複雑・ファジー小説

ROCK IN ECHO!!
日時: 2016/05/05 02:13
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6

こんばんは。りちうむです。この名前では二作目になります。
今回はリク板でオリキャラを募集し、多くの方に協力していただいた作品です。今は募集を締め切りましたが、話が進んできたらまた新たに募集するかもしれません。
それでは、今回もよろしくお願いします。

■アテンション
・主に邦ロック関係のパロディネタが多いです。
・一話完結になっているので、好きな話から読んでください。
・ときどき会話にR15程度の内容が入ります。
・感想はもちろん、「これはちょっとやりすぎでは?」なんてものがあれば教えてください。たぶん消します。

■もくじ (多くなったら移動します)
1◆ スタジオにて >>2
2◆ 東京 >>3
3◆ ギャップ >>4
4◆ ある平日 >>5
5◆ ある休日 >>6(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編1)
6◆ 誘い >>7(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編2)
7◆ 前々日 >>8(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編3)
8◆ 前日 >>9(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編4)
9◆ 飲み会 >>10
10◆ 合同練習(1) >>11->>12(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編5)
11◆ 合同練習(2) >>13(ECHO×あみゅがる×花筏合同練習編6)
12◆ 昼下がり >>14
13◆ 彼女 >>16
14◆ ともだち >>17
15◆ 事故 >>18
16◆ 港町 >>19
17◆ 昔話 >>22
18◆ 異変 >>23
19◆ 後輩 >>24
20◆ ALTER ENEMY >>25
21◆ 前座 >>26
22◆ カラオケ >>27
23◆ 劣等 >>28
24◆ ともだち >>29
25◆ 同期 >>30
ロックは死んだと誰かが言った >>31->>32
■主なバンドと登場人物
>>1

■お手伝いしていただいた方
ランゴスタさん/結縁さん/今日さん/Rainさん/青空苹果さん/noisyさん/高坂 桜さん/哀歌さん/siyarudenさん/ロストさん/万全サイボーグさん/雅さん
ありがとうございます。

■ツイッター
@lithium_chan

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Re: ROCK IN ECHO!!  ( No.29 )
日時: 2016/04/04 23:41
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6
参照: 葵「今日は葵ちゃんの誕生日なんだよ。 プレゼント、いっぱい貰っちゃったなぁ。」

【ROCKIN ECHO/春島征一】
24◆ともだち(2)
 今日はゆゆちゃんと二人で飲みに来ている。香絵子さんはあみゅがるの三人と、最中は平ポンのみんなと、小川くんはサブタレのメンバーと急に用事が入ったらしく、居酒屋BIGのカウンター席には僕とゆゆちゃんがぽつんと座っているだけだった。別に興味もない野球中継が流れている中、ファジーネーブルを飲みながらゆゆちゃんが呟く。

 「友達が少ないって損よね、私も平ポンあたりについていけばよかった」
 「僕も花筏と仲良くしてたら高級料理とか食べられたんだろうなぁ」

 ゆゆちゃんはどうか知らないが、僕にALTER ENEMYという選択肢は最初からなかった。後輩バンドに混ざって飲みに行くなんて、なんだか同期に馴染めない人みたいで嫌じゃないか。

 「店員さん、チャンネル変えてよ」

 ゆゆちゃんが、暇そうに新聞を読んでいる店長に言う。店長は無言でチャンネルを切り替えた。出てきたのは「完璧歌いきりまショー」とかいう番組。ゆゆちゃんは満足したみたいで、そうそう、これこれ! と嬉しそうにしている。歌詞を一度も間違えずに完唱できると100万円、という企画だった。
 僕が出れば確実に100万円取れる自信があるな。中学の頃から音楽にどっぷりな僕は、メイヘムから森山直太朗までバッチリ網羅しているはずだ。たぶん。

