複雑・ファジー小説

超能力者と絶対に殴り合う能力
日時: 2018/03/26 17:23
名前: 波坂
参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=359

初めましての方は初めまして。それ以外の方はこんにちは。
波坂(なみさか)と言う者です。
意見や感想、アドバイスなどは大変嬉しいのですが、それが的確なものであるかどうかを一度確認してから投稿して下されば幸いです。
宣伝などはできる限り控えて下さい。

※リンクは能力の募集に繋がっています。よろしければどうぞ

2015/10/17 スレッド設立
2017/01/18 受験の為、更新停止
2017/03/07 受験終了。更新再開
2017/03/28 参照回数8000突破
2017/05/14 参照回数9000突破
2017/9/01 参照回数10000突破
2017/12/15 参照回数11000突破
2018/2//13 参照回数12000突破

Twitter創作アカウント→@namisaka_sousak

【目次】
第一章>>1-21 第二章>>23-31

第三章>>32-46 第四章>>47-67

第五章>>68-77 第六章>>78-104

第七章>>105-202 番外編>>203-215

第八章>>219-236 第九章>>237-269

第十章>>270-現在更新停止

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Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.268 )
日時: 2018/01/14 12:05
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ

 平子が目を覚ました時、そこには何度見たか分からない程に見ている天井が目に映った。つまり、自宅の天井である。上体を起こして身体を伸ばし、盛大に欠伸をする。

「あー、眠いー」

 このまま二度寝してしまおうかと一瞬考えた平子は寝ぼけ眼で目覚まし時計を見る。どうやら時計を見る限り、今は午前7時である事が分かった。
 今日は日曜日だし。そう考えて布団に再び潜ろうとする平子。だが、今日が日曜日という事を思い出した事で、連鎖的に昨日の記憶が引っ張り出される。その後平子が跳び上がるようにベッドから出たことなど、言うまでもない。

「え? 待って。なんで私自分の部屋にいるの。え?」

 どうにも辻褄が合わない記憶。そもそも自分がいつ意識を手放したのかすらもハッキリしない。そんな状況で、ふと平子は自分の部屋の中に今まで無かったものがあることに気が付いた。
 遠目に見ればただの封筒だが、近くから見ると自分宛のものだと分かった。テープを慎重に剥がして中身を抜き出すと、どうやら手紙らしい。今どき手紙とはレトロなものを。そう考えつつも中身を読もうと折り畳まれた紙を広げた。

『平野へ。
 現場で気絶していたお前や山瀬裁華は保護された。恐らく闇医者の治療も受けているハズだ。
 お前の親には疲れたところを自転車に撥ねられたと説明した。一応、大きな外傷はこちらで治しておいたが、あまり無理はするなよ。
 それから山瀬裁華に関しては暫く様子を見る事にした。お前が命を賭した事で、何か変化があるかもしれないからな。
 平雨平瀬に関してはサッパリだ。あの後どうなったのか、完全に俺の意識外だな。
 ああ、学校であっても変な態度をとるなよ。怪しまれるからな。
 不知火』

「……円君、多分冷たい態度を取ってるつもりなんだろうけど、節々から優しさが溢れてるよ……」

 苦笑しながら漏らした感想は、少し不器用な青年に大しての言葉だった。
 心配事が無くなったところで──というのは少し嘘になるが──平子はもう一度布団に潜ろうと毛布をめくる。が、その過程で、彼女の視界に勉強机が映った。

(……あ、課題手を付けてない)

 どうやら、平子に二度寝する余裕は無さそうだった。

「もぉぉぉぉぉ! ツイてないって訳ですよぉぉぉぉぉ!」

 ここ最近で一番大きな声を張り上げた平子。そして数秒後に「うるさい!」という注意が飛んできた。






 そして月曜日。
 平雨平瀬は普通の学生のように登校していた。席についてカバーのついた文庫本を読む彼女の肩の先には、機械とは思えないほど自然な腕が付いている。その偽装は人口ポリマーによるもので、ちょっとやそっとの事では破れない仕様になっている。
 時間帯は朝。まだ人は少なく、平瀬の居る教室に関しては平瀬以外には誰もいない。九月と言うこともあり、窓は全開にされていた。そこから吹き込む風がふわりとカーテンを押し上げ教室に涼しい風を届ける。

