複雑・ファジー小説

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レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更
日時: 2016/02/25 09:38
名前: Ⅷ ◆WlOcYALNMA (ID: HAhG.g1E)

久しぶりに小説が書きたい衝動にかられたので気ままに執筆していきたいと思います。よろしくおねがいします。



作者が投稿したあとに見返してみておかしいと思った点を随時調整していきますが、物語の流れが大幅に変わることはないので読みすすめたところは流して読んでも問題ありません。


作者は自由気ままに執筆していきます。気が向いたら是非、読んでいってみてください。

作者はあまり想像力豊かではなく、また、自身の作った設定上でしか物語を描けないという不器用極まりない人間ですので、オリキャラ募集などは基本致しません。ご了承お願いします。


更新速度は不定期です。1日1回を目安としていますが、一日に2回、3回という日もあれば、都合により何日か時間を空けるときもございますのでご理解の程お願いします。


作者は絵を描くことが好きなので、希にキャラクター絵などを載せていくことがあります。それを見ていただくことでキャラクターの容姿をより正確に表現し、みなさまと共感したいと思っております。




※最近あまり小説を書く時間を確保できなかったために、カキコにおとずれる機会も減り、自分のトリップを忘れてしまったので変更させていただきました。
時間をおおきくあけてしまったためにストーリーの構成を忘れかけてしまっているので、時間があるときに読み返し、再び執筆していきたいと思います。





※目次   ※(★が小説の本文 ●が補足など)

★プロローグ>>1

●用語紹介>>2 ※2/1微調整

●主要キャラクター紹介(随時公開)>>3 ※2/3新規公開

★第一話 正義とは >>4 >>5 >>6 >>7 >>8
          >>10 >>11 >>12 >>13>>18
           >>19 >>20 >>21 >>22 >>23
           >>25 >>26 >>27 >>28


★第二話 仮面の表 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33
          >>34 >>35 >>37 >>38 >>39
          >>40 >>41 >>42 >>43 >>44


★第三話 因果 >>45 >>46 >>47 >>48 >>49 >>50
>>51 >>52

●キャラクターイラスト >>9 >>24 >>36

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.48 )
日時: 2015/07/11 07:38
名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)


『おい、刃。あと30分もすれば救援がくる。それまで無茶は———』

「———おい」

イヤフォンから、結衣の声が聞こえてきたが、もうすでに刃には届いていなかった。ただただ刃は、ひどく冷たい声が、仮面の男に問いかける。

「……これはテメェがやったのか」

仮面の男はその質問に愉快そうにわらうと。

「ああ。すべて、私がやった」

その言葉を聞いた瞬間、刃の身体が掻き消える。消えたと思ったときにはすでに仮面の男の眼前まで迫り

「そうかよ」

と一言小さく漏らすのと同時に、渾身の力を込めた拳を振り上げ、無表情の仮面にむかってふりおろす。

「ククッッ!!」

だがそれにいち早く反応した仮面の男は、【力】をつかってその場から距離をとるのは間に合わないとふんで、腕を交差して防御をとる。だが、それでも刃の一撃をこらえきれずに、後ろに控えていた【アビリティ】ごと吹き飛ぶ。

それでも、仮面の男は余裕そうに着地を決めると、まるで芝居がかったように、片手を胸にあて、もう片方の腕を広げ、その状態でお辞儀をする。

「その拳……その【力】!!やはり君は!!」

そしてそう叫んだのと同時に、その姿勢のまま仮面の男の姿が掻き消える。刃は瞬時に身を反転させ、そこにあらわれた仮面の男の拳を片手で受け止め、受け止めたてで仮面の男の腕をつかみ自分のほうに引き寄せると、顔面にむかって頭突きを仕掛ける。

だが、頭突きは逆の腕に掴まれ勢いを殺される。刃は掴んでいた方の腕をはなし、瞬時に腹部にむけて下段からふりあげるようにして拳を放つが、それは仮面の男がバックステップを決めるように背後に飛びのきかわされる。

『刃!!これ以上無謀な戦闘は私が許可しない!!』

イヤフォンから、結衣の鋭い静止を促す声が聞こえる。刃の首に巻き付けらにれた首輪の小型カメラが起動する音が聞こえ。いまこの状況がすべて、結衣に筒抜けになるのがわかる。だが、刃はもうすでに、そんなことはどうでもよくなってしまっていた。

