複雑・ファジー小説

ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】
日時: 2017/07/24 21:56
名前: マルキ・ド・サド

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww

どうでもいい話ですが最近フランスの文化にかなりはまってますwwww

こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。

私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。(まあ本人が書いた原作には遠く及ばないとは思うけど・・・・・・)


コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。


私は小説が超下手くそで全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

ちょっとした豆知識も含まれています。

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


それでは始まります・・・・・・がその前にストーリーと登場人物の紹介から。

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Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.182 )
日時: 2017/12/31 21:52
名前: マルキ・ド・サド

「今日の仕事でもうくたくた・・・・・・今日はゆっくり休みましょう。難しい話の続きはまた明日でもいいでしょ?慎一、医療キットの片付けを手伝って?」

「分かりました。」

「俺もかなり疲れた・・・・・・今日の戦いはホントに生きた心地がしなかったからな。あれは上手くいけば映画化できる程の壮大なストーリーだった。」

 呆れた愛利花はバカとだけ言い放ってメイフライの傍から離れない透子に寝るように促す。

「明日も忙しくなるだろうからあなたも寝なさい。彼は大丈夫よ。」

「本当に?お兄ちゃんまた元気になる?」

「勿論よ。その時はまたたくさん遊べばいいわ。さあ、あなたのベッドはどこかな?」

 愛利花は透子を持ち上げ彼女を上のベッドに乗せる。その時、何かを思い出したのかあっ・・・・・・と声を漏らし

「そういえばあなた達、夕食は食べた?」

 その問いかけに香織と博仁は残念そうな顔をする。

「そういえば食べてないな・・・・・・」

「私も・・・・・・メイフライさんも・・・・・・まだ・・・・・・」

 2人はとにかくメイフライを救う事だけ考えていたため余計な事は頭になかった。それに何度も死にかけた廃校での恐怖と気持ち悪い応急処置のトラウマが未だに残っている。まともとはお世辞にも言えない理由が重なり当然、食欲など湧くわけもなかった。

「私はいらないわ。」

「左に同じ、俺も何も口にしたくねえ。仕方ないから今日は3人揃って晩飯抜きで決まりだな。」

 2人はきっぱりと遠慮した。

「ちょっと待ってよ。メイフライはどうするのよ?」

 納得しきれない愛利花が言った。

「おいおい、まともに飯が食えそうな状態に見えるか?心配するな。人間は一食食べなくたって死にはしない。明日になったらスープでも運んで来てやる。今のこいつに必要なのは睡眠だ。」

「あんたはこれからどうする気?」

「俺か?報告書をちゃっちゃと済ませてコーヒータイムを満喫するよ。」

「何も口にしたくなかったんじゃなかったの?」

 再度呆れる愛利花に対し博仁は自分を指差し

「コーヒーは別だ。あれさえあれば3日は断食できるぜ?」

 と自慢げにアピールした。

「さっさと出て行きなさい。」

 愛利花はそれだけ言って手をを振り払って彼を追い払う。

「香織、本当にお前は平気か?よかったらカロリーメイトぐらいなら持ってこれるぞ?」

「言ったでしょ?何も食べたくない。気持ちだけ受け取っておくわ。」

 香織は苦い顔で再度否定しベッドに潜り込む。カーテンを閉めそれっきり出て来なかった。

「そうか・・・・・・まあ、明日を迎えれば自然と腹が減るだろう。じゃあな。いい夢見ろよお前ら。」

 博仁は寝床に着く仲間を背中に去って行った。扉を閉ざす音がした。

「明日になっても食欲なんて出るわけないじゃない・・・・・・」

 薄暗く狭いスペースの中で香織はぼそっと愚痴を零した。冷たい布団を胸まで被り何もない天井を見上げる。そう早くは寝なかった。これからの展開を考え将来を想像する。

(さっきは強気になってあんな事言ったけど本当は恐くてしょうがないわ・・・・・・この先、私にはどんな運命が待ち受けているのかな?私は無事に家族を救えるの?もし途中で命を落としたら・・・・・・例え全ての復讐をやり遂げてもずっとこの組織の一員として生きて行かなきゃならない・・・・・・どこにも逃げ道のない永遠の地獄・・・・・・幸せだった過去の日々に戻れるなら何でするわ・・・・・・)

