複雑・ファジー小説

ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】
日時: 2017/07/24 21:56
名前: マルキ・ド・サド

ボンジュール!マルキ・ド・サドです。

自分のことはサド侯爵、またはサドちゃんとお呼びくださいwwww

どうでもいい話ですが最近フランスの文化にかなりはまってますwwww

こんな私ですがどうぞよろしくお願いします!後お見知りおきを。

私はこれから名前に恥じぬようなダークな小説を書こうと思います。(まあ本人が書いた原作には遠く及ばないとは思うけど・・・・・・)


コメントやアドバイスは大いに感謝です。

悪口、荒らし、嫌み、不正な工作などは絶対にやめてください。


私は小説が超下手くそで全く恐くないと思いますがこの文を見て不快さを感じた場合はすぐに戻るを(人を不快にさせるのが一番嫌いなので)

ちょっとした豆知識も含まれています。

タイトルに『ジャンヌ・ダルク』とありますが物語の舞台は近未来の日本です。


それでは始まります・・・・・・がその前にストーリーと登場人物の紹介から。

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Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.215 )
日時: 2018/07/23 22:56
名前: マルキ・ド・サド

 東京


 埼玉を離れ南に下った輸送車は時間を掛けて東京の入り口に到着した都市と都市の狭間に川があり目の前や遠くに点在する橋がゲートへと繋がっている。輸送車は一旦、歩道の脇に寄り一時停車する。

「着いたぜ。あれが東京だ。」

 前の席に乗った博仁が指を指し愛利花は唖然とした。

「これが・・・・・・あの東京・・・・・・!?」

「そうだ。2年間、目にしてなかったがこんな風にまでなっていたとは。正直驚いたぜ・・・・・・」

 久々に目の当たりにした東京は2人の想像よりも大きく変わり果てていた。検問所があるゲートのまわりは分厚い鉄の壁が一面に広がり1つの都市を取り囲んでいる。街中の様子は覗けない。壁から突き出た高いビルがいくつか見えるだけだった。その光景は最早、難攻不落の『要塞』と言っても過言ではなかった。かつての活気的だった雰囲気は感じられず陰気な空気が内部から漂ってくる。例えるならまるで無法者が牛耳る廃墟の巣窟のようだ。

「信じられない・・・・・・まさか日本の首都がこんな事になっていたなんて・・・・・・」

「今じゃあそこは地域全体が武装した政府の連中に併合された今じゃ街全体がスラム街だ。処刑や追放によって住んでる民間人は半数以下となり全国から連行された犯罪者が収容される刑務所都市と化している。」

「本当にここに入るつもりなの・・・・・・?」

 早くも嫌な予感を募らせ愛利花は不安そうに隣の運転手に聞いた。

「勿論だ。ここまで来て今更引き返す訳にもいかんだろう。おめおめと逃げ帰ってお前の親父にどやされるも嫌だしな。」

 博仁は当然のように堂々と答えた。

「本当に大丈夫なんでしょうね!?・・・・・・街に入った直後に撃たれるんじゃ・・・・・・!」

「ならここで降りて留守番してるか?隠れ家に戻りたいんだったら徒歩で頼む。」

「・・・・・・そ、そりゃ行くけど・・・・・・」

 繰り返される非情な発言に愛利花は弱腰になりながらも仕方なさそうに呟いた。

「外側の見物はここまでだ。『Z‐12』のゲートを探そう。内部に侵入する。」

「え?この先にあるゲートじゃなかったの?」

「目をこらしてよく見てみろ。あそこは『Y‐4』。って事はZのエリアはこの近くにあるはずだ。行くぞ。」

 博仁はハンドルを握りアクセルを踏むと再び輸送車を走らせる。車両は橋の前にあった道路を東京の地形に沿って進んでいく。ゲート1つ1つを念入りに確認して回った。

「ねえ?ちょっといい?」

 10分が経過してやがて愛梨花が問いかける。彼女は東京から目を逸らし真逆の景色を眺めていた。

「何だ?」

 博仁は正面から目を離さず短く聞き返した。

「昨日から個人的に気になっていたんだけど父さんの言っていた『赤い木の実は泣いた』って何なのかしら?ずっと気になっちゃってて。」

「ああ、それなら知ってる。『※赤い木の実は泣いた』。マザーグースの一節(※実際には存在しない)だ。」

「そうなの?マザーグースって確か英米を中心に親しまれている伝承童謡だったっけ・・・・・・?」

 博仁は何が可笑しいのか微小に破顔し

「そうだ。『ロンドン橋落ちた』や『メリーさんのひつじ』などは有名だろ?俺も小学校の授業で読んだが『リング・ア・リング・オー・ローゼズ(ペストを由来にした説)』やリジー・ボーデン(19世紀末のアメリカで起きた殺人事件の被疑者)は結構トラウマになったな。」

