複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2018/12/11 21:48
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 ────殺さなければ。

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。
 掲げたナイフに込めるのは?

「どうか安らかに、死んでくれ」

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定でしたが、面倒になったのでやめました。1ヶ月に1〜3回更新の予定? でーす。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉
一気
>>0-
登場人物紹介
>>52
No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下の爬虫類へ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56 >>57 >>58 >>59
>>60>>53-60

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8 ・クラウス>>15
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・なんか動画作ってみた>>60
・祝★参照7777記念
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・虚ろに淘汰。【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2017年 8月4日 No.02修正
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞(ありがとうございます)
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日  No.01修正

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Re: 継ぎ接ぎバーコード5-3(祝絵載せてみた) ( No.56 )
日時: 2018/10/16 18:52
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=6195&page=1

 水に呑み込まれた体が、歪に肥大化していく。ハイアリンク達は目を剥いてその様子を凝視していた。見ているうちに、マリアナはどんどんヒトの形から遠ざかっていった。
 形の整っていた鼻は皮膚と一体化するほど低くなり、青白くのっぺりした顔の中に、鼻の穴だけが残る。瞼は失われて、目元は窪み、ギョロリと白濁した目玉は不気味さを通り越して恐怖すら与える。髪の毛が後退していって、剥き出しの頭皮すら鱗に覆われ、頭頂部からは刃物のように鋭い背鰭が連なって、尾鰭にまで続いた。

「……なん、だ、コイツ」

 ハイアリンクの誰が発したものだったろうか。だが、その姿を目にすれば、誰もが零す言葉であっただろう。
 顔の側面についた丸い目玉。横に大きく裂けた口から覗く、ノコギリのように鋭い牙。てらてらと淀んだ光を放つ滑った鱗。
 魚か。もしくはその長い胴と口の上から伸びる細長い髭で、水竜のようにも見える。体長は6メートルはあるだろうか。体中から鼻の曲がるような生臭さを放っていて、胸鰭の代わりに水掻きのある前脚を携えており、腹の終わりには蛙を思わせる後ろ脚が備わっている。
 先程の可憐な女性の姿からは想像もつかない変わり果てよう。皮膚が全体的に湿っているせいか、屈強な手足に携えられた鋭利な爪がぬるりと艷やかに煌めく。

「がが、が、ご、がげ、ぐ」

 腹の底から響く、人間の声にも聞こえる呻きのような鳴き声に、ハイアリンク達は怖気立つ。
 その腕がズルズルともたげられたのを見ても、アサルトライフルを抱えたまま、ティエは動けなかった。きっとあの大きな爪ならば、この身体を真っ二つにすることなど容易いのだろう。なんて、何処か他人事のようにそんなことを考えていた。大きな白目の中央にて、淀んだ黒目が確かにティエを捉えている。

「おいティエ! 下がれ!」

 ルーカスが叫ぶ。
 ティエもまた、ハイアリンクとして訓練を積んできた人間だ。恐怖に足が竦めども、脳が避けろと警鐘を鳴らし、体は勝手に動いた。
 それでも、少しだけ遅かったのだ。恐怖に呑まれた時点で、遅すぎた。
 振り被られる鉤爪の、空を裂く音。体が半分持っていかれるような、強い衝撃。耐えきれず、ティエは地面に叩きつけられ、銃を取り落とす。

「──あ……」

 少し遅れて、バシャッというような、水分を多く含んだ音を立てて、ティエの体の一部だったものが、土の上に転がった。音の正体を確認して、ようやく左肩の痛みを知る。鉄さびの臭いと、生臭さが綯交ぜになって、肩から溢れた色彩は、ぬらぬらと土と混ざり合って。
 腕。
 無い。
 痛い。
 彼の脳内を掻き乱していくのは、明確な死への恐怖だ。

「あ、あ、ああ、ああああ! 嫌だ、死にたく、死にたくない、死にたくない死にたくない! 嫌だァ!!」

 ──こんなことになるなんて聞いていない! 何だよこいつ全員で束になってかかっても、敵う相手か? いいやそんなことよりボクの腕はもう失われた、戦えるわけがない! 今度はあの腕で何処を千切られる? どうやって殺される? 殺される? 殺されるのか? ボクは殺されるのか!?

「うるっせぇな落ち着けや、腕無くたって死にゃしねぇから、生きたきゃ脚動かせ!」

 ルーカスはティエに罵声を浴びせながら、マリアナの頭部を狙ってライフルを連射する。硬い鱗に阻まれ、皮膚を突き破ることは無いが、全く効いてないわけではないらしく、酷い唸り声を上げ、激しくのたうち回る。ティエはその間に歯を食いしばって、片腕で地面を押す。少し油断すれば左肩の灼熱に意識を持っていかれそうになった。それでも必死に立ち上がって、まだ動く脚で地を蹴って、タンザナイト達に背を向ける。
 白蛇を操る男は、ティエが戦線から離脱するのを手伝おうと足を踏み出した。しかしその瞬間、マリアナの巨体の陰で動くものに気が付いた。ニックだ。

