複雑・ファジー小説

〜闇の系譜〜(サーフェリア編)【多分毎日更新】
日時: 2017/11/24 14:05
名前: 狐
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=16085

人々の安寧を願ったサーフェリアの前国王、サミル・レーシアス。
彼の興した旧王都――アーベリトは、わずか七年でその歴史に幕を閉じることとなった。

後に『アーベリトの死神』と称される、召喚師ルーフェンの思いとは……?

………………

はじめまして、あるいはこんにちは!狐と申します。
(※この度、銀竹に改名致しました!)

本作は、狐による創作小説〜闇の系譜〜の二作目です。
一部残酷な表現などありますので、苦手な方がいらっしゃいましたらご注意下さい。
コメント等は大歓迎です。して頂けたら飛び上がって喜びます(笑)

今回は、ミストリア編より過去のお話です。
サーフェリア編だけ読んでも話は通じますが、ミストリア編を読んでから来ていただけると世界観は掴みやすいかもしれません><


…………………………

>>1-300

〜目次〜

†登場人物† >>1←随時更新中……。

†用語解説† >>2←随時更新中……。

†序章†『渇望』 >>3-16

†第一章†──索漠たる時々

第一話『排斥』 >>17-30

第二話『再会』 >>31-37 >>41-49

第三話『曙光』 >>50-57 >>60-78

第四話『壮途』 >>79-93 >>97-101

†第二章†──新王都の創立

第一話『奈落』 >>102-129 >>132-137

第二話『落暉』 >>138-145 >>148-150 >>152-171

第三話『覚醒』 >>172-200

第四話『邁進』

†第三章†──人と獣の少女

第一話『創立』

第二話『憧憬』

第三話『成就』

第四話『慕情』

†第四章†──淋漓たる終焉

第一話『存念』

第二話『永訣』

第三話『崩壊』

第四話『苦悶』

†終章†『黎明』

PV >>151


……………………

【完結作品】
・〜闇の系譜〜(ミストリア編)《複ファ》
ミストリアの次期召喚師、ファフリの物語。
国を追われ、ミストリアの在り方を目の当たりにした彼女は、何を思い、決断するのか。


【その他の執筆もの】
・〜闇の系譜〜(外伝)《複ファ》
完全に狐の遊び場。〜闇の系譜〜の小話を載せております。


【執筆予定のもの】
・〜闇の系譜〜(アルファノル編)《複ファ》
ミストリア編後のお話。
闇精霊の統治者、召喚師エイリーンの思惑とは……?

・〜闇の系譜〜(ツインテルグ編)《複ファ》
〜闇の系譜〜、完結編。
ツインテルグの召喚師、グレアフォールによって、隔絶された国々、種族、そして召喚師の秘密が明かされる……!


……お客様……

亜咲りんさん
てるてる522さん
ゴマ猫さん
マルキ・ド・サドさん

【お知らせ】
・ミストリア編が、2014年の冬の大会で4位頂いておりました( ;∀;)
大会期間中ほぼ更新していなかったのにも関わらず、投票して下さった方がいたとは……本当に光栄です、ありがとうございます!

>>16にとりけらとぷすさんによる挿絵を掲載いたしました!
是非ご覧ください^^

・サーフェリア編が2016年の夏の大会で銅賞を頂きました!
投票してくださった皆様、ありがとうございます^^

・2017年8月18日、一作目のミストリア編が無事完結しました!
執筆開始してから約三年半、応援して下さった方々、本当にありがとうございました!

・ミストリア編が2017年夏の大会で金賞を頂きました!
完結と合わせてめでたいですね(^^)
投票して下さった方、ありがとうございます!

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39



Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編) ( No.192 )
日時: 2017/11/20 17:43
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 争いが鎮まった後でも、奈落の底は、騒然としていた。
動ける者は、負傷者の手当てを急ぎ、休む暇もなく走り回っている。

 手当てといっても、治療道具などないノーラデュースでは、止血を施すくらいしかできない。
だが先程、魔導師たちが数人、土蛇の通り道をたどって、地上に向かった。
砦にある治療道具を、取りに行くためである。

 馬を飛ばしても、行って戻ってくるのに、一日はかかってしまう。
しかし、沢山の負傷者を抱えて、奈落から這い上がることは難しい。
この方法をとるしかなかったのだ。

 怪我人の手当てを終えると、リオット族たちは、死んだ同胞の遺体を埋葬した。
魔導師たちの遺体は、地上に出てから弔うということで、布にくるまれ、一ヶ所に集められていた。

