複雑・ファジー小説

ジャンヌ・ダルクの晩餐 
日時: 2017/03/10 09:53
名前: マルキ・ド・サド

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww

どうでもいい話ですが最近フランスの文化にかなりはまってますwwww

こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。

私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。(まあ本人が書いた原作には遠く及ばないとは思うけど・・・・・・)


コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。


私は小説が超下手くそで全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

ちょっとした豆知識も含まれています。

タイトルに「ジャンヌ・ダルク」とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


それでは始まります・・・・・・がその前にストーリーと登場人物の紹介から。

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Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.141 )
日時: 2017/07/18 15:54
名前: マルキ・ド・サド

「あるぜ。遠出の出撃の時に輸送していた兵士の1人から分けてもらった。・・・・・・臭いも酷いし食えたもんじゃなかったよ。」

 博仁は実に嫌そうにその時の思い出を語る。短い話を終えるとあんなのは2度とごめんだと愚痴を吐き捨てる。

 メイフライが野菜の煮物を頬張りながら

「あまり美味しくないですけど温かいご飯を食べると今日も1日頑張った気になれますよね?」

「同感だ。」 「同感です。」

 この日の役目を終えた言葉に博仁と一彦は口を揃え発言に同意する。

「・・・・・・」

 香織は何も言わなかった。下を向いているだけで食が進まない様子だった。そんな事に気づかず彼らは

「しかし、隠れ家に帰ったら愛利花の親父は何て言うか?戻った時にあいつが出迎えて来たら本当に最悪だ。」

「司令官の事ですか?確かにあの人は鬼のように恐いですからね。」

 不満は更にエスカレートしていく。

「恐い以前に好きになれない。透子を戦場に連れて行けと命令された時、正直神経を疑ったぜ。あいつは間違いなく俺達の事をただの駒としか見ていない。自分さえ助かればいいタイプだぞあれは。」

 博仁は怒りの混ざった口調で自分の情感をに罵った。不機嫌そうに薄切り肉を噛み砕く。

「ですが俺達をまとめてくれる大切なリーダーです。」

 反対に一彦は非情な人間に肩を持った言葉を返した。彼自身も忠信に対しては好意はなかったが頼れる人材だと捉えていた。一応、忠を尽くしているため大人のように振る舞う。

「だけどな、もしあの県境で透子が命を落としていたら俺はもう奈津実さんに合わせる顔がなかった。切腹しても死にきれねえ・・・・・・!それこそ一生の十字架だ!」

「落ち着いて下さい。司令官自身も肉親が1人しかいない立場、本人だってあの決断を平気で下したわけじゃないと思いますよ?」

「だが・・・・・・!」

 博仁は納得できるはずもなく拳を強く握りしめる。

「・・・・・・」

「・・・・・・どうしたんですか香織さん?」

 ようやくメイフライが香織の様子に気づく。それを合図に全員の視線が彼女に向けられる。声をかけられても下を向いたままだった。

「香織、どうした?具合でも悪いのか?」

「・・・・・・え?あっ・・・・・・ううん!何でもないわ、ちょっとね・・・・・・」

 疲れ気味に自分を誤魔化す香織。メイフライが心配そうに問いかけ

「『ちょっと』って、何かあるんですよね?言いたい事があったら喋って下さい。話、聞きますよ?」

 とはっきり言った。

「嫌な事は話したほうが楽になりますよ。」

 一彦も優しく言葉をかける。香織はその気になったのか頭をかき静かに口を開いた。

「埼玉にいる家族の事を考えていたんです。今頃何をしているのか心配で・・・・・・」

「そうだったんですか。」 「なるほどな。」

 3人は納得し互いに顔を見合わせた。具合が悪いわけではないと知りとりあえず安心する。引き続き彼女の話の先を聞く事にした。

「母と父、兄と弟がいまして・・・・・・暮らしは大変だったけど幸せな家庭でした・・・・・・」

「そんなに家族がいるんですか?いいなあ・・・・・・俺に肉親なんて1人もいませんよ。」

 メイフライが無理に笑って羨ましがった。

「だけど・・・・・・私の自分勝手な正義感のせいで親友は殺されて家族の人生まで狂わせてしまった・・・・・・!」

 力のこもった声は涙声に変わりやがて香織は本当に泣き出してしまった。焦り気味になる3人、どんな慰めを言えばいいかどう励ませばいいか上手く思いつかなかった。ぽろぽろと涙を流す1人の女を哀れみの目をするので精一杯だった。