「ちなみに赤い木の実は泣いたってどういうお話なの?」

 興味があるのかないのか判断に困る口調で愛利花は言った。

「内容か?自分の幸せのために友人の犠牲を引き換えにし寂しい結末を迎える物語だ。」

「聞かせてくれない?」

 博仁は一度咳をし物語の一通りを語り始める。

「・・・・・・赤い木の実は泣いた。青い木の実が指輪を盗んだから。黄色い木の実は言った。『森の木に住むカラスに相談しよう。』カラスは赤い木の実に言った。『青い木の実を殺して指輪を取り返してあげる。そのかわり、君の友達の命を貰う。』こうして青い木の実は殺された。カラスが指輪を咥え戻って来た。だけど黄色い木の実は二度と現れなかった。こうして2つの果実は結ばれた。だが祝ってくれる木々は誰1人いなかった。友達のいない式場で赤い木の実は白い花のブーケを投げた・・・・・・」

「・・・・・・胸糞悪い話ね。」

 愛利花は聞いた事を後悔したようにネガティブな感想を述べた。

「マザーグースはそういう話が多いからな。メルヘンチックな絵本だと勘違いして後悔した子供もいる事だろう。」

「違いないわ。」

 2人は珍しく互いに笑い合うと愛利花は再び外の景色を博仁は運転に集中した。


 またしばらくして輸送車は橋の前で停車した。向こう側に怪しまれないよう少し離れた位置に車両を置く。確認すると閉ざされたゲートには探していたZ‐12の文字が赤く書かれていた。危険な任務はここからが本番の幕開け、朝から治まらなかった緊張が一層激しくなる。

「どうやらここらしい。」

「このエリアの検問所は警備員に成りすましたBJのメンバーが仕切っているのよね?大丈夫かしら?」

 愛利花が相変わらずの心配を隠せない面持ちで聞いた。

「だからこそ、いざという時のためのパスポートがあるんじゃないか。ほら、これがお前の分だ。後ろの連中にも配って来るからちょっと待ってろ。」

 博仁は運転席を降りると後部へ駆けバックドアを開いた。車内の会話が途切れ香織達の視線が外に向けられる。

「東京に着いた。これから都市へ入るから各員、パスポートを所持するんだ。」

「分かりました。」

 メイフライが席を立ち数人分のパスポートを受け取ると自分の分を含め香織、慎一、透子に配る。

「言うまでもないと思うが任務はここからが正念場だ。街中では今渡した物が唯一の命綱となる。肌身離さず持ち歩くように。それと俺が降りていいと言うまで絶対に外に出てはだめだ。怪しい行動を避け普段通りに振る舞え。」

「東京支部の隠れ家まであとどれくらいかかりますか?」

 慎一が手を上げて聞いた。

「さあな、あそこに入ったら慎重に動く必要がある。府中市は東京の中心にあるから結構な時間が掛かるな。その上、市内で俺達と接触する予定のBJの一員を探さなければならん。運がよくても1時間でいけるかどうか・・・・・・」

「うだうだしてても始まらないわ。早くブラックジョーカーに会ってこの任務を終わらせましょう。」

 自信のない返答に対し香織は強気で行動を促す。その覚悟を決めた目からは無理に押し殺しているとは思えない程、恐れを感じさせない。

「ふっ、そうだな。俺も香織と同じ嫌な事はぱっぱと済ませる主義だ。この扉を閉ざしたら直行するぞ?他に質問のある奴は?」

 バックドアは閉ざされ博仁は再び運転席に乗り込んだ。シートベルトをしめゆっくりと深呼吸する。

「行くぞ。準備はいいか?」

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.216 )
日時: 2018/07/29 22:55
名前: マルキ・ド・サド

 輸送車は橋を渡り一旦ゲートの前で止まった。検問所には2人の人間がいてどちらも若く背の高い男性だった。頭には防弾ヘルメットを被り青い警備服の上にPOLICEと書かれた黒いアーマーを、腕や脚にも同色の防具を身に着けている。

 1人がもう1人を室内に残し警戒を緩めず車両の方へ近づいてくる。銃口を前に突き出したアサルトライフルを抱えながらゆっくりと。武装した警備員は運転席の窓を開けさせ始めにいくつか質問をした。

