複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2020/05/27 22:13
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。

「どうか安らかに、死んでくれ」

 ──愛することが、罪だとするならば。

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定でしたが、面倒になったのでやめました。1ヶ月に1〜3回更新の予定? でーす。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉


一気
>>0-
登場人物紹介
>>52 >>68
忙しい人向け継ぎ接ぎバーコード
>>91 >>92 >>93 >>94 >>95
>>96-97 >>98(一気読み>>91-98

No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下のバケモノへ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56 >>57 >>58 >>59
>>61 >>62 >>63 >>66 >>67>>53-67
No.06 薄暮は世迷い事を
>>69 >>70 >>71 >>72 >>73 >>76
>>80 >>81 >>82 >>83>>69-83
No.07 翠に眠る走馬灯
>>84 >>86 >>87 >>88 >>89 >>90
>>84-90) >>100 >>101 >>102
>>100-102

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8>>92 ・クラウス>>15>>90
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・なんか動画作ってみた>>60
・祝★参照7777記念>>63
・祝★2019年夏大会>>85
・祝★2019年冬大会>>99
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様
日向様、サメノ様、友桃様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・ ロストワンと蛙の子【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日 キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日 No.01修正
2019年 4月14日 No.02修正
2019年 6月1日 No.03修正
2019年 9月22日 夏大会金賞受賞
2020年 3月8日 冬大会管理人賞受賞

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Re: 忙しい人向け継ぎ接ぎバーコード編 ( No.98 )
日時: 2020/04/11 12:10
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=article&id=1603

>>>忙しい人向け継ぎ接ぎバーコード<<<
つぎばの振り返り、今回でラストになります。来週からは本編の執筆に戻るのでよろしくお願いします。
今回のオマケ絵は桜色の髪の少女、この作品のヒロインですね。彼女の活躍は主にNo.07になりますので、応援してあげてください。

【No.06 薄暮は世迷いごとを】

1年程前。ジンの、タンザナイトとしての最後の夜。
「──アタシがアイリスになってから、364の夜を数えた」と、アイリスが言う。ジンは彼女のことをシオンと呼んだ。
アイリスとは、過去に死んだ、シオンの親友の名であった。紅蓮バーコードだから、ジンが殺したのだが、今際のときに自分を忘れてほしくないと言って、シオンに名前を送ったのだ。アイリスの願いを聞いて、シオンは1年アイリスとして生きてきた。
「あいつのいない日々は霞んで見える。今が楽しいほど、苦しくなる」と、シオン。それから「明日、アイリスに会わせてよ」と言った。死者に会う方法なんてない。だからこそ、思い決断だった。
ジンは承諾する。彼女の決意に応えるとき、すべて終わらせるとジンも決めていたのだ。
──仲間ごっこは、終わりにしよう。
と。

朝。次に移動する場所を決めるために、アケは〈フェニクス〉を使って空を飛ぶ。
アケが飛び立ったときの砂埃で騒いでいたタンザナイトの仲間たちを見てシオンは涙をこぼす。
「楽しいことがあるたびになんでアイリスはいないんだろって思って悲しかった」
アイリスはあなたでしょ? 何言ってるのと困惑する仲間たちにシオンは「今までありがとな。アタシは……お前らのこと、大好きだ」と伝えた。それが別れの言葉みたいだと、皆わかってしまって、不穏な空気になる。それからシオンはもういいよ、とジンに伝え、わかったと返したジンに視線が集まる。

次の瞬間、シオンとローザにジンのナイフが放たれ、絶命する。
マリアナにも放たれたナイフを、ニックが弾き飛ばし、〈アイゼルネ〉でジンを貫く。
マリアナはジンが死んでしまうからやめてとニックを止めたが、無視してジンを殺した。
何故殺したのかと激高するマリアナに、ニックはそれ以上に大きな声で生きるためだと返す。
既に仲間は殺されたのだから、ジンを殺すしかなかったのだと。

ローザ、シオン、ジンの死体を残して、とりあえずアケの元へ行こうとする。
が、ジンが生き返る。漆黒バーコードのことを知らない彼らは困惑した。そうして、ジンはまたナイフを放ってくる。〈グラビティ〉という重力操作の能力でナイフを落とすカルカサ。
ニックはマリアナを逃がそうとする。一瞬躊躇したマリアナに、ジンはナイフを放つ。そのとき、ジンの口が“ごめんね”と言った気がした。
マリアナを庇って、カルカサが死んでしまう。代わりにニックがジンを仕留める。しかし、やはりジンは復活した。
マリアナにアケのところに行くように伝え、ニックはひとりで立ち向かう。
「アケと私の側には、あなたも必要なのよ。絶対に、死なないで」
そう言い残して、マリアナはアケを探しに行く。

ニックはジンに問いかける。「どんな気分で過ごしていたんだ? 皆で笑っているときも、こうやって殺す日のことでも考えていたのか? お前を思い遣る仲間たちのことを、本当は心の底では嗤っていたのか? なあ、応えろよ! 騙して殺した、今の気分はどうだ!? 楽しいかよ! なあ!」
「うるさいッ! どうせ死ぬくせにガタガタ喋るなよ!!」
ジンは泣きそうな声で返した。

殺し方を変えれば死ぬか、今度は〈アイゼルネ〉で貫くのではなく、ジンの首を締めて殺す。
しかしやはり、ジンは息を吹き返した。
もう生き返らないでくれと零すニックに、ならちゃんと殺せとジンは返す。ニックは辛くて泣き出す。
「泣いてるの? なに、もう殺すの嫌になっちゃった?」
「仲間だったんだ。当たり前だろ。だからもう、やめてくれよジン」
ニックはジンと楽しく過ごした日々を思い出す。ジンの戦闘技術を褒めたとき、ジンは、このチカラを仲間を守るために使えて嬉しいと笑っていた。嘘をついているようには見えなかったのに、どうして、と考え込む。

仲間、という言葉を嘲笑うようにジンが言う。仲間に腹を貫かれるのは痛かった、何度も仲間にこんなことをして、どんな気分だ? と。君の〈能力〉は仲間を殺すためのものなの?(笑)と。
煽られて感情的になったニックが鋼鉄の左手でジンの頭を殴打して殺す。