「ううっ・・・・・・ぐすっ!博仁・・・・・・さん・・・・・・!」

「ん?何だ?どうした?」

「詩織を殺したあいつらは・・・・・・えぐっ・・・・・・!今でものうのうと生きて・・・・・・!」

「まずそれはないな。賭けてもいい。」

 その件に関して博仁は目つきを鋭くして淡々と即答した。

「お前は最初の標的である零花をこの世から消し去っただろ?その行為は他の奴らに大きく影響を与えたはずだ。今頃そいつらはいつ報復されるのかと相当怯えているはずだ。自分達が陥れた奴が復讐のため暗躍している事を知ったんだからな。しかもそいつは捕まっていない。」

「博仁さんの言う通りだと思います。香織さんがこうして外の世界で生きているだけでそいつらに大きな打撃を与えている事でしょう。十分苦しんでいるに違いありません。」

「俺も同じ考えです。夜道も恐くて歩けず安眠なんかできてないと思いますよ。」

 メイフライも一彦も意見を合わせて香織を睨む。信じていいと言わんばかりに誰もが自信に満ちた眼差しをしていた。

「ところで香織?お前は今、自分勝手な正義感を振りかざしたせいで詩織が殺されたと言ったがどんな行いが原因だったんだ?自分だけ正しさを主張したとか?」

 博仁が普段通りの態度で率直に聞いた。

「ぐすっ・・・・・・そんなんじゃないわ・・・・・・」

 香織は始めにそれだけ言い放って詳しい理由を話し出す。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.142 )
日時: 2017/07/18 15:51
名前: マルキ・ド・サド

「下級生にいじめられていた子がいて私はそれを庇ったの。無抵抗に苦しむところを見ていたらいても立ってもいられなくなって・・・・・・私はその子を救った・・・・・・でも、その時からいじめが私に飛び火して・・・・・・そのせいで詩織が犠牲になった・・・・・・!私が殺したようなものよ・・・・・・!」

 香織は激しい後悔に頭を抱える。そしてまた泣き出してしまった。

「それは違いますよ!」

 今度はメイフライが

「香織さんは人として当然の行いをしたまでです!自分にも危険が及ぶ事を恐れず弱い人を救った、それは自分勝手な正義感でもなければ偽善でもありません!詩織さんが死んだのはあなたのせいじゃない!全部遊び半分で他人を傷つけ罪悪感すら抱けないそいつらが悪いんです!」

 そう強く訴える。

「俺も香織さんが悪いなんて少しも感じられません。その勇気を見習いたいくらい、何故ならあなたは1人の人間を守ったからです。逆にその正しい行いにケチつける奴がいるのならぶん殴ってやりますよ。」

 一彦も冷静ながらも必死に香織を励ます。

「うわあああああ!」

 泣き声が病室の中で響く。3人は香織が泣き止むのを時間に任せ待つ事にした。彼女から目を逸らし残った夕食を食べ始める。


 しばらく経って香織はようやく泣き止んだ。涙も治まり落ち着きを取り戻した。たまに鼻をすすりながら下を向き苦しそうに息をする。ほとんど手をつけていない食事をそのままにしてベッドに倒れ込んだ。

 ため込んでいた苦しみを吐き出して疲れ切ってしまったらしい。最早気力の残りすら感じられない眠そうな表情で身体の向きを変える。何かを考えているのか目をつぶらずじっとしていた。