「ティエさ──」

 視認してからでは遅い。ニックが鋼鉄の左手で地に触れる。それから、ティエの足元から飛び出した棘に、片腕を失くした胴が貫かれるのは、文字通りあっという間だった。
 腹を穿たれ、大量の鮮血を撒き散らし、残った右腕を力無く伸ばす仲間を前にして、白髪の彼は足も呼吸も、止まってしまっていた。ただ、目を剥いてその様子を傍観していた。
 背後から迫り来るマリアナが、大きく腕を振り上げ、ティエを棘ごと薙ぎ払う、耳障りで仕方のない鈍い音。
 仲間が虫けらみたいに殺されたのを見て、ハイアリンク達はその場に足を縫い付けられたかのように動けなかった。圧倒的な力の前に抱くのは、恐怖か憎悪か。

「これが……〈ダゴン〉」

 それは、とある神話に登場する魚神の名だ。小さな村で崇拝されていたと言われる、海底に住まう醜悪な巨体の神。それが陸に出てきて、水滴をしたたらせながら仲間の1人を一薙で殺した。
 〈ダゴン〉は再び血液の付着した鉤爪を振り乱して、あの耳障りな声を響かせる。

「……がげ、ぎ、ごご、ぐ」

 日が昇り、白み始めた上空で、紅色の翼を羽ばたかせながら、アケは眉を顰めて戦線を見下ろしていた。
 〈ダゴン〉は発動してからすぐにあの魚神の姿になれるわけではないから、基本的にはヒトの形を留めたまま戦うことになる。だが、こうして手練を多人数相手にする場合、マリアナは〈ダゴン〉の真の力を使う。
 普段は仲間想いで、例え敵だとしても手を下すことを躊躇してしまうような優しいマリアナ。それが〈ダゴン〉の真の力を使った途端、身の毛もよだつ醜悪な魚神の姿となり、一切の憐憫も失って戦場に蹂躙する。
 少しだけ。少しだけ、そんなマリアナのことが怖いと感じてしまう自分がいることが、アケは嫌で嫌で堪らなかった。マリアナ自身も〈ダゴン〉を使ってしまうと、残虐な思考に陥って、歯止めが効かなくなってしまう事を恐れているはずなのに。

「──殺っちまえ!」

 ニックの声に合わせて動くマリアナは、今度はルーカスに向かっていく。空気中の水分を操ることもできるマリアナは、集めた水で小川のようなものを作り出し、地上を泳ぐみたいに突撃してくる。
 ルーカスがどんなに優秀な戦士だとしても、所詮は人間。瞬きする間もなく一気に距離を詰められ、その巨大な腕から打ち出される大砲の如き一撃を食らうと、後方に弾き飛ばされた。咄嗟に持っていたアサルトライフルで防ぎ、鉤爪の直撃は免れたものの、威力を殺しきれずに数メートル離れたところに生えていた木に叩きつけられると、血を吐き出して動かなくなった。
 白髪の男と、未だ〈ネブリーナ〉で霧状とヒトの姿とを交互に入れ替えながら戦うノームを仕留めようと、躍起になっていた満身創痍の女は、息を呑んだ。

「ルーカスさんっ……」

 白髪の男が叫び、ルーカスに駆け寄った。
 仲間が2人も殺された。2人も、守る事ができなかった。と、遣る瀬無さに顔を顰めていた彼の思いは杞憂に終わる。
 息を掠れさせながらも、ルーカスはゆっくりと顔を上げた。

「ルーカスさん生きてらしたんですね!」

 安堵に思わず声を漏らすと、ルーカスに強く睨み付けられる。

「テメェ、オレが死ぬ訳ねぇだろ。てか誰の心配してやがんだ爬虫類野郎ォ……ンな暇あったら、1匹でも多く仕留めてこいや!」

 彼の無事を嬉しく思いつつ、死にかけてるくせによくヒトを罵倒する余裕あるな、と声もなく毒吐き、白髪の男は踵を返し、言われた通りにニックを狙って荒野を駆けた。それを当然、マリアナに妨害されるが、振り下ろされた腕の一撃を躱すと、その腕を足場にして駆け上がり、彼女の顔面に接近し、髪の毛の蛇を目元目掛けて放つ。

「ぎギ、ギァァァガァァァァァ!!」

 瞼もないために無防備に見開かれた目玉に白蛇が喰らいつくと、マリアナは耳を劈くような断末魔をあげ、のたうち回った。直ぐに白蛇を引き剥がそうと振り回されるマリアナの腕の一撃を回避すると、彼は次は左眼を狙って体勢を立て直す。

「撤退だ!」

 ニックが短く叫ぶ。ハイアリンク側としても1人死人が出て、ルーカスも殆どまともに戦えないだろうから、態々追いかけては来ないはずだ、と考えてのことだ。それにこの場で圧倒的な脅威となるマリアナが集中狙いされる。彼女がこれ以上傷付くのは避けたかったのだ。

「ノーム、戻れ──」
「逃がすなぶち殺せッ!!」

 ニックの声を遮って、ルーカスが血反吐を吐き散らしながら喚く。声に反応したのは、ノームのすぐ側にいた、あの若葉色の髪の女だった。
 ノームが霧の状態に戻りかけても、彼女は構わずその水蒸気に掴み掛かる。

