複雑・ファジー小説
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- 超熱血少年が異世界に転生したら
- 日時: 2015/07/01 11:56
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
王道の本格的なファンタジー小説を執筆開始します。
バトルあり笑いあり涙ありのお話です!
- Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.10 )
- 日時: 2015/07/02 21:01
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
あれは、俺が小学生のときだった。
そのころ学校が終わると、ふたり一緒に近所にある駄菓子屋で菓子を買うのが日課になっていた。
ばあちゃんは醤油煎餅。
俺は苺大福。
いつもの品を買って帰る途中、ばあちゃんが口を開いた。
「太郎、お年寄りは大事にするんだよ」
その発言に面食らってしまったが、今思えばこれがばあちゃんの教えのひとつだったのかも知れない。
お年寄りは経験を積んでおり知識が豊かだから、親切にした方がいいという意味なのだろうか。そのときの光景を思い出し、混濁した意識が次第にはっきりしてきた。両の腕に力を込めて倒立の要領で起き上がり、その力を持ってして老人を背中に抱えたまま舞い上がり、くるりと一回転して地面にしっかりと足をつけて大地に立つ。
「はあああああぁ……!」
人間の中に眠っていると言われる潜在能力である氣を放出させ、パワーを全開にする。すると、全身から湯気のようなものが立ってきた。
なんだか、力がみなぎってくる感じがする。
これなら、じいさんを山のてっぺんまで連れていけるかもしれない。
「じいさん、振り落とされるんじゃねぇぞー!」
そして、俺は走り出した。
何トンあるか分からない重いじいさんを背に乗せて、馬のように山道を登る。
手や足は残像が見えるほど素早く動かされ、普段の俺ならば絶対になしえない速度だ。恐らくこれは、心の中に目覚めた『じいさんを絶対に山頂まで連れて行きたい』という思いの成せる業なのだろう。
斜め上の坂道を、休むことなく走り続ける。
と、前方から丸く大きな岩石が転がってきた。
潰されれば死は免れられない。
砕ける。今の俺なら絶対にできる!
自分に言い聞かせ、トラックに破壊されて以来、一度も使用していなかった右の拳を握りしめる。そして唸りを上げて回転させ、まるでドリルのような速度で拳を炸裂させた。
ドゴォン!
鉄拳が命中した岩石は、粉々に爆ぜ割れた。
やはり、この世界では思いが力に変わるらしい。
「若造、あんまり無理をするではないぞ」
「大丈夫だ。俺はまだやれる」
「生意気な若造じゃのう。だが、その根性だけは認めてやってもいいかもしれんのぉ」
「へへ……そいつぁ、嬉しいね」
登山の途中で雪男や山男深い谷底などの障害物が現れたが、それらを全て思いの力で乗り切り、俺はついに登頂へとたどり着いた。
眼下に広がる緑の景色が、美しい。
達成感もあるため、その光景の感動はなおさらだ。
ここでじいさんは、ひょいと俺の背中から降りて笑顔を見せた。
「よくぞ、最後まで投げ出さずにやり遂げることができたな」
「俺より凄い人間はいくらでもいるさ。ただ、俺は自分に出せる全力を発揮し、ベストを尽くしただけだ」
こうして俺は、第二の試練を終えた。
「第二の試練まで突破するとは、井吹太郎さんの名は伊達じゃありませんね」
「俺は井吹太郎。何が何でも異世界へ転生する男! そのために生まれてきたんだ!」
「って言うかアナタ、既に死んでいますから」
「悪い、聞いてなかった。もう一度言ってくれるか」
「もういいです」
- Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.11 )
- 日時: 2015/07/02 21:19
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
「そういえばさっきから気になっていたんだが、訊いてもいいか?」
「なんですか、井吹さん」
「お前、名前なんて言うんだ?」
流石に天使が固有名詞とは思えない。
コイツにだって名前があっておかしいくはないはずだ。
まさか、天使一号とか二号とかなのだろうか。
もしそうだとしたら、俺は奴に少なからず同情の念を抱くだろう。
彼は、被っていたベースボールキャップを脱ぐ。
すると、柔らかそうな艶のある茶色い髪が現れた。
染髪しているのだろうか。
いや、恐らく地毛だろう。
日本人にも赤毛の人はたまにいるのだから、別に不思議でもなんでもないはずだ。
「改めて自己紹介しますね。僕は星野天使ほしのてんしといいます。その名の通り天使です。それ以外の何者でもありません」
意外だ。
天使というからには、ウリエルとかミカエルとかそれらしい仰々しい名が飛び出すかと思ったのに。
「僕はあくまで日本人の青少年を担当していますからね、自然と名前もそうなりますよ」
「そういうものなのか」
「そうです。ところで井吹さん、第三の試練はなんだと思いますか?」
「知らんな。全く予想がつかない」
「第三の試練、それは——」
星野はここで言葉を切り、踵を返して真ん中にある扉に突入する。
「待てッ」
すぐさまドアをこじ開け後を追うと、その先には四角いプロレスリングの姿があった。星野は四方にあるコーナーポストの一角に仁王立ちになり、俺を見下ろしている。
「最後の試練は、このリングを見てお察しの通りだとは思いますが、僕と闘って勝利する事です」
「天使と一対一、邪魔者ナシの真剣勝負! 男と男の肉体のぶつかり合い!