 「そういえば、ゆゆちゃんってどんな歌聴くの?」
 「んー、いろいろ」

 オレンジ色の甘そうなお酒は、すでにグラスにほとんど入っていない。
 日本のサブカル界隈で、ゆゆちゃんはちょっとした有名人だ。独自のファッションセンスも持つゆゆちゃんは、近いうちにブランドも立ち上げたいと言っている。新しい時代のために、まだ見ぬ女の子を探すという趣旨のコンテストである「ミスkD」の審査員としても出向いていくし、サブカルっぽいフェスがあれば京都の方まで飛んでいく。
 ECHOがバラバラになったとき、一番うまくやっていけるのは多分ゆゆちゃんだ。次点で医学部に途中まで通っていた最中。小川くんもピアニストとしての仕事はあるだろう。香絵子さんも、また予備校の事務をすればいい。結局最後に加入した僕が一番、ECHOにしがみついている。三年後には隣にいないかもしれないゆゆちゃんは、何も知らずにテレビを見て笑っていた。
 なんだろう、この一曲書けそうな、哀愁みたいな気持ちは。BIGの店長さんもまたルーズな人で、僕らはいつもやりたい邦題散らかしていく迷惑な客だ。店長は僕らの前に缶ビールを二本だけ置いて、新聞に夢中になっている。その横で、僕はゆゆちゃんに話す。

 「ゆゆちゃん、ECHOって、ずっとECHOのままだよね。僕達、ずっと一緒に音楽やるんだよね」
 「当たり前じゃん」

 思わずぶつけてしまったメンヘラっぽい台詞にも、真面目に答えてくれるゆゆちゃんは本当に話していて楽だ。いや、逆に申し訳なくて、今すぐ目の前のまずそうな焼酎を一気飲みしてアル中で死んでもいいやってくらいだ。そんな僕を他所に、ゆゆちゃんは続ける。

 「誰かが死ぬか殺されるか、その時まで私たちはECHOでしょ」
 「そうだよね、うん、そうだよ」

 自己暗示のように繰り返す。何度も何度も。僕らは音楽をやっていくしかなかった。そして、それを鮮やかで、フォトショも加工もしない無修正のまま世に発信しなければいけなかった。小川くんのスキャンダルも、香絵子さんが実はedgeのボーカルとデキてるって噂も、最中の有名私大中退も、全部ひっくるめてECHOだ。僕はそれを決していいとは思わないけど、悪いとも思わない。飾る必要なんてない、泥臭さこそロックだ。

 「こういう雰囲気の居酒屋でさ、『ロックは死んだ』なんて愚痴ってるおっさんを、ぶっ飛ばすようなロックがしたいね」

 ゆゆちゃんはそう言って柔らかく微笑む。横目で見る完璧歌いきりまショーでは、ウルトラソウルを完唱した芸人が100万円を獲得していた。
 グラスの中にもう酒は入っていなくて、仕方なく缶ビールを開ける。酔いが回ってきてふらふらしてきた。小川くんだったらこんな時、ゆゆちゃんをホテルに連れ込むんだろうけど、僕は当然そんなことも出来なくて、ただ缶ビールの底を眺めている。それだけでよかった。
 普段から甘い酒ばかり飲んでいるゆゆちゃんは、缶ビールに口をつけて苦そうにしていた。時刻はもう午前0時を過ぎているのに、まだ自分の家へは帰りたくはなかった。

Re: ROCK IN ECHO!!  ( No.30 )
日時: 2016/04/16 12:12
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6
参照: 蓮太「ゲームは得意なんだ。学生時代そればっかりやってたからな」

【ALTER ENEMY/邑楽帝】
25◆同期
 双子の姉の妃(きさき)の買い物に付き合わされていたらこんな時間になってしまい、早足で駅を抜けて外に出る。これからNHKの音楽番組の収録があるから、うかうかしてはいられない。
 最近、僕の所属しているアルエネは軌道に乗ってきた。音を奏でていて、前よりレベルの高いものになっているのがはっきりわかる。通り過ぎたタワーレコードには、僕らの出したCDが並んでいた。
 ALTER ENEMYのジャケット写真やアーティスト写真は、現在美大で写真家を目指している僕の姉、妃が撮影したものだ。掲示板やブログでも、「アルエネのジャケ写は良い」と賞賛されているので、僕も誇らしい気分になる。
 僕らのCDが飾り付けられてピックアップされている、その上に貼られているポスターにはROCKIN ECHOがいた。五人でピースして、「NO MUSIC OR DIE!?」なんて、僕らの先輩は随分攻撃的な事を言う。それでも話してみると意外とみんな礼儀正しい人なのだ。特に香絵子さんが居なければ、あのバンドはここまで人気になっていないだろう。僕らも見習わなくては......と思った時、後ろから肩を叩かれた。

