複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2018/10/17 00:01
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 ────殺さなければ。

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。
 掲げたナイフに込めるのは?

「どうか安らかに、死んでくれ」

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定です。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉
登場人物紹介
>>52
No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下の爬虫類へ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56>>53-56

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8 ・クラウス>>15
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・祝★参照7777記念
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・虚ろに淘汰。【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2017年 8月4日 No.02修正
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞(ありがとうございます)
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日  No.01修正

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Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.52 )
日時: 2018/09/10 22:38
名前: ヨモツカミ

人数も少ないし、登場人物紹介は必要ないかな、と考えていたけれど、後半になると人数も増えてきて情報も多くなり混乱しやすいかと思ったので載せることとしました。
つぎばトリオに関しては、キャラ絵と共に書いた説明文と同じです。後半になるにつれ雑。AnotherBarcodeの方に細か過ぎる版も載せる予定です。読まなくても本編はわかるけど、Anotherの方もどうぞよろしくお願いします(ダイマ)

〈登場人物〉
【ジン】
黒髪で、目付きの悪い13歳前後の少年の姿をしている。痩せ型。その瞳はエメラルドグリーン。額の左側から鼻筋を通って右頬にまで続く大きな縫合痕があり、これは首、左の二の腕、右肩、肋骨の上、腹回り、右腿、両手首、両足首にも同じ様な痕がある。
初対面では子供らしくない話し方をすると思われがちだが、打ち解けてくると少年らしさが出てくる。やや毒舌。バーコード以外、人間や動物には基本的に優しく接する。
能力は〈シュナイダー〉という、黒いナイフを操る能力。体力の保つ限り召喚できるので、扱えるナイフに数の限りはない。

【トゥール】
鋭い爪を携えた大きな蜥蜴の腕と足、割と器用な尻尾を持った翡翠バーコードの男。24歳。瞳は琥珀色で、爬虫類の様に瞳孔の形が変わって気持ち悪い。見える所では、頬や項、手足が深緑の鱗に覆われている。その姿を見られないよう、フード付きのローブを被っている。性格は大人しいが(というか根暗)、戦闘狂。
能力名は〈サウルス〉と言い、蜥蜴のような姿になり、爬虫類にできることは大体できる。

【クラウス】
肩に付かないくらいの長さの曇り空の様な灰色のふわふわした髪に、垂れ目で隈の目立つ金色の瞳の青年。色白で痩せ気味なので、不健康そうに見える。年齢は18歳だが、精神年齢はジンよりも遥かに幼い。猫を見つけたら追いかけるし、自己中心的で我がまま。
能力〈チェシャー〉は、自分の姿透明化させることのできる能力。クラウスの触れている物も透明化できる。


【桜色の髪の少女】
紅色の瞳と、長い桜色の髪が特徴的な少女。名前も正体も〈能力〉も不明だが、ジンやメルフラルと関わりがある。
“死神”を自称する。一応ヒロインのくせに謎が多いし、出番は少ない。

【メルフラル】
大体三十路の研究員。腰まである白い髪の毛先を濃い紫に染め上げ、ハーフアップに結んでいる。ヒトの嫌がることをすることが生き甲斐。研究員としての才能はあるが、人間性にかなり問題がある。

〈タンザナイト〉
【ニック】
肩につかない程度だが、男性にしてはやや長い金髪と碧眼の男。21歳。敬語を使おうと心掛けているが、上手く使えていない。仲間を何よりも大切にし、責任感が強い。タンザナイトの隊長を名乗っている。

【マリアナ】
海色の髪と瞳を持つ女性。顔の造形がかなり整っている。25歳は超えているはず。仲間思いで、争いごとが嫌い。優しすぎることが欠点。タンザナイトの副隊長。

【アイリス】
途中からタンザナイトに加入した少女。肩の上で切り揃えられた淡い水色の髪を持つ。明るい性格のムードメーカー的存在。

【アケ】
炎の様な紅色の髪と翡翠の瞳を持つ少女。14歳。ジンと同じように体中に縫合痕がある。喋り方が辿々しい。最年少故、仲間達に溺愛されている。

【漆黒の瞳の女】
翡翠バーコードで、真っ黒の瞳を持つ女性。ジンとアイリスが加入する以前に行方不明になっている。

【カルカサ】
顔立ちがそこそこ良いので、ローザに好かれているが、女性が苦手。27歳。

【ローザ】
カルカサを好き過ぎて、駆け落ちしようと考えていたところ、ニックに誘われ、タンザナイトに。28歳。

〈ハイアリンク〉
【オーテップ】
カイヤナイトの女性。25歳。右脚は義足だが、それが気にならないくらい優秀。

【トト】
29歳くらい? この年でツインテール。紺色のくせ毛。幼少期の怪我で視力が弱い。

【アイフィ】
27歳。ボサボサのパーマ頭。前髪で目元が隠れており、後頭部で短く結んでいる。頭くるくるパー。

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-1 ( No.53 )
日時: 2018/10/06 00:22
名前: ヨモツカミ