「あ、平瀬ちゃんおはよー」

 そんな平瀬に声をかけたのは、今日も相変わらず白い長髪に高身長が特徴の平子だった。その四肢は制服に包まれており、肩から通学鞄を下げていたり微笑みを乗せた表情で、その紫色の瞳を真っ直ぐ平瀬に向ける。因みにこの平子、未だに終わらせていない課題を朝学校でやろうという、多少は緋奈子や紡美に見せてもらおうという魂胆で早い内に登校したクチである。

「あっ……おはよう……ござい……ます……」

 平瀬は平子に顔を合わせるが、反射的に少しだけ目を逸らしてしまった。

 ──私はきっと、気持ち悪い存在なんだろう。

 平瀬はそう思えた。なにせ、平瀬は平子のクローンなのだ。全く同一の遺伝子を持った、コピー、贋作、模造品。人は全く同じことをする事を俗に『パクる』と言うが、平瀬は正しく平子そのものを『パクった』存在なのだ。そして、『パクられた』側は『パクった』側を激しく嫌悪する事が非常に多い。

「んー? 平瀬ちゃんどうしたの?」

 そう考えている平瀬にとって、平子は無理をしているように見えた。無理してこちらを気遣って、声を掛けたくもない相手に、平然と声を掛けている。勝手に自分で感じた平子の優しさが自分の心の傷にしみるのと同時に、苦しい思いをさせているという事に罪悪感で胸が締め付けられる思いだった。

「あの、平野さん。もういいですよ」

「何が?」

「私の事、気持ち悪いでしょう? そう思ってますよね。……別に無理して声を掛けて貰わなくてもいいので……」

 その言葉を、平瀬が無表情を貼り付けた表情で紡ぐ。まるで、なんとも思っていませんと必死にアピールするように。
 そんな平瀬に、平子は一瞬驚愕したように目を見開き、そしてその場から離れる────訳もなく、むしろ近付き平瀬の両肩に両手を乗せて、顔を鼻が触れ合う直前の位置まで近付けた。乱暴にドサッと音を立てて肩から下げていた鞄が落ちる。

「……あの、何をしてい」

「平瀬ちゃん、次そんなこと言ったら本気で殴るからね」

 平瀬の疑問の言葉を遮り、平子が真剣な顔で真っ直ぐに言った。それは剣幕めいた雰囲気を纏いつつ、どこか悲しみを漂わせている。

「……なんで、ですか」

「私はね、平瀬ちゃん。本気で平瀬ちゃんのことを気持ち悪いなんて思ってないって訳だよ」

「……でも! 私は貴女のコピーで、模造品で、贋作で……自分なんか無い、ただの人形みたいな……そんな存在……なん……ですよ……」

 最初は声を張り上げてしまったものの、段々と薄くなっていく平瀬の声。顔は沈み、彼女の頭の中では自己嫌悪が積み重なっていた。

「だからどうしたって訳なの?」

「……え?」

「平瀬ちゃんがクローンとか、コピーとか、贋作とか、模造品とか、そんなの関係ないって訳だよ。平瀬ちゃんは平瀬ちゃん。それが今私が証明できる一つの真実。それ以外に何かいるの? それ以外に、私が平瀬ちゃんを平瀬ちゃんって呼ぶ為の理由がいるの?」

「でも……! だって……! そんな……!」

「平瀬ちゃんは秘密を知られて、避けられるんじゃないかって。そう思った? だったらふざけるなって訳だよ。私が、たかがクローンとかサイボーグとか、そんなどうでもよくて、下らない事のために、友人を辞めるなんて思ってたの?」

 平瀬は何かが砕けるような音がした。それは、今まで平瀬を縛っていた鎖の砕ける音だ。平瀬が雁字搦めになって、どうしようもなかったその鎖を、平子は平然とした様子で、どうでもいいと、下らないと、そう切り捨てて引きちぎったのだ。

