複雑・ファジー小説

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佐倉 茜・狂想曲
日時: 2015/09/28 08:59
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: Ic8kycTQ)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18174

 最強キャラの小説が書きたくなりました。
   あぁ、イライラの結晶が増えていく……。
・はい。無理やり終了しました。番外編を「小説家になろう」に作成中。
 イライラも大分和らぎましたので 役目が終わりました。
・あまりにも酷いので No.9 変更。

 目次
・プロローグ     :>>1
・「ウィルス・イータ」:>>2 R1
・いじめ       :>>3 R1
・卑怯者じゃない   :>>4
・スペース・デブリ  :>>5
・静香        :>>6
・デストロイ     :>>7 R1
・遭難者       :>>8 >>9

佐倉 茜・狂想曲 ( No.5 )
日時: 2015/08/01 12:18
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)

「あれが鬱陶しいわ」
 茜が指差す先には火星があるはずだ。裸眼では判らないので、静香は拡大率と反応速度を上げてソレを見た。確かに火星の前を影がよぎる瞬間があった。
「デブリではないでしょうか」
「ゴミなの?」「何故そんなモノ放置してるのよ! 片付けさせなさい」
「しかし、あれは……」
 そう、持ち主があるのだ。簡単には処理できない。そのように説明すると。
「国連にやらせたら良いわ」
 国連に そこまでの力があるだろうか。
 静香が躊躇っているのを感じたのか、茜は 面倒そうに言った。
「国連事務総長に電話をかけて。私が出るから」

 茜は、送られて来たデータ、現在稼動中の人工衛星をリストアップしたモノを見ながら結論を提示した。
「じゃ、関係各国に連絡しておいてね。このリストに載っていないモノは、全部ゴミとして処分するって」と言うと、返事も待たずに通話を切った。
「静香。あの玩具が五台もあれば、必要な物は送れるでしょう。処理してね」「用意が出来たら、直ぐに飛ばして」
「チビ(衛星)には私が連絡しておくわ」
 茜の足元にいた黒猫・静香が「かしこまりました。三十分ほどで処理いたします」と言ってその場を去った。
 茜は随分以前に造った玩具を、再び使うことになったことが 少しばかり面白くなかった。別の何か面白いことは 出来ないだろうかと考えていた。
 次の瞬間、何か閃いたようだ。眼が光り、微笑が彼女の表情に浮かんだ。それは、小さな子供が 些細なイタズラを思いついた時のモノに酷似していた。
「ゴミを使って、ラグランジュ・ポイントの五箇所に別荘でも造ろうかな」
「チビ、聞こえてるのでしょ」
『はい。しかし、あそこには……』
「三十分後くらいに、そっちに資材が届くから……」
 茜が経緯を説明した。
『えぇ! そんなことして大丈夫なのですか』
「大丈夫よ。国連事務総長には さっき了解を取ったから」
「ラグランジュ・ポイントにも、何もない筈よ。あったらゴミだから処分して」
「即刻実施してね」
『了解しました』
『資材到着後、即刻開始します。掃除につきましては、ほぼ四時間後に完了予定です』
『別荘の件につきましては、未だ予定が立ちませんが、検討して報告いたします』
「うん。頼んだわよ」
 もう、午後十時を過ぎている。茜は大きく伸びをして、メイドに命じた。
「じゃ、今日は もう寝るから。誰にも起こさせないでね」そして寝室に入った。

 国連事務総長が無能だった訳ではない。
 彼は茜からの通達を その日の内に関係各国にちゃんと通知していたのだから、全く非はない。そう問題などない筈だった。
 ただ茜の反応が速過ぎたのだ。まさか、連絡のあった次の日に(しかも早朝に)全てが終わっていたなんて、誰が考えるだろう。

