複雑・ファジー小説
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- The Shadow of Death
- 日時: 2015/10/27 22:07
- 名前: Raid (ID: IpYzv7U9)
- 参照: http://www.kakiko.info/bbs2a/index.cgi?mode=view&no=302
《これから先、グロ表現があるため閲覧注意》
【予備知識】
『ヴァルトー』
研究都市。閉鎖的であり、特別な許可が降りない限りは外部から入市することは不可能。様々な研究が行われているが、そのうちの多くが闇に包まれている。一応一貫性の教育施設など、町としてきちんと機能している。
今回、その都市で事件が起こった。
『対ゾンビ部隊』
主人公が所属。名前の通りゾンビの掃討を目的とする。隊員はすべてゾンビ血清を打っている。
『ゾンビ血清』
『ゾンビになるまでの時間を先伸ばしにできる』薬。本来、ゾンビから噛みつかれると30分から10時間程度でゾンビに変異するが、それを先伸ばしにできる。しかし、効果が切れると先伸ばしにした分が一気にやってくる。
こんばんは、Raidと申します。今回は、はじめてのゾンビものを書きたいと思います。ゆっくりのんびり更新していきます。
URL先にてオリキャラを募集しています。ぜひお立ち寄りください。
- Re: 夢は夢のままで夢を殺す ( No.1 )
- 日時: 2015/10/25 20:02
- 名前: Raid (ID: IpYzv7U9)
【第1話】
シリンダーを押し込み、血管を押し広げながら液体が体内に侵入していく感覚に鳥肌を立てる。
これは延命である。終わりを遠ざけるため『だけ』の薬だ。そして、それだけの効能でありながらも使用者に多大な影響を及ぼすことも確か。
男はゾンビ血清の入っていた注射器を投げ捨てた。まだゾンビに噛みつかれてはいないが、念のためだ。知らない内にゾンビの体液を摂取してしまったかもしれないし、第一これから噛まれるかもしれないのだから、やっておくに越したことはない。
男は不機嫌そうな顔でため息をつき、天井を見上げた。彼がいるのは、『ヴァルトー』内唯一の高等学校『藍染高校』だ。どうやら、校内の生徒もゾンビに襲撃され、ゾンビになったり絶命してしまったようだ。この保健室に来るまでに何体ものゾンビの脳や心臓を潰したことか。お陰で着ている服はいやにねばつく体液でどろどろだ。
男ーー霧嶌御景は、白いシーツのベッドに倒れこんだ。訓練を積んできたとはいえ、この数のゾンビを対処するとかなりの疲れが来た。眠気の波が襲ってくる。
少し笑えた。
狂ってる、そう思った。俺は、どこかおかしい。
鍵をかけた小さな密室に一人きり。その部屋はゾンビに包囲されているのに、普通に眠れるなんて。
ゾンビとは言え、もとは人間であったものを躊躇いなく殺し、穏やかに眠れるなんて。
いいや、俺がおかしいんじゃない。決して。
何がおかしいかって? 簡単な話だ。『全て』さ。
いま、何かがとてつもない力で歪められている。その音を耳ではないどこかで聴きながら、御景は静かに目を閉じた。
【36時間前】
「今まで騙していてすまなかった。君たちが所属している『ヴァルトー警ら隊』は、実はこの世に存在しない幻の組織だ。君たちの本当の名前は『対ゾンビ部隊』。ーー私が秘密裏に作った部隊だ」
訓練棟の講堂に集められ、言われた言葉。
壇上でマイクもなしに声を張り上げる男のその言葉に、兵士がどよめく。その声の渦のなかに、御景もいた。
対ゾンビ部隊。そんな漫画チックなネーミングに誰もが笑った。
ーーはずだった。
今日がいつも通りの1日であったならば。
「君たちも知っているだろう。今朝、体液感染で増殖する生命体ーーいわゆるゾンビが発生したことを。隊員が数名犠牲になったとも聞いた。恐ろしいことだが、すまない、私はこれからもっと恐ろしいことを言わなければならない。
君たちは、いや、君たちがゾンビと戦わなくてはならない。君たちが今まで受けてきた訓練ーーあれは全て、このような事態が起こることを想定して行われていたんだ」
本当にすまない。
男はそれを何度も繰り返し、大量の注射器と絶望だけを残してその場を去った。
戦わない奴らは死んだ。人間ではなくなった。
弱い奴らは死んだ。人間ではない物になった。
そして、強い者たちは無慈悲に全てを悟った。
そして、今に至る。
【第1話・完】