「……そうですか。そんなことは、どうでもいい、下らない事だったんですね。ははは……私って馬鹿ですね」

「そうだよ。そんなところで悩んじゃうなんて、平瀬ちゃんって思ったより抜けてるんだね」

 そして二人で笑い合った後に、平瀬が思い出したかのようにこう言った。

「……ところで、私と平野さんって友人でしたっけ……」

「え? もうすっかり友人かと……」

「私は友人の定義がわからないのでなんとも言えません……」

 参ったなー、と呟きながら困ったような表情をして頭に手を当てる平子。だがすぐに、あっと閃いた様子で提案する。

「だったらさ」

 平子はそう言って、平瀬にすっと右手を差し出す。

「私と友達になってくれませんか?」

 平瀬は、その手をゆっくりと、恐る恐る伸ばし、そして震えながら、その手をしっかりと力強く握った。

「こちらこそ、宜しくお願いします。平野さん。……それと、一つだけ訊いていいですか?」

「どうしたの?」

 少し口ごもる平瀬。恥ずかしそうな表情で目を逸らすが、深く息を吸った後に、真剣な、というより、少し不安そうな顔で、平子に顔を向けた。

「平子ちゃん……って、呼んでもいいですか?」

 その瞬間、静寂が教室を支配した。
 平子の表情が驚いたような表情から、段々と真顔になり、そして──笑いを堪える表情へと移り変わっていく。そして我慢の限界が来たのか、平子は軽くふふっと吹き出した。
 
「わ、笑わないで下さい……!」

 頬にほんのりと朱が差した平瀬が、平子に軽く眉を釣り上げて平子を批判する。平子はごめんごめんと軽い様子で返した。

「そんなことを訊いてくるなんて思わなかったって訳だよー。平瀬ちゃんは可愛いなぁー」

「そ、それより……ダメですか?」

「いや? 全然呼んで大丈夫だよ?」

 平子のその言葉に、平瀬の表情が花が咲いたかのように満開の笑顔になる。

「ありがとうございます!」

 深く頭を下げる平瀬に平子がいやいやいやとツッコミを入れたところで、また二人が顔を合わせて笑い合う。
 平瀬は願う。

「……平子ちゃん。私の初めての友達になってくれて、ありがとうございました」

「……どういたしまして。こっちも、平瀬ちゃんと友達になれて、嬉しいよ」

 こんな風に、二人で笑い合える日が
、少しでも長く続く事を。






 これは、とある男の話だ。
 男は決まった自分か無かった。
 いや逆だ。男は決まった自分を幾つも持っていた。それは教師の自分であったり、冷酷な仕事人の自分であったり、それは様々な顔を持っていた。
 いつどこにいるかもわからない。複数の側面と立場を同時に持つもの。ただ知られているのは『相川』という苗字だけ。
 そんな彼こと相川悟は、例の一件の事後処理を終えた後に近場のファミリーレストランに来ていた。

「相川君、早夜さん、注文は決まりましたか?」

「私はカルボナーラかな〜」

「……俺もそれでいい」

 そして相川の視界に移り込むのは二人の人物。片や天澤秋樹の兄であり、とある企業の一従業員という肩書きを持つ天澤春樹。片や特殊警察の医務部のトップである立待月早夜。相川はこの異色の二人と顔を突き合わせていた。

「それで相川君、今回の協力要請は私にはこの一件の揉み消し。早夜さんには負傷者の治療、という事ですね?」

「ああ、間違いない。帳簿に付けておけ」

 はぁ。とため息をつく相川。こんな面倒な制度がある組織はこれだから嫌いなんだと視線で訴え掛けているのを春樹は悟ったのか、相変わらず貼り付けられた笑顔のまま言葉をかける。

「仕方が無いでしょう。これが私達『ロンリーウルフ』の決めたルールなのですから」

 ロンリーウルフ、とはこの三人が所属する組織の事だ。いや、正確に言うなら組織という訳ではない。
 例えば円やアカネが所属しているシャドウウォーカーズは一団体として依頼を受けたりする。が、この組織は団体という扱いではない。
 例えば、人員A.B.Cが居たとする。
 Aがとある仕事を請け負ったとしよう。その時、Aは助力が欲しくてロンリーウルフに救援を要請。ロンリーウルフに所属するBとCは気が向いたらその件に協力する。この時Bが協力しCは無視したとしよう。
 すると、AはBに対して借り、次にBから救援要請が来た際には必ず行かねばならない。というルールだ。要は『借りは返す。貸しは返させる』という至極単純なルールである。
 今の場合だと、相川は早夜と相川に一つの貸しが出来たことになった。なので、次に二人から救援要請が来た際には必ず行かねばならないのだ。

