複雑・ファジー小説
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- Load of Niflheimr
- 日時: 2015/02/16 18:30
- 名前: 空薬莢 (ID: nWEjYf1F)
これは、地球から何億光年と離れているかも分からない、とある小さな星の話。
ニブルヘイムと呼ばれるその世界は、5つの領域に分かれている。
数多のビルが町を築く都会——シティ。
水と常夏のリゾート地——ウォータ。
聖なる加護を受けた天空都市——エデン。
日差し無き奇怪なる町——ナイト。
人々が住むその4つの都市を、総称してフォースワールドと呼ぶ。
最後に、そのフォースワールドの国境に立つ危険な螺旋塔——アビス。
それら5つは全て、空気中に漂っている生命の源"マナ"を以って繁栄してきた。
しかし、永きに渡り繁栄してきたニブルヘイムは現在、マナの枯渇により滅亡の危機に瀕している。
世界崩壊の危機を迎えた昨今、突然に現れた救世主を、人々はこう呼んだ。
————ブライトロード。
- Re: Load of Niflheimr ( No.1 )
- 日時: 2015/02/16 22:26
- 名前: 空薬莢 (ID: nWEjYf1F)
「お邪魔します!!」
「うわぁ!?」
俺の名前は須藤悠里。
ニブルヘイムという星のフォースワールド、そのうちのシティの一角に住まう、なんでもない只の男子高生だ。
平和でのんびりとした毎日を送っていたある日のこと。
学校が休みということで休んでいた俺は、突然もいいトコにやってきた1人の客人によって大いに驚かされた。
「突然でごめんなさい! 貴方に急用があるんです!」
部屋の窓硝子を粉微塵に蹴り割って、超高速で不法侵入してきた1人の少女。
焦りに焦りまくったような表情を浮かべている彼女こそが、件の問題である客人に他ならない。
「な、何だ用事って……ってかアンタ誰だ!」
まずここは2階だ。どうやって飛んできたんだお前は。
「話は後です! とにかく来てください! 私が連れて行きますから!」
「ちょっ」
しかしそんなことを聞く暇もなく、俺は彼女に腕を掴まれ——
「うおぉおぉおぉぁあぁあぁああ!?」
そのまま、空を飛んでいった。
- Re: Load of Niflheimr ( No.2 )
- 日時: 2015/02/20 17:47
- 名前: 空薬莢 (ID: nWEjYf1F)
そうして俺が連れてこられた場所は、見渡す限りの草原にちらほらと花が咲いている謎の土地。
空には綺麗な虹。近くには水面が輝く湖。この独特の神秘的な雰囲気からして、きっとここはエデンだろう。
実際に足を踏み入れたことはないが、なんでもここには、天使や神の使いといった神聖な身分の種族が暮らしているそうだ。
——と、物凄い勢いで飛行してきた所為か俺は息を切らしつつ、ようやく自分が置かれた状況に気がついた。
「気をつけてください。襲ってきますよ」
俺と少女は今、囲まれている。
グルルと喉を鳴らす狼型の獰猛そうな獣と、そいつらと相対している戦士みたいな人たちに。
状況と言えば、狼たちが円状になって俺達を囲んでおり、戦士達が背中合わせで狼たちと膠着状態になっている感じだ。
俺と少女はその中心にいた。丁度、時計の針を動かす軸のような位置に。
すると、戦士達は俺たちがやってきたことに気付いたようだ。
「クローゼ!」
一人の重鎧を着た勇ましい女戦士が、俺の部屋の窓硝子を蹴破った少女をそう呼んだ。
どうもこの不法侵入者、名前をクローゼというらしいな。
「来たか! 待ちわびたぞ!」
「えぇ、これで私たちの勝利は約束されるでしょう!」
何か、俺一人だけ置いて話が進んでいるような気がする。
とりあえず状況は理解できた。結論から言えば、凄まじいまでのピンチである。
何故かと言えば、敵らしき件の狼なのだが、どうもさっきから増え続けているような気がするからだ。
——いや、おそらく気のせいではない。確実に増えている。
どこかからそいつらの仲間が、一匹、また一匹とここへやって来ているのだろう。
そして、囲まれて窮地に陥った、と。どうも典型的だな。
すると何だ。パターン的には俺が救世主みたいだが、俺に何が出来ると言うのだろうか。
「悠里さん、お願いがあります」
——と、件の不法侵入者が話しかけてきた。
「何だ?」
「貴方にはマナを生成し、ここにいる戦士達に分け与えてもらいたいのです。よろしいでしょうか」
