複雑・ファジー小説

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僕の名を誰が呼ぶ
日時: 2014/09/18 23:46
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

初めて投稿させていただきます、ゆういちと申します。
いろいろな人に小説、掲示板などについてアドバイスをいただければ幸いです。
もしジャンルを間違えていたら、ごめんなさい。
また、内容が矛盾することもあると思います。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.13 )
日時: 2014/09/22 22:21
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

気が付いたら、とある森の、洞窟にいた。
もうずいぶんと昔のことで、生まれたばかりのことなんて忘れてしまった。
長い、長い時の中、僕は一人森の中をうろうろして、暇を持て余していた。
ある時から、たまに何かがやって来ては、僕の魔法を頼むようになった。あるいは遠巻きに僕の洞窟を覗いていた。物を置いていく者もいた。
彼らは、僕を「氷の魔法使い」と呼んだ。
氷を作る魔法だったからだろう。
その姿はすぐに老いて、木々の色彩が変わるように面を変えていった。
そうしてその態度も、変化していった。
魔法使いの生は無尽蔵だ。僕はその大半を勉強に費やした。
哲学、数学、地学、生物学、魔法学…。
ありとあらゆる学問を制覇した。
人間の説く魔法学は実際のそれと全く異なっていたが、非常に興味を惹かれる内容だった。
さらにいろんな物を作ったりもした。
特に、魔法が使いやすいように作り替えたサファイアは傑作だった。
僕はそんな風に毎日を過ごしていたが、中には好戦的な魔法使いもいたようだ。
面白半分で人間を虐げる魔法使いに反発して、人間が反乱を起こした。
遠い国のことだ。関係がなかったはずだった。
ある時。
僕は終わりのない、間延びした日々に飽き飽きして、散歩へ行くことにした。そんな日のことだった。
森を抜け、道中。村に行ったことがないため、道に迷った。
辺りを見回して、ふと一人の女性の姿が視界に映り込んだ。
「…こんにちは」
彼女は僕に微笑みかけた。
「すまないが、村まで案内してくれないか」
これが僕と、彼女の出会いだった。
それから何度も女は、洞窟にいる僕のもとへやってきた。それは次第に逢瀬となってゆき、僕たちは互いを愛し合うようになっていった。
一つ、問題があった。女にはすでに、伴侶がいたのだ。子供もいた。それでも彼女とは、三日に一度は会っていた。
何故かと訊くと、僕を愛しているからと、ただそれだけ笑った。
「悪い魔法使いもいますが、あなたのように素晴らしい方もいらっしゃる。人間と何一つ変わりませんわ。どうしてあなた方だけを悪く言えましょうか」
彼女の夫がどういう人間だったか、僕は知らない。ただ、日ごとにやつれていく様を見るのは辛かった。
僕が彼女を幸せにしてやりたい。僕の方がきっと彼女を大切にできるのに。
そんな生活もすぐに均衡を崩した。女が魔法使いと通じていると村にばれてしまったのだ。生涯添い遂げるべき旦那がいながら、まして天敵である魔法使いを想うなど!村人は激昂し、僕もろとも彼女を殺そうとした。
裏切り者として槍玉に上げられた女に、
「共に、来てくれるか」
僕が問えば、待っていたと言わんばかりの笑みを浮かべて頷いた。
彼女の手を引き、遠くへ逃げることにした。彼女だけは、彼女だけは!
気が付けばあの「森」に来ていた。
適当なあばら屋を探し出し、人間に見つからないようひっそりと暮らそう。僕はそう提案した。
一日、また一日と、彼女は薄く寂しげに笑うことが多くなっていた。
「あなたが魔法使いではなく、一人間であったならばどれほどに良かったでしょう」
そんなことを言うようになった。言葉の意味を、笑顔の意味を今も知らない。
だって彼女は、僕を。
——それは僕が食べ物を取りに森へ出かけていた時のこと。しばらく穏やかな時が続き、油断していた。
一瞬の留守の間に彼女は殺されてしまった。首がぱっくり裂けていて、おそらくは即死。その胸が、腕が、手が床が真っ赤に染まっていた。
誰が何のためにやったのか。
僕の魔法は氷を作ること。それだけ。
たったそれだけ。
呪った。彼女を殺したヤツを。追いつめたヤツを。油断した自分を。何もできない自分を。
後を追いたかった。だがそれも無駄に終わった。
人間がずっとずっと、怨嗟で僕を縛り付ける。死ねと言いながら殺してくれない。
僕はまた、一人になった。幾年、人間を呪うことも、殺してくれと願うことにも疲れた。
次第にまた、元の生活に戻ろうと思うようになった。誰も知らなかった日々に。
人間は友であると思っていた日々に。
そう決めても、彼女の綺麗な四肢を捨てることはできなかった。
だって僕は、彼女を愛していたのだから。
ある日。僕の家のベルが揺れた。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.14 )
日時: 2014/09/22 22:27
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