「あはは〜今からサトちん君に何お願いしようかな〜楽しみだな〜」

 因みにオレンジジュースをストローを使って口に運んでいる早夜の姿は子供バージョンな為に、傍から見ると二人の成人済み男性が一人の幼い女子を連れているという大変犯罪的な光景に見えてしまう。この中で最年長なのは早夜なのだが。

「……あまり厄介事を持ってくるなよ……?」

「大丈夫ですよ。私は不可能な事は言いませんから」

 春樹の含みのある笑いに相川は怪訝な目を向ける。彼の言葉ほど信用出来ないものはないと相川は知っている。それこそ、妹の為なら司る能力者さえも殺そうとする程の人物なのだから。

「……まあ、いいか」

 それでも、自分の教え子を救えた事に、相川は教師としての満足を、確かに実感していた。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.269 )
日時: 2018/01/14 12:56
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ

あとがき

平子「私の主役回でしたね」
時雨「……」
風間「……」
平子「……二人共、半年くらい出てないからってそんなに落ち込まないで……」
時雨「……辛いものは辛いんだよ……」
風間「俺の存在とか覚えているやついるのか……」
平子「まあまあ!気を取り直していきますよ!」
時雨「まずかなり前だが雪菜の件だな。とある組織でリモデルチルドレンが作られている。まあそのうちの一人の雪菜は逃亡。例の研究所に行くわけだ。」
風間「その途中にいろいろいざこざあった」
平子「苗字に関しては察してとしか言えませんね」
時雨「山瀬裁華の件は暴走した山瀬裁華が平子を拉致った事件だな」
平子「裁華さんは何回もやってるみたいだけどね」
風間「相川に関してはずっと2人とか組織とかと繋がってたわけだ」
平子「質問とかあったらコメントしてくださいね」
時雨「次は俺の出番が多そうだな」
風間「セカイニスクイハナイノカァ!?」
平子「キャラ崩壊激しいのでやめて下さい」


影雪「今回雑じゃねーか?」
平瀬「作者が1度全消ししてしまって意欲が死んだらしいです」

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.270 )
日時: 2018/01/28 20:31
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ

「…………」
「おい、もう口を割ったらどうなんだ」

 その男の双眸が、机を挟んで椅子に乱暴に座る男を睨み付けながら言う。机に乗ったスタンドライトが二人を照らし、狭い部屋の中には四人の人影。一人は二人の男の会話を一言一句残らず記録。もう一人は二人の男を監視するように隅で後ろで腕組みをして直立不動で佇んでいる。

「……オレはやってねー。何回言えばいいんだよ」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!」

 金髪の男の面倒そうな声の返答に、思わず手を机に叩き付けて音を立てた男性は、少しだけ太め腹に広い肩幅。如何にも悪人のような顔をしている。これでも彼は警官であり、目の前の金髪の男はこの警官から取り調べを受けているのだ。

「現場から証拠はアガってるんだ! 三人の死因は感電死、殴打、そして血液の沸騰。こんなことを一人で出来るのはお前ぐらいなんだよ! 現場の惨状から読み取れた足跡もお前の家にあった靴とほぼ同じ。もうすぐ靴の裏の成分の鑑識が終わって結果が出るだろうよ」
「……めんどくせー……」
「面倒臭いじゃない! 三人も人が死んでいるんだぞ!」

 そうやって警官が騒ぎ立てても、相変わらず金髪の男は気だるげにしている。その目は、あたかも転がっていた小石を踏みつけた時のように、本気でどうでもいいと物語っていた。
 天の代わりに天井を仰いで、金髪の男──風折影雪──は肺の底から息を吐き出した。
 心底、心の底から億劫に。


第10章『殺人犯、風折影雪』

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.271 )
日時: 2018/02/06 18:01
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ

