複雑・ファジー小説
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- RAVIStar-Midnight Invitation-
- 日時: 2015/02/15 15:40
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
——久慈歩夢様
このたびは、来る7月25日18時より、拙宅にてささやかなダンスパーティーを開くことにいたしました。
当日は、小波渡暦様や日下部柚子様、西園寺玲様もお越しいただけるとのご返事を頂いております。
歩夢様におかれましても、是非ご家族様お揃いでご来宅くださいますよう心よりお待ち申しております。
まずは書中にて、ご案内まで。
平成40年7月10日
◇ ◇ ◇
1話〜真夜中の招待状〜 >>1
2話〜気温を上げる者〜 >>2
3話〜避暑淑女〜 >>3
4話〜暗雲の気配〜 >>4
5話〜長き予備知識〜 >>5
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.1 )
- 日時: 2015/02/14 14:04
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
「ふぅ」
7月10日23時のこと。僕は突然送られてきた招待状を読んで、ひとつ溜息をついた。
送り主は僕の叔父さんに当たる人で、ホープカンパニーという製菓会社の社長を担っている"菅英輔"さんだ。
その人は社長を担っているだけあって、かなりのお金持ちである。
競馬で大当たりしてからは更にお金が増えたみたいで、今や家は豪邸だし、別荘や高級車を幾つも所持しているのだとか。
見た目はどこかの執事みたいな感じの人で、服装は常にスーツ姿、髪も七三に分けていて、立派な髭を生やしている。
一言で言ってしまえば、富豪の上を行く大富豪ってところだ。それは同時に第一印象であって、一番古い記憶で英輔さんを見たときが今から2年前——つまり僕が15歳だった頃だけど、もうその時から彼はそんな見た目をしていたっけか。
「——」
そんな英輔さんから送られてきた招待状などさして気にせず、何となくベッド際の窓から外に目をやってみる。
夜空一杯に広がる満天の星空は、この地域の空気が清浄であること、同時に田舎であることの証だ。
青白い満月が、僕の身体を優しい光で照らし出す。もうそろそろ、天辺まで登るころかな。
——ふと、勉強机の上に置いたスマホが、柔らかなメロディーと共に何かの通知を知らせた。
「うんしょ」
ベッドを降りて、机へと向かう。
ゲームのプッシュ通知は全て拒否してあるから、こういうときの通知は全てメールか電話の二択となる。
今回は——後者だった。
「もしもし?」
この夜中にかけてくる人と言えば——誰だ。
スマホの画面に映し出された、一番よく見慣れた携帯電話番号を見てその問題を解いてみる。
「あ、歩夢?」
そして声を聞いて答え合わせ。結果、正解。
「なんだ、天音か」
電話をかけてきたのは、僕の昔馴染みこと"蒼井天音"だった。
「ちょっとー、なんだって何さ! 折角電話したのに」
「ごめんごめん。で、何? こんな夜中にかけてきたんだから、まさか何となくなんて理由じゃないよね?」
「当たり前だよ」
何だ、一応用事はあるのか。
面白くないな、これではからかい甲斐がなくなるじゃないか。
でもまたそんなことを言ったら怒られそうだったので、ここは口をミッフィーにしておいた。
「その、昼くらいに菅さんからパーティーの招待状が届いたんだけどさ」
「あー」
菅さんからパーティーの招待状——ということは、僕の元にも届いたやつか。
「それ、僕にも届いたよ」
「え、ほんと?」
「うん。7月25日の18時から菅さんの家でダンスパーティーってやつでしょ? 届いたよ」
「えー、じゃあ……歩夢どうするの? 参加する?」
「んー……」
正直言って、決めあぐねていた。
これでもかと金を持った稀代の大富豪から——もとい菅さんからダンスパーティーの招待状が届いたとなれば、普通の人なら予定が開いている限り参加するに違いない。
ただ、僕はそもそもダンス自体踊ったことないし、きっと参加者である周りの人はみんな、貴婦人だとか何とかかんとか、高貴な身分を持つような方々が名を連ねるのだろう。
そんな場所に僕がいては、ただ単なる場違いにはならないだろうか。多少知り合いが混じっているといえども。
どうしてもそう思ってしまうのだ。
——ここは天音の意見を聞いてみよう。
「天音はどうするつもり? 一応手紙では、小波渡先輩に柚子も参加するみたいだけど」
