複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2019/02/14 20:45
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 ────殺さなければ。

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。
 掲げたナイフに込めるのは?

「どうか安らかに、死んでくれ」

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定でしたが、面倒になったのでやめました。1ヶ月に1〜3回更新の予定? でーす。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉
一気
>>0-
登場人物紹介
>>52
No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下の爬虫類へ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56 >>57 >>58 >>59
>>61 >>62 >>63>>53-63

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8 ・クラウス>>15
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・なんか動画作ってみた>>60
・祝★参照7777記念>>63
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様
日向様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・曖昧に合間に隨に【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2017年 8月4日 No.02修正
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞(ありがとうございます)
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日  No.01修正

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Re: 継ぎ接ぎバーコード5-7 ( No.61 )
日時: 2018/12/16 15:11
名前: ヨモツカミ

***


「あーあ、ジンとあともうちょっとキャッキャウフフしてたかったのに、ホント嫌な女ねえ。ねー、トゥールくーん」
「……俺に同意を求められても」

 ジンがいないため、メルフラルのだる絡みの矛先はトゥールに向いた。蜥蜴だから尻尾取れるの? などと言いながら、やたらと尻尾に触れてきたり、引っ張ってみたり。トゥールはやんわりとメルフラルを避けるが、メルフラルも避けられていることに気が付いていながら、彼のその反応が楽しくて、しつこく続けた。
 トゥールは困ってクラウスに助けを求めるが、自分が絡まれるのは嫌な彼は、見ないふりをする。トゥールが心の奥で後で、覚えておけと唱えたことなど、クラウスは知る由もない。

「でも、そろそろアタシも行かなきゃだわ」

 腕時計を確認し、白衣の上からベージュのコートを羽織ったメルフラルがぽつりと言う。デスクの下に適当に突っ込まれていた暗い色の肩掛けバッグを掴むと、早々と部屋を出ていこうとした。
 何処か出かけるのか、とトゥールが訊ねると、玄関の方へ歩きながらメルフラルは答える。

「そー。アタシも一応仕事してるからね、ちょっとブレセナハの街まで。お留守番任せるけど、机の上とか大事なものあるから触らないでね」

 ブレセナハ。ハイアリンクの本部がある街だ。ハイアリンクの本部には、一番大きなバーコードの研究施設があり、メルフラルはそこに向かうと言う。

「……よく、自宅に昨日来たばかりの見ず知らずのバーコードを置いていけるな」
「あら、金目のものでも盗るの?」
「盗るわけねーだろ」

 クラウスが、吐き捨てるように言うのを見て、メルフラルは笑う。

「クラウスくんのことはどうにかなるわ。心配しないでね」

 なんのことだ、と首を傾げるクラウスを見て、メルフラルはドアノブに手を掛けながら、付け足した。

「クリムゾン。殺さなくて済むようになるわよ」

 え、とクラウスの口から声が漏れる。返事はせずに、腕時計を確認しつつ、メルフラルは出て行った。ドアの閉まる無機質な音だけが取り残される。
 クリムゾン。クラウスは服の上から心臓の辺りを握り締めた。翡翠の中に交じる紅蓮。あの抗い難い殺人衝動を、どうにかできると。メルフラルは、そう言った。
 だが、一瞬だけ抱いた期待は、クラウスの吐き出した溜息と共に霧散してゆく。メルフラルのことを、本気で信用する気はなかったから。ヒトの嫌がる事が大好きな研究員の話など、鵜呑みにしてはならない。クラウスはそれ以上彼女の発言のことを、深く考えないようにした。
 それよりも、と、クラウスはメルフラルの散乱したデスクを見る。ジンもメルフラルもいない今、何をするのも自由だ。早速、といった具合に、クラウスはメルフラルの机を漁り始めた。
 あまりにも躊躇のないその姿に、トゥールは小さく嘆息する。
 
「何している。勝手に机の上を触るなと言われていただろう」
「んだよ。あの変態とオレ、どっちの味方なんだよトゥールは」

 どちらにも付くつもりは無かったが、クラウスの機嫌を損ねさせるのも面倒だと考えたトゥールは、黙って彼の後ろ姿を見守っていた。
 一応は後でバレないよう細心の注意を払っているらしく、ファイルやら資料を更にごった返させないように、ひとつひとつ慎重に確認している。そうして、ようやくクラウスが見つけたのは、灰色の分厚いファイルだった。一昨日、メルフラルがクラウスの情報を言い当てたときに見ていたものである。

「あったあった。トゥール、ここに書いてあること全部読める?」

 明るい表情で振り返って、彼はそう言う。宝物を見つけた子供のように無邪気な笑顔。文字の読めないクラウスは、当然のようにトゥールに頼ってくる。

「俺も共犯者か……」

 言いつけを破ったことがバレたとして、メルフラルは怒るような女性ではないだろうが、小さな罪悪感がトゥールの胸に残る。
 いいから早く、とクラウスが促してくるので、仕方なくファイルを受け取ったトゥールは、資料を適当に捲る。そこには見知らぬ人物たちの顔写真と、バーコードの色、能力名や、〈能力〉についての事細かな情報。それ以外にも、出身だの生年月日だの、更には家族構成やこれまでの経歴だの、あらゆる個人情報が記されていた。今までに実験で生み出されたバーコードたちの詳細が記されたファイルなのだろう。だとすれば、自分の情報も残されているのだろうかと想像して、トゥールは言い様のない気持ち悪さに顔をしかめた。
 