 取り調べというよりは、最早一方的なまでの押し付けを後にした影雪が、疲れきった顔のまま自分の牢屋に入れられる。広くも狭くもない牢屋の中で座り込んだ影雪は、そのまま天井をのシミでも数えながら自分の置かれた状況を整理していた。

(強化ガラスと鉄格子だけの簡易的な牢屋。恐らく一時的なもので今後もっと厳重なものに入れられるハズだ。つまり破って脱走するなら今が丁度いい。しかしそれだと法的にマズイことになる)

 強化ガラスと鉄格子の本来は十分すぎる拘束力を持った二つを、簡易的と評した影雪。そのまま更に頭を回す。

(オレが逮捕された理由は暴行と殺人。いや、これだけじゃオレは逮捕されねー)

 そう、そもそも『司る能力者』である影雪は大体の事なら現場で見つかっても、多少のやり取りをすれば終わることだった。しかし、今回はそのやり取りすらなく、初めての事情聴取どころか牢屋にすら入れられる始末。とても尋常な自体とは言えない。

(……やっぱ、アイツの死体を使ってハメられたのがマズかったか……)

 影雪は不機嫌そうに舌を鳴らし、近くの壁を八つ当たり気味に能力を使わずに殴りつける影雪。あまり音は鳴らず、大した破壊も起こらないが、それでも多少は虚しさによって苛立ちが打ち消されたこともあり、多少は冷静になった影雪。そして、そのまま自分の記憶の中へと潜り込む作業を開始した。





 これは、ほんの数日前の話だ。

「よう風折」
「……誰だ?」

 駅で妹こと風折雪花と共に電車を待つ風折影雪に声をかけたのは、二十代程の男だった。
 銀の髪を横分けに整えている、身長の高いスラリとした男である。優男と言った感じでその容貌は暑苦しさなど一つも感じさせない涼しげで余裕のある雰囲気を纏っている。

「……三田クンかよ。要件はなんですか?」

 声を掛けてきた男のことを影雪は知っていた。この名前は三田瑠伊(さんだ/るい)。歳上の彼に影雪は取り繕うように敬語を使っていた。最も、隠す気がないらしく言葉の節々から本音が溢れ出ているのだが。

「ははっ。相変わらず棘のあるやつだな」
「アンタが馴れ馴れしいんですよ」
「……えっと、お兄さん。この方は?」

 雪花が戸惑うようにして兄に尋ねると、途端に三田が彼女の方を向いて恭しい様子になる。

「初めまして。私は三田瑠伊。『司る能力者』の一員です」
「あっ、そのっ、初めまして。妹の雪花と申します!」

 慌てた様子で挨拶を返す雪花を見て、キョトンとしたように影雪と雪花を交互に見比べる。

「……何か言いてーんですか」
「いや、お前達ほんとに兄妹なのかな……とか」
「れっきとした兄妹だっつの」

 険悪な眼差しを隠そうともしない影雪を、なんと雪花が間に入って和ませようとする。妹に弱い影雪は、すぐに険悪そうな目線を止め、普通の目線で三田を睨み付けた。それに雪花がもっと困惑したのは言うまでもない。
 三田が居づらそうに頭をかいたところで、ちょうど駅にけたたましくチャイムが鳴った。どうやら電車がもうすぐ着くらしい。と影雪が推測すると、案の定と言うべきか、数秒後には電車が三人の目の前に停まった。

「行ってきますね。兄さん」
「ああ、行ってらっしゃい」

 そう言葉を残して、電車の中へと乗り込む雪花。影雪が手を振ると同時に電車が動き始め、それが段々と小さくなり見えなくなったところで、影雪は三田の方を振り返った。

「で、要件はなんだ」

 ほんの少しだけ、違った顔つきで。

「……妹の前では良い兄で居たい、か。分からなくもないな」

 雰囲気の豹変した影雪に一瞬だけ顔を顰めるものの、少しヨレたスーツのネクタイを締める動作をして顔を締まらせる三田。
 
「さっさと話せ。こっちはそこまで暇じゃねーんだよ」

 あからさまに睨み付けるような視線を送り威圧する影雪と、それに気圧されつつも慌てて要件を話そうとする三田。

「わかったわかった……と、言いたいところだが、コイツがちょいとばかし話しづらい用件でな」

 すると、三田は途端に影雪に耳打ちするかのように、というか実際にしようと顔を近づけた。

「明日の午前。b-5の工場地区。場所は追って電話で言う。お前を信用しての事だ。いいか、誰にも話すなよ」

 そう言うと、三田はそのまま早足でその場を離れてしまった。
 影雪は引き止めるなどということはせず、ただただ思考を回転させていた。

(アイツが俺に何の用だ?)

