複雑・ファジー小説

新任の養護教諭、香先生
日時: 2016/09/04 13:39
名前: 奈々化

 こんにちは  または久しぶりな方もいるかもしれませんね。

 奈々化です。パソコンの調子がいいので、このたび再開することにしました。

 さて、同じ題名ではだめだということで、似ている題名で書かせていただくことにしました。内容も頭からまったく変えてしまったので、前作の小説の内容は忘れてください。
 
 また保健室ネタ?!と思われるかもしれません……ですが、またこれから宜しくお願いいたします。


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Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.404 )
日時: 2017/07/13 14:46
名前: 奈々化

 安佐子side

 香が玄関のチャイムを鳴らす。 返事が無いので、続けて二、三、四回と鳴らしていく。

 その時「・・こあ・・で・・・く・・い」と小さな声が聞こえた。

 「何か聞こえる」と言う私に「そっか。 じゃあ、この中にいるんだ」と香は家を見上げた。

 またチャイムを鳴らす香。 首を傾げ「なぜ、出て来ない?」とまた家を見上げる。

 私の耳にはまた「は・・・るの・・てください」と、言葉が聞こえてくる。

 「男の子の声がする」

 「なんて言ってる?」

 「途切れ途切れで、はっきりとは」

 香は「ふーん」と一つの部屋を見つめた。 薄っすらと明かりがついている。

 香がまたチャイムを鳴らした。 と、その時

 「そこにハンコあるので押して帰ってください!!」と叫び声が聞こえた。

 今度は香にも聞こえたらしい。 「清間君?」

 「二階からじゃない?」と言う私の声を待たず、香は靴を脱ぎ捨て階段を上り始めた。

 「え・・・何? 足音?」とまた声が聞こえる。 慌てて鍵をかけようとする音も。

 廊下に出ると、突然香が駆け出した。 「ちょっと、待って!」と追いかけると、香が一つの部屋のドアノブを必死に掴んで開けようとしていた。

 「何・・・何これ! 宅配の人じゃないんですか? 何勝手に上り込んでるんですか?! 怖い・・・怖い、怖いよ!」

 「落ち着いて。 確かに私達は宅配の人じゃない。 でも、そんなに怖がらなくていい。 きっと、顔を見れば分かる。 一度は見たことあるはずだから」

 香の声に、ドアが動きを止めた。 「わたし・・・たち?」と不思議そうな声も聞こえてきた。

 香の手によって、ドアは廊下側に開かれた。 部屋の中に立つ男の子の顔が、少し廊下の明かりに照らされた。

 「清間 翔君?」と香に聞かれ、男の子はコクンと頷いた。

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.405 )
日時: 2017/07/15 17:17
名前: 奈々化

 香side

 照らされた清間君の顔。 七分袖の服から出ている腕に、はっきりとした青い痣(あざ)が見えた。

 「入れてもらえる?」と言うと、何も言わず部屋の戸を開け、部屋の電気をより一層明るいものにした。

 椅子があるのに、カーペットの上に座り込んだ清間君は「あまり見ないで下さい」と、手を膝の上に置き俯いた。

 彼の痣もひどいのだが、部屋の壁、机の上など浅い傷、深い傷が目立つ。

 「確かに、そんな体では宅配便の人の前に出られないのも分かる。 でも、もし今回入って来たのが私達じゃなかったら、どうするつもりだった?」

 私はそう言って、清間君の両腕をとり、表裏を交互に見る。

 「左腕。 手首捻ったのね」 私は赤く腫れている手首を見つめた。

 「そういえば・・・はい」と清間君は「ハハ」と小さく笑った。

 「台所、いい?」と、私は返事を待たず階段を降りた。

 袋に氷を入れたのを持って戻ると「ありがとうございます」と、清間君はそれを受け取り、左手首に当てた。

 「確かに不用心でしたよね。 でも、もしこの痣に気付かれたらって思うと、怖かったし、説明するにも勇気がいるというか」

 「すみませんでした」と清間君は頭を下げた。 

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.406 )
日時: 2017/07/16 12:15
名前: 奈々化

 香side

 「そう。 でも見てしまったからには、私達手ぶらじゃ帰れないわ。 話してくれるわね?」

 清間君は一瞬こちらを見上げ、「でも」と躊躇う(ためらう)。

 安佐子が清間君の肩に手を置き「話せる範囲でいいの」と声をかける。

 その言葉に「・・・はい」と、清間君はゆっくり息をした。

 「質問いいかしら? 想像つくけど、この痣や部屋の傷は誰にやられたの?」

 「父です」

 「やっぱり」と言う安佐子に、私は黙ってうなずく。

 「いつ頃からなの?」

 「高二の夏くらいから」

 「衣替えした時も、部活の時もずっと長袖を着ていたのは、それが原因?」

 うなずく清間君に「それじゃ、気づくのが遅くなっても無理ないか」と納得した。

 「お父さんと上手くいってない?」

 安佐子の問いかけに「はい」と力く答えた清間君。

 「中二の頃、母が病気で死んでから・・・ずっとここで二人暮らしてるんですけど」

 そっか、ちゃんと母親はいたのか。

 「その頃からきっと、父の中で何かが変わったんです。 僕は父に笑顔が戻るように頑張っていたんですけど、それが逆に父には耐えられなかったんだろうと思います。 あまり話さなくなるうちに、どうしたらいいのか分からなくなって」