「片付け、終わりましたよ。」

 カーテンの外から慎一の声がした。

「ご苦労様、あなたも休みなさい。皆、そろそろ電気を消すわよ。いい?」

 愛梨花が確認して寝室の灯りは消えた。

(心配しても何も変わらない。やるべき事は今日はもう眠って次に戦いに備えるだけよ。)

 香織はそう自分に言い聞かせ静かに目蓋を閉ざした。


‐ここはどこ?‐

 夜の海底のような闇の中で私は浮かんでいる・・・・・・何も見えないけど恐くない・・・・・・不安も感じない・・・・・・深い眠気にいざなわれているけどまだ夢の中ではないようだ・・・・・・

 誰の気配もない・・・・・・ここにいるのは私1人だけのようだ・・・・・・試しに呼んでみようか・・・・・・やっぱりやめておこう・・・・・・時が止まったこの感触を孤独のまま酔いしれていたい・・・・・・

‐私の手が血で濡れている‐

 今日は1人の人間の命をまた奪ってしまった・・・・・・何よりも嫌がっていた殺人を再び犯した・・・・・・許されるなんて決して思ってはいない・・・・・・

 人を捨てただの悪魔と化した私を見たら家族はどう思うのだろうか・・・・・・優しい神父様もきっと失望するだろう・・・・・・誓いという堅い約束をしたはずなのに簡単に破ってしまった・・・・・・正しい教えもロザリオの感触さえすっかり忘れていた・・・・・・

 それに天国にいるあの子・・・・・・いや、あの子はもういない・・・・・・私を救う代償を払い消えてなくなってしまった・・・・・・完全な無となり影はおろか存在すらない・・・・・・

‐希望はあるのか?‐

 私の人生は壊れた・・・・・・1つの絶望によってこれ以上はないほどの崩壊を辿った・・・・・・すぐにでもやめたい・・・・・・死んで楽になりたい・・・・・・中途半端な人生だったがこれっぽっちも未練などない・・・・・・

 だけど・・・・・・私が罪を犯さなければ家族は助からない・・・・・・あの男さえ現れなければ・・・・・・あのまま牢獄で大人しく朽ち果てるべきだった・・・・・・仮面を貰った事も今では後悔している・・・・・・だがもう遅い・・・・・・絶望の因果は巡っていく・・・・・・

 どんなに悩んでも答えは見つからなかった・・・・・・疲れた・・・・・・苦しみも心地よさもない虚無の中へと沈んでいきたい・・・・・・今は全てがどうでもいい・・・・・・

‐お休み、愚かな私‐

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.183 )
日時: 2018/01/04 21:48
名前: マルキ・ド・サド

 どこかでピアノを奏でる音が聞こえる。まるで憎しみを具現化したような刺々しい音色だった。楽曲の構成は奇妙な物で終奏はなく序奏と間奏が繰り返し行われる。残酷、しかし美しくもあった名の知らぬ曲は止む事を知らず永遠に鳴り響いていた。

 そこは夜よりも薄暗く黒い水よりも陰気な空間。建物の瓦礫らしい無数の残骸が宙を舞いどこかへ飛び去って行く。それはやがて灰色の霧の中へと吸い込まれた。

 そんな寂しげな場所のある所に大きな岩が浮かんでいた。浮島にも見えるそこでは緑が生い茂、太い木が1本、真ん中にそびえ立っていた。その木陰に1人の香織がいてベッドの上で静かに眠っている。組んだ手を腹部の上に置きとても気持ちよさそうな表情だ。