 同胞の亡骸を囲み、リオット族たちが、声を押し殺して泣いている。
魔導師たちも、疲れきった表情で、粛々と遺体を運び続けていた。

 そんな彼らを、呆然と眺めているイグナーツに、不意に、ラッセルが話しかけた。

「……傷は、もう良いのか」

 ぎょっとした様子で、イグナーツが振り向く。
まさか話しかけられるとは思っていたなかったのか、少し躊躇ったように俯いてから、イグナーツは返事をした。

「……私より、貴方の方が重症だろう」

 ノイの一撃で引き裂かれた、ラッセルの胸部を一瞥する。
リオット族の強健さ故なのか、幸い、もう血は止まっているようだ。
それでも、止血に使っていた布切れには、どす黒い血が染み込んでいて、ひどく痛々しかった。

 ラッセルは、イグナーツの隣に腰を下ろすと、小さく嘆息した。

「……どうにも、わしは悪運が強いようじゃな。リオット族の長でありながら、一族に沢山の犠牲を出した……。その、贖罪になるならと、死ぬ覚悟はできておったんじゃが、結局、生き残ってしまったよ」

「…………」

 イグナーツと同じように、立ち働くリオット族や魔導師たちを見つめて、ラッセルは微かに笑った。

「わしらは共に、間違っていたのじゃな。醜い感情に支配されて、本当に大切にすべきは何なのか、完全に見失っておった。そんな我らでも……まだ生きよと、希望を持てと、若君がそう仰られるのならば……。わしはまだ、この世に留まっていようと思うよ」

「若君……? 次期召喚師のことか」

 イグナーツの問いに、ラッセルが頷く。
イグナーツは、傷ついた自らの右腕を見下ろして、口を開いた。

「バーンズ殿から、聞いた。あの次期召喚師、リオット族をこの奈落から出そうと、そのために自らノーラデュースに飛び込んだのだと。……リオット族は、次期召喚師に着いていくのか」

「そのつもりじゃ」

 答えたラッセルに、イグナーツは眉を寄せた。

「……私が言う台詞ではないが、次期召喚師について地上に出ても、お前たちの居場所などないぞ。確かにあの次期召喚師は、強い。あの年で、召喚術も使いこなしているように見えた。……だが、所詮はまだ子供だ。無知で、王宮という狭い檻の中しか知らぬ。そのような者が、あんな強大な力を持っていることが、私は恐ろしい……。イシュカル教徒のように、召喚師一族の存在に異を唱えるつもりはないが、あのような無垢な子供に、国が抱える醜悪に満ちた一面を、理解することはできまい」

 目を伏せて、イグナーツは言った。
長い顎髭を撫でながら、それを聞いていたラッセルは、やがて、ふっと苦笑を浮かべた。

「果たして、そうじゃろうか。若君は、我らが思っている以上に、多くのものを見て、考えているように思える」

 イグナーツが、訝しげにラッセルを見る。
ラッセルは、笑みを深めた。

「なに、我らは元々、この奈落で朽ちるはずだった一族じゃ。今更、何を恐れるというのか。若君は、我らに初めて、手を差し伸べてくれた人間。それに報いることが、我らリオット族の総意じゃ」

「…………」

「醜い我らを、それでも良いと認めて下さる限り、何があってもリオット族は、若君に忠義を尽くそう……」

 イグナーツは、魂が抜けてしまったような顔で、じっと黙りこんでいた。
しかし、ふと立ち上がると、ラッセルに背を向けた。

「……私には、もう何もない。もはや、復讐という生きる目的も無くしてしまった……。此度のリオット族襲撃の件を伝え、王宮に戻れば、私は次期召喚師を殺害しようとした大罪人として、処されることになるだろう」

 イグナーツは、自嘲気味に笑った。

「私はいつから、間違っていたのだろうな……」

「…………」

 それだけ言うと、イグナーツは、長杖で身体を支えながら、ゆっくりと歩き出した。
そして、作業をする魔導師たちの元に向かうと、集合をかけた。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編) ( No.193 )
日時: 2017/11/21 21:02
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


