複雑・ファジー小説
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- 可能性の魔法使い
- 日時: 2015/04/20 02:34
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
可能性を操り、奇跡を起こす者がいる。
そして、災厄を呼び起こす者もいる。
これは、奇跡の使い手が、災厄を振り払う物語。
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初めまして、瑠璃玉(るりだま)と申します。ある方の絵からインスピレーションを得て、突発的に始めました。
ややシリアスなファンタジーではありますが、基本的にはやきもきする引っ掛かりのない話です。重い話が苦手な人は、他を回覧するついでにも御覧下されば幸いです。
こういうまわりくどい文章に見覚えがある?
思い浮かべた名前はそっと心に秘めておいてください。
↓目次
人物紹介 >>1 (H27 4/2 加筆)
用語紹介 >>2
第零講 >>3 >>4 >>5
第一講 >>6 >>7 >>10 >>11 >>12
- Re: 可能性の魔法使い ( No.8 )
- 日時: 2015/04/05 15:06
- 名前: 風死 ◆Z1iQc90X/A (ID: g8eYpaXV)
初めまして瑠璃色様、風死と申します。
こういうダークファンタジー、というかファンタジー系全般大好きです♪
キャラや文章、設定も良い感じですね!
語り部式だから、硬すぎずコミカルな感じがするのも良いです。
これからもがんばってください!
- Re: 可能性の魔法使い ( No.9 )
- 日時: 2015/04/06 22:42
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
>>8
風死さま
こちらこそはじめまして、瑠璃「玉」と申します。
コメントありがとうございます。人外主人公と眼鏡女史は正義ですよね。
これからものんびり執筆していきますので、ご愛読願えると嬉しいです。
- Re: 可能性の魔法使い ( No.10 )
- 日時: 2015/04/06 23:22
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
そう、それは、薬と言う名の奇跡。力脈から汲み出した無秩序な可能性と、薬草が持つ秩序ある可能性。この二つを混ぜ合わせ、彼女は全く別の可能性を作り出す。
それはつまり、五山で銅貨一枚のクズ薬草から、金貨百枚で小瓶一本も買えない高級薬を作り出す奇跡。
何千人もの薬師達の、何百年という努力の結晶を、たった一人で、わずか三十秒の間に生む悪魔の技術だ。
「仕方ないでしょ、出来ちゃうものは」
「それ全国の薬師に言ってみ? ぶっ飛ばされるから」
「あの人達だけが苦労してるなんて言わせないわよ。わたしだっていつまたアレが再発するか!」
プンスカプンスカと軽く怒りながら、ユーリは人差し指で眼鏡のツルを押し上げた。渋柿色のレンズの向こう、覗くツリがちの眼は、色つきレンズ越しにもはっきりと分かるカナリア色だ。眩しいほどのまっ黄色は、鳥にはよくある目の色だけど、人間ではあまり見ない。俺の知り合いには沢山いるが、そういう問題じゃあないのだ。
「再発再発って、それ体質だろ」
「日によって見え方が変わりすぎるのは立派な病気よ」
「俺達にとっちゃ日常だぜ」
「道具や薬でコントロールできるのは体質って言わない」
「カツラや育毛剤でコントロール出来る遺伝性のハゲもか?」
「あのねぇ……」
人間にはどうやら無いらしい色をした目。それがどうやら、“裏”を見る力を持った人間の目印のようだ。
だが、人間はどうも不便なことに、裏を見る力と同時に、脳みその許容量を越えるほどの視力も身に付ける。異常な眼の良さが一体どんな光景を見せるのか、俺達鳥にはよく分からないが、ユーリのたまわく「想像するだけで身の毛もよだつほどの苦痛」らしい。
人間はこれに『異望症』などと名前をつけ、病気として扱っているそうだが……詳しいことは知らない。
To be continued...