「う・・・・・・ううん・・・・・・?」

 寒い感覚に気づいた香織は目を覚まし空虚な空を見上げる。辺りを見渡すといつの日か訪れた虚無の世界が広がっていた。

「あの時と同じ夢・・・・・・またこの世界に来てしまったみたいね・・・・・・」

 香織は目を擦り起き上がった。そしてベッドを降りふらふらと岩の道を歩き始める。

 滑ったら落ちてしまいそうな通路は遠くの果てまで続いていた。滑らかな道のりとは決して呼べない。そもその道と呼べるのかも怪しい。終点は見るに痛々しい氷柱を集めて作り上げたような城が見える。あそこまで行くには結構な時間が掛かるだろう。確信は出来なかったが香織にはあそこで何が待ち受けているのか予想がついていた。

「あ・・・・・・!」

 少し進んで香織は立ち止まった。何故なら先に道は見当たらず途中で途切れていたからだ。おそるおそる下を覗くと足場が見える・・・・・・が、降りたら確実に痛みが伴うだろう。だが彼女には嫌な予感が頭を過っていた。最後まで行かなければこの世界に取り残され永遠に出られないのでは?そんな不安に駆られた。

「飛び降りるしかないわね・・・・・・」

 香織は嫌々ながらも淵に座り崖に足を下ろす。そして間を開けて次に足場へと身を投げた。

「痛っ・・・・・・!」

 地面に足がつき思った通りの結果となった。下半身の痛みに耐え切れず仰向けに倒れ込む。

「いたた・・・・・・とりあえず1つ目はクリアね・・・・・・ゴールまでまだ遠いけど・・・・・・」

 辛そうな言い方で起き上がろうとした時だった。香織の目の前に黒い煙が漂い始めた。それはつむじ風のようにまわりながら一箇所に集まり瞬く間に人の形が作り上げられていく。そしてそんなに掛からない内に1人の人間を生み出した。

「!」

 現れたのは香織が最初に殺した零花だった。奴は嫌悪な眼差しで見下ろし近寄ってきて

「お前は人殺しだ香織!地獄に堕ちて苦しめっ!!」

 指を指して罵声を浴びせる。

「何ですって!?あ、あんただって詩織を殺したじゃない!」

 香織は突然の態度展開に驚いたが負けずと言い返す。

「私はただ金を貰っただけ、。お前と違って自分の手は汚してない!」

「お前っ・・・・・・!」

 子供染みた言い訳に香織の理性が切れた。とっさに立ち上がり勢いよく殴り掛かったが拳は当たらなかった。零花の身体が歪み元の煙となって消え去る。

「はあ・・・・・・はあ・・・・・・!」

 そこには必死に怒りを鎮める香織だけがいた。

「幻に怒ったってしょうがない。こいつはとうに死んでる。十分に地獄を味わわせてやったしね。」

 気を取り直し改めて先へと足を運ぶ。


「よくもあいつを殺したな!」


「伊織は友達だった!なのにあんな事しやがって!」


「ろくでなし!お前はクズ以下だ!伊織を返せ!」


「くたばれ!そして罪の報いを受けろ!」


 次の足場へ移る度、煙が現れてはかつていじめをしていた同級生達の姿を象る。全員が憎しみを共通点とした態度で怒りの台詞を発した。どれもこれも吐き出されたのは伊織の事ばかり。香織は罵りの雨に心を痛めたが全て無視した。

「・・・・・・」

 精神が押し潰されそうな複雑な道にもようやく終焉が迫る。香織のすぐ先には高く聳え立つ最果ての城があった。反対を振り返れば遠くに浮かぶ浮島、最早遠い過去のように感じた。

「やっとここまで辿り着いたわね・・・・・・いつまでもここにいたくない。早く行って終わらせましょう。」

 香織は城内へ続く城の入り口に向き直りまた歩き始める。傷ついた胸に当てた手を下ろし落ち着いた素振りで中へ入り込んだ。

 そこは以前の玉座とは雰囲気がほぼ変わらない大きな一室だった。上品な豪邸の広間のように豪華な作りが施されてはいるが空虚な空気が漂っている。天井で揺れるシャンデリアも今にでも真上から落ちてきそうだ。ステージには1台のグランドピアノが置かれ手前には無数の観客席が並ぶ。どうやらコンサートホールを再現しているらしい。