『デブリは、全て除去致しました』
『別荘の件ですが、どの程度の居住環境を お望みでしょうか』
「宇宙服なんて着るのイヤだわ。そうね、ここと同じ程度で良いわ」
『え。地上と、同じ……』
「返事は!」
『はい。半年ほど頂きたいのですが。どうでしょう』何だか、冷や汗を流しているような雰囲気だ。機械なのに。
「半年かぁ……。まぁ いいわ。出来たら連絡してね」
『はい』ほっ、と溜息を着いたような雰囲気。機械なのに。
『あと、別荘を管理するため、月に基地を造りたいのですが、良いでしょうか』
「いいわ」即答である。
(良いのかなぁ)静香は少し不安だったが、すぐに 茜のやることだから。との理由で 心配することを放棄した。
 メイドが駆け込んできた。通信係の娘だ。
「茜様。国連事務総長経由で映像会議の申請が来ていますが、いかがいたしましょう」
「ふーん。何の用だろう」
 静香は、その理由が何で判らないのか、それこそが分らなかった。デブリの件に決まっている。
「いいわよ。何人の会議? そっちへ行こうか?」
「いえ、ここで充分です。茜様を入れて四人の会議になります」
 茜の前に三つのディスプレイが降りて来た。皆 二十インチサイズだ。既に三人の大人が揃っている。
「おはよう。何の用なの?」
 午前十時過ぎ(当然、茜王国の時間で)。USメリケンの大統領、ソーメン連邦の書記長と国連事務総長である。
 事務総長は目に隈が出来ている。きっと早朝から叩き起こされて さんさん愚痴を聞かされたのだろう、可哀想に。と静香は思った。
 二人の国家元首は、茜に文句を言っているようだ。茜は、馬耳東風と薄目を開けて聞き流していた。息継ぎのためか 少しの間があいた。
「言いたいことはそれだけ?」茜の顔つきが変わった。
 三人は、ギクリとして硬直した。
 氷よりも冷たい瞳に見据えられて動けなくなったのだ。
「あなた方の言い分は判ったわ」「でも それって、ゴミ屋敷の主人が家を掃除をしてくれたヒトに対して『あれは資源だった』と言ってるのと同じよ」「さっさと片付けないのが悪いのよ」
「お礼ぐらい 言って欲しいわね」怒りに燃えた目が怖い。
 国家元首達は、茜の横に座っている黒猫を チラリと見た。そして思い出した。
 そうだった。この娘、いや女王は、その気になれば何時でも世界を征服出来るのだ。
 今 現在、世界が安定を保っていられるのは、彼女の ほんの気紛れに過ぎない結果なのだという事を。
「お、お掃除して頂きまして 誠にありがとうございました」
「うん。常識を弁えてね。私はね、馬鹿は嫌いなのよ」
 会議は終わった。

佐倉 茜・狂想曲 ( No.6 )
日時: 2015/08/02 15:45
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)

 茜王国の健康管理は厳重だ。一箇月に一度健康診断があり、引っ掛かった者は全快まで作業することを禁じられる。
 この国では 一週間情報が途切れると浦島太郎状態になる。とんでもない事であり、それはメイド達にとってアイデンティティに関わる大問題であった。
 以前、ただ一度だけ、メイドが作業中に倒れたことがあった。彼女は、茜の側近の内でも優秀であり、お気に入りの一人だった。
 メイドは つい十日前に健康診断を受け、健康と判断されていた。
「どうしたの? 何でこんな事に」
 茜が狼狽する姿など、めったに目にすることはない。自分の事であったなら、決してあり得ないことだ。
 再診結果は『癌』であった。それも脳を除く 全身のあらゆる場所から発症していた。十日前には兆候さえもなかったのに。
「これは、遺伝病なのです……」メイドは か細い声で言った。
 茜が後ろを振り向いた。そして医療関係の技能者達が既に動き始めていたのを確認した。
「遺伝とは どういうこと?」
「母も、祖母も、曾祖母も 皆この病で亡くなりました」
「原因は判ったいるの?」
「放射線障害。ヒロシマです」先祖が原爆の被害者だったのだ。
「発症してしまっては もう無理です。あと三箇月くらいでしょう」
 茜は息を呑んだ。
 何世代も前の被爆が、それも被爆者本人には全く責任のないことが。
 何故 何世代も離れた現代にまで続いているのか。医者は一体 何をしていた。どうして誰も対策を考えなかったのか。茜は怒りに震えた。
 しかし今は、怒りを静めなければならない。
 茜は 優しく話しかけた。
「あなたは、どうしたいの」
「茜様の傍にいたい。茜様の お役に立ちたい」涙を流しながらの切実な願い。しかし、叶うことのない願いだった。
 メイドが眠るのを待って、茜は看護士に耳打ちした。そして音を立てないように そっと出て行った。
「チビ。すぐ検索して! 核兵器とその関連情報を、全てよ!」
『了解しました』全ての検索。その意味が理解できない者は 茜王国にはいない。全世界の情報が、チビによって収集された。例外はない。機密情報も関係ない。全てである。

