複雑・ファジー小説

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そして蝋燭は消えた。【短編集】
日時: 2015/05/22 17:58
名前: 橘ゆづ ◆tUAriGPQns (ID: w4lZuq26)

はじめまして。橘ゆづ(たちばなゆづ)、といいます。
初めて小説を投稿してみようかなぁ、と。
雑談では「ゆづ」として色々歩き回ってるので、見かけたら声をかけていただけると嬉しいです(笑)
まだまだ初心者ですが、よろしくお願いします!

基本、短編-掌編ぐらいの短いのを綴っていこうかなと思います。
(それ以下になる場合も……)
予告なしに痛い表現や匂わす感じがあるのでご注意ください。
ついでに勝手にシリーズとか始めたり、長いものをだらだら書いたり、詩も書きます。

アドバイスなど貰えたら嬉しいです。コメも凄い喜びます。
出来れば誤字脱字も報告していただけると嬉しいです。

では、よろしくお願いします。


・目次
>>1[残念、夢の時間は終了です]
>>2[神に好かれた女]
>>3[1きっとそんな夢を見た。]
>>4[2きっとそんな夢を見た。]
>>5[終きっとそんな夢を見た。]
>>8[1蜜の世界]
>>9[終 蜜の世界]
>>10[すぐそばに]
>>11[潔癖少女の末路]
>>12[吸わない男]
>>13[心傷の靴]
>>14[眠らないブランコ]
>>15[崩れて堕ちた]

・お客様
>>6佐渡 林檎さん
最初のお客様です。私と同じく短編集を書いていらっしゃり、表現力が魅力的な方です。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.13 )
日時: 2015/05/21 17:48
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: IqVXZA8s)

(13)心傷の靴

青年視点。


「ねぇ、絶頂に達する直前の、君の顔が好きだよ。」


 教会を一歩出た途端、彼女は出し抜けにそんなことを言った。


「だから私は君にご奉仕している訳ではなくて、自己満足でしているの。」


 完璧な弧を描く彼女の唇。僕は瞬間的に頬が熱くなるのを感じた。


「何なの、突然。こんなところでそういうことを言うなよ。」


 僕が文句を言うのを、彼女はひときわ楽しそうににこにこと眺めている。その理不尽さについ、言葉じりが弱くなる。


「ミサが終わったら、真っ先に背徳的なことを言ってやろうと思ってたの。」


 歌うように彼女が言うそれは、まるで「朝食が終わったら、コーヒーを飲もうと思ってたの」と言うのと同じくらいの軽さと自然さがあった。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン、ゴーン。
 並んで歩く僕らを、教会の鐘の音が追いかける。
 どんよりした灰色の空は、僕らの足音を乾かして吸い込む。


「一体、なぜ?」
「赤い靴を、履いてきたから。」


 彼女が軽くステップするように、僕の前へ進み出てくるりと振り返る。
教会の守衛が声をかけると、靴はひとりでに踊り出します。
それが僕の問いかけへの答えとして用意されたものなのか、もともと彼女自身の中に秩序としてあったものなのか、僕には判別がつかなかった。
彼女の真意がつかめないまま、僕らは歩みを進める。


「ねぇ、カーレンはなぜ、教会に赤い靴を履いて行ったんだと思う?」
「さぁ、僕にはわからない」


 僕が心の中に連想したものを読み取られたようで、一瞬どきりとした。でも、『赤い靴』の主人公の名前がカーレンだったか、確かめる術もない。それ以上に、先ほどの彼女の発言とアンデルセン童話にどのようなつながりがあるのか、さっぱりわからなかった。
僕の怪訝な顔に満足したのか、彼女は問いかけを回収することなく鼻歌まじりに歩いていく。
 いつの間にか降り出した粉雪が、彼女の長い栗色の髪に絡まってにわかに水玉模様を作り出す。
しかしそれは一瞬のうちに、融けて消えてしまった。
きっと、さっきの答えは永遠に得られないのだ。



「ねぇ」


 突然、彼女が振り返る。
淡く微笑んだ瞳で。
ねぇ、と吐き出した白い息が、空中にふわりと浮かび上がって消えた。


「あの角を曲がったら、結婚しよう」


 僕はがくりと肩を落とす。脈絡がないにもほどがある。


「一体、それは何なんだ」
「君を拘束するのに、神様への誓いが必要?」


 僕のついたため息は、重力に負けて見えなくなった。


「今ミサに出たばかりだよ」
「いつもそうやってはぐらかすのね」


 彼女は三歩ほど後ろ向きに歩いた後、またくるりと前を向いた。
トレンチコートの裾が、ひらりと雪を掻きまわす。
粉雪が地面に作り出した水玉模様は、今度は消えずにしみを拡げていく。

 はぐらかす? 僕が?