しかし、ジンは生き返った。
「くそ、なんで死なねえ! 死ねよ! もう死んでくれ! 死ね! ああああああああああああ!」
今度は〈アイゼルネ〉で後頭部を貫き、口から棘が生えてる感じで死ぬ。
ボクは、タンザナイトの隊長。このチカラは仲間を守るためのものだ。ジンを殺すことも仲間のためのことだ。ジンはもう仲間じゃない。ニックは自分に言い聞かせる。

それからニックは崖に移動して、ジンの両腕と左足の骨を折った。殺したら生き返るので、半殺しにして崖から捨ててやろう、と考えたのだ。
骨折しまくったジンを崖から落とすと、ニックはマリアナとアケを探しに行く。

アケの見つけた洞窟の中で、ニックはさっき起こったことを全て話した。
全て聞き終えると、どうしてかアケがごめんなさい、と言った。自分がその場にいれば、わたしの〈フェニクス〉はこういうときのためにあるのに。と。
アケは〈能力〉を2つ所持したバーコードであり、鳥のような姿になるチカラと、治癒のチカラを合わせて〈フェニクス〉という能力名なのだ。
アケは悪くない。誰も悪くない、とニックは口にする。でも、1年前にジンとアイリスを仲間にしなければよかったのではとも考える。
悪くないと言われてもアケは「わたし、だれも助けられない。のうりょくはあるのに。これじゃ、ただのバケモノだ」と言い出す。
「そんなこと言わないでくれ。アケもマリアナ先輩も生きていてくれた。2人はボクの生きる希望なんだ」

ニックはそう言って仲間たちのことを思い出す。いい仲間たちだろ? ジンと話したこと。
「うん……本当に素敵だよね。やかましくって、馬鹿みたいに、暖かい空間だ」
「そうさ、素敵なんだ。お前もボクも含めてな。全員で仲間なんだよ」
なのに、何も守れなかった。ニックは悔しくて泣き出しそうになる。

少し風に当たってくると、ニックは洞窟の外に出た。
かつてのタンザナイトの隊長が、「もし自分になにかあれば次の隊長はお前がやれ」と言ってきたことを思い出す。彼女に任されたのに、自分は務めきれていない、とニックは嘆いた。隊長失格だ。
ロストさん、と彼女の名前を呼んでみる。

マリアナがやってきて、守ってくれてありがとうと言う。自分は守れてないとニック。泣き出したニックをマリアナが抱きしめると、ニックはマリアナをお姉ちゃんと呼んだ。
彼らに血の繋がりはないけれど、同じ孤児院で姉弟のように育ったのだ。
ニックが落ち着くと、明日仲間の遺体を埋葬しに行こう、と話す。

そして現在、深夜のアモルエにて。ひとりで考え事をするクラウスが街を彷徨いていた。
そこへニックとジスフィーネが現れる。ニックが〈能力〉を発動した状態なので、バーコードだと気づいてクラウスは警戒する。
ジスフィーネの〈イーグルアイ〉で、クラウスのバーコードはバレていた。ジスフィーネがクリムゾンのことを口にすると、ニックの様子も変わる。
「お前は何人殺してきた?」と睨みつける。クラウスはニックの顔面にポケットにあった何かを投げつけ、透明になって逃げる。追いかけようとするニック。
「……隊長1人で行って。あたしは、かくれんぼに付き合ってやる気分だから」
発言の意味は理解できなかったがとりあえず追いかけるニック。

ジスフィーネは、物陰に隠れた人物に気付いていたのだ。ジンだ。ちなみにさっきクラウスが投げつけたものはNo.04でクラウスが母親の名前を書いた紙だ。
ジスフィーネには〈イーグルアイ〉でジンの漆黒バーコードも見えていたので、警戒する。
ジスフィーネとジンの戦闘が始まった。
〈イーグルアイ〉のもう1つのチカラ。目を合わせることで金縛りも行えるのだ。ジンはその場に固まって、ジスフィーネに殺される。

その頃、逃げ出したクラウスは、ニックに捕らえられ、右腕を貫かれていた。
クリムゾンとして過去にヒトを殺してきたであろうことを咎められる。「違う、殺したくなんてなかった」と言うと「だったら死ねばよかったんだ」(ごもっとも)と言われる。
恐怖に耐えかねて来るはずのないトゥールに助けを求めたクラウスを見て、ニックは「仲間がいるんスか。ボクにも沢山いました。でもたくさん殺されました。そうですね、教えて下さいアイツはどうすれば殺せるんすか」と、ジンの話をする。

そのとき、ニックにナイフが投擲される。ジンが助けに来たのだ。
「会いたかったよ、ジン」
「僕は会いたくなかったね、ニック」
一年ぶりの再開である。
「そうだ、さっき拾ったんだけど、重たいからあげるよコレ」
と言ってジンがニックに投げつけたのは、ジスフィーネの生首だった。
てめえ許さないぞ! と言うニックに対し、いいよ(^^)とジンが言う。
「諦めることで、認めることで、結局楽になりたいんだアンタは! 楽になんてさせてやるか。ジン、アンタは、永久にその罪に苦しんで、のたうち回って、死ね……!」
「じゃあ、次はちゃんと僕のこと殺してよ?」
2人がそんな言い合いしてると、隙を見てクラウスがニックを殴り、ジンの腕を掴んで、透明化して逃げ出した。

逃げ出して路地裏に隠れてから、ジンはなんで僕まで一緒に逃したんだ、と怒られる。クラウスさえ逃せばそのままニックと戦うつもりだったらしい。
クラウスは「ジン、助けてくれてありがとう」と言うと、ジンは否定した。助けてねーし、と。何れ殺す存在のクラウスを助けた訳がないと、ジンは自分に言い聞かせていた。

