複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2019/07/14 18:36
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。

「どうか安らかに、死んでくれ」

 ──愛することが、罪だとするならば。

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定でしたが、面倒になったのでやめました。1ヶ月に1〜3回更新の予定? でーす。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉
一気
>>0-
登場人物紹介
>>52 >>68
No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下の爬虫類へ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56 >>57 >>58 >>59
>>61 >>62 >>63 >>66 >>67>>53-67
No.06 薄暮は世迷い事を
>>69 >>70 >>71 >>72 >>73 >>76
>>80>>69-80
Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8 ・クラウス>>15
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・なんか動画作ってみた>>60
・祝★参照7777記念>>63
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様
日向様、サメノ様、友桃様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・ 拝啓、黒百合へ訴う【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞(ありがとうございます)
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日 キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日 No.01修正
2019年 4月14日 No.02修正
2019年 6月1日 No.03修正

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Re: 継ぎ接ぎバーコード6-6 ( No.76 )
日時: 2019/06/13 23:07
名前: ヨモツカミ



***


 肌を撫でる夜風が心地良かった。クラウスは夜の街を1人で歩いていた。
 心許無い街灯が照らす道に人の気配は全く無い。夕方頃には並んだ住居にぽつりぽつりと明かりが灯っていたため、本当に人がいないわけでは無いはずだが。
 時間も深夜を回っている。全ての生命が消え失せて、自分しかいないのではという気分になる。1人になりたかったクラウスとしては丁度よかった。
 思考に浸りたくなると、クラウスは時々外を徘徊する。部屋で横になっているよりは、外の空気に触れた方が気分も良い。
 そんな事を考えていると、向かい側から2人の男女が並んで歩いているのが見えて、クラウスは思わず肩を震わせた。同時に夜中にはバーコードが出歩いてるかもしれないから、街のヒト達は夜には外に出ないのだとジンが言っていたのを思い出す。
 
「こんばんは」

 肩につく程度の金色の髪を揺らしながら、男は微笑む。隣にいる首に三つ編みを巻き付けた髪型の女は、目元をサングラスで隠しているためわかりづらいが、視線はじっとりとクラウスに向けられているようだった。
 2人の纏う雰囲気がとても嫌な感じがして、クラウスは思わず左脚のレッグホルスターに手を──伸ばしかけて、そこに目当てのものが無いことに気がつく。アモルエに来た初日、ジンにナイフを渡すように言われて回収されたときのやり取りが脳裏に浮かんだ。あれから、返してもらうのを忘れていたのだ。

「アンタに質問したいことがあってね。お時間、宜しいッスか?」

 金色の髪の男がそう口にした瞬間、彼の顔の左半分が鋼鉄に変わり、白目の部分も融かした鉄みたいに黒々としていて、そこに青い硝子玉が嵌め込まれているかのように変化した。顔だけではない。首や左腕、左半分の露出した部分は全て鉄に変わっているらしい。こんな突飛な現象、人間では考えられない。
 ──バーコードだ。
 クラウスは恐怖に体が強張るのを感じながらも、悟られぬように口角を吊り上げてみせた。

「へーえ、アモルエは怖い街だな。夜道を歩けばバーコードに会うんだからさ。ハイアリンクはザル警備かよっての。んで、聞きたいことってなんだよ? あんまし答えられることは少ねえと思うよ? オレ、馬鹿だし」

 半身を鋼鉄化させる能力〈アイゼルネ〉を発動した金髪の男──ニックは、飄々とした様子で話すクラウスを、いぶかしむ様に睨み付けた。見るからに細身で、けして強そうには見えないが、余裕そうに振る舞うため、考えが見えてこない。
 ニックは隣に佇むサングラスの女、ジスフィーネに視線を送った。それだけでニックの意図を汲み取ったジスフィーネはクラウスをジッと見つめ、鼻で笑う。

「夜道を歩けばバーコードに出会う……か。本当にそうだな。あたし達も夜道でクリムゾン混じりの翡翠バーコードに会うなんて、予想できなかったよ」
「なんで、知ってんの」

 クラウスは無表情に暗い声で問う。翡翠バーコードであること。しかもクリムゾンのことまで一瞬で見抜かれた。緊張に心臓が痛いほど胸を殴りつけてくる。心を読む〈能力〉だろうか。クラウスはそう予想するが、相手がどんな〈能力〉を持っているかなど、この際どうでもいい。なによりも、見知らぬバーコード2体に対して、丸腰の自分が1人で対面していることに問題があった。
 表情を強張らせながら、クラウスは考える。どうして自分がこんな奴らに質問をされるのか、相手は何が目的か、その質問に答えれば無事に帰してくれるのだろうか、いや逃げるべきか、だとしてどうやって逃げるべきか──。
 クラウスが一歩後ろに下がると、逆にジスフィーネが一歩前に出てきた。