受けてたってやるぜ……俺は相手が強ければ強いほどワクワクするんだ」
「そうと決まれば、早速始めましょうか」
俺は三本のリングロープを軽々飛び越え、奴と対峙する。
星野もコーナーポストからリングに降りた。
「さ、ゴングを鳴らせよ」
「この試合にゴングは必要ありません、いつでもかかってきてください」
奴は語りかけるが、俺は本能的に危険を察知して、先制攻撃をするのを控えた。
いつもならば、先手必勝が美学なのであるが相手は得体の知れない天使。
神話やおとぎ話、最近ではライトノベルなどでも見かけるようになったが、普段の世界には会うことはない生き物であるため、慎重にスタートを切らなければならない。野性的に吠えることもせず、無言で俺をじっと見つめる星野。
その姿には、背筋が凍りつきそうなほど冷たい何かがあった。
「あなたが来ないのでしたら、こちらから行かせていただきますね」
予告する優しさを見せつつも、彼は急接近して間合いを詰め、俺の腹にボディーブローを見舞った。
「ぐはっ……!」
まるで鉄球にでも殴られているかのような威力に、血を噴き出し、腹を抑えてのめり込む。続けて放たれたハイキックを受け、コーナーポストにまで吹き飛ばされ脳天を強打する。
どうやらこいつは、マジで強いようだ。
- Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.12 )
- 日時: 2015/07/03 06:17
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
「やるな、星野……」
「伊達に天使ではありません。普通の相手と思ったら大怪我しますよ」
「ヘッ……そうだな、かもしれねぇ」
俺は何とか立ち上がり、拳を構える。
そして相手の出方を待った。
ブンッ!
まるで鎌居達の斬撃のようなキックが再度放たれる。
「うっ」
服が風圧で裂け、胸から腹にかけて斜めに斬り傷が入る。
あの細い足でどうやったらこれほどの力が出るのは気にはなるが、今は相手の攻撃をかいくぐり懐に入るのみ!
星野が繰り出す裏拳を紙一重で避けて懐に入ると、彼の腰を掴んでリフトアップする。そしてマットに渾身の力を込めてバッドロップを食らわせる。
けれど相手は何事もなかったかのように、顔色ひとつ変えずに立ち上がる。
「井吹さん、少しハンディを与えてあげますか」
「手加減なんかいらねぇよ……力を抜いた相手に勝っても面白くもないからな。それに、負けたときに『手加減したから負けた』なんて言われるのだけはごめんだ」
「ですがこのまま勝負を続ければ、あなたに待っているのは僕の攻撃による確実な死。以前も話しましたが、この空間では二度死んだ場合魂は消滅してしまいます。
それでもいいというのですか」
「ああ、構わねぇ。全力を出してそれで負けたら悔いはないっ」
俺はパンチとキックのラッシュを叩き込むが、それらを全てポーカーフェイスで軽くいなしていく星野。そのおかげで、百発近くの打撃が一発も当たらない有様になった。
「あなたは喧嘩に関しては、学校内で右に出る者のいない実力者だったそうですね」
「ああ。そうだけど、それがどうした」
「僕はあなたに言いたいのです。己の力を過信しすぎるのもいい加減にしなさい、とね」
「なっ……」
後ろ回し蹴りを受け止めそのまま体を捻って転倒させると、立ち上がる隙を与えずに体を反転させうつ伏せ状態にする。
そして馬乗りになり顎を両手でロックし、俺の体を弓なりに反らし始めた。
この技はラクダ固め、通称キャメルクラッチ!