- Re: 【ゾンビもの】夢は夢のままで夢を殺す ( No.2 )
- 日時: 2015/10/25 22:45
- 名前: Raid (ID: IpYzv7U9)
【第2話】
微睡みはすぐに途切れた。腕時計を見ると、15分程度しか眠っていないということがわかった。しかし、それでも十分体は軽くなっている。
御景はじっと入り口のドアのすりガラスに目を凝らした。黒い人影が蠢いている。おおよそ、『生きている人間の気配』に引き寄せられたゾンビがドアを押し破ろうとしているのだろうが、先ほど、小さく『意味をもった言葉』が聞こえた気がしたのだ。そのせいで眠気はすっかり飛んでいってしまった。
ゾンビと戦っていてわかったことだが、ゾンビは理性を持たない。故に、『意味のある言葉』を発することが出来ない。出来たとしても。赤ん坊のような喃語程度だ。
つまり、さきほどの声が空耳でないとしたら、生きている人間がいるということだ。
そしておそらくゾンビに襲われ、助けを求めている。
御景はそろりとベッドから降りると、ドアに近寄りそれに耳を押し当てた。
肉の塊が蠢く音、意識のない声がくぐもって聞こえる。思っていた以上に多くのゾンビがドアに押しかけているようだ。このままここにいたら、近いうちにドアも破られてしまうことだろう。
しかし御景は考えあぐねていた。ドアの向こうにいるらしき『人間』を助けるか否か。そもそも、それが本当に『人間』なのかすらもわからないのに。
「……れか……誰か……っ!」
聞こえた瞬間、御景はドアに体当たりをかましていた。自らの役目を思い出したからだ。御景の役目はゾンビから逃げることではなく、それと戦うことだ。
アルミ製の引き戸は、本来加わらない方向からの強い衝撃に耐えかね、サッシのレールから外れて外側に倒れる。更に御景はその板きれに強く蹴りを入れて、ドアの前に集っていたゾンビを吹き飛ばした。そしてそのまま支給品の鉈で頭蓋をたたき割る。
数分ぶりのその暖かな感触に顔を顰めながら前を見やる。大きな物音を立てたせいか、先ほどよりゾンビの動きが激しくなっている気がする。
その中、明らかに他とは違う動きをしているものを見た。
「おい、お前生きてるのか!?」
次々と蔦のように伸びてくるゾンビの腕を引きちぎりながら猛進する。気味の悪い密林であったが、なんとか噛まれることなく無傷で切り抜けることができた。何匹かまだ動いているゾンビもいたが、とどめを刺している暇などない。それよりも生存者の確認のほうが重要だ。
「だ、誰……?」
か細い声がすぐそばから聞こえた。驚きつつも頭を巡らせると、自動販売機と自動販売機の間にあるゴミ箱の裏に少女がうずくまっているのが見えた。
「無事か。ーー怪我は? 噛まれたり、ゾンビの体液が目とか口とか傷口に入ったりしてないか」
「た、多分大丈夫……です。どこも怪我してないし……」
差し出した手に、おそるおそるといった体で掴まって立ち上がった少女は、薄汚れてはいたものの怪我などは見た限りではなさそうだ。御景はひと安心する。まだ理性がある人間を殺すのは流石に抵抗がある。
「あの……わたし梅宮螢(ウメミヤホタル)っていいます。あなたは……?」
「霧嶌御景。他に生存者は見ていないか」
少女ーー螢はどうやらこの高校の生徒のようだ。今日は平日であるから、きっと授業があったのだろう。つまり、他にも生徒がいたはず。
しかし螢は青ざめた顔で首を横に振った。
「せ、先生がいきなり……生徒を……た、食べて……それで友達もみんなおかしくなって……それでわたしなにもできなくて……」
相当な恐怖だったのだろう。螢はそれだけ言うと、不自然な呼吸を必死で繰り返しはじめ、へたり込んでしまった。
過呼吸か——。
御景は傍らにしゃがみ込んで彼女の背中を宥めるように摩ってやることしかできなかった。
いつゾンビが襲ってくるかわからないが、今はただそうすることしか出来なかった。
【続】
- Re: The Shadow of Death ( No.3 )
- 日時: 2015/10/27 23:44
- 名前: Raid (ID: IpYzv7U9)
「落ち着いたか」
暗がりで問いかける。かたわらには青い顔をした螢が蹲っているが、先程よりはずっと冷静さを取り戻しているように見える。はやいうちに彼女の過呼吸が治まってくれて良かった。激しい呼吸音はゾンビを呼び集めかねない。
「すみません、取り乱しちゃって……」
「……別に普通だろ」