「・・・・・・」

 とっくに食事を終えた博仁達は香織の様子を眺めるも話し掛けずにいた。彼らも彼女同様、楽な姿勢を取り鋭気を養う。

 静かな狭い空間で時計の音だけが聞こえる。変わった事と言えば窓の向こうがさっきよりも暗く染まっている。気がつけば夕日の色はなく完全な夜になっていた。

「詩織は今、何をしているのかしら・・・・・・?」

 そのままの姿勢で香織が半時ぶりに口を開く。

「え?香織さん何か言いました?」

 上手く聞き取れなかったメイフライが問いかける。香織はだるそうに起き上がると力のない声で返事を返した。

「ううん、ちょっとね・・・・・・この世界から旅立った詩織は天国で何をしているのかなって独り言を・・・・・・やっぱり復讐なんかに手を染めたから怒っているかもしれませんね・・・・・・」

「なるほど・・・・・・」

 メイフライは納得し何もない白い天井を見上げながら

「俺ももし可能なら星になった弟に会いたいです。闇組織に入って殺人に重ねた行為についてはやっぱり怒ってるかも知れませんけどね・・・・・・」

 2人の話を聞いていた一彦も横から口を挟み会話に混ざり込む。

「俺の親父もあの世でがっかりしてるだろうなぁ・・・・・・殺しで得た報酬で家族を養っているんだから・・・・・・」

 寂しい空気がさらに重苦しく変わる。ネガティブな言い合いに3人はますます気を落としてしまう。身体はリラックスしていても心の疲れは簡単には除けそうになかった。

「お前らの気持ち分かるぜ。俺も故郷に帰って墓の下で眠っているお袋に会いたいよ。」

 間を開けて博仁が言った。それを聞き香織は哀れみの表情で同情する。

「そう、あなたもお母さんを・・・・・・辛かったでしょうね・・・・・・」

「まあな、親父を庇って殺された。決して優しくはなかったが世界一の母親だった。その悲劇が俺がBJに仲間入りするきっかけとなった。」

「そう言えば俺も組織に入って随分経ちますが博仁さんが入隊する理由は知らないままでした。」

 興味を抱いたのかメイフライはベッドから上半身を起こした。いかにも知りたそうに隣で寝る博仁に視線を向ける。向かいにいた一彦もいつの間にか同じ姿勢を取っていた。

「人の不幸な道のりを知りたいだなんて不謹慎極まりないぜ。」

 まわりの期待を感じながら博仁は呆れた。だが仕方ないと要望に応え面倒くさそうに起き上がる。

「じゃあ、どこから話そうか・・・・・・?」

 博仁は頭を悩ませ先に思いついた内容を語り始める。

「それは今から2年前、日本の経済が崩壊した頃まで遡る。この国の終焉が始まった時、俺は東京に住んでた。」

 出だしの場面で早速メイフライが驚愕の素振りを見せる。

「東京と言えば国家反逆などの罪を犯した人などが連行される強制収容所と化している場所ですよね?住民はパスポートの所持を義務付けられなければ県外にも出られない恐ろしい場所だと聞きましたが・・・・・・」

 一彦はおもむろな態度で首都の詳細を伺う。

「そうだ、一彦の言う通りあそこは地獄だ。」

 肯定的に答えすぐさま先を話す。

「期待に目を輝かせているようだが大したストーリーはない。俺の両親は恐怖政治に反対し街のデモに参加したんだ。それで国家反逆罪の重罪人と見なされ警官と言う名のヤクザが自宅に押し込んできた。抵抗したお袋は射殺され親父は監獄行き、生きているのか死んでいるのかすら分からん。」

「そんな事が・・・・・・」

 メイフライは言葉が詰まった。どう察せばいいのか分からなかった。残酷な内容に胸を締め付けられ思わず視線を横にずらす。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.143 )
日時: 2017/07/18 15:47
名前: マルキ・ド・サド

「ちょっと待って、家に警官が押し込んできたんでしょ?どうしてあなたは捕まらなかったの?」

 香織の質問に博仁は理由は単純だと薄笑いし

「運よくその時は外出していて家にいなかった。友人の手伝いをしていたんだ。そいつはまだあそこで元気にやっているだろうか?・・・・・・まあいい、帰宅した俺はまず最初に血を流して死んでいたお袋を目の当たりにした。号泣はしなかったがまだ温かかった手を握りしめて涙を流したよ。親父の死体はなかったが捕まった事はすぐに分かった。」