「見慣れない車両だな。ひょっとして県外から来たのか?」

「ああ、北の方からな。埼玉から来た。」

 武器を間近に迫られても博仁は普段の口調で答える。

「車には何を積んでいる?」

「人間だ。俺達を含め計6名を乗せている。」

「そうか、念のために確認させてもらうぞ。パスポートは所持しているんだろうな?」

「その前に1つだけ聞きたい事がある。」

 今度は博仁が質問を返した。

「『赤い木の実は泣いた』は好きか?」

「・・・・・・」

 警備員は急には答えず運転手を睨んだままだんまりを決め込んだ。僅か数秒沈黙した後、彼は構えていた銃を下ろし顔を覆うインバイザーを額に退かすと

「お前ら、埼玉支部の連中か?」

 と気を許した口ぶりで聞いた。

「そうだ。ここの隠れ家にいるブラックジョーカーに招待されてな。会いに行くためにここに来たんだ。」

 博仁も安堵しついでに理由説明を加える。

「なるほどな、本部から話は聞いている。了解、ゲートを開くからそこで待機していろ。パスポートの提示は無用だ。」

 納得した警備員は検問所に駆け込むみもう1人の同胞に短く事情を説明する。輸送車を指さし街中へ通すよう指示を出した。それから間もなく光ったランプが耳に痛い音を鳴らして回りゲートが半分に時間を掛けて開いた。

「東京内部は厳重に警備され重武装の機動警察隊で溢れている。奴らに怪しまれる行動は避け十分に注意を払え。幸運を祈る。」

 戻って来た警備員が忠告を述べてしっかりとした敬礼する。博仁も同じ姿勢を取り

「協力に感謝する。生きて帰れたらまたここを使わせてもらおう。」

 運転席の窓を閉め彼はアクセルを踏み輸送車を前進させた。難なく街に入り遠ざかっていく車両のバックを見送ると警備員は持ち場に戻りゲートは再び閉ざされる。


 東京の地を踏んで最初に出迎えたのは一軒家だらけの住宅地。ほとんど2階建ての似たような多くの民家が一見すると長閑に並んでいる。人の姿はなかった。そこをあっという間に越え都会の中心部である繁華街に入った。

 百貨店や専門店、飲食店などの商業施設が多く存在し人々が多く集まる地域。今や電気の明かりすらなくただ理由なく聳えるだけの無数の建物、蜘蛛の巣みたいに張り巡らされた複雑な無人の道路。行き交う人々で溢れ賑やかだったこの場所もかつての面影は消え本来の活気さを失っている。まるで人間が滅び、後に残されたような世界をリアルに表現していた。

 その寂しげな一帯を独占し1台の車両が通る。作動していない信号の下をくぐり抜けスムーズに道路を過ぎていく。数多い中の1本の真っ直ぐな通路を行き次第に遠のくエンジンの音、繁華街は再び静寂な場所に戻った。

 幾度か交差点を曲がりタイヤを走らせているといつの間にか市街地に出ていた。駅や学校、アパートやコンビニなど人が日常的に暮らしているであろうさっきとは違う景色が広がる。しかし、先ほどの繁華街同様このエリアも晴れ晴れとしない虚しい雰囲気で満ちていた。ここに来てやっと歩道を歩く東京の住人らしき人の姿を数人くらい目撃した。格好は物乞いのようで着ている服装は汚く何日も着替えていない事が窺える。表情は怯えびくびくとしながら辺りを見回す行為を繰り返していた。外でのトラブルを避けるためほとんどの人間は家の中に引きこもっているのだろう。

それぞれの大きさ、形の高層ビルに挟まれ中心に木が植えられた長い道路。対向車方面からは囚人を乗せた護送車の群れとすれ違った。ナンバーが違うだけの同じ形状の車両がずらりとどこまでも続く。これら全てが罪人を乗せ収容所へと向かっているのだ。

「凄い数の護送車ね・・・・・・全部で何台あるのかしら?」

 香織は外面からは車内が覗けない黒い窓から護送車の列を眺める。嫌悪を覚える光景に口調は震え表情は曇っていた。

「まるで警察と囚人のパレードみたいだ。気分が悪い。見ているだけで目まいがしてくる。」

 隣にいたメイフライも物に例え思った感想を述べる。

「私も逮捕されて裁判所に連行された時もあれと同じ車に乗せられた。まだ数ヶ月しか経っていない過去なのにもう懐かしく感じるわ。」

「そうだったんですか。思い出すだけでトラウマでしょうね・・・・・・ところで、何故この国の政府は囚人を東京へ集めているのでしょう?ただこの都市に連行されるとしか聞かされていなかったから・・・・・・」

