複雑・ファジー小説
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- CHAIN
- 日時: 2015/08/28 22:30
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
この世で最も恐ろしいもの
それは獣の牙ではなく
不治の病でもなく
生ける人間の「憎悪」
* * *
はじめまして、えみりあです。
よし、頑張って書きます。
【はじめに】
・この小説は、暴力描写を含みます。
・死ネタも含みます。
・軽く性描写も含みます。
・更新速度は不規則です。
戦争がテーマの、近未来ファンタジー的なものを書けたらな……と思ってます。
テーマは重いですが、バトルに恋愛、笑いと涙も交えた小説にしたいです。
* * *
【目次】
第一話:WHY FIGHT >>01 >>02 >>03 >>04 >>05 >>06 >>07 >>08
第二話:STRENGTH >>10 >>11 >>12 >>13 >>14 >>15 >>16 >>17
第三話:TRAUMA >>19 >>20 >>21 >>22 >>23 >>24 >>25 >>26
第四話:COMPATIBILITY >>28 >>29 >>30 >>31 >>32 >>33 >>34
第五話:THE NAME >>36 >>37 >>38 >>39 >>40 >>41 >>42 >>43 >>44 >>45
第六話:FOREVER >>47 >>48 >>49 >>50 >>51 >>52 >>53 >>54
第七話:PROMISE >>57 >>58 >>59 >>60 >>61 >>62 >>63 >>64 >>65
キャラクタープロフィール >>09 >>18 >>27 >>35 >>46 >>55
* * *
【登場キャラ・国家】
①アルビオン連合王国
……WFU最強の海軍を持つ国家。王族、貴族がいまだに残っていて、貧富の差が激しい。イギリスを主体とした国。イメージカラーは青。
〈登場キャラ〉
リチャード・ローパー
マーガレット・チェンバレン
アマデウス
シドニー・マクドウォール
ジュリアン・モリス
クィンシー
パトリシア・トムソン
②ノルトマルク連邦共和国
……WFU最大の人口を抱える国。経済の中心地。ドイツを主体とした国。イメージカラーは緑。
〈登場キャラ〉
ユリアン・オストワルト
ジェラルド・バルマー
クリスティーネ・ヴィッリ
ヴィトルト・フォン・マイノーグ
ビアンカ・オストワルト
テレジア・オストワルト
バルド・グロスハイム
イザベル・ディートリッヒ
デニス・クルシュマン
③ルテティア民主共和国
……WFU最強の空軍を持つ国家。他地域との連携があるため、WFU内での結び付きは疎遠。フランスを主体とした国。イメージカラーは黄色。
〈登場キャラ〉
マクシム・ブラディ
グェンダル・ドゥパイエ
④神聖アウソニア法国
……宗教国家。北部に観光都市を数多く持ち、南部は軍事都市として栄えた。イタリアを主体とした国。イメージカラーは白。
〈登場キャラ〉
ルーカス・ドラゴ
エリカ・パツィエンツァ
ドロテア・ジョルダーノ
⑤ヒスパニア帝国
……WFU最強の陸軍を持つ国家。皇帝はいるが、政治的権限はない。スペインを主体とした国。イメージカラーは赤。
〈登場キャラ〉
シルビア・アントニオ・モリエンス
ラウル・アントニオ・モリエンス
セレドニオ・ドローレス
⑥アテナイ=ポリス同盟