突然クラウスが思い詰めたように「あのさ。ジンは、ヒト殺すの……好き?」と訊ねる。ジンが別に、と言うと「じゃあホントは殺すの嫌いなんだろ」と。
「ジンは、誰も殺したくないんだろ。だからオレやトゥールのことも殺さないんでしょ」
答えなかったけど、図星だった。
クラウスは、殺したくないを知っていた。それは、ジンの中に残った人間らしさなのだろう。
自分たちはバケモノなんかじゃない。人間なんだ、と考える。
今までいつか自分を殺す忌々しい存在に見えていたのに、クラウスは初めてジンと出会った瞬間の“助けたい”が捨てられなかった。似ていると思ったのだ。クリムゾンに突き動かされ殺したくないクラウスと、殺す運命を覆せないジン。
「ジン、生きようぜ、誰も殺さずにさ」
ジンは両手で顔を押さえて、「無理だよ」と言った。
「君のせいだ。あの時君が手を差しのばしたから。あの暖かさを覚えている。あの時君が僕を助けたから。無関係でも、助けるって、言ったから。だから迷ってしまう」
クラウスに助けるって言われて、縋りたいと思ってしまったのだ。
でも、今全てのバーコードが苦しんでいるなら、その原因はジンにあるのだ。何年かけても贖罪を果たさなければと、思う。
「……ねえクラウス。忘れるな。君みたいな優しい馬鹿が苦しむ現況は、僕だ。君は、僕をただ恨めばいい」
ジンは苦しそうに笑っていた。
「同情はいらない。僕を、恨んでくれよ」
それからジンは昔の話をクラウスに聞かせた。

ニックに崖から捨てられたあと、自殺して復活したジンは殺したタンザナイト達のもとに来ていた。殺した仲間たちに、一言ずつ言葉を贈る。それから、殺したくなかったと泣いた。
そんなジンを見たら、桜色ガールは笑うだろう、と思った。んだろう、と“彼女”も笑うだろう。
「愛することは罪である」
「失う苦しみは愛した罰である」と。

ジンは1年前のタンザナイトとの日々や殺してきたことをクラウスに話した。
「さっき、ジンは僕を恨めって言ったけどさ。お前のこと、恨めないよ。だってオレ……悲しいよ」
クラウスは、初めてジンを見たとき、過去の自分に重ねたのだと話した。今もその気持ちは変わってない。でも、ジンの抱えてるものが大きすぎて、自分には何もできないんだ、と言った。
「違う形で会ったなら、オレたち友達になれたんかな。なんて」
クラウスが言うと、ジンは「やめときな、殺すよ」と返して、そうだな、こっちからも願い下げだ、と話す。
ジンはまだタンザナイトを殺しに行くからひとりで帰れと言って、ジンは街の中に消えていった。

そしてマリアナとジンが出会った。
殺す気のジンに対し、〈能力〉すら発動しないマリアナ。
「私、駄目ね。あなたに仲間を殺されて、怒りもあったかもしれない。ううん。あったはずなのよ。ローザもカルカサも、同じ苦しみを一緒に乗り越えてきた大切な仲間だったわ。アイリスも、短い間でも、一緒に戦って、笑って……大切な時間を共にした、仲間だった。そして、あなたも」
今も仲間だと思ってるから、〈ダゴン〉は使えない、と言った。
ジンも、仲間たちのことを忘れてなかった。過ごした日々は大切だった。過ごすうちに、殺したくないと思ってしまった。
涙を溢しながら「今だって、君を殺したくないよ! どうか、生きてくれ! 僕に殺されないでくれ……!」
と、伝える。
マリアナは不意に語りだす。
「私ね、皆を守りたいって思った。一緒に生きたいと思った。明日を夢見て、これからも一緒にいたいって。でも、それ以上に、失いたくないって思ったの。……悲しい記憶がなければ、私の幸福は永遠になるんだわって」
何を言ってるのかわからないジンに対して、「見届けるのは嫌だ。だから私、あなたに殺されたいと思ったの」と言う。
なんで、と言うジンに、もう耐えられないから殺してほしいとマリアナは訴える。
その瞬間、ジンの脳裏に声が聞こえてくる。
『ねえジン。約束だからね』
『例え何年掛けようと。必ず殺し続けるの。終わりのその時まで、ね』
ジンはそのとき、“死神”の顔になった。
涙を溢れさせながら、ジンはマリアナを殺した。
「だいすき、だよ」最期に彼女はそういった。
耐えきれず、ジンも自分の喉を掻き切って、自害する。走馬灯で桜色ガールが言う。
「愛することは罪である」
「失う苦しみは愛した罰である」
「それでもあなたは愛することをやめないのでしょ。私のように愛し方を忘れるほうが怖いのね。ねえ、失う以上に怖いことって何? 私輪はわからない。愛して心が痛むなら、愛さなければいいのに。私はその痛みが怖いよ」
ジンは僕もだ、と返す。
「この痛みが、彼らが生きていた証明だから。彼らは生きていた。バーコードとして生きることになって、存在を許されなくなっても、確かに強く、生きていたから。僕は、これからも痛みに苦しむことになる。でも、それでいいんだ」
夢なのか遠い記憶なのか、わからない幻想の中で彼女にそう言った。

To Be Continued

Re: 継ぎ接ぎバーコード【更新じゃない】 ( No.99 )
日時: 2020/04/13 19:19
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs3/index.php?mode=article&id=1621

【祝☆管理人・副管理人賞】
3月8日くらいかな。ちょっと個人的に取ってみたかった賞を頂いたので、応援して下さってる皆様に感謝を述べたくて。皆様、つたない作品ですが継ぎ接ぎバーコードを読んでくださってありがとうございます。
管理人・副管理人賞が取ってみたかった理由ですか? 全掲示板共通であり、何票入ってるかわからない普通の賞よりすごそうだなと思ってたからです。だってもう、カキコのなかで一番ってことじゃないですか? やったぜって感じ。
今後、つぎばは読者の皆さんの期待する終わり方をしないかもしれないけれど、それでも最後まで一緒に歩んで? 頂けたら嬉しいなって思います!
今回はお祝いとして……誰描いていいか迷いましたが、まあ、主人公だしね。こんな時にしか明るい表情するチャンスないからね。楽しそうなジンを描きましたので、そちらも見ていただければ嬉しく思います!

長らく本編の更新止まってましたが、来週辺りから再開しますのでどうぞ宜しくお願いします!