ただただ、全身を怒りが駆け抜けていくのがわかる。それは、嫌な感覚ではなく、むしろ、心地いいぐらいに刃は感じていた。

そう、このくらいでちょうどいい。この狂った男をたたきつぶすのには、このくらいが……

「体術、反射神経、判断力……そして【力】ッ!そのなにをとっても君はすばらしい!!」

仮面の男は刃から距離を取ったあと、大仰に両腕を天にかざし、身体を震わせる。その仮面の男の言葉が、行動が、すべて気に食わない。そのなにもかもを否定し、仮面の男が行った悪を、刃はいまここで、裁く権利がある。【レイヴン】の【アビリティ】として、理不尽な力を振りかざすこの男を、いま、すぐにでも。

刃は、拳を仮面の男にむかって突きつける。なにを悩むことがあった。なにを恐怖することがあった。いま、ここに、仮面の男が、【レイヴン】が血眼になって追う危険度SSSクラスの化物が目の前にいる。ならば、やることは一つだ。恐怖するのではなく、立ち尽くすのではなく、戸惑うのではなく、ただただ怒りと、自身の全身全霊の能力をここで発揮して、たとえ力が及ばなかったとしても、無残に敗北する未来しかなかったとしても————【レイヴン】の【アビリティ】に課せられた使命はただひとつ。

「【レイヴン】所属。片桐刃……これより目標を排除する」

刃は一言、そうつぶやくと、片手で自身の右目に触れる。【アビリティ】である象徴を覆い隠すものを取り除き、左目と全く異なる色をした・・・紅い瞳を晒す。

「来い。中途半端で美しい【アビリティ】君」

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.49 )
日時: 2015/07/13 19:51
名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: 9oy0/Hp9)

仮面の男はまるで、刃のことを迎え入れるかのように腕を広げる。それを見た、背後に飛ばされていた【アビリティ】が、地面にむかって腕を付く。それを見た瞬間、刃は、相手の【アビリティ】が水をつかう【アビリティ】だということを思い出しゾっとする。

住宅街のど真ん中、そこはまさに、水道管が張り巡らされている最悪な場所だ。そんなところで【力】を使われたら、たとえランクがA以下だったとしても、仮面の男と退治している状態でやられるのはまずい。だが、仮面の男はなにを思ったのか、その【アビリティ】に静止をかける。

「邪魔しないではくれまいか?同士よ」

その言葉をきいて、【アビリティ】は無言で腕をもどす。そして、壁に背もたれを付いて、こちらの様子を伺うようにみつめる。

仮面の男がなにをおもってそんなことをいったのかわからないが、これは好機だ。同等とは言えないが、同じ能力を持つ者同士ならば、なんとか隙をつければ一撃与えるチャンスがくるはずだ。その一撃にすべてをかければ、倒すことはできなくとも、撤退においこむことができるはずだと刃は思う。なにか、大切なことを忘れているような気がして一瞬思考を張り巡らせようとしたが、それを、仮面の男は許してくれなかった。

仮面の男の姿が掻き消える。空間操作能力。簡単にいってしまえば、自分自身を頭の中に思い浮かべた空間……場所。または、自身の目に映る空間に、無理やり自分をねじ込むこの能力は、基本奇襲や逃げることに特化している。だが、自分自身の肉体が強化されているタイプの【アビリティ】だった場合、相手に一撃食らわせるだけで、状況が一気に有利になるといえる。だから、空間操作能力を持つ者同士のたたかいは読み合いが全てだった。

掻き消えた瞬間、目の前に対象が現れたら防御、またはカウンター。もしも現れなかったら身を転身。背後にあらわれた敵に対して高度を起こす必要がある。そしてもし、背後にも現れなかった場合は、左右のどちらかに現れている。ため、それに対処する。

仮面の男が掻き消えた瞬間、目の前の空間が揺らぐ。瞬間仮面の男が現れ、刃の腹に拳を叩き入れんばかりに拳を振るう。だが、刃は身体をよこへそらし、逆に仮面の男の背後に飛ぶ。だが、それに仮面の男は反応し、回し蹴りを放つ。便利な瞬間移動能力だろうが、飛んだ瞬間に再び別の場所に飛ぶことは個人差はあるが、刃にはできないため、刃はそれをしゃがんでかわす。しゃがんだ反動で仮面の男の軸足に蹴りをいれる。しかし、仮面の男はそれを片足で上へ飛んでかわす。そのまま勢いでかかと落としはなつが、刃はそれを前方へ転がりかわす。

