複雑・ファジー小説
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- ZEROs【グロ表現あり・キャラ募集】
- 日時: 2015/08/30 21:54
- 名前: 吟 (ID: IpYzv7U9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=222
【グロい描写がかなり多いです。閲覧注意】
それは純粋な恐怖だった。
鈍い光を放つ、その刃物が彼女の頭蓋をたたき割る。
下手なスイカ割りのような音がして、赤いものが飛び散った。ザクロの実がはじけた、とでも形容すべきだろうか。その断面は、ひどく赤い中身を晒している。
数瞬ののち、俺の頬にそれが付着した。生ぬるい、嫌な感触が皮膚の表面を伝う。それがなんであるかは、すぐには理解できなかった。
しかし、理解できた瞬間、足腰から力が抜けて、その場にへたり込む。俺の足下まで彼女の血液は広がっていたようで、ズボンや下着に、生暖かな温度が染みこんでいるのが分かる。
——かつん。
アスファルトを、なにかが蹴る音がした。そちらのほうを見やると、革靴のつま先が見える。そして、おそるおそる顔を上げる。
そこには、鉈を提げた男が、月を背に立っていた。
半月の青白い光に照らされて、闇夜に浮かび上がるその白貌に表情はない。その美しい貌は、さながら死神のようであった。
「ひ、ひとごろし……ッ!」
その言葉が、口をついて出た。
どうして彼女が。
これから俺もこうなるのか?
非情にも、死神の歩みは止まらない。
「来るな!」
震える声で叫んだとき、左の手首に、強い力と温度と感触を感じた。
生暖かい、ぬるりとした人肌の温度を。
そこに脳漿をまき散らして横たわる彼女の、ちいさな手のひらのぬくもりを。
ふかい、ふかい夜。
青年の叫びが、響き渡った。
- Re: ZEROs【オリキャラ募集中】 ( No.1 )
- 日時: 2015/08/27 18:49
- 名前: 吟 (ID: KdWdIJEr)
「怪我のほうは?」
「……まだ痛いです」
「ま……自業自得だ」
助手席に座る青年ーー三笠誠は、運転手のその言葉に顔をしかめた。
なにが自業自得だ。なにも言わずに襲いかかってくるそっちの方が絶対に悪かっただろう。
そんなことを考えもしたが、言えるはずもなかった。
運転席に座る、えらく整った顔の青年。
彼に、誠の恋人は殺されてしまったのだ。
あの夜、死んでしまったはずの彼女は、凄まじい勢いで傷口を再生させ、甦った。
血まみれの手でしがみつかれる不快感のなか誠は、必死に助けを乞う『コイビト』の澄んだ瞳に当てられて死に物狂いでその青年に反撃を繰り出したのだった。
ブーツを投げ、スマートフォンを投げて、そして見よう見まねのタックルをかました。しかし、それも容易く受け流されて、次の瞬間には右肩を外されてアスファルトの上に転がっていた。
そして、振り子のように無造作に振られた革靴の爪先が、誠の顎を叩いて脳を揺さぶり、誠の意識は闇のそこに落ちていった。
目覚めたのは、それから1日後だった。
どこだかわからない部屋のベッドに寝かされ、肩も治療してあった。
彼女はもう、隣にはいなかった。
代わりに隣で、一言も発っさずに彼が立っていた。
むきになって、痛むからだを無視して飛びかかったのを覚えている。
しかし、それすらも受け流されて、無様に溢れだした涙のなかで、彼の平坦な声を聴いた。
『お前が愛していたものは何だ』
- Re: ZEROs【オリキャラ募集中】 ( No.2 )
- 日時: 2015/08/29 21:49
- 名前: 吟 (ID: IpYzv7U9)
「おい、なにボーッとしてんだ。そんなに痛いのか」
気づけば、車は停まっていた。
フロントガラスの向こうには、金持ちの別荘のような大きさの、しかし古ぼけた外観の洋館がある。目的地だ。
「あ、いや考え事してて……」
「あっそ。ーー今日はここで仕事だ。依頼内容としては、『死臭がするから確認してほしい。獣の唸り声がするときもある』だそうだ。依頼人の別荘ならしいが、ここ3年ほどは立ち入っていないとのこと。異常生命体が発現した死体である可能性もある。抜かることのないように」
感情の乗らない平坦な声に頷くと車から降り、トランクに回る。作業服や作業道具がぎっしりと積まれており、たまに開けた瞬間に雪崩が起きることもある。
「仕事はじめて3ヶ月。少しは気が回るようになったみたいだな」