 「やあ、帝。久しぶりだな」

 振り返る。キリッとした金色の瞳、癖のない黒髪、シンプルな服装。友人の鼓神楽だと一瞬でわかった。僕は急いでいることも忘れて、笑顔を浮かべて挨拶を返した。
 神楽は花筏夜想曲というバンドで、ボーカルをやっている。和を基調としたバンドは今人気らしくて、動画再生サイトでもトップの知名度を誇っていた。
 そんな花筏は、女性メンバーが四人、神楽が一人だけ男性という構成のバンドだ。神楽はあの個性的な女性達をうまくまとめているのである。バンドに五人いて、自分だけ男だと肩身が狭くないか? と思ったこともあるけれど、よく考えるとうちで唯一の女性メンバーである月乃は普通に僕らに馴染んでいる。だから、神楽もそんなものなのだろう。実際、女の子みたいな顔立ちをしているし。

 「調子はどう? 神楽くん」
 「まずまず、ってところだな。最近アルバムのリリースが決まったんだ」
 「良かったじゃん」

 店の前のベンチに腰掛けて、僕らは会話を始めた。春の心地よい風が、街路の桜をひらひらと飛ばす。
 春といえば、花筏夜想曲だ。このバンドで一番ヒットを飛ばしたのは、桜を題材とした曲で、とても完成度の高い曲だった。僕はその曲を口ずさみながら、スマホで時刻を確認する。ここからスタジオまでは近いので、まだ話をしていても大丈夫だろうと判断した。

 「ところで、花筏は本当に良いバンドだよね」

 洗練された、シンプルなメロディーライン。和楽器の雅な響き。僕は花筏が好きだった。edgeやECHO、アルエネはロックというジャンルを地で行くようなバンドだけど、サブタレや平ポンがあるように、こんな雰囲気のものがあっても悪くない。

 「俺は、アルエネみたいなロックも好きだぞ」

 神楽はそう言って、僕らのCDの感想をつらつらと述べ始めた。
 一番最初のギターリフのこと、回りくどい手を使わずに音楽を盛り上げてくれるドラムのこと、花筏では和楽器やキーボードに隠れてあまり目立つほうではないベースの音がはっきり聞こえること。神楽はよく聴き込んでくれたようだった。

 ギターについては、僕はまだ始めて日が浅い。花筏のギターパートである玲瓏さんを見て学ぶこともあるし、edgeや平ポンのギターの技術の高さには閉口してしまうこともある。しかしこうして褒めてもらえると、素直に嬉しいものだった。
 ドラムに関しては、このあたりのバンドならうちの和泉に適うものはいないと思っている。同じレーベルの先輩である香絵子さんの手法を一蹴して、独自の技術で勝負する和泉は、アルエネをそこらのバンド達から大きく引き離してくれた。ただ、先輩達並に炎上芸が得意なのは、なんとかして欲しいと思っているが。
 この前もラジオで、花筏のファンに反感を買っていた。発言一つで掲示板は荒れに荒れて、今やアルエネのラジオは「いつか絶対やらかす」と話題になっている。しかし先輩の春島さんも、あみゅがるのももこさんのことを「あの葬式みたいなギター」とラジオで評価したし、サブタレの八乙女さんの「今どき、まだギター使ってるの?」っていう発言も大きな話題になった。ミュージシャンには攻撃的な人が多い。
 うちのベースの千尋は、その真逆のような人だった。温和で常識的で、でも少し抜けている。月乃と並ぶムードメーカー的存在で、それでもベースのテクニックは頭一つ抜けていた。edgeの高村さんをはじめ、奇抜なライブパフォーマンスで有名になった平ポンの高橋さん、シンプルに上手い雪村さん、あみゅーず・がーるを実力派バンドに持っていけると噂されている神宮寺さんと比べてもまったく引けを取らない。

 「ところで、帝はどんな音楽を聴くんだ? 俺も、最近時間が出来たからこの機会にほかのバンドの勉強をしたいと思ったんだ」
 「うーん......あ、最近出てきたWANTEDってバンドは凄いよね。普段聴く音楽って言ったらさ、けっこうバラバラなんだけど」

 すぐ後ろのタワレコでは、アルエネがきらびやかに飾り付けられて売り出されている。その後ろにはedgeの棚があって、ほとんど空になっていた。CDが売れなくなったこの世の中で、edgeは軽々とヒットを飛ばしていく。
 そうこうしているうちに、アルエネで定めた集合時間が近付いていた。
 携帯を見ると、「電車間違えたので遅れます」と千尋から連絡が入っている。何年ここに住んでるんだよ、と笑いそうになるけれど、今回だけは助かった。僕も少し遅れるかもしれないと連絡を入れて、神楽と世間話をしながら歩き出した。

