複雑・ファジー小説
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- ATLANTIS
- 日時: 2014/11/22 21:52
- 名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: nWEjYf1F)
沈む、沈む。
どこまでも、深く。
光さえ届かぬ、深遠の彼方へ。
——白い闇が、広がるときまで。
- Re: ATLANTIS ( No.1 )
- 日時: 2014/11/23 14:38
- 名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: nWEjYf1F)
気がつけば、身体が浮いていた。この純粋な闇の中で、一筋の光も見出せないまま。
ここがどこなのか。自分が誰なのか。この状態に陥って、どれほどの時が経ったのか。そんなことさえ皆目見当がつかない。
分かるのは、全身がえもいわれぬ浮遊感に遭っていることと、見える景色は純粋な闇であること。この2つだけだ。
そして光が見出せない理由は、周囲が暗いからというわけではない。
視界一面に広がる純粋な闇が"白色"であり、光との判別がつかないことにある。
何故、闇だと感じるのに白なのか。当然の事ながら、分かるはずもなく。
——世にも珍しい"白色の闇"
——とでも言っておけば十分だろうか。
少なくとも現段階では、現状が変わることはなさそうだ。
『——ようこそ』
そう思っていた矢先である。
唐突に聞こえてきた、艶やかな女性の声を認識したのは。
『——失われた理想郷"アトランティス大陸"へ』
間髪入れず、また同じ声が聞こえてきた。
聞こえてきたというよりは、直接頭に響いてきた、というべきか。現時点で自分が持っている語彙では到底説明できない、この新しい感覚を出来るだけ、誰にでも分かるように分かりやすく説明するには。
そんな鼓膜の揺れを介さずに聞く声というものは、幾らか新鮮でそれなりに面白みがある。
とはいえ慣れないものの所為か、面白みがあるとはいえど、それと同じくらいの不快感を覚えた。
「——!」
すると突然、視界が変わった。
今までは、白色の闇が周囲の空間を——視界に映る景色全てを支配していた。
それが急に、何の前触れもなく一瞬で暗転し、周囲の空間は誰もがよく知っている暗闇へと変わったのである。
そして、今までになかったものも見え始めた。
——それは、光。足元の遥か下で円形状に広がり始めた、紛いもない光である。
小さかった光は瞬く間に大きくなり、やがて成人男性3人ほどを飲み込む大きさへと変化。
やがて、その光が近付いてきているのか、或いは自分が落ちているのか、はたまた光に吸い込まれているのか。その判別はつかなかったが、どうも先ほどから徐々に自分と光との距離が狭まっているらしく、そのことだけは何とか頭で理解できた。
そして身体諸共、意識が光の中へと飲み込まれた。
- Re: ATLANTIS ( No.2 )
- 日時: 2014/11/23 23:19
- 名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: nWEjYf1F)
「……」
この感じ——遠くで誰かが呼んでいるのか。
気付けば自分は、どうも寝てしまっていたらしい。
「……と……」
間違いない。先ほどから聞こえている声は、明らかに自分に向けられている。
そして、さっき見ていた夢での出来事とは違って、しっかりと耳で声を聞くことが出来る。
もうそろそろ、いい加減に目を覚まそうか。
きっと朝ごはんが出来たんだ。それで親が呼びに来たのだろう。
しかし——
「……ちょ……リ……」
——先ほどから自分の鼓膜を揺らす声なのだが、自分はそれに聞き覚えがない。
「ちょっと、ユーリ?」
「!」
突然、ボンヤリ聞こえていた声がはっきり聞こえて驚いた。
その驚きと相俟ってか一気に目が覚め、目蓋もいきなり軽くなり、すんなりと起床することに成功。
だが、何故だろうか。酷く体が重いのである。まるで御伽噺の眠り姫みたいに、何年も眠り続けてきたような。
体調は良好。なのに、何故だ。あれこれ考えているうちに目蓋は完全に開き、視界に景色が映り始めた。
「大丈夫かしら?」
「……?」
そうしてまず一番最初に見えたのが、両手で持っても零れそうなほどに成長した、あまりにも豊満な胸。
紫の装飾が施された黒い服で隠されてはいるが、それでもその胸の大きさを非常に分かりやすく物語っている谷間がダイレクトに視界に映っていて、今にも服から零れてしまいそうである。
何か間抜けたオノマトペが頭の中で響いたような気がして、目覚めて初っ端から思考回路がショートしてしまった。