 ピアノのを弾いているのは廃校で自爆して生涯を閉じた伊織。だが、楽しそうな面影はなく狂気に満ちた面様だった。彼女は鍵盤に指を力任せに叩きつけ音を奏でている。

 最前列の席に例の少女がいた。姿そのものが詩織に酷似した不可解な存在。灰色の修道服を身に纏い首にロザリオをぶら下げていた。その場を動こうともせず黙って怒り狂った彼女の演奏を赤い瞳でただ見つめていた。その美しい表情からはどこか哀れみを感じる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.184 )
日時: 2018/01/10 21:30
名前: マルキ・ド・サド

 そこへ香織がやって来た。広く寂しげなホールを見上げ次に鳴り響くピアノを見る。すぐに中で待っていた2人の後ろ姿が視界に映る。香織は席にいる偽物の親友をじっと睨んだ。

 詩織に似た少女も同じ眼差しをする。彼女はそっと口を開き隣の席を右手で叩く。

「隣、座って。何もしないから・・・・・・」

 香織は何も答えず指示に従った。恐れる動作もせず淡々と歩み寄って言われた席に腰を下ろす。相手に襲ってくる気配はなく寂しげな雰囲気を放っているだけ。香織はちらっと少女を様子を窺いすぐさま目を逸らした。2人は何も喋らず伊織の演奏を聴き始める。

 まるで壊れた蓄音機のようだ。いつまで経っても終わりは訪れない。変わらない曲、メロディーが幾度となく繰り返される。

「いい曲だね?」

 結構な時間が流れやっと少女が口を開く。相変わらずピアノから視線を離さず永遠と弾き続ける演奏者を眺めていた。香織も同じくそうしていた。

「どこまでも深い負の連鎖の表現、私は嫌いじゃないよ。」

「腕は確かだけど私は好きになれない。」

 香織は隣に座る少女とは真逆の感想を述べた。

「この曲には美しさの欠片もない。芸術性もなく素晴らしいとはお世辞にも言えないわ。伊織はこんな風にピアノを弾く子じゃなかった。本来の彼女ならもっと・・・・・・」

「香織ちゃんのせいだよ・・・・・・」

 少女は話の途中でぼそっと横やりを入れた。

「香織ちゃんが殺したからこの子は絶望に狂ってしまった。だからこんな暗い曲しか弾けなくなった。」

「明らかにそれが原因でしょうね・・・・・・罪悪感は湧かないけど。」

 香織は皮肉めいた口調で言い返す。反省の色がない態度に少女は静かに怒りを露にした。

「香織ちゃんは自分の立場が分かっているの?あなたはもう、2人の人間の命を奪っているんだよ?それがどれ程罪深い事なのか考えなよ。」

「あなたの言う通り私は大きな過ちを犯している。だけどあいつらだって金のために詩織を殺してその罪を私に擦り付けた。向こうにだってこっちを責める資格などない。お互い様よ。」

「最低だよ・・・・・・香織ちゃん・・・・・・」

「今更あなたに何を言われようと構わない。だってあなたは詩織ではないのだから。私は死者の世界で本物の詩織に会った。そして私を生き返らせるため自分を犠牲にして消えた。」

「・・・・・・」

 失望したのか少女は沈黙する。これで何度目か分からない間奏が流れ過ぎて行った。

「そもそも、あなたはいったい何者なの?どうして詩織を装っているの?本当に現実の世界に存在するの?」

 容赦なく香織が問いかける。

「私は・・・・・・」

 少女が何かを言おうとした途端、

「!」 「!」

 コンサートホールに音色ではない騒音が一瞬鳴り響き高い天井に木霊する。やがて音は小さくなり静寂だけが残った。観客席の2人は何が起こったかを理解するのに数秒掛かった。伊織が握った拳を思いきり鍵盤に叩きつけたのだ。

