複雑・ファジー小説

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ラストメモリアル
日時: 2014/09/13 10:18
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

星の意思によって生まれた、只1つの存在である"起源"(オリジン)。
永劫回帰の追憶を辿り、古より肉眼を通し、今も脳裏に焼き付けし数多の出会いと別れを想起する。
今宵のオリジンは、その瞳で何を見る————



    ◇   ◇   ◇



—目次—


序章〜終わりの始まり〜
>>1 >>2

Re: ラストメモリアル ( No.1 )
日時: 2014/09/12 23:42
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

 息つく間もなく、休みという名の暇さえ知らず、時間はとめどなく流れている。
 その最中で、同じように幾つもの軌跡が生まれるのだ。人が何かを営めば、その後に新たな道しるべが出来るように。
 同時にそれは、全て記憶の欠片となる。刻一刻と過ぎてゆく時の中、この星に刻まれる、新たな記憶の一片と。
 やがて、生まれた記憶の欠片が"負"を持っているならば、それは全てとある命の下へと渡り行くのである。星の調停者、妖精の取り替え子、万象神————そんな幾つもの異名を持つ、たった1つの命"オリジン"の下へ。
 今日もまたオリジンは、あらゆる"負"の記憶を観ている。

 オリジンとはあらゆる観点から存在が確立されておらず、何処で何をしているのかが不明で、男なのか女なのかという容姿さえも定かではない存在のことである。だが、世間に広まっている宗教の信仰上で、オリジンは神として崇められている存在ではある。
 だが、言ってしまえばそれだけだ。実際にいたのか、または今も生きているのか、はたまた未だにこの世へ生まれ落ちてないのか。それさえも定かでないのだから。
 そして何より、オリジンにはオリジンとしての自覚がない。そこもまた、世間を惑わせている要因だといえよう。

 そんなオリジンなる存在と、負を持つ記憶の欠片。この2つは無関係とはいえない。
 欠片は情報へと変換され、オリジンはそれを絶え間なく吸収しているからだ。それこそ、時が流れるのと同じように。
 しかし————

Re: ラストメモリアル ( No.2 )
日時: 2014/09/13 09:43
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

 長年風雨に晒され続け、手入れもされずに荒廃した廃墟を背後に控え、正に直立不動の状態で立つ男がいる。
 右手に金の装飾が施されたロングソードを、左手に赤い宝珠の埋まった盾を携え、全身に白銀の鎧とフルフェイスの兜を纏ったその姿。宛ら御伽噺に出てきそうな、どこぞの聖騎士の恰好である。
 そんな男の前には、彼とは対照的に、比較的肌の露出が多い装備を身につけた女性が立っている。
 お世辞にも豊満とは言えない胸を蔽うだけの、男と同じ色をした軽鎧。まるでブリーフパンツのような形をした、下半身を保護しているとはとても言い切れない鎧。加えてショートソードを2本携えたその様は、まさに"肉を切らせて骨を断つ"を具現化したようである。

 その両者とも、現在は目立った動きを見せずに膠着状態を続けている。
 代わりに動くのは、風に吹かれている黒き雷雲。雷鳴と稲妻を轟かせつつ一定の速さで上空を動き続けるそれだが、それによって晴れるかと言えばそうではない。日の目が地上を照らす気配はなく、暫くは稲妻の雷光だけが、地上を明るく照らし出すことだろう。
 そして何より、中でも最も大きな動きを見せているのが、両者の舌と唇。

「あくまで、そこを退くつもりはないのね?」

 威厳ある声で「そこ」と言いつつ、男の背後に控える廃墟を指す。
 同時に、長く何の飾りもない金髪を風に靡かせる女性が、髪色と同じ瞳の眼光を鋭くさせて男に訊ねた。
 もう何度目だろうか。この質問をしたのは。さりとて男はその女の質問を、訊かれる度にはぐらかしてきた。否、遠まわしに自分の答えを訴えてはいるが、我を若干忘れかけている女性には彼の意思は上手く汲み取ってもらえないらしい。
 男は苛立ちを感じたかのように、雑草さえも生えていないこの荒野の固い地面を踏みしめなおす。ぎり、と小石と具足が擦れる耳障りな音がしたが、雷鳴と風の音にかき消された。

