印具(ふういんぐ):主従関係を築いたあやかしがつける術具。
また、人を襲うあやかしを一所に押さえつける大がかりな封印にも用いる。
・主従関係(しゅじゅうかんけい):人間とあやかしが共存するための上下関係。
儀式には死がつきもの。
- Re: 妖退治屋 いざよい ( No.12 )
- 日時: 2014/07/21 14:30
- 名前: 蜂蜜 (ID: MLDU0m30)
:其の七:赤鬼と青鬼
「不用心よね。式紙が侵入できる結界だなんて。」
静かな声が部屋に響いた。
しかし手にあるのは、———
———空の、首だった。
なぎなたは床に転がっている。空には届きそうもなかった。
「ぐ・・・。」
「ねえ、なんであのときあなたは死ななかったの?他の奴らは一瞬だったのに。」
空が目を見開いた。
声を出そうとするが、ただのうめきにしかならない。
「赤鬼様も、私も、それが聞きたいわ。どうしてあの時———」
「おい赤!」
庭に面した障子が開いた。
いままで薄暗かった部屋に月光が差し込み、明るく照らされる。
赤鬼が振り向いた時、空は一瞬できた隙間を使って赤鬼の手から逃れた。
荒く息をしながら部屋の隅に逃げる。首には赤い痣ができていた。
「青鬼——じゃないわね、式紙か。それより、逃げられちゃったじゃない。」
「取り込み中だったか。すまん。で、こいつらどうする?庭にいたんだが。」
青鬼の背中にも、赤鬼と同じ物がまるで意志を持つ生き物のようにそこにあった。
そしてそこには、青鬼の言う『こいつら』——斑毛と水華——がそれに巻き付かれるように捕まっていた。
赤鬼が、おもしろくなってきた、とでも言うように空をちらりと見る。
「・・・いや、片方は既に死んでますし、もう片方は妖術使えるんで、助けるために急激に強くなったりしませんよボクは。」
ですよねー、という斑毛の言葉に赤鬼はすっとしらけた顔になる。
「んじゃ、ちゃっちゃと仕留めようか。」
「そうねー。さっきの質問のこたえ聞きがてらいきましょうか。」
=お知らせ=
進まない・・・!話進まない・・・!
そして赤青編どこまで続くんだよと思っているそこのあなた、大丈夫です次には終わらせます!たぶん←
- Re: 妖退治屋 いざよい ( No.13 )
- 日時: 2014/08/03 18:33
- 名前: 蜂蜜 (ID: MLDU0m30)
:其の八:赤鬼と青鬼
赤鬼が空にさだめ、突っ込む。避けられる。
青鬼はそれを狙ったように待ち構えるが、途中でなぎなたを持ち直され、避けるためにころがり逃げる。
攻撃開始、回避、攻撃、逃げる。
———きりがない。
あらかたの畳ははがされ、柱が数本折れたが、勢いが弱まる気配など皆無だった。
「空!こいつら二匹とも式紙だ。物理じゃなくて特殊こ・・・おぶ!」
「あんた馬鹿じゃないですか!?そんなに叫んで攻撃がこっち向くのあたりま・・・きゅ!」
「馬鹿はお前らだー!二匹して叫んでんじゃね————」
青鬼の言葉が止まった。
それがあまりにも急な事で、音で満ちていたあたりがしんと静まる。
それは物理はなく、『特殊』———異様、といっていいほどだ。
光が、満ちていた。
美しい光が。
明るく、白く、まぶしいほどに。
———消し去るほどに。
空の近くにいた赤鬼から、消し飛んでいった。
黒い塊がもえつきる様に消えていく。
「あ・・・。」
式紙の中に、ストンと答えが落ちてきた。
「ああ、そうだ。そうか、そうだ。そういうことか———」
まもなく、その体と共に消え去ったが・・・。
光はゆっくりと、だが確実に町を飲み込んでいった。
起き出でる者も少なくはなかったが、光に照らされても、消える気配はない。
「青。」
それは赤鬼のもとにも届いていた。
とっくに零に戻った青鬼の名前をつぶやきながら、うごめく黒いかたまりもろとも消滅した。
その中心。
光にあてられ、白く塗りつぶされた中で、空はうつろに目を開いた。
なにもない空間をしばらく見つめ、ああ、とだけ吐くと、開けたときと同じようにゆっくり目を閉じた。
- Re: 妖退治屋 いざよい ( No.14 )
