複雑・ファジー小説

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全て
日時: 2015/05/09 10:12
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

プロローグ


もしも、この世の全ての出来事が、あらかじめ、決まっているものだったとしたら。
全ての物事は、その通りに動いているに過ぎないのだとしたら。
偶然の出来事も、信じがたいような奇跡も、その一つに過ぎないのかもしれない。
もしも、この世の全ての出来事が、神様の、気まぐれだったとしたら。
全ては、偶然の上になりたっているものだったとしたら。
手を放せば落ちる必然も、今ここに居ることも、案外、奇跡と呼べるのかもしれない。
どちらにしても、どちらでも無いにしても、全てに置いて、一つだけ、言えることがある。
これから起こる、全ての出来事は、この世の誰にもわからない。
例えそれが、主人公である、僕でさえも。

Re: 全て ( No.1 )
日時: 2015/05/10 09:17
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

『必然の産物 その一』


目を覚ますと、黄ばんだ白い天井があった。
体を起こし、ぐるりと辺りを見回せば、そこには今日も、僕の見慣れた部屋がある。
正面の壁に掛けた時計は、午前七時を指していた。
この時間に起きるのもいつものことならば、眠たい目をこすって朝食を取り、私服に着替えて外出し、大学に向かうための駅へと向かう、この一連の流れもまた、いつものことだ。

改札口を抜け、駅のホームに着くと、僕は決まってベンチに座る。色褪せた橙色のベンチに。
ほぼ全ての人々が、栄行きの電車に乗るのだが、その電車はいつも混雑していて、ドアが開いてからすぐに入らないと、次のが来るまで待つことになる。
そのせいか、誰もこのベンチに座ることはなく、いつも空いている。
つまり、いつもこのベンチに座ることができるのは、偶然でなく、必然なのだ。
ホームに放送が流れ、二番線に、僕の乗るべき電車が滑りこんでくる。立ち上がり、目の前で開いた扉から入る。
電車内はがらがらで、空席だらけだったけど、僕は一番近かった優先席を選び、席に着いた。
直後に扉が閉まり、電車がゆっくりと動き出す。
窓の外に見える景色は、今日も変わらない。
いつもいつも、同じ時間に起きて、同じ時間の電車に乗って同じ時間に大学に着くのだから、それも仕方がないのかもしれないけれど、こんな日常に、まんねりに似たものを感じていた。
産声を挙げて産まれてから、かれこれ十九が年経つ。
家も容姿も成績も、全部が全部、可もなく不可もない。
五段階評価で言うならば、オール3といったところだ。
要するに、僕はあまりにも平凡で、僕の人生もまた、あまりも平坦すぎる。
いい加減、奇跡が起きてもいいころだと思うんだ。何も僕は、空から美少女が降ってくるとか、選ばれし者となって世界を救うとか、そういう非日常を求めているわけじゃないんだ。
曲がり角で女子高生とぶつかるとか、綺麗な人と自販機のボタンを押すタイミングが被るとか、そんなような、ちっぽけな奇跡でいいんだ。それだけで僕は、幸せになれるはずだから。少なくとも、今現在よりかは。
降りるべき駅に着き、扉が開く。天井からぶら下げられた時計を見ると、七時四十六分だった。
電車は、遅れることも早過ぎることもなく、いつもと同じような時刻で着いた。
居合わせた、ごくわずかな人々は、吸い込まれるように階段へと向かって行った。
途中、一人の会社員風の男の、脇に挟んでいた書類が滑り落ち、コンクリートの上に散らばった。
手を放せば落ちる。至極簡単な必然だった。思い届かず、というほど強い願いではないけれど、所詮この場所は、必然で塗り固められた、いつものホームでしかなかった。それが当り前なんだろけど、僕にはそれが、酷くつまらないものに思えた。
だってここには、何の奇跡もなければ、何の偶然もない。
いつもいつも、いつもと変わらない。強いて言うならば、会社員風の男が書類を落としたのは偶然だけれど、やはりその偶然も、手を放せば落ちる、という必然によってもたらされたものだ。

つまるところ僕の日常は、必然で溢れ返っている。

僕の全ての行動は、必然という名の鎖に縛られて、当たり前すぎることに限定される。要するに、不可解な行動や、おかしな行動や、突発的、衝動的な行動ができない。
それが生きると言うことならば、果たしてこんな人生に、意味なんてあるのだろうか。
なんてことを考えているうちに、大学に着いてしまった。
あぁ、僕はなんてつまらない人間なんだろう。
必然や、当たり前すぎる日常が嫌いだと言っている癖に、律儀にルールを守ってしまう。
おかげで今から一日のほとんどを、何に使うかもわからない勉強で、浪費することになってしまった。

Re: 全て ( No.2 )
日時: 2015/05/08 20:01
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