Re: 継ぎ接ぎバーコード7-7 ( No.100 )
日時: 2020/04/23 19:32
名前: ヨモツカミ



***


 日を重ねるごとに、ルイはよく笑うようになっていった。その変化が嬉しくて、今日は僕の部屋に置いてあった本を持ってきて、その話を聞かせた。

「小さい頃によく母さんに読んでもらったんだ。懐かしくて昨日の夜読んでたんだけど、何度も読んだのに、なんだか違った感じ方をしてさ。不思議だよね」

 ベッドの上に腰掛けたルイは、本の表紙を眺めて、目をぱちぱちさせていた。寂れた村に住んでいた少女の家が、ある日竜巻に飛ばされて不思議な国に落ち、喋るカカシやブリキの木こり、臆病なライオンに出遭って、それぞれの願いを叶えてもらうために王様に会いに行くという話だ。

「女の子と、ライオンと……この銀色のと、変な帽子を被ってるのはなに?」

 表紙の絵を指差しながらルイが言う。今度は僕が目をぱちぱちさせる番だった。

「結構有名な話だと思ってたけど、読んだことないんだね。これはブリキの木こりとカカシだけど」
「おれ、文字が読めないから……」

 困ったように笑うルイを見て、はっとする。以前、ルイは親に売り飛ばされてバーコードになったと話していた。親に文字を教えてもらったことなど、無いのだ。それに、我が子を金と引き換えに受け渡すような親だ。ルイとの関係もあまりよくなかったのだろう。きっと寝る前に本を読み聞かせてもらったことだって、無かったのだ。
 ルイの境遇を哀れんで、僕は酷く悲しい気持ちになった。自分の育ちとは全然違う。母さんがいて、父さんがいた。母さんは亡くなったし、母さんが入院している間、父さんは仕事にばかり行って、ほとんど一人で過ごす寂しい時間もいくらかあった。──今思えば、その時からあのクローンの少女や、漆黒バーコードの研究に時間を費やしていたのだろう。それでも、確かに愛されて育ってきたのを知っている。ルイは、親から貰うべき愛情を受けることもできずに今、ここにいる。牢の中、まるで囚人みたいに閉じ込められている。翡翠バーコードだから、という理由だけで。
 僕は本をベッドの上にそっと置いて、ルイの腕を取った。

「ジンくん?」

 ルイの細い腕を隠す袖を、ゆっくり捲くる。ビク、と彼が震えたのがわかった。顕になったルイの腕には、無数の痣がある。僕は数日前からそれに気付いていた。腕だけじゃなくて、胸のあたりにあるのを見たから。嫌な想像が頭を巡るのが怖くて、知らないふりをしようとした。でも、友達のことを放っておくなんてできないと思った。

「この痣、どうしたの」

 訊ねると、ひゅ、と息を吸い込む音が聞こえる。出会った日と同じように、怯えきった表情のルイがいた。
 僕も半分答えに気づいていた。知っていて、彼の口から聞こうとする。
 これは他人からの暴力の跡だ。翡翠バーコードは人間ではない。だから人権など無いと思って、酷いことをする研究員がいるのだと思う。ポワはきっとそれを知らない。

「誰にやられたの」

 僕の問いに、ルイは泣きそうな顔で首を振った。

「おれが、おれが悪い子だから……おれがいけないんだ。生きてちゃいけないから、だから、殴られる……」

 震える声でそう言った。
 生きてちゃいけない? それで殴られるのか。瞬間、怒りで顔が熱くなるのがわかった。

「いつから? 何回? どれだけの間、耐えてきたの」

 僕の問いに、ルイは答えなかった。ただ震えながら首を横に振る。暴行の痛みや恐怖を思い出して、怯えることしかできないのだ。
 こんなこと、許せるわけがない。友達がこんな扱いを受けているのに、僕は見ないふりをしてきた。自分のことだって許せない気がした。だって、ルイはいいやつだ。臆病だけど、優しくて、他人のことを考えるあまり、自分のことを蔑ろにするような少年だ。優しいだけの、ただの子供だ。それがまるで罪人みたいに閉じ込められ、人格を否定され、暴力すらも黙認している。そんな状況を、許していいはずがない。
 全ては、翡翠バーコードだから。たったそれだけの理由でこんな扱いを受けている。
 でも、だからなんだって言うんだ? 翡翠バーコードであることを知らない人たちの元へ行けば。ルイはただの、優しいだけの少年になれる。
 ルイ。彼の名前を呼んだ。僕の声は決意に満たされていて、いつもより力強かった。

「ここから、逃げよう」
「え?」

 彼の腕を引いて、ベッドから立たせる。牢の鍵は、ポワに託されて僕が管理していた。僕ならこんなことしないって、勝手に信じているから。
 きょとんとするルイの顔に手を伸ばした。隈の目立つ、血色の悪い肌に、継ぎ接ぎの掌が触れる。

「誰も僕らを知らない、遠くへ行こう。僕が連れて行ってあげる」
「む、無理だよ、そんなこと!」
「いいや。君は端から諦めているからそう思うんだ。外に出れば、なんだってできる。正体を隠してさ、ただの人間になるんだよ。なれるよ、僕らなら」

 ルイは瞠目するばかりだ。その大きな潤んだ目は、今度こそ零れ落ちてしまいそうだった。
 彼は少しの逡巡のあと、小さく。それでも確かに頷いた。いつになく生き生きとした光を灯した水色の瞳が、僕を力強く見つめていた。

「──行こう」

 僕らの大きな勇気は、牢の鍵を外して、通路に足を踏み出させた。向かい側の牢で、萎れた花のように項垂れていた男が、ぎょっと目を見開いて僕達を見ている。そうして、掠れた声で僕らを呼び止めた。

「あんたら、止すんだ。死に急ぐんじゃないよ……ここで大人しくしておけば、寿命が伸びるんだ。ルイを早く死なせたいのか? そうでないんなら、黙って牢に戻るんだよ」

 僕はルイの手をぎゅっと握りしめて、男の顔から目を逸らした。その先の牢にいた翡翠バーコード達も、僕らが通路にいるのを見て、驚いたふうだった。けれど、言葉はかけてこない。何か言いたげに僕とルイを見つめるばかりだ。
 大丈夫。僕には〈シュナイダー〉もある。いざとなれば闘える。ルイを守りきって、外に行く。
 僕はルイの腕を引いて通路を駆け抜けた。いつもポワと歩いた翡翠バーコードの管理区間は、違って見えた。
 牢が続く通路を抜けて、白い壁の廊下に出たとき、白衣を着た中年の男が目の前に立ち憚った。