No.05 静寂に告ぐ藍晶石

 早朝の空気は透明に澄みきっている。まだ全てのものが寝静まっているようで、空も草木も小鳥も穏やかな寝息を立てているみたいに、しじまが広がっていた。
 アモルエの街外れの荒野にて。彼らもまた静かに殺意の籠もった視線をぶつけ合っていた。
 金色を風になびかせ、青で敵を睨みつける。緊張に強張る身体をほぐそうと、深く空気を吸い込む青年。肺の中を満たすのは、濃い血の臭い。
 左半身は黒鉄の機械のような姿に変化し、生身のままの右半身と相まって酷く不気味に映る。彼こそが、元カイヤナイトにして、群青バーコードの自由を謳うタンザナイトの隊長、ニック。

「鋼鉄の左手で地に触れている間、地面を穿つようにして巨大な棘が飛び出す。一度に多数の棘を操ることが可能で、その無数の棘で対象を貫く能力は、アイアン・メイデンを彷彿とさせることから、彼の能力は〈アイゼルネ〉という名が付けられた。……ま、地面に手をつけている間しか使えない棘なんて、大した武器になりませんけどね。ねえ、脱走兵のニック」

 ニックは左手を地に付けたまま、口角を吊り上げて声もなく笑う。
 まだ陽も昇らぬ藍の空を背に、一定の距離を保ちながらタンザナイトの仲間達の前に立ちふさがるのは、バーコード殲滅特殊部隊ハイアリンク。人目を気にして真夜中に移動をしていたにも関わらず、見覚えのある軍服姿に遭遇したときは、ニックも思わず息を呑んだ。
 数は4人。対するタンザナイトはニックを含めて5人いる。……数が多いからといって、こちらが有利と言う訳ではないのだが。
 まだ薄暗く、距離もあるため、ニックの位置からひとりひとりの顔までは分からなかったが、一番手前に立つ、白い長髪の男が話しかけてきたことは分かった。風もないのに揺れる髪が何処か薄気味悪い。

「……よく調べられたんスねぇ。ストーカーかよ、キッモいな。男に詮索されるのは虫唾が走るんスけど」

 ニックはそう吐き捨てて、敵を睨み付ける。
 初めに奇襲を仕掛けてきた若葉色の髪を高い位置で束ねた女は、ニックの〈アイゼルネ〉で既に負傷しており、他の3人の影に隠れるようして、左脚を押えながら肩で呼吸を繰り返している。おそらく彼女の〈能力〉は接近戦に特化しているのだろう。不意打ちで襲われたとき、彼女の背から無数に伸びる鎌のようなものが飛び出てきて、ニックの右肩を抉ったのだ。
 ニックの傷は深く、焼け付くような痛みで思考が定まらなくなる。だが、それは向かってきた若葉色の髪の女も同じことだろう。空気中に立ち込める血の臭いからして、傷は浅くない。彼女はもう、素早い動きはできないはずだ。
 腰ほどまである、切り揃えられた白の長髪を揺らしながら、男が一歩前に出て口を開く。

「君らの情報管理を任されているのは僕ですが、調べたのは僕じゃないですよ──っと……」

 地に掌を押し付け、〈アイゼルネ〉で白髪の男目掛けて巨大な棘を飛び出させるが、ひらりと後ろに飛び退いて躱されてしまう。
 タンザナイトの目的は生存だ。ニックとしては、できれば戦いなど避けて、全員無傷で逃げ出してしまいたいと考えていた。無理にハイアリンクを殺す必要は無い。だが、どんなに避けようとしても、こうして戦わねばならないときはきてしまう。殺し合いなど、本当は誰も望んでいない。だとしても、自らの手を血に汚さずに生きることなど、不可能なのだ。
 ニックは背後に佇む仲間達に目を配らせる。不安げに表情を曇らせる者、既に殺気を剥き出しにし、ナイフを片手にハイアリンク達を睨み付ける者。それから、海色の瞳が真っ直ぐとニックの顔に向けられている事にも気付く。マリアナだ。祈る様に胸の前で手を組みながら、絶対的な信頼と揺ぎない覚悟を籠めて、ニックの双眸を見つめ返している。ゆっくりと頷いてみせる彼女の言葉は、声にしなくても届いていた。