「どうします? 体が真っ二つに裂ける死を選ぶがここで降参して生きながらえるか、選択肢はふたつにひとつです」
機械のように抑揚のない冷徹な声の相手。
技から脱出しようと彼の両腕のクラッチを外しにかかるが、力が凄まじいために体力を消耗してしまう。体が引き裂かれる痛みを堪え、自分に言い聞かせる。
落ち着け、俺。
ピンチのときこそ冷静に考えるんだ。
どうすればこの技から脱出できるか。
ミシミシと肉が裂ける音が嫌でも耳に入ってくる。
このまま、マジックショーのように上半身と下半身を切断されてお終いか。
いや、そうはいかねぇ。
俺の体を天使なんかに、そう簡単に破壊されてたまるかってんだ。
奴の脇にできた隙間に体の柔らかさを駆使して足を入れ込み、空いている両腕に力を込めて起き上がり、ブレイクダンスのように回転して相手を振り下ろす。
すぐさま技をもう一度仕掛けらればいように間合いを取る。
腹に目をやると、少し亀裂が入っていた。
だが、大丈夫。
幸いなことにこの空間は、己の精神力自体で痛みも和らげることができる。
ならば今までと同様、痛くないと思い込めばいいだけの——
「ゲホッ」
口から吐き出されたのは、思い込みの言葉ではなく、血反吐だった。
バカな。なぜ、痛みを感じるんだ。
今までは肩を食いちぎられようが、とんでもなく重いじいさんを載せても大丈夫だったのに、なぜだ?
その疑問に、星野が教えてくれた。
「これまでの試練、第一と第二はどれもあなたにとっては現実離れしたものでした。三頭首のライオンにプリンを頭に載せた一トンはあろうかと考えられる老人……それらをあなたの脳は現実に存在しないものと認識し、非現実と思いこむ事でやせ我慢をしてきました。ですが、僕の存在はあなたにとってだいぶ前から現実として認識されている。
つまり、リアリティがある分だけ痛みも感じやすくなるという訳です」
確かに、奴の言う通りかもしれない。
これまで俺はいかにも自信があるような言動を繰り返してきたが、裏を返せば、自分で思いを反復するほど自信がなかったのかもしれない。
星野から言わせれば、そんな俺は「空威張りをする思い上がった腰抜け」でしかないのか。
「クソッ……」
心が打ちのめされたのが原因なのか、ここにきて、ついに俺は両膝をついた。
- Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.13 )
- 日時: 2015/07/03 20:11
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
星野は強い。
これまでの敵の中で最も強いと言っても過言ではないだろう。
だが、ここで勝負を放棄し負けを認めてしまってもいいのだろうか。
俺は喧嘩しか取り柄のない男。
それさえもなくなってしまったら、正真正銘の屑になっちまう。
俺は、拳と拳の殴り合い、男と男の闘いだけは何が何でも負ける訳にはいかねぇ!
手をついて、ゆっくりと上半身を起こす。
二本の足でしっかりと大地を踏みしめ、再び立ち上がる。
「バカな。もう、闘えないはずでは……!?」
僅かではあるが、冷静な星野の顔に動揺の色が見えた。
それに対し、心の底から沸々と自信が湧き上がってくる。
奴は、完全無欠じゃない。
天使とはいえ、人間と同じように感情があり、体の作りも大差ない。
決してダメージの通らない相手ではない以上、勝てる可能性はある!
「星野、お前はどうやら俺のメンタル面を侮っているようだな。
残念ながら俺は、倒れれば倒れるほど強くなって蘇る!
たとえ肉体がどんなに傷つきボロボロになったとしても、心が敗北しない限り、負けという二文字はない!」
瞳に熱き炎を宿し、乾坤一擲のパンチを彼の頬目がけて放つ。
命中。だが、奴のクールさは変わらない。
それでいい。それでこそ、俺が闘う意義がある。
強い奴を——自分より遥かに強い奴を全身全霊で倒したときの快感には、何にも勝るものがある。だから俺は、お前との闘いが楽しくなってきた!
「一発当てたぐらいでいい気にならないでくださいっ」
星野は裏拳を出すが、俺も裏拳で対抗する。
ぶつかり合う拳と拳。
「ならば、これはどうでしょう」
奴は先ほどコーナーポストまで吹き飛ばしたハイキックを見舞おうとするが、俺も同じ技で対処する。
「僕と同じ動きを見せるとは、どうやら死の淵に光を見たようですね」
「ああ、見たぜ。その光の正体は、お前に勝利する俺の姿だーっ」
敵の胸板に正拳を食らわせ後退させると、顎にサマーソルトキック、続けてローリングソパットの連続攻撃を浴びせる。
「先ほどとは、攻撃の威力が段違いに上昇していますね。
これでこそ、僕も少しは闘い甲斐がありそうです」
「お前、俺に勝つ気なのかよ」
「バカ言わないでください。僕は天使です。あなたのような人間に負ける訳ありませんっ」
不意に彼はスピードを上げて懐に入り込むと、凄味のある形相で下から俺の顎めがけて拳を振ってきた。
「天使のアッパー!!」
「ぐああああああっ」
顎の骨が粉々に砕けそうな威力と風圧により、天井につきそうなほど吹き飛ばされる。そして星野は白い天使の翼を背中から出現させて接近する。
「今のは僕の最強必殺技の序曲。本番はこれからです!」
奴はがっちりと肘を俺の首にめり込ませ、自分の体重を加える事により落下の速度と重力を上げていく。
「これが僕の必殺技……天使エンゼルの死刑台ギロチンです!」
ズガアアァアン!