「あなたは、何か対策しなかったの?」「ただ 死を待ってただけなの?」茜の質問は、ある意味では容赦のないモノではあったが、彼女には真意が判っていた。
「私の部屋のパソコンに、『ヒロシマ』のフォルダがあります。ご覧ください」「私の執念の結果です」
 茜は 返事もせず跳びだし、パソコンごと持って来た。
 病室の電源に繋いで起動した。
 フォルダを開けると。文献や写真、そして彼女自身が作成した研究成果、いや まだ途中段階だが。などが ズラリと並んでいる。
「これね」茜が研究成果を開いて、ザッと読んでいく。
 そして結論を出した。
「完成させましょう! 私に 少し時間をちょうだい」
 医者が メイドの頭に色々な設備を装着していく。大きな記録装置も稼動している。
「さぁ、話して。貴女のことを、全部よ」
 催眠状態になったメイドは、生まれた時のこと(当然 記憶ではなく聞いた話)から順に記憶を探りながら話していく。傍にある機器がずっと作動音をあげ、全てを記録していく。脳波を感知する装置も記録装置に繋がっている。

 茜は『研究成果』をコピーして、それに色々追加記入して行った。チビの資料も照らし合わせながら もの凄い速度で研究を完成へと導いて行った。
 だが、それは メイドが生き続けるためのモノではない。茜も当然それを知っている。
 メイドの記憶探索が終わった。
 それだけで、もう一週間も経っていた。
 メイドは どんどん衰弱していく。
「さあ、出来たわ。これを見て」
 茜が示したのは、研究成果の完成版だった。
 メイドは そのデータを順に読み取って行きながら驚愕の表情が隠せない。
(私が十年もかけて完成出来なかったモノを、たった一週間で完成させるなんて)呆れた顔をしながらも嬉しそうだ。
「あちこち弄っちゃって ごめんね。どう? 使えるかな」
 データ量は メイドが作っていたモノの数十倍になっている。これは茜のオリジナルといって良いものだ。メイドはヒントを与えたに過ぎない。メイド本人も 当然それを理解していた。
「でね、これを造ろうと思うの」茜が笑顔で話しかけた。
「え!」「造るのですか」(そんなことが 出来るのだろうか)メイドは半信半疑だ。
「当然よ! 造って、世界中にバラマイテやる!」
「でもね、貴女みたいに発症してしまっては、どうしようもないの。……ごめんなさい」
 頭を下げた茜に驚いて、メイドは動かないはずの手を上げようとした。出来なかった。だから言葉でいった。
「頭を上げてください。これが完成しただけで嬉しいのです。あぁ、生きてた甲斐がありました」「これで 思い残すことはありません」
「何を言っているの。私は 貴女を手放すつもりなんて、金輪際ないのよ!」
「さあ。これは 貴女の手柄よ。頑張りなさい!」