薬師業界のブレイクスルーガール、ユーリ・ラビエリ。
苗字に冠する天使の御名は伊達ではないのだ。
- Re: 可能性の魔法使い ( No.11 )
- 日時: 2015/04/17 23:36
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「あー、えーっと、とにかく! 多分それなら怪我のほとんどは治るはずっ! 湿布薬にしといたからあんたはそのまま寝てればいいわ。ついでにロータスのよしみとロイ君の弟子十周年を記念して御代をタダにしてやろう!」
「オレの弟子十周年記念、二週間前にもやったけど……」
「第二段! 何、記念イベントは何回もあるものだから構わないっ!」
「そんなもんか」
ユーリが何かにつけ上級の医薬品をタダでばら撒くのは恒例行事。彼女が自分の作った薬で金を取るのは、金貨を五百枚払っても惜しまない大富豪と、本当にしかるべき材料を使って作ったときと、彼女の技術を以ってしても難しいと言わしめる最上級の蘇生薬を作ったときだけだ。
金儲けをしようと思えば、恐らくユーリはいくらでも金を稼げるだろう。それこそ全国の薬師からぶっ飛ばされても文句言えないほどの技術を、彼女は一人で持っている。
そうせずに技術をタダで配り歩くのは、薬師として他の薬師と共存するためと、もう一つ。
「それに、あんた達どうせお金なんか持ってないんでしょ?」
「持ってるぜ、金貨百枚」
「百枚!? カラスがそんなに持っててどうすんだよ!」
「でも無理ねー、百枚じゃ相場に見合わないわよ。湿布に出来る量なら六百枚くらいくれないと」
「ろっぴゃ……!?」
「施薬院の薬価暴騰しすぎだろ……」
「そうね、どれもこれも馬鹿みたいに高くて。でも、そんなことあんたの怪我とは関係ない」
富豪でない民衆にも、最高の医薬を届けたい——そんな純粋すぎる願いのためだ。
彼女がどんな経緯でそんな良い子に育ったのかは知らないが、とりあえず俺は、師匠のロータス共々、そんなユーリの性格に甘えさせてもらっている。ついでに、ロイは薬の価値の高さに驚いてばかりだ。
「金で命は買えない」と詭弁を振り回す医者は多い。ユーリもその口だが、それなら金貨を何百枚も払ってまで買った蘇生薬で延命することは、間接的に命を金貨何百枚で買ったことにならないのだろうか。本当に命が金で買えないのなら、どんな富豪も、赤貧舐める貧乏人も、等しく同じ病気で死ぬべきだ。
……と言うとユーリにぶっ飛ばされるから、それは心の中に秘めておいた。
「それじゃ——わたし、保存庫で整理してるから。痛みが引いたら言いに来てよ」
思案に暮れていた俺を引き戻したのは、背中に当たるひやりとした感触と、涼やかなユーリの声だ。目をやれば、カナリアイエローの瞳が、渋柿色のグラスの向こうから俺を見ている。
どうでもいいが、ユーリは胸がでかい。
「あぁ、あの馬鹿でっかい倉庫……手伝おうか、オレ? どうせ暇だし」
「あら、いいの? それじゃ一緒に来てね」
「おうおう」
ぱたぱた足音をさせながら保存庫の方に向かっていくユーリと、都合よくそれにのっかったロイ。一人と一匹の後姿は、すぐに俺の視界から消えていく。
まあ、たまには何も考えずに寝るのも気分が良いだろう。
目を閉じると、いつもの真っ暗闇が、あっという間に俺を引きずり込んでいく。
To be continued...
