複雑・ファジー小説
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- Pure White
- 日時: 2014/12/13 11:48
- 名前: 盆暗超特急 (ID: nWEjYf1F)
何にも染まらない、無垢な純白がそこにある。
◇ ◇ ◇
〜目次〜
ChapterⅠ-Dreaming-
- Re: Pure White ( No.1 )
- 日時: 2014/12/13 13:05
- 名前: 盆暗超特急 (ID: nWEjYf1F)
ある日、いつも通り夜中に布団へ潜り込んだときのこと。
いつもなら完全な眠りに落ちるまで数分かかるはずが、この日だけは違って、ものの数秒で意識が途絶えたのが分かった。
何故なら、寝てすぐに夢を見始めたのだから。
真っ暗な自室の天井を見上げていると、時計の針が動く音だけがしてて、少し寂しい気持ちになる。
ぽっかりと胸に穴が開いたような、誰か大切な人に別れを告げられた夜のようだ。
そうしてぼんやりとしていると、秒針から出る音が急に早くなり始めるのだ。
何事かと思って枕元にある目覚まし時計を見れば、針が急速に巻き戻っていた。
見間違いかと思って、試しに壁にかけてある時計にも目をやってみるが、結果は同じである。
これらの時計は両方とも電波時計なので、きっと時刻の修正でも始めたのだろう。
だが、例えそうだったとしても巻き戻るのだろうか。進むならまだ分からなくもない。これらの電波時計が時刻修正を始める際には、必ず未来の時間を指し示してから時刻修正を行っていく。
それが今や、過去へと巻き戻っている。こんなことってあるのだろうか。
あれこれ詮索してみたが、一応あるにはあるのだろう、という結論に至った。
今までのは全て偶然であって、たまたま今回は巻き戻っているだけなのだろう。現にこうして巻き戻っているわけだし。
——気付けば朝だった。
既に朝日が昇っていて、開け放たれた窓から吹いてくる風とともに、カーテンを揺らしつつ部屋の中を照らしている。
布団から出てカーテンを開け放つと、画家の絵心を擽るようなほどに美しい朝焼けが朝を告げていた。
それにしても綺麗なものだ。写真では夕焼けと全く区別が付けれない、完璧な朝焼けが瞳孔を刺激する。
するときっと、今日は雨が降るのだろう。朝焼けが綺麗だと、その日は雨が降る確率が高いらしいから。
これは婆ちゃんからの知識だから、きっと合ってるはず。
年寄り特有の長年生きてきた中で培ってきた知識はまさしく本物であって、それは昔話でも色濃く語られている。
これは実際に身を以って経験したことがあるので、馬鹿にしてはいけないのだ。
——よし、そろそろ起きるか。
——と、ここで何か違和感を感じた。
いつも見る部屋の影が、逆の方向を向いているのである。
——どういうことだ。
もしやこれは、夕焼けか。或いは寝惚けてて見間違えてるのか。
現実的に考えて、これは後者の方が正しいのだろう。
というわけで、最近眠気覚ましにピッタリだと評判のタブレットを舐めてみることにした。
勉強机の上に、誇らしげに置かれている小さな黒いタブレットケース。
"Awaken"という銘柄で世を渡るこれは、最近コンビニを初めとした身近な店で頻繁に見かける。
1つ1つの大きさは小指の頭くらいの大きさであり、これが50個入りで1箱80円というなかなかの安さを誇っている。こうしてお値打ちなお陰か、新発売として注目され始めてからは学生からの需要が一気に増えたらしい。
そしてこれが眠気覚ましにピッタリな理由はというと、何と言っても舌を襲う強烈な刺激と大量のカフェイン。
栄養価が表示されている面を辿っていくと見える数字のうち、やはりカフェインの量だけが桁外れとなっている。
羅列されている数字の凄さは、他の食品と比べても明らかである。
そんな"Awaken"を1つ取り出して、そのまま口へと放り込んだ。
——舌が痺れる。
——息をする度、目がスースーする。
——爽やかを通り越して、最早辛いも同然なミントの味がする。
やはり"Awaken"の名は伊達ではない。