 ──仲間を守るために。殺せ。

 それは誓いの言葉だ。タンザナイトとして、生きることを誓いあった日に交わした、約束。
 隊長殿、と高めの落ち着いた声が耳に届く。ニックの右側に立つのは、膝の辺りまである栗色の髪を三つ編みに結び、それを首に巻くという風変わりな髪型の女。

「あたしの出番?」
「そうッスね、ジネ。“見て”もらえますか」

 ニックがあだ名を呼ぶと、ジネ──本名はジスフィーネである彼女は、僅かに口角を上げ、ハイアリンク達をじっと見つめる。
 〈イーグルアイ〉。それは、常軌を逸した視覚能力を得るもので、銃弾の動きを目で追えるほどの動体視力を得たり、ただ“見る”だけで空気の流れやヒトの筋繊維や血流すらも見えるようになるという。
 〈イーグルアイ〉使用中の彼女の濃褐色の瞳は虹彩に輪のような模様が入り、多少不気味に感じられる。本人もそれを気にしているらしいので、ニックはジスフィーネの眼は見ないようにする。
 ジスフィーネに見つめられると、ハイアリンク達は身構えた。眼を使った何らかの攻撃を警戒したのだろう。だが、ジスフィーネの〈イーグルアイ〉は視力を高めるだけの力。攻撃できるような〈能力〉ではない。

「真ん中の長身の男が人間、その隣の白い髪のと、あんたがさっき仕留め損ねた若葉色の髪の子がバーコード。で、更に奥の青い髪の男が人間。他に伏兵はいない。人間達はそれぞれアサルトライフルと拳銃を1丁ずつ、あと数本ナイフとか所持してるみたい」

 ジスフィーネの発言に、仕留め損ねたは余計だ、とニックは苦笑した。
 相手の手の内が分かってしまえば多少有利に動ける。バーコードは2人だけ。対して此方には5人いるのだ。当然人間2人も訓練されたハイアリンクなのだから、手強い相手であろうが、身体能力の低さは否めない。仲間全員を生かしたまま彼らを撃退することも、そんなに難しくはないだろう。

「2人、知らねえ奴が混じってやがるな」

 ハイアリンクたちの中、中央に立つ長身の人間が低い声で言った。聞き覚えがある、とニックは気付く。まだニックやマリアナがカイヤナイトにいた頃、共に戦ったことのある人間だろう。名前は確か。

「ルーカスさん……」

 ニックの斜め後ろにいたマリアナが呟く。
 ハイアリンクの中でもかなり優秀な存在で、判断力、身のこなし、武器の扱い、どれを取っても優秀な男だが、周りの事を考えずに立ち回ったり、言葉遣いの荒さでカイヤナイト達には悪評の高い人間だった。
 ルーカスは〈イーグルアイ〉を使ったジスフィーネと、アケの隣に佇む銀髪の少年、ノームの事を言っているのだろう。その2人は元カイヤナイトであるニック、マリアナ、アケとは違って、道中で仲間になった群青バーコードだった。

「関係ありませんよ。彼らの仲間であるのなら、始末の対象。やることはひとつですから」

 白い長髪のカイヤナイトがそう返すと、ルーカスは低い声でその通りだな、と笑い、懐から拳銃を取り出し、銃口こちらに突きつける。

「アケ、ノーム」

 ニックは背後にいる仲間たちの名を呼んだ。呼ばれた2人はそれぞれ黙って頷き、〈能力〉を発動する。
 同時に、ルーカスが引き金を引き、発砲。
 空を裂く、銃弾の音。甲高い金属の悲鳴。ニックは鋼鉄の左腕でそれを受け止めた。痛覚はなくとも、その衝撃に腕が痺れる。

「──バケモン共の殲滅だ。行け」

 ルーカスの合図と共に、カイヤナイトの2人が飛び出してくる。若葉色の髪の女は負傷しているくせに、ニックの予想に反して機敏に動く。〈アイゼルネ〉は、地面に触れていないと使えないため、距離を詰められては都合が悪い。

「ノーム!」

 ニックがその名を呼ぶと、突如無空間から姿を表した銀髪の少年が、若葉色の髪の彼女に向かってナイフで切りかかる。女は目を見開きながらも、身を捩って斬撃を避けようとしたが、間に合わない。

「ギャッ……」

 切り付けられた女はバランスを崩して地面を転がったが、直ぐに脇腹を押さえながら体制を立て直す。
 ノームの能力〈ネブリーナ〉は、体を霧に変えるものだ。霧になっている状態で何かに触れることはできないため、一度ヒトの姿に戻らなければ攻撃はできないが、それでも、何処から現れるかもわからないノームの斬撃に対応するのは困難だろう。