だが、その前転は判断ミスだった。仮面のしたから小さな笑いが聞こえたと思った瞬間には、仮面の男の姿は掻き消え、前転の途中で視界がわるくなっていた刃の右側に現れ、思い切り腹に蹴りをいれられる。

「ガハッ!!」

刃の身体から鈍い音がなり、宙を舞う。だが、ここで行動を起こさなければ、敗北は確実になると踏んで、刃は仮面の男の背後に飛び、痛みを堪えて裏拳を叩き込む。だが、背後に回された手で、いともたやすくそれを止められ、一度動きが止まる。

「私とここまで戦える【アビリティ】実に久しぶりだよ」

「黙って死んでろくそ野郎!」

「けど、怒りに身を任せても君は私には勝てない」

その言葉に刃は再び怒りに震える。

「んなの……まだわかんねぇだろうが!!」

刃は止められた拳に力をさらにこめて、無理やり押し切ろうとするが、仮面の男の力のほうが上なのか、びくともしなかった。

仮面の男はそれのなにがおもしろいのか、小さな笑いをこぼし続ける。その様子がさらに刃の腸を煮え繰り返す。

「私は君と最初に出会った時から、なぜか君のことが気になって仕方がなかったんだ」

その状態で仮面の男は語り始める。ただ相手に押し付けるような物言いで。喜々として。

「私と同じ違和感をもつ【アビリティ】……ただそれだけだったら東京エリアが飼っている人工【アビリティ】程度にしか思わなかっただろう。けれど君は、私のその思いを覆すかのように、自らの【力】に頼らず、拳のみで私に牙をむいた。その姿は私にとってとても美しく見えたのだよ」

長々としゃべったあと、仮面の男は刃の掴んでいる腕を両腕でつかみ、背負投の要領で投げ、地面に叩きつける。鋭い衝撃が刃の体全身を貫き、一瞬呼吸する事を忘れる。だが、次の瞬間に刃は起き上がり、右足を蹴り上げるようにして仮面の男に放つ。

だがそれもいともたやすくかわされる。体術、反射神経、判断力、経験。そのすべてが刃よりも上手であることはまちがいなく。刃のほうの体はたった2度攻撃をうけただけですでにボロボロになりかけていた。

「だがけしてそれだけでは、君のことをこんなに気にかける理由にはならない……なら、なぜ?なぜなのだろうねぇ……私はその答えを、もうすでにしっている」

だが、刃のそんな状態などいざ知らず、仮面の男は一人で語り続ける。そこに隙は一切生じず。刃はどうすれば仮面の男に一撃でも与えることが出来るか思考する。

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.50 )
日時: 2015/08/03 21:14
名前: Ⅷ ◆S0/yc2bLaI (ID: oQpk3jY4)

そんな時、頭のなかにふとした違和感が生まれる。それに気を取られては相手の思うツボだと思ったがその違和感をぬぐいきれず、刃は考える。

同じ違和感を持つ【アビリティ】。人工【アビリティ】。なぜか気になって仕方が無かった……。なぜか刃は、仮面の男にこらえきれないほどの恐怖を、最初に出会った時に感じた。いままで、SSSと称される【アビリティ】と戦ったことがないため、おそらしい【力】をもつ【アビリティ】と戦った時に感じるプレッシャーのようなものだとばかり自分では思っていたが……もしもそれが、そうでないとしたら?

なら、いったいなんだ。

仮面の男に感じる恐怖という名の違和感。言葉から生じた違和感。それは、ごくごく簡単なもので……そして、この世界で、【レイヴン】という名のシステムが蔓延るこの世界では……けして、けしてあってはならないことだった。

刃は、痛みとはちがう、おそろしいまでの恐怖で体がすくみ上がる。だからなんだというのだ。もしそうだったとして、それがどうしたというのだ。いま、目の前にいる敵を排除するのが自分の役目で、恐怖で体をすくみあがらせている暇はないはずだ。なのにどうしてか刃の体は動かない。どうやっても、動かなくなってしまった。