少なくともオレよりはずっとマシだ、と心のなかで付け加えた。こんな状況でおかしくならない方がおかしい。御景は平静な自分が嫌いだった。否が応でも、このグロテスクな現実を直視するしかない自分が。現実から逃避することさえもできない自分が。
とにかく、ここにとどまり続けるのは賢明ではない。動ける空間が限られている建物のなかにいれば、それだけゾンビと鉢合わせする確率も高くなる。多少のリスクをおかしてでも、少しでもひらけた屋外に出ることが必要だ。
「外に出る。歩けるか?」
「はい」
思っていたより力強い声が返ってきた。そこで無理だのどうだの言うやつだったら問答無用でおいていくつもりだった。
蹲った螢に左手を差し出す。驚いたようにこちらを見上げる彼女の瞳は鮮やかな緋色をしていて、強い意志のようなものが見えた。その力強さに目をそらしながらも、おずおずと重ねられた手を引いた。
ゾンビたちは御景たちを見失って散開してしまったのか、廊下にはまばらにしかいなかった。保健室がグラウンド側に面していることを螢に教えてもらうと、保健室へ引き返してガラスを割って外へ出た。
それにしても驚いた。螢のタフネスさにだ。
床に臥しているゾンビの残骸は螢と同じ制服を着ているものが多かった。そしておそらく、彼女が知っている人物もあったのだろう。苦しげに顔を歪めながら、足元をずっと見ていた。しかしそれでも足を止めなかった彼女の精神は、年相応のものではないように思える。
「いったいどうなってるんですか?」
「よく分からないが……お前が見たのと同じような現象がこの街の至るところで起きてる。ーーそれに、通信塔が壊されてヴァルトーの外部に連絡ができない」
「……助けは来ないってことですか?」
「平たく言えばな」
グラウンドを小走りで突っ切る。気づけば夜だった。この状況の異常さに感化されたのか、月すらも血染めのように赤くなっている。
「あの……兄は無事なんでしょうか」
「兄?」
「あ、えっと……私の兄、梅宮晃は『ヴァルトー警ら隊』に入ってて。それで霧嶌さん、兄と同じ制服を着てるから、知ってるんじゃないかと思って……」
『梅宮』。
どうして気づかなかったのだろう。
梅宮晃はかつての同僚であり、
そして、御景が初めて殺したゾンビだったというのに。
冷たい耳鳴りがした。
「………大丈夫だろ。いままでちゃんと訓練を受けてきたわけだし」
【第2話・完】
- Re: The Shadow of Death ( No.4 )
- 日時: 2015/10/31 18:45
- 名前: Raid (ID: phd3C.MK)
【第3話】
学校から出ても、それでもゾンビは街に溢れていた。御景が思っていたより、ずっと被害は甚大なのかもしれない。そもそも、ヴァルトーは閉鎖都市だ。感染範囲が狭いぶん、感染速度は早くなる。生き残れるかどうかは時間の問題のように思われる。
まだ御景も螢もゾンビに噛まれたりしてはいないが、御景の体にはとある異変が起きていた。
ーー臭わないのだ。何も。
およそ40時間ほど前からゾンビを殺し続けてきたわけだから、当然服や体は血みどろだ。しかもゾンビはただの死体より数倍の速度で腐乱するようで、おぞましい肉の色をしてそれでもなお蠢いている。それなのに、一切の臭いがしない。
螢に『臭うか?』とひとつ尋ねたとき、彼女は吐き気がするほどに町中の空気が悪いと言った。
御景の嗅覚は異常を来している。
理由はひとつしか考えられなかった。ゾンビ血清だ。
五感のうちの1つが失われるとはとんだ薬だ。しかし逆に、臭いがわかるようになったとき、それが血清の効果切れを教えてくれるのだとも考えられる。血清の効果切れも考えられると、用意されていた打ち直し分以外に、死んだ同僚から血清をくすねてきた甲斐があった。
ありがたいのかそうでないのかよくわからない、そんな副作用に不安定さを感じながら御景は歩いた。
【一時保存】
- Re: The Shadow of Death ( No.5 )
- 日時: 2015/11/09 18:32
- 名前: Raid (ID: wECdwwEx)
ゾンビの人口密度が校舎内とくらべて低いとはいえ、街はやはりゾンビで溢れていた。もともと小さな閉鎖都市であったものだから、仕方ないといえばそこまでだった。
ただ困るのは、今は日が落ち、街灯や看板以外の光源がないということだ。路地からゾンビが飛び出してきてヒヤリとすることも少なくない。
(一時保留)
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