 二箇月後、それは世界中を混乱のドン底に叩き落した。
 放射性物質が全て使えなくなったのだ。核兵器はもちろん、医療用や発電用のものまで。全てがダメになった。
 メイドは、その結果を見て喜んだ。「やった!」
 彼女は その一箇月後に亡くなった。全てに満足した嬉しそうな顔であったという。
 メイドの名は『静香』といった。

「どう。その身体」茜がニコニコしながら黒猫に問いかけた。
(はぁ、格好良く最期を迎えたと思ったのになあ。猫に転生か。まあ、良いか)
「はい。問題ありません。絶好調です」と言って 彼女は尾をピンと伸ばした。

佐倉 茜・狂想曲 ( No.7 )
日時: 2015/08/04 14:27
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)

 執事隊は先日から大忙しである。
 茜が放射性物質を使えなくする方法を考え付いた時点で、執事長は準備を始めていた。成功するのが当然であるかのように。
 彼は記憶の中から、発電設備の代替品で遣えそうなものを検索した。発電設備を取り替えるのが一番の手だ。しかし、修理して使おうとする者もいる筈だ。
 彼の頭の中には茜が造った全ての、完成品、失敗作、試作品や途中で飽きたモノまで入力されている。(彼は人間である。念のため)
 ヒットしたのは 茜が随分前に製作した永久機関だ。茜は「失敗作だから破棄して」と指示していた物だ。こんなモノを使ったりしたら お叱りを受ける可能性がある。しかし現時点では、これがベストの次善策だろう。
 どちらも、茜王国では時代遅れの遺物とも言うべきモノではあるのだが。
 それに こんな些細な事に掛かり切りになど なっていられない。医療用機器のフォローがある。こちらの方が切実だ。レントゲンなどの放射線を使ったモノの代替品が、至急必要なのだ。
 これも古い物の中に使えそうな製品がある。これで問題なかろう。

 執事長は考えた。これ等は特許を取得していない。今更申請するのも面倒だし(茜にバレるのも困る)、貸借契約とすることにした。
 いつも通り「この製品に茜王国執事隊の許可なく触れた場合、わが国の持つ特許物件『部品、製品及びその他、全ての使用を永久に禁止する』と脅しておくことにした。
 以前、馬鹿な国がそれで滅んだ。前例があるのだ、違反する者はいまい。
 まあ。違反すれば、文字通り行使するまでのことだが。
 執事長は立ち上がり部下に命じて、該当製品の製作に着手した。それは、茜が静香と一緒にイタズラの打ち合わせをしている。ちょうどその頃だった。
 あの『放射性物質破壊用・増殖型ナノマシン作成装置』が完成した頃には、世界各国の関係機関に『放射性物質を使わない製品』のパンフレットが送付されていた。

 茜の創った駆動装置を発電用に使うと、そこの発電所の所員達は決まって驚きの声を上げる。しかし派遣された執事隊には、その意味が全然判らないらしい。
「こんな物に、何を驚いているのだろう」彼等にとっては、ソレはまさに骨董品としか言いようのない物なのだ。
 しかし問題が起こった。
 執事隊は こんなに低出力の発電機に触った事がなかったのだ。発電所で手配する筈の物が粗雑すぎて使えない。
「この精度(図面を見せながら)を守って頂かないと使えません」執事が言うと発電所の作業員は困惑した顔で返した。「こんな高精度。加工できる工作機械がありません」
「でも、使えませんよ。このままじゃ」駆動側の問題は大きい。
 だが問題はそれだけではなかった。
「こっちもダメだ。軸の振れが大きすぎる。このままじゃ接続できない」別の執事が、今度は発電機の問題を提示した。
 執事隊は、この事を執事長に連絡し対策を仰いだ。
「仕方ないですね。効率は落ちますが、撓み継手でも使いましょうか」
「それを買って頂くか、それとも発電装置を丸ごと茜王国製の物に換えるか、どちらかしか方法はありませんね」
 その回答を発電所の所員に連絡すると、撓み継手の購入を選ぶ者が多い。
 しかし良く考えると、購入するのは明らかに損なのだ。
 茜王国製発電装置一台の発電量は、大型発電プラント設備の総発電量の数十倍にもなるのだから。メンテナンス・フリーのソレを借りることが出来るというのだ。