 博仁は忘れたい過去を振り返り険しい顔に変えた。その目からは強い憎しみが感じられる。

「ある方法で東京から抜け出した俺は埼玉に逃げ延び安月給の仕事をして暮らしていた。そんなある日、俺の住むアパートにBJの連中がやって来て協力を申し出てきた。最初は断ったが自分の人生を滅茶苦茶にした奴らに復讐出来ると聞いて気が変わったのさ。そんなわけで俺はシールドチームに配属され得意な運転を活かして組織の精鋭となった。理由を知ることが出来て少しはすっきりしたか?」

 博仁の話は終わった。彼以外、聞いた事を後悔したような表情で誰も言葉を出さなかった。絶望的な人生を知って心が痛んだのか嫌な記憶を振り返らせたことに罪悪感を感じているのか?これ以上彼は過去について話す事はなかったが少しだけ言葉を付け足した。

「香織、苦しんでいるのはお前だけじゃないんだ。俺もメイフライも一彦も大切な人を奪われ毎日泣きたい思いをしている。・・・・・・でもな、仲間と一緒にいて自分の辛さを打ち明ける事で微かかも知れんが癒しを得られるんだ。皆が集まれば恐くない、だから何でもかんでも1人で抱え込むな。悩みがあったら相談しろ。俺は隠れ家の中でも指折りのカウンセラーだからな。」

「・・・・・・」

 博仁はいつものジョークを最後にまた表情を相好を崩した。彼らしくない言葉に香織は何も言わなかった。しかし、大人の態度に感心し心強さを持ったのか彼女も軽く笑みを浮かべた。

「・・・・・・ちょっと、外の空気吸ってくるわ。」

 香織は大きく背伸びし首を回すとベッドから降りた。靴を履いてふらふらと病室の出入り口に向かう。

「夕食は食べないんですか?」

 メイフライが聞く。

「ええ、食欲がないんで・・・・・・すぐに戻ってきます・・・・・・」

 そう言って開いた扉をくぐり廊下を歩いて行った。部屋に残った博仁達は心配そうに閉まったばかりに扉を見つめる。しかし、1人の時間を満喫させた方がいいと考え誰も後を追わなかった。