Re: ROCK IN ECHO!!  ( No.31 )
日時: 2016/04/30 20:04
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6
参照: エミ「音楽も本も、私の世界観を表現できたらそれでいいかなって」

(不定期連載・ロックは死んだと誰かは言った)◆1

 ジャズが死んだ。その知らせが私の耳元に入ったのは、五月病でぐってりしていた2022年某日。我々にゴールデンウィークなどはない。祝日をマッキーで塗りつぶしたカレンダーは、さながら戦時中の月月火水木金金のようだ(余談だけど、これって「月曜から夜ふかし」と「Mステ」が週二で見れて結構幸せじゃないですか?)。

 届いた手紙の差し出し主は、有名なお偉いさんの音楽プロデューサー、青木音蔵さん。手紙には「ジャズが死んだので、送別会を来週行います」。一緒に手紙を見ていたゆゆが、ぱちんと手を打って叫んだ。

 「......や、やっと! あたしたちの時代が来るのね! ジャズが死んだ、これからはロックが息を吹き返して、2020年代はあたしたちのものになる!」

 最中みたいなことを言うんだなぁ、と思いつつも、私もゆゆと同じ気持ちだった。
 正直のところ、私もジャズにはうんざりしていたのよ。代表格はWONTED。最近服屋で流れてるナンバーワン(二位はサブタレ)。
 有名な音楽ブログの「アンダーグラウンド・タイムズ」でも、今のロックバンドでまともなのはedgeだけ、平ポンはサブカル御用達、ALTER ENEMYはこれから伸びる(かもしれない)くらいにしか書かれていない。edgeに関してはもはや言葉を並べる必要もないので、最近みんなが注目しているのはもっぱら「ジャズ」だった。
 WONTEDっていうジャズバンドは、そのてっぺんにいるような奴ら。なんだか見るからに人が良さそうで憎めないボーカルトランペット、あみゅーずがーるに姉妹が居るという驚異のギター、それに負けず劣らずの、雪村ゆゆが尊敬の意を示すレベルのエグいベース、驚きの若さに嫉妬したくなるドラム、小川の100倍くらい良い子そうなキーボードで構成されている。うーんキャラ濃い。平ポンもそうだけど、昨今の音楽業界は面白い人が多いね。

 でも、なんでジャズがいきなり死んだんだろう? WONTEDは今人気絶頂期だ。誰かが不倫とかして解散? いやいや、ECHOじゃあるまいし。頭にそんなことは浮かんだけれど、「ジャズの送別会」っていうなんとも魅力的な単語に私の頭と心は完全に持っていかれた。どんなロックパーティーになるんだろう。今のうちに披露する曲を決めておかなきゃね。これからは、ロック一強時代の始まり。ジャズの将来を見込めなくなった青木さんは、超絶ロックバンドのECHOを見てさらにもう一段階上のステージに連れて行ってくれるんだろう。やっとECHOが上の舞台に上がる日が来たのね。武道館でライブとかできるのかな。

 「どしたの、二人ともそんなにはしゃいで」

 ここで、スタジオに帰ってきた男子三人衆。今日は三人でスポーツジムに行ってきたらしい。仲がいいのはいい事だけど、それ私の金で契約してるんだよね。

 「聞いて、青木音蔵さんのパーティに呼ばれたの!」

 ゆゆはそんな私の心境を無視して、手紙を見せる。
 こんなの嬉しくないわけがない。私たちは、いつぞやの「edgeの前座に決まった時」並に喜んだ。ECHOの時代が、始まろうとしている。

Re: ROCK IN ECHO!!  ( No.32 )
日時: 2016/05/05 01:03
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6
参照: 霞「たまに、昔のギターの方が好きだったって言うファンがいるんだけど、どういうことなんだろ?」

(ロックは死んだと誰かが言った◆2)
 ジャズが死んだらしい。
 もっとも、ジャズというのは音楽のジャンルのことではなくて、有名な音楽プロデューサーの青木音蔵さんの飼い猫の名前なのだが。