 ニックはもうひとり向かってきたカイヤナイトを〈アイゼルネ〉で串刺しにしようとしたが、此方も相当に素早く、直ぐに距離を詰められてしまう。男の白い長髪が蠢き迫り来るのを、鋼鉄化させた左手で受け止める。──蛇だ。白蛇が鉄の腕に噛み付いてきて、しかし、歯が立たないと察すると、今度はニックの顔面を狙って襲い掛かる。すんでのところでどうにか体を逸して躱した。
 蛇は当然1体ではなく、多方向からニック目掛けて襲い掛かってくる。既に負傷している利き手で全てを捌き切る事は流石に難しい。ニックは軽く舌打ちしながらもサバイバルナイフを振り回して、蛇の頭部を切り落とした。次々に向かってくる頭部を的確に切り付けていれば、数は直ぐに減って行った。一度に多方面から向かって来られたため、大量の敵のように感じていたが、実際は切り落とした4体と、残った4体を合わせて、8体しかいなかったらしい。
 ニックは小さく笑って白髪の男との距離を詰める。幸い、蛇以外の攻撃手段を持っていないのか、男は僅かに険しい表情を浮かべながらたじろいでみせる。
 残った白蛇が悪足掻きのように威嚇してくるのを煩わしく思いながら、ニックはナイフを振るった。

「隊長!」

 突如、後方からジスフィーネの金切り声が響いた。
 そして、その声を裂くようにして、耳を劈く銃声。
 音を聞けたとしても、体の反応が追い付かない。

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-2 ( No.54 )
日時: 2018/10/16 18:51
名前: ヨモツカミ

「っぐ、」

 人間達は最初にいた位置から動かずに、遠距離で発砲してくる。身体能力的に不利な人間が遠距離攻撃を仕掛けてくるのは当然のことだ。白蛇の〈能力〉の対処に必死になっていて、視野が狭まっていたのだ。
 銃弾が掠めて、右腕で疼く鋭い痛みと、肌を伝う血の感触にニックは顔をしかめた。
 更に何発かの発砲。咄嗟に左手を地面に押し付け、大地を穿つように生えてきた棘で防ぐ。

「クソ、人間風情が……その腹ぶち抜いてやる!」

 怒りに任せて叫び、次は人間達の足元から〈アイゼルネ〉の棘で攻撃しようとしたが、そう簡単には行かない。

「ちょっと。僕のことを忘れないで下さいね、ニック」

 人間達に気を取られていれば、再び無数の白蛇が襲い掛かってくる。緋色の目玉をギラつかせて、どんな方向からも向かってくるのだ。しかも、切り伏せたはずの蛇が復活していた。数秒の時間を置けば再生するらしい。
 ニックはちらりと後方に佇むマリアナとジスフィーネを盗み見た。当然人間達は彼女らを狙って発砲もしていたはずだが、ジスフィーネは〈イーグルアイ〉の動体視力を活かし、撃ちだされる弾丸の全てをナイフで弾いて、マリアナを庇っていた。マリアナはまだ、俯いたまま胸の前で祈るように手を組んでいる。
 ──もう少し、時間を稼がないと……。
 とは言え、必死で蛇をいなし続けていれば、ルーカスや青い髪の人間の銃撃に対応できない。右腕は脈動するように断続的な激痛が駆け抜け、思うように力が入らなくなりつつある。
 銃口は硝煙を吐きながら、ニックの頭部に狙いを定めようとしていた。それに気付いていても、ニックは自分で対応することはできない。背中に嫌な汗が滲む。

「……でも、アンタらもボクばっか見てちゃ駄目ッスよ?」

 戦場に微かに立ち込める霧。銃を構えていたルーカスははっとして、体をひねる。咄嗟に顔の前に翳した銃身と金属の激しくぶつかり合う音。
 白い蛇を扱う男は、ルーカスが襲撃されたことに気が付いて一瞬、そちらに気を取られる。その隙を見逃さずに、ニックは白髪の男の顔面を鋼鉄の左手で殴り付けた。怯んで半歩下がった彼に更に追撃、と腹部を蹴り飛ばす。

 〈ネブリーナ〉でルーカスの背後に回り込んで奇襲をしかけたノームは、ナイフを受け止められてしまったことに動揺しつつも、そのまま押し切ろうと力を込め、彼を睨んで叫ぶ。