「ッな……」

 そうすると、ノームの体はヒトの姿に戻ってしまう。
 触れられている状態では、霧の姿には成れない。ずっとノームと戦っていた彼女だからこそ悟ったことであった。
 ノームは掴まれている左腕を振り解こうとナイフを振りかぶった。しかし、甲高い金属音と共に手元を離れてしまう。彼女の背中から伸びる鎌で弾かれたのだ。
 掴んだ腕に握り潰さんばかりの力を込めて、ノームを自分の体の側へ引き寄せると、彼女は不敵に笑った。

「“蜘蛛”はねぇ、捕えた獲物は逃さないのよ」

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-4 ( No.57 )
日時: 2018/10/27 17:06
名前: ヨモツカミ

 彼女の背中を突き破って、細長い黒と黄の毒々しい縞模様が無数に伸びてくる。先端が鎌のように鋭利な刃物に成り代わっている節足動物の脚。最初から2本だけ彼女を守るみたいに生えていたそれが、今では計8本。その姿は正しく、蜘蛛のようだった。
 彼女の能力〈アラクネ〉。とある神話に登場する蜘蛛のバケモノの名だ。
 蜘蛛の脚は、容易くノームの胸を、腹を、二の腕を、太腿を、次々に貫いていって、彼の銀髪が迸った赤に染まる。
 立っていることもままならなくなったノームが地面に崩れ落ちると、彼女は畳み掛けるようにして、8つの刃物を引き抜いては突き刺し、抉り、再び引き抜き、彼の胴を滅多刺しにしていく。

「にっ、ぐ……ッたす、け」

 地面に縫い付けられたノームが、血の泡銭を吐きながら、掠れ声でニックの名を呼んだ。
 ニックは一瞬左腕を動かしたが、不意に誰かに左肩を掴まれて、制止される。首に巻かれた三つ編みと、波紋状の模様が入った濃褐色の瞳。ジスフィーネだ。

「助からないよ、アレは」
「……ッ」

 助けに行ったとしても、あの失血量では、いくらバーコードでも望みはない。ニックにもそれはわかっていたはずだ。
 それに、助けに入ったとして、これ以上戦闘を続けていれば、タンザナイト側も無傷で済むはずがない。きっと、犠牲を増やすだけになるだろう。この場で感情に任せて動いたとして、タンザナイト達に未来は無い。だから、諦めろ。口にせずとも、そういう意味を込めて告げたのだ。
 ニックは一瞬、酷く苦しげに表情を歪めたが、それを見ることができたのはジスフィーネだけだった。
 仲間を何よりも大切にするニックがどうするのか、身を呈してでもノームを助けるだろうか。歪められた表情を見て、ジスフィーネは一瞬、そんなことを勘ぐったが、刹那の動揺などなかったかのようにニックは表情を殺すと、ハイアリンク達に背を向けた。

「マリアナ先輩も、逃げますよ!」

 ニックに呼びかけられると、魚神の体は再び濁流に包まれ、追撃を試みた白蛇の男や〈アラクネ〉の女の目を眩ませるようにして弾けた。
 数秒程の水流の妨害が止んだ頃には、タンザナイト達の姿は見失ってしまった。残っているのは、体中穴だらけとなったまま永遠に動かない少年と、腹部を穿たれ、片腕を失くした仲間の遺体くらいなものだった。
 白髪の男は、長い髪を後頭部で束ねながら、ノームの亡骸に歩み寄って、静かに見下ろした。
 タンザナイト達へ助けを求めたにも関わらず、見捨てられた哀れな少年は、琥珀色の瞳を限界まで見開いて息絶えていた。8つもの鋭利な刃で何度も何度もその体を抉られ、絶望と死への恐怖に苛まれながら、成す術もなく最期を迎えたのだろう。
 そっと少年の傍らに腰を下ろし、瞼を閉してやってから、男は、無表情で佇む仲間の姿を見上げた。

「ユード。なんで殺しちゃったんですか、この少年」
「だって、ムカついたんだもの」

 返り血と自身の出血で酷い有様となった彼女──ユードリナは、素っ気なくそうぼやいた。元々着用していた服が臙脂色だとしても、浴びた血の汚れは隠しようもない。
 先程の戦いでマリアナに殴り飛ばされたルーカスが、覚束無い足取りで寄ってきて、ユードリナの顔を睨みながら舌打ちした。

「阿呆女、1匹は情報吐かせるために生け捕りにしろって言ったろが」
「何言ってるんです、ルーカスさん。ぶち殺せって言ったのアナタでしょ?」

 そういえばそうだったな。ルーカスは手の甲で口元の血を拭いながら呟くように言った。だが、まだ不満があるのか、ルーカスは未だに彼女を睨みつけたままでいる。ユードリナはその視線に気付くと、彼を睨み返した。

「……てかユードリナてめぇ、最初の方、本気出して無かっただろ」
「当たり前じゃない。カイヤナイト全員が、お馬鹿なユミトみたいに人間様に従順で真面目にお仕事してると思ったら大間違いですから」