小波渡さんというのは、2ヶ月前に天音を介して知り合った先輩だ。
僕や天音と通っている高校は一緒で、僕らは高校2年生で彼女は3年生。
任期は切れたが、かつては生徒会長を務めていた実績を持つ。
そして柚子というのは、僕の従妹。
これまた僕らと通っている高校は一緒で、彼女は未だ初々しい1年生である。
嫌らしいくらいに頭が良いので、色々なことを遠まわしに言ってくる様が少し大人びて見えるマセガキなのだ。
余談だが、もう1人手紙に名を載せていた西園寺玲は、実は僕とあまり面識がない。
天音とは大の仲良しらしく、彼女からは品行方正で慎ましやかな性格だと聞いている。
以前に——と言ってもいつだったかは忘れたけど、すれ違い様に一度合ったきりだ。
「あたしは参加するつもりだよ。柚子ちゃんが悪い男に目を付けられないようにねっ」
「そういう理由?」
聞いて、僕は思わず笑う。
僕は天音とは昔馴染みで、柚子とは従兄妹の関係にある。
そんな関係の所為か、天音も柚子とかなり仲が良く、最近はよく一緒に遊んだり出かけたりしているらしい。
ただ、普段の柚子はズケズケとものを言ってくる性格なので、度々衝突することも少なくない。
喧嘩するほど仲が良い、とはよく言ったものだ。
ともあれ、天音が参加するなら僕も参加しようかと思った。
男友達と泊り込みで騒ぐのもいいけど、どうせならこういう社交の場というものを経験しておきたいからだ。
生憎、知り合いは女ばかりになりそうだが。
「まー、それなら僕も行くかな」
「そうこなくっちゃ! んじゃ、おやすみー!」
すると満足したのか、天音は唐突に、且つ一方的に電話を切った。
「ふぅ、まったく……」
プーッ、プーッ、という通話終了の音が3回ほど耳に入ってきてから、僕はまた溜息をついた。
何か流れで参加が決定したけど、今日のところはとりあえず寝ることにした。
時刻は既に午前の0時。学校は休みじゃないんだから、早く寝ないと明日に響くだろう。
スマホの通知設定をオフにして机の上に置き、ベッドの上に寝転がる。
月光を遮るためにカーテンを閉めてからは、僕はものの数分で夢の世界へと旅立った。
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.2 )
- 日時: 2015/02/14 23:33
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
翌日の授業後のこと。
帰路につくべく校門を出たとき、後ろから僕の名前を叫ぶ誰かに呼び止められた。
「おーいっ!」
「?」
誰だと思い振り返ってみると、遠くから手を振りつつ、猛スピードでこちらへ走ってくる男子生徒が見えた。
そのシルエットには、見覚えがある。
バブルマッシュの茶髪。緑色の瞳。赤いスポーツウェア。某サッカーチームのエンブレムがプリントされた首タオル。
こんな特徴的なヤツ、もうあいつしかいない。
「よう、歩夢」
「潤か」
やってきたのは予想通り、僕の親友こと"園田潤"
僕が通っている神谷高等学校の陸上部に所属するエースランカーで、運動において彼の右に出るものは誰一人居ないという。
特に長距離走では全国大会でも優秀な記録を修めており、今までに大会で勝ち取った賞の数は数え切れたものではない。
そんな脳筋ヤローだけど、とても優しくて更にイケメンなので、女子の間で絶大なる人気を誇っている。
全く、羨ましい限りだ。
「相変わらず頑張ってるねー。僕には真似できないや」
「そうか? まーお前は運動向きじゃないとは思うけどよー……一緒に走ろうぜ?」
「いやいいよ……」
この真夏日によく元気でいられるなぁ。ある意味感心する。
実は先ほど、僕は誰かが熱中症で倒れたという噂を小耳に挟んでいた。
誰かが倒れてしまうほどに、外の気候はかなりヤバイのである。だというのにこの男は——
「……おーい? どうした歩夢?」
ついさっきまでスポーツドリンク片手に汗を滲ませ、全力で学校の敷地内を走り回っていたのだ。
もうグラウンドだけでは足りなくなったのだろうか。こうして外にいるだけでも僕は死にそうだというのに、それに対して潤は、ゆっくり歩く僕の横で"超"素早くその場で足踏みをしている。
「何、まだ体力余ってるの?」
「当たり前だ!」
「元気なのはいいけど、無理はしないでね……」
そう。倒れてからでは遅いのだ。
「あと、あんまりコンクリートの上で走ってると足に悪いよ」
「おっと、俺の脚力を舐めてもらっちゃ困るな、歩夢。俺がフルマラソン出たの知ってるんだろ?」
「ま、まあ、そりゃそうだけどさ……」
潤は一度、フルマラソンの大会に出ている。