「なんか、そのバーコードが生きてるとか死んでるとかって情報、書いてあったりする?」

 クラウスに言われて、書類の最後の方の行を見ると、確かにそういった情報も書かれていた。

「あるが。それがなんだ」

 クラウスは少し視線を落として、言い淀んだ。服の上から心臓の辺りに手を当てて、歯切れ悪く言う。

「オレを、研究施設から逃がしてくれたヒトなんだけど、シエロって言うんだ。オレを逃したあと、シエロは……どうなっちゃったかな、って。あの変態が見てたファイルなら、そういうのもわかんのかなって思ったから、少し気になって」

 6年前。トゥールとクラウスが出会う少し前。翡翠バーコードとして処分が決まっていたクラウスと、そのシエロという女性は、施設の人間を殺して脱走を図った。逃げ出す途中に、追手を撒くことが難しいと判断し、彼女は時間を稼ぐから先に逃げろ、とクラウスに告げて、2人は別れた。それきりシエロがどうなったのか、分からぬままになっていたのだ。

「それは6年前の話だろう? どうしてもう死んだと考えない」

 トゥールの疑問は最もかもしれないが、クラウスは思わず目を丸くした。頭の片隅ではその可能性にも気付いていたが、考えないようにしていたことを、簡単に口にされてしまったから。
 狼狽して、言葉が喉に支える。

「なんでそんなこと、言うんだよ。オレは、生きてるじゃん」
「ああ。お前は運が良かったな。でも、それだけだ」

 トゥールは冷たく言い放って、静かにファイルを閉じた。クラウスには閉ざされたファイルの音が、やけに大きく聞こえた。

「……せめて探す努力くらいしてよ」
「あまり見ていて気持ちのいいものでも無い。というか、できれば見たくない」

 もう開くこともないであろうファイルの灰色を見つめて、クラウスは深く息を吐く。そんな呼吸1つで、胸の錆付きが消えるわけではないけれど。頼んでいる立場なのだから、協力してもらえないのなら、それまでだ。
 気持ちを切り替えようと、クラウスは無理やり口角を上げて、明るい口調で訊ねた。

「トゥールもなんか探したいって思わねーの?」
「何か?」
「オレに会う前のさ、面識のある誰かのこととか」
「思うわけがないだろう。自分が殺した奴らの事なんか」

 思ったよりも棘のある口調で返された台詞に、クラウスは目を見張った。
 ──ああそっか。トゥールは皆、殺してきちゃったんだ。
 沢山殺しているから、見知った顔に出くわさないようにファイルを閉じたのだと。クラウスは今更気付いて、顔をしかめた。

「…………」

 重たい沈黙の中、クラウスはトゥールの横顔を見つめた。いつも無表情で、何を考えているか想像もつかない。
 そう。今までずっと、ちゃんとわかっていなかったのだ。互いにわかったつもりになっていただけなのかもしれないし、踏み込んだところまでは干渉しないよう、暗黙のうちの、2人の間に確かな線引きがあったのか。
 ……互いに、と言うと語弊がある。トゥールが元々は、とある研究施設で、不要になったバーコードや人間の処理を行う存在であったこと。クラウスが別の研究施設で、翡翠バーコードにされ、破棄される寸前に逃げ出してきたこと。その程度の身の上話はしてきた。口数の多くないトゥールに代わって、クラウスは多くの自分の事柄を彼に伝えてきたが、トゥールはどうであったか。

 トゥールとジン。更にはメルフラルにまで、桜色の少女との面識があったが、クラウスはその存在さえ知らなかった。トゥールが、ジンに付いていくという選択をした理由となる少女。彼女の存在を、トゥールは今まで一度もクラウスに話してこなかった。突然明るみになった少女の存在が、クラウスの心をざわつかせた。

 ねえ。トゥール。呟くみたいに名前を呼んだ。顔を上げたトゥールの琥珀色を覗き込んで、何故だかクラウスは、とても久し振りに彼の顔を見たように感じた。

「ちゃんと、聞きたいことがある」

 雨の屋上で、ジンと話していた桜色の髪の少女について?
 トゥールの行動理念となる彼女は何者なのか?
 違う。クラウスにとっては、そんなことはどうでも良くて、本当に知りたいのは。なによりも踏み込まないようにしていて、それが苦しいと思うようになったことがあっただろう。今だって、考えないようにしていた。
 雨の屋上で、トゥールがジンと話していた内容。