彼女の基準は、いつも僕にはわからない。


「ねぇ」


 彼女は、今度は振り返らなかった。
 ヒールがぽくぽくと、ゆったりしたリズムを刻む。

「君は」

 ぽく、ぽく、ぽく。

「私を置いて行かないでね」

 ぽく。

彼女は僕に背を向けたまま、わずかにうつむいた。
──首切り役人に切られた脚は、赤い靴を履いたまま、踊りながらどこかへ行ってしまいました──
僕と彼女の間を、白い雪が横切っていく。
彼女が空中に放った声は、小さいながらも僕の心臓に突き刺さったが、それでもやはり空に吸い込まれて行ってしまった。
消えるものと、消えないものと。
 僕は大股で歩を進め、彼女を抜き去る。


「あなたと一緒にいるのに、誓いが必要かな?」


 振り返って見た彼女の瞳は、迷わず僕をとらえていた。
唇からかすかに息がもれ、言葉ではない回答をつむぐ。
僕と彼女の間を、相変わらず白い雪が横切っていく。


「ねぇ」


 彼女の唇が、再び完璧な弧を描く。
 彼女の瞳が、哀しい色に染まる。
 僕はその表情に、一瞬はっとした。


「このまま、どこかに行っちゃおうか」


 聖者になれない彼女が、透明な微笑みで発したそれは、いとも簡単に、そして鮮やかに、僕の心を絡め取った。
僕は無言で彼女の手を取り、ポケットに入れた。


(心傷の靴)
end。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.14 )
日時: 2015/05/22 00:58
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: MHTXF2/b)

(14)眠らないブランコ

女性視点。


 昔から、ブランコが嫌いだった。
 日も暮れて、誰もいなくなった公園の片隅で、それでも揺れるブランコが嫌いだった。
 夜、ベッドに潜り込んでからも、ブランコは最後に見届けた姿のまま、ずっと私の頭の中で揺れていた。


 ごそり、と隣で熱の動く気配がして、ふわふわと形をなくしていた私の意識はあなたに向いた。
 とん、と足の裏が床に触れる音。
 肌がシーツに擦れる音。少しずつ遠ざかっていく足音。
 今、何時だろう。枕元に置いた携帯電話に意識を向ける。寝返りを打って少し腕を動かせば、すぐに触れる位置にある。
 でもそんなことをしたら、きっとあなたに気付かれてしまう。
 ライターを擦る音で、私の意識は再びあなたに向いた。
 煙草の先に火が点く。あなたは最初の一口を吸い込みながら、換気扇のスイッチに手を伸ばしかける。
 でも結局スイッチには触れずに、腕を下ろす。
 そしてできるだけ静かに、ゆっくりと煙を吐き出す。
 まぶたを閉じたままでも、あなたの動きは手に取るようにわかる。
 いつも換気扇の下でしか煙草を吸わないあなたが、余計な音を立てないようにと、敢えてそれを回さずにいるということが。
 私は薄く目を開ける。常夜灯の明かりで淡く染まった闇の中に、窪んだままの枕が見える。
 起こしてくれても、全然いいのに。あなたと一緒にいられる時間は限られているのだから。


 風に揺れるブランコが嫌いだった。
 ある日の帰り際、揺れるブランコを手で止めてみた。塗装の剥げた木の板がぴたりと静止したのを確かめてから、立ち去ろうとした。
 でもまたすぐに風が吹いて、ブランコを揺らしてしまった。
 私が何度止めても、すぐに風が動かしてしまう。
 だから風が吹くより先にブランコに背を向け、地面を蹴った。


 かすかに煙草の匂いがする。あなたの指先から私のもとへと煙の伝ってきた距離を思って、不意に心細くなった。
 あなたが残していった熱は、既に冷め始めている。
 簡単だ。ベッドから這い出て、換気扇の下まで歩いていけばいい。
 ローテーブルに置きっ放しのマグカップを手に取り、水道のレバーを上げて水を汲み、一口飲むのだ。