「聞いてくれ……お前たち。私たちは、王宮の許可なくノーラデュースに攻め込み、挙げ句、次期召喚師様を危険にさらしてしまった。……ルンベルト隊は、解散することになるだろう」

 集まってきた部下たちは、不安が隠せぬ様子で、イグナーツを見つめている。
すっと息を吸って、イグナーツは言った。

「……今後、我らがどうなるのか、それは分からない。だが、お前たちはあくまでも、私の命令に従っただけだ。罪に問われることのないよう、私が計らう。……あとは、お前たちの自由にするが良い。リオット族への復讐を果たせなくなった今、魔導師を続ける気がないというならば、去れ。それを止める権利は、私にはない」

 一度、魔導師たちの顔を見回してから、イグナーツは続けた。

「だが、もしまだ魔導師として、陛下に仕える気があるならば、地上に出て、一度王都に戻れ。此度の出来事を王宮に報告したあと、召喚師一族の下で、再び戦いに身を投じることになるだろう」

「…………」

 魔導師たちは、沈んだ表情で、長い間、押し黙っていた。
だが、やがてぽつりぽつりと顔をあげると、口を開いた。

「……俺は、隊長に着いていきます」

「俺も。……まだ魔導師として、陛下に仕えます」

 口々に言いながら、魔導師たちが頷き合う。
その中で、とりわけ疲れきった顔をしていた魔導師の一人が、ずいと前に出た。

「なぜ、復讐が果たせないなどと言うのですか、隊長……」

 すがるように、イグナーツに詰め寄ってきたのは、ルーフェンに最初に攻撃をした、あの若い魔導師だった。

「俺は、リオット族が憎いです! 後々罪に問われようが、仇討ちで命を落とそうが、そんなことはどうでもいい! 私は、妹をリオット族に殺されたあの日から、復讐だけを考えて生きてきたんです! 隊長も、そういうお方なのだと思ったから、ついてきたのに……! 何故、今更そのようなことを言うのですか!」

 瞳孔の開ききった、狂気的とも言える魔導師の瞳を見て、イグナーツは、ぞっとした。
同時に、胸の奥に、鋭い悲しみが広がった。

 憎悪の念に取り込まれ、復讐だけを糧に生きてきた。
そんな自分達の哀れさ、異常さを、改めて目の当たりにしているようだった。

 イグナーツは、苦しそうに顔を歪めて、首を振った。

「すまない……。私ではもう、お前の憎しみを晴らしてやることは、できない……」

 細い声でそう言ったイグナーツに、若い魔導師は、眉をしかめた。
そして、イグナーツから一歩下がると、暗い声で言った。

「そうですか……。それなら俺は、王都には戻りません……」

「…………」

 さっと踵を返して、若い魔導師は、その場から去った。
つかの間、気まずい空気が流れて、何人かの魔導師たちが、その若い魔導師の後を追っていく。

 二十年間、共にいた魔導師たちの後ろ姿を、イグナーツはじっと見つめていた。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)【多分毎日更新】 ( No.194 )
日時: 2017/11/22 19:22
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


 意識を失っているリオット族の一人に、右腕と口だけで止血を施していると、突然、オーラントに声をかけられた。

「馬鹿、ルーフェン! お前もさっさと肩の治療をしろ!」

 魔術で抉られた、ルーフェンの左肩の傷を見て、オーラントが駆け寄ってくる。
しかし、出血しているリオット族の男を、放置するわけにはいかない。
そう思って、作業を続けていると、オーラントに軽く頭を叩かれた。

「いいから早く来い! そいつの止血は、他の奴に頼んだ!」

 その有無を言わせぬ口調に、ルーフェンは渋々立ち上がると、オーラントに着いていった。

 広場の隅に座り、魔術で照らすと、ルーフェンの左肩の傷は、幸い出血が止まっていた。
自分で、止血だけは施していたのだろう。
だが、きつく巻いてあるローブの切れ端をほどくと、傷口に砂や土が食い込んでいた。

 よく見れば、ルーフェンの顔も青白く、全身が脂汗でじっとりと濡れている。
このままでは、傷口が化膿するだろうし、もしかしたら、既に熱が出ているかもしれない。

 オーラントは、荷物から水筒を取り出して、その水で傷口を洗い始めた。
ルーフェンは、しばらく黙って、されるがままになっていたが、オーラントが軟膏を取り出すのを見ると、驚いたように目を見開いた。