- 日時: 2014/08/17 17:22
- 名前: 蜂蜜 (ID: NihAc8QE)
:其の九:なぎなた
「ひゅあーん、空様なんで起きないのぉ!」
戦闘によって折れてしまったなぎなたは、部屋の一段高くなった場所に丁寧に置かれている。
そこに影が差す、午後のおだやかな時間。
部屋の中央にしかれた布団に、空は横たわっていた。
あの日から数日。
屋敷の修復も終わり、妖怪退治の仕事依頼もない。ごく平和な時間が過ぎていった。
ただ、空が目を覚まさない事をのぞいては、だが。
何も口にしていないのだから、空の体は弱り切っているだろう。
空が見つかったのはあの光の中心と思われる場所だった。
町を飲み込んだ白い光。一瞬にして、町の妖気が消し飛んだこと。
関連は少なからずあるだろう。
水華はぐしゃぐしゃとあたまをかき回すと、ぽすんと布団に上半身を投げ出した。
「あー、もう、こんなときにかぎって馬鹿犬はいないんですからー。ホント使えないですねあいつ・・・」
斑毛は昨日の朝、なぎなたの破片をくわえてどこかへ言ってしまったのだ。
どこへ行くのかも、
いつ帰ってくるのかも、
なぜ破片を持って行くのかも、
何も教えずに。
「どこに行ったんでしょー・・・」
水華は誰に答えてもらうでも無い質問をはき出した。行き場の無いため息もあとを追った。
『斑毛兄さんならこっちにいるよ。俺といっしょ。あ、俺敵じゃ無いからね、兄さんの後輩だからね』
少しかすれた、聞いていると安心するような声に、水華はビクッと体を震わせた。
あたりを警戒するように見回し、毛を逆立てる。
そんな水華の様子には声の主は臆さないようだった。
『俺、千寿丸ってぇ言います。この状態疲れるんで、そこの空さんにとりつくよ〜」
勝手に話を進める千寿丸に、水華はぽかんと口を開けた。
そしてむくりと起き上がった空に、さらに口を大きく開けた。
「どうです?すごいでしょ、移し身の術魂版。・・・それよりもこの体すっごい弱ってんね。そういや兄さんそう言ってたっけ」
空に宿った千寿丸は人なつこそうににっこり笑った。
「説明の前に、この体の栄養補給といこうか。こんなんじゃ山登りなんて自害同然だから。」
わけが分からず毛を逆立て続ける水華に、千寿丸は言った。
- Re: 妖退治屋 いざよい ( No.15 )
- 日時: 2014/08/23 20:51
- 名前: 蜂蜜 (ID: NihAc8QE)
:其の拾:なぎなた
まだまだ暑い秋の初め。
町は妖出現の気配も感じられず、ごくごく平和な風がながれていた。
———しかし。
「教えなさい!あなたの全てっ。あの犬っころの後輩なんて信じられません!」
「えええ!?兄さん信用されなさ過ぎ!」
「空様の姿で、空様の声でしゃべるのも気に入らないー!」
水華は小さく、まあ空様の笑った顔が頻繁に拝めるのはいいけど、と付け加えた。
千寿丸は困ったようにクスクス笑い、手元の米をまたほおばった。
「うーんとね、あのなぎなたは俺の師匠が作ったの。だから、治せるの師匠しかいないんだよ」
先ほどからの話をまとめると、
[斑毛は空のなぎなたを造った千寿丸の師匠のもとにいる。空はまだ起きられる状態ではないので、山にいる千寿丸の師匠のもとへ行くまで、千寿丸が空の体へおじゃましている]
「・・・お邪魔しているじゃないですよ!?なんで斑毛と一緒に行けなかったんですかっ」
「あれあれ、もしかして一緒にいきたかったぁ?そぉ。ふふふ・・・」
「んなっ・・・そんなんじゃないですー!ていうか空様の体でそんな顔するなー!!」
一方、龍霊山——斑毛のいる山——では、木々に囲まれた一件の家の前で、ぐるぐる周りながら待っていた。
「あー、わしの刀こんなにしやがってのう!なんなのじゃ十六夜の女って。ここに持ち込んだのもう数え切れないぞ。性格荒いんじゃないの。どうなのじゃ」
「いいじゃないの師匠ー。昔のよしみってことで」
「師匠には敬語をつかえっ」
「『もと』師匠だろ」
家の扉が開き、白い羽織を着た少年が出てきた。見かけ、年は十ほどの小さな子に見える。