 日が沈んだ外は冬のような寒気がした。明るかった昼の暖かさはなく冷たかった。空には雲がなく浮かび1つの月といくつかの星が見える。

 屋上に出た香織は1人、都会の街を黄昏ていた。涼しい風が彼女の髪をなびかせる。手すりに腕を乗せ向こうに見える光景をただ意味もなく眺めていた。

「埼玉の夜もこれくらい美しかったわね・・・・・・」

 その時、香織は何かに気づき異変を察した。空気の感触が変わり背中の方から寒気、例の気配がした。香織はどうでもよさそうに軽く息を吐き出すと

「・・・・・・今度は何の用?」

 異変の正体を既に知っていた彼女は街から目を離さず問いかける。後ろから男の返答が返る。

「いくつか言いたい事を言いに来た。タイミングを窺っていたがこの時が最適だと判断した。」
 
 どこからともなく現れたファントムは香織の横に並んだ。同じように夜に輝く街を眺める。

「いつから私を見ていたの?」

「今日の始まりからだ。県境でボーイフレンドに助けられた事も服を貰いに教会へ足を運んだ事も知っている。」

「何でもお見通しなのね?ところで今日は何を言いに来たの?」

 香織は大して興味なさそうな口調で聞く。ファントムはその態度に苦笑した。

「まずは私の正体についてだ。前から気になっていたのだろう?」

「確かにちょっと気になるかも・・・・・・」

 話の前に1つだけ率直に質問する。

「あなたって人間じゃないでしょ?」

「・・・・・・確かに、お前の言う通りだ。元は人間だったと言った方がより正確だが。」

 ファントムは紫色の不気味な瞳で自身の両方の手のひらを見つめた。

「元々人間ってことは・・・・・・」


「私は『半人半魔』なのだ。」


 それを聞いて香織は最初から分かっていたように驚かなかった。まるっきり信用していない態度で

「それって半分人間でもう半分が魔物って事よね?」

「その事については驚かないのか?」

「私は人生が狂い過ぎたから頭がどうかしてしまったのかも知れないわね。」

 特に大きな反応もなく淡々と言った。ファントムは自分の過去の経緯を語り始める。

「幼い頃、義祖母が殺し保管していた『魔女』の血を私は果実の飲み物と間違え身体に取り入れてしまった。喉が焼けるようなあの痛みは今でも忘れられずにいる。小屋で倒れ込み苦しむ私を父が見つけ義祖母が血相を変えて駆け寄ってきた。既に遅かったが・・・・・・」

「魔女の血?それは何かの例えで劇薬を飲んだだけでしょ?」

 香織は態度を変えず彼の証言を一部否定した。

「魔女なんているわけないわ、単にあなたもおばあさんも人を魔女呼ばわりして殺していたんでしょ?」

 現実的な意見と嫌みをファントムはそれまた否定する。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.144 )
日時: 2017/07/18 15:44
名前: マルキ・ド・サド

「確かに表社会で見かける事はない。ほとんどは本来の姿を変えているのだからな。しかし、お前達以上の裏の世界ではそのようなものが多く存在するのだ。童話に載っている天使や悪魔、異種族なども例外ではない。お前に渡した『エディスの仮面』もこの世には知られてはいない『秘密結社』が作り出した代物だ。そして隠れ家で話した夢に出てきた森川詩織に似た魔物、全て現実にあるものだ。」

「・・・・・・」

 豊かな妄想にしか聞こえない説明に香織は呆れ果てた。ため息すらせず最初から無視していたかのように街を眺める。

「やはり信用は難しいか?」

 ファントムは鼻で笑いながら肯定的な期待を求めず聞いた。

「仮面の事だけは信用出来るわ、実際に不思議な出来事を体験したから・・・・・・でもそれ以外は信用できない。小説にしたら売れそうだけどね・・・・・・」

「なるほど・・・・・・まあ何をどう考えようとお前の勝手だ。」

 香織は実に暇そうにあくびをして

「いくつか話があるんでしょ?さっさと次の内容を話してくれない?」

「そうだったな、無駄話はここまでにしてそろそろ本題に入るとするか・・・・・・」

 自身の正体を明かしたファントムは態度を裏腹に一変させた。


「お前には失望したぞ。」


 静かな夜の空間におもむろな一言が響く。いつも通りの口調だがなぜか激しい怒りを感じ取れた。

 香織は異変を察し隣にいるファントムを見た。彼の手には恐ろしいほど美しく輝く白銀のナイフが右手に握られている。刃物の存在に気づいた直後、それは香織に振り下ろされた。

「うわっ!」

 とっさの反応で顔を腕で覆い斬撃を防いだ。すぐさま後ろへ飛び下がる。

「・・・・・・っ!」

 腕に痛みを受けたのはその時だった。服の袖は綺麗滑らかに斬られ剥き出しになった皮膚からは血が流れ出ていた。生温い赤い体液が地面に滴り落ちる。

「今の一撃をかわすとは・・・・・・」

 ファントムは目の前の香織を睨み付ける。ナイフを構えず刃先を下に向け一歩、また一歩と近づいてくる。

「始めに優しく接したのは冥土の土産のためだ。次は外さん。」

「何のつもりっ・・・・・・!?」

 突然の出来事に不意を突かれた香織は痛々しい傷口を押さえながら震えた声で言った。

「牢獄での取引を忘れたか?私はお前が復讐ゲームを承諾した事で仮面を渡し退屈な檻から逃がしたのだ。だがお前はこの街の神父に誰の命も奪わないとくだらない誓いを立てた。それは私対する恩を捨て例刻に裏切るという意味を示すものだ。その罪は死に値する。」