 今まで馴れ馴れしく絡んできたものの、アイツが俺に助けを求めたことなんてねーんだがな。などと小さくポツリと呟いた影雪。頭の中では二つの可能性があった。
 一つは本気で困った個人的事態。もう一つ何かしらの取引。そして──影雪への襲撃。
 少なくとも、三番目は無いだろうと影雪は踏んでいた。何故なら、『司る能力者』には現在同盟が課せられ、『司る能力者』同士が争う事は禁じられているからだ。
 だが一つ目にしろ二つ目にしろ意味が分からない。影雪はDHAの一件を除いて何か隠された情報を握っているわけでもなければ、三田から何か依頼されるほど親密な訳でもない。彼の思考が全く掴めない影雪は、少しだけ屈辱を感じつつ地面を蹴るしかない。
 結局、影雪は考えても無駄と切り捨てて、その場を離れることにした。どうせ少し経てば分かることなのだから、と。

Re: 超能力者と絶対に殴り合う能力 ( No.272 )
日時: 2018/02/09 20:51
名前: 波坂 ◆mThM6jyeWQ

『三田さんについて?』
「あーそうだよ。なんか知らねーか」

 影雪は帰りの途中で、情報収集がてら電話を掛けていた。相手は、あのシャドウウォーカーの副長、聖林寺である。

『……特に素行が悪いみたいな事は記憶に無いわ。何方かと言えば礼儀正しい方ね』
「……それ以外に話すことねーのかよ」

 あまりに聖林寺がどうでもよすぎる情報を話すものだから、思わず皮肉っぽく返してしまう影雪。

『…………』
「…………できれば図星じゃねーほうがありがてーんだが」

 だが聖林寺が黙ってしまったことにより、思わず頭を抱えてしまう事態となる。自分よりも長くこの世界で生きてきた聖林寺すら彼の情報をあまり持ち合わせていないのだ。これはオレが探しても無駄なんだろう。と影雪は思わざるを得ない。

『……一応、彼はサラリーマンとして働いているわ。業務内容は……とても明かせない方らしいけどね。私も詳しく知らない』
「謎に包まれ過ぎだっつの。めんどくせーな」

 少し影雪が苛立ち気味に足元の小石を蹴る。少し速いスピードで転がって行く。が──何かにぶつかりその動きを止めた。
 影雪がそちらに目を向けると、あまりに唐突すぎてギャグにしか見えない光景が目に広がっていた。

「……ギャグにしちゃ随分とナンセンスだな……」

 それは、歩道のど真ん中で倒れた女性の姿だった。いや、寝ているとも取れなくはないが、にしてもあまりに非常識だ。
 青痣のような青紫色のボサボサ髪。ケアが行き届いていない事が、あまりそちらに詳しくない影雪でも見て取れた。
 泥だらけのパステルブルーのパーカーには大量の汚れが身に付いており、またそれは彼女のヘソから下を隠し切れていない。右脚部分が破れて露出しているよれよれのジーンズによって女性の尊厳は守れているが、完全にヘソだしファッションである。
 近くにはボロボロで穴が空いた茶色いキャスケットが転がっており、全体的に泥やらで不潔だ。何か火傷でも負っているのか、腕と脚にまるで手袋や靴下のように包帯を巻きつけている。その少女──と言うには少し身長の高い、具体的には174cm程の少女が、幸せそうな表情で路上で寝ていた。