「人間ごときが、バーコードに敵うと思うなよ!」

 小柄なノームが相手だとしても、バーコード対人間だ。無理な体勢でナイフを受け止めたこともあって、ルーカスが押し負けそうになる。歯を食いしばって耐えるも、腕の関節が痺れるように痛んだ。

「クソバーコードが……ティエ、銃撃休めてんじゃねぇぞ!」

 ルーカスとノームが肉薄した状態での発砲を躊躇していた青い髪の男だったが、名前を呼ばれると、意を決してノームに銃口を突き付ける。
 が、ノームは素早くまた霧の状態に戻り、標的を失ったルーカスは、ティエと呼んだ青髪の男を睨み付けた。

「何処狙ってんだクソが、此方じゃねぇ、上だ!」
「え?」

 ──空を駆ける、紅色の翼は静かに狙いを定めていた。
 ニックのように殺傷力のある〈能力〉とは違い、翼を得る〈能力〉を持つ少女、アケがどうするか。上空で忙しなく翼を羽ばたかせながら、鳥のような脚で握り締めるのは、アケの頭部ほどもある石礫。
 優しい彼女に誰かを殺す勇気など無かったとしても、タンザナイトとして戦いに参加しないわけにはいかない。戦場には、彼女の守りたい者たちがいるのだ。

「……ナカマをまもる、ために!」

 願いを托して、空中で体を捻り、落下と遠心力を利用して石の礫を投擲する。勢いを付けて、定めた狙い。
 ルーカスとティエはアケの投石に気付いて、銃を構えるのをやめると、避けに徹する。落ちてきた石は、誰に当たることもなく、音を立てて土を深々と抉った。ルーカスがアケの存在に気付けなければ、土の代わりに2人のどちらかの頭部を抉っていただろう。
 ノームが人間達に追撃しようと霧状からヒトの姿へ変える。その瞬間を待ち構えていたように、先程脇腹を切りつけられたはずの女がノームに飛びかかって行った。

「ッ……!」

 ノームは彼女の背中から無数に生える鎌のようなものの斬撃を防ぐと、素早く距離を取って、体の前でナイフを構えつつ、彼女を凝視した。
 高いところで1つに結われた若葉色の髪は、自身の血で赤色に染め上げられ、体のいたるところにも赤黒く滴った形跡がある。既にノームとの戦闘で満身創痍になったはずなのに、それでも彼女の動きのキレは最初とほとんど変わらない。バーコードの自然治癒の力にも個人差があるが、だとしても、彼女のそれは少し異常なくらいだった。

「どんな治癒力してんの、バケモノかよ……」
「はっ、アタシらバーコードなんかみんなバケモノでしょ?」

 ノームは舌打ちしながら人間達を狙うのを諦め、霧状になって彼女を仕留めようとナイフを強く握り直した。

 アケの投石も、一度に持てる量に限度があるため、永遠に攻撃できるわけではない。上から人間2人を狙っていたが、持っていた石が底を尽きると、人間達にも攻撃の余裕が生まれ、再びニックやマリアナ達に銃口が向けられる。
 ニックが銃撃に備えて、巨大な棘でできた防壁を構築しようと腕を伸ばす。しかし、その刹那目で追えないほどの速さで向かってきた白蛇が、腕に巻き付いて、阻害される。
 直ぐに切り払おうとするが、右手に握り締めたはずのナイフがズルリと地面に落ちる。ずっと負担がかかっていたニックの右腕に、とうとう限界が来たのだ。
 再び響く、連射される発砲音。確実にタンザナイトの隊長を蜂の巣にできる。人間たちはそう確信した。

「ニック!」

 高い女性の声と共に、ニックを囲うようにして、滝を思わせる激流の水壁が出現して、銃撃を妨げる。
 ずっと他の仲間が戦っている間、ジスフィーネに守られながら俯いて佇んでいた、海色の髪と瞳をもつ女性。マリアナがニックに絡み付いていた蛇の頭部を、水掻きと鋭利な爪を携えた腕で薙ぎ払い、彼を庇うようにして前線に立った。
 鎖骨の辺りまで伸びた髪の後ろ、耳の辺りから生える、ギザギザと鋭利な魚の背びれのようなもの。似たような半透明のひれが腕や膝にも生えており、体の至るところが青白い湿った鱗に覆われている彼女の姿を、ルーカスは忌々しげに睨みつけた。