「・・・・・・知りたいですか?」

 振り向く2人、向かいの席で腰を曲げ座っていた慎一が口を挟んだ。

「東京に連行される囚人はほとんどが国家反逆罪で捕らえられた人々です。彼らは不正そのものと言ってもいい裁判にかけられ確実に極刑に処されてしまう。そして、街の至る所にある刑務所に収容され命尽きるまで釈放されない永遠の強制労働を課かせられるんです。でも、それはあくまで内面のカモフラージュで本当は囚人を薬物や化学兵器の効果を試すためのモルモットにしているという噂もあります。」

「それって人体実験・・・・・・」

「そういう事になりますね。」

 答えを聞いた2人はますます背筋が凍りつく。全身を包んだ冷汗で真っ青になった面持ちを再び護送車の列へ向けた。

「お兄ちゃん・・・・・・私も捕まったら変なお薬飲まされるの・・・・・・?」

 透子がメイフライの掴んだ服の裾口巾を引っ張り泣きそうな顔で見上げていた。

「分からない。でも、悪い人達に連れて行かれそうになったら何があっても透子ちゃんを守り抜くから。」

「本当に・・・・・・?」

「うん、約束する。その代わり、君も俺や博仁さんの言う事にちゃんと従うんだ。おかしな行動はなるべくせず絶対に俺達から離れたらいけないよ?」

「・・・・・・分かった。私、ずっとお兄ちゃんにくっついてる。」

 ちょっとした笑みを零し透子は小さく返事すると行儀よく慎一の隣に座った。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.217 )
日時: 2018/08/03 22:10
名前: マルキ・ド・サド

「しかし、見飽きてしまう程のしつこい車列ね・・・・・・数える気にはなれないけど全部で何台あってどこに向かっているのかしら?」

 前の席でも話している内容は一緒だった。愛利花は後ろのスペースにいる香織とほとんど同じ事を口にしていた。博仁はハンドルを安定させちらっと対向車方面へ視線を送り

「さあな、こいつらがどこに向かっているのかなんて想像もしたくえ・・・・・・ただ、2年前に連行された親父は牢獄で何をしているのか・・・・・・それを嫌でも考えちまう。」

「そう言えば昔、話していたわね・・・・・・唯一の肉親であるお父さんが捕まって・・・・・・大丈夫よ、きっと元気でやってるわ。絶対にあなたの事も忘れてない。」

「温かい慰めの言葉、感謝する。」

 これといった感情を抱かず博仁は生返事に似た礼を返した。

「数年ぶりに東京に戻って、今どんな気持ちでいるの?やっぱり心苦しい?」

「いや、まともな精神はとうに捨てたから特には何も感じない。ただ、久々に東京を訪れたんだ。お袋に会いに行きたい。可能なら花を添えたいところだが残念ながら無理だ。墓参りは当分お預けだろうな。」

「そうね。私達に出来る事は一刻も早く東京支部の隠れ家に香織を送り届ける・・・・・・今はそれだけよ。」

「・・・・・・だな。この一帯は油断ならん。安全運転で行くがなるべく早くここから離れる。目的地までまだ掛かりそうだ。」

 博仁は改めて気をしっかりと保ち運転に集中する。


 輸送車は目的地である府中市の市街地に行き着いた。木が生い茂る公園の近くにある高速道路の下をくぐり銀行を右折する。この地域はどちらを向いても似たような建物ばかりで特にアパートが多い。一軒家らしき民家は一軒もなくスーパーやガソリンスタンドの前をたまに通りかかる。正面の遠くには街全体を見渡せるであろう1本の高層ビルが空に向かって突き出ていた。

 目にする景色や漂う陰気なエリアも今まで後にしてきた所と比べても差ほど変わらなかった。やはりこの場所も歩道を歩く市民の姿もなければ一般車も走っていない。その代わり、武装した警備員が数人いて装甲パトカーの前に集い互いに会話を交わしていた。その表情には穏やかさの欠片もなく紛れもない厳格に満ちている。かつての日本なら所持しているのがあり得ない軍用の銃器を肩や背にぶら下げ全身をアーマーで固めているのだ。彼らは自分達の横を通り過ぎる輸送車を睨み行き先を目で追った。