……元は都市間同盟により政治を行っていたが、150年ほど前に一国家として統一された。国名はその名残。また『アダーラ』との最前線に置かれていて、WFU最貧国。ギリシャを主体とした国。イメージカラーは紫。
〈登場キャラ〉
ソティル・メルクーリ
リディア・ティトレスク
ゼノン・デュカキス
⑦ユトランド連邦
……豊富な資源に恵まれ、WFUで№1の生活水準を誇る。難民に対して非常に寛容。デンマークを主体とした国。イメージカラーは黒。
〈登場キャラ〉
リスト・ハグマン
アーノルド・フォルクアーツ
ティノ・イングヴァル
サク・バーナ
ヴィルヘルム・ファゲルート
⑧アダーラ
……世界最大級の犯罪組織。北アフリカ、中東、一部の東南アジアにかけてを、支配している。領土内諸国の政府は、ほぼ壊滅状態。
〈登場キャラ〉
ハサン・ムシャラフ
エセン・キヴァンジュ
ドルキ・レヴェント
新キャラ・国家が登場したら、その都度まとめます(*^^*)
【設定】
あーちゃんさんのアイディアで、階級紹介を追加いたしました( ´ ▽ ` )
〈階級〉
・将軍
・将官
→大将
→中将
→少将
→准将
・佐官
→大佐
→中佐
→少佐
→准佐
・尉官
→大尉
→中尉
→少尉
→准尉
・准士官
・一般兵士
上に行くほど高官です。どこの国も、将軍がトップ。たまに変な設定があり、この中に当てはまらない役職もありますが…まあ、それは後ほど…
尚、この階級は、この小説内におけるものです。実際の軍隊とは関係ありません。
【お知らせ】
3/24 各話、段落開けを入れました。
内容に変化はありませんが、第一話・第二話の文章を大きく修正しました。
4/3 【設定】欄を追加いたしました。
8/28 今まで気がつかなかった……アルティメットって、ultimateなんですね。AS→USに変更します。いやはやお恥ずかしい。すみません。
【用語】
〈WFU〉
……ウェスタン・フロント・ユニオン。『アダーラ』に対抗して造られた軍事同盟。所属国家は、アルビオン、ノルトマルク、ルテティア、アウソニア、ヒスパニア、アテナイ、ユトランドの7つ。
〈円卓会議〉
……7将軍による、代表軍事議会。最初のシーンで、みんながやってたあれです。
- Re: CHAIN ( No.61 )
- 日時: 2015/06/20 21:36
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
+ + +
数日後、クィンシーがいなくなった。
「クィンシーは第3タームだから、すぐに手術を受けられるんだね」
マーガレットが、笑顔でジュリアンに語りかける。
マーガレットたちは、強化手術の順番を待ちながらここ数日を過ごしていた。
マーガレットたちの受ける強化手術は、非常に難易度が高いそうで、手術を許可されている医師が5人しかいない。そのため、50人の子供たちは10回のタームに分けられて手術を行うことになった。クィンシーは第3ターム、ジュリアンは第7ターム、マーガレットは第10タームだ。
ジュリアンはあまり表情に出さなかったが、それでも楽しみなようだった。
「……アマデウス教官が言っていたんだけどさ」
ジュリアンが何やら話し出した。
「この強化手術を受けると、身体能力の差は小さくなるらしい。つまり、実技の成績がほとんど無効になるんだ」
ジュリアンはそう言って、マーガレットの方を向く。そして彼女の長い髪をくしゃくしゃとなでた。
「ちょっと、ジュリアン……痛い……」
「せっかく頑張ってきたのに、お前にトップの座を奪われる身にもなれ!!」