 元カイヤナイトのマリアナ。彼女の〈能力〉に関する情報は、何故か極端に少なかった。特筆することが無かったとしても、その性能についての情報が無いのはあまりにも不自然だ。本来、カイヤナイトの〈能力〉は任務の作戦を立てるときに参考にするとか、こうして脱走して敵に回ったときに力量を測るために、詳細を記録されるはずなのだ。それが殆ど無いとすると、カイヤナイトを脱走する前に、彼女が意図的に自分の情報を消しさったのだろうが、それでも限度があるはずなのだ。ハイアリンクとして周りの人間たちと共闘するに当たって、確実に〈能力〉の使用を目撃されて、情報は残るはず。

 にも関わらず、マリアナという群青バーコードの〈能力〉は、その名前と今の体中をひれと鱗で覆われた姿以外に、情報は存在しない。どういった〈能力〉であるのかは、姿と能力名から想像するしか無かった。

 風もないのに、マリアナの髪が自然に揺れる。長いまつ毛の下に伏せられていた大きな瞳は、海底の青を閉じ込めたように、深く暗く、一切の光を拒んで虚空を見据えていた。
 湿った空気の匂い。いつの間にか、ニックの体中に点々と水滴が付着していて、肌の表面を滑り落ちてゆく。自らの発汗によるものでも無ければ、先程の水壁が降り掛かった水分とも違う。まるで雨だ。マリアナの周りにだけ雨が降っているかのように、水滴が発生し、空気を満たしていた。
 ニックは口角を吊り上げて問う。

「マリアナ先輩、行けますか」
「──ええ」

 準備は整った。
 マリアナが短く返事をした途端、彼女の周囲の水滴が膨れ上がって、その体を濁流の如き勢いで包み込んだ。

Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.55 )
日時: 2018/10/10 21:18
名前: ヨモツカミ
参照: https://youtu.be/1Ff6cy_HhDY

No.05でニック達がドンパチやってる途中ですが、また銀竹さんに動画をお作り頂いたので、自慢……いえ、紹介を(^^)

今回は銀竹さんが「動画を作りたくなったので、曲(フリー素材)とタイトルロゴ(あれば)と小説の説明文と主人公の容姿の資料を持ってきてくれれば作るよ〜」ということで、
複ファ作品は、銀竹さんの「闇の系譜 サーフェリア編」、サニ。さんの「変革戦記【フォルテ】」、つぎば、トーシさんの「アスカレッド」ひゅーがさんの「Waht A Traitor!」、
コメライから河童さんの「巫山戯た学び舎」こぐもさんの「最強次元師!」立花さんの「ストロベリーポイズン」という小説カキコの8作品の紹介動画的なもの作って頂きましたb 銀竹さんありがとうございますます! 好きです。

みんなの選曲が良いのと、銀竹さんの描いたジンの顔が良いのと、なんかまあとにかく凄いので是非1万と2000回くらい見てください。
個人的には闇の系譜のタイトルロゴの装飾と、フォルテとさいじげの選曲と、アスカレのタイトルで回転してる色と、わっとのバーンと、わっとからふざまなへの温度差と、後半コメライ組の可愛さが好きです。

ちなみにつぎばで使わせて頂いた曲は甘茶の音楽工房の“雨のプレリュード”です。色々迷った挙句、こぐもさんに「これつぎばっぽい」と言ってもらった奴がしっくり来たのでそれ使いました。暗すぎないけど寂しいピアノ曲が合うよな、と静かな雰囲気になりました。こちらもよかったら聞いてみてくださいね。
背景の曇天と雨も、No.01を思い出せて素敵。背景、つぎばからアスカレで切り替わるときに、晴れて暮れの空が覗く感じが、凄いいいんですよね。銀竹さんのセンスが素敵です。

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-3(祝絵載せてみた) ( No.56 )
日時: 2018/10/16 18:52
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=6195&page=1

 水に呑み込まれた体が、歪に肥大化していく。ハイアリンク達は目を剥いてその様子を凝視していた。見ているうちに、マリアナはどんどんヒトの形から遠ざかっていった。
 形の整っていた鼻は皮膚と一体化するほど低くなり、青白くのっぺりした顔の中に、鼻の穴だけが残る。瞼は失われて、目元は窪み、ギョロリと白濁した目玉は不気味さを通り越して恐怖すら与える。髪の毛が後退していって、剥き出しの頭皮すら鱗に覆われ、頭頂部からは刃物のように鋭い背鰭が連なって、尾鰭にまで続いた。