それが、斑毛のところへたったったっとかけてゆき、にたりと笑って言った。
「上下関係はそうそうきれぬものだぞ?絆である師弟関係も、妖術と封印の産物の主従関係も、な」
それより、と少年は続ける。
「あやつらはなにをもたもたしておるのだ。」
「・・・三里を数秒で駆け抜ける人間とくらべられちゃぁなぁ・・・」
斑毛は深くため息をついた。
- Re: 妖退治屋 いざよい ( No.16 )
- 日時: 2014/10/15 16:40
- 名前: 蜂蜜 (ID: NihAc8QE)
:其の拾壱:なぎなた
墨のような、のっぺりとした空気だった。
体の細胞のひとつひとつを湯に入れたようだ。ひどくぼんやりとした意識だった。
いつのまにか息を止めていたようで、苦しくなってその空気を吸った。それを待っていたかのように、音が息を吹き返し、まわりの墨は後ろへひいてゆく。
わっと、空の暮らす山の麓の城下町の景色が色づいた。
空は歩いていた。いや、どちらかといえば、数年前の自分が歩いているのを、空中に浮いて眺めているようだった。
右を見れば八百屋が客を呼び寄せ、左をみれば華やかな着物を売る呉服屋があった。昼の、活気に満ちあふれた大通りであった。
どこにいこうとか、そもそも何故ここにいるのだとか、そのような事は頭になく、自然に足をすすめている。それを気にする、ということもなかった。
そのまま進むと、大きくも小さくもない看板が目に入った。
『妖退治屋 いざよい』
木材に、直接墨で、そう書かれている。
「あ、若女将!おかえりぃ」
「どこ行ってたの?あそぼうぜ」
空と同じくらいの、5、6歳の男女が、看板のたてかけてある門から勢いよく飛び出し、空の存在に気がつく。
「ああ、ただいま。——で、また訓練サボってるんだろ」
「げ、お見通しじゃんか。若女将が相手してくれんなら、ちゃんとやるから、花にはだまってて?」
「ほら、早くー」
いざよいの、見習いだ。空は子供と言葉を交わし、そでを引っ張られながら思い出した。
花、というのはこの子達の指導者の名前だ。
ああ、数年もあっていないと忘れるものなのだな———
門の中にはいるとまず見えるのは見習達の訓練場で、お札をそろえている花が見えた。
抜け出した訓練性をみて、あきれているような怒っているような表情を浮かべたが、ひっぱられている空をみて、怒りが消えてあきれ顔になった。
「ねえね、花!若女将がお相手してくれるって!」
「斑毛おこしてきて!模擬戦するぅ!」
それにたいして、空の
「相手するとは言ってない!」
と、花の
「あんた達、若女将には敬語使いなさいって言ってるでしょー!」
が、重なった。
それと———、
「あはは、空は人気者だなー」
という声が少々遅れて被さり、空は驚いて母屋の方を向いた。しめられていた障子が開け放たれ、畳にしかれた布団の上で笑う、貧弱そうな男がいた。
「父さん!今日は起きて大丈夫なの?」
空の父はこのいざよいの旦那であったが、病弱なため店を仕切るのはほぼ娘の空だった。
「大丈夫。今日は調子がい・・・・・ゴハッ」
はき出される血。笑いながら吐血。
「父さん!?」
「・・・いんだよ」
「最後まで言わなくていいから!」
「ああ。こんなカワイイ娘に愛されて父さんは幸せだったよ・・・」
「最期の言葉みたいなの言わなくていいから寝てて。寝ろ!」
なかば強引に布団に押し込めると、笑い、あきれながら花と見習達も来た。
ふすまを開けて、通りかかった母さんに事情を言うと、同じようにあきれながらお茶を持ってきた。その母さんについてきたのか店の男達も部屋に集まった。
ああ。
空は、笑う自分をみながら、目を細めた。
ああ、幸せだ。
そう思うと同時に色もかすれ、町のざわめきも、みんなの笑い声も、遠ざかっていく。
急に、目を閉じた時のようになにも見えなくなった。
しかし目は閉じてはいないし、自分の姿だけははっきり見える。
驚き、慌てたが、障子の外に月が出ているのを確認し、この闇は夜だとわかってほっとした。
みんなは。
みんなはどこだ?