 ユードリナに視線を送られて、ユミトと呼ばれた白髪の男は少し肩を竦めた。
 確かにユードリナのように、不真面目なカイヤナイトもいないこともないが、彼らの首に取り付けられた青い首輪の存在が、それを許しはしない。ユードリナの首元にも例外なく命を握る青い首輪が取り付けられてはいるが、彼女のその驚異的な身体能力と戦闘センスにより、幾つもの実績を上げているため、多少の事には目を瞑られるのだ。
 彼女の実力あってのことであるから、ユードリナが優遇されていることや、彼女の態度に関して不満を持つわけではないが。ユミトは少し離れたところに横たわる仲間の姿を見つめながら、口を開く。

「多分言っても無駄だから、ユードのそういうところを変えさせようとは思いませんけど……もし、君が本気で戦ってくれていたら、ティエさんは」

 死なずに済んだ可能性だって、あったのに。声にせずとも、ユミトの言わんとしていることはユードリナにも予想できた。
 ユードリナは今度はユミトの顔を強く睨み付けて、吐き捨てる。

「アタシのせいにしないでよ。そのヒトは弱いから死んだ。それだけでしょう?」

 それに関しては、ルーカスも何も言わなかった。弱い奴は死んでいく。戦いの場に置いて、庇い合いなんてしている余裕はない。班の中で一番若くとも、カイヤナイトとして、今まで何度もバーコードと戦っているユミトだ。それくらいのことは理解しているが、それでも割り切れそうもなかった。

「とりあえず死体このまんまにはできねぇから、運べ」

 ルーカスにそう言われて、ユミトは改めて彼の方を見た。あんな攻撃を受けて、無事でいるはずが無い。カイヤナイトの前だからか、気丈に振舞ってはいるが、ライフルを地面に突いて、杖代わりにして、それでなんとか立っている状態に見える。

「……ルーカスさんはご自分で歩けますか? 肩お貸ししましょうか」
「あ? てめぇ誰に向かってンなこと言ってんだ。オレは爬虫類嫌いだっつってんだろが、寄るな」

 そうは言うものの、バーコードのように自然治癒の力があるわけでもない彼だ。明らかに無理をしている。
 ユードリナがどれだけ生意気な態度を取っても怒らないのに、ユミトが本気で気に掛けて声をかけても、爬虫類嫌いなどという謎の理由で怒られることに僅かな不満を持ちつつも、ユミトはそれを口にしようとはしなかった。ルーカスのその態度には慣れていた。
 ユミトは呆れを隠そうともせずに嘆息する。

「もう。わかりましたよ。多分、肋骨とか折れてると思うので、本当に辛かったら言って下さいね。もしくは、アモルエに待機している別のハイアリンクを呼ぶとかして下さい。僕とユードリナはティエさんと、この少年を運びますので」
「え。アタシも死骸処理付き合わなきゃいけないの? 怪我人なのに」
「こら、ユード」
「……わかったわよ」

 体格的にまだ軽いであろう少年の方をユードリナに任せて、ユミトはティエの遺体に駆け寄った。顔は見ないようにして、胴に触れると、まだ僅かに温もりが残っている。それでもやがて、この身体は石のように冷たく、固くなってしまうのだろう。


***


 耳よりも高い位置で2つに結った癖毛を揺らしながら、メルフラルの家の前に佇む女性の姿があった。
 彼女はすうっと大きく息を吸い込んだ。

「ジンーおーはーよー!」

 元気よく声を上げながら扉を叩く音が響く。隣にいた少女はその様子をはらはらしながら見守っていた。こんなに激しく扉を叩いたら迷惑なんじゃないだろうか。いや、とても迷惑である。少女の心情など知る由もないトトだが、彼女も迷惑を承知でわざとやっている。
 しばらく扉を殴り続けていたら、ドアノブがガチャ、と音を立てた。ゆっくりと開かれた扉の隙間から顔を出したのは、トトの求めた相手では無い。毛先だけ毒々しい紫に染め上げられた腰まである白髪の女。家主であるメルフラルだ。彼女はトトより頭一つ分上の高さから彼女らを冷たく見下ろし、トトと目が合うと、口元を歪めて笑った。

「おはよう、泥棒猫のトトちゃん」
「……おはようございます、天才研究員のメルさん」

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-5 ( No.58 )
日時: 2018/11/10 08:01
名前: ヨモツカミ

 言いたいことはいくつかあったが、それを飲み込んでトトは嫌味たっぷりに挨拶を返す。対するメルフラルは笑顔を崩すこともなく貼り付けたようなその表情のまま。

「あなたにそう呼ばれたくはないんだけど?」
「へえ、そう。んで、わたしはあなたに用はないのですが?」
「あら、アタシのジンに何か用?」

 肩にかかった毛先だけ紫に染め上げられた白髪を払って、メルフラルは平然と言い放つので、トトは眉を顰めた。

「“アタシの”?」
「ふふ、間違ったこと言ったかしらぁ? アタシの家に居るんだからアタシのでしょう?」

 トトの同伴をしていた少女は話が飲み込めずに混乱していたが、ただ、メルフラルが普通の倫理観を持たない女性だということを理解して、言いようのない気持ち悪さを抱き、思わず半歩程距離を取った。
 トトは軽く舌打ちをしてメルフラルの笑顔を睨み付ける。