「あたしの能力〈イーグルアイ〉は、見たくもないもん全部見えちゃうんだよ。ほら、あたしの目は誤魔化せないんだ。下手な動きはしないほうが身のためだぜ?」

 クラウスは口を噤んだまま、ジスフィーネを睨み付ける。〈チェシャー〉で逃げることが、ほぼ不可能であることを悟った。
 例えば、トゥールは爬虫類の〈能力〉で、相手の温度を感知するため、クラウスが透明化していても見つけることができると言うのだから、トゥールの眼より更に“見る”ことに特化したジスフィーネの〈イーグルアイ〉の前では〈チェシャー〉など何の意味も成さないだろう。
 クラウスとジスフィーネが睨み合っていると、ニックが険しい表情で口を開いた。

「ジネ、さっきクリムゾンって言いましたか」
「あ? 言ったけど。それがなんだよ」

 ジスフィーネの答えを聞くと、ニックはクラウスとの距離を詰めてきた。気押されて、思わずクラウスも数歩後退る。

「だとすると、もう1つアンタに訪ねたいことが増えた」

 ニックは低い声で唸るように言う。

「正直に言え。アンタは──今までに、人間を殺してきたことはあるか?」

 背筋が凍るような、鋭い眼差しと声。槍のように鋭利に、クラウスを貫かんとしているみたいだった。

「そんなの聞いて、どうすんだよ」
「質問しているのはこっちだ、答えろ」

 また一歩、ニックが踏み出してくる。クラウスも恐怖から数歩下がり、自分の手元に何かないかと、ポケットの辺りに触れた。そうして、何か硬いものが入っていることに気付く。自分で何を入れたかは思い出せなかったが、クラウスは咄嗟にそれを掴んで、ニックの顔面に向けて投げ付けた。

「……ッ」

 ニックは反射的にそれを防ぐために、左手を地面に付いて、巨大な棘を出現させると投擲物が当たるのを防いだ。
 直ぐに棘を消失させたが、目の前にいたはずの男は消えていて、何処だと見回した時には、先程投げつけられた物が地面に転がっているだけだった。ニックがそれを確認すると、ポケットに入るように小さく折りたたまれた紙だった。

「……っくそ! 何処にいる!」
「くそ、何処にいるじゃねーよ、何紙切れ必死に防いでんだ、隊長さん」

 ジスフィーネには〈イーグルアイ〉でクラウスが投げつけてくるものが、ポケットに収められていたときから見えていたのだ。そして、既に透明化して逃亡したクラウスの姿も。
 ニックは苛立ったように顔を顰めながら、ジスフィーネを見る。

「突然きたら警戒するじゃないスか。それより、さっきの男は? 瞬間移動でもしたんスか」

 ジスフィーネは自分たちが向いていた方の道を指差して言う。

「透明化の〈能力〉だ。あいつなら走って逃げたよ」
「それを早く言って下さいよ! 追いまスよ」
「……隊長1人で行って。あたしは、かくれんぼに付き合ってやる気分だから」

 薄く笑うジスフィーネの言葉の意味はニックにはすぐにわからなかったが、それよりも早く追わねばと、ニックは走り出した。
 取り残されたジスフィーネは、落ちていた畳まれた紙を拾い上げ、広げると、内容に目を通す。 

「何か、面白いことでも書かれてたかい?」

 路地の闇から少年の声が響く。ジスフィーネの眼にはその暗がりでもなんとなく相手の姿が“見えた”。

「さあ? あたしにはなんだかよくわかんねーな。小難しい文章と、クッソ汚い字でクオリアって、人名みたいなのが書いてある。まあ、ゴミじゃない?」

 ジスフィーネは紙をクシャクシャに丸めると、それを少年に向かって投げつける。

「ちょっと。ポイ捨ては良くないよ」
「んだよ、路地裏なんか見ればゴミだらけだろこの街。みんな捨ててんならあたしも捨てたって変わんねーよ」
「皆やってるから自分もいいなんてことはないよ。駄目なことは駄目。そういう1人1人の意識を変えていかないと、街の衛生は保たれないん……僕、なんの話してんだろ」