公式のものではなく練習みたいな感じのそれではあったが、潤は同じ陸上部のキチガイ——もとい彼と同じくらいの体力を持つ人達と共に、そのフルマラソンに出て、あろうことか42.195キロを完走してしまったのである。
「とりあえず、俺はもう一っ走り行ってくるわ。じゃあな!」
「うん。バイバイ」
バイバイといい終わる頃には、既に彼の後姿は豆粒並に小さくなっていた。
これから学校の敷地の外周を走るのだろう。
この学校の外周は、一周すると丁度1000メートル、つまり1キロ分の距離がある。
なので、外周一周のタイムを計ることで、女子の持久走1000メートルのタイムを計ることができるのである。
——この灼熱の炎天下は、もうじっとしているだけで倒れそうになる。
さっさと帰ろう。そう思って校門を出ようとしたら、また誰かに呼び止められた。
『はいはい、お次は誰ですか?』
声は女の子で、距離は恐らくすぐそこだ。
振り返ってみると、直ぐ後ろに意外な人物が立っていた。
「あれ? 西園寺さん?」
「ふふっ、覚えててくれたのですね。嬉しいです」
くすっと微笑む彼女の名は、天音と仲が良いらしい張本人"西園寺玲"さん。
実は彼女は年上なので、天音はいつもタメ口を聞いてるけど、僕は普通に敬語で話すことにしている。
「もしよろしければ、一緒に帰りませんか?」
「ええ、喜んで」
何という巡り合わせだ。これを機に、色々話を聞いてみようか。
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.3 )
- 日時: 2015/02/15 10:49
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
そうして僕は、日傘を片手に歩く玲さんと帰路についた。
しかし——
「……」
「……」
その道中は、静寂に包まれている。
色々話をしようかと思いきや実は、話題は僕から振らなければ、全て数秒も続かずに終わっていた。
その所為か、話題はとっくの昔に底を尽きてしまい、対価として得れたものは只ひとつ。
玲さんは、お淑やかな寡黙少女である。これが分かっただけだ。
お陰で普段は何とも思わない蝉の大合唱も、この時ばかりは喧しいと思った。
ただ彼女は、無愛想というわけではない。
呼べば返事をしてくれる。話も聞いてもらえるし、相槌を打ったり、くすくすと小さく笑ったりもする。
単に、彼女の方から話題が切り出されることはない。それだけなのだ。
——考えれば考えるほど不思議な人物である。天音の性格なら、確かにこの人とは相性がよさそうだ。
高校生とは思えない落ち着きぶりが、何故かこっちの心まで落ち着かせてくれる。
因みにこの人、容姿もかなり端麗に仕上がっている。
流水を思わせるシルバーブロンドの長髪、色素の薄い水色の瞳、男性の理想を1つに具現化したようなバランスのいい体型と、美人という言葉ではとても足りない顔立ちに、触れたら崩れてしまう角砂糖みたいな肌。
おまけに立ち振る舞いや服装、雰囲気。それらは宛ら、避暑地に訪れた貴婦人である。
「ふふっ、どうかしましたか?」
「ぇ?」
気付けば僕は、玲さんの事を凝視していた。
慌てて視線を逸らす。
「そんなに見つめられると、流石に恥ずかしいです」
「ご、ごめんなさい……」
——ここで僕はもう1つ、彼女について分かった。
この人は多分、人をからかうのが好きだろう。それもかなりのサディスト方向で。
証左に、この人は口では恥ずかしいとか何とか言っているけど、目も口も明らかに笑っているし、恥じらいも見られない。
ある意味食えない人物だ。
何というかこの人は、敵に回した場合に一番厄介な存在になる典型的なパターンみたいに思えてならない。
でも"いい人"という印象はどうしても拭えないので、そのうち何かに騙されそうな気がした。
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.4 )
- 日時: 2015/02/15 14:23
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
学校から家までは歩いて行ける距離だけど、それでも約1時間くらいはかかる。
僕はその道中をずっと玲さんと一緒に歩いてるわけだけど、何故か1人で帰ってるときよりも体感時間が長く感じられた。
まず、大岩が見えてこない。
丁度、学校と家との間くらいにすごく目立つ大きな岩があって、今までそれであと半分くらいだろうという目星をつけていたけど、今日に至ってはそれが全然見えてこないのである。
女性と2人で歩くときの沈黙の重さ。楽しい時間の過ぎ去る早さ。これを改めて思い知った気がした。