「そうしないと不機嫌になるでしょう」
「パフェ奢ってやろうかと思ってたんだが、そんな言い方するなら余計な世話だったか……」
「本当、甘党ですね……」
- Re: ZEROs【オリキャラ募集中】 ( No.3 )
- 日時: 2015/08/30 14:25
- 名前: 吟 (ID: IpYzv7U9)
「しかし、誰も立ち入っていないってのに死臭がするとは不思議な話だ。冷蔵庫のなかで腐ってるただの肉だったらいいんだがな」
「本当ですね……できればそうであってほしいです」
トランクドアを屋根がわりに、撥水性のある作業服に着替える。炎天下の中、この服装は辛い。きっと現場はさらにサウナじみていることだろう。
死臭がするとのことなので、マスクもしっかりかけゴーグルもつける。この夏場だ。マスクやゴーグルなしでは蒸された凶悪な空気が臭いとともに流れ込んで鼻も目もやられてしまうだろう。
まだなにもしていないのに汗が滲み出す。腰に巻いたホルダーにペットボトルを差して準備万端だ。
鍵を投げ渡される。誠の方が荷物が軽いかららしい。
ごくりと唾を飲んで鍵穴に差し込み、ゆっくりと回す。長く使われていないため錆びているのか、嫌な音を立てている。そして、鍵があく確かな手応えがした。
「お前、ビビってるだろ、代われ。なにが飛び出してくるかわからん」
腹にたつ言われ方だったが、大人しく荷物を受けとる。この類の緊張感には、どうしても慣れない。いや、慣れたくもない。
そして、ドアはなんの躊躇いもなく開け放たれた。
瞬間、凄まじい量の黒い何かが視界を覆った。蝙蝠と大量の蝿だ。気味の悪い羽音に総毛立つ。
そのとき、目の前に立つ青年が鉈を引き抜き、流れるような動作で降り下ろした。あのときを思い起こさせるような、重たく湿った音がした。
何を切り飛ばしたのかはわからない。
しかしこの視界の悪さで、パニックにもならず的確に相手を切り飛ばすとは……。那智零児。恐ろしい男だ。
それからも何度かそのおぞましい音が続いた。誠が身を竦めているうちに、蝙蝠も蝿もどこかへ飛び去り、視界がクリアになっていく。
零児の隣に並ぼうとしたとき、爪先になにかが当たった。
なにも考えることなく、不用心に見下ろし、硬直した。
そこに転がっていたのは、舌を垂らして荒い呼吸を繰り返す、黒い犬の頭部だった。
- Re: ZEROs【オリキャラ募集中】 ( No.4 )
- 日時: 2015/08/30 21:41
- 名前: 吟 (ID: IpYzv7U9)
気づけば、悲鳴が口から迸っていた。
その犬の頭部は、胴体から完全に分離しているにも関わらず、平然として誠に吠えかかってきた。油膜がかって濁った目がしっかりとこちらを睨み付けて、口元からはだらだらと涎が垂れている。
「うるさい」
零児は、冷静にそれまた平坦な声で誠を叱る。その手には鉈と、千切れた犬の脚が握られており、美しいと思えるほどにひどく赤い血液が迸るその断面は、胴体を探して蠢いていた。
——そうだ。落ち着くんだ。
誠は必死で呼吸を繰り返した。マスクが妨げになるなか、何度も何度も息を吸って、体に染みこませた。
「落ち着いたか」
「は、はい……」
「なら解体するの手伝え。出来るな?」
誠の腰ホルダーに差しているのこぎりを指さして零児が不遜に言う。
誠は小さく頷くと、のこぎりを手に取った。
こちらをじっと見上げてくる頭部を切ることは出来ないので、ひくひくと痙攣している胴体に歩み寄り、残っている左前脚を掴むと胴体を踏みつけてのこぎりが通りやすいようにして息をまた吸い込んだ。
ぐに、と刃が肉に食い込む感触がおぞましい。震える手を押さえ込みながら、懸命にのこぎりを引く。ぶちぶちと筋繊維が千切られる感触が木製の柄から手のひらに伝わってくる。そしてようやくのこぎりは骨まで達したのか、ごりごりと硬質な感触と音が誠を苛む。
ごめんな、ごめんな。
心の中で呟いていた。経のように何度も繰り返していた。この犬が安らかに眠れますように。
——いや、自分が、許してもらえるように乞うていたのかもしれない。
どれくらいの時間をかけたのかは分からない。
誠ののこぎりは黄色い脂と真っ赤な血に彩られていた。きっと作業服も同じありさまなのだろう。
とめどなく溢れ出していた涙が、ゴーグルを曇らせていた。
まるで自分が罪人であるかのように絶望しきった顔で泣く誠を、零児が何を思ったのか、しばらく無表情で凝視していた。
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