ごめん、起こしちゃったかな。
いいえ、少し喉が渇いたの。


 煙草を灰皿に押し付ける音がした。今度は近づいてくる足音が、ベッドの手前で心なしか速度を落とす。
 そっとシーツが持ち上げられ、あなたが滑り込んでくる。
 隣の空間に熱が戻り、私は煙草の匂いに包まれた。
 いつものあなたの匂い。思わず胸いっぱいまで吸い込みたくなったけれど、どうにか普通の寝息を装う。
 もしここで目を開け、あなたを見つめて微笑んだら、あなたは優しい言葉をかけてくれるかもしれない。
 ぎゅっと抱きしめてくれるかもしれない。
 でも、私は眠っているふりを続ける。せっかくあなたが私を起こさぬようにと気を遣ってくれているのだから、それに甘えるべきなのだ。


 ブランコは辛くないのだろうか。揺れたくもないのに揺らされて。
 ブランコは苦しくないのだろうか。静かに眠ることも許されずに。
 錆びた鎖の軋む音が、耳の奥でずっと鳴っていた。


 あなたが寝息を立て始めるのを待って、私はまぶたを開けた。 薄らとした光がカーテン越しに部屋の中へと侵入し、あなたの頬に濃い陰影を作っている。
 あぁ、夜が明ける。どうしようもなく、朝が来てしまう。
 ちくり。胸がざわめく。明日の今ごろ、私は何をしているのだろう。あなたは何をしているのだろう。
 いっそ夜が来なければ、全てを諦めてしまえるのに。
 呼吸に合わせてわずかに動く、目元の陰。その顔はなんだか、とても疲れているように見えた。


 風に揺れるブランコが嫌いだった。
 あのブランコは今も、私の中で揺れ続けている。


(眠らないブランコ)
end。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.15 )
日時: 2015/05/22 17:37
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: w4lZuq26)

(15)崩れて堕ちた

女性視点。


 タバコを吸い込んで、煙が口から出ていく。思い切り吸ったせいか、むせてしまった。
 タバコの先を火が飲み込んでいく。まるで、ブラックホールみたいだ。
 まだ冬の寒さが残るこんな時期に、ふらふらと歩くのはハズレだっただろうか。
 まぁ、いいや。
 そう自己簡潔して、タバコを地面に落とした。


 別に何処かへ行きたいわけでもない。逃げたいわけでもない。何をするというわけでもない。
 嗚呼、ああ。
 がらんと昼ならば賑わっている本屋も、もうとっくに扉が閉まり中は誰もいない。
 その窓に写る、わたしがいた。


 ──ねぇ、なんで生きてんの
 ──聞かないでよ。そんなこと。


 責めるような目で、窓のなかのわたしが訊いた。
 わたしはまるで道化師のように肩をすくめ、三日月を口に描いてみせる。やがて飽きて、窓のなかのわたしは空虚な瞳で街を見渡す。


 ──嗚呼、こんなにも、街は綺麗だと言うのに。貴方は穢いね、とても、とても。

 そんなこと、分かっている。
 分かっているから言わないで。ねぇお願い。やめてよ、やめて。

 耳を塞いでもその不協和音のような声は止まない。
 嗚呼、嗚呼。



 いっそ、殺しておくれ。
 そういって、いけることをやめた。


(崩れて堕ちた)
end。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.16 )
日時: 2015/05/22 23:16
名前: 猫又 ◆yzzTEyIQ1. (ID: .v5HPW.Z)

 ゆづさん、こんにちは。猫又です。
上がっていたので読ませていただきました。
 読んでて思ったのですが表現力がすごいですね!
私じゃとても思いつかない言い回しが出てきたりしてずごく面白かったですw

 ただちょっとそれが暴走している部分もありましたが……。
言い回しや展開がぶっ飛びすぎて、ちょっと理解できない話もチラホラ……。
 上の『崩れて堕ちた』に ”三日月を口に描いてみせる”って文が出てきますが、これって笑っている描写です、よね?だとしたら ”口で三日月を描く”もしくは”三日月を描くように口を歪める”ぐらいまで説明しても良いかもしれません。

 何も知らないのに何様だ、って話ですが、読者にも分かりやすいよう、
もう少し言い回しを工夫してみたらいい気がします。
長文失礼しました。それでは〜。

Re: そして蝋燭は消えた。【短編集】 ( No.17 )
日時: 2015/05/28 03:41
名前: 橘ゆづ ◆1FiohFISAk (ID: wGslLelu)

>>16 猫又さん

遅くなってすみません!最近少し用事が出来てロックしてました。
なるほど、確かに言い回しがおかしいですね(笑)
ちょっともう一度見直してきます。
ありがとうございます!


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