「復讐を破棄した事については謝るわ・・・・・・でも私はもう誰も殺したくない!罪を重ねるのが恐いからじゃない、詩織を悲しませるのが嫌だから・・・・・・!」

 香織は必死に強く訴えかけた。

「あなたの仮面は返すわ、だから私の事は放っておいて!」

 相手の返答は否定的なものだった。

「要望通り仮面は返してもらう・・・・・・お前を殺した後にな。」

 ファントムは黒い霧となり消えた。香織は現実とは遠くかけ離れた力に恐怖を覚えた。それ以前に今この場所は殺意の空間、抜け出さなければ確実に命はない。

「一体どうしたら・・・・・・!?」

 香織は魔物を相手にするプレッシャーに混乱した。余裕を失いまともな判断をする事すらままならない。不安に胸を押さえるとふと、手に堅い感触が伝わった。それは卓郎から貰ったロザリオの存在に気づく。

「身を守るのに役立つかもしれないわね・・・・・・」

 香織はロザリの鎖を首から外すと手に巻き付け武器の代わりとした。上手く使いこなせる自信はなかったが何故か心強く安心感がした。

「そんな飾りで私と交えるつもりか?」

 どこからかファントムの声がした。背後に気を配りながら辺りを見回すがやはり奴の姿は見当たらない。

「どこ・・・・・・!?」

 そう険しい顔でささやいた時、香織は頭上で何かを感じ取った。上を向くと空中からナイフを構え落ちてくるファントムが視界に映る。

「きゃっ!」

 香織は焦りながらもとっさの反応で奇襲をかわす。銀のナイフはコンクリートの地面に深々と突き刺さった。彼女は吹き飛んだように後ろに倒れた。

 ファントムは標的を仕留め損なったナイフを容易に抜き取ると不気味な笑みで相手を見た。目つきは笑っていなかった。香織は急いで体勢を立て直し更に後ろへ下がった。ロザリオを両手に持ち替え向こうの出方を見る。

「なかなかやるな。それでこそいたぶり甲斐があるというものだ。」

 ファントムが楽しそうに言った。それに対し香織の返答はなかった。

「死ね。」

 ぼそっと呟き霧の如くまた消えた。風の速さで近づき彼女の直前にいきなり現れた。香織は首を掴もうとする奴の左腕を頭を下げ避ける。隙ができた瞬間を見逃さずにロザリオを斜めに振り上げる。十字架を強く握りこれ以上のない力で長く尖った先端をファントムの脚の急所へ突き刺した。

「・・・・・・ほう。」

 ファントムは痛がる素振りを見せずに短く声を出した。まるで相手の戦略に感服しているかのような表情、だがそれだけだった。彼は浮かぶように後ろへ下がり効いてないとアピールした。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐  ( No.145 )
日時: 2017/07/18 20:11
名前: マルキ・ド・サド

「大した潜在能力だ。やはり私が思った通りお前は『ただの人間』ではない。」

「何ですって?」

 香織は意味不明な発言を気にせず立ってロザリオを構えた。

「確かにお前は剣道で活躍し優勝を収めた。・・・・・・が幼い頃から剣道を始めたわけでもなく高校時代で初めて竹刀を持った。
そのはずが長い時間もかからず天才的な才能を発揮できた。自分でも不思議に思わないのか?」

「・・・・・・」

「牢獄で一目見た時から分かった。お前にはある特殊な人間の血を引き継いでいる事が・・・・・・」

「私を混乱させるつもりなら無駄よ。その手は通用しない。」

 話の途中で香織は強気に言い張る。そしてもう一言付け足した。

「私の強さは努力で築き上げた実力、それだけよ。」

 強気な意見にファントムは静かに笑う。ナイフの刃先を再び彼女に向け言った。

「例えそうだろうがそうでなかろうがどの道お前に私は傷つけられない。人が魔物に勝つ事は不可能だ。」

「やってみなきゃ分からないじゃない!」

「せめてものハンデとして手加減しようとも無意味、早く大人しく始末されるがいい。」

 無駄話に飽きたファントムはナイフを持った手を横に広げ襲い掛かる。今度は姿を消さず素早く走り寄ってきた。香織は恐怖を抱えながらも後退はしなかった。その場を動かず相手の攻撃の流れを読む。ナイフは槍のように真っ直ぐ飛んできた。狙いは彼女の顔面だ。