次に、その胸の持ち主が誰かを把握するために首と眼球を動かし、見えたのが非常に生々しい脚。
只の脚ではない。何故かズボンもスカートも穿いておらず、黒いビキニのようなブリーフが丸出しになっていて、そこから下は紫色のブーツだけが、その白く長い艶美な脚を包んでいる。とはいっても、あくまで膝から下だけなのだが。
またしても脳内で何らかのオノマトペが響いたような気がして、ショートした思考回路が発火してしまった。
これ以上変なものを見て堪るか。
そう思って視界を別の場所に移したときに見えたのが、全く以って見覚えのない女性の顔だった。
髪は真紅に染まっていて長く、瞳は薄い青色で少し細められている。
顔立ちも、身体のスタイルと相俟って非常に端麗なそれであり、美人という言葉が正に似合っている。
だが、何より印象的なのは、黒の布地に金の装飾を施した"超"巨大な三角帽子。
巨大すぎて最早、布を頭に被ってるようにしか思えない。下手すれば、傘などいらないだろう。
そして、鳥の羽と鍵爪を連想させる、腰に巻かれたマントのような布。
スカート的な役割を果たしている——とはいえない。何故なら、巻かれているとはいえ、1周はしてないのだから。
見事にパンツだけ見えるような巻かれ方をしている。何なんだこの女性は。変態か。
「ふふっ、どうしたの? そんなにジロジロと私の身体見回して」
からかわれた。心外だ。まずそんなジロジロというほど見回した覚えはない。
というかそもそも、自分はこの女性を知らない。
だから、こう言うしかなかった。
「誰ですか?」
- Re: ATLANTIS ( No.3 )
- 日時: 2014/11/24 15:37
- 名前: ワッフル ◆uigiXIaCSo (ID: nWEjYf1F)
誰だと自分が聞けば、目の前の変態——もとい美しい女性は「?」を頭に浮かべたと同時に首を傾げた。
「え? 今、何て?」
「……だから、誰ですか?」
耳が悪いのか、この女。見た目以上に年齢は老けているのかもしれない。
だが、そんな自分の予想はすぐに外れだとわかった。
この時自分は、思い出したのだ。
自我がはっきりし始めた頃——つまりは、この女の声が自分の耳に届き始めた頃である。
この女は自分の事を、ユーリと呼んでいた。
ユーリというのは人の名前であって、今ユーリと言えば、きっと自分の名前をさすのだろう。
だが、自分はこんな名前の持ち主だったか。もっとややこしい名前だった気がするのである。
というか、ここはどこなのだ。見渡す限りの草原に、雲もない青空、頬をなでる心地よい風、1つの超巨大な大樹が奏でる草木の揺れるメロディー、数々の石碑——たった一目見回しただけで、これだけの景色が自分の視界に映った。
こんなファンタジックな場所、自分が知っている地球上には存在していない。
「もしかして私の事、忘れちゃったのかしら?」
「……?」
でもって、この女性の態度と言動から察するに、自分はどうやらこの女性と知り合いの関係にあるらしい。
そして、自分はこの女性を知らない。さらにこんな場所にも見覚えがない、と。
——何やら、いけないフラグが成立してしまった気がした。
「まあ、無理もないわね。ここ2年もの間、ずっと行方不明だったわけだし」
そして、フラグの成立は安定した。
自分の名前が分からない。
ここがどこだか、皆目見当がつかない。
今目の前にいるこの女性を、自分は全く知らない。
今まで自分が何をしていたのか、さっぱり分からない。
目の前の女性が今、自分が2年間行方不明になっていたと言った。
——つまり自分は、記憶喪失である。
「残念ね……久し振りに私の体見て、欲情してくれるかと思ったんだけど……」
2年前に自分は一体、この女性との間でどんな関係を築いてきたというのだ。
まさかとは思うが、恋人同士なのか。
イケメンでもなければ、ましてや見ていて面白くも何ともない自分が、この女性と恋人同士とでもいうのか。
それともやはり、只の変態か。
今のこの女性の恰好を見る限り、後者の方が可能性は高い。
だが、如何にも大人という雰囲気を醸し出しているこの変態——もとい女性。
何処かしら、先ほどからしょ気ているようにもみえる。
「貴方、私の名前分かる?」
7分の恐怖と3分の希望に満ちた瞳を自分に向けるその女性の名など分かるはずもなく。
「分かりません」
そうして、きっぱりとそう言って数秒後。
「……本当に、知らないのね……」
瞳の色は、10分の絶望へと変わった。
そんな彼女の瞳を見る限り、例え恋人同士でないにせよ、自分たちは大切な関係を築いてきた間柄にあるのだろう。
「じゃあ、改めて。私の名前はスージー・ピアン。覚えておいて頂戴」
——やがて、全てが始まった。自分がその名を聞いた瞬間から。
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