「合流地点までまだ遠いな。ビーコンの反応が弱い。」

 博仁が運転席に設置していた小型のタブレットを確認しながら言った。画面に表示されているのはこの市街地のマップで現在位置が具体的に記されている。中心に映っている輸送車であろう赤い矢印はソナーの音波を放ちテンポの遅い音を鳴らす。

「いくら1つの行政区分と言っても結構な広さよ?この中から私達を待ってるBJの一員を探すなんて無謀に等しいわね。雪山の奥地でソフトクリームを探し当てる方がまだ簡単かも・・・・・・」

 愛利花が廃墟の至る所を見渡し愚痴を零すと博仁はその考えをあっさり否定した。

「いや、これだけ広いフィールドだ。わざわざ探すのに手こずりそうな所を待ち合わせ場所に選ぶとは思わないが?もう1つ、こっちにとって好都合なのは人ごみが存在しないというこの状況だ。相手の格好は既に知っているし案外早く見つけられるかも知れん。運次第だな。」

「そうかしら?」

 まだ訝しげになる隣の人間に博仁は呆れ笑いしながら

「お前は俺に運転を集中させてくれればいい。廃墟の観光でもしていろ。」

 と少々バカにした口調で言った。

「はいはい、仰せのままに。」

 徐々にリズム反応が早くなるソナーを頼りに道を辿っていくと輸送車はとある建物の前でブレーキをかける。それは3階建てくらいの高さのある幅の広い大きな映画館だった。上に『スターシアター』とアピールするみたいに店名が書かれ壁や入り口付近には様々な形を象ったネオンが派手に張り巡らされている。

 数年前に閉鎖されたまま放置されてたのか劣化が酷い。封鎖したシャッターは品のない落書きアートに利用され窓は薄く濁っていた。一部破損した個所もあり割れたガラスが鋭く尖っている。ずらりと飾られた数々の映画広告はどれも国の崩壊が起こった年に上映された物ばかりだった。

 車内ではビーコンの電子音がうるさく鳴り響いていた。博仁はタブレットの電源を切り耳障りな音を遮断すると

「どうやらここがゴールらしい。待ち合わせの舞台が映画館とはなかなかロマンチックだな。相手は俺達をデートにでも誘うつもりなのか?」

 くだらないジョークを口走った。

「めでたく到着ね。手間取る事なく無事に来れたのはいいとして私達が探している人は?ひょっとして映画館の中にいるのかしら?」

「いや、可能性は低いな。あのタイプのシャッターは機械式で人間の力では開けられない。建物を観察した限り侵入できそうな穴は1つもない。ちょっと降りて周辺を偵察してくる。お前はここにいろ。」

 博仁はシートベルトを外すと助手席に愛利花を残し車を降りた。彼は映画館の横にある信号方面の角を曲がる。

「外に出て改めて首都の崩壊を実感する。ここまで荒れ果てていると『秩序のない楽園』と名付けられても文句は言えないな。」

 思った台詞を口に出し映画館沿いを歩いて行く。人が居住していた痕跡があるだけの廃墟がどこまでも続いていた。所謂ゴーストタウン、不気味な程の静寂な世界に木霊する金属の擦れる音。砂埃が混ざった風が吹き荒れチラシが舞い空き缶が転がる。それが背筋にひんやりとした感覚を生み出す。

 時間を掛けず映画館の裏に回った。そこはホームレスが住み着きそうな路地裏に似た狭い空間だった。日が当たらないため薄暗く妙な臭いが漂う。その下にはゴミ捨て場、コンテナの穴からネズミが這い出ていた。動いていなくても壊れていない室外機や換気扇、やはり侵入できそうな所はない。しかし

「・・・・・・ん?」

 博仁は何かに気づき目を凝らした。少しばかりの向こう側に人影が視界に映ったのだ。正体は長い白髪の少女で映画館とは真逆の壁に背を寄せスマホをいじっている。シャツもズボンも帽子も全身黒づくめの格好をしており耳掛け型のイヤホンを着けていた。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.218 )
日時: 2018/08/08 22:51
名前: マルキ・ド・サド

 博仁はまさか・・・・・・と呟きその人間に迫った。念のため暗器を忍ばせた隠しポケットに手を入れながら。スマホを眺めていた人影もこちらへ距離を縮める彼の存在に気づき二度視線を送るとイヤホンを外した。ついでにスマホもしまい寄り添った壁から背を離した。

「おい、あんた・・・・・・」

 博仁がおそるおそる話し掛けた時

「姫川香織を連れて来た?」

 少女は出会って間もなく率直に聞いてきた。その顔は暗く無表情で晴れやかさを感じさせない。いかにも病んでいる光のない暗い目の片方は帽子と髪で隠れていた。彼女は相手とは裏腹に警戒すらせず平然とした態度を取る。