 黒猫の姿になった静香は、望み通り常に茜と共にあることになった。高性能AIを搭載した彼女は ある悩みを抱えることになる。(これは、主人をこよなく愛する黒猫の 宿命なのかも知れない)

 権力者とは何と愚かな生き物だろう。核兵器がなくなったら通常兵器で戦争を始めてしまった。いままで核兵器が怖くて何も出来なかった国が騒ぎ出したのだ。
 国連事務総長は、仲裁も調停もままならなくなり茜に泣きついた。
 曰く「この事態を引き起こしたのは茜王国だから、責任をとれ 云々」
 このような事を言われて、黙っている茜ではない。たった一つの通達で事を済ませた。
 この通達は、チビにより全世界の、有線を含む全ての通信網に強制的に送信された。
「いい加減にしなさい愚か者。これから十分以内に戦争をやめないと『チビ』を動かすからね。その意味判ってるでしょ。それと、茜王国の特許は全部使用禁止よ。戦争の当事者と関係者、つまり資金提供者なんかの後ろにいる連中も皆 同罪だからね」

 そして、世界は平和になった。

 世界の権力者と呼ばれる者達、電気・電子関係や通信に携わる者達にとって『チビ』という名は恐怖の代名詞に他ならない。
 あの ウィルス・イータの上位バージョンであるデストロイ。
 それを搭載できた唯一の大型コンピュータのことでもある。『チビ』は、茜王国以外では、ソフトの名称と同じ『デストロイ』と呼ばれている。

佐倉 茜・狂想曲 ( No.8 )
日時: 2015/08/07 15:51
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: yIVvsUU5)


 彼等は運が悪い。
 港から船を出港させる時に遅刻して 船団に置いて行かれた。
 いや。それ以前に この船の乗組員が問題だ。普通は三から多くても五種族だろう。九種族だなんて、普通あり得ないじゃないか。頭領が九人もいて纏まるわけがない。
 それに、ここは何処なんだろう。
 ……全然わからない。
 さっきの跳躍の時、妙なノイゾが入った。きっとそのせいだ。
 見えている銀河は、記録装置に該当するものがない。
 まさか、別の銀河団に跳んだなんてことは、ないよね。
 あれ? まだ停まらないの? そんな馬鹿な! どこかに流されていく?
 あの銀河に入ってしまうのか? ま、待ってくれ、それはいくらなんでも、冗談じゃない。停めろーー。
 たすけて〜〜。

 彼等は不運にも、とある辺境銀河の、更に辺境にある、小さな太陽系に流れていった。
 気が付くと、目の前に知的生物らしい者達がいる。
 なぜ知的生物だと分るって? だって、何か喋っている。対話しているように見える。二足歩行形の生物と四足歩行形の生物(?)。それに、この部屋全体を何かが管理しているようだ。

 そう、彼等は とっても不運にも 茜に捕まってしまったのだ。
 ここは第一ラグランジュ・ポイントにある別荘の一室である。先日 月に落ちて来た(飛んで来たのではなく、明らかに落ちて来た)飛行物体をチビが回収し、調査した。中に生物がいたが、明らかに地球製の生き物ではない。
 九種類の生物から構成された組織のようだ。
 チビは調査の過程で、この飛行物体の構造を把握している。彼等の脳を調査し言語も理解した。翻訳システムも完備した。これで茜を迎えられる。
 報告すると 茜と静香、そして執事長が来た。