「……なんで、死のうとするんだよ」

 トゥールは驚きはしない。淡々と言葉を受け止めて、噛み砕いて、どう答えるべきかを考えあぐねている様子だ。驚愕は見られないが、

「そんなこと。お前に聞かれるとは思わなかったな」

 ただちょっと、困ったように笑ってトゥールは続ける。

「いつの日か、いっそ死にたいと。殺してくれと縋ったお前なら、理解しているものだと思っていた」
「……んなことも、あったね」

 胸に刻まれた翡翠に交じる紅蓮。数年前、クリムゾンの衝動でヒトを殺してしまったとき、クラウスはこうやって訳も分からず誰かの命を奪うくらいならいっそ、自分を殺してほしいと口にしたことがあった。こうして今もクラウスが生きているということは、それは聞き届けられなかった願いだったということだが。
 トゥールは窓の外を茫洋と眺めながら、静かに語りだす。

「俺はずっと、いつか殺されることを支えに生きていた。あの少女が探せと言った少年──ジンだ。ジンが殺してくれることを信じて、生きてきた」

 6年前。全てを殺し尽くしたあと、突如現れた“死神”の少女。

『本当に死にたければ、ジンを探して。私に、あなたは殺せない。そんな目をするあなたを殺したら、私はこの先ずっと苦しむんだと思う』

 そう、話していた。馬鹿正直に信じて、従って、そして本当に出会った。今度こそ自分の命を奪ってくれるはずの存在。

「なにそれ。殺してもらうために生きるって、なんか変だ」

 クラウスが眉を顰めながら言う。トゥールはそれを一瞥して、微かに笑った。

「殺したくないのに死にたくないお前も、矛盾しているだろう? 俺達がそうなら、きっと、皆そうなんじゃないか。誰もが矛盾を抱えて、生きている」
「…………」

 クラウスは表情を曇らせたまま、何も言わなかった。

「でも、お前がいるから、殺してもらえなかったがな」

 トゥールはゆっくりと瞼を落として、静かに息を吸った。
 束の間、2人の間に沈黙が訪れた。クラウスは黙ってトゥールの顔を見つめ続けた。次に彼の琥珀と視線が合うとき、どんな言葉が降ってくるのだろう。
 トゥールが深く息を吐く音が、やけにはっきりと静寂を裂く。

「お前が、俺の死ねない理由になっていたんだ」

 見開かれた琥珀の瞳は、優しげに細められ、穏やかな表情を作る。

「改めて、お前の命は邪魔だな」

 柔らかく笑んで、トゥールはそんなことを口にした。
 目を見開いて、上手く言葉が出てこなくて。クラウスは唇を僅かに開いて、でも結局閉ざされる。トゥールには、クラウスの金色の双眸が潤んだように見えた。
 嫌な、言い方。視線を落としたクラウスが、息を吐くように、ぽつりと言う。
 それから、辛うじて零れた一言。

「……だったら、殺せばいいじゃん」

 トゥールは、クラウスの顔を見ようとした。どんな表情をしてそう言ったのか、トゥールにはわからなかったから、確かめたかった。しかし、俯かされ前髪に閉ざされた表情は、伺えない。クラウスがわからない。
 殺せばいい。

「……」

 殺せばいい、というのは。死を望む者の言葉に聞こえる。だとして、自分はどうするべきなのか。
 トゥールは右手をゆっくりともたげる。開いた五指は、かつて彼の命を奪おうと試みた日のように、クラウスの首元に伸ばされた。

 けれど、彼に触れる前に、時が止まったみたいに手も静止する。
 そっと腕を下ろし、一瞬でも過ぎった考えを払拭するように、トゥールは首を振った。

「……すまない」
「…………」

 それっきり、2人して黙り込んでしまった。
 耳に痛みを覚えるような静寂は、雪の冷たさに近しいと感じた。

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-8 ( No.62 )
日時: 2018/12/28 19:24
名前: ヨモツカミ


***


 アモルエの街の北側には駅があってヒトで賑わっているが、〈鉤爪〉は人通りの多いところには現れない。
 紅蓮バーコードの殺人衝動にも個人差があって、〈鉤爪〉は大量殺戮を好むわけではないらしい。殺すことよりも、ただ痛めつけることを目的とした紅蓮バーコードなんかも存在する。トゥールやクラウスがいた街で遭遇した〈ウェルテクス〉の紅蓮バーコードなんかは、それに当てはまるだろう。〈鉤爪〉は大量虐殺も痛めつけることも目的としてはいないらしく、少数でも見つけ次第確実に仕留める、暗殺者のようなやり方を好んでいるようだった。
 街の東側には山があって、数日前のハイアリンクの調査によると、その山で腹を抉られて死んでいた動物が多数見つかったらしい。つまり、〈鉤爪〉はその山に潜伏している。

「今回〈鉤爪〉を逃した場合、その山に行くことになるかもしれないという話ですが、その必要はありません。何故なら今日、〈鉤爪〉が街に来たときに……ワタシたちで確実に討ち取るからです」

 と、エミーが強気な口調で言い放った。おどおどした様子の見られる彼女の変わり様に、ジンは少し目を見張った。それが今回の〈鉤爪〉討伐に対する、彼女の覚悟なのだろう。トトはよく言ったね、と満足そうに笑って、エミーの頭を柔らかく撫で回す。
 ジン、トト、ユミト、エミーは住宅街の隅で作戦会議をしていた。空では日が傾き掛けて、山吹色に染まった雲が広がっている。逢魔が時──そろそろ、〈鉤爪〉が現れてもおかしくない頃だった。
 トトがジンに向かって、掌サイズの長方形をした小さな機械を差し出してきた。