「……なん、だ、コイツ」

 ハイアリンクの誰が発したものだったろうか。だが、その姿を目にすれば、誰もが零す言葉であっただろう。
 顔の側面についた丸い目玉。横に大きく裂けた口から覗く、ノコギリのように鋭い牙。てらてらと淀んだ光を放つ滑った鱗。
 魚か。もしくはその長い胴と口の上から伸びる細長い髭で、水竜のようにも見える。体長は6メートルはあるだろうか。体中から鼻の曲がるような生臭さを放っていて、胸鰭の代わりに水掻きのある前脚を携えており、腹の終わりには蛙を思わせる後ろ脚が備わっている。
 先程の可憐な女性の姿からは想像もつかない変わり果てよう。皮膚が全体的に湿っているせいか、屈強な手足に携えられた鋭利な爪がぬるりと艷やかに煌めく。

「がが、が、ご、がげ、ぐ」

 腹の底から響く、人間の声にも聞こえる呻きのような鳴き声に、ハイアリンク達は怖気立つ。
 その腕がズルズルともたげられたのを見ても、アサルトライフルを抱えたまま、ティエは動けなかった。きっとあの大きな爪ならば、この身体を真っ二つにすることなど容易いのだろう。なんて、何処か他人事のようにそんなことを考えていた。大きな白目の中央にて、淀んだ黒目が確かにティエを捉えている。

「おいティエ! 下がれ!」

 ルーカスが叫ぶ。
 ティエもまた、ハイアリンクとして訓練を積んできた人間だ。恐怖に足が竦めども、脳が避けろと警鐘を鳴らし、体は勝手に動いた。
 それでも、少しだけ遅かったのだ。恐怖に呑まれた時点で、遅すぎた。
 振り被られる鉤爪の、空を裂く音。体が半分持っていかれるような、強い衝撃。耐えきれず、ティエは地面に叩きつけられ、銃を取り落とす。

「──あ……」

 少し遅れて、バシャッというような、水分を多く含んだ音を立てて、ティエの体の一部だったものが、土の上に転がった。音の正体を確認して、ようやく左肩の痛みを知る。鉄さびの臭いと、生臭さが綯交ぜになって、肩から溢れた色彩は、ぬらぬらと土と混ざり合って。
 腕。
 無い。
 痛い。
 彼の脳内を掻き乱していくのは、明確な死への恐怖だ。

「あ、あ、ああ、ああああ! 嫌だ、死にたく、死にたくない、死にたくない死にたくない! 嫌だァ!!」

 ──こんなことになるなんて聞いていない! 何だよこいつ全員で束になってかかっても、敵う相手か? いいやそんなことよりボクの腕はもう失われた、戦えるわけがない! 今度はあの腕で何処を千切られる? どうやって殺される? 殺される? 殺されるのか? ボクは殺されるのか!?

「うるっせぇな落ち着けや、腕無くたって死にゃしねぇから、生きたきゃ脚動かせ!」

 ルーカスはティエに罵声を浴びせながら、マリアナの頭部を狙ってライフルを連射する。硬い鱗に阻まれ、皮膚を突き破ることは無いが、全く効いてないわけではないらしく、酷い唸り声を上げ、激しくのたうち回る。ティエはその間に歯を食いしばって、片腕で地面を押す。少し油断すれば左肩の灼熱に意識を持っていかれそうになった。それでも必死に立ち上がって、まだ動く脚で地を蹴って、タンザナイト達に背を向ける。
 白蛇を操る男は、ティエが戦線から離脱するのを手伝おうと足を踏み出した。しかしその瞬間、マリアナの巨体の陰で動くものに気が付いた。ニックだ。

「ティエさ──」

 視認してからでは遅い。ニックが鋼鉄の左手で地に触れる。それから、ティエの足元から飛び出した棘に、片腕を失くした胴が貫かれるのは、文字通りあっという間だった。
 腹を穿たれ、大量の鮮血を撒き散らし、残った右腕を力無く伸ばす仲間を前にして、白髪の彼は足も呼吸も、止まってしまっていた。ただ、目を剥いてその様子を傍観していた。
 背後から迫り来るマリアナが、大きく腕を振り上げ、ティエを棘ごと薙ぎ払う、耳障りで仕方のない鈍い音。
 仲間が虫けらみたいに殺されたのを見て、ハイアリンク達はその場に足を縫い付けられたかのように動けなかった。圧倒的な力の前に抱くのは、恐怖か憎悪か。

「これが……〈ダゴン〉」

 それは、とある神話に登場する魚神の名だ。小さな村で崇拝されていたと言われる、海底に住まう醜悪な巨体の神。それが陸に出てきて、水滴をしたたらせながら仲間の1人を一薙で殺した。
 〈ダゴン〉は再び血液の付着した鉤爪を振り乱して、あの耳障りな声を響かせる。

