複雑・ファジー小説

継ぎ接ぎバーコード
日時: 2018/10/17 00:01
名前: ヨモツカミ
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel6/index.cgi?mode=view&no=19542

 ────殺さなければ。

 幸せなんて言葉は程遠く。存在を許されない僕らはどう生きればいいの。
 生きたいとか、殺したくないとか、愛されたい。そんな願いが、全て叶わないお話。
 掲げたナイフに込めるのは?

「どうか安らかに、死んでくれ」

 それは、彼が自分自身で与えた罰。存在しない終わりを目指して生きる、彼らの償い。

………………………………

こんにちは、ヨモツカミです。何も完結させたことが無い打ち切り芸人なので、今回もどうなるかわかりませんが、きっと終わりまで書き続けますので、どうぞお付き合いください。
趣味で好きな時に書くので遅いですが毎月6のつく日を更新日にする予定です。
良い意味で読み手を裏切るような、そんなものが書きたいですね。

〈本編を読む前に〉
・死ネタ、流血表現を多く含みます。
・たまに書き直したり加筆します。
・コメント頂けると更新速度が上がります。超欲しいです。
それでも大丈夫な方は、どうぞお付き合いください!

〈軽い説明〉
群青バーコード
青色の、通常のバーコード。モノによっては人の役に立つかもと考えられている。バーコード駆除の為の兵“カイヤナイト”は群青バーコードで構成されている。
翡翠バーコード
緑色の、失敗作を意味するバーコード。暴走しやすかったり、力が使えなかったり、ヒトとして機能しなかったりする。大体はすぐに処分される。
紅蓮バーコード
血のような赤色の、殺人衝動をもつ、特に危険なバーコード。うまく使えば兵器として使えるため、重宝されたりもしたが、基本的に危険視されており積極的に駆除される。
漆黒バーコード
全てを吸い込む様な黒色。殆ど謎に包まれている。本当の化物だと恐れられている。
ハイアリンク
バーコード殲滅特殊部隊。基本的に人間で構成されているが、その中にバーコードで構成された特殊部隊“カイヤナイト”がある。

〈目次〉
登場人物紹介
>>52
No.00 懺悔と黒の約束
>>1
No.01 曇天下の爬虫類へ
>>2 >>3 >>4 >>5
>>6 >>7 >>9 (一気読み>>2-9
No.02 朱に交じる亡霊は
>>10 >>16 >>17 >>19
>>20 >>21 >>22 >>24>>10-24
No.03 哀を求めて蚊帳の外
>>27 >>28 >>29 >>30 >>32
>>33 >>34 >>35 >>36>>27-36
No.04 白昼夢は泡沫の如し
>>37 >>38 >>41 >>42 >>43 >>46
>>47 >>48 >>49 >>50 >>51>>37-51
No.05 静寂に告ぐ藍晶石
>>53 >>54 >>56>>53-56

Twitterアカウント→@tsugiba

〈なんか作者が描いてみた〉
・ジン>>8 ・クラウス>>15
・トゥール>>18
・祝★2017年冬大会>>39
・祝★参照6666記念>>56
・祝★参照7777記念
〈頂き物〉
>>23 >>31 >>40 >>55

〈お客さま〉
銀竹様、凡丙@tablet様、小夜 鳴子様、透様

〈その他〉
・AnotherBarcode -アナザーバーコード-(URLより)
継ぎ接ぎバーコードとは別の、もう1つの話。番外編集のようなものです。投稿頂いたオリキャラ(一応まだリク依頼板で募集中)や本編で語られることの無い登場人物の話や、ふざけて書いたifストーリー等。
・まあ座れ話はそれからだ(複雑ファジー)
主人公以外の4つの視点から主人公を見ていくよーみたいな。私はコメディのつもりで書いてる高校生達の青春なんとか。
・虚ろに淘汰。【短編集】(複雑ファジー)
趣味を詰め込んで書いてる、よく題名の変わる短編集。息抜き程度に書くのが楽しい。

2016年 5月6日 執筆開始
2017年 8月4日 No.02修正
2018年 1月7日 冬大会金賞受賞(ありがとうございます)
2018年 3月3日 No.00修正
2018年 8月31日キャラ絵新調しましま!
2018年 9月2日  No.01修正

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Re: 継ぎ接ぎバーコード2-3 ( No.17 )
日時: 2018/09/15 09:00
名前: ヨモツカミ