「ジンはジンですけど?」
「ええそうね。ジンはジンよ。でもジンに用があるならアタシに許可を取ってからにしてもらえる?」

 うわ。思わず声が漏れた。トトも、メルフラルという研究員が普通でないことも、ジンに対して異常な感情を抱いていることも、理解していた。恋と呼ぶには相応しくない。執着や依存と近しい、独占欲。かと言って束縛するわけではない、なんだかよくわからないがとりあえず気持ち悪い。
 トトの側にいたはずの少女はメルフラルの異常さに耐えられなくなったのか。それとも、白衣を纏う人間に対する恐怖を堪えきれなかったのか、トトの着るハイアリンク用の軍服の裾を握り締めて、メルフラルと視線が合わないように顔を俯かせた。

「うふふ、こんなことするの、あなたにだけよ? “特別扱い”ねぇ、トトちゃん?」
「うっぜぇな、いい加減にしろよ」

 口元に手を当てて、くつくつと嗤うメルフラルに苛立ったトトが、遂にレッグホルスターのナイフに手を伸ばした。

「ねえ君たち、僕のために争うのはやめてくれる?」

 トトがナイフを右手に構えたとき、廊下の奥から少年の声が響いた。黒い髪の下、目つきの悪いエメラルドグリーンを更に吊り上げた継ぎ接ぎの彼。ジンだ。
 メルフラルはジンに気付くと、軽く頭を撫でようと手を伸ばし、それを振り払われて嬉しそうに頬を綻ばせた。

「起きてたのん? もうちょっとトトちゃんとお話したかったのだけど、残念」

 そう言って、何事もなかったかのように廊下の奥へ引っ込もうとする白衣の後ろ姿を睨み付けて、トトは低い声で訊ねる。

「ジンと会う許可とかいうのは?」
「本気にしてたの? ふふ、可愛い娘」

 そう言い残して消える後ろ姿に舌打ちして、トトはやり場のない感情を、取り敢えず扉を蹴り飛ばすことで発散させる。ハイアリンクとして育つうちに随分粗暴な子になったんだな、とジンは肩を竦めながら思った。

「メルフラルさん、苦手……」
「アレが得意なヒトなんかいないと思うよ。それで、なんの用なの?」

 メルフラルと何度か顔を合わせ、その度に嫌悪を痛感しているトトが、態々ジンを訊ねる理由があまり思い浮かばなかった。
 ああ、そうね、と切り替えたトトが、不意に不自然に微笑む。

「ジン。昨日、うちのマーガレット、踏んだでしょ」
「…………」

 僅かな沈黙のあと、昨日トトの家を去るとき、クラウスに驚かされて、花壇に足を突っ込んだことを思い出した。あの白い花の事だと気付いたジンは、咄嗟に扉を閉めた。しかし、トトが扉の隙間に脚を挟み込んできて、妨害される。
 力尽くでドアを開けると、トトはジンの口の両端を強めに摘んで、彼の顔を黙って見下ろした。

「……ごめんなひゃい」
「許す」

 トトが手を離すと、僅かに痛みの残る頬を擦りながら、ジンは彼女の隣に佇む少女を一瞥してから問う。

「用って、花のことだけなわけ無いよね」

 まあね、と言って、トトはやっと傍らにいた少女に視線をやった。釣り目がちな淡い桃色の瞳はずっとジンと目が合わぬように伏せられていたが、トトに声をかけられるとビクリと肩を震わせながら顔を上げた。胸の辺りまで伸びた緩く巻かれた明るい髪には、白いリボンの髪飾りが付けられていて、整った顔立ちや可愛いらしい刺繍の施された紺色のワンピースを見るからに、ハイアリンクのような、血生臭い仕事の関係者とは思えない。

「この子はエミーちゃん。今日わたしと一緒に仕事するカイヤナイトなの」

 関係者どころか、ハイアリンクそのものだった。

「カイヤナイトなんだ……」
「あ、は、初めまして」

 苦笑しながら思わず声を漏らすジンに、エミーと呼ばれた少女はおどおどとした様子で挨拶をした。

「君、闘えるの」
「自信は、ないです」
「正直だね」
「でも」

 その短い一言で、エミーの顔つきが少し変わる。僅かに強張ったままではあるが、淡桃色の瞳には真っ直ぐな光が灯っていた。

「今日の、逢魔が時。〈鉤爪〉は現れます」
「どうしてそんなことわかるんだい」
「ワタシ、闘うのは役に立てないと思うから、せめて情報収集とかして役に立とうと思ったんです。だから奴の行動パターンとか規則性を調べて、アモルエヘ訪れるタイミングもわかってきました。それで以前にも、〈鉤爪〉を迎え撃ったんです」

 視線を斜め下に落とす。追憶をするように、目を細めて、遠くを見る。穏やかだが、寂しそうな笑顔だった。

「〈鉤爪〉は強かったですよ。本当に一瞬のうちに、皆殺されました。ワタシは弱かったから──死にそびれた」
「…………」

 トトは声のトーンを落とすエミーの頭の上にそっと手を乗せる。

「エミーちゃんは、わたし達がアモルエの街に派遣される前のアモルエ担当班の1人だったの。〈能力〉自体は弱くなかったから、〈鉤爪〉もエミーちゃんは殺せなかったんだよ」
「いえ。ワタシが弱いから……何もできなかった」