「あんたが東京支部の・・・・・・?」

 今度は博仁が問いかける。少女は頷かず帽子を取った手をだらんと地面に垂らし

「ブラックジョーク東京支部のソルジャーチーム第5部隊所属、『小野塚 美都樹(みづき)』。姫川香織は連れて来た?」

 と自身の名を名乗り再び同じ質問を繰り返した。

「ああ、お望みの客人は連れて来た。表の輸送車に止めてある。」

 美都樹と名乗った少女は特にこれといった反応をせず再び帽子を斜めに被った。外したばかりのイヤホンも耳に付け武器を抜く寸前の姿勢を取る博仁の隣をすれ違う。彼女は行ったん足を止め振り返ると

「ここは警備が厳しいから車を移動させる必要がある。ついてきて、その後に隠れ家に案内する。」

 美都樹に先導され輸送車は映画館の隣にあったパーキングビルへ移った。使い捨てられた車が少ない2階のスペースに入りエンジンを切る。車体から降りた一同は僅か数分の案内役を務めた彼女の元に集合した。微妙に傾いた車道を中心に横位置一列に並ぶ。

「あなたが姫川香織?」

「はい!そ、そうです!」

 美都樹がおもむろに聞いて香織が緊張しながら無意識に敬礼する。

「生真面目で緩みのない性格、データ資料の情報は正しかった・・・・・・ようこそ、東京支部はあなた達を歓迎する。」

 その時、どこからともなくここにいる誰でもない声が聞こえた。美都樹は胸ポケットにしまっていたX-12の無線機を取り口元へ当てる。香織達は警備隊が駆けつけて来たと勘違いしてしまい少し動揺してしまった。

「こちら第5部隊の『NO.1215』。聞こえています、オーバー。」

 彼女は何かしらの番号を名乗り応答する。無線から発せられる声がごちゃごちゃとした雑音で上手く内容を聞き取れない。唯一理解できるのは相手が男性である事くらいだ。

「"・・・・・・?"」

「はい。たった今、重要人物である姫川香織と接触しました。現在はパーキングビルにいます。オーバー。」

 美都樹は話す口調をこれまで以上に真剣にし会話を交わす。

「"・・・・・・!・・・・・・?"」

「姫川香織を含む埼玉支部の人数は6人です。彼らに対する対応は?オーバー。」

「"・・・・・・!・・・・・・!"」

「なるほど、了解しました。では、すぐそちらに向かいます。アウト。」

「・・・・・・あの・・・・・・NO.1215ってあなたは『認識番号』で呼ばれているんですか?」

 美都樹は無線機を元の所にしまいメイフライの質問に答えた。

「違う。私の正式な認識番号は5729。東京支部の一員は名前ではなく他のナンバーで呼ばれる。1215の意味は私が組織に入隊して1215人目の人間だから。」

 納得して頷く彼から今度は香織に視線を切り替え

「隠れ家は地上よりも遥かに安全、組織の指導者であるブラックジョーカーが招待客を待っている。一緒に来て。ここもいつ政府の手先が来るか分からない。」

「なあ?ちょっといいか?」

 一同を背に先頭を歩こうとする美都樹を博仁が呼び止める。

「東京支部の隠れ家は地下にあるんだよな?」

「・・・・・・そうだけど?」

 美都樹はおもむろに肯定した。

「東京支部は地下に作られ私達はそこを根城としている。ちょうどこの真下にあって敵の足元に潜んでいるから逆に見つかりにくい。ことわざで言えば灯台下暗し・・・・・・?セキュリティも地上よりも厳重で武器や兵器も十分に揃っている。本部の戦力は伊達じゃない。敵が余程の軍勢で攻めてこない限り陥落はあり得ない。そして最新技術のコンピューターでこの東京全体の防犯カメラをハッキング、監視しているため動きや行動経路を把握できる。裏社会は我々が支配しているのも同然。」

 懸命じゃない力説に香織達は素直な驚愕の表情を互いに見合わせた。これから訪れる隠れ家の中はどんな壮大な場所なのか?香織達はそれぞれのイメージを膨らませながら足を前に進めた。