「伊織・・・・・・ちゃん・・・・・・?」

 少女は途切れそうな声で伊織の名を口にした。彼女は椅子から立ち上がりそして、自らの手で楽譜を破り足元に投げ捨てる。

「違う・・・・・・私は・・・・・・こんなのが弾きたいんじゃない・・・・・・!私は・・・・・・!私は・・・・・・!」

 伊織は涙ぐんで観客席を振り返る。睨んだ先に香織がいた。

「私はピアノが弾けるだけで幸せだった・・・・・・!他の皆に聴いてもらえるだけで・・・・・・!」

 流れ出た一粒の涙は赤く染まり血涙として頬を伝った。かつて銃で吹き飛ばされた部位もどろどろに黒く溶け始めていた。

「でも、私は死んじゃった・・・・・・愛の夢も子犬のワルツも月の光も二度と奏でられない・・・・・・香織、全部お前のせいだっ!!」

 伊織は椅子を蹴飛ばし香織を怒鳴りつけた。

「お前さえいなければもっともっともっともっとっ!!ピアノを弾く事が出来たっ!!私の芸術に溢れた人生はお前みたいなくだらない一生よりもずっと価値があったのにそれを平然と奪ったんだっ!!」

 これがこの女の心に潜んでいた本心なのだろう。普段の冷静で大人しい面影は見当たらず絶望を吐き散らすだけの怨霊と化していた。死んでも変わらない呆れた言い分だったが香織は何も言い返せなかった。

「殺してやる・・・・・・香織、今ここでっ・・・・・・!!」

 伊織が殺意を剥き出しにし自分を殺した相手に襲い掛かろうとした時、真上でブチッ!とロープが千切れる音がした。

「危ないっ!」

 香織が反射的に叫んだが手遅れだった。天井に吊り下げられた照明が瞬く間に真下へと垂直落下した。巨大で重いシャンデリアは狂った演奏者をピアノごと押し潰す。衝撃で割れたガラス細工が砕け散り大量の破片が八方へ飛び散った。鼓膜に痛感を与える轟音が止んだと同時に埃の波が押し寄せる。

「・・・・・・げほっ!」

 香織は破片の直撃を防ぐため覆っていた腕をずらし事故があった場所を覗いた。ピアノは修理が不可能なくらい酷く破損し原形を留めていなかった。コーティングが削ぎ落され丸見えになった木材に散らばった鍵盤、もう二度と音を発する事はないだろう。

 すぐ傍に下半身が下敷きとなった伊織の死体があった。あれだけ発狂していた事がまるで嘘だったかのように指先一つ動かない。誰がどう判断しても即死、絶望のレクイエムを最後に永遠の眠りについたようだ。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.185 )
日時: 2018/01/14 21:41
名前: マルキ・ド・サド

「こんなの酷過ぎるよ・・・・・・」

 悲惨な光景を目の当たりにして少女が静かに言った。彼女は同じように立ち尽くす香織を睨んで

「これでもまだ、自分は悪くないと言えるの?」

「・・・・・・」

 香織は沈黙する。

「これだけの悲劇を見ても尚、何も感じないなら香織ちゃんは人間じゃないよ。」

「・・・・・・」

「あなたもう、ただの鬼畜。それ以外の何者でもない。」

「・・・・・・そうよ。」

 香織はそっと口を開き隣にいる少女を睨み返した。

「私はかつての人生を奪われ仮面を貰った時から『まとも』を捨てた。そしてずっと、親友の仇を討つためだけにこれまで生きてきた。後戻りのできない第二の人生に足を踏み入れてね。今更後悔なんか・・・・・・それだけが私の生きる理由だから。これから先も復讐をやめる気はない。最後の標的を葬るまで私は鬼畜であり続ける。」