「……がげ、ぎ、ごご、ぐ」

 日が昇り、白み始めた上空で、紅色の翼を羽ばたかせながら、アケは眉を顰めて戦線を見下ろしていた。
 〈ダゴン〉は発動してからすぐにあの魚神の姿になれるわけではないから、基本的にはヒトの形を留めたまま戦うことになる。だが、こうして手練を多人数相手にする場合、マリアナは〈ダゴン〉の真の力を使う。
 普段は仲間想いで、例え敵だとしても手を下すことを躊躇してしまうような優しいマリアナ。それが〈ダゴン〉の真の力を使った途端、身の毛もよだつ醜悪な魚神の姿となり、一切の憐憫も失って戦場に蹂躙する。
 少しだけ。少しだけ、そんなマリアナのことが怖いと感じてしまう自分がいることが、アケは嫌で嫌で堪らなかった。マリアナ自身も〈ダゴン〉を使ってしまうと、残虐な思考に陥って、歯止めが効かなくなってしまう事を恐れているはずなのに。

「──殺っちまえ!」

 ニックの声に合わせて動くマリアナは、今度はルーカスに向かっていく。空気中の水分を操ることもできるマリアナは、集めた水で小川のようなものを作り出し、地上を泳ぐみたいに突撃してくる。
 ルーカスがどんなに優秀な戦士だとしても、所詮は人間。瞬きする間もなく一気に距離を詰められ、その巨大な腕から打ち出される大砲の如き一撃を食らうと、後方に弾き飛ばされた。咄嗟に持っていたアサルトライフルで防ぎ、鉤爪の直撃は免れたものの、威力を殺しきれずに数メートル離れたところに生えていた木に叩きつけられると、血を吐き出して動かなくなった。
 白髪の男と、未だ〈ネブリーナ〉で霧状とヒトの姿とを交互に入れ替えながら戦うノームを仕留めようと、躍起になっていた満身創痍の女は、息を呑んだ。

「ルーカスさんっ……」

 白髪の男が叫び、ルーカスに駆け寄った。
 仲間が2人も殺された。2人も、守る事ができなかった。と、遣る瀬無さに顔を顰めていた彼の思いは杞憂に終わる。
 息を掠れさせながらも、ルーカスはゆっくりと顔を上げた。

「ルーカスさん生きてらしたんですね!」

 安堵に思わず声を漏らすと、ルーカスに強く睨み付けられる。

「テメェ、オレが死ぬ訳ねぇだろ。てか誰の心配してやがんだ爬虫類野郎ォ……ンな暇あったら、1匹でも多く仕留めてこいや!」

 彼の無事を嬉しく思いつつ、死にかけてるくせによくヒトを罵倒する余裕あるな、と声もなく毒吐き、白髪の男は踵を返し、言われた通りにニックを狙って荒野を駆けた。それを当然、マリアナに妨害されるが、振り下ろされた腕の一撃を躱すと、その腕を足場にして駆け上がり、彼女の顔面に接近し、髪の毛の蛇を目元目掛けて放つ。

「ぎギ、ギァァァガァァァァァ!!」

 瞼もないために無防備に見開かれた目玉に白蛇が喰らいつくと、マリアナは耳を劈くような断末魔をあげ、のたうち回った。直ぐに白蛇を引き剥がそうと振り回されるマリアナの腕の一撃を回避すると、彼は次は左眼を狙って体勢を立て直す。

「撤退だ!」

 ニックが短く叫ぶ。ハイアリンク側としても1人死人が出て、ルーカスも殆どまともに戦えないだろうから、態々追いかけては来ないはずだ、と考えてのことだ。それにこの場で圧倒的な脅威となるマリアナが集中狙いされる。彼女がこれ以上傷付くのは避けたかったのだ。

「ノーム、戻れ──」
「逃がすなぶち殺せッ!!」

 ニックの声を遮って、ルーカスが血反吐を吐き散らしながら喚く。声に反応したのは、ノームのすぐ側にいた、あの若葉色の髪の女だった。
 ノームが霧の状態に戻りかけても、彼女は構わずその水蒸気に掴み掛かる。

「ッな……」

 そうすると、ノームの体はヒトの姿に戻ってしまう。
 触れられている状態では、霧の姿には成れない。ずっとノームと戦っていた彼女だからこそ悟ったことであった。
 ノームは掴まれている左腕を振り解こうとナイフを振りかぶった。しかし、甲高い金属音と共に手元を離れてしまう。彼女の背中から伸びる鎌で弾かれたのだ。
 掴んだ腕に握り潰さんばかりの力を込めて、ノームを自分の体の側へ引き寄せると、彼女は不敵に笑った。

「“蜘蛛”はねぇ、捕えた獲物は逃さないのよ」

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