「ヴィクター博士のご子息!? そいつをどこへ連れて行く気です!」

 ルイはひっと息を呑んで、足を止めた。振り向くと、怯えきった表情で白衣の男を凝視していた。

「あ、あ……おれを、いつも殴るヒト……」

 こいつが。黒いナイフを出現させると、僕は怒りに任せて男の方にナイフを飛ばした。当てる、ということは〈能力〉でヒトを傷付けるということだ。僕にはまだその勇気が足りないらしく、飛んだナイフは、白衣の男の頬を掠める程度だった。しかし、それだけでも男を怯ませるには十分だった。
 その隙にルイを連れて逃げようとしたが、男が素早く懐から何かを取り出した。鈍く黒い鉄の塊。拳銃だ。

「ひ、う、撃ちますよ!? 例え博士のご子息であろうとも、翡翠バーコードを連れ出す気なら! さあ、考え直しなさい!」
「てめぇこそ、死にたいなら殺せるんだけど?」

 数10本のナイフを体の周りに漂わせて、凄んで見せる。男は拳銃を構えたまま、腕を下げない。ならば、と思って僕はナイフを全て飛ばした。勿論、男に当てないように。

「うっ、うわ、ああああ!!」

 だが、男は僕とは違った。拳銃の引き金を引いた。発砲音が耳を劈く。同時に胸に、強い衝撃が襲う。更に何発か、発砲音。衝撃。経験したことのない激しい痛み。息ができなくなる。
 自分の体に、視線を落とした。着ている服が数カ所、じわりと赤く染まっていく。
 ルイが叫ぶ、甲高い声。足に力が入らなくなって、床が迫ってくる。
 ? 、?
 嘘だ。撃たれた。この男、何を考えて、
 顔を傾けたとき、白衣の男の手にした拳銃が、銃口と、目が合う。
 だん。
 発砲音が頭に吸い込まれる。額の辺りが冷たい。
 その感覚で、頭を撃たれたのだと理解して、それと同時に意識が深い闇の奥に引きずり込まれていった。

 闇の中にいて、まだ意識があるような不思議な感覚。体の痛みはまるでない。ただ、胸に流れ込んでくる漆黒の奔流。止まらない、拒みたくても心臓を目掛けて、違う、胸に刻まれた漆黒のバーコードの中に。闇が、雪崩れこんでくる。
 遠退いたはずの意識が、徐々に戻ってきて、隘路のように不気味な漆黒が、僕の中を満たしていく。
 お前は死なない。
 お前は死ねない。
 この呪いを受けてしまったからには、死ぬことは許されない。
 何かが僕に生きろと囁く。

「うわああああああああああああああああああああ!!ッ」

 完全に意識が戻ったとき、ルイの絶叫と、あの白衣の男の悲鳴が入り交じるひどい音が耳に届いた。
 白い光。強くて、目が開けられない。目を閉じているのに、眩しくて仕方がない──。

「ぎゃあああああッッあああああ!! 痛い、痛い痛い痛い目があああああああッッ」

 僕が上体を起こすと、ルイが僕を庇うみたいに背中を向けていて、白衣の男が両目を抑えて蹲っていた。
 そうして、ルイは泣きながら床に両膝を突いた。
 今の強い光。そうだ、ルイの〈フラッシュ〉だ。それで男を失明させたんだ。
 でも、僕はどうなったんだ? 確かに男に銃で撃たれて。蹲る白衣の側に、硝煙を吐き出す拳銃が転がっている。夢なんかではない。事実が脳を横殴りにする。
 僕は撃たれた。体を数カ所、それに頭を一発。
 それで──死んだのだ。
 けれど、廊下に血の跡は無い。
 黒の奔流。
 心臓に雪崩れこんできたあれは。

「漆黒バーコードは……本当に不死身なんだ」

 ぼんやり理解して、ルイが泣いているから、慰めないと、と彼の側に寄る。
 騒ぎを聞きつけた研究員達が遠くから駆け寄ってくるのが見える。
 ルイは床にへたり込んで泣き喚くだけで、立ち上がろうとしない。
 逃げないと。ルイ。自由になるんだ。

「ジンくんが、ジンくんが生きていてくれて、よかった」

 涙で目を腫らしながら、ルイはそれだけ言った。

 あとは、よく覚えていない。
 駆け寄ってきた研究員の中に父さんがいた気がした。ポワもいたと思う。首に注射器を打たれた。その瞬間に急激な眠気とだるさに何もできなくなって。

Re: 継ぎ接ぎバーコード7-8 ( No.101 )
日時: 2020/05/06 17:14
名前: ヨモツカミ
参照: 本日でつぎばは4周年です



***


 次に目が覚めたら、いつもの自分の部屋のベッドの中にいた。傍らには、涙に目を腫らしたポワがいて。
 僕と目が合うと、ポワは慌てて目を擦る。そうして無理矢理作られた笑顔で、まず一言、ごめんなさいと告げてきた。

「なんでポワが謝るの」
「ジンくんが起きたら、1つだけ伝えなければならないことがあったので。これだけ、聞いて下さい」

 ポワは僕の質問には答えない。一方的に言葉を紡ぐ。その隙間に僕の言葉を挟む隙は無さそうだった。

「ルイは、処分になりました」
「……え?」
「それだけです。短い間でしたが、ジンくんとお話できてよかったです。サヨナラ」
「待ってよ! 処分ってどういうことなの? それにサヨナラって、わからないよ!」

 既に踵を返したポワの背中に、とにかく声をぶつけた。そういえば、ポワはいつもの白衣を着ていない。いいや、そんなことはどうでもいいんだ。ルイがどうなったって? ベッドから片足だけ出して、冷たい床に触れた指先が震えた。
 ポワの灰色の髪を見つめて、答えを待った。