「そう・・・・・・なんだ・・・・・・」

 少女は力の抜けた声で悲しそうに下を向いた。銀色の鋭い前髪が影となり赤い瞳を覆い隠す。何を思ったのか彼女は右手の拳を上げそれをゆっくりと開いた。すると手の平に黒い霧が集まり徐々に形が構築されていく。それは自分の身長よりも長い漆黒の剣だった。

「それで私を殺す気なの?」

 香織は表情を変えず平然とした口調で言った。

「私はあなたを許さない・・・・・・」

「許さなくて結構よ。詩織と似ているだけでどこの誰なのかも分からないあなたに何を言われても別に気にしないわ。いくら脅されてもここは夢の世界、恐がると思う?」

 恐れをなしてない様子で淡々と返事を返す。

「・・・・・・」

「どうしたの?今の私は無防備、しかも隣にいる。命を奪うなんて簡単な事でしょ?」

 少女は黙ったままゆっくりと剣を振り上げる。だが、黒い刀身が振り下ろされる事はなかった。少女はどうでもよさそうな顔をして斬撃を中止する。剣先を下に下ろすとアーチの形に地面をなぞった。

「ここで香織ちゃんを殺してもつまらない。あなたの心臓は現実の世界で貰う事にするわ。」

「本当にそこで会えればいいわね。その時は改めて初めましてと言っておくわ。実に退屈な一時だった。」

 香織はそれをさよなら代わりに城の外へ去って行った。修羅場の果てに滅茶苦茶になったコンサートホール。壊れて静寂になった空間に1人の少女と1つの死体が取り残された。

「あいつとの再会が済んだからもうここには用はない。目を覚ましたらまた別の地獄ね・・・・・・」

 香織は現実で待ち受ける展開に嫌がった愚痴を零した。虚無の空気を吸って吐き出し軽い運動をする。そして価値のなさそうな世界を見渡して他には特に何もしなかった。

「!」

 地震のような揺れと音が始まった。振り返ると香織が出たばかりの城がばらばらに崩れ落ちていく。どうやら虚無の世界が崩壊する時が来たようだ。香織が踏んでいる岩の道にもひびが入って通路は断たれた。もう下へ落ちるのを待つだけの状態だ。

「また落ちるの?こういうのは最初の時だけで勘弁してほしかったわ・・・・・・」

 足場が砕け香織は背中を下に永遠よりも深い闇へと堕ちていった・・・・・・



 気がつくと香織は仰向けに横たわっていた。さっきまであった無の感覚は消え黴臭い臭い空気が漂う。外ではない狭い空間の中で他の誰かの気配を感じた。胸から下が何かが被さっていて心地よく温かい。それが何を意味しているのか香織は理解した。

「どうやら、元の世界に戻って来たみたいね・・・・・・」

 安心して目を開けると布団から出てカーテンをずらした。部屋は薄暗く仲間達の寝息が辺りから聞こえる。どうやら朝の訪れはまだ先のようだ。

 香織はベッドから足を出し靴を履いた。外の空気を吸いたかったがすぐにはそうせず部屋の奥の方へ行った。下にある別のベッドを覗きメイフライの容態を確かめる。彼は気持ちよさそうな寝顔を作って熟睡している。あれだけの怪我を負った事が嘘のように。

「よかった・・・・・・大丈夫そうね・・・・・・」

 香織はにっこりと微笑んでそっとしておく。まわりを起こさないよう足音を立てず静かに廊下に出た。

 居住区の外はいつも涼しくひんやりとしている。灯りがなくここにいると朝と夜の区別がつかなくなる程だ。不気味や寂しげを絵に描いたような空間。だが、1人になりたい香織にとっては都合のいい憩いの場だった。