「……オーラントさん、傷薬持ってたんですか?」

 オーラントは、ルーフェンの顔を一瞥すると、呆れたようにため息をついた。

「言っておきますけど、全員分はないですよ。あんたに使う分しかありません。他の奴に使えとか、ごちゃごちゃ言わないように」

「…………」

 言おうと思っていたことを先に言われて、ルーフェンは、暗い表情で口をつぐんだ。

 予想通りの反応に、オーラントが肩をすくめる。
ルーフェンは、この奈落に魔導師たちが攻め入ってきたことに、責任を感じているようだった。

 傷口に軟膏を塗りながら、オーラントは、ふと口を開いた。

「……そういえば、さっきルンベルトと話したんですがね。三日ほど前に、イシュカル教徒がノーラデュースの砦に来て、次期召喚師がリオット族に囚われているから、奈落に攻め込めと言ってきたそうですよ。今回のリオット族討伐のきっかけは、それみたいです。やっぱりイシュカル教徒は、混乱に乗じて、あんたを殺害するつもりだったのかもしれません」

「……そうですか」

 大して驚いた様子もなく、ルーフェンは、淡々と返した。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)【多分毎日更新】 ( No.195 )
日時: 2017/11/23 21:27
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE


「じゃあ、今回の争いの原因は、俺だったんですね」

 オーラントは、一瞬躊躇ったように言葉を止めて、ぽりぽりと後頭部を掻いた。

「……そうですね。……でも、リオット族は皆、あんたに感謝してましたよ。リオット族のあんたに対する態度が、明らかに変わった」

「…………」

 ルーフェンは、ぎゅっと唇を結んで、つかの間、何かを堪えるように俯いていた。
だが、すっと息を吸うと、顔をあげた。

「魔導師たちの中に紛れ込んでいた、イシュカル教徒は?」

 オーラントは、微かに表情を険しくした。

「もう逃げ帰ったんじゃないですか。俺もざっと見て回りましたが、魔導師の中には、見知った顔しかありませんでした。……イシュカル教徒は、何故あんたがノーラデュースに来てることを知っていたんでしょうね。まあ、後々調べさせましょう」

 ルーフェンは、少し考え込むように目を伏せてから、首を振った。

「……いえ、とりあえずイシュカル教徒のことは、放置しておきましょう。調べさせたって、きりがないし。地上に出たら、ひとまずリオット族のことに集中したいので」

 ルーフェンの言葉に、オーラントは眉を寄せた。

 リオット族に集中したいというのは、イシュカル教徒を追跡しない理由にはならない。
きりがない、というのも、方便に違いないだろう。

 おそらくルーフェンは、もう以前のように、イシュカル教徒の殲滅に出向きたくないのだ。
アーベリトを復興させる理由の中に、イシュカル教徒の子供たちの居場所を作りたいという理由も、入っているくらいだ。
自分の命を狙ってくる存在だというのに、ルーフェンは、イシュカル教徒に対して無頓着なように見えた。

 オーラントは、きつい口調で言った。

「んなこと言ったって、いずれまたイシュカル教徒は、あんたのことを狙ってきますよ。気乗りしないのかもしれませんが、やらなきゃやられるんです。それくらいは、諦めて受け入れてもらわないといけません。何度も言うように、あんたは──」

 次期召喚師なんだから、と言おうとして、オーラントは口をつぐんだ。
そして、どこかやりづらそうに言葉を探していると、ルーフェンが、微かに苦笑した。

「大丈夫ですよ。別に俺は、死ぬ気はありません。……ただどうしても、イシュカル教徒を消そうとは思えないんです。正直、国の守護を押し付けて、勝手に安心している奴等より、召喚師一族を疎むイシュカル教徒の考えの方が、よく分かる。……俺も、自分の力が嫌いです」

「…………」

 血に汚れ、荒れた奈落の景色を見ながら、ルーフェンは続けた。

「……でも今回、俺とイシュカル教徒の問題に巻き込んで、沢山のリオット族や、魔導師たちを死なせてしまった。全部、俺の行動が招いた結果です。今後二度と、こんなことは起こしちゃいけないし、もし、イシュカル教徒がまた、俺以外の人間も貶めようとするなら……俺は、彼らを殺さないといけないのでしょうね」