「・・・・・・しかし、美都樹さんって普通じゃないオーラを放っているな・・・・・・特殊な何かを感じる・・・・・・」

 慎一は彼女の印象を誰にも聞こえない声で囁いた。そのはずだが・・・・・・

「そう、私は普通じゃない。あなたが感じている通り特殊な人間。」

 美都樹は振り返らずに返事を返した。不思議にも本心を悟られた慎一はびくっと全身を震わせ1人気まずい空気に陥った。後悔した顔を下に向け大人しく後についていく。

 香織達は階段の横にあったエレベーターに詰めて入った。7人という大人数なだけに狭い一室は息苦しく圧迫された上半身が痛む。背の低い透子は顔を挟まれる。美都樹はそんな窮屈な状態をお構いなしに『閉じる』のボタンを押し扉を閉ざした。次に6759と入力するとエレベーターは地下に向かい降下し始めた。

「エレベーターのボタンがパスワードになっているのか・・・・・・面白い仕組みだ。」

 博仁は納得した台詞をぼそっと呟いた。


 大して明るくない天井の電灯が点滅し数匹の蛾が集る。細長い地下通路の先ある四角い広間、コンクリートの壁に挟まれた分厚い金属の扉が塞がっていた。そこを更に守るように仁王立ちしている1人の兵士がいた。兵士は青年期をもうすぐ終えるくらいの男だった。都市迷彩の軍服にマガジンポーチの付いたレザーベルトを肩から脇腹へ巻き付けている。近距離サイトやマスターキーでカスタムされたアサルトライフルを大事に抱えていた。

「・・・・・・!」

 兵士はこちらへ降りてくるエレベーターの音に反応し向かいの壁に背をつけた。アサルトライフルとマスターキーの銃口を上に向け一度深く深呼吸した。正面からは見えない死角から慎重に顔を覗かせる。エレベーターの扉が開き香織達がぞろぞろと地下へ入場してきた。

「息苦しかったぜ・・・・・・!流石に7人はきつい!」

「あんたの腕が私に胸に当たってたわよ!わざとでしょ!?」

「はあ!?誰がお前の身体に興味なんか持つか!」

「何ですって!?もう一度言ってみなさいよ!」

 愛梨花が博仁の肩に力の入った拳をぶつける。

「お兄ちゃん達に挟まれて息が出来なかったよ。」

「ごめんごめん気づかなかった!」

 透子もメイフライと慎一に対し頬を膨らませる。

Re: ジャンヌ・ダルクの晩餐【修正版】 ( No.219 )
日時: 2018/08/13 22:04
名前: マルキ・ド・サド

「NO.1298、隠れなくていい。」

 美都樹が誰もいない扉の方へ呼びかける。兵士はほっとした面持ちで武器を下ろし彼女達の前に姿を現した。

「NO.1215か・・・・・・1人で戻って来た訳じゃないって事はどうやら例の奴は連れて来たようだな。」

「ええ、この子が姫川香織。すぐにブラックジョーカーへ会いに行かせるから通してくれない?」

「勿論だ。中では司令官自ら出迎えようとしている頃だ。待ってろ、今開ける。」

 兵士は肯定すると扉の横にある手の平静脈認証式のセンサーに手をかざす。電子ロックが解除された取っ手のない金属の壁が時間を掛けて開いた。

「勤務ご苦労だったな。居心地の悪い外の環境に疲れただろうからゆっくり休んでくれ。」

「ありがとう、後で甘い差し入れでも届けに行くから。」

 美都樹は香織達を連れて開いた道を行き扉は再び閉ざされる。1人残された兵士は元いた場所に立ち見張りに専念する。


 隠れ家に足を踏み入れ最初に目の当たりにしたのが広々としたブースだった。奥へ行く度にコンピューターを扱う兵士を囲むように数人の兵士が一帯を監視している。手前にはセキュリティゲートがあり機械を操作する兵士と見張りの兵士が1人ずついた。美都樹はゲートをくぐらせる前に皆を立ち止まらせると

「不謹慎なのは承知の上だけど外から来たあなた達には念のためにボディチェックを受けてもらう。もし、この中に武器や金属類を持っている人がいるんだったらそこの彼に差し出して。」

「同胞にすらも気を許さずここまで徹底しているとは・・・・・・まあ、この中に裏切り者がいないとも限らんしな。」

 博仁がもっと不謹慎な台詞を呟き隠していたポケットピストルを取り出した。それを差し出された預かり用のボックスの中に放り込む。香織も一応、首にぶら下げていたロザリオを外して渡す。

「他に持ち物はない?・・・・・・なら、全身をスキャンするから1人ずつゲートをくぐって。」

 香織を先に行かせ次々と全員が検査に引っかからず通る事が出来た。無線機を無線機やスマホなどを所持していた美都樹に関しては警報が鳴ったが構わず通過する。彼女は何かに気づいたらしく突然に姿勢を正し独り言を口にした。