「はあ〜・・・・・・」

 香織は何も考えず手すりに手を乗せ寄りかかる。考えるのをやめ頭を空にし理由もなく黄昏れた。そのままじっとして心を落ち着かせる。

「随分と早起きだな。眠れないのか?」

 すぐ隣で男の声がした。香織はビクッと身体を震わせとっさに横を向く。偉そうに腕を組む博仁が立っていた。

「博仁さん・・・・・・あなたも起きてたの?」

「ああ、最近は夜中に起きる事が多くてな。カフェインの摂り過ぎかもな。」

 博仁は香織に並び同じ姿勢を取った。

「お前がこの組織に来て3ヶ月近くになるな。ここでの生活には慣れたか?」

「何よ急に?」

「ふっ、何となくな。」

「・・・・・・まあ、大分慣れたわ。まだまだ分からない事がいっぱいあるけど。」

「そうか。」

 博仁はそれだけ言うと沈黙し言葉を途切れさせる。話したい気分じゃない香織もそうした。

「すぐにでも3人目の標的を殺る気か?」

 2分くらい経ったところで博仁が会話を再開した。

「お前がその気ならいつでもバンを出してやるぞ?」

「そうしたいけどそうはしない。」

 香織は頭を振り否定する。

「私は伊織との戦いで自分がまだ未熟だと思い知らされた。次の復讐はもっと戦いの術を学んでからにするわ。」

「確かにその判断は利口だ。メイフライに頼っているうちは素人を卒業する事は難しいからな。」

「必ず1人でも戦えるように努力するわ。」

「だが忘れるなよ?お前には味方がたくさんいるんだ。決して1人で問題を抱え込むな。分かったな?」

「覚えておくわ。」

 言いたい事を言った博仁はあくびをし、じゃあなと言って立ち去る。広い空間に彼の足音だけが聞こえやがて静かになった。香織も涼しい風の影響で再び眠気に誘われる。十分な睡眠を取るため寝室へ戻った。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.186 )
日時: 2018/01/19 21:29
名前: マルキ・ド・サド

 2週間後・・・・・・

 2人目の標的を葬ってから数週間があっという間に流れた。廃校での出来事はすぐにニュースとなり全国に報道された。全焼を免れた体育館で1人の遺体が発見されたが肉体の損傷があまりにも激しかったため身元を特定する事は出来なかった。現場からいくつの薬莢が発見された事から警察は暴力団が絡んだ事件と見て現在も捜査を続けている。

 また、近所に住む住人によると校内からピアノの音が聞こえるという証言も多数得られた事から幽霊がいると噂され一部の人間からは心霊スポットとして話題となるのだった。

「凄い話題になってるわね。」

 香織は最近のネットニュースを眺めながら廊下を歩いていた。自身が世間を騒がせた事に未だに信じられず申し訳さない気持ちにかられる。開いたサイトを閉じると詩織のスマホをポケットにしまう。

 今のところ復讐計画は順調。皆、バレる事なく普段通りの生活を送っていた。愛利花や博仁も十分に気をつけているため幹部達にも怪しまれずに済んでいる。負傷したメイフライもまだ痛みは残っているものの普通に歩けるくらいに回復していた。食事の後は再び訓練場に顔を出ししっかりと鍛えている。

 香織が最後に到着しガレージにメンバー全員が集まった。バンの整備もとっくに終え装備も全て積み込まれている。外の世界へ出発する準備はいつでも整っていた。今日が三度目の戦いの当日である。

「主役が来たな。じゃあ乗れ。出発するぞ。」

 運転席から博仁が顔を出し乗車を促す。香織は行ってきますを一言に早々とバンに乗り込んだ。

「待って!」

 愛利花が後に続こうとしたメイフライの腕を掴み呼び止める。

「あなた、その身体で本当に行くつもり?全治2ヶ月なのよ?」

「心配してくれてどうも、もうすっかり良くなりましたよ。ほら、この通りです。それに香織さんの戦いは俺の戦いでもあります。仲間が命を懸けるって時にのんびりと寝てるわけにはいきませんから。」