「だから……し、死んだ、んですよ」

 震えた声でも、僕の耳には、心には、鋭利な杭のように穿ち、貫くように言葉は届いた。
 息を吸い込んだ。肩が震える。信じられなくて、心臓がバクバクいっている。
 死んだ。
 処分の簡潔な説明は、何よりも単純で、それでいて真っ直ぐに、ただ、それだけの意味しか持たない。
 僕のせいだって、すぐに悟って、唇が震えた。僕のせいで。ああ、そうだ。牢を出たとき、名前も知らない翡翠バーコードの男に言われたとおりだ。彼は、ルイを早く死なせたいのかって、僕に聞きた。違う。何よりも、誰よりも、生きて欲しかった。だから、行動に出たのに。
 そうだ。逃げ出すとき、研究員の男に銃を向けられて。
 瞬間、胃液が喉元までせり上がって来て、思わず口を両手で覆った。
 銃を、向けられて?
 僕は。弾丸に脳天を貫かれた。冷たい感触をしっかり覚えている。
 ああそうだ、僕は、死んだんだっけ。
 でも、その後に襲ってきた“漆黒”の奔流もよく覚えている。
 生き返った。だけど、ルイは。

「ジンくんが全部悪いとは言いませんよ。だって、ジンくんは、優しいだけ。そう、優しかっただけですから」

 ポワが振り返らずに言った。声はもう、震えてはいなかった。
 そのまま部屋のドアノブを捻って、出ていく。

「ジンくんは悪くない。おかしいのは、」

 若葉色の双眸がこちらに向く。潤んだ光は、柔らかく僕を見ていた。

「世界の方、ですから」

 バタン。簡素な音がして、扉が閉まった。
 取り残された僕は、ただ、呆然と床を見ることしかできなかった。
 心臓が落ち着くまで、深呼吸をする。病院着みたいな服の襟元を引っ張って、胸元を見た。星の無い夜のような闇。覗けば覗くほど、深淵に引きずり込もうとするみたいな、不安になるほどの漆黒が、淡々とそこに佇んでいる。この漆黒の縞模様が、一度死んだ僕を生き返らせた。空いている方の手で額に触れる。弾丸に撃ち抜かれて空いた風穴は、何処にもない。傷も残さず、黒の奔流は僕を元の生きた体に戻してみせた。父さんが言った不死身というのは、本当だったんだ。
 カリ、と漆黒バーコードを爪で引っ掻いてみる。皮膚に薄い跡は残るのに、バーコード自体には何も残らない。消えない刻印。僕は、もうどうやっても死ねない生き物に変わってしまったのだろうか。
 ルイのところには、行けないのだろうか。
 しばらくベッドで項垂れていると、部屋の扉がノックされた。僕は顔を上げる。控えめに開かれた扉の隙間から、黒い髪と翡翠の吊目が覗く。父さんだ。

「今いいかい、ジン」

 父さんの声に、僕は黙って頷く。部屋に入ってきた父さんが、ベッドの前で立ち止まり、困ったように笑った。

「ジン……どうしてあんなことをしたんだい」
「ルイが、可哀想だった」

 そうかい。父さんは短く相槌を打って、それから押し黙った。僕は確かに悪いことをしたのに。それこそ、ルイの命が失われるだけの、悪さを。なのに、父さんは僕を叱ったりはしなかった。
 呆れられているのかな。そう思って、彼の瞳を見据えた。なんだか、疲れているように見えた。
 視線がちゃんと合うと、父さんは口を開く。

「ええと……あのね、ジン。これからは僕とドロシーと会うことだけは許可されているからね、ここでの生活が退屈だと感じたら、家族である僕らなら、ジンに会ってあげられるから……」

 歯切れの悪い台詞だった。

「僕が悪い子だから、僕を閉じ込めるんだね」
「違うんだよ。ジンのためなんだ。施設内はやっぱりジンには危ないから、ね?」

 危ない、というのは。今回みたいに僕の行動が誰かを殺すかもしれないということなのだろうか。
 そう思ってから、じんわりと実感が湧く。
 ああそうか。僕がルイを殺したんだ。一番生きて欲しかったから、行動に出たのに、なのに。

「父さん。僕は──ドロシーと会うことは、許されてるんだよね?」

 僕がドロシーという呼び方をしたから、父さんは一瞬変な顔をしたけれど、そこについては言及されず、そうだよ、と短く答えるだけだった。

「会いに行きたい」
「わかった。じゃあこっちだよ」

 彼女の部屋に着くと、父さんは仕事があるからと言って去っていった。自分の部屋に戻りたくなったらドロシーに言ってくれれば、暇な研究員を迎えに行かせる、とのことだった。
 ノックをして、扉を開けると、ベッドに腰掛けて、膝に乗せていた本をぱたん、と閉じたところだった。彼女は薄く微笑んでいて、それがかつての母の顔と重なるのが、嫌で堪らなかった。

「ジンから会いに来てくれると思わなかったな。今晩は」
「会えるヒトがあんたしかいなかったから来ただけだよ」

 そう。誰かに話を聞いてほしかった。ただ、それだけで来たのだ。
 彼女は本をベッドの脇に置いて、僕の顔を優しく見つめる。なんとなく視線をやった本が、ルイに話した本と同じものであったこと。それには、できれば気付きたくなかった。
 僕はふてぶてしい態度で彼女に言う。

「……あんたのことは母とは思わない。けど、話を聞いてほしい。あんたは、母じゃない誰かとして、息子じゃない僕の話を、他人として聞いて」

 虚をつかれた様子で彼女は目を丸めていたけれど、直ぐに薄い笑顔を浮かべて、わかった、と短く答える。
 僕は彼女の隣に腰掛けて、大切な友達の話を聞かせた。臆病で、ずっとオドオドして不安そうだったのに、少しずつ心を開いてくれた。僕らはこれからも良い友達でいられたはずなのに──。

「そんなことがあったんだね……それは辛かったよね」

 話している途中に、悲しくなって、話し終わる頃には殆ど涙目になっていた。そんな僕に、彼女が優しい言葉をかけるものだから、涙が形になって溢れてしまう。慌てて拭って、彼女に見えないように誤魔化す。

「でもね、ジン。自分を責めすぎないでね、」
「そういう慰めが欲しくて話したわけじゃないから、そういうのいらない」

 鼻を啜りながら素っ気なく言う。そうすると、彼女は少し困ったように眉を下げて微笑んだ。
 そうして、僕らが黙り込んでいると、別の話をしようか、と彼女が切り出してきた。