ジュリアンは髪の毛をつかんで、マーガレットの顔を上げさせる。怖い口調で言った割には、彼の顔は笑っていた。
「……けど、良かったな。これで……」
ジュリアンはその先は言わなかった。マーガレットが気にすると思ったのだろう。
———これで、お前をいじめるヤツは、いなくなる……
+ + +
「…………」
アマデウスは、悲痛な表情で病室の隣に立っていた。ガラス窓越しに、何本もの管につながれた教え子の姿が見える。
ピーピー
その少年の容体に変化があったようだ。器具から、大きな電子音が鳴り出しだ。それはまるで、この少年のために泣き叫んでいるように。
すぐに医師たちが飛んできて、少年の様子を見る。眼球に光を当てたり、脈を取ったり……そして、散々少年の身体を調べ上げた挙句に一言
「ブライアン・コネリ—、死亡確認」
その言葉を聞いた途端、アマデウスの身体から力が抜けた。そばに控えていたシドニーに支えられ、すぐそこのベンチに座らされる。
———第1ターム……全員死亡か。
アマデウスの頬を、涙が伝った。
+ + +
クィンシーがいなくなってから1ヶ月ほどして、ジュリアンはついに退院した。
聞いた話によれば、ジュリアンが目を覚ましたのは、手術3日後。それから一週間は、嘔吐や吐血を繰り返し、ひどいものだった。おそらく手術前から、5kgは痩せただろう。
———2度とごめんだな。
手術前はあんなに張り切っていたが、今では悪夢のようで思い出したくもない。というよりは、意識が朦朧としていたので、何も思い出せないのだが。
手術後2週間半でどうにか歩けるようになり、リハビリが始まった。新しい身体に慣れてくると、その変化に驚いた。今まで想像もつかなかったほど速く走れるし、高く飛べる。その後も順調に回復し、今日、ようやくアカデミーに帰ることができた。我が家に帰ってきたような感覚で、アカデミーの門をくぐる。
———クィンシーもこんな風に走っているのか……
久しぶりに再会する友人のことを思い浮かべながら、期待を胸にアカデミーのホールに足を踏み入れる。するとそこには……
- Re: CHAIN ( No.62 )
- 日時: 2015/06/30 21:17
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
そこには、アマデウスがジュリアンを待っていた。珍しく笑顔だ。
「おかえり、ジュリアン。よく頑張ったな」
アマデウスは柄にもなく、ジュリアンの頭をなでる。正直、気色悪い。ジュリアンは身ぶるいをこらえながら、口を開く。
「ほんと……地獄ってモノがどんなのか、身を持って分かりましたよ。ところで教官、クィンシーは……?」
ジュリアンは辺りを見渡しながら問いかけた。ホールには、訓練生の姿が一人も見当たらない。
「……ジュリアン、おめでとう。お前が改血手術成功者、第1号だ……」
アマデウスは祝辞を送る。しかし、その顔は暗く沈んでいた。明るい言葉で取りつくろい、残酷な真実をジュリアンに打ち明けている。
「それって……」
間接的な表現だが、ジュリアンは理解した。ジュリアンが成功体第1号であるならば、他の者は全員失敗だったのだ。
ジュリアンは第7ターム。ここに来るまでに、すでに34人が失敗した。もちろんその中には、クィンシーも含まれている。
「そんな……」
ジュリアンはその場に崩れ落ちた。アマデウスは、弱り切ったその身体を支える。
ジュリアンの心には、二つのものが渦巻いていた。
一つは、もうクィンシーに会えないという悲しみ。
そして、もう一つは……
———マーガレット……どうか、死なないでくれ!