反転。

それに触れ、すべての記憶が瞬きのうちに僕の中を満たしていった。
情愛、怨嗟。思いの渦にのまれていた。
「兄ちゃん?」
大切なペンダントが僕の手からすべり落ちた。大切な、命より大切だった…彼女。
「これは…僕の…」
記憶。魔法使いである僕の。
「え?それ…兄ちゃんもしかして…」
僕は駆け出した。僕の、本来あるべき家へ。
会いたい。逢いたい。
そのあばら家を目にし、安堵した。ずいぶん帰ってないような、そんな気持ちになる。
中に入り、迷わず奥へ進む。「君」はもういないけど、一目見たい。
奥の部屋に置いてある棺を開けると、彼女はちゃんとそこにいた。朽ちてはなかった。僕たちが出会った時のままの、美しい姿で僕を迎えてくれた。
当たり前だ。魔法で氷漬けにしているのだから。
「セシル」
彼女の名を呼ぶ。彼女を抱き寄せる。
「可愛いセシル。すまなかった、独りにさせて」
彼女の匂いがする。彼女でいっぱいになる。
「いつまでおばあちゃんとそうしてるつもり?」
背後から、きつい一言が浴びせられる。僕とセシルのひと時を邪魔する愚者は誰だ。
振り向くと、そこにいたのはあの少女だった。
この数日見なかった強い殺意。どうやら彼女も思い出したようだ。
腰に剣を携えている。
「迷子が持ってたこのクーペで思い出したわ。まさか一家の仇で、人間の敵であるあんたと仲良しこよしするなんて思わなかったけれど」
数日を共に過ごした少女。失っていた記憶の最後で、僕と彼女は戦っていた。その最中、不注意で僕は崖から落ちた。きっと彼女も僕を追ってそうなったのだろう。
回想していると、向けられる殺意が濃くなった。
「あんた達のせいで、私たち家族は貶められたの。毒婦の娘だ、裏切り者の血を引いているってね!」
前回も、そんなことを言っていた。
全く、八つ当たりも甚だしい。
「それは僕やセシルのせいではない」
「じゃあ誰のせいだっていうの!情のかけらもない魔法使いのくせに!」
少女は武器を抜いた。クーペとかいう長剣だ。
装飾は控えめに、ただ消すことにのみ特化した刀身。
僕を見据えている。
「で、どうする。僕を殺して、おばあちゃんを取り戻す?」
正直、もうどうでもよかった。セシルのいない世界なんて、どこまで行ってもつまらない。
だけど。
「いらないわよ、そんな娼婦みたいな女!」
これだけは許せなかった。前回もそうだった。死ぬこと自体はどうでもいい。でも、セシルを侮辱されるのだけは我慢ならなかった。
彼女が何の躊躇いもなくこちらへ刃向かってくる。僕はセシルを庇うように駆け出した。
刃が場の空気が切って、風の音になる。
未だ剣技は慣れないようで、動きに無駄がある。その隙を突き、棚から短刀を取り出して振りかぶる。
一撃は返す柄によって弾かれた。
少女はステップを踏んで間合いを取り、呼吸を整える。
とはいえ、少女のほうが筋力があるため、正攻法ではこちらが不利である。
再び切り込まれる前に、なんとか打開策を見つけなくては。
女。お前は絶対殺してやる。凍らせて、粉々に砕いてやろう。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.15 )
日時: 2014/09/20 00:29
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