「ここは……」

 訊くほうも訊かれるほうも、最早何度目か曖昧で分からない女性の質問に答えようとした男は、そこまで言いかけて口を噤んだ。代わりにと言うべきか、彼の足と右手が動いている。
 男は地面を蹴って人間離れした跳躍をすると、上空10メートル先から、同時に振りかざした右手の剣を振り下ろす。
 その切先は、女性の脳天へと。

「っ!」

 油断した。重装備とも言える鎧を纏っているとは思えない、その男の俊敏な動きに。
 女性は大した処置も取れずに回避の機会を逃してしまい、止むを得ずショートソードを交差させて頭上を庇う破目に。
 防御の態勢をとった刹那、すぐ目の前で刃を交えたことによって火花が発生。同時に響いた耳障りな金属音は、一瞬だけ鼓膜を破るような大きな音がして、火花と共にギリギリと小さな音が鳴り続ける。

「待て貴様! 自分のしてることがなんなのか、分かっててやってるのか!?」

 刃が交わったのとほぼ同時刻。女性は、明らかな焦りを表へと露にした。
 彼女が焦っている理由は、言ってしまえば至極単純。単に刃が交わっているからである。
 だが、何故か。そこまで深く問うとなれば、簡単には説明が付かない。それを表しているかのように今、火花を散らす中心部からは、白く眩しい光があふれ出しつつあった。暖かく、それでいて少なからず冷たさを含む光が。
 それに双方が気付いたときには、もう遅かった。

「きゃあ!」
「うわあ!」

 小さかった光は一瞬にして肥大化し、臨界を越え、莫大な爆発エネルギーを生み出した。
 ロングソードを以って女性に切りかかった男の鎧が、その爆発エネルギーにより完膚なきまでに大破。同時に盾も砕けて男は吹き飛ばされ、地面を数回にわたって転がった。
 寝癖のようにボサボサな白髪と、大破して砕け散った鎧と同じ色の銀の瞳が露になる。無事なのは、彼の命とその剣のみ。
 一方で女性も吹き飛ばされていた。その時彼女は一瞬で、防御のために霊妙な技術から成る魔方陣を組み上げていた。しかし、出来上がるのと同時に魔方陣は壊れ、虚空へと消えて効力を失う。尚も爆発エネルギーは健在で、威力は多少弱まったが、それでも大きな威力を誇っていることに違いはない。
 男と同じく、鎧は砕けて地面を転がる。おかげでその女性は全裸を曝す破目となったが、今は羞恥に悶えている場合ではない。近くに落ちた自分の獲物を素早く拾い上げ、膝をついている男を睨む。

「だから言ったのだ。私の警告を無視した上、貴様は世界も壊すつもりか」
「壊れたなら、作り直せばいいだけの話だ。もとより、このような腐りきった世界など、なくてもよかったんじゃないか?」
「世迷言を……」

 絶えず睨みを利かせているその裸の女性を見ても、男は特に何の感情も抱かず、ただ立ち上がった。
 地面に刺さった剣を引き抜き、再び身構えるその男。戦闘意思は明らかだが、どこか何かに絶望しきったかのように、瞳からの輝きは消えている。ただ、背後の廃墟に女性を侵入させないという意思だけは、今も尚その瞳に宿している。

 ————再び膠着状態が続く。するとふと、大きな地響きがした。

「しまっ——」

 しまった。ただその一言を言い終える前に、女性は何かの糸がぷっつりと切れたかのように、不意に意識を闇へと落とす。同時に男も、女性と同じようにその場に倒れ伏した。
 突然すぎる出来事に、成す術もないまま。

 ————そして、星の意識も闇へと落ちた。

Re: ラストメモリアル ( No.3 )
日時: 2014/09/13 16:52
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

『……止まった……?』

 純粋な暗闇に覆われたここは、始まりの場所と呼ばれる、誰も知らない空間の中枢。
 ここに身を置く1つの存在は突然の異変に気付き、一瞬だけ、観ていた記憶による思考が止まった。
 何故なら——絶えず流入していた幾つもの記憶が突然、電源を切ったテレビのように流れてこなくなったのだから。