「……え?」

 思わず目を疑って、もう一度よく見る。今度は見間違う筈もない。突然身体を丸め、息を吹き返したジンが激しく咳き込むのだ。その様子をクラウスはただ凝視することしかできないでいた。
 数回ほど噎せて呼吸が整うと、ジンはゆっくりと身体を起こす。喉元を押さえつつ、涙の浮かんだ目元を擦り神妙な面持ちで此方を見据えていた。その顔は、死にかけた直後だからか顔色が悪い。──いや、死にかけてなんかいない。確かに死んだのだ。クラウスはその手に忌々しく残る、儚くも呆気ない生命の終わりを確かに知っている。鮮明に思い返すと胃液がせり上がってきて、思わず口元を覆った。
 目の前の出来事は余りにも不可解で、クラウスは放心してしまう。

「なんで、生きてんの……」

 思考が纏まらないまま、クラウスの口から呟くように声が漏れた。その質問を耳にすると、軽く舌打ちしたジンが口を開く。

「は、人の首折っといて、よくそんなこと言えたもんだね? 先ずは何て言うんだい?」

 掠れて聞き取りづらい声だったが、思ったよりもはっきりとした発声。ジンも言った通り、彼の首の骨は折れたはずだ。殺したはずだ。それがどうして、普通に息をして、声を発して、此方を睨み付けてくるのか。

「えと……ごめん、なさい」

 混乱し切ったクラウスの頭は殆ど機能せず、ただ促された通りに、か細い声を放つだけだった。
 ジンは深く溜息を吐く。声を発するだけで喉がヒリつくので、怒鳴り散らすわけにも行かない。正常な状態であればあの痛みや苦しさを思い知らせてやろうとも考えたが、そんな気力もなく、行き場のない怒りを吐息に変換するしかなかった。
 そんな事よりも、とジンは未だ覚束ない足取りでベッドから降りると、クラウスの体の前に膝を付いて座り込む。
 ジンの右手が伸びてきて、服の襟元をくっと下に引っ張る。今度は振り払おうとは思わなかった。ただクラウスは、流石にバレるか、なんてぼんやりと思うだけだった。

「……んだ、これ」

 ジンが驚愕上げた声も、やはり掠れていた。
 クラウスの胸元には鮮やかな翡翠のバーコードが刻まれている。しかし、その左下の異常に視線が行く。その部分だけが血を垂らしたような赤色。翡翠から紅蓮へ、グラデーションのように移り変わる。血が交じるように、翡翠バーコードに紅蓮が混じっていた。
 クラウスが息を吐いて、控えめな声色で答える。

「見たまんまだよ。オレは確かに翡翠バーコードなんだ。でも、普通の紅蓮バーコード程じゃないけど、たまにさっきみたいに、どうしても殺したくなって、その感覚に呑み込まれることがあって。オレ、そーゆー、オカシイ奴なんだよ」

 その現象。“クリムゾン”と。名前も顔も知らない研究者が言っていたのを思い出す。ジンは掴んでいたクラウスの服をぎゅっと握りしめて俯いた。
 血が混じったようなバーコード。ジンもあまり詳しくは知らないが、群青バーコードと翡翠バーコードに、極稀に現れるらしい。クラウスの言う通り、普通に生活できる時間のほうが多いのだろうが、さっきのように何かの弾みで殺人衝動に呑まれてしまうのだ。
 昨日、しっかり確認しておけばよかった。クラウスがセクハラだの言いながら必死で隠そうとしたのは、これを見られるのを阻止するためか。バーコードを隠す目的がなくとも、突然断りもなく服を引っ張れば、振り払われて当然なのだが。
 小さな笑い声。クラウスが諦めたみたいに力無く、短く嗤った。それからポツリと言葉。
 ねぇ、殺すの? と。震えたか細い声だった。
 ジンが顔を上げると、辛そうに微笑んでいるクラウスの金色のが潤んでいた。その表情は、殺戮の定めを背負った絶望とも似た悲しげな顔。過去に見た紅蓮バーコード達も皆、似たような表情を浮かべていた。

「オレのこと。殺すの?」

 もう一度、クラウスは震え声で訊ねる。
 口を開きかけたが、言葉を探しているのか、困ったような顔で押し黙るジンに、クラウスがついでとばかりに言った。

「昨日の夜、全部聞いたよ。オレもトゥールも……バーコードは皆、殺すんだろ」
「盗み聞きじゃないか」

 ジンは短く零して、再び口を閉ざしてしまう。否定は無い。無言は肯定の意味を持つ。ああ、そうなんだ。わかっていた答えのはずだったのに、改めて理解すると、クラウスの胸に鉛のように冷たく重いものが沈殿する。

「そんなん、無理に決まってんじゃん……バーコードがどれだけいると思ってんだよ」
「無理かどうかなんて、僕が死ぬまで分からないよ」
「なに、それ……」

 “死ぬまで”。
 一瞬、クラウスの心臓が跳ねる。その言