 身体を大きく動かし余裕さをアピールする。愛梨花は心配が絶えず困り果てていたが苦渋の決断のように頷き

「・・・・・・痛みが酷くなったらすぐにモルヒネを打ちなさい。いいわね?」

「分かってます。決して無理はしませんから。」

「お兄ちゃん、死なないでね?」

 透子も泣きそうな面持ちでメイフライを見上げていた。

「大丈夫だよ。透子ちゃんがいる限り俺は絶対に死なないから。」

 優しい笑顔で幼い少女の頭を撫でる。

「それじゃ行ってきます。」

 手を振る皆に別れを告げメイフライもバンに乗り込んだ。バックドアは閉ざされ車のエンジンがかかると同時にゲートが開く。

「行くぞ。」

 博仁が後ろの席に確認を取りアクセルを踏む。バンはタイヤを回転させ飛び出すように隠れ家を抜け出した。いつもの獣道の上をガタガタと音を立て進んでいく。

「どうか彼らが無事に帰って来ますように・・・・・・」

 愛利花が誰にも聞こえない声で祈りを唱える。残った3人は見えなくなるまで車両をずっと見送っていた。


 獣道を出てバンは平らな道路に出る。さっきまで酷かった揺れは治まり滑らかな走りとなった。このまま山道をスムーズに下り街へと走り続ける。昼間から数時間が経過し今は夕方の時間帯。青かった空も色が変わり夜の訪れももうすぐやって来るだろう。オレンジに染まり始めた太陽の日差しが木々の隙間から流れ込んでくる。

 2人は早くも戦う準備を整える。装備品が詰まったケースを取り出し蓋を開けた。香織は銃器に弾を込めいつでも撃てる状態のショットガンとハンドガンを横に置く。次は着ていた私服を脱ぎ捨て戦闘服を装着、レザーアーマーを部位に取りつける。最後は刀を取り出し全ての武器を装備しモルヒネも入れた。

「こっちの準備は整いました。香織さんは?」

 短刀を腰に隠しメイフライが聞いた。

「ええ、こっちも全部終わりました。ですが・・・・・・」

 張り切るメイフライに対し香織は元気のない暗い表情で

「メイフライさん、本当に大丈夫なんですか?怪我はほとんど治っているとはいえまだ2週間しか経ってないんですよ?無理に戦ったら傷口が開いてしまうんじゃ?」

「心配には及びません。破片がめり込んだ所は愛利花さんがきっちりと縫い付けてくれましたから。
それに火傷なんて消毒と軟膏を塗っていれば自然に治ります。俺はもう健康体です。」

「でも、これは私の戦い・・・・・・自分が傷つき勝たなければ意味がない・・・・・・なのに、私のせいであなたに生死を彷徨う思いをさせてしまった。1人では生き残れない無力な女よ。」

 香織は仲間を危険に晒した事に罪の意識を抱く。あの時の失敗をまだ根に持っているらしく許せない自分を責め立てる。彼女はこれから先の自信が持てない程、深く落ち込んでいた。

「それは違いますよ。」

 その時、メイフライは目の前にいる相手にはっきりと言った。

「あれは誰にも予測できなかったトラップです。超能力者でもない限り感づく事は不可能だったと思います。俺は仲間が危険だったから自分から助けに走った。ただそれだけの事、だから申し訳ないとか気を病む必要はこれっぽっちもありませんよ。」

「・・・・・・」

「それに香織さんは零花を殺した時だって自分の実力だけで勝つ事が出来た。不利な戦況にも関わらず。俺は手を出さず決着が着くのをただ見ていただけですよ?あなたは自分が思っているよりも強く賢い人間、だからもっと自信を持って下さい。香織さんは無力な存在とは程遠い人間です。」

「ありがとう、メイフライさん・・・・・・」

 優しい慰めに香織はほんの少し相好を崩した。

「私も二度と同じヘマは犯さないように気をつけます。まだ戦いは始まったばかりなんですから。」

「その意気です。でも、力み過ぎないで気楽に行きましょう。」

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