『……何だろう』

 1つの存在は、周囲の状況を把握することに意識を集中させた。
 しかし把握できたのは、一点の光さえも射さない暗闇と自分の周囲を浮く複数の"記憶の欠片"、球状の自身から発している碧い光のみ。それ以外に見当たるものなどあるはずがなく、辺りは静寂に包まれている。
 それを感じて1つの存在は、碧い光を強くした。

『……行かなきゃ』

 記憶の流入が止まったことはつまり、この星の意識が落ちたということを。この星の意識が落ちたということはつまり、この星の滅びが始まることを示している。何故それが、根拠もなく分かるのか。それは1つの存在が、長い時を経て経験した賜物といえることだろう。
 だが物事がどう転がっても、星の意思によりこの世に生まれ落ちて、幾千年の時を経て、星の意識が落ちた今。1つの存在は、動き出さねばならない。この星の調停者として。この星の分身として。
 何故、記憶の奔流が止まったのかはわからない。しかしどの道、1つの存在が取るべき行動は変わらない。

 1つの存在は碧い球。
 球はますます光を強くし、やがて大きくなり、人の形へと変化し始めた。
 身体は小柄で華奢なものへ。髪は短く黒いものへ。瞳は赤く焦点の定まっていないものへと。
 そうして出来上がった身体は、10代半ばの幼い少女の身体。
 1つの存在はその身体を以って、この暗き空間全てを照らさんとするほどに強くなった光に包まれ、自我と共に消えた。
 向かうべき場所は、この星の地上。何処へたどり着くかは、分からない。
 1つの存在は新たに生まれた人格と自我を意識し、これまでに見てきた記憶を想起し始めた。
 そうして観た記憶を全て辿り、最後に観た記憶。それは、オリジンと呼ばれる存在であった。

Re: ラストメモリアル ( No.4 )
日時: 2014/09/13 20:25
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

 大きなテンガロンハットを目深に被った青年が、雑木林の中にある獣道と言ってもよい道無き道を、右手に持ったマスケットナイフで通行の妨げとなる草木を薙ぎ倒しながら、ただ1人黙々と歩みを進めていた。
 腰のベルトに装着されているガンホルダーには、右手側と左手側とで1丁ずつの拳銃が収まっている。
 これは何れも"戦車銃"と呼ばれる、銃弾次第では戦車の装甲さえも撃ち抜くとされる超高威力を誇る銃である。しかし生憎、青年はそのような弾を持ち合わせていない。弾は全て、何処ででも手に入るような安物だ。

 そんな銃を携えた彼の容姿はというと、首に巻かれた赤いスカーフといい、服だけを見れば宛ら西部劇でよく出てきそうなガンナーの姿をしている。
 そして、真正面からではテンガロンハットが邪魔して見ることが出来ないが、彼の瞳は薄い黄緑色で、髪はくすんではいるが赤色と特に何の飾りもない。かといってピアスなどのアクセサリも身につけておらず、ファッションへの頓着性が窺えない。

「……?」

 日の目が射してから、休むことなく獣道を進み続けること3時間。そんな青年は、池を中心とした開けた場所に出た。
 ここで一息入れようか。そう思ったのとほぼ同時である。直径軽く200メートルはあるであろう、それなりに大きな規模を誇るこの池の岬で、うつ伏せに倒れている少女を見つけたのは。

『人、か?』

 見つけるなり青年は、驚くことなく焦ることもなく、且つ素早くその少女に近寄った。

「大丈夫か?」

 青年は少女の身体を揺する。
 池の水に濡れてか、少女が持つその小さな身体は非常に冷たい。まるで死人かのような冷たさである。だが、身体が固まっていないのと僅かに息があるのを見ると、死んだというわけではないらしい。
 青年はその少女の上半身を起こすと、自分の膝の上に乗せる。そして再び息があることを確認すると、彼は一先ず安心し、どこかで休ませることにした。
 どうしてこんな面倒事に首を突っ込んでしまったのだろうか。そんな自問自答を繰り返しながら。
 しかし。