 ジスフィーネは隠し持っていたナイフの切っ先をジンの方へ向けて訊ねる。

「で? あんたのそのバーコード──何?」

 “見えている”彼女は、ジンの胸元に刻まれた漆黒バーコードを、ナイフで指しながら訊く。

「教える必要ない。どうせ君は死ぬんだから」

 そう吐き捨てて、ジンは〈シュナイダー〉で召喚した黒いナイフを両手に握り締めた。

「ナイフ、ね。相性悪いんじゃねーか? あたしには全部見えてるんだから」
「見えるからなんだっていうのさ。見えたって避けるのにも限界があるでしょ。だったら無意味な〈能力〉だ」

 ジンはナイフをしっかり握ると、ジスフィーネに飛びかかっていった。

「よく見えるだけの〈能力〉……殺されるタイミングがわかりやすくてよかった、ね!」

 振り上げたジンの黒いナイフは、ジスフィーネの持つナイフで防がれる。彼女の持つナイフは1本。左手のナイフは防げないだろう、とジンが振り被るが、パッと後ろに飛び退いて回避されてしまう。

「アタシの〈能力〉は見えるだけ……まあ、その認識で構わないよ」
「何? 他に何か──……ッ」

 ジスフィーネはただ、〈能力〉でジンを見つめただけ。の、ように、ジンには見えた。だが、それだけで、ジンの体は動かなくなった。指先から、爪先まで。金縛りにあったみたいに。いや、金縛りだ。

「アタシの〈能力〉はね、ちょっとした金縛りも行えるんだよ。雑魚相手には使えない。あんたが慎重な強敵であるからこそ、効くんだけどね。〈イーグルアイ〉──冥土の土産に覚えておきなぁ!」

 たん、とジスフィーネがジンの眼前に接近する。ジンが不味い、と思ったところで、体は動かない。動かない獲物を狩ることほど簡単なことはないだろう。
 ジンの首筋にナイフの刃先が触れた。その冷たさを認識した頃には、喉は掻き切られていて。頸動脈を裂かれれば、噴水のように血が吹き出る。
 返り血を頭から浴びたジスフィーネは、ナイフに付いた赤色を指先で拭って仕舞う。額を流れる血の生暖かさが気持ち悪くて、それも手の甲で拭き取った。

「所詮はただの子供。楽勝だったなぁ」

 横たわるジンを一瞥して、ジスフィーネはニックが向かった方向へ歩き出した。

Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.77 )
日時: 2019/06/20 21:38
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10985

ここでははじめまして。雑談掲示板でお世話になっております、友桃です。

作品>>20まで、読ませていただきました。
読んでいるとどんどん小説の世界に入り込んでしまうような作品でした!
なかでも、生きることを心の底から悩んでいる登場人物たちの心情描写は本当に真剣に読んでしまいました。ひととおり心情描写を読み終えたところでハッと我に返るみたいな笑
「読ませる文章」を書く方だなぁと思いました。

あと、能力の設定がとてもおもしろい小説だなと思いました!
とくに、自分で能力が解除できなかったり制御できなかったりっていう欠陥の設定がおもしろいです。すごい好みです。
なんて言えばいいかわからないですけど、この小説全体の雰囲気と合った設定だなぁと思いました(それか逆に、こういう細かい設定が小説の雰囲気を作り出してるのかな?)。

あとあと、クラウスが!!好きです!!
わりと序盤からクラウス好きだなーと思っていたのですが、>>4の「お前を見捨てたら、多分オレはもっと後悔したと思うぜ」ってとこで、クラウス!!!好きだ!!!ってなって、一度雑談掲示板の方に心の叫びだけ書き残そうかと本気で迷ったのですが、いや、おとなしく続き読もうと思って黙って読み進めました笑
クラウスがクリムゾンっていう設定も最高です。いや、本人にとってはもちろん全然最高じゃないと思うんですけど、すみませんそういう設定大好きなんです。

ジンも好きです。序盤の儚げな雰囲気の時がとくに好き。
クラウスが一度ジンを殺してしまったシーンは、えーー!!!と思いました笑 ジン好きなのに序盤で死んじゃったじゃーん( ;ω; )とわりと本気でだまされました笑
生きてて良かった笑

また続き読みにきます^^
更新頑張ってください。

閲覧10,000突破おめでとうございます!! ( No.78 )
日時: 2019/06/20 21:38
名前: 友桃 ◆NsLg9LxcnY
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1a/index.cgi?mode=view&no=10985

閲覧10,000突破おめでとうございます!!