全ての講義が終わり、僕がようやく解放されたころには、辺りは真っ暗になっていた。
僕は、ところどころに立った、町の街灯を頼りに帰路に着く。
僕の帰る場所は、あの家以外にない。よって僕は、あの家に、帰ることになる。
これもまた、必然。近くのホテルに泊まるなりすれば、一見回避できそうなものだけど、僕の場合、不可能だ。だってお金が無いから。それに、身分証明書も持っていない。学生証は家に置いてきた。路上で横になるという手もありそうなものだけど、今年の冬は記録的な寒さだと言う。凍死でもしたら笑えない。よって、避けることができない。
まぁ、だからこその必然なんだろうけど。
立ち止り、上を見る。街灯には、多くの蛾たちが群がっていて、意味もなく体当たりを繰り返していた。僕の足元には、羽根が折れ、死に絶えた蛾が、何匹も横たわっている。
彼らは何のために生まれ、何のために死んで行くのだろう。まさか、街灯に体当たりして、自滅するためだけに生まれるわけでもないのだろうに。それでも彼らは、街灯が点いている限り、体当たりし続けなければならないのだろうか。そういう習性なんだから、きっとそうなんだろう。彼らの人生は、街灯に群がるという必然に縛られて、死ぬまで体当たりし続けるものとなのだろうか。そんなくだらない生き様をする奴らもいるくらいなんだから、僕の人生、まだまだ捨てたものではないのかもしれない。僕は独りで、一際大きな溜息をついた。
「蛾と比べてようやくいいものに思えるような僕の人生って、なんなんだよ………」
俯いて愚痴をこぼし、 自分で自分に苦笑する。
僕は必然にあらがえず、再び夜道を歩き出す。古くなって、がたがたになったコンクリートの上に転がった、小石を蹴り飛ばそうとしたけれど、空振りして、うまくいかなかった。
終点に乗り遅れる気がして、それ以上は放っておいた。

Re: 全て ( No.3 )
日時: 2015/05/08 19:59
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

目を開けると、今日も黄ばんだ白い天井があった。湿気が多いのか、角にカビが生えている。
体を起こし、正面に掛けた時計を見ると、やはり午前七時だった。
僕は小さく溜息をついてから、ゆっくりと立ち上がり、奥のクローゼットへと向かう。木のこすれる音を立てて、クローゼットを開き、真ん中辺りに掛けて置いた、くたびれた色のセーターを取る。今日は、朝食を食べる気分ではなかったので、鍵も掛けずに家を後にした。


駅のホームの、色褪せたベンチには、一人の少女が腰かけていた。藍色のロングスカートの制服に身を包み、腰まで伸びた焦げ茶色の髪を、指先にくるくると絡ませて、それを退屈そうに、ぼんやりと見つめていた。
見ない顔だった。制服も、中学のものだろうけど、どこのものかわからない。
旋毛までむらのない焦げ茶色一色な所を見ると、染めているのではなく、自毛のようだし、整った、賢そうな顔立ちから見ても、浮ついた印象は受けなかった。
が、少女の座っているのは、五つの座席が連なったベンチの、左から二番目だ。
そこは、紛れもなく、普段、僕の座っている位置だった。それだけが問題だった。あの座席は、言うならば特等席なのだ。座り心地がいいし、汚れていないし、何より、目の前で電車の扉が開くので、立ち上がってそのまま一色線に進むだけで、電車に乗ることができるのだ。
あそこまで都合のいい座席は、はっきり言って他にない。唯一無二の、最高の位置だ。
だからと言って、あの気の強そうな鋭い目つきの少女に、「そこは僕の席だからどいてくれ」という度胸は無いし、あと数分も待てば電車が来るので、ベンチの右端に立ち、おとなしく待つことにした。
……しかし来ない。癖なのか、少女が右足のつま先で、貧乏ゆすりを始めた。
黒い革靴のローファーが、軽快な一定のリズムで音を立てる。

しばし待つ。やはり来ない。少女の貧乏ゆすりが、つま先から踵へと移った。
コツコツと硬質な音になり、先ほどよりも若干速く、少々乱れたリズムになっていた。

 さらに待つ。まだ来ない。少女の貧乏ゆすりは、僕のつま先にも伝染していた。
 少女の方は右足全体で、大きく貧乏ゆすりをしだした。ここまで来ると、さすがの僕もだらしないと感じ始めているが、僕も人のことは言えない。