「ハイアリンクで使ってる無線機。ジンにも渡しておくね」

 ジンは、使い方もよくわからない機械の登場に少し戸惑ったが、トトが使用方法をしっかり教えてくれた。

「ジンとユミト、わたしとエミーで、〈鉤爪〉の目撃情報が一番多い街の東側と東南側の警備をする。どっちかに〈鉤爪〉が現れたら、すぐにその無線で知らせるってことで」

 トトがそう言って、エミーを連れて立ち去ろうとしたとき、ユミトが彼女らを呼び止めて訊ねた。

「あの、ずっと気になっていたのですが、ジンくんは何者なのでしょうか?」
「……」

 トトが舌打ちした音が僅かに聞こえて、エミーは肩を跳ねさせる。
 ジンも少し困ったように顔を歪めたが、ボソボソと口を開いた。

「えーと、そうだな。バーコードを殺すバーコード……だよ。ハイアリンクの敵にはならない、つもり」

 ジンの不十分な説明に、ユミトは首を傾げていた。彼はトトに視線を送るが、トトはジンのことを深く話すつもりはないらしい。

「もう。これが面倒だからユミトくんを〈鉤爪〉討伐に入れたくなかったんだよー。今からでもオーちゃんと入れ替えるべきかなあ」
「えっちょっ、ちょまって下さい! なんか、察しました! ジンくんのことはもう考えません! ただ、共闘するんですよね、彼とも。だとしたら〈能力〉とか知っておきたいな、と思って!」

 それを聞いたトトが確かに、と頷いて、エミーの肩に手を置いた。

「そうだね。わたしは把握してるから考えてなかったけど、皆それぞれの〈能力〉よく知らないんだよね。じゃあ今見せあいっこしなよ。エミーちゃんのから」

 名前を呼ばれると、エミーは小さく頷いて見せて、自分の胸元に右手を当てた。すると、彼女の背中から緑とも青とも取れるような、幻想的な薄い光の膜が出てきて、蝶の翅の形を作る。淡く青緑色に発光している翅は、何処か幻想的にも見えた。

「〈カフカ〉……。毒の鱗粉を操ります。毒の効果は、神経を麻痺させるもので、即効性はありますが、それほど持続するものではないので、あまり力になれないかもしれません。ごめんなさい」
「もう、エミーちゃんは卑屈なんだから。以前の〈鉤爪〉との戦闘でも〈カフカ〉を警戒して奴が近寄れなかった。だからエミーちゃんは生きてたんでしょ。それに相手の動きを止めることができる〈能力〉は貴重だよ。自信持ってね」

 ポンポン、と数回トトに頭を撫でられても、エミーは不安げに俯くばかりであった。

「では、次は僕のをお見せしましょう」

 ユミトは後ろで結いていた髪を解いた。腰の下程まである白い髪は、サラリと揺れ、ゆったりと形を成していく。数本の白い束の中に鱗と朱色の瞳が現れる。蛇だ。ゆらゆらと首をもたげて、ユミトの周りで8匹の白蛇が蠢く。そのうちの1匹の、顎の辺りを人差し指で軽く撫で付けながら、ユミトは説明する。

「〈ヤマタノオロチ〉。見ての通り、髪が蛇になります。不思議なことに、切り落とされてもしばらくすれば再生します。あと、この蛇たちの牙には毒があって、咬まれてからしばらくすると、その部分が痺れてきたり……まあ、エミーと比べると、劣るんですけどね」

 ユミトは、けして強くない〈能力〉ですが、どうぞよろしくお願いします、と苦笑を浮かべながら言った。
 3人の視線がジンに集まったので、ジンは小さく頷く。それから右腕を前に突き出して、人差し指と中指を立てる。すると、黒い粒子が集まってきて、黒一色のナイフが出現した。それを指先で器用に操って、くるんと回転させて見せる。

「これを操る能力、〈シュナイダー〉。僕の集中力の続く限り、出せるナイフには限りがないから、結構強いと思うよ。よろしくね」
「そしてナイフの扱いがちょっと得意なだけの人間、トトでーす! 視力は悪いけど、自分の身は自分で守れるから、わたしに気を取られずに闘ってねー」

 トトがおどけた様子で言いながら、顔の横でピースサインを作る。

「こんな感じで、互いの〈能力〉も把握したことだし、そろそろ配置に着こっか」
「ええ。ではトトさんエミー、また後で」

 ユミトが手を振って、トト達も振返して、4人は別れた。


***


 街の東側に来たユミトとジンは、〈鉤爪〉が現れるのを待って、辺りを見回していた。空は茜色に染まり始め、雲の輪郭は朱色に燃えている。日が完全に沈みきってしまえば、夜の闇が空を支配する。その前に、〈鉤爪〉は現れるのだと言う。
 手持ちぶたさなジンは、ふと、思い出したようにユミトに話を振った。