「あなた達は何者? 地球を侵略しに来たの?」眼を輝かせている。
 翻訳機まで造っている。彼等の文明程度がよく判らない。どうしよう。
「ねえ、返事してよ。じゃないと、焼肉にしちゃうぞ」ニヤリと笑った。
 こ、これは、脅迫されているようだ。ヤキニクの意味は分らないが、あまり良い雰囲気ではない。ちゃんと釈明する必要がありそうだ。
「私達は侵略者ではありません。遭難したのです」
 明らかに がっかりした様子を見せて、さっきの生物が話しかけてきた。
「なーんだ。つまんない」「で、どこから来たの?」
「さぁ、どこでしょう。ここから かなり離れているのは間違いありませんが、比較対象がないので分りません」
「比較対象って、銀河じゃ分らないの?」
 銀河の事を知っているということは、かなり高度な文明を持っている可能性がある。あまり迂闊なことは話せない。
「ねえ、どうして黙っちゃうのよ」
「さては、やっぱり何か企んでるでしょ」
「いえ そんなことはありません。説明をどうしようかと迷っていただけです」
「そうか。銀河じゃなくて、銀河団が違うんじゃない?」
 図星だ。銀河団のことまで知っているのか。どうしよう、話してしまおうか。
「あなたたち、九種類の種族で一括りなの?」
「ヒトククリとは、何でしょうか?」
「一つの団体ってこと。皆で相談して何かを決定するの。例えば地球を壊してしまおうか。とか」
 何で、そう物騒なほうに考えるのかな。このヒトは。
「まあ、そうですが。チキュウって、そこの惑星のことですか? でも、壊したりしませんよ」
「我々には、知的生物を殺害する権限はありませんから。でも、自衛目的なら別ですが」
「どこかの国が言いそうね。その言い訳」機嫌を損ねたようだ。
「それで、あなた達は これからどうするの」
 どうすれば良いのだろう。それこそ こちらが知りたい。
「……」「わかりません」
「何も分らないのです。ここが何処なのかも、何故ここに来たのかも。全く検討がつかないのです」
 このままでは、泣き出しそうだ。どうすれば良いのだろう。
「じゃ、私の国に来なさい。歓迎するわ」
 話していた人物以外が、驚いたような表情をしている(たぶん)。確かに突拍子もない提案だ。異生物を懐中に入れるなんて発想、普通するだろうか。
 まさか、生体実験でも するのつもりなのではないだろうか。
「その顔は、生体実験でもされると思ったでしょう」
 この生物は、ヒトの考えが読めるのか?
「ねえ、どうなの。来るの、来ないの」
「い、行きます」

 思わず口にした言葉だった。彼等の運命は、これで決まった。

 茜は道に迷ったヒトを助けた。くらいにしか思っていないようだが、これは大変な事であった。何せ宇宙人なのだ。どう扱って良いのか全く分らない。
「九種族でしょ、居住環境なんて 多くても九種類しかないじゃない」
「とりあえず、チビに任せましょう。月にでも居住区を造ってね」「チビ。すぐかかって」
『はい。了解しました』
「他の八種族のヒトは元気なの?」
『まだ調査中です。怪我人もいるようなので、処置に時間がかかりそうです』
「あのヒトに居住環境や食べ物なんかについては聞けば良いんじゃない。とりあえず地球に住めるかどうかだけでも確認してよ」
『はい』
「面白いことになりそうだわ」
『……』

佐倉 茜・狂想曲 ( No.9 )
日時: 2015/08/29 16:08
名前: うたり ◆Nb5DghVN/c (ID: Ic8kycTQ)


 宇宙人は九種族の全員が 地球に移住する運びとなった。
 彼等の代表団が茜王国に やって来た時「少し寒いな」とは言っていたが、外が殺風景なことや、重力の問題などで 月よりは地球の方が住み易いとのことだった。
 双方の準備も含め、移動開始は 四十日後に決まった。

 茜は九種族に九つの島を与えた。一種族に一島である。
 それぞれが佐渡島程度の広さを持つ無人島だ。赤道付近にあり、彼等にとって とても住み心地の良い環境になる筈だ。
 こんなモノどこにあったかって。ある訳がない、造ったのに決まっている。
 無い物は造る。それが茜の流儀である。
 それは、三十八日前にさかのぼる。