 ………尚も待つ。少女の右足全体まで広がっていた貧乏ゆすりは、左足にも伝染し、挙句の果てに腕を組んで前屈みになり、体全体で、激しく痙攣けいれんし始めた。ここまで来ると、もはや病気の域だ。
周りにいた人たちも、引き気味に距離を置き、少女の近くに居る人間は、僕だけとなった。
これは、僕が注意してあげるべき何だろうか。ただ単に怒りっぽいだけなのかもしれないけれど、悪い癖だった場合、早いうちに直して置くべきだろうし。いや、その前にいいお医者さんを紹介してあげるべきか。とにもかくにも、このまま放っておくわけにはいかない。
躊躇いつつも、僕は少女の肩に手を伸ばし、声をかけようと口を開きかける。
とその時、アナウンスが流れ、少女はぴたりと止まった。
前の駅で緊急用停止ボタンが押され、安全確認のため、今まで運航を見回せていたのだが、もうすぐ僕の乗るべき電車が来るとのことだった。
間もなくして、二番線に、見なれた赤色の電車が滑り込んできた。僕の地域では、各駅停車の電車と言えばやはりこのカラーに限る。というかそもそも他のカラーを見掛けるようになったのはつい最近のことだ。それまでは、電車=赤色という相場が決まっていた。多分僕の中でだけだろうけど。今日も、ほとんど同じ位置で電車が止まり、扉が開いた。
その真ん前を陣取っていた少女は、おもむろに立ち上がり、扉の中へと消えた。
僕も後へと続くと、少女は、普段僕の座っている優先席を、先に占領していた。
さすがにその位置まで被ることはなく、普段僕の座る位置とは逆の、左端に座っていた。
しかし困ったな。向かいにあるもう一つの優先席には、松葉づえをついた、明らかに足の悪そうな青年と、紫の着物を着たお婆さんが座っている。その二人の間は、さすがの僕も、座るに座れない。
かと言って、少女の座っている方の、右端に座ると言うのも、それはそれで気が引ける。
優先席はここにしかないけれど、空いている席なら他にいくらでもあるのだから。
しかし優先席と言うものは、やはり怪我人やら妊婦さんやら高齢者やらをいたわるために造られただけのことはあり、高品質でやわらかく、座り心地がいい。気がする。よってどうしても諦めきれない。
突如、無防備な足元がぐらりと揺れる。考え込んでいるうちに電車が動き出てしまったらしい。完全に油断していた僕は、慌てて吊皮を掴む。

結局、そのまま目的の駅に着いてしまった。
久しぶりに立ちっ放しだったせいで、足が重い。変にこだわってないで、他の席に座ればよかったと、今更ながら、後悔の色がにじむ。……逆に今更でない後悔などあるのだろうか。
ふと思い立つも、すぐに考えるのを止め、改札口へと向かう。僕は昔から、思考に没頭しながら行動することが苦手なのだ。どうしても、そのままの姿勢で固まってしまう。どうにかならないものだろうか。なんて考えると、また立ち止まってしまう恐れがあったので、それ以上は何も考えず、黙々と足を進めることにした。

Re: 全て ( No.4 )
日時: 2015/05/09 13:55
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

僕は今日も、帰路の夜道を一人でとぼとぼと歩く。
今日は激しい睡魔と疲労に襲われて、講義に全く集中できなかった。気付いたら寝ていたなんてことが、軽く四回はあった。正直、行く意味があったのだろうかと疑問に思うくらいだ。
つま先に、硬くて小さい何かが触れて、そのまま蹴飛ばしてしまった。二、三回跳ねたあと、街灯の下まで転がって、ようやくおとなしくなった。明かりに照らされたそれを見ると、昨日蹴り損ねた石ころだった。
まだあったのか。
ぼんやりと見つめていると、街灯には相変わらずたくさんの蛾が群がっているというのに、その下に、死体が一匹も見当たらないことに気がついた。他の街灯の足元も、同じように綺麗さっぱり無くなっている。
誰かが掃除したのだろうか。
何故かはわからないけれど、なんとなく、寂しい気持ちになった。

Re: 全て ( No.5 )
日時: 2015/05/10 11:11
名前: 全州明 ◆6um78NSKpg (ID: JEeSibFs)

『偶然の宿命 その1』


目覚まし時計が鳴らないままに、わたしは目を覚ます。それもそのはず、わたしが鳴る度にあんまり強く叩くものだから、つい先日、壊れてしまったのだ。時計自体が壊れたのではなく、上部にある、アラームを止めるためのボタンが反応しなくなった。そのため、現在は時計としてのみ機能している。一分たりとも狂っていないのは、電波時計とは言え、ほとんど奇跡だと思う。わたしの身の周りでは、そんなことがしょっちゅう起こる。
勿論、身の回りの様々な物が壊れるということではなく、奇跡がよく起こるということだ。奇跡というものは、滅多に起こらないから奇跡と言うらしいのだけど、私の場合、その滅多に起こらないようなことが頻繁に起こる。いいことも悪いことも。そのせいでわたしは、波乱万丈とまではいかないものの、落ち着かない人生を送ってきた。お父さんの仕事の関係で、転校や引っ越しをすることも多く、周りの環境すらも落ち着くことはなかった。
わたしには奇跡や偶然が、素晴らしいものだとは思えない。あんなもの、起こらない方がいい。普通が一番だと思う。初恋の人は別として………
一人でいつまでも愚痴っていても、何も始まらないので、わたしはむくりと起き上がり、立ち上がる背後のカーテンを開けると、眠気を覚ますのに丁度いい、強い日差しが差し込んできた。


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