 「猫が死んだくらいで、大規模に送別会することもなくなーい?」

 昼下がり。平成ポンデライオン。私。隣でサイダーを飲んでいた霞に問うと、彼女も私と同じ意見だったようで、

 「そうそう、ほんとそれ。お偉いさんってなんか緊張するから嫌いなんだよね、葬式ってなればもっとマナーとか気にしなきゃいけないしさ」

 と面倒そうに言った。
 確か、アルターエネミーあたりには猫好きな子がいた。その子は誘われたら行くだろうけれど、正直私は青木さんの猫に会ったことも無いし、どちらかというと犬派だから霞同様気乗りもしない。
 多分これをほかのメンバーに話したら、瀬佐くんは「いーじゃん、お酒も飲めるし美味しい料理出るし」と楽観的に言うだろうし、高橋くんはこっち寄りで、「それに行くくらいなら家でB級映画でも見てた方がまだマシだ」と言うだろうし、朝縹くんは「楽しそうだから賛成!」ってはしゃぐだろう。葬式だから楽しくないよと私が言っても、朝縹くんは結局何でも楽しくしてしまうから結果オーライというやつだ。

 ところでこの送別会って、みんな呼ばれてるのかな。
 一度青木さんと会っただけの平ポンが呼ばれているということは、edgeはもちろんのこと、ECHO、あみゅがる、サブタレ、アルターエネミー、花筏、その他もろもろもきっと呼ばれている。なんか、夏フェスみたいなラインナップだ。猫だけでedgeを呼べるなんて凄いなあと私は思いながら、霞と同じ味のサイダーをストローで啜った。

 数時間後。ファッション雑誌のインタビューを受けていた瀬佐くんと、今度のドラマの打ち合わせをしていた高橋くんと、そのへんをジョギングしてくるつもりが間違って電車に乗ってしまってプチ旅行をしてきた朝縹くんがスタジオに揃ったので、例の話をすると、やっぱりさっきの予想通りの反応を、三人とも見せた。ひとつ違ったのは、朝縹くんにはきちんと死生観があって、そっか、青木さんの猫かわいそうだねって言ってたこと。

 「しかし、紛らわしい手紙だな。これだとロッキンエコーあたりが、『ロックは死んだ』的なノリだと勘違いして今頃騒いでたりしてな」
 「えー、そうかな。ECHOは意外と高学歴揃いだし。それはないよー」

 興味がなさそうに手紙を見ながら言う高橋くんと、その背中をポンポン叩きながら、後ろから手紙を覗き込んでいる朝縹くん。
 KO大医学部中退の最中くん、紅山学院大卒の小川くん、フェイリス女学院在学中のゆゆちゃんは確かに高学歴かもしれないけど、香絵子ちゃんは高卒だしハルシィに至っては中卒なんだけどな。ていうか、この話に学歴は関係ないでしょ。

 「ジャズが死んだ、ねえ」

 瀬佐くんがぽつりと呟いた。
 大学の頃、瀬佐くんはジャズのサークルを掛け持ちしていたらしい。そんな彼が言うには、「ジャズはこれから派遣を握るかもね」だって。
 ロックバンドは、edgeだけが飛び抜けて人気で、その後ろにECHO、アルエネ、サブタレ、花筏あたりが居て、あみゅーず・がーるはどちらかというとテレビタレント寄りで、平ポンはまったく違う世界観を形成している。
 そんな淘汰されたような音楽業界で、本格的なジャズをやり始めた、「WONTED」っていうバンド。これからはこのバンドが流行るらしい。

 「......そのうち、ロックは死んだなんて言われて、ロックの送別会なんてのがあるかもね」

 サイダーを飲んで、外を見る。人でたくさんの、灰色の五月。これからの収録が終わったら、またみんなそれぞれの仕事へ向かうのだろう。
 昼下がり、時間はゆっくりと流れていく。

Re: ROCK IN ECHO!!  ( No.33 )
日時: 2016/05/15 23:13
名前: りちうむ ◆IvIoGk3xD6
参照: 朗楽「交友関係は、浅く広くが一番。深入りすると面倒なことが多いよね〜」

(ロックは死んだと誰かが言った◆3)
 ジャズの葬式イベントをわざわざでかいセレモニーホールでやるなんて、青木さんはどんだけ金持ちなんだよ。
 遅く来たせいで駐車場はやたらと混んでいて、香絵子さんは近くのスーパーに車を止めに行った。僕は待つつもりだったけれど、ギターを担いだ最中と、クラシカルなレースのミニワンピースでばっちり決めているゆゆちゃんと、特に何もしていないのに謎のカリスマ感を漂わせている小川くんは足早にホールに向かってしまう。
 僕もあとを追いかけようとして、車を降りて走ると、後ろの香絵子さんはおい春島待てこら、と大声で僕を呼んだ。なんで僕だけ怒られるんだろう。