「お前は……まさか———」

そして震える声で口にする。仮面の男がどういった存在で、どうして【レイヴン】から追われ、どうしてその存在をひた隠しにされ、極秘裡に上位部隊が動いていたのかを———

「人工……【アビリティ】」

その言葉を聞いた仮面の男は、仮面の下からこらえきれないと言わんばかりに高らかに笑った。

ただただわらう。この世界に【レイヴン】というシステムが生まれ、【アビリティ】に対する絶対の支配者として君臨していらい、前例がない、過去最高の事態に遭遇し、恐怖を隠しきれない目の前の愚かな『【レイヴン】に囚われている』【アビリティ】を見て、『【レイヴン】を欺いた』【アビリティ】は、ただひたすらに笑う。

「そうだ!!そのとおりだよ中途半端な【アビリティ】君!!私こそ———人工【アビリティ】計画最初の成功者、出来損ないの中途半端な【アビリティ】、元【レイヴン】の忠実なる犬。そして今は———世界。いやちがう……システム……【レイヴン】を破壊するものだよッ!!」

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.51 )
日時: 2016/02/09 19:38
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: HAhG.g1E)

男は笑う。高らかに。とても愉快だと言わんばかりに。刃の首についている首輪を見ながら、笑う。
刃はただ絶句する。

自分では理解不能な事態に陥って、怒りも忘れ、ただただ呆然とするしかなかった。

これまで、前例なんて一度たりともない。人口【アビリティ】は例外なく、【レイヴン】に忠実なる犬だ。自ら志願してなったのだから、わざわざ逃げ出そうとなんて思わない。自らの正義を信じて、他人にどう思われようが、ただ自分の中にある正義を信じて戦ってきた。それでも、たしかに人口【アビリティ】ではない、連れてこられた【アビリティ】は、首輪を外して逃げ出そうとした。でも、首輪のセンサーがそれを許さなかった。例外なく逃走を試みた【アビリティ】は首を飛ばされ、絶命した。

だというのに……この男はこういった。

元【レイヴン】の忠実なる犬と。
人口【アビリティ】を飼うことを決めた【レイヴン】は、まず第一に首輪を作った。人口【アビリティ】になるために志願した者の首には、移植の前に必ず首輪を付けてきた。だから、この男にも、首輪が付いていなければおかしかった。人口【アビリティ】であるのならば、【レイヴン】の犬になったのならば……確実に。
そんな刃の思考を読んでか、仮面の男は、首元を晒す。ローブに隠れていた箇所が晒され……そこには、

「首輪が……ない」

ただ、何かが長い時間、巻かれていたためにできた、痕だけがそこにはあった。

「どう、やって」

刃は、唾を飲み込みながら問う。何も考えていなかった。思考が追いつかなかった。自分の想像していた以上の出来事に、思考がショートし始めていた。けれど、口だけは勝手に動いた。知ったところでどうするというわけでもない。ただ、聞きたかった。その方法を。【レイヴン】から逃れた、その手段を。そして……伝えなければならなかった。無線越しに、話を聞いているだろう結衣に。

『……』

無線機の奥からは結衣が息を呑む音が聞こえた。【レイヴン】に所属している、それも部隊を任されている指揮官ですらも知り得なかった情報。
だから……ここから先の話を全て、無線機越しに、伝えなければならなかった。
だが

「その話をするにはまず、邪魔なこれを外してもらおうかな」

気がついたら、仮面の男の姿が眼前から掻き消え、刃の背後から聞こえた。即座に身体が動かなかった。刃の左腕は抑えられ、耳に手を……無線機を、そのままむしり取られる。

その瞬間、刃は無線機を取り返そうと仮面の男の背後に飛ぶ。だが、仮面の男は再び眼前から掻き消え、さきほどと同じ距離を開けられる。そして、そのまま無線機を、指で砕く。

「【アビリティ】を縛るのは首輪だけで十分だろうに……【レイヴン】は用心深いねえ」

仮面の男はもう笑っていない。ただただ冷ややかに言葉を発する。

「本来なら君の首輪ももぎ取ってやりたいところだけど……まあ、この話が終わってからでもいいね」

一人納得したように頷く仮面の男を人は睨みつける。
今だ信じがたい事実を聞き、身体が思ったように動かない。だが、頭は冷静になってきた。

今のまま戦えば、おそらく刃は確実にやられるだろう。さきほど拳を交えてわかった。力は互角……だが、圧倒的なまでに経験の差をそこに感じ取ることができた。そして、感じ取る間に刃はダメージを負い、仮面の男は未だ無傷。そして追い打ちをかけるような信じがたい事実。刃の体はもはや、仮面の男より数段劣化した状態だろう、ならば、ここで体力を温存するために時間稼ぎをし……そして、そこで知り得た情報を持ち帰るのが、なによりも最優先だと考えた。