+ + +
「……これを、例の医師たちに……」
アルビオン軍本部、将軍の間。リチャードは27歳で将軍の座につき、それから4年が過ぎていた。飾り物のような存在だが、彼には将軍としての権限も十分に与えられていた。軍内の事項に対する決定権は、ほとんど彼が所有している。
リチャードはその書類を、副将軍のラングレー・キャトラルに手渡した。ラングレーは白髪交じりの髪を頂き、銀縁のモノクルをした、人のよさそうな壮年だ。鼻の下に白いひげを生やしていて、漫画に出てくる年のいった執事そのままの容姿である。彼は、自分の20歳下の若造の頼みでも、丁寧に応対した。
ラングレーが退室し、一人きりになったリチャードは、溜息をついて机の引き出しを開けた。そこには、強化手術を受ける予定の、少年少女の資料。リチャードはその中の、第10ターム被験者名簿を開いた。そして、彼らの写真を、順に指でなぞる。
「……許してくれ……」
そう言って、一番下の少女の写真で手を止めた。少女は、その曇りのない青い相貌で、リチャードを見つめていた。
- Re: CHAIN ( No.63 )
- 日時: 2015/07/11 21:51
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
+ + +
しばらくたって、第9タームのドミニクという少年が帰ってきた。さらっとしたブロンドの髪で、クィンシーほどでないにせよ身体が小さく、細身な少年。濃紫の垂れた目が特徴的な、気の弱いヤツだ。
彼は周りに嫌われることを恐れ、マーガレットのいじめにも加担していた。そのためジュリアンは、このドミニクがあまり好きではない。
二人きりでいることに気まずさを感じていたころ、第10タームのパトリシアが帰ってきた。ジュリアンやドミニクは完全な回復に3週間以上かかったのに対し、パトリシアは手術後2週間半で帰ってきた。
彼女が異常なのだ。ジュリアンはそう自分に言い聞かせた。
———大丈夫、マーガレットは必ず帰ってくる。
しかし、5週間たっても、マーガレットは帰ってこなかった。さすがのジュリアンも、動揺を隠せなくなってきた。
「あんなクズ、手術に耐えられた訳がないわ」
ある日、パトリシアは鼻で笑ってそう言った。ドミニクは、彼女の横で震えている。
「何だと?」
ジュリアンの眼は、豹のような鋭さを持ち、静かにパトリシアを睨みつけている。
「分かり切っていたことでしょ?あの子は実技48位よ。ここにいるドミニクですら16位。順位が半分以下のマーガレットが、生き残れるはずがないわ」
ジュリアンはその言葉に激高し、パトリシアの胸倉をつかむ。この時ジュリアンは、レディーファーストなどという都合のいい言葉を、すっかり忘れているようだった。ドミニクが端で縮こまっていた時……
「ただいま〜」
明るい、能天気な少女の声がした。3人は、信じられないもの者を見るような眼で、声のした方を振り向いた。
そこには、アマデウスと、彼に連れられてきたマーガレットが立っていた。なぜか彼女は、左腕を首からつりさげている。
「なんで……生きているんだ……?」
さっきと主張が間逆のジュリアンに、他の二人は心の中でツッコミを入れた。しかし、妙である。なぜ、今頃になって……
「あ、遅れたことには深い訳が……」
あさっての方向を向くマーガレットに対し、アマデウスはあきれたように溜息をついた。
「何が『深い訳』だ。リハビリ中、階段を踏み外して左腕を骨折して、そのまま入院が長引いただけだろうが……」
「ちょっと、教官!!」
マーガレットが、怒った表情でアマデウスを見上げている。いつものようにドジをこいて、いつものようにみんなに笑われて……
「ははは……」
ジュリアンの口から、笑い声が漏れた。パトリシアとドミニクは、また驚いた顔をしてジュリアンを見つめる。それもそのはずだ。いつもは他の者がマーガレットのことを笑うと、彼が必ず喝を入れていたのだから。
「ちょ、ジュリアン、ひどい!!」
マーガレットは顔を赤らめてジュリアンに詰め寄る。その様子を見て、アマデウスは微笑を浮かべた。いつもの厳しい顔つきではなく、優しい笑顔だった。
ハーリド討伐計画第一段階 生存者 4/50