「ユミトって、確かあのポニーテールの女のヒトに、死んだ人間に泣きついてたとか言われてたよね」
「うっ、なんで覚えてるんですか、忘れて下さいよ」

 照れたように頭を掻きながら笑うユミトに、ジンは疑問を投げかける。

「僕も不思議だったんだ。カイヤナイトって、ハイアリンクの事嫌ってるヒトの方が多いんだと思ってたから」

 人間とバーコードはきっと、分かり合えない。ハイアリンクの人間たちは、バーコードを恨んでいる者多いはずで、カイヤナイトの群青バーコード達もまた、自分たちの命を握るハイアリンクを良くは思ってないだろう。
 ユミトは今朝のことを思い出しているのか、少し苦しそうに微笑んだ。

「ヒーローって、カッコイイじゃないですか」
「ヒーロー……?」

 ジンが聞き返したが、ユミトはジンの顔は見ず、何処か遠くを見据えながら語り始めた。

「僕、それになりたかったんです。強くて、優しくて、カッコイイ。圧倒的な力で誰もを助け出してしまう、英雄に。でも、どんなにその気持ちがあっても、僕は強くはなれない。守る力もない。だから、ティエさんは──」

 ユミトは唇を噛み締めて、目を伏せた。彼の死を目の当たりにしたのは、今朝のことなのだ。まだ、遣る瀬無さも悔しさも拭いきれるはずが無かった。

「ユードやオーテップ……もしかしたらエミーのほうが、僕より強くて。それでも、憧れたんです。僕、ずっとハイアリンクって、ヒーローだと思ってたんですよ」

 確かに人間に害を成す紅蓮バーコード達や、その他のバーコードを打ち倒す存在というのは、ヒーローと呼べるかもしれない。でも。

「誰かの命を奪う時点で、英雄なんかじゃないと思う」

 トトの言っていた通りだ。罪のないバーコード達を殺して、それを英雄だと言うなんて。ハイアリンクは頭のおかしい奴しかいない、というのは間違いではなかったらしい。
 そう考えかけたが、ジンの言葉にユミトは顔を歪めた。それから、薄っすらと笑みを浮かべて見せる。それが悲痛な笑顔だと気付いて、ジンは目を見張る。

「君は、ルーカスさんと同じことを言うんですね。ああ、ルーカスさんていうのは、僕の上司です。本当のところ、僕は自分をヒーローだなんて思ってないですよ。子供の頃の夢です」

 俯いていたユミトが顔を上げて、柔らかく笑む。作り笑顔だと、はっきり分かった。

「僕だって、ちゃんとわかってる。わかってるけど。でも、こうでも言ってないと、僕らの存在意義が……わからなくなっちゃうじゃないですか」
「……、ごめん」

 そうだ。この群青バーコードはきっと、罪のないバーコード達を殺したいとは、考えていないのだろう。誰かの死に涙を流せるような優しいユミトは、戦いたくて戦っているわけではないのだ。群青バーコードになってしまったから、仕方なくそう生きるしか無くなった。だから、本心を誤魔化して生きなければ、戦う意味を作らなければ、存在意義を見失ってしまう。
 カイヤナイトというのは、戦わなければ生きられないし、戦い続けても、いつか“使えなくなったとき”処分される。死刑囚のような存在なのだ。
 そんなユミトの、カイヤナイトとしての在り方を否定するような言葉を投げかけたことを、ジンは強く後悔した。

「ジンくん、顔上げて下さい。下なんか見てたら〈鉤爪〉が現れても闘えませんよ? そもそも君のような小柄な少年を戦わせるなんて、トトさんも何を考えているのかわかりませんが……」

 ユミトはまるで気にしていないような素振りを見せる。その笑顔で、気まずさを紛らわせようとする。笑うしか、無かったのだろう。
 だからジンも、合わせて微笑む。

「その点は安心していいよ。僕、強いから」
「そうですね。ナイフは、相手を確実に傷付けるモノですし……。そうだ、ジンくんのナイフ、無限に出せるって言ってましたよね?」

 ユミトが髪の毛を8匹の蛇に変化させながら言う。何か思いついたのだろうか。
 ジンが彼の話に耳を傾けていると、突然無線にノイズが入った。

『〈鉤爪〉が現れ、』

 ザザザッと、ノイズに混じって確かに聞こえた声はそう言っていた。
 ユミトは弾かれたようにジンと顔を見合わせた。

「トトさんの声! あっちに現れたのか!」
「行こう!」

Re: 継ぎ接ぎバーコード5-9 ( No.63 )
日時: 2019/01/13 20:05
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.info/upload_bbs/index.php?mode=article&id=6216&page=1



***


 その男の母親は、バーコードだった。

「ごめんね、シバ。ごめんね。ごめんね。普通の人間として生きたかったよね? ごめんね、お母さんのせいで、ごめんね」

 母親はいつも、謝り続けていた。子供は一度も母親に恨んでいるとか、翡翠バーコードとして生きたくはなかった、とは言わなかったが、彼女は事あるごとに謝罪を繰り返した。許されたかったのかもしれない。罪悪感から逃れたくて、なのに我が子を見るたびに自分を蝕む罪悪感から。逃げ出したかったのだ。
 ──“だから”だったのだろうか。