更新頑張ってください(´▽`*)

Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.79 )
日時: 2019/07/10 01:43
名前: ヨモツカミ

>>友桃さん
コメントありがとうございます!
すごい没頭して読んでいただけたようで何よりです! 読ませる文章、初めて言われましたが、ちゃんと読み飛ばさずにじっくり読んでもらえる文が書けていたなら良かったなと思います。

欠陥の部分。翡翠バーコードの設定ですね。でも、そのせいで不幸なバーコードたちが生まれているわけですし、なかなか残酷な設定だなと思います(笑)
残酷で悲しい世界観だからこそ、その設定が合ってると言われたらそうかもしれませんね!

クラウスは作者の一番お気に入りキャラでもあります。馬鹿だけど優しいんですよ、彼は。それでいて辛い過去を背負っていて、今もなおクリムゾンという恐ろしい衝動に苛まれ続けていて、なんて可哀想な子何だろうと思います。本人にとっては最悪でしょうけど、私も最高だと思ってます(笑)

あのシーンは気合い入れて書きましたよ。主要キャラが主人公を殺すなんて誰も想像つかなかっただろう展開だよなって。それで死んじゃった、と焦ってるクラウスの姿とか描写するの楽しかった。

ぜひ続きも読みに来てください。クラウスが好きならこれから先、見せ場が何度かありますので!

あと参照1万突破ありがとうございます。初めてこんな数字を見たので、ドキドキしています。
ほんとうに沢山の人が読んで下さったのだなと、しみじみしますね。

Re: 継ぎ接ぎバーコード6-7 ( No.80 )
日時: 2019/07/12 12:40
名前: ヨモツカミ



***


 透明になったまま、全力で街を駆け抜ける。きっと捕まれば殺される。明確な恐怖が背中からクラウスを喰らおうと追いかけてきている。死にたくない。だからもっと速く走れ。息を切らし、心臓が痛いほどに胸を叩いていても、生きたい、その一心だけで兎に角走り抜けた。
 後ろを確認する。金色の髪の男は5メートルほど離れたところを走っていた。多分、クラウスよりも早い。追いつかれる。殺される。どうするべきか、路地に逃げ込めば撒けるだろうか、でも路地に逃げ込んでは追い込まれてしまうかもしれない、ならば透明化した状態で殴りかかればなんとかなるか。クラウスが思考を巡らせているうちに、背後の男は行動に出た。
 相手の姿が見えないので、殆ど感でやるしかなかったが、ニックは煉瓦の道に鋼鉄化した左腕を押し当てて、数メートル先の地面から巨大な棘を出現させる。

「──ッ」

 それが丁度、クラウスの目の前だった。動揺したことで一瞬透明化が解けて、ニックに居場所を特定される。

「そこだ!」

 ニックはクラウスが見えた場所目掛けて、左腕を振りぬいた。ガツン、と硬い感触と共に、赤い雫がはねる。クラウスの透明化は完全に解け、頭部を殴りつけられたことでふらつき、たたらを踏んだ。それでも逃げようと動くクラウスに、ニックはもう一度左腕を振り上げた。

「ッう……」

視界に火花が散るような錯覚と、側頭部の燃えるような痛み。クラウスはよろけて、民家の壁に背を付いた。
 痛みに呻いていると、ニックに肩を押さえつけられる。正面で青い双眸が鋭くクラウスを睨みつけていた。
 抵抗しようとすると、煙草を押し当てられたときのような灼熱が、二の腕の皮膚を突き破り今、肉の中に存在している。

「ぎ、ぁあ――ッぐ……」

 思わずあげた断末魔の悲鳴は、彼の右手に潰された。クラウスの喉を押さえ付けるその掌は、左の鋼同様に冷え切っていた。
 耐え難い痛みと息苦しさと、真っ直ぐに向けられた殺意に怯えて、喉の奥からひぃ、と掠れた情けない声が漏れる。殺される、殺される殺される殺される。クラウスの脳をその言葉だけが埋め尽くす。
 浅い呼吸を繰り返しながら涙目で震えるクラウスを、彼は嘲るように鼻を鳴らした。