- Re: CHAIN ( No.64 )
- 日時: 2015/08/16 16:56
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
+ + +
強化手術から3ヶ月後、成功体の4人は初任務に就くことになった。
指令内容は『アダーラ』ベルベラ基地での殲滅任務。ベルベラ基地は、アデン湾岸に位置する基地だが、その規模は小さい。
「本作戦は、お前たちの強化手術による戦闘能力の伸びを測るものだ。任務のレベルとしては、アルビオン一個小隊で片の付く低レベルなもの。とはいえ、油断は禁物だ。心してかかれ」
「は!」
4人は敬礼をして、アマデウスの指示を受け取った。軍人らしく成長した4人に、アマデウスの顔はついほころんだ。しかし、すぐに顔を引き締め、次の指令を出す。
アマデウスは、机の引き出しから4枚の用紙を取りだした。順に、パトリシア、ドミニク、ジュリアン、そしてマーガレットに渡す。
「今から、ベルベラの地図を配る。全員、この地図を暗記して任務に臨め」
「は!」
先ほどと同じ、威勢の良い返事。アマデウスは、微笑を浮かべて力強くうなずいた。……若干一人、うろたえている者もいたが……
「……さっきから地図を逆さにしたり、戻したり。いったいどうしたのよ?」
呆れた顔で、パトリシアがマーガレットの顔を覗き込んでくる。マーガレットは散々考えた末、自分一人では理解できないとの結論に至ったようだ。
「……教官、この線は等高線ですか?」
マーガレットが指さしているのは、明らかに公道の表記。他の4人は言葉を失っていた。
「……本気で言っているのか、マーガレット?」
ジュリアンも、いつものように庇おうとはせず、冷たい視線を向けている。
その様子を見て、アマデウスは思い出した。地図の読み取り能力は、座学の評価に含まれない。マーガレットは実技48位。壊滅的戦闘能力・任務遂行能力の持ち主であった。
「まさか、お前にこんな落とし穴があったとはな……しかたあるまい、ジュリアンがマーガレットに、地図の見方をたたき込め」
「え?あ……はいっ!」
一瞬のジュリアンの動揺。アマデウスは怪訝な表情で、ジュリアンを見つめ直す。しかしジュリアンは、平然とした表情に戻っていた。
後の話によれば、この時からアマデウスは見抜いていたようだ。ジュリアンが平静を取りつくろう後ろに隠した、その想いを。
+ + +
「……わかるか、これが広場で……」
「じゃあ、こっちが島?」
「海図と陸図の区別をつけろ。それはムスクという礼拝堂だ」
ジュリアンは、窓の外が暗くなるまで、根気強くマーガレットに地図の見方をたたき込んでいた。
女性は地図が読めないという迷信があるが、それにしては限度があるだろうとジュリアンは思った。海兵らしく海図から教えたところ、今度は混乱して陸図が読めないという状況だ。救いがない。
就寝時間が近くなってきた。
「……よし、ここまでにしておこう。教官には、お前に単独行動をさせないように頼んでおくよ」
「う……ごめんなさい……」
とうとうジュリアンは、マーガレットに地図をたたき込むことを諦めたらしかった。こんなにも頑張って教えてくれたジュリアンに対し、マーガレットは申し訳ない気持ちになる。
マーガレットが落ち込んでいるその様子を見て、ジュリアンは彼女の髪を優しくなでた。驚いてマーガレットが顔を上げると……
「に……任務までに体調を整えておけよっ」
ジュリアンは顔を反らし、そしてそそくさと帰って行った。
- Re: CHAIN ( No.65 )
- 日時: 2015/08/28 22:26
- 名前: えみりあ (ID: TeOl6ZPi)
+ + +
アデン湾岸都市 ベルベラ
ひそかに上陸した少年少女たちは、気配を消して、夜のベルベラ基地に忍び込む。外壁を登り、音を立てずに、外壁内部に侵入する。13歳とは思えぬ、洗練された身のこなしだ。
「……入るぞ」
ジュリアンの言葉に4人はうなずき、基地の内部・幹部会議室へと足をすすめた。
+ + +
「お聞きですか、ハーリド。アルビオンの子童どもが、あなたの首を狙っているのだとか……フフフッ」