半ば栄養ドリンクのような栄養が含まれているので多用は禁物とされているのだが、その理由も何となく分かった気がした。
だが、肝心の視界は全く以って変化しなかった。
それでもと思って目薬を差してみたが、依然として変化は見られない。
——気付けば、太陽の位置が変わっていた。それも丁度、南中している頃合である。
タブレット1つを口に含むだけで、一体どれだけ時間が変化したのだ。
そう思いながら再び時計に目をやると、針は丁度正午をさしていた。
それよか針の動き方が相変わらずであり、正午を刺していた針は瞬く間に巻き戻っている。
——ここで今、自覚した。
今まで非現実的すぎるこの現状が受け入れられなくて、半分現実逃避していたのかもしれない。
紛いもなく今、この世界は時間軸を遡っている。
——こんな夢を見たのだ。
そして、この日以来である。
俺こと天城浩太が"純白"に目覚めたのは。
- Re: Pure White ( No.2 )
- 日時: 2014/12/13 16:18
- 名前: 盆暗超特急 (ID: nWEjYf1F)
そんな夢から覚めて、俺はハッとした。
外はまだ暗い。もう冬も本格化しているから、日がなかなか登らないのだ。
とはいっても、時計が指し示している時間は朝の5時半。学校へ行く時間的にはまだまだ余裕だが、起きることにした。
あんな後味の悪い夢を見たのだ。これ以上寝ると祟りそうな気がする。
布団の片付けや着替え、持ち物と時間割の再確認などをしていると、やがて階下でガタガタと物音がし始めた。
誰かが起きてきたようだ。
早速洗面を済ませるべく、俺は部屋を出て階下へと降りていった。
◇ ◇ ◇
リビングへの扉を開けると、妹の"真菜"がキッチンで麦茶を飲んでいるのが見えた。
「おはよ」
「おはよぉー……って、えええ!?」
何だ、朝っぱらから。
「お兄ちゃんがこんな時間に起きてくるなんて……何? 今日は雪が降るの?」
「うるせぇ。いつもいつもお寝坊さんだと思うな」
朝から酷い言われようである。
確かに俺は昨日の今日まで、毎朝妹や母などの身内に起こされてようやく起床するような人物だったが——
「本当にどうしたの?」
「何でもねぇ。たまたまだ」
「ふうん……」
今ひとつ腑に落ちない様子の真菜だが、まあ気にしない。
俺も麦茶をコップ1杯分飲み干してから、洗面所へと向かった。
◇ ◇ ◇
「……チッ」
洗面所で鏡を前にしたとき、思わず舌打ちをしてしまうのは毎朝恒例だ。
理由。それは俺の髪が原因なのだが、いつも寝癖が酷い上に直すのにも時間がかかるのである。
全く、こういうときに女子がうらやましいなって思う。
大抵は髪がサラサラであれば、櫛で梳くだけで十分に寝癖が直るらしい。
これは男女両方に言えることだし、女子でも髪がサラサラでなければ寝癖は中々直らないとの事だが。
それでも女子は普段から自分の髪にはいつも気を配っているらしいから、大体どいつもこいつもサラサラなのである。
一方で男子はどうだ。
女子見たく常に髪を気にしている奴もいるが、一方で全く気にしてない奴の方が多い。
それでも寝癖はしっかりと直してくるみたいだし、直してこなくても気にしない奴もいる。
その点俺は、ある意味一番最悪なポジションにいるのである。
寝癖は正直言ってどうでもいいのだが、問題はその後だ。
俺は寝癖のつき方が酷いので、そのまま学校へ行くとどうだ。あっという間に笑いものである。
それが鬱陶しいから毎朝寝癖を直すのだが、直すのも直すので中々直らない。
全く、つくづく鬱陶しいなこの白髪。
『——白髪? あれ? 俺って髪の色、白かったっけ……?』
直しながら、俺は気付いた。
髪色がまるで、雪の如く真っ白に染まっていたということに。
——おかしい。昨日まで俺の髪は栗色だったはずだ。
真菜に聞いてみるか。
◇ ◇ ◇
「おーい真菜」
「んー? なあに?」
振り向き様に可愛らしく小首をかしげ、俺を見上げてくる真菜は下着姿であった。
だが俺は愚か、家族も全然驚かないし注意もしない。
昔から平気で人前で服を脱げる真菜なので、屋外でなければ何処でだって着替えれるのだという。
