複雑・ファジー小説

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魔法使いと芸術家と紫のコランバイン
日時: 2016/04/10 22:12
名前: 冶歌(イルカ) (ID: Zq2QG6kE)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=18697

「愚か者だ。みんな、僕も、君も。道化師みたいに、コランバインみたいに」

* * *

コランバイン(オダマキ)
—Columbine—
色のついた花びらに見える部分はがくであり、本当の花は中央の白い部分のみ。
花言葉は愚か。特に、紫のコランバインは勝利への決意。


こんにちは、もしくはこんばんは、冶歌と書いてイルカといいます。
カッコつけて花言葉にちなんだファンタジーなお話にします。・・・正しくは「それを目指します」。
頑張りますのでよろしくお願いします。

おもに土日祝日更新です。たまに休日でも更新できない場合がございますがご容赦ください。




『異世界は死神とともに』という異世界転生モノも、同じ板で書いています。よろしければお読みください。

Re: 魔法使いと芸術家と紫のコランバイン ( No.1 )
日時: 2016/04/24 00:31
名前: 治歌(イルカ) (ID: aWtSrojt)

0 或ル孤島ニテ


少年はいつから自分がそこにいるのかわからなかった。
何故そこにいるかもわからなかった。
ただ、波が寄せる砂浜を、一歩でも超えれば死ぬことは、〈シルシ付き〉の本能で知っていた。

少年は手首にシルシを持つ〈シルシ付き〉。主に従い、主のままに生き、そして逝く。
本能として知っていた。その束縛からは逃れられまい、と。
主の顔はわからない。会ったことはない。
手首のシルシが言っている。

島を守れ。

侵入者を、狩れ。

少年はいつからその声を聞いているかわからなかった。
何故言うことを聞くのかもわからなかった。
ただ、与えられるのは命令だけ。
命令こそが自分であり、自分こそが命令であった。

命令をやぶれば、二つの意味で死ぬだろう。
少年はそんな死が、最も恐ろしかった。

Re: 魔法使いと芸術家と紫のコランバイン ( No.2 )
日時: 2016/05/01 19:06
名前: 治歌(イルカ) (ID: aWtSrojt)

1 是ガ幕開ケ


「さあさよってらっしゃい、ご覧ください! 上物のシルシがそろってるよ!」

繁華街。

————ではなく、繁華街を横にそれた暗い路地裏の奥の奥。
ピンと伸びたシャツを着た男は、声を大きく張り上げた。

その横にずらりと並んだ女子供の手足には頑丈そうな枷がはめられ、右頬には黒バラのマークが刻まれている。
皆一様にボロを着込み、恥ずかしそうに下を向いていた。

その中で一際若い〈シルシ付き〉がいた。
茶色の長髪を流れるままにした、10に満たないほどの幼女である。
煤や泥で汚れてはいるが、顔はかわいらしく整っている。

ざわざわと人が集まりはじめた。盗賊やならず者の男達、趣味の悪そうな貴族達。
ねめまわすような視線を感じ、少女はおびえて顔を上げた。
そこには髭面の大柄な男。ひっ、と息を吸った少女の茶髪に、男は太い指を通す。

「げっげっげっ・・・おい〈売り屋〉、こいつをもらおう」
「これはこれは海賊に名高いブーデル様! では金貨30枚にございます!」

少女はそこで、見たこともないほどきらびやかな金貨を見た。嫌だ、と思う前に、手足の枷に繋がった鎖は、目の前のげひた男に渡される。

「お買い上げありがとうございまぁす! 種族はヒューマ(人)、性格は温厚ですので躾に苦労はかかりません!」

鎖が引っ張られる。連動して、少女は倒れそうになりながら前に進んだ。
後ろから声が聞こえる。


「名称はドロシー・スピリッド————かの有名な没落貴族スピリッド家の子息でございます!」

はっ、とドロシーは〈売り屋〉を振り返ったが、もう既にこちらを見てはいなかった。



* * *



ドロシーには服が与えられた。
レースやフリルがふんだんに使われた、あまりドロシーの趣味ではない蒼いドレス。
しかし〈シルシ付き〉のドロシーに拒否権はなく、恐ろしいブーデルの下衆の視線も我慢せねばならなかった。

流しただけのボサボサの髪は1つの三つ編みに結わえられた。
ブーデルが妙に女の髪を扱うのが上手いのが気持ち悪かったし、何度も何度も髪の匂いを嗅ぐのに吐きそうになった。
手の枷は外されたが、足枷はそのままだった。

それから連れて行かれたのは巨大な船である。
港とは思えない、岩礁にそのままとめた巨大な船は、甲板からはいることができた。
そういえば海賊と言っていたか。
ブーデルの手下らしき海賊がじろじろ見てくる。

「出発だ! 船を出せ!」

ブーデルが声を張り上げ言った。
手下の何人かが振り返る。

「今度は何処で?」
「孤島だ」
「こ、孤島? ですか?」

ブーデルがドロシーの頭に手を回す。
気持ちが悪い。ぎゅ、と目を閉じる。
ブーデルは幸いそこで止まったので、ドロシーが転ぶことはなかった。

「孤島だ。噂では傭兵が宝を守っているらしい」
「噂っすよね・・・?」
「たまには遊んでみるのも良いだろ」

ドロシーもその噂は聞いたことがある。
島を守る少年の話。
恐ろしく強い短剣使いだと言う。
恐ろしく強い槍使いだとも、長剣使いだとも言う。
・・・つまり、それだけあやふやな『噂』にすぎないという事だ。宝があるのか————そもそも島がほんとうにあるのかも怪しい。

何を考えているのか。
ドロシーは眉をひそめてブーデルを見上げた。・・・目があったのであわててそらしたが。

甲板はとたんに騒がしくなった。船の帆を修正する、ぎりぎりという音があたりに響く。

船が動き出した。


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