 男は13のとき、クリムゾンになった。胸に刻まれた翡翠の中に、赤色が滲んでいて。気がついたときには、母親を殺していた。母親の裂けた腹から覗くモノを、一度でも綺麗だと思ってしまったことに、男は震えた。自分自身に怯え、激しい吐き気に苛まれて、でも、母親はやけに穏やかな顔で死を迎えていた。罪悪感に囚われ続けた哀れな女性は、死ぬことによって、ようやく自由になれたのかもしれなかった。
 男は、それから1人で生きてきた。山に篭って、誰にも合わないようにひっそりと。時折彼を支配する抗い難い殺人衝動が起こると、彼は山の動物を殺して、人間は殺さぬようにやり過ごしてきた。母親を殺したとき、酷い自己嫌悪に陥った。例え、仕方のない衝動だったとしても、たった1人の家族を手に掛けたことは、彼の中でも大きなトラウマとなっていた。家族を殺した自分は、許されない存在なんだ。そう思っていたからこそ、もう誰とも関わらずに済むように、山で暮らすようになったのだ。
 しかし、17歳になったある日、男は自分の身体の変化に気付いた。
 クリムゾンが──赤色の範囲が、大きくなっていたのだ。翡翠のバーコードを、紅蓮が完全に覆ってしまっている。心臓の上の真っ赤なバーコードは、鮮やかな血潮の色を携えていた。
 それからと言うもの、殺人衝動も今まで以上に抑えの効かないものになっていて。

「どういうこと……これじゃあ、ぼくは、紅蓮バーコードに、なっちゃう……」

 男は頭を抱えて部屋に蹲った。そうしている間にも、脳を掻き乱す激しい殺意に駆り立てられて、遂には動物だけでは満足できなくなって。赤と紅と朱の奔流に呑まれた意識は、彼の制御を離れてしまって。
 そして、アモルエの街まで足を運んでいた。

「嫌、違う、殺したくない殺したくない、殺したくない殺したくない殺したくな、殺した、殺した、い殺したい殺したい殺したい殺したいああ、あ、あああああああ!!」

 男はその日、人生で2人目の殺人を犯した。
 血は暖かく男の身体を包み込み、それはかつて男を罪悪感と愛情を込めて育ててくれた、母親の温もりを思い出させた。

 クリムゾンはいつか、紅蓮バーコードになるらしい。だったら、母を殺した時点でぼくの人生なんか終わってたんだね。それを頭で理解して、運命を受け入れて、でもそんなことはどうでもよくって。男はただ、ヒトを殺してその温もりを感じていたいだけの殺人鬼──紅蓮バーコードの〈鉤爪〉となったのだった。

「なーんて感じの? どんな悪人も、ただ悪いだけじゃなくって、悲しいエピソードがありますよって話でね? ぼくにも皆さんからの同情の余地があるはずでして? だからさあ、ねえ、そんな怖い顔して睨まないでよ」

 左の二の腕から出血するトトと、彼女を庇うように前に立つエミーと、少し距離をおいて〈鉤爪〉が向かい合っていた。いきなり現れた〈鉤爪〉の一撃を、トトはナイフで受け止めたが、左手の攻撃を避けることはできず、二の腕を抉られたのだ。黒いコートのファー付きのフードを目深に被り、鳥のクチバシのようなものがついた仮面で口以外を隠している、その男に。

「〈鉤爪〉……あなたはまた、奪おうとするんですね。あの時みたいに」

 エミーの言葉に、男は隠れていない口元を三日月型に歪めて、自分の指先に視線を落とした。猛禽類の足のように、細長い指先が鋭い鉤爪に成り代わっている。両手がそうなっているだけの男に、今まで10人近くの人間が殺されてきた。勿論、エミーの仲間だった2人のハイアリンクもその犠牲者だ。

「ぼく、そーんなダサい呼び方されてるの? やだなあ。じゃあ、1回しか教えないからよく聞いていてね?」

 〈鉤爪〉はくつくつと笑いながら、地面を蹴った。

「能力は〈プテノイグル〉で、僕の名前はシバ。お母さん以外に呼ばれたことないから、是非とも名前で呼んでね」

 エミーは毒の翅を開く。青緑色の輝きが辺りに散らばって、すぐ側まで接近していたシバは舌打ちしながら足を止める。だが、そのまま諦めるような紅蓮バーコードではない。だって、今日はまだ1人も殺せていないのだから。
 とは言え、別にシバにとっては、殺せさえすれば誰でもいいのだ。
 一瞬悩むような素振りを見せたシバだったが、彼はエミーとトトに向き合うのをやめて、辺りを見回してから、ニコリと笑った。

「態々強いヒトたちとやりあう必要なんて無いよね! ってことでバイバーイ!」
「えっ……」

 シバは地面を蹴り、腕の爪を器用に使いながら、民家の壁をよじ登ると、屋根の上に逃れた。エミーやトトを狙うのは諦めて、アモルエの住民を探しに行くつもりらしい。
 エミーの翅は、飛行ができるようなものではないし、流石に壁をよじ登るような身体能力は持ち合わせていない。このままでは見失う。トトは額に冷や汗を浮かべて、唇を噛み締めた。