 宇宙人の視察団を帰した後、茜は大きな机に座って(椅子にではない)何か考えていたが、おもむろに作業を開始した。
 茜王国を中心に配置した世界地図を広げて、チビと対話しながらだった。これが、果して対話と呼べるのかは疑問ではあるが。
「この辺りから赤道上まで繋いで……と」とても他人には見せられない格好で、茜が地図上に落書きを始めた。
『……』チビの不安そうな気配がする。機械なのに。
 茜王国の一番南の島から、黒色のサインペンで 丸印や点をポツポツと描いていく。ひどく適当な間隔だ。赤道のあたりまで描いて、黄色のペンに換え、赤道を挟んで くるりと輪を描いた。
「これで良し!」茜は、作業を完了したようだ。
『え?』チビには、何のことだか判らなかった。
「これくらいの範囲で、赤道付近に大きなのを九個、小さいのは そうね二十個くらいで良いわ……」
『……』何だか、嫌な予感を覚えたチビだった。
「あとは適当に国境が切れないように繋いでちょうだいね」
『あの……、もしかして領土を拡げるのですか』恐る恐る尋ねるチビだった。
「そうよ。宇宙人には ここじゃ寒いようだから仕方ないわ」全く躊躇のない答え。
「緑地の比率は六十パーセントで良いわ」茜は どんどん話を進めていく。
「一箇月以内に住めるようにしてね」
『……はい』チビに拒否権はない。もう決まったことだ。
 溜息をついたような雰囲気を醸し出すチビだった。機械なのに。

 翌日。茜王国の南端の沖合いを皮切りに、ある筈のない海底火山が連鎖的に噴火して、赤道まで繋がった。そして赤道周辺の海底が突然隆起して、大小二十九個の島が誕生した。
 それは、後に『茜王国南部海底火山連続噴火』(茜王国拡張工事ではない)と記録された事象である。念のために記しておくが事件ではない。
 新しく出来た島々は またたく間に整備され、緑豊かな環境になった。
 その影には、チビと執事隊、メイド隊の とっても涙ぐましい努力と献身があった。 

 茜が宇宙人に課した使用条件は「緑地を減らすことは認めない」これだけだ。
 当然だが茜王国の法律は守ってもらう。
 宇宙船からの各種品々の持ち込みも認めた。

「名字が欲しい? 何に使うのそんなもの」宇宙人の要求は意外なもので、さすがの茜も意味を解しかねた。
「そんなものって、地球人は皆さん持っておいでですよね」茜が最初に対話した宇宙人である。翻訳器なしでも話せるようになっていた。
「あなた達の名前じゃ、だめだったわね」茜は そのまま読めば良いだろうにと一瞬思ったが否定した。そうだった。地球人には発音できなかったのである。逆は可能なようだ。
「うーん。何か条件でもある?」
「ナンバーリング。頭に1から9の数字を入れて頂きたいのですが」
 茜は差別が嫌いだ。自分が女王様だということは、考えてもいないようだ。
「数字に何か意味でもあるの」突然、茜が不機嫌な顔になった。
 宇宙人は その顔を見て、誤解のないよう 正確に説明する必要性を強く感じとった。彼も ちゃんと学習しているのだ。これは間違いようの無い、危険信号であった。
「べ、別に階級とかじゃありませんよ。ただの部屋番号です」
「宇宙船では 種族毎に環境調整するための、居住区域を表す番号でした」それを流用したいらしい。

 茜は、宇宙人の苗字を、一条から九条に決めた。
 なかなか 1から9まで連続した苗字など思いつかず、思ったより手間取ったようだ。下の名前は、各人で勝手に決めるようにと指示した。
 それに 茜は忘れていたが、戸籍にも これを記入することになる。
 宇宙人達は 地球の、茜王国の国籍を取得したことになったのである。
 もう、地球人であった。

 あの元宇宙人は「三条太郎」と名乗っている。現在、茜の側近の一員である。


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