ふと、刃は周りを見回す。仮面の男の奥で壁にもたれかかり、成り行きを傍観する【アビリティ】、地面に置かれた、血が滲んだプレゼントボックス、そして、野次馬として集まっていた、一般人の死体。

そのどれもが、刃の怒りを煮えたぎらせた。だが、今の状態では勝つことはおろか、逃げることすら、できないかもしれない。ならば、可能性がある方にかけるのが、最善の手段だ。

刃は油断なく構えながら、視線だけを動かし、どこに飛べば、一番最善なのかを思案する。その間にも、仮面の男は語り始める。

「【アビリティ】……突如として人が目覚める不思議な力。この始まりはそもそも、三十年前。君もそのくらいは知っているだろう?」

仮面の男が刃に語りかける。そこで、刃は昔聞いた話を思いだす。
【アビリティ】というのが、この世界に出現したそもそもの原因は不明とされている。けれども、それが世界に変化をもたらし始めたのがちょうど三十年前だった。

日本ではない、どこかの国の刑務所から、一人の男が脱走した。その男は、壁を溶かし、警備員を灰に変え、そして、大きな街にその姿を現した。そして、そこで大量虐殺が引き起こり、一つの国の軍隊が全滅。そしてその国は滅びた。だが、その男はその後自殺をする。異能……【アビリティ】になり、人と違うと自覚して、その【力】を思う存分に振るった男は、後に残った破壊の爪痕を見て自分の力を恐れ、そして自殺したと言われている。

その頃から、日を重ねるごとに【アビリティ】として目覚める者が世界中に出現し始めた。世界は混乱に陥り、その【力】を使った犯罪などが、今現在と比べられないほどに多発していったと言われている。そしてその当時から【アビリティ】は、人々から忌み嫌われる存在になった。自分が持ち得ない力で、罪を犯す人の皮をかぶった化物。それが【アビリティ】に対しての人々の共通認識となった。

だが、たしかに【アビリティ】は驚異的な存在だった。けれども、その【力】を使って、【アビリティ】犯罪を食い止める【アビリティ】もたくさん存在していた。そのことにより力の均衡は保たれることとなり、世界は【アビリティ】によって無法地帯にならずに済んだのだという。

そして、人々は【レイヴン】という計画を立てる。【レイヴン】計画により、捉えた【アビリティ】を研究し、人工的に【アビリティ】が作り出せるかの実験を行い、そして生まれた人工【アビリティ】を主力とした【アビリティ】犯罪専門組織、【レイヴン】が生まれることとなる。

【レイヴン】は始め、人工【アビリティ】を主力とした組織を作り出すはずだった。しかし、その成功率は絶望的で、目をつけたのがこれまでに均衡を保ってきた、いわゆる正義の味方と呼ばれていた【アビリティ】たちを取り込むことだった。そうして、【レイヴン】は【アビリティ】を管理し統率する組織となり、今では世界の【アビリティ】というモノに対して絶対的な力をもつ組織となった。

「不思議な力、異能、魔法……それを総称して【レイヴン】は、【アビリティ】が扱うそれを、【力】と呼んだ。だがどうして、その【力】は発現してしまったのだろう、だがどうして、その【力】は増え続けるのだろう。どうして……【力】を宿した者は、同じ人に管理され、そして忌み嫌われ続けなければならないのだろう」

仮面は顔を両手で塞ぎながら嘆きの言葉を吐く。それは……レインも、思っていたことだった。

【アビリティ】に目覚めるものと目覚めないものの違いは何か、どうして【力】を得たものは罪を犯すのだろうか、どうして親しかったものにまで裏切られなければならないのだろうか……どうして、蓮は、【アビリティ】として生まれてきてしまったのだろうか……どうして自分は、普通の人として、生まれてきてしまったのだろうか。

そもそも、人というのは、一体どこまでが人なんだ?