 エミーの頭の上に乗せていた手をぐしゃぐしゃと掻き乱す。そうするとエミーの髪もクシャクシャになるが、トトは気にせず彼女を撫で回した。

「大丈夫。エミーちゃんは本当に弱いわけじゃないよ。戦う勇気はなかったかもしれないけど、そのまま逃げることはできなかった。それは、今度は戦うっていう意思表示だよね? だから今、わたしの隣にいるんでしょ」

 トトにそう言われると、エミーは目を見張った。それから再び視線を下げてしまったが、弱々しい彼女の姿はそこにはなくなっていた。

「まあ、率直に言うとジンにも一緒に闘って欲しいって話」

 ジンに向き直ってトトはそう言った。何となくそういう話の流れになるのは予想していたが、ジンは顔をしかめる。

「なんで僕なの、やだよ。アモルエにいる間は特に。そもそも、ハイアリンクと共闘って、僕の正体──」

 共闘なんてすれば、確実に〈シュナイダー〉を使用することになるし、不死身の体を活かしたゾンビのような戦闘スタイルのジンを見れば、漆黒バーコードであることを悟られる。ハイアリンク達がどれほど漆黒バーコードを認知しているのかは不明のため、もしかしたら漆黒であることは悟られないのかもしれないが。なんにせよ、ハイアリンクでもないバーコードは基本的にハイアリンク達の駆除の対象になるのだから、正体がバレるとろくなことがない。
 ジンがバーコードであることが知られてしまうことも問題だが、それがバレると間接的にメルフラルが、バーコードの研究員である彼女がバーコードを匿っていることをハイアリンク達に知られる事にもなる。ジンがわざわざ共闘する理由なんてどこにも無かった。

「その点は心配しないで。〈鉤爪〉討伐にはわたしとエミーちゃんと、オーちゃんしか参加しないから。だからこそ、戦力が少し足りないって話なんだけど」

 オーちゃんというのが一瞬わからなかったが、昨日この街にいたし、〈鉤爪〉の話をしていたのだから、オーテップのことを指しているのだろう。

「オーテップ、かなり優秀なカイヤナイトなんでしょ」
「そうだけど、わたしとエミーちゃんはそんなに強くないよ。ほら、わたし視力相当悪いし」

 トトは薄く目を開けて、黄色の双眸でジンを見下ろした。幼い頃の怪我が原因で視力の弱まった眼でも、今までハイアリンクとして戦えてきたのだから、トトも優秀な戦士のはずだが。

「誰も死なせないために、力を貸してくれない?」

 誰も死なせないために。その言葉に、少し揺さぶられる。

「……わかったよ」

 ジンは短く息を吐いて、トトの目をまっすぐ見返した。

「トトに死んでほしくないんだ。君は殺さなくていい、数少ない知人だから……」
「ありがと」

 柔らかく笑む彼女を見て、ジンも少し笑った。

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-6 ( No.59 )
日時: 2018/11/18 20:51
名前: ヨモツカミ



***


 ジンがメルフラルにトトとの会話の内容を伝えると、また面倒な絡まれ方をしたが、適当にあしらって彼女の研究施設を出た。
 これからオーテップに会って、作戦などを話し合うために、一度彼女がいる宿に戻ると言う。ジンは上着のフードを深く被り、トトのあとに続いて街を歩いた。

「ところで、あの、ジン君とトトさんはどういった関係なのでしょうか」

 その道中、エミーが恐る恐るといった様子で訊ねてきた。

「も、勿論上に報告とかは絶対にしませんよ、ワタシ、いつもトトさんには良くしてもらってますし。ただ、私よりも年下の、こんなに華奢な男の子に応援を頼むって、それにジン君のお顔の傷って……」

 年下だと思われていることに関しては慣れているので気にならなかったが、華奢という発言にジンは思わず自分の腕を見た。確かに細いのかもしれないが、ひょろっとした感じではなく、ちゃんと筋肉で引き締まった細さだと、自分では思い込んでいたのだ。筋トレでもしようか、と考えたが、体の成長は止まっているため、特に効果はないのだろう。

「トト、僕のこと何も話してないんだね」
「だって、協力してくれる確証はなかったし、ベラベラ話せるようなことでもなかったからね」

 街にいる、カイヤナイトではないバーコードというものは、研究施設から逃げ出したとか、バーコードの親から生まれた翡翠バーコードであるとか、とにかく駆除の対象であるはずだ。だからエミーがトトとバーコードと思わしき少年とが関わりがあることについて疑問を抱くのは、当たり前だ。かと言って、ジンのことについてはヒトに話せないことばかりで、トトも苦労しているだろう。

「ジン君って、やっぱりバーコードなんですよね?」

 エミーにそう聞かれると、今更否定する意味もないので、ジンはこくりと頷いてみせた。

「詳しいことは話せないけど、僕はバーコードを殺して回ってるから、やってることはカイヤナイト達と同じだよ。今日は宜しく頼むね、エミー」
「えっ、あはい、宜しくお願いします……?」