「父さん?母さん?花———?」
部屋の中へ戻ろうと一歩踏み出すと、足にぬめりとした感触が広がった。ぞわっと鳥肌が立ち、しゃがんでみると、それはどすぐろい血だった。
急に恐ろしくなった。
これは、妖怪の血だよな?
部屋を見渡し、倒れている人の姿を見つけ、目を見開いた。
息がつまる。
泣いて、顔を真っ赤にしたような、それと似た言葉にしづらいつまり方だった。
「父、さん・・・?」
人は極度に混乱すると冷静になるのだろうか。
空は父から視線を無理矢理外し、部屋にころがる塊を順番に見た。
父さんのとなりにいるのが母さん、見習いを守るようにおおいかぶさっているのは花、刀を手ににぎっている男が店一番の実力者、真。
「ああ、あああ・・・」
ずうん、と像が地面を踏むような音が響き渡った。
庭のほうからだ。空はへたりこんで血にそまった着物を重そうにひきずりながら、はだしのまま庭へ出た。
ずうん。また、像の足音。ずうん、ずうん。
像の正体を見た空は、驚きも、おののきもしなかった。ただ、ぼぅっとうつろな目で見つめていた。
龍のような姿だった。
月を背にたっているので、細かな部分はわからないが、大きな蛇のような胴と、風になびくたてがみは見て取れた。
ひゅおふ。
風が強く吹いた。
龍のような妖怪が、自分に爪をふるったのだと、遅れて理解した。
死ぬのだ、と、この世からいなくなるのだ、と、自分のあげる血しぶきを見ながら、・・・理解、した。
視界が傾き、体に衝撃が走ったところで、意識は糸が切れるように、ぶつんと切れ飛んだ。
目のあたりがかゆい。
手で触れてみると、涙が乾きかかって、かゆみをおこしているのだとわかった。
「あー・・・・・・・・・夢、か」
そのまま乱暴に目をぬぐう。
千寿丸が自分の体に入ってきたのは、千寿丸が数秒だけ意識を回復させてくれたので、わかった。
『俺は、斑毛兄さんの後輩でぇす。んで、今からそこにつれてくんで、意識とっちゃうねー』
・・・空が聞いたのは、それのみだ。
全く見知らぬ部屋に寝かされている、ということは、その移動が終わったということだろうか。
「なんじゃ!おきとるではないか」
子供のような、青年のような、明るい声がした。
視線を声がした方向へ動かすと、無邪気そうに笑う、少年がたっていた。
その向こうに斑毛と水華、見知らこんじきの狐が並んでいる。
「空様!?起きてる!起きてるぅぅぅぅ!!」
「おはよー、空」
「あ、俺が千寿丸っすよー」
少年の言葉が終わったか終わらぬか、水華が叫びながら突進する。ゆっくりと斑毛があとをおい、そのあとをぴったり千寿丸があとを追う。
上半身をおこしてみるが痛みはどこにもなく、飛びついてきた水華を難なく受け止める。
其の様子を見ていた少年が口の端をすこし上げた。
「んー、じゃ、なぎなたみるか?完成しとるが」
少年はそう言い、部屋を出て行った。
しかしすぐ戻り、障子からぴょこんと頭を出して、口をとがらせた。
「なんじゃい、ついてこぬか。もう立てるじゃろ」
空は苦笑すると、はい、と言って立ち上がった。