『どうかしたのかしら?』

 先ほどの発言の真意を聞いてくる聖林寺に、影雪はその状況を説明する。

「────」
『ああ。多分セツナちゃんね。憂海セツナ(うつみ/せつな)ちゃん。要約するとホームレスやってるわ』
「ホームレスはやりたくてやるもんじゃねーけどな」

 発言を訂正しつつも、聖林寺の情報力に下を巻く影雪。むしろこれほどまでに、具体的には路上に倒れている人間の名前を言い当ててしまうだけの情報量を持つ聖林寺ですら正体が掴めない三田というものは、一体何者なのだろうか。
 そこまで考えを巡らせたところで、ふと影雪が思ったことをいう。

「オイ、コイツ放っておいて大丈夫なのか」
『大丈夫じゃないわね。その子いつもはもっと人が少ないところにいるもの。その辺りにいるなら、多分仕事でも探しにフラフラしていたんじゃないかしら』
「仕事?」
『彼女は一応能力者よ。他人から依頼を受けるタイプのね。だから私も同じ仕事をした事があるけど──私はその子ほど素直な子を見た事がないわ』

 決して良い意味でも無いけどね。と付け加える聖林寺。彼女の口調には少し何か含まれているような気がした。
 が、影雪はそんなことには毛頭気付かず、セツナの近くに言って頬をペチペチと叩く。暫くそうしていると、その目がパチリと開けられた。群青色の瞳だった。

(……コイツ、臭うな。普通に臭いのもあるがそれだけじゃねー。鉄臭い。鉄の臭いなんか普通は付かねーんだよ)

「ううん……ん? 君は……誰?」
「風折影雪。ちょいとばかりお聞かせ願いてー事があってだな」
「……朝ごはん付きなら」
「オメー……図々しい奴だな」

 あれから影雪は電話を切った後に適当なファミリーレストランに入った。九時ごろということもあり、まだまだ店内は席に余裕がある。
 席に座ってメニューを雑に渡す影雪。

「それで、私に聞きたいことって?」
「オメー、三田瑠伊って名前に聞き覚えあるか?」

 メニューをパラパラと捲りながらセツナが答える。

「あるよー」
「……マジかよ……」
「それでサンダがどうかしたの?」
「ああ、そいつの事何か知ってねーか?」

 影雪は完全にセツナから聞くことは諦めていたのだが、意外なところに情報というものは落ちているものだ。少しだけ驚きを隠せない影雪は質問を続ける。

「すみませーん。……えーと、私はこれとこれで。カゲユキは?」

 だがセツナは完全に質問を黙殺して注文を始めた。来た店員があまりの不潔さに驚いているが、影雪はそんなことなど露知らず、ただため息を漏らすだけだった。

「いらねーよ。こちとら朝はしっかり食って来てんだ」
「あ、そう。じゃあこれとこれも追加で」
「えーではご注文の確認をさせていただきます。──以上で宜しいでしょうか」
「はいよー」

 一連のやり取りを終えたセツナは、やがて影雪の方へと視線を向ける。

「少し前だけど、なんか訪ねてきたんだよね。いざという時は力が借りたいとかなんとか。いいよーって返したら、私がいつもいる場所を教えて欲しいとか言ったっけ?」
(……ダメだ。全く糸口が掴めねー)

 その後もセツナの話す内容は全て全く意味が分からないものばかりで、影雪にとってはとても有益な時間とは言えなかった。

「……それで全部か?」
「そ。後はもう無いかな」

 注文した料理を口に運びつつ答えるセツナ。一方影雪は伝表を手に取って内容を眺める。

「一人で四品も頼むか普通……」
「食べられる時に食べとかないと持たないんだって」

 そう言えば、と先程聖林寺から聞いたことを思い出す影雪。セツナはホームレスということを。
 影雪は基本的に他人には無干渉な人間だ。誰かと関わりたい訳でもなければ、誰かから思われたい訳でもない。彼がそういった感情を抱くのは妹の雪花のみであり、彼女が世界と影雪を繋いでいると言っても過言ではない。
 だが、そんな影雪にも、多少の温情や憐れみというものはある。枯れてしまっただけで、死んではいない優しさというものもある。

「じゃ、俺は帰る。金はこれで払いな。釣りはいらねーからよ」

 影雪はそう言って、財布の中にある万札を三枚ほど抜き出してテーブルの上に置いた。影雪の見た伝表の総額は、3000円も超えていなかったにも関わらず。

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