「……うっ」
「?」

 どこか安全なところへ運ぼうとした矢先、先に少女が目を覚ましたらしい。
 少女は自分の身体に触れる暖かい感触で、はっきりと覚醒した。そうして開いた目蓋。露になったのは、赤く虚ろな瞳。
 儚さを多分に含む容姿と相俟って、青年は一瞬息を飲んだ。
 少女はそんな彼に気付くことなく、まだ半開きの目蓋から覗くその目で青年の瞳を見据えながら尋ねた。

「あ、貴方は……?」
「俺? 俺はロイド・グランツ。ただの旅人だ」
「そう、ですか……」

 透き通るように涼やかな声が、やけに耳に残って離れない。
 それを若干気にしつつも頭の中で振り払い、"ロイド・グランツ"と名乗った旅人の青年は、少女に身体の調子を尋ねた。
 一方で自分のことを"エーデル"と名乗った少女は、寒気がするだけで特に何も問題はないのだという。
 彼女は、座ったままではあるが、ぺこりと頭を下げた。

「すみません、助けていただいて」
「いや、気にしないでくれ」

 旅をしていれば、こんなことはよくあるからな。その言葉を、ロイドは言いかける前に飲み込んだ。
 本能が、口にするのを拒んだからだ。何故拒んだのか。それは本能に従った以上、頭で理解できるはずがない。
 彼は考えるのをやめて、焚き火を焚くことにした。そうすれば、少しはエーデルの寒気もマシになるだろうと。

Re: ラストメモリアル ( No.5 )
日時: 2014/09/14 09:33
名前: 芳美 ◆CZ87qverVo (ID: lY3yMPJo)

 やがて、焚き火が焚けるだけの薪を集め終えたロイドとエーデルの2人は、天気のよさを良い事に日向まで移動し、偶然転がっていた丁度いい具合の丸太に腰を下ろして、やれやれと一息つくのであった。
 時期的に現在は冬の序盤。白いワンピース1枚だけのエーデルには流石に肌寒い頃である。
 その際、エーデルの手伝いもあって必要な分の薪を集めるのには然程時間はかからなかったが、この辺りはどうやら湿地らしくて木々が若干湿っており、ロイドは薪に火をつけるのに少なからず苦労していた。
 やっとの思いで火がついたのは、作業開始から30分経った頃のこと。ロイドの足元には空になったマッチの箱と、無数の燃えさしだけが残った。その量はと言えば、まるで1箱丸々使ったかのようである。

「す、すみません。態々私のために……」
「いいや、気にするな。よくあることだ」

 隣でそんな様子を眺めていたエーデルだが、彼女は申し訳ないという気持ちで一杯になっていたらしい。
 旅人は只でさえ財産が少ない。その上彼女のような浮浪人を助けるなど、本来は以ての外だろう。
 だがロイドは、やはりというか気にしていないらしい。どこまでも大らかな人だ。エーデルはそう思った。

「色んな国の観光と新しい住居探しを兼ねて、俺は今まで世界の各地を彷徨ってきた。そうして何となく旅をすること、早10年が経とうとしてる。10年間も旅人やってりゃ、そりゃこんなトラブルにも慣れるわな」

 ケラケラと笑うロイドに釣られ、エーデルもクスクスと小さな笑みを零す。
 そんな"何となく"という動機から始まった旅人暦10年のロイド。そういえば、と言いかけて、彼はエーデルを見た。

「お前、あんなところで何やってたんだよ」

 ロイドはそう言いつつ、目線をエーデルが倒れていた場所へと向ける。
 それから少しの間、沈黙が流れた。やがてエーデルが無反応なことに気付いた彼は、再び彼女の方を見る。
 エーデルは、小さく丸くなりながら俯いていた。視線の焦点は明らかに定まっておらず、只ゆらゆらと燃える焚き火の炎をボンヤリと見つめているだけ。ロイドは訝しげに眉根を顰めた。

「まあ、言いたくない事情があるなら、無理して言わなくてもいいんだけどな」
「……分からないんです」
「は?」

 そして、途端に彼女が発した意味深な言葉の所為で中途半端に口を開けることとなる。
 何が分からないのだろう。彼が問いかけようとする前に、エーデルが自分で口を開いた。


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