「あー」
何だ、そんなことか。
マナというのは"生命の源"と呼ばれるやつで、機械や魔法の原動力となるだけでなく、その名の通り生き物たちに命の息吹を与え続ける不思議な力のこと。
つまり、この世界にとってマナという非物質はめちゃくちゃ重要なものであり、これがなければ生命の存続が不可能となって、忽ちこの星は滅びを迎えるに至るわけだ。
近年この星はマナ不足に追いやられており、この狼みたいに凶暴化する獣がかなり多くなってきた。
それに呼応するように出てきたのが、"マナを体内より無尽蔵に生成する"力を持った人間。
——つまりは、俺の事だ。
「そういうことなら任せとけ」
マナを体内より無尽蔵に生成する力を持った人間を、世間はブライトロード——星の崩壊を間近に控えた現在において、絶望を希望の光に変えて未来への道標を創る者という意味を篭めて——そう呼ぶようになった。
何故、何時、どのようにしてこの力——マナ・レイを持つ人間が出てきたのか。
科学的には証明されていないが、何にせよ、俺達ブライトロードが人々の希望となるならば助けないわけがない。
「生憎何の取り得もない俺だ。けど、マナ・レイ……これだけは出来るってこと見せてやるよ!」
- Re: Load of Niflheimr ( No.3 )
- 日時: 2015/02/22 19:51
- 名前: 空薬莢 (ID: nWEjYf1F)
何故マナ・レイを使えるのか。どうやれば使えるのか。何を切欠に使えるようになるのか——ブライトロードとかいう、古代ニブルヘイム言語で救世主を意味する名前を付けられた俺達には、常日頃からそんな質問を投げかけられてきた。
近頃、科学者や研究者達による人体実験で人権問題が問われている今、直接身体を調べられるという悪行こそなくなったが……正直言ってこういう質問の嵐も鬱陶しい。
だから俺は、こう答えることにしている。
グワーって感じで、そっからドバーってやれば出来る。と。
何でいきなりこんな話をしたかというと、理由は単純だ。
現在の状況が、過去に何度もあったからだ。つまりはデジャヴってヤツだ。
「そんなんじゃわかんないよぉ」
「——って言われても、それ以外に説明の余地がないんだよなぁ」
そう。本当に説明の余地がない。
グワーって感じでドバーっと……これ以上詳しく説明できる人がいたら連れてきて欲しいくらいだ。
——この頭の悪そうな不法侵入者、基クローゼに。
俺の助力もあって無事に狼を撃退することに成功し、今は件のクローゼとやらと、彼女の指揮下で動いているらしい戦士達と軽く自己紹介を交わして談笑をしている。
——でもって、初っ端から切り出された話題がこれなのだ。
マナ・レイ——単にレイとも言う——の力はどうすれば使えるようになるのか——
その話を持ってきたのは、戦士のうちの一人"ウィリアム・スタンレー"という男だった。いや、少年だった。
見た目10代いってるかどうかも怪しい子供なのだが、クローゼ曰く、どうやら立派な戦士だとのこと。
こんな子供まで戦場に借り出されるとは……世の中も色んな意味で末期なようだ。
「でも凄いね。マナを零から創り出すなんて」
「あんまり実感湧かないんだが……」
てくてくと歩きながら、隣を歩く俺と同年っぽい青年が俺の肩を叩く。
歩きつつ向かっている先は、そこそこ規模の大きな兵舎。クローゼとこの戦士達こと"シャイン"とかいう、ネーミングセンスの欠片も感じられない小隊が所属するという軍の本部が近くにあるらしい。
何ゆえ俺までそこへ行かねばならないのかと突っ込みたかったが、面倒なことになるぞと警報を鳴らす本能に従って突っ込むのは止めておいた。
「ところで」
「はい、なんでしょう?」
何となく疑問に思ったことを聞こうと口を開けば、まず真っ先に不法侵入者——ではなくクローゼが対応してくる。
打てば響くように、とはこの事を言うのか。
「みんなが言ってる兵舎とやら、全く見えてこないんだけど」
そう。兵舎が、遠くを睨んでも見当たらないのだ。
俺達が今歩いているこの場所は、あえて言うなら花畑。エデンの名に相応しいとても美しいところなのだが、それだけ。
草原にちらほらと花が咲いていて、それらに綺麗な蝶々が戯れているだけの、何にもない場所だ。
さっきから俺は水平線ばかりを睨んでいるが、建物らしき影など一切見えてこず、空と雲だけが広がっているのである。
「あー、それですか」