「──そんな簡単に、僕らから逃げられるとでも思った?」

 しかし、シバが逃げ果せるより先に、静かな声と共に数本の漆黒が空を切る。投擲された幾つもの黒いナイフは、正確にシバの背中を狙って放たれた。

「ぅぐ、ッ」

 流石の手数だ。シバはナイフが向かってきたことに気付いて素早く弾くが、2本の腕で防ぎ切るには限度があり、腕や頬を掠める痛みに思わず声を漏らす。
 ナイフを放ったのは勿論ジンだった。無線で伝えられた知らせを聞き、少し遅れて〈鉤爪〉討伐に参戦したのだ。
 民家の屋根の上で動きを止めたシバを見て、ジンと共に駆けつけたユミトは窓枠に足を引っ掛けてよじ登り、〈鉤爪〉にとどめを刺そうと向かってゆく。
 シバはなんとかその動体視力で、向かってくる蛇の動きを見極め躱し、〈プテノイグル〉で引き裂く。だが、蛇の数は8匹。同時に向かってきては処理しきれない。戦闘を得意とするわけではないシバと、ハイアリンクの訓練を受けているユミトでは、実力の差が明らかだった。
 蛇の中の数匹が、ジンの〈シュナイダー〉で生み出した黒いナイフを咥えている。ここに駆けつける前、ユミトがジンに話していた作戦だ。蛇が噛み付いても、それほどのダメージを与えられないため、ジンに協力してもらっていたのだ。

 シバは必死に蛇の攻撃を躱し続けていたが、何度も体を掠めるナイフによる出血と、それを避け続ける体力も限界だったらしく、段々と動きも鈍くなっていった。それを見逃さず、ユミトは隙を付いて、シバの脚に蛇を絡めて、バランスを崩した彼はそのまま屋根の上に転倒する。
 ユミトがシバを押さえ込もうとしたが、必死に抵抗した彼は屋根の上を転がって、そのまま落下した。
 落ちた先には、エミーやトト、それにジンが待ち構えている。3体1では勝ち目はない。シバはそう判断したらしく、街の外へ逃げようと駆け出すが、それよりも先にエミーの翅から振り撒かれた鱗粉に行く手を阻まれる。

「ワタシの仲間のところへ、逝って下さい」

 エミーの冷たい声。
 逃げ場を失って困惑するシバの喉元目掛けて、トトがナイフを振り抜く。だが、シバはそのナイフを右手で受け止めて、逆にトトの首筋に向かって左手を伸ばす。が、トトは咄嗟に後方に跳んで回避した。
 シバが立ち止まっている間に、エミーの操る毒の鱗粉が彼の周りを包み込んでいた。即効性のある神経麻痺の毒は、シバの体の動きを止める。

「……! なん、だ、これ」

 手足が思うように動かせなくなったことに焦っている間に、ジンはトトの背後で数十本のナイフを練成して、それを一気にシバの胸元目掛けて飛ばした。

「──ッぐぁ!」

 肉を深々と抉って、胴体の至るところに黒い刃が突き刺さる。ナイフを胴から幾つも生やすその姿は、ダーツ盤を連想させた。
 小さく呻き声を零し、大きく目を見開いて後方へ崩れ落ちたシバに、トトがゆっくりと近づいて行く。黒いコートの数カ所、ナイフの突き刺さった部分に、じわりと濃い赤の染みが広がっていっている。やがては失血で死ぬだろうが、トトはその前に楽にさせてやろうとしてるのだ。
 ジンはそんなトトの後ろから彼女の腕を掴んで、歩みを制する。

「トト、いいよ。僕がやる」

 返事も聞かずに、ジンはシバの傍らに片膝を立てて屈む。浅くて早い断続的な呼吸。鳥の嘴のようなものがついた仮面から覗く、山吹色の双眸が潤んで揺れている。無理矢理動かそうとしている腕が震えているが、エミーの〈カフカ〉による毒が、それを妨害する。

「君が誰かを殺しているとこ、見たくないから」
「……うん」

 トトは殺さなくてもいい存在であり、共に過ごしてきた時間も短くない、ジンにとって大切なヒトで。彼女の手が汚れる瞬間に、立ち会いたくはない。ジンのそれを察したトトは、短く返事をして、少し距離を置く。それを横目で見ながら、ジンは男の首筋にナイフを当てた。
 寒い。震える唇は、確かにそう呟いていた。怖い。掠れた声が、微かに聞こえた。目元からは透明の線が伝い、頬を濡らす。
 殺されるのは怖いだろう。少しずつ、確実に体から血が失われてゆく感覚は、もっと辛かろう。でも、今まで殺人衝動に突き動かされて生きてきたことは、それ以上に苦しかったはずだ。