「あ、じゃあジン。〈能力〉の話をしてもいいかな」

 漆黒バーコードとして目を覚してから間もなく、広めの実験室に連れて行かれて、〈能力〉を使わされたことについて、彼女は語りだした。どのバーコードも、どんなチカラを持っているかは未知数で、そうやって実際に発動させて調べるしかないらしい。ジンも彼女と同じことをした。自分はナイフを出せた、と話して、実際に1本、黒いナイフを出して見せる。

「へえ、ナイフね」

 刃先を摘んで、僕の手からナイフを取ると、彼女は興味深そうに切っ先を撫で付けたり、柄をなぞりはじめる。よく切れるナイフだから、そんなことしたら危ない、と止めようとしたが、彼女は僕に笑いかけるだけだった。

「刃物は本来、ヒトが生きるために生まれた道具だよ。調理をするため、身を守るため、生き物を狩るため……ハイアリンクでは、剣やナイフ等の武器は、バーコードを狩るためにあった。同時に、仲間を守るためにあったんだよ。だから、ジンの〈能力〉は、誰かを守るための力なんだよ。いい〈能力〉だね」
「でも、傷つけることもできるチカラだ」

 実際に、僕は〈シュナイダー〉で、ルイと僕達の前に立ちはだかった研究員を傷付けようとした。その勇気が少し足りなくて、実行には移さなかったけれど。

「そうだね。ジンの使い方次第で、ナイフはなんにでもなるよ。選択するのはジンだから、〈シュナイダー〉をどういうチカラか判断するのもジンだよ」

 目を見張って、彼女の顔を見つめる。薄い笑顔は母さんのものと比べると大分幼く見えるが、それでもクローンなのだから、母の面影をくっきりと残している。だから、重ねてしまいそうになるのを拒む。
 母さんは死んだのだ。この少女は、違う。

「母親みたいなことを言わないでよ。君はドロシーっていう女性の記憶があるからそうするんだ。でも、君はドロシーじゃない。母親ぶるのはやめてよね」

 はっきりと言い放つと、やはり彼女は少し悲しそうな目をしたけれど、同情なんかしてはいけない。
 黒いナイフの発動を止めると、彼女の手の中で、黒く霧散して消えた。それを見届けながら、僕は口を開く。

「それで、君はどんな〈能力〉を、」
「今日はもう帰って」

 急に突き放すような言い方をされて、僕は少し驚いたり

「……言えないようなチカラなの?」
「き、嫌われたくないの」
「別に君のことは、好きじゃないよ」

 ベッドから垂らしていた脚を畳んで、両手で抱え込んで小さくなった彼女は、顔を膝に埋めながらモゴモゴと言う。

「私、このチカラのせいで、ここに閉じ込められているの。ヴィクターが手を回してくれたおかげで、もっと酷い扱いは受けずにすんでるけど。……知ったら、あなたは私を受け入れてくれないと思う。だから、知ってほしくない」

 頑なに話したがらない彼女を見ていたら、そうまでして聞き出すことでもないのかもしれないと思えてきて、僕はベッドから立ち上がる。

「わかったよ。それじゃあ、君が話したくなったら聞かせてね。今日は話、聞いてくれてありがと」

 うん、と彼女は短く返事をするが、顔は上げない。

「じゃあね。おやすみ」
「おやすみ、ジン」

Re: 継ぎ接ぎバーコード7-9 ( No.102 )
日時: 2020/05/28 07:48
名前: ヨモツカミ



***


 独りで部屋で過ごすのにも慣れてきたけれど、ふとした瞬間に寂しくも思う。でもきっと、ジンは私から会おうとしても拒むだろう。それがただの思い込みだとしても事実だとしても、踏み出さなければ何も変わらないことは、なんとなくわかっていて。
 わかっていることと、だから行動に移すことは全く別の話だ。勇気に背中を押してもらわなれけば、前には進めない。私は弱い。ドロシーなら、そんなことでいちいちくよくよ悩まなかったのだろうか。
 暇潰しに読んでいた本の中では、勇気がないから、国の王様に勇気を貰いに行こうとするライオンが出てくる。だけど彼は、他人に勇気を貰わずとも勇敢に振る舞うことができた。最初から持っていたことに、気付かなかったのだ。私もドロシーの遺伝子から産まれた存在なら、元から持っている力があるかもしれない。でも、ライオンのように勇ましく振る舞うことはできそうもなかった。
 弱くて、なんの役にも立たない私。私は、なんのために不死身の体を手に入れたのだろう。
 閉じた本を膝において、ベッドに仰向けに寝転んでいると、不意に部屋にノックが転がり込んできた。
 どうぞ、と言ったか言わなかったかわからないが、ドアノブが勝手に回って、白衣の中年くらいの女が入ってくる。年の割にインディゴの瞳には鋭い光が灯っているように感じる。彼女の様子を窺っていると、更に二人、若い男の研究員が入ってきて、部屋のドアを閉めた。

「初めまして、ドロシー」

 女性が声をかけてくる。突然押しかけてきたのに、随分平然とした態度だ。逆に私のほうが面食らって、声が少し裏返った気がした。

「はい、初めまして。えと、何方ですか」
「グリンダと申しますわ」

 薄く笑みを浮かべて、彼女はグリンダと名乗る。少し寒気のする笑顔だと思った。嘘っぽくて、嫌な感じのする笑い。何か企んでるとしか感じられなかった。

「単刀直入にわたくしの目的をお話しますわね。あなたには残酷な実験に付き合ってもらいたいの」

 残酷な実験。ほら、やっぱり何か企んでいる顔だった。私は、訝しんで恐る恐る口を開く。

「……あなた、ヴィクターには、」
「ええ、ヴィクター博士には内緒ですのよ。ドロシー、あなたは素晴らしいチカラを持っている。生まれてきてくれて本当に良かったわ」

 グリンダは言いながら2、3歩。私との距離を詰めてくる。

「殺すチカラと、不死身の体。それがわたくしの目的ですの。ねえドロシー。あなた、元はハイアリンクだったのでしょう? なら、バーコードを殺すことくらい造作もないわよねえ?」
「どういう……こと?」