 脳を貫き一撃で仕留めるつもりなのだろう。しかし香織は顔だけをずらし容易にかわした。同時に彼の背後へ回り込みロザリオの鎖を両手に持つ。それを前からファントムの首に巻き付け思い切って締め上げた。黒い石のビーズが首部の皮膚に食い込む。ぎりぎりと縄をねじるような音が鳴る。

「そのまま私を絞殺するつもりか?実に面白い。」

 ファントムは喉を塞がれているのにも関わらず苦しい唸り声は上げなかった。普段通りの口調、楽しそうな様子が窺える。彼はすぐに姿を消し鎖の輪から抜け出した。香織から離れた位置に現れ首に付いた痕をなぞり不気味にはにかんだ。

「この冷酷さはまるで美しい銀細工のよう。正に芸術と呼ぶにふさわしい。ますます気にいったぞ?」

「それはどうも、ちっとも嬉しくはないけどね。」

「私をここまで楽しませてくれた人間はいない。殺すには惜しい存在かも知れんな。まだ私は本気で怒りを抱いてはいない。どうだ?今ここで命乞いし復讐を再開するなら喜んで許してやろう。」

 ファントムは首を傾げ問いかけた。

「お断りよ。どうせ嘘なんでしょ?最初に言ったけど私は復讐ゲームなんて2度としないわ。」

 香織は真顔で返事を返す。3度ロザリオを振り回すと左足を前に出し直進した。次は彼女の方から先制に出向く。ファントムは両手を広げ無防備な姿勢を取った。そこから一歩も動く事なく相手に攻める機会を許す。

「なら仕方ない。」

 頭に十字架の先が刺さる直前に彼は不気味に微笑みながら消えた。攻撃を外した香織はバランスを崩し地面に・・・・・・倒れなかった。首に違和感を感じた瞬間、それは痛みと苦しみに変わった。ファントムは瞬時に倒れかけた香織の背後へ回り両腕を首に絡ませていたのだ。そして彼女の身体を持ち上げ容赦なく締め上げる。

「お返しだ。」

 ファントムは苦しそうに舌を出す相手の耳元で言った。苦痛を与えるのが快感だと言わんばかりに更に力を加える。

「がっ・・・・・・ぐぇ・・・・・・!」

 香織は白目に涙を零しながら唾液を垂らす。腕を振り払おうと必死に抗うがびくともしない。こうしている間にも意識が遠のいていく。

「死に場所が病院とは笑えるな?このまま親友の元へ送ってやろう。」

「げっ・・・・・・!」

「最後の慈悲をも否定したお前の人生に先はない。」

 奴の声が聞こえなくなり視界が歪み始める。目に映る全てが黒く染まっていき街の夜景も見えなくなった。そのはずなのに喉を締め付ける醜い音だけははっきりと分かる。

(ここで・・・・・・私は死ぬの・・・・・・?)

 香織は絶望を頭の中で思い浮かべる。そして奴に歯向かった事を心の底から後悔した。痛みすら失いかけ身体の感覚さえも感じない。もうすぐ魂が抜ける合図なのだろう。抵抗する術もなく彼女はただ死ぬのを待つしかなかった。震えた手に力が入らず全身を硬直させる。

(誰か・・・・・・助け・・・・・・て・・・・・・)

 指先すら動かせないのに叫ぶ事など尚更無理だ。それ以前にここはファントムが作り出した虚無の世界。メイフライ達も助けに来るはずがない。

「ここでは私とお前の2人きり、他には誰もいない。寒さと暗闇だけの世界で孤独に死んでいけ。ゆっくりとな。」

「・・・・・・がっ・・・・・・」

「さらばだ、哀れな友よ。」

 その一言を最後に香織の意識は完全に消え去る。抗いの手は真下にぶら下がりロザリオを地面に落とした。心臓の鼓動が止まる。

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