 適当にはぐらかして、とりあえずエミーに右手を差し出すと、彼女は躊躇しながらも握手を返した。

 宿に着くと、建物の前で3人ほど立ち話している姿が見えた。赤い髪と、若葉色の髪と、白髪。ハイアリンクの戦闘服を着ている者がいたため、彼らがハイアリンクなのだと分かる。皆、長髪で中性的な顔立ちをしているせいで、ジンは最初全員女性だと思った。

「ルートくん、ユミトくん、ユードリナちゃん、お疲れー」

 トトが3人の名を呼んで、3分の2が男性であったことに困惑しつつも、ジンはハイアリンクに顔の傷を見られないように、とフードを深く被り直す。
 ジンが間違えた通り、切り揃えられた白髪を後頭部で結っているのと、その顔立ちのせいで女性と間違えられることが多い彼──ユミトはトトに気が付くと、少し彼女に歩み寄って行って、元気よく挨拶する。

「あっ、お疲れ様ですトトさん! 突然ですが本日〈鉤爪〉討伐に参加させて下さい!」

 トトと顔を合わせたら、開口一番にそう言おうと決めていたのではないかというくらい唐突な申し出に、彼女は思わず少し後退った。

「ほ、本当に突然だね……えっと、オーちゃんは? 応援で来てくれるのは彼女だったはずだけど」
「オーテップの事ですか? 彼女なら、僕の代わりに怪我人の看病をしております」
「怪我?」

 トトの様子を見て、ユミトは後ろにいた赤毛の方を向き、まだ話してないんですか、と問う。

「ああ。トトさんとは今日始めて顔を合わせたからな」
「え。ルート班長、報連相が成り立ってないじゃないですか……」
「なんだ、俺に何か文句でもあるのか? バーコード風情が。これからお前が話せば済む話だろう」

 ユミトは一瞬何か言いたげにしていたが、すぐに諦めて、再びトトに向き直った。

「あ、今朝、見回り中に戦闘があったんでしょ? その事ならエミーちゃんに聞いたから知ってるけど」

 トトがそう言うと、ユミトは首を横に振って、酷く言いづらそうに口を開く。

「……なら、これはエミーも知らない話ですよ。実は、今朝の見回り中にティエさんが、その──殉職、したんです」

 トトは小さく驚愕の声を漏らし、瞠目した。それから眉を顰めながら、口元を押さえて短く、そう、と答えた。突然の仲間の死を告げられて、動揺はすれど、涙を零すことは無くなってしまったのはいつからか。周りの死に慣れた事に、トトは少しだけ嫌気が差した。

「僕は、側にいたのに何もできなかったから……だから、次こそはちゃんと戦いたいんです」

 悔しそうに自分の服の胸元をきゅっと握り締め、そう口にするユミトの様子を見て、トトは少し肩を竦める。

「気持ちはわかったけど、わたしが必要としてるのはオーちゃんだよ」
「ああ、その、怪我人というのが、ルーカスさんでして。あのヒト僕のこと嫌ってるので、お前なんかに看病されたくない、と言われてしまって、代わりにオーテップが側についてるんです」

 後輩であるルーカスの鋭い目付きと声が、ユミトに罵詈雑言をぶつける様が容易に脳裏に浮かんでしまって、トトは舌打ちした。

「何ワガママ言ってんだよあのクソ……。仕事に支障が出るから身勝手な行動は慎めカスって伝えてきて。あと、オーちゃん呼んできて」
「無理ですよっ、そんな事伝えたら僕が蛇の開きにされちゃう! ほら、オーテップは確かに強いですが! 僕だって弱くはありません! この命に変えてもトトさんをお護り致しますから!」

 しつこいユミトに、トトが若干苛立った様子を見せ始めた。

「戦わせてあげて下さい、トトさん」

 そう、口を挟んできたのは、若葉色の髪をポニーテールにしている少し目つきのキツイ女性──ユードリナだった。

「自分が死んでしまうこと以上に、仲間を守れないことが怖いんですよ、そいつは」

 彼女はユミトの顔を不満そうに横目で見ながら続ける。

「ぶっちゃけアタシらカイヤナイトは人間が死んでも殆ど何も感じないやつのほうが多いです。アタシらを戦いの道具みたいに扱う奴らが、何人死のうがどうだっていい」
「ユード、またそんな言い方して」
「なのにその白蛇、今朝ハイアリンクの死骸に泣き付いてた。護れなくて、ごめんなさいってさ」

 不満そうな表情はそのままに、ユードリナは少し俯く。その拍子に彼女の長いポニーテールが揺れた。

「馬鹿だなって思った。けど、同時に少しだけ、羨ましいとも思ったわ」

 ただ、バーコード駆除の道具として存在するから戦うだけ。それがカイヤナイトなのに。同じカイヤナイトなのに、ユミトは道具ではなく、まるで人間みたいに振る舞う。そんなことをしたって、自分たちが人間になれるわけないのに。カイヤナイトのバーコード達は、バーコードを殺して、殺して、使い潰されて、いつか戦えなくなったら捨てられるだけだから。
 ユードリナは仲間の死に涙を零すユミトの横顔に、羨望の眼差しを向けていた。こんな死骸に泣きつくなんて、馬鹿みたいだって思うのに、その横顔が綺麗だと感じた。
 誰かのために涙は、美しくて、誰かの死を嘆くことができる彼は、まるで──。
 今朝の情景を脳裏に浮かべながら、ユードリナは嘲るような笑みで、静かにトトを見た。