と、外が騒がしくなってきた。
不審に思って耳を澄ましてみると、木こりの声だ。
「嬢ちゃん!大丈夫か!?」
僕が外に気を取られていると、少女は近くの窓を破って外に出た。
「ふ、まとめて葬ってやる」
扉を開け、悠然とした足取りで外に出る。少女は斜め前を走る。
木こりと少年たちが茂みからやって来る。
「おじさん、来ちゃダメ!」
かばったところで無駄である。僕が歩みを進めるごとに空気が凍る。
がく、とバランスが崩れる。地に伏してから気づいた。
右足に縄が絡み付いていた。
「罠か…!」
僕をおびき出していたという訳か。小賢しい。
手にしていた短刀で縄を切り裂く。
なかなか、切れ味が悪いようで、切れない。
「ねえ」
僕ははっとした。振り向く。
思わず、息をのんだ。
少女は軽々と、真っ白で若い祖母を抱いていた。
「この人消したら、あなたどんな顔するの」
その剣の切っ先を僕ではなく、人形のような、セシルに向けて。
「さ、触るな!」
「嫌よ。私、あなたとこの人を消すためにここまで来たんだから」
届かない。あと少し。
埋まらない距離を、少女がその手で絶望へ変えてゆく。
剣が翻る。
「あら、案外あっさり消えるのね」
わざとらしい、と思った。
少女の手には不釣り合いな剣のみ。
クーペ以外は、何も。まるでセシルなんて人間は、最初からそこになかったかのように。
たしかにいたのに。
「なんてひどい顔」
視界の端で、少女が動いた。剣を構えたのもわかる。
しかしそれでも、何故か体が動かない。
振り下ろされる断罪に気づかず、消えたセシルを見ていた。
「やめろ!」
背後で声が上がった。それが突然のことで、驚いた。
茂みから姿を現したのは、少年だった。
飛び出したのを、木こりが止めに入る。
「に・・・兄ちゃんはいい奴なんだ!だから、殺さないで!」
「あら。そうかしらね」
「そうだよ。姉ちゃんだって分かってるんじゃねえのかよ!」
不意に、沈黙が訪れた。
なんとなく、僕に募る澱のような喪失感に似ていた。
皆が抱えているものなのだろうか。
「そいつが本当はいい奴なんだってことは、私も知ってる。でも今のそいつは、生かしちゃだめなの」
何故だ。何故そうまでして。
「どうして兄ちゃんを殺そうだなんて思うんだよ…!兄ちゃんは何もしてないだろ!」
「黙って」
君たちが僕を望むのに。
何故なのだ。おかしいではないか。あまりにおかしい。笑いがこらえきれない。
突然の笑い声に、その場の皆がこちらを見た。
ひとしきり笑い終え、僕はこう切り出した。

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.16 )
日時: 2014/09/20 22:31
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

「魔法使いがどう生まれるか、知っているか」
「え?」
その場を読まぬ発言に、皆が驚く。
気にせず、僕は続けた。
「魔法使いがいるから、人間が信じ仰ぐのではない。人間が『そこにいる』と思い込むから、魔法使いは生まれるのだ」
「何ですって…?」
これは僕たち魔法使いが長い年月で見つけたこと。人間が前後を間違えているのだ。
人が何かの事象を見て、そこに神様や悪魔がいるのだと強く信じた時、その思いが具現化する。人々の思念の塊、それが魔法使いなのだ。
故に魔法使いは奇跡が起こせる。そこにいると認識されるほどに存在は大きくなり、魔法も強くなる。逆に言えば、忘れられない限りこの世界に縛り付けられるのだ。
僕は見てきた。何人もの魔法使いが人間に都合によって生まれ、その裏切りによって忘れ去られていくのを。
「お前らが…僕を恨むから!憎み続ける限り、僕はここに存在するのだよ!ふふ、皮肉な話だろう。僕を恨み、消えてほしいと思えば思うほど僕は、僕は…」
セシルのもとに行けない。独りぼっち。
忘れてほしかった。セシルが死んだ時、否、セシルと出会う前から僕のことなんて忘れてくれればよかったのだ。そうすればこんなに苦しまずにすんだのに。でも、それでも。
セシルと出会って、君と過ごせてよかったと思う自分がいる。
人間を恨んでいるはずなのに、それと同じくらい一緒にいたいと思っていた。
そしてそれ以上にセシルを愛していた。今はただ、この想いが苦しい。
「そうね。人間は弱いから」
闇に帰してもこのままかもしれない。だとしても、彼女がいる闇ならば。忘却の闇ならば、優しく消えられるかもしれない。
「私は、弱いあなたを知ってる」
少女の声が僕に突き刺さる。
「でも、今のあなたは魔法使いだわ」
これを聞いて、初めて顔を上げた。まともに少女の顔を見た。
「私はその首をもらう」
少女はただ僕を見下ろしている。月のような瞳が濡れていた。
彼女の持つクーペが、震えながら僕を捉える。
「あなたが人間だったら、どんなに良かったか」
セシルと同じ言葉を、その孫が突き付けた。魔法使いである僕への、何よりの呪い。
あの時は何も言えなかったけど、今なら言える。
「僕も、そう思うよ」
少女の呟きに僕は笑って答える。
「記憶がなかった頃の僕は確かに、人間だった」
かりそめの日々を、君と過ごせて僕は幸せだった。
でも、僕はやっぱりセシルのところに行きたい。
彼女がそこに導いてくれるなら、これ以上に幸せなことは無い。
じっと少女を見つめ、言い放った。
「さっさと、殺せばいい」
剣が振り上がる。
空気が切れて、巡る。
一陣の風の流れが、僕の中に吹いた。
「人間は、愚かだね。そのことに気づかず、その愚かさに抱かれて死ね」


—終—

Re: 僕の名を誰が呼ぶ ( No.17 )
日時: 2014/09/20 00:39
名前: ゆういち (ID: 9nquTbLL)

ゆういち

最後のあたりがとんでもないことになっているので、おそらく改稿します。
ここまで読んでくださってありがとうございました。


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