「ボク、好きじゃないけど殺すの得意なんで、あんま下手に抵抗しないもらえるスかね。ほんの2、3秒あれば余裕だ」
「嫌だ、こ、殺さない、で……!」

 瞬間、クラウスの頬は手加減無しの拳に殴打され、唇に自分の歯が掠めて鉄の味が溢れた。

「殺すな、だって? なあ、アンタはそうやって懇願するヒトを何人殺して来た? アンタの赤色は何人の命を奪ってきた? 生きたかった誰かの断末魔が心地よかったんだろ?」

 クラウスのクリムゾンのことを言っているのだ。
 すぐに否定したかったが、確かに自分の中に抑えられない殺人鬼が潜んでいて、それでヒトを殺した経験もあって、その瞬間の甘美に響いた悲鳴や、はねる血飛沫のことを思い出すと、声が出せなかった。

「数え切れない程? それとも、そんなのいちいち数えねぇか?」

 クラウスの喉元を潰す右腕に、怒りで力が篭もる。息が詰まって、言葉も上手く音にならなかったが、それでもクラウスは掠れた声で言う。

「違う、殺したくなんて、無かっ、た……」

 そうだ。殺したくて殺したわけではない。ただ、理性を呑み込む衝動に突き動かされた。自分の意志で殺したわけじゃない。
 両目に涙を溜めるクラウスを見て、ニックは低い声で呟くように言う。

「だったら。お前が死ねばよかったんだ」

 無言で喉元に押し当てられた右手は冷たく、いつでも攻撃できるよう壁に添えられた左の鉄の無情さは、彼の心を表しているかのよう。青年の深い青色の目は冷えきっていた。彼、そのものが鉄で出来てるのだと錯覚する程。
 そうだ。ヒトを殺すことは許されない。死んでも償うことはできない。わかっている。これからもクリムゾンで誰かを殺す可能性があるなら、自分が死ねばよかった。ニックに言われなくとも、頭では理解していた。
 でも、死ぬことは怖い。生きていたい。結局クラウスは自分のことしか考えてないのだ。自分が助かりたい、ただそればかりで。
 今にもクラウスを殺さんと見下ろす青い瞳が怖かった。悪を断罪するための鉄の棘は、今すぐにだってクラウスの後頭部を穿とうとしている。

「とぅーる、助けてっ……」

 思わず口走ったところで彼が来るはずないと頭の隅で理解していて、それと同じだけ希望を捨てきれなかった。助かりたい。自己中心的な思考がそれだけを願うから。
 ニックは冷ややかな視線を向けながら、クラウスに静かに話しかける。

「誰か、仲間がいるんスか……。あんたみたいな殺人鬼にも」

 僅かに首を掴む右手から力が抜けた。ニックは寂しそうに目を細め、その時の瞬間を噛みしめるように語る。

「ボクにも大事な仲間がいます。……沢山、いました。ある日、仲間の一人が、他の仲間を次々に殺していったんスよ。躊躇のない黒い刃が、何人も殺したのを、よく覚えてます。そいつを貫いた事も、何度貫いても死ななかった事も、よく……覚えてます。この街に来たのは他でもない。“アイツ”にとどめを刺す為です。そうですね、死ぬ前に教えて下さい。アイツはどうすれば、殺せるんスかね」

 クラウスが口篭っていると、右手が軽く喉を圧迫してきた為、どうにか声を絞り出した。

「“アイツ”って、ジンのこと……?」

 無言は肯定と捉えていいのだろう。何より、確かに一瞬辛そうにニックの表情が歪んだ。
 クラウスは自分の手で彼を殺し日のことを思い浮かべた。未だにその鮮明さは変わらない。そして息を吹き返したあの瞬間の驚きも。

「……死な、ないよ……何度、殺したって」
「死なない? それ、どういう──」

 ニックが聞き返そうとした刹那、彼の左側から黒い風が空を切った。
 反射的にニックは左腕を顔の前に出して、ガードする。金属同士のぶつかり合う甲高い音が響いて、足元に黒色のナイフが数本転がった。

「……左は効かないって、アンタならわかってんでしょう、ふざけてるのか」

 ニックは顔をしかめながら、突然現れた襲撃者に冷たく言う。

「なぁんだ、君か。君の〈能力〉なんか忘れてたよ」

 襲撃者は右手を前に突き出したまま、鼻で笑って立ち止まる。黒い髪が風に揺れた。継ぎ接ぎの皮膚の間から覗くエメラルドグリーンは、殺気に揺れていた。

「会いたかったよ、ジン」
「僕は会いたくなかったね、ニック」

 嫌悪感を隠そうともせず、2人は互いの名を呼びあった。再会を喜ぶような素振りなどない。ニックはただ、憎悪をその両眼に滾らせていて。

「そうだ、さっき拾ったんだけど、重たいからあげるよコレ」

 そう言ってジンの左手から投げられたものは、ゴトン、と音を立てて転がった。適度な重さを持つそれは、転がるたびに赤色を滴らせていて。
 それは、ヒトの頭部だった。ニックは目を剥いてそれを凝視する。先程、ニックと共にいた筈の仲間の首だ。なんて無惨なことを。やはりジンは許せない。ニックは沸々と胸の内側で恨みや殺意が茹だってゆくのを冷静な態度で制した。