「がはああああああああっ」
- Re: 超熱血少年が異世界に転生したら ( No.14 )
- 日時: 2015/07/11 14:00
- 名前: モンブラン博士 (ID: EhAHi04g)
奇跡。それは、稀にしか起こらない希望。
滅多に起きる現象ではないため、人はそう呼ぶ。
そして、大抵の人が努力した者にだけが訪れると語る。
では、努力する人間とは、どのような人物なのか。
それは、残念ながら俺には分からない。
なぜならば、俺はそんな事を考えずにがむしゃらに闘ってきたからだ。
相手に敗北を認めず、闘う覚悟がある限り、どこまでも前へ進み続け、決してあきらめたりしない。それが、俺のモットーだ!
「フンッ」
星野の肘を持ち上げ、脇腹を蹴ってリング外へ放り出す。
彼の顔は、青くなっていた。
「まさか、僕の必殺技を破る人間が現れるなんて……!」
「星野、この世に完全無欠の必殺技など存在しない。
全ての必殺技には、いつか必ず破られる時が来る!」
俺はコーナーポストの最上段にかけ上り、そこからムーンサルトで戦意を半ば失っている彼を強襲する。
「星野、俺はお前の必殺技を食らった。今度は、お前が俺の技を受ける番だ」
彼を肩の上に担ぎあげてのせて、首を支点として弓なりに反らしながら、そのまま竜巻のように猛回転をする。適度に回ったところで地面を蹴って飛び上がり、リングに落下する過程でより一層彼の顎と脛を掴んでいる腕に力を込めて絞り上げ、着地した衝撃で相手の体をへし折る即興の必殺技——
「タイフーン=バックブリーカー!!」
技を解除すると、星野はゆっくりと俺の肩から離れていき、白いマットに仰向けに倒れた。白目をむいて、口からは血を流しピクリとも動かない。
彼が失神した事により、この試合は俺の勝利に終わった。
「……お見事です、井吹さん」
しばらくして意識が戻った星野は、弱々しい笑みを浮かべる。
「まさか僕の必殺技を破るだけでなく、失神までさせるなんて、試合開始直後は思ってもみませんでした」
「それを言うなら俺も同じ。最初からお前を倒せる確信があったわけじゃない。
でも、転生をするために無我夢中で闘った。そしたらお前に勝てていたんだ。
偶然って、ほんとに怖いな」
「アハハハ、そうですね」
声を出して笑った星野の顔は無機質なものではなく、天使とは言え人間と変わらない優しさと温かみに包まれたものだった。俺は彼に握手を求める。彼はそれに答え、小さな手で握り返した。闘いが終わった後は、強敵は最高の友になる。
少し臭いセリフかもしれないが、その言葉には死闘を演じたものにしかわからない、確かな心の通い合いがあった。
リングを降りて扉を出る。三つの試練をクリアした俺は、晴れて異世界に転生できることになった。これまでの試練を思い返すと、男泣きに涙が出てくる。
そんな俺に星野はそっとハンカチを渡し、涙を拭くように助言した。
「ありがとな」
涙で濡れたハンカチを友に返し、礼を言う。以前は恥ずかしかったが、今は問題なく言える。この試練を通して、俺は精神的に成長していたのだ。
「それでは井吹さん、待ちに待った異世界転生の時間がやってきました。転生する前に、何か希望はありますか?」
「そうだな……今の記憶は健在で、男に生まれ変わりたい。
それ以外に要望なんかないさ」
「わかりました」
彼は分厚い本に何やら走り書きをして、そのページを破った。
すると、俺の体が光に包まれる。
いよいよ、旅立ちのようだ。
「あっ、あなたにこれを渡しておきます」
慌てて星野が腕に巻き付けたのは腕時計だった。
「コレがあれば僕といつでも通信ができますので、困ったときには使ってください」
「ああ」
「それでは、お元気で!」
彼との冒険の思い出を胸に、ついに俺は異世界へと新たな人生の一歩を踏み出すことになった。よっしゃ、異世界でも強い奴らとバンバン闘って、もっともっと強くなってやるぜ!