すると、クローゼが然も当然かのように——
「歩いていくと、恐らく三日以上かかりますよ」
——と、涼しい顔してとんでもないことを口にした。
この野郎、三日も飲まず食わずでやってられるかっつーの。
「あ? じゃあ何か。お前は俺に死ねって言ってるのか?」
「それについては、私から否定しておこう」
ここで、如何にも重騎士を風貌とさせる女が割り込んできた。
俺がここへきたときに、最初にクローゼの名を呼んだヤツだ。
「本来なら、空中を飛行することで数十分で辿り着く。ただ、そなたはシティの住人と聞いた。空は飛べないだろう?」
「あ、あぁ」
忘れていた。完全に。
エデンに住む人間は、大半が空を飛ぶことが出来る。
なんでも、天使という種族の血が混ざってるからとか何とかで、背中に羽を生やす事が出来るらしい。
羽とはいえ、硝子みたいなやつだ。実際に骨と羽毛と筋肉で出来上がったようなものじゃないという。
そういえば、クローゼが俺をここへ連れてくるとき空飛んでたな。それもちゃんと背中に、虹色の大きな羽を出して。
あの時は突然すぎて何がなんだか分からなかったが、今思い返せばとんでもないことだったな。
「では、こうしましょう」
するとクローゼが、如何にもこれぞ妙案と言った風に何かを提案してきた。
めちゃくちゃ怪しい空気満載なんだが、まあいい。聞こうではないか。
「先ほどは貴方を連れて空を飛ぶことが出来ましたが、生憎現在は消耗しており、貴方を連れた状態で空を飛ぶことが出来ません。ですので、まず貴方にはここで待機しててもらいます。そして凡そ1時間後に迎えを手配いたしますので、それで良いですか?」
「あー」
別に、賛同してもいい案だった。
しかし。
「別にそれでもいいけど、その間に獣が来たらどうするんだよ。俺勝てないぞ?」
一対一ならまだしも、複数現れる可能性だって否定できない。
ブライトロードとはマナを生み出すだけで、それを行使することはほぼ出来ないにも等しいのだ。
「では、こちらを」
そうやって俺が反論すると、クローゼは帯剣している一振りの両刃剣を俺に渡してきた。
受け取ると、思った以上の軽さに少しだけ驚く。
「これで身を守ってください」
「は?」
この剣一本でなんとかしろというのかお前は。
剣とか全然使ったことないし、というか無縁だったし、渡されたものもどこか鈍っぽく見える。
銀色の細い刀身に金の装飾が施された様は、見た目だけは強そうだが、実際はどうだか知れん。
しかし。
- Re: Load of Niflheimr ( No.4 )
- 日時: 2016/02/13 11:31
- 名前: 空薬莢 (ID: JD5DDSYn)
「——強い」
確信した。
クローゼたちが見えなくなった頃、良くも悪くも丁度獣が襲い掛かってきた。そこで渡された剣を一振りしてみたら、見事に獣は両断されて黒い霧になって消えたのだ。
正直言ってコレさえあれば苦戦などしなさそうなのだが、先程の体たらくはどういうことだったのだろうか。
——まあ、そんなことはどうでもいい。問題は別にある。
学校でも習う常識だが、エデンと言えば神聖な場所であり、こういった凶暴な獣が侵入したり発生したりすることは殆ど無いのである。それがこの様だ。マナの枯渇が原因とも言われているが、真偽は如何なものか想像できない。
このニブルヘイムにおける昨今、一体何が起きているのだろうか。
「お待たせしましたぁ!」
「むっ」
約束どおりほぼ1時間後、迎えがきた。
やってきたのはクローゼ単体で、なにやらスキーのリフトみたいな空中浮遊する椅子に乗っている。
彼女は「よいしょ」と座る場所を移動して、右隣にスペースを作った。どうやら、そこに座れという意味らしい。
それにしても煌びやかなものだ。いかにもエデンらしい装飾は、芸術的且つ機能的である。どこが機能的かは、見ただけなので詳しくは分からないが。
「どうぞ」
「失礼——うわぁ!?」
座ると、途端に動き出した。それもかなりの速度で。
目視でいえば高速道路を走る車と同じ速さだが、セーフティーバーのようなものが一切見当たらない。
「お、落ちる落ちる!」
「大丈夫ですよ。特殊な防護壁を張ってありますから、落ちることはありません」
「ホントかよ……」
言われてみれば、確かに高速移動している割には風を全く感じない。それこそ車の中に居るかのようだ。
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