「──辛い思いをさせてごめん。どうか、安らかに死んでくれ」

 殺すことは、救いになるのだ。
 命を奪うことと、十字架を背負う覚悟はできている。その重さはよく知っている。だから、ひと思いに。
 指先に力を込めると、皮膚に刃先が沈みこむ感触が伝わってくる。肉と、固いものにナイフが当たる。それを力づくで押し込んで、確実に命を切り離す。男の体がビクビクと痙攣した。溢れ出る生命は、暖かくジンの手を濡らす。
 10人近く殺しをしてきたその紅蓮バーコードは、殺しに特化した〈能力〉はあれど、流石に4人を相手にするほどの戦闘技術は持ち合わせてはいなかったらしい。
 〈鉤爪〉の討伐は案外呆気なく終わった。

Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.64 )
日時: 2019/01/13 20:49
名前: 日向 ◆N.Jt44gz7I

こんばんは日向です、いつもありがとうございます、本物です。
色々身辺が落ち着いてきたので今日は溜まりに溜まったコメント(?)をしに来ました。
勢いに任せて書いたので色々とっちらかっているかもしれません(汗

継ぎ接ぎバーコードは丁度去年の今くらいから読み始めた作品で、今日までずっと追いかけている作品の一つでもあります。
でも読み始めたのは多分金賞受賞の後です、おそらく。
その時も結構レス数はあったのですがすぐに更新分まで読み切って、死や命を扱っている作品なのに良い意味で読みやすい小説だと思ったのが最初の印象でした。
つぎばは更新が続いて完結を迎えるその日まで読み続けている作品だと思います。

つぎばは魅力的なキャラが多くて、好きなキャラクタが誰かと訊ねられるととても困ってしまいます笑
人からお預かりしているオリキャラもたくさんいるけれどそれを魅力的にえがききるヨモツカミさんのお力もあって魅力的な作品になっているのだなと思いました。
ヨモツカミさんは女性キャラを魅力的にえがく人だなと思っています。
つぎばトリオは全員好きだけれど、私は特にメルフラルさんが好きです。
仕事が出来ていつも掴み所がなくて、簡単に相手に手の内を見せない狡猾さがとても素敵な女性です。
勿論トトさんも好きなのですが、トトさんとジンくんの奪い合い(なのかあれは)をしたシーンが最近のお気に入りです。
あくまでも一つのタンパク質としてジンくんを狂愛しているあの姿勢がぶっ飛んでて好きです。
でもメルフラルさんのような女性になりたいかと聞かれて素直にうんとは言えないのですが笑

最新話までの話については、やはり生死がつきまとうつぎばカラーが色濃かったです。
クリムゾンはいずれ紅蓮バーコードになるというところでクラウスくんは一体どうなってしまうのか、彼らにもいつか救われるときがくるのかなと思わずにはいられませんでした。
そして一番印象的だったのは今話ラストの殺すことは救いになるという一文。
奪ってきた命と重たい十字架を背負い続けて尚死ぬことが許されないジンくんが主人公だからこそ重みのある言葉だと思いました。
同じ種族の命を百年間奪い続けて生き存える、一体どんな気持ちで彼が生かされているのか想像するのもしんどくなります。死ぬのは嫌だと幼い身体の彼に縋りつく人もきっとたくさんいたでしょう。
自身の死を願うヒトならざる人々と生きていたいと足掻く人々の描写が対照的で人を引きつけるストーリーだなと思いました。

普段伝えきれなかったことをこれで感じ取っていただければ嬉しいです。
これからも継ぎ接ぎバーコードは追いかけていきたい作品です、お互いのペースでこれからも楽しく創作活動が出来ればいいな。
またどこかでお会いしましょうノシ

Re: 継ぎ接ぎバーコード ( No.65 )
日時: 2019/02/14 20:25
名前: ヨモツカミ

>>ひゅーがさん
偽物か間違ってつぎばに投稿しちゃったのかと思ったので、本物と言われて安心しました(?)ちょっと普段のノリで返すかガチガチで返すかあやふやだから、言葉遣いがブレるけども気にしないでくれ。

長いこと応援ありがとうございます……。メルは気持ち悪い女なので、好かれることが意外だけど、そう言って貰えてすごく嬉しい。タンパク質として一途だけど歪んだ愛を持ってるメルと、嫌ってるけど突き放すことができないジンの関係は本編のラストまで色々あるから、是非見守ってあげてほしいです。
トトとメルのあのシーンはラノベと呼んでます。あれは書くのが楽しかった。

そう、シバがクリムゾン化した挙句紅蓮バーコードになってしまうっていうの、割と大事な伏線のつもりでした。だからクラウスや他のバーコード達もどうなってしまうのかっていうね。ひゅーがさんはいつも気づいてほしいところに触れてくださって、とても嬉しい。
救いね。あるといいな(遠い目)
“命”というものを題材にした重い話だから、殺害シーンは丁寧に書いたつもりでした。きっと今までに何度となく奪ってきた命でも、一つ一つの重みは変わらないはずだから、丁寧に。そうするジンの気持ちや死んでいくバーコード達の気持ちを想像しながら読んでいただけたなら幸いです。

丁寧な感想をありがとう。最近なんとなく執筆意欲が下がっていたけど、こんなにも真摯に応援してくれる人がいるんだなって思ったら、筆を折ってる暇ないなって思えたから、頑張って投稿する。ひゅーがさんのコメントがとても励みになったってことが伝わればいいなって思いますb
お互いに頑張って行きましょー!

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