月明かりの差し込む聖堂。修道服に身を包んだ聖職者たち。彼らの任務であるはずの聖域の防御は叶わず、ただその男たちの足元に、骸となって転がされていた。
ほとんどの遺体には、首がつながっていない。一瞬で、その最期を迎えたことが、見て取れる。
そんな死体たちの真ん中で、その男は、無表情で立っていた。剣の切っ先から滴る鮮血を拭き取り、鞘に納める。その様子を見た者は、あることに気がつく。この男の左腕は、ひじから先が切断されており、その刃は彼の腕に、直に装備されているのだ。左腕に鞘を被せおわると、彼は器用に、もう片手に持つ剣にも鞘を被せる。
月明かりに照らされた、白い装束。しかし、今は元の色が確認できないまでに、鮮血で汚れていた。サングラスの下から見える古い戦傷、それが彼の経歴を物語っているように見える。
ハーリド・カルザン……WFUが認知する中で、最強最悪、言葉では言い尽くせないほどの、非人道的殺戮者であった。
その殺戮人形に対し、明るく語りかける者がいる。赤いコートに身を包んだ男。フードで顔が隠れ、その表情は確認できない。
ハーリドは、その男を無視して、聖堂を後にした。すれ違う際、フードの男は苦笑いを浮かべたようだ。
ハーリドの後ろ姿は、死神と呼ぶにふさわしい、恐ろしさをまとっていた……
+ + +
先頭を行くジュリアンが、不意に足をとめた。海兵として訓練を受けたマーガレットたちだが、その中でもジュリアンの才能は、頭一つとびぬけていた。他の3人がそれに気がつくには、数秒の時間差を要した。
4人は身を固め、声をひそめ、静かに向こうの音に耳を傾ける。切り詰めた空気が漂っていた。
[どうした、ジュリアン?]
ジュリアンの腰に下げられた無線機から、アマデウスの声が聞こえる。アマデウスは、その張りつめられた空気を察したのだろう。いつも通り感情を見せない口調だが、心配そうにこちらの様子をうかがっているようだ。
「……申し訳ありません、教官。敵に気付かれました」
ジュリアンが答えた直後、進路と退路を塞ぐようにヤツらが現れた。『アダーラ』の戦闘員。全員が銃を構え、こちらに銃口を向けている。
それに対し、訓練生たち4人は、背中あわせに立った。進路方向にはジュリアンとマーガレットが、退路方向にはパトリシアとドミニクが、それぞれ剣を構えている。
———落ち着け。訓練通りに行けば大丈夫だ。向こうは一般兵。こちらは強化兵4人だからな……
ジュリアンは息を整え、さっと剣を抜く。そして、先陣を切り……
「はぁっ!!」
一歩で敵までの距離を詰め、カットラスを一振りする。ゴトリ……と音がして、敵の首は地面に落下した。
『アダーラ』の戦闘員たちは、一瞬、何が起こったのか分からなかったようだった。気がついた時には、仲間がやられていた。
———間抜けな奴らめ……
ジュリアンはそのまま、二人、三人と敵を切り倒してゆく……
「お前……どうやってその技を……!」
戦闘員たちは困惑した。その華麗な舞は、こちら側の切り札だったからだ。それを敵に盗まれた。
ハーリドが師範を務めるカルザン流。もちろん、彼らがその武術を敵に広めた訳ではなかろう。では、どうやって……?
ジュリアンたちは、その武術を教わったのではない。真似たのだ。
訓練生たちは、カリキュラムの一環で、ひたすら仲間の海兵たちがハーリドの餌食になってゆく映像を見せつけられた。物心がついてすぐの頃からだ。
何度も見て、何度も真似て、繰り返し、繰り返し、覚えた動き。これまで育てるのに、13年の年月を要した。すべては、その剣舞の源流を断つために。それが、アルビオン式カルザン流。これが、アルビオンの執念。
『アダーラ』の動揺は大きく、戦況はやや訓練生たちが優勢のように思われた。しかし……
[何をしている!!早く剣を抜かんか!!]
未だに剣を抜けず、その場から動けずにいた少女に、無線機越しにアマデウスの叱責が飛んだ。
マーガレットだった。彼女は鞘をつかみながらも、剣を抜くことができず、ただただ震えていた。
「だ……駄目です教官……私、やっぱり、人を殺したくない!!」
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