蓮が【アビリティ】だと、人に知れ渡ったときのその視線が忘れられない。その行動が、その罵声が、なにもかもが忘れられない。この地で起こった刃と蓮の悲劇。その時刃は、たしかに感じた。蓮に向けられる…化物を見るような視線を。その場から蓮を連れ出すことしかできなかった自分の弱さを。【レイヴン】という存在がなければ、生きることすら許されなかったこの世界のシステムに対しての憤りは、今でも忘れることができない。

「【アビリティ】はたしかに人と違う。【力】は絶大だ。化物と呼ばれるのも無理はない。しかし心は人だ……死にたくない、嫌われたくない、守ってほしい、そんなことを常々心の内に秘めるか弱い人だ。なのにどうして、そんなことはわかりきっているはずなのに、人は【力】を持つものを忌み嫌い、そしてそれに漬け込むかのように【レイヴン】はその人を管理する?」

Re: レイヴン【三話・因果】※作者トリップ変更 ( No.52 )
日時: 2016/02/25 09:37
名前: Ⅷ ◆O.bUH3mC.E (ID: HAhG.g1E)

この話は、一体どこにつながるのか。刃はそれがわからなかった。
仮面が語るそれは、【アビリティ】となったものが抱く、本音の部分だ。刃や蓮、勇気たちなんかも例外ではない。誰もが最初に思ったはずだ。…理不尽だと。

だが、従うほかなかった。刃は、蓮と共に生きることを……【アビリティ】として、【レイヴン】に飼い慣らされることを望んだ。だが、それはそれしか道がなかったからだ。【アビリティ】として認識された蓮と共に生きるには、刃も……【アビリティ】となり、【レイヴン】の元に身を寄せ合うことしかできなかったからだ。
人が化物を管理する……言い換えれば、飼うということに、屈辱という言葉では言い表せないほどの怒りを覚えた。でも、蓮がそこで、刃と共に生きたいと望んだから、自分の全てを投げ打っても、蓮のそばにいると刃は誓った。

【アビリティ】に対して同情心もある。同じ【アビリティ】としてという気持ちもあり、そして、【レイヴン】に飼われるか、殺されるかしか道のないその人に対して、救ってやりたいという気持ちもある。【アビリティ】となり、【力】をもっていても……所詮人だ。【アビリティ】を忌み嫌う人や、【レイヴン】の人間にはわからない、【アビリティ】だけが抱える苦悩は、【アビリティ】にしか理解できない。

でも……刃は、自分の意思で、【レイヴン】に飼われることを望んだ。怒りもある、苦悩もある、それでも、自分の選択に間違いはなかったと、蓮に対して胸を張れる兄貴であると、自信がある。

「たしかに【レイヴン】は、【アビリティ】を人と思っちゃいないしまるで化物だと言わんばかりな目で見てくるやつらも多い……それでも、【レイヴン】というシステムがこの世界になければ……俺は、いや、俺たちは生きることができなかった。管理されていたとしても、俺は文句はない」

刃は仮面を睨みつけながらそう言う。仮面が語るそのなにかは、どこが答えなのかわからない。結衣ももうこの話を聞くことはできないし、刃一人で判断する必要がある。仮面の話を聞き、そしてどうするのか、刃自身が、決断を下す必要がある。話を聞いた上で逃げるか、それとも話を聞かずに逃げるか、それとも……話を聞いた上で、戦うのか。

刃の言葉に仮面は笑う。それは不快な笑い方だった。

「クククククク!!実にいい!!君ならそういうと思っていたよ!!中途半端な【アビリティ】君」

仮面は腕を広げ、高々に笑う。刃はその瞬間を見逃さず、周辺を伺う。どこに飛べば確実に逃げられるのか……または、どこに飛べば、この男に一撃食らわせることができるのか、必死見極める。
だが、仮面の男は再び語り始める。

「たしかに、【アビリティ】という存在は、【レイヴン】というシステムがなければ生きることも死ぬこともなく、ただ罪を重ね、人から忌み嫌われる存在となっただろう。それは間違いない……しかし、君はまだ青い、青すぎる」

「なにがだよ」

「それじゃあこういう話はどうだろうねぇ……【アビリティ】の起源について」

「【アビリティ】の……起源?」

刃は首を傾げる。【アビリティ】の起源は誰も知らない。結衣ですらも知らないのだ。最初の【アビリティ】と言われる存在はたしかに知っているが、その男は一体どうして、【アビリティ】になってしまったのか、誰もそれをしるものはいないとされていた。