「……ボクは、アンタを許したりはしない」
「それでいいよ。この100年、許されることなんかしてないから」

 ジンの発言にニックは牙を剥いた。そうして声を荒らげる。

「諦めることで、認めることで、結局楽になりたいんだアンタは! 楽になんてさせてやるか。ジン、アンタは、永久にその罪に苦しんで、のたうち回って、死ね……!」
「じゃあ、次はちゃんと僕のこと殺してよ?」

 ジンは嘲るように笑って、〈シュナイダー〉で漆黒のナイフを数本手に取った。ニックはクラウスの存在など忘れて、ジンを真っ直ぐに睨みつけている。
 ──今なら、逃げられる!
 隙を見てクラウスはニックを突き飛ばした。
 ニックが体勢を立て直した頃にはクラウスの姿は煙のように消え去っており、ジンの姿すら見当たらない。あるのは、仲間の……ジスフィーネの生首だけだった。


***


 クラウスに腕を掴まれてそのまま走り出したジンだったが、路地裏に入り、ある程度まで走ると、無理矢理掴んでいた手を引き剥がした。

「なんで僕まで逃がすのさ!」

 確かに、クラウスだけ逃亡すればよかったのだ。ジンはあのままニックと殺し合うつもりだったのだから。
 それを察すると、クラウスは視線を下げて、少しだけ申し訳なさそうにする。

「無意識に……」
「あーもう、無駄なことしてくれたね。というか、君なんで外出歩いてたの!?」

 クラウスは一瞬言葉に詰まった。こんな真夜中に外を歩いていたことに、特に深い理由はなかったのだ。少し夜風に当たってみたかったとか、誰もいなくなった街並みを見て歩きたかったとか、その程度なのである。

「その、1人で、考え事したくて」
「1人? 君どうせ寝るとき部屋に1人なんだから、外出る必要無いじゃん。勝手に危ないことして、もう」

 ジンは路地の壁に手を付きながら、呆れて深く息を吐いた。ニックと闘うという予定が狂ったことと、クラウスが1人で外を出歩いていたことに腹が立って仕方がなかった。

「それに、トゥール助けて、だなんて。情けない。自力でどうにか出来ないなら死ねば? 君にはなんの力もないのかい」

 確かにクラウスは、あのままニックに殺されていてもおかしくなかった。どうにか生還したが、殺されそうになったのだ。
 ……殺されそうに、なった。なら、殺せば。そう、先に殺す。殺される前にザクザクすればきっと楽しい、楽しいに決まっている、それはそれは綺麗、真っ赤っか、血の色でキラキラする、殺すの先に、先に殺せば殺せば殺せば殺せば殺せば、
 様子がおかしくなったクラウスに気付いて、ジンは強めに彼の頬を叩く。そうすると、ハッとした様子でクラウスはジンを見た。
 また、クリムゾンの症状が出ていたのだと気付いて、クラウスは俯いてしまった。

「そんな頻繁になるなら、紅蓮とほとんど変わんないね。まったく、こんなのと一緒にいて、よくトゥールは生きてたなぁ」

 ジンがぼやくと、クラウスは小さな声で返す。

「トゥールは強いもん」

 クラウスはトゥールを過信している節がある。あの爬虫類なら死なない、と。確かにトゥールとニックが闘っていた場合、トゥールが勝った可能性は十分に考えられるが。
 クラウスがメルフラルの家を出ていったことに先に気付いたのはトゥールだった。別室で寝ているくせに、クラウスがいなくなったと言い出して、しかしトゥールに街の中に探しに行かせても迷子になるのがオチだとわかっていて、代わりにジンがクラウスを探しに来た。
 ジンが黙り込んでいると、クラウスが心配そうに顔を覗きこんできた。それに気づいて、ジンが顔を上げると、彼は小さく微笑む。

「ジン、助けてくれてありがと」

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