「馬鹿なんですよそいつ。それならお望み通り、死にに行かせてやってよ。トトさん」

 ユードリナの言葉に、トトは深く嘆息した。

「許可できない」
「そんな……」
「わたしは死にたがりとは一緒に戦えない。ちゃんと生きようとして。バーコードだとか、人間だとか関係ない。わたしのために死のうだなんて、絶対許さないよ」

 トトのその言葉に、ユミトはぱっと表情を明るくする。

「大丈夫です。〈鉤爪〉を倒して、一緒に生きて帰りましょう!」

 ハイアリンク達の会話を傍観していたジンは、ふと鋭い視線に気がついた。
 先程ルート班長と呼ばれていた赤毛がこちらを向いている。ワインレッドと金色という、左右で違う色をした瞳。オッドアイだ。ジンは思わずもの珍しげに視線を返した。

「貴様、その顔は……」

 ルートはジンの視線など特に気にすることなく、縫合痕だけを睨みつけている。ジンをいぶかしむような視線は、余りにも鋭く、貫くみたいだと感じた。
 傷のことを気にしている。班長と呼ばれていたし、ジンがバーコードであることが確認でき次第、問答無用で切りかかって来そうな殺気が感じられた。
 堂々と振舞ったほうが怪しまれないだろうか。そう考えたジンは、ルートに軽く微笑みかけ、明るい声で話しかけた。

「こんにちは。僕の顔、そんなに気になる?」
「随分、大きな傷だな?」

 なんてデリカシーの無い奴だ。ジンは率直に聞いてくるルートに苦笑を返しながら、額の傷に軽く触れる。どう誤魔化そうかと思考していると、ルートとジンのやり取りを見ていたトトが、2人の間に割って入ってきた。

「この子わたしの甥でねー! 今家に送ってあげるとこだったの。あとこの縫い跡は、ほら、ファッションだよ。ボディステッチっていうの、知らない?」

 トトの発言にジンは眼を向いて、ルートの反応を確かめる。彼は少し首を傾げたが、特に怪しむ様子は無い。

「ああ、そうなのか。そういうのには疎いんだ」
「あー、そうなんだねえー。それじゃ、ユミトくん借りていくからね。バイバーイ」

 トトはニコニコと微笑みながら、ジンの手を引き、できるだけルートの視界にジンが入らないようにする。
 ジンが流石に怪しまれるのでは無いかと心配したが、トトはそのままユミトとエミーを引き連れて去ろうとする。そして、ルートがそれを呼び止めるような素振りは見せない。

「え、こんなんで誤魔化せたけどいいの?」

 ジンがトトに小声で話しかけると、トトも同じように返す。

「ルーくん、割と天然だからね。彼はこのアモルエ担当班の班長、ルートくん。彼、相当なバーコード嫌いだし、真面目な子だからジンのこと知られると面倒だけど、今日の〈鉤爪〉討伐には参加しないから、そんなに気にしなくていいよ」
「何をコソコソ話しているんだ、トトさん」

 やはり怪しみ始めたか。トトは慌ててルートの顔を見て笑いかけた。

「え! なんかこの子がルーくんのことキリッとしててカッコイイって言ってたから、ルーくんのこと教えてあげてたんだよっ」
「む……そ、そうか」

 そう言われると、ルートは困ったように視線を反らし、首に巻いていたスカーフで口元を隠した。そして、ジンのことについて言及するのは止め、代わりに労いの言葉をかける。

「〈鉤爪〉の討伐、気を付けて下さいね、トトさん」
「うん、ルーくんも頑張ってね」

 トトは笑顔を絶やさずに手を振って、ルートとユードリナから離れていく。
 十分に離れた辺りでジンはトトに訪ねた。

「大丈夫?? あのヒト照れてたよね? チョロくない? 斑長務まるの? 彼」
「褒められて嬉しくないヒトはいないからね」

 そういう問題ではないだろう、とジンは少し心配になるが、これから討伐する〈鉤爪〉とは関係ないだろうし、ハイアリンクのことなどどうでもいいか、と考えた。

Re: 継ぎ接ぎバーコード【更新じゃない】 ( No.60 )
日時: 2018/11/25 01:14
名前: ヨモツカミ
参照: https://twitter.com/tsugiba/status/1065221638919151616?s=19

こんにちはー。ヨモツカミです。
(だんだん書くのが楽しくなくなってきたからって執筆サボって)なんとなく動画作ってみたいなって気分になったので、練習として、今までTwitterに載せてきた更新絵とか、落書きとかで動画作ってみました。ので、クオリティはそんなに期待しないで下さい。
いや……本編もこれから大事なシーン入ってくるので、そこを書くのは楽しいのですが、そうじゃない部分がなんか、やる気でなくて……。なんていうか、こう、コメントほしい(切実)

そんなことはさておき、とりあえず曲に合わせて絵を流していくだけのものを作りましたが、次作るときはちゃんと色々考えて作りたいです。

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