 清間君の声が震えだした。 「大丈夫? 一度落ちつこう」と言う私を見ながら、清間君は目を閉じた。

  

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.407 )
日時: 2017/07/18 16:18
名前: 奈々化

 長瀬side

 「悪い、待った?」

 放課後、一度それぞれの家に帰って、翔の家の近くにある公園で待ち合わせようと言った。 が、そう言いだした俺が遅れてしまった。

 「おせー」と菅がこちらを睨む。

 「悪かったって。 早速行こう」と、俺は先に歩き始めた。

 「家に入れてもらえるかな?」

 「さあな」

 「なんか言いたいこと、たくさんあるよな」

 「俺、殴るかもしれない。 今まで何やってたんだって」

 「あり得るな。 ま、全力で止めるけどね」

 菅は「チッ」と舌打ちをして駆けだした。 「歩きなんてとろい! 先に行ってるぞ!」と叫び、角を曲がって行った。

 慌てて追いかけ、菅の背中に「待て!」と叫んだ。

 そして、二人そろって翔の家を見つけた時「え・・・」と同時に声を上げた。

 「戸、開いてるよな?」と言う菅に、俺は黙ってうなずき返す。

 家の前まで歩み寄り、そのことを再確認する。

 「どういうことだ?」と菅は玄関を見回す。 靴箱の上にハンコが立ててあり、そばに朱肉のケースもある。

 「宅配でも来たのか?」

 俺は玄関から少し離れ、家を見上げた。 すると、一つの部屋に明かりが点いた。

 「違う」とつぶやいた俺を「何が?」と菅が振り返る。

 「あれ」と俺は、二階に続く階段を指差した。 暗い中、靴が転がっているのが見えた。

 俺たちは玄関で靴を脱ぎ、静かに階段に近づいた。 女性物の靴が四個、あちこちに転がっている。

 「! おい、誰か来るぞ!」

 先に上がっていた菅が声を潜めて言いながら、俺の背中を押し「早く、どこか部屋に!」と小さく叫ぶ。

 俺はそばにあった扉に手をかけて、菅と共に中に入った。 が、「スタスタ」と近づいて来る足音もこの部屋を目指しているらしい。 

 幸い、もう一つ部屋があるらしく、その引き戸を引き、菅とその部屋に入った。

Re: 新任の養護教諭、香先生 ( No.408 )
日時: 2017/07/19 15:51
名前: 奈々化

 長瀬side

 「おい、こk/」

 別の部屋に通じていると思っていた戸は、廊下に続いていた。 そのことに気付いて声を上げそうになった菅の口を慌てて塞ぐ。

 出て来た部屋の中から、ザクザクと固いものがぶつかる音がした。 次にガサガサと袋を広げる音が聞こえた。 

 しばらくして、部屋の扉が開き、部屋からの物音は止んだ。 そして、階段まで早歩きで近づいたかと思うと、こちらを振り向いたような気配がした。

 「ここに来たことは、黙っててあげる。 でも、彼の痛々しい姿を見たくないなら、今すぐ帰った方がいいよ。 また彼が学校に戻って来たら、仲良く、これまで通り接してあげて」

 そう言って階段を上って行った。 俺たちは揃って二階を見つめる。

 「今の声」と言う菅にうなずき「横田先生だ」と、俺は顔を覆った。

 「気づかれてたんだ。 コソコソしてたのがバカみたいだな、これじゃ」

 そのことに菅は返事をしなかった。 でも、向かい合っている顔が、暗い廊下にいても、顔を覆っていても、しかっめ面をしているのが伝わる。

 「痛々しい姿って何だよ。 ますます気になるじゃんか」

 菅が階段を駆け上がろうとしたので、俺はガシッとその肩を掴む。 少し振り向いた目が「離せ」と訴えている。

 「俺、正直言っていい? 翔のそんな姿見て、きっと俺・・・平気じゃいられない。 どういう感情っていうか・・・どういう視点っていうか、どうアイツと向き合えばいいのか、今みたいにいろいろ考えて、きっと分からなくなると思う」

 菅の鋭い目つきが、分かりやすいほど悲しそうになった。

 「そうなるなら、きっと横田先生の言う通り、帰った方がいいんだ」

 俺は先に玄関に向かって歩き出した。 その後ろを、とぼとぼと菅がついて来る。

 「お前って、意外に臆病なんだな。 そういろいろ考えてちゃ、頭パンクするぜ」

 思い切り肩を押され、玄関の床に手をつきそうになった。

 「そんなに意外か?」と俺は一瞬笑ったが「翔に言うなよ、今のこと」と菅を振り向いた。

 菅は「さあーな」と聞こえてきそうな微笑みを浮かべた。 それを見て、俺もつられて笑う。

 そのうち、どちらともなく急に競走のように走りだした。
 
 

 

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