 セレモニーホールの前には、見た事のある顔ぶれが集まっていた。あみゅーずがーるの三人や、黒の着物に身を包んだ花筏夜想曲、その奥で誰かと話しているのはedgeである。夏フェスみたいなラインナップだが、今日は例外にみんな黒の喪服を着ている。
 そこから少し離れたところにいて楽しそうに話しているのは、平ポンとWONTEDだ。横にいるアリスさんをはじめとするサブタレのみなさんは、小川くんに気づいて手を降る。それにつられて、端の方にいたALTER ENEMYもこっちを向く。憎きジャズの葬式だというのに、みんないつも通りである。むしろ、このぽかぽかした雰囲気は何だろう。これからジャズをぶっ殺すんだぞ。なぜかアルエネの加賀美さんだけは悲しそうに俯いているが、彼女そんなにジャズが好きだったっけ?

 「ROCKIN ECHO、参上!!!」

 セレモニーホールの前にいた人たちがこっちを向く。ご丁寧にポーズなんか決めている三人は、葬式とは思えないほど晴れやかな表情をしている。
 その後ろから、青ざめた顔の香絵子さんが走ってくるのが視界の端に写った。なんとなく嫌な予感がして、僕はみんながいるホールの方を向く。
 そこには呆れた顔をしている人が数人、呆然としている人が数人で、僕らを歓迎しようとする人はいなかった。なんだこれ、本当の葬式みたいじゃないか。

 平ポンの高橋くんが、「な、言っただろ」と隣の朝縹くんを見る。
 やっと追いついた香絵子さんは、息を切らして「ジャズは死んでなかった」と言った。



 「猫かよ! 猫なのかよ!」

 ギターを持ったまま憤慨している最中と、ふてくされているゆゆちゃんと、あんな馬鹿をやらかしておいて周りに爽やかな顔で挨拶をしている小川くんと、二人で深刻な顔をしている僕と香絵子さん。
 僕らはセレモニーホールの出入り禁止を喰らった件について、まだ外で愚痴をこぼしていた。
 しかしなんと小川くんだけは、特別にこれから入場が許されるらしい。青木さんに頼まれて、ピアノ演奏の担当者に選ばれていたのだ。「主よ、人の望みの喜びよ」の楽譜には、「ジャズの葬式」と大きく赤ペンで書かれている。

 「ジャズの葬式って言うから、あんなに武装してきたのに」

 ゆゆちゃんの足元には、クラッカーとマラカスが転がっている。
 香絵子さんは、「死んだのは猫だけど、殺されたのは、私たちの方かもよ」と吐き捨てた。



 「いやー、それにしてもお前らの先輩はどうなってるんだよ! 気を衒いすぎてスベるって、ロックンローラー的に一番恥ずかしいやつじゃん」
 「うっせ、ほっとけよ。キャリアが上で同じレーベルってだけで、別に直接教わってるわけじゃないから。一緒にすんな」
 「僕は嫌いじゃないけどね。今回はやりすぎだけど、面白いじゃん、彼等」
 「目が離せない、ってか? あいつらは、ロックよりもポップミュージックとしての側面が強いだろ。お騒がせばっかのアイドルと同じようなものだよ」
 「edgeの前座としては、優秀だったよ。私生活のことまでは、あまりよく知らないけどね」

 「すいませーん! そこのみなさん、一緒に写真撮りませんか?」

 振り返ると、そこには可愛らしい女の人が立っていた。記憶をたぐり寄せるに、彼女はサブタレニアンの結城葵さんだろう。
 送別式は和気藹々とした雰囲気で終わり、今は外に出てみんなで話している。これから何人かで集まってご飯を食べに行こうとしたところだ。
 断る理由もないので、彼女のスマホの画面に収まるようにみんなで集まって、ピースサインをした。ありがとうございます、と笑顔を浮かべて去っていく結城さんは、次はあみゅーずがーると花筏夜想曲の方へ向かっていった。

 誰が死んだと言っても、ロックは多分死なない。ROCKIN ECHOは、たぶんこのロック氷河期だから、死んでしまうのではないかと不安になったのだろう。じゃないとジャズが死んだと勘違いなんてしなかったからな。
 明日も明後日も、その次の日も、音楽は生きている。

 (おわり)

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