「あ、そういえば」
ここで、僕は思い出した。
そういえば先日届いたパーティーの招待状に、玲さんの名前が書かれていたっけ。
「どうかしましたか?」
ということで、思い切ってその手の話題を振ってみることにした。
「玲さんって、菅さんの家で催すダンスパーティーに出席するんですよね?」
「ええ、出席しますよ。でも、どうして知ってるのですか?」
「実は僕の元にも招待状が届いたんです。中身を読んだら、玲さんも出席する旨が書かれていました」
——ここで、僕は昨日送られてきた招待状の内容に違和感を覚えた。
僕は玲さんとは過去に一度会ったきりで、まだお互いの事をよく知らない関係にある。つまりは顔見知りだ。
なのにどうして英輔さんは、僕宛の招待状に彼女の名前を載せたのだろうか。
普通なら、僕ともっと親しい人——そう、例えば極端な話、園田潤とかの名前を載せるはずだ。
「あらあら、歩夢君も出席なさるのですか?」
「ええ。見知った人も少なくないと思ったので」
「ふふっ、それは私も含まれるのでしょうか?」
「勿論ですよ!」
——そもそも、僕が玲さんと面識があることを、何故英輔さんは知っているのだろうか。
きっと天音とかその辺りが、それとなく彼にこの事を告げているのだろうけど。
「では当日、一緒に踊りましょうか」
「え……でも僕、ダンスなんて踊ったことないんですが」
「大丈夫ですよ、私がリードしてあげますから。あとでダンスのマナーや予備知識を教えますね」
「えっと、恐縮です」
——まあ、どうでもいいか。
僕が今回のパーティーにおいて、やるべきことは1つ。
大人の世界を少しでも経験しておくこと。それだけだ。
- Re: RAVIStar-Midnight Invitation- ( No.5 )
- 日時: 2015/02/15 15:23
- 名前: 深海 (ID: nWEjYf1F)
やがて迎えた、7月25日。この日は終業式で、夏の暑さも愈々本格的になっている。
いつもより圧倒的に軽い鞄を肩に掛け、僕はスマホの画面をまじまじと見つめている。内容はメールの文面で、あの後天音にアドレスを教えてもらったのか、玲さんから長々と社交ダンスについての詳細が書かれたメールを受信していた。
その中には、招待状には書かれていなかったダンスのプログラムなども丁寧に説明してあった。
——まず、当日に行われるダンスのプログラムについて説明しておきますね。
あの後、菅さんから直接仕入れた内容ですので、恐らく間違いはないでしょう。
流れる曲については、ワルツ、タンゴ、ルンバ、フォックストロットの4種類がそれぞれ3曲ずつ用意されていています。
曲名については、菅さんの意向で秘密とします。ごめんなさい。
当日は、ワルツ、ルンバ、タンゴ、フォックストロットの順で曲が流れ、このループを3回繰り返します。
また、曲と曲の間には1回の小休止があり、フォックストロットの後には長い休憩が入ります。
かなり長いダンスパーティーになるかと思われますので、休憩等は決して怠らないようにしてください。
社交ダンスといえど、大きく体力を消費しますから。
では次に、ダンスを行う上での予備知識やマナーについてお伝えしておきます。
社交ダンスは、一対の男女が自由に踊る形式のものですから、特定の振り付けや動作の指定は一切ありません。
特に今回の場においては無礼講ですから、思う存分ステップを楽しんでください。
実際にダンスを行う場合は、基本的に男性がリードし、女性がそれをフォローしていくことがルールとなります。
ですが、歩夢君は無経験のようですから、先に相手に対してその旨を伝え、リードしてもらうようにしましょう。
可愛らしい貴方の頼みですから、きっと誰も断らないはずです。
それでも緊張する、或いは相手にされないというのであれば私の元へと来て下さい。できるだけ時間は空けておきます。
さて話が逸れましたが、次を以って最後とします。
踊るときには、相手の目をしっかりと見ること。いいですね?
——ここまで社交ダンスについて詳しく書かれていた。
ということは、玲さんはきっと一度でも、こういったパーティーに参加しているのだろうか。
でも今の僕には、余計なことに頭を使っている余裕はない。
子供が大人の世界へ出しゃばるんだ。せめてこの常識くらいは頭に入れておかないと。
天音の話によれば、その後僕は終業式の間ずっと上の空だったという。
ともあれ、約束の時間は今日の18時だ。生憎家族は誰も出席したがらなかったけど。
「それじゃあ5時半にあたしの家ね」
「うん。またあとでね」
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