 訝しむ私のことなんて無視して、自分の世界を展開している。そんな話し方をする人だった。

「だから、わたくしの命令通りに〈ホロコースト〉を発動したり、わたくしの命令通りに死んでもらったりしたいってわけ。ヴィクター博士には内緒よ? 流石に妻にそんなことさせるの、彼が許すわけないですものね」

 カツカツとヒールを鳴らせて、グリンダは私の耳元に顔を寄せてくる。

「例え偽物だとしても」

 怖気立つのがわかって、私は反射的に身を引いた。驚愕で目を丸くしている私を、グリンダの双眸がどろりと、鋭く突き刺すように見つめていた。
 私が誰かを殺すことと、死ぬことが目的? このヒトは何を考えているのだろう。彼女の藍色を見つめ返して、でもその中から何かを伺うことは難しいと感じる。グリンダは淀んだ目をしている。何を考えているかもわからない、沼のように深い水底の瞳。
 グリンダはまたカツカツとヒールを響かせて、部屋の中を闊歩し始める。

「あなたには世界の役に立ってほしいの。ねえ、ドロシー。あなた、〈能力〉の発現実験のとき、翡翠バーコードを殺したことを気に病んでるでしょう?」

 口元に人差し指を当てる。彼女の少し君の悪い笑みが、一層邪悪なものに見えるような気がした。
 そのことを、何故知っているのか。もしかしたら彼女は、あの研究室の上の方にあった窓から、私を見下ろしていた研究員の1人だったのかもしれない。

「元々処分予定のバーコードだったから、気にしなくていいのにねえ。ねえ、ドロシー。自分が何かの役に立てるって聞いたら、嬉しくなぁい? あなたの惨殺の〈能力〉が、誰かのためになりますのよ」
「で、でも、だからって、ヒトの命を奪うなんて、したく、ない……」

 口にした声は随分弱々しかった。誰かを殺すなんて嫌だ。それは確かに私の意思だ。でも、何か違う感じがする。ドロシーは、元々ハイアリンクで、バーコードを殺しまわっていたのだ。なら、命を奪うことへの抵抗なんて私にはないんじゃないのか。だって、私は、ドロシーなのだから……。
 彼女はゆったりとした動きで首を傾げる。顎を傾けて、下から睨みつけるような、そんな視線で。このヒトのどろりとしていて、それでいて刺すような視線がなんでこんなに嫌なのか分かった。殺気立った蛇に似ているんだ。獲物の蛙を前にとぐろを巻くような、そんな陰湿で鋭い殺気に似た目をする。

「元々ハイアリンクだったあなたなら、嫌だなんて言わないと思ったのですけれど。だって、ハイアリンクはヒトのためにバーコードを殺す仕事でしょう?」

 グリンダと同じことを考えいたらしく、私の思考は掻き乱される。殺すことへの抵抗。違う、そもそもドロシーは。

「……私は、バーコードを殺して、ヒトのためになりたかったの。必要とされる、何かに──」

 そのためにやむを得ずバーコードを殺していた。それがドロシーだったんだ。
 自分の中の“ドロシー”を再確認して、声にするとちゃんと自分が自分でいられるような気がした。

「また、なれるのよドロシー」

 いつの間にかすぐ側に寄ってきていたグリンダが、私の目を覗き込みながら言う。

「〈ホロコースト〉と漆黒バーコードを、世界のために役立てましょう?」

 そうして、彼女の伸ばした両手が、私の頬を包んだ。目を逸らさせないように、だろうか。グリンダの藍の双眸が見える。強い光だ。このインディゴは淀んでいるのに、真っ直ぐ、目的に向かっていくための一筋の光。彼女は獲物を捉えたんだ、私という蛙を。

「わたくし達が、ドロシーを必要としてるのよ」
「……、……」

 必要と。されたかった。その気持ちは、ドロシーの中にも私の中にもある。求めてくれる手があるなら、藁にも縋るような気持ちで、取るしかないんだ。
 蛙はもう、蛇に飲み込まれた。
 だから私は、グリンダの手に、自分の手を重ねた。


***


 あれから僕は、何日間も部屋のベッドの中で蹲っていた。夢の中に、薄い水色の癖毛が出てくる。大きくて、零れ落ちそうな潤んだ瞳が、僕を映している。少しだけ微笑んで、さよならを言う。待って。行かないでって、言いたいのに喉が震えない。声が出なくて、伸ばした手が遠ざかって行く。

「ルイ……ッ」

 やっと声が出たと思ったら、ベッドの上にいるのだ。そんなのが、ずっと続いて、でも時間は確実に傷付いた心を癒やして行った。薄れていく。気付いたら彼の声もよく思い出せなくなっていく。水に溶かした絵の具のように、水面を汚して薄まっていく、痛み。
 あれから何週間か経った頃。僕はようやく立ち直り始めて、そうして、何かしたいと思った。正確には、もっと記憶を薄めるために、自分を慰めるために、気を紛らわせたいと思ったのだ。
 最低な奴。心の何処かに潜むもう1人の僕が冷たく呟いたような気がする。
 彼は僕が殺したようなものなのに、嫌な部分は忘れてなかったことにしようだなんて。わかっている。でも、耐えられないんだ。声だけでなく、その姿も、思い出さえも、もっと薄まってしまえばいいと思う。僕はそういう卑怯な奴なんだな。自分を俯瞰して、そう思って、そんな自分を認めて。諦めることで、僕を救おうとする。結局僕は自分が可哀想なんだろう。
 嫌気が差す。こんな思考すらも。
 全部薄めるための行動をしようと、僕は父さんを部屋に呼んだ。
 部屋に来てくれた父さんの顔は、なんだか結構久々に見たような気がした。僕が塞ぎ込んでいる間、心配して何度か顔を出してくれてはいたが、僕がまともに父さんの顔を見ようとしなかったからだろう。

「あのさ、父さん。僕、部屋に閉じこもるのはもう辞めにしたくてさ。あんなことをしたから、僕の行動範囲はそんなに広くないんだろうけど、その中で、何かできることがしたいんだけど」

 なにか、ないかな。僕の話を聞いた父さんは瞠目して、それからちょっと嬉しそうに笑った。

「だったら、バーコードの研究員の助手なんてどうだい?」

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