——それにしても全然成長してねぇな。ちゃんと食って寝てるのだろうかと、思わず心配になってしまう。
精神年齢だけ大人へ向かっている一方、コイツの体型は宛ら小学生の高学年である。
仮にももう中3だろうが——
——って、そんなことより俺の髪だ。
「お前、寝てる間に俺の頭に何した?」
「んー?」
何もしてないけど——そういいつつ俺の頭を見た真菜も、俺の髪の変わり様に目を丸くした。
「ふぇえ!? お、お兄ちゃん……その髪の毛どーしたの!」
「俺が知るか。さっき鏡みたらこうなってたんだよ」
「き、気付かなかった……お兄ちゃんさっきもその髪だった?」
「分からん」
うん。全く分からん。本当に何もかもが分からん。
別に髪色が変わったくらいで特に何も困ることはないが、とりあえず気分はよくないな。
——まあいい。気にしたら負けだ。
- Re: Pure White ( No.3 )
- 日時: 2014/12/13 18:12
- 名前: 盆暗超特急 (ID: nWEjYf1F)
全く、目覚めの悪い朝だな。つくづくそう思った。
この髪の事もそうだが、さっきまで見ていた夢もそうだ。たった2連とはいえ変なことばかり立て続けに起きた所為で、今日という名の月曜日から一気に疲れが増した気分である。
一体何だというのだ今日という日は。真菜の言うとおり、今日は雪でも降るのだろうか。
——って思っていたら、本当に雪が降っていた。
「ほら私の言うとおりじゃん!」
「ぜってぇマグレだろ」
栗色のツインテールを揺らしながら真菜が言った。
こいつが持っている栗色の髪は家族共通同じ色であって、俺らが兄弟であることを一番よく示していた。
俺たちの身内は全員、顔が全く以って違う。似ている箇所など1つもないのである。
だから髪色が全員同じなのは、ある意味俺ら天城一家の象徴みたいなものでもあった。
それが今やこの様だ。
俺の髪は真っ白に染まってしまった。下手したら雪と同化してしまうほどに。
因みにこの件は母も父も知らないようで、見るや否や2人揃って驚いていた。
そうして今は登校の真っ最中である。
雪はまだ積もっていないが、北風が非常に強く、横殴りで降る大量の雪がかなり冷たい。
このままでは積もるのも時間の問題だろう。
銀縁のシャープ眼鏡とネックウォーマーをつけてきたのである程度雪は防げるが、隙間から漏れる吐息で眼鏡が曇る。雪も引っ付く。そんなこんなで視界が悪いことこの上ない。かといって外したら、それはそれで視界が悪い。
俺はブレザーの下に着たパーカーのフードを引っ張り出し、被った。
本当は校則に反するのでやってはいけないのだが、ここは学校の外だから気にしない。
「う〜、寒いね〜」
隣を歩く真菜は、全身がピンクに染まっていた。
手袋、マフラー、制服の上から着たコート、靴、帽子——どれをとっても薄ピンクで、何と言うか女の子らしい。
そんな真菜は「はぁ、はぁ」と息を手に吹きかけて暖めているようだが、手袋の上からでは何の意味もないことをコイツは知らないのだろうか。まあ、あえて突っ込むのはやめておこうと思う。
「こんなに寒いと、外に出るのも嫌になるよね……」
「暑かろうが寒かろうが、俺はそもそも外に出るのが嫌なんだけどな」
決して引きこもりではない。
学校に行くのが嫌なだけである。
◇ ◇ ◇
「じゃあな」
「うん。またねー」
俺は最寄の駅で真菜と分かれ、通っている"朝野宮高等学園"へと再び足を運び始めた。
とはいっても、あとは電車に乗るだけなのだが。
朝野宮という駅で降りると、目の前が既に学校という便利な位置にあるのだ。
電車による移動も数分かかる程度なので、家から学校までは本当に10分程度でつくのである。
俺は早速電車に乗ろうとした。
だが迂闊だった。
雪の影響で、電車が全部運転見合わせになっているのである。
「まいったな……」
俺は仕方なく、バスで行くことにした。
しかし、間に合うだろうか。
見たところ、朝野宮高等学園の生徒は何人かいるようだが——
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