 一瞬、別人ではないかと疑うほど大人びた表情で、ルーフェンは言った。
そんなルーフェンの横顔を見ている内に、オーラントの頭に、あのおぞましい黒い皮膚のことがよみがえった。

 フォルネウスが、召喚される前。
まるでルーフェンを侵食しようとするかのように、皮膚に貼り付いていた、あの黒い鱗のようなもの。

 あれも、悪魔を操る召喚師の力が、原因なのだろうか。
あの黒い皮膚が、本当に全身を覆ってしまったら、ルーフェンはどうなっていたのだろうか。

 己の力を嫌いだと言うルーフェンに、それを問うことは憚(はばか)られる。
だが、問わずとも、あの黒い皮膚を見たとき、はっきりとルーフェンを巣食う闇を見たような気がした。

Re: 〜闇の系譜〜(サーフェリア編)【多分毎日更新】 ( No.196 )
日時: 2017/11/24 20:00
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE



 オーラントは、ルーフェンの傷口に包帯を巻きながら、ぼんやりと言った。

「……この前から一つ、ずっと言おうと思ってたことがあるんですけど」

 ルーフェンが、不思議そうにオーラントを見る。
その目を見つめ返して、オーラントは言った。

「……悪かったですね。前々から、次期召喚師なんだから、次期召喚師なんだからって連呼して」

「…………」

 ルーフェンが、驚いたように瞠目する。
オーラントは、再び包帯を巻く手に目をやりながら、言い募った。

「つっても、あんたはどうしたって次期召喚師で、無茶されるのはやっぱり困りますから、立場を弁えろとは言います。ただ、俺が思っていた以上に、あんたは次期召喚師として見られるのが嫌だったみたいだから……ろくに事情も知らずに、連呼してすんません」

「…………」

 ルーフェンは、何も言わず、オーラントを見つめていた。
返事がないので、同じく黙りこんでいたが、やがて、沈黙に耐えきれなくなって、オーラントは口を開いた。

「……召喚師になるのは、そんなに嫌ですか?」

「…………」

 尋ねてみても、相変わらず、ルーフェンから返事はなかった。
あまり触れるべき話ではなかっただろうかと、オーラントが話を変えようとしたとき。
ルーフェンから、答えが返ってきた。

「……嫌ですよ、とても」

 穏やかだが、弱々しいともとれる声だった。

「……もう、どうしようもないって散々思い知らされて、頭では分かってるけど……それでも嫌です」

 オーラントは、はっと顔をあげると、ルーフェンの顔を凝視した。
ルーフェンは、平坦な口調で語った。

「……俺は、サーフェリアが嫌いです。貧困を見て見ぬふりする政治も、人形みたいな母親も、上辺ばっかりの貴族も、他力本願に国を護れとか言ってくる連中も、全部、この国の何もかもが、大嫌い。召喚術を使うのも、殺した人たちが夢に出てくるのも……人ならざるものになってしまいそうで、怖い。皆、殺せ殺せと俺に求めるくせに、本当は心の奥底で悪魔の力を恐れ、俺を敬遠してる。こんな窮屈な運命ばかり強いてくるサーフェリアを、守りたいなんて思えない。……俺は、召喚師の立場なんかに、生まれたくなかった」

 ルーフェンの本音に、オーラントは、どう答えて良いのか分からず、逡巡の後、そうか、とだけ答えた。

 ルーフェンは、沈んだオーラントの表情を横目で見て、自嘲気味に言った。

「でもね、皮肉だなぁと、思うんですよ」

「……なにが?」

「だって、次期召喚師の地位と力がなかったら、こうやってリオット族の所に乗り込んで、アーベリトの財政を立て直そうだなんて大事、絶対出来なかったでしょ?」

 苦笑しながら言ったルーフェンに、オーラントも、つられたように笑む。
ルーフェンは、どこかすっきりしたような顔をしていた。

「いつか……」

 目を伏せてから、ルーフェンは、真上に君臨する月を見上げた。

「……いつか、召喚師で良かったと思う日が、来るんでしょうか」

「…………」

 二人の会話は、そこで途切れたが、ルーフェンは、特に返事を求めてはいないようだった。
オーラントも、そんなルーフェンの空気を感じ取ったのか、一瞬だけ口を開いたが、結局何も言わなかった。

Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。