「君は知っているかい?最初の【アビリティ】と呼ばれる男は、一体どこから逃げ出したのかを」

「……刑務所だろ」

「クククっ……たしかに、刑務所だ。けれど、その刑務所の本当の姿は知っているかい?」

「本当の姿?」

刃は額に嫌な汗がにじんでくるのを感じた。この話は聞いてはならないことのような気がした。得体の知れないこの仮面の男の言うことが出れだけ真実かはわからないが、この話だけは聞いてはならないような気がする。
誰も知りえないはずの情報を持っていて、それを今明かそうとしているというのなら……それは、そうとう大規模な隠蔽が行われたモノのような気がするから。

「ちっ!」

刃は大きな舌打ちをすると、民家の屋根の上に飛ぶ。そして勢いよく走り出す。逃げなければまずい。戦って勝つ確率が低い以上、話を聞いたあと逃げるか、話を聞く前に逃げるかの差はほとんどない。だが、その刃の考えを見越していたのか、仮面の男の声がすぐとなりから聞こえた。

「話は最後まで聞くものだよ、中途半端な【アビリティ】君」

その声が聞こえた瞬間に腹部に鋭い衝撃が走る。あまりの衝撃に刃は吹き飛び、もといたところまで吹き飛び、そして地面を転がり壁に激突する。口から血が吐き出されるのがわかった。

「ガハッ……ゲホッ!……くそったれが」

「君にこんな仕打ちをしてから言うのもあれだけど、私はべつに君のことを痛めつけたいわけじゃないんだよ」

少し朦朧とする視線の先に仮面が現れる。仮面は、ワガママな子供に困り果てている親のようなそんな素振りをみせる。

「君はどことなく私に似ている……そう、私がまだ【レイヴン】の犬だったときと同じ瞳をしているんだよ。だから私は、君が気に入った」

【アビリティ】は体力を失っていけば行くほどにその【力】は弱々しいものになっていく。刃は自分の体力の低下と、体の負荷が許容範囲外まで達してしまいそうであることを悟る。仮面との戦いによって負った怪我と、さきほどの不意打ちの一撃は相当な負荷を与えてしまっていた。それはつまり、この場から、仮面から逃げる手段は、ほぼ無いに等しい。仮面の男が語ろうとしているなにかから逃れる術は、もはやない。

失態、いや……失敗だ。湧き上がった激情に駆られ、力量差を見誤り、そして見下ろされているのはまさしく刃だ。自分の愚かな行為の結果がいまここにある。

けれど、刃はその自分の行動はけして間違っていなかったと思っていた。刃が怒りに任せて拳を振るわなければ、一体誰が、……一体誰が、何の罪のない人々の無念を晴らすというのだろうか。

今の刃は、先ほどと違い、多少冷静な判断が下せるぐらいには、怒りは収まっている。だがその怒りの収まりは、仮面の口から話された言葉によって、驚きという感情により一時的に塗りつぶされているに過ぎない。だが、それでもその瞬間をつかってどうにか逃げる手段を考えた。それでも無理だった。だから刃は、諦めたような笑みをうかべ……ポケットに入っている、潰れたタバコの箱から折れかけているタバコを一本だけ取り出し、ライターで火をつけ一度吸う。その姿はまさに、完全に勝負を諦めた男の姿だった。

仮面の男はそんな刃の姿をじっとみつめる。刃も仮面の男を睨みつけるようにして煙を吐き出す。きっと、【レイヴン】東京エリアは大騒ぎになっているのではないだろうか。【アビリティ】単騎がSSSクラスの化物と交戦中……情報だけ見てしまえば、誰も刃がまだ生きていると思うものはいないだろう。それでも、きっと結衣は動いているだろう。ほかの部隊と連携し、速やかにここに部隊を差し向けてくるだろう。刃がまだ生きていることを信じて。

刃は仮面の男を睨みつけた思う。自分とただ、経験値の差という絶対的な壁が存在している仮面の男は、果たして本当に危険度SSSと認定されるほどの驚異なのだろうかと。その実力はたしかに圧倒的で、手も足も出なかった。けれども、危険度SSSクラスといえば、災害、それもとびきりの大災害レベルの【力】をもった【アビリティ】だ。なのに、この仮面の男からは最初、話を聞いた時に感じたようにそこまでの【力】を感じ取ることができないのだ。


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