ユーリは胸がでかい(迫真)
- Re: 可能性の魔法使い ( No.12 )
- 日時: 2015/04/20 02:33
- 名前: 瑠璃玉 ◆ECj0tBy1Xg (ID: 3JtB6P.q)
「お前達には器物損壊と名誉毀損の容疑がかかっている。大人しく同行頂きたいのだがな」
「はっ、人間の法律でオレ達が拘束できるか? この国じゃ私刑は重罪だぜ」
「法なぞ関係ない、町長の命令だ。……私をただの警察と思うな? 秘密警察は汚い手口を使っても誰も何も言わん。お前達を姦計にかけようと、それは市民の知るところではない」
「おー、おっそろしい。オレ達はローストチキンになるってか?」
保存庫の方がなにやら騒がしくて、目が覚めた。
外の明るさを見る限り、まだあまり時間は経っていないようだが、果たして。
騒ぎを助長しないよう、なるべく音を立てずに、ゆっくりと全身を伸ばす。上級蘇生薬を贅沢に使った湿布の効果は中々のもの、全身の痛みと傷は全部消えてなくなっているようだ。湿布もからからに干からびて、薬効を遺憾なく発揮したことを暗に示している。
ゆっくりと目を閉じる。暗闇の彼方、可能性の川がはっきりと映った。体調万全、魔法も使えるだろう。
傍に置かれている、ユーリが繕ってくれた帽子を被る。昔々のそのまた昔、ロータスが被っていた……と言うより、髪飾りにしていた、人間の頭にはとても入らない黒のハットだ。ロータスが死んだときに形見分けで貰い受けた奴だが、俺の頭には幸いにしてぴったり納まる。
ロータスは無造作に垂らして飾りにしていたあごヒモ、それを留め具で止めて、腕鳴らし代わりに一回羽ばたく。ばさっ、と風を切る音が、狭い部屋一杯に響いた。
同時に、保存庫の連中も俺の存在に気付いたようだ。俺が封じ杭を出している間に、会話が漏れてきた。
「ははぁ。件のジャックとやらは隣の部屋だな?」
「そーだよ。だけど、ジャックの羽音が聞こえたってこた、あんた等勝ち目ないぜ」
「何を言う、ハヤブサ風情が」
「それ以上に魔法使いだぜ。師匠の力量くらい知ってら」
ロイの野郎、焚きつけてくれてやがる。
なるほど確かに、俺はそこんじょそこらの人間なんぞ片手で捻り潰せるくらいは出来るが、だからってあんまり持ち上げられても困っちまう。苦く笑う俺の顔は、ロイには分からないだろう。
そうこうしている内に、バーン! とばかり、保存庫の扉が蹴り破られた。奥でユーリが「扉が! 扉が!」と悲痛に叫んでいるが、蹴破った当人はお構いなしだ。ずんずんと部屋の敷居を跨いで、俺を見つけるや否や、腰に下げた黒い鉄の塊をこっちに向けてきた。拳銃、というものらしい。
最近、人間の世界はやたら技術革新が進んでいる気がするんだが、俺の気のせいだろうか。
「よぉ、町長のイエスマン。元気してるかー?」
「器物損壊、及び町長への名誉毀損だ。同行願おう。でなければ撃つ」
拳銃の黒い孔から、それを握ってる男の顔の方に目をやる。すると、目深に被った帽子の向こう、カナリヤ色の瞳とかちあった。どうやらこの人間の男も、俺達と同じ“裏”を視る人間のようだ。それも、ユーリのように薬で騙し騙し異常な視力を支配するんじゃなくて、真正面から組み伏せたたちだろう。
ロータスと同じ、見ようと思えば至高の境地を垣間見れる、稀有な人間だ。だが。
「ははっ、天才肌ってだけで奢ってんじゃねぇぞ、青二才」
「何だと?」
「お前にそんな鉄ッコロ当てられやしねーよ、バーカ」
ロータスどころか、俺にだって程遠い。
——翼に隠していた封じ杭で、一突き。全国に散らばる力の湖、その一つを塞き止める。
その瞬間、男ははっとしたような顔をして、ぐぐっとばかり指に力をこめた。引き金という部分にああやって力を入れると、何か物凄いことが起こるらしいのだ。例えば、人が死ぬとか、鳥が落ちるとか。
だが、脅威は遅すぎた。俺はもう一度杭を振り上げ、溜めた歪みを一気に爆発させる。
「手加減してやるよ、人間!」
かぁん。高らかに、乾いた木が音を立てた。その瞬間。
「っがぁ!?」
真後ろから飛んできたテーブルと椅子が、男の頭に命中した。
To be continued...
テーブルが頭に命中なんて、魔法使いじゃなかったら死んでるね。