「どうやら来たみたい。」

 奥の正面から男が4人の親衛隊を従えこちらへと向かってきた。体格がよく年齢はまだ若いと言える短髪の男だった。正装であるネクタイと黒いスーツを身に着け右腿のホルスターに拳銃を収めている。いかにも隊長らしきその男は香織達の前で足を止めるとその場にいた兵士達は一時、持ち場を離れしっかりと敬礼する。

「NO.1215、姫川香織を連れて来たと聞いたが?お前の真後ろにいるその女か?」

「はい、彼女が姫川香織です。」

 美都樹は間を開けず返事を返し自身も敬礼した。

「任務の遂行、ご苦労だった。そして、埼玉支部の諸君ようこそ、私は東京支部の司令官を務めている『村雲 徹』だ。君達と会えて光栄に思う。」

 そう言ってやはり彼も敬礼した。香織達は緊張感に苛まれながらとりあえず姿勢を合わせる。

「堅苦しい挨拶はさておき、早速隠れ家へ招待しよう。内部を見物させてやるがくれぐれも部下達の職務を妨害する行動は慎むように。ではこっちだ。」

 香織達は親衛隊に囲まれ徹の後ろを連行されるようについて行く。ちょっとした真っ直ぐな通路を抜け何度か角を曲がりやがてあった入り口へと入った。

 足を踏み入れた瞬間、視界に飛び込んだ光景に埼玉支部のメンバーは愕然とした。そこは数百人の人間が入れるであろう体育館くらいの大広間だった。香織達がいる所は上階の通路。下の階にはほとんど同じ兵装をした大勢の兵士達が集い手すりの下から遠く壁まで果てしなく集団の列を作っていた。持っている銃器の筒先を上に向け全員が同じ姿勢を保っている。彼らの前には1人の大隊長が左右、行き来を繰り返し演説を行っていた。

「諸君は東京の砦の精鋭に選ばれた名誉ある戦士達である!与えられたその誇りを決して忘れてはならない!いいかっ!!?」

「「「イエッサー!!」」」

 兵士達は張り上げた声を合わせそれに答える。

「国は腐敗し秩序の歯車は狂い日本は崩壊の危機にある!我々の存在は深い絶望に灯された唯一の希望!その事を胸に刻み込んでおけ!敵に反撃を許し我々が敗北してしまえば最後の光さえも失い今よりも遥かに残酷な暗黒時代の到来は正に現実のものになるのだ!諸君に課せられた使命は重い!常に緊張感を絶やさず覚悟を抱け!!」

「「「イエッサー!!」」」

「我々がこの悪夢を終わらせるしかない!力を合わせ団結し正義の信条の元に戦おうではないか!例え共や家族を失っても彼らの屍を越え前線を突き進み最後の1人のなるまで敵を狩り尽くせ!我が誇り高き兵共っ!!」

「「「イエッサー!!」」」

 戦意に溢れた叫びは耳が痛くなる程に響き渡り迫力が伝わって来る。これから戦場に出向く直前のようだ。

「私達の隠れ家と比べレベルが違い過ぎる・・・・・・昔、父に連れられ自衛隊の基地に行った事を思い出すわ・・・・・・」

 愛利花が揺るがない彼らの勢いに苦笑しながら言った。

「この隠れ家の兵士の中でも優秀な頭脳と戦闘能力を取り揃えたエリート達だ。天性の才能がある者達を選び厳しい訓練と多種多様な技術を学ばせる。そして、最新式の軍用の武器と改良されたボディーアーマーで武装させているのだ。彼らは余計な感情を捨てた冷酷な戦闘マシーン、戦争を行えば自衛隊の大隊も苦戦を強いられるだろう。」

 徹は多少自慢したような口調で説明を述べた。

「じゃあ、この人達を地上に送り込んで東京を攻撃するつもりなんですか?」

 透子が珍しく彼女らしからぬ質問をした。

「いや、さっきのはあくまでも1つの例えであり実際はそのような行為には及ばない。街を制圧できる程の戦力なんてここにはないからな。首都で銃撃戦が起きれば全国各地にいる政府の部隊が援軍として駆けつけて来る。そうなれば我々は一巻の終わりだ。装備の性能で勝てても兵力で惨敗する。さて、ここにいても耳が痛いだけだろう。次のエリアを紹介しよう。」

「昔よりずいぶん賢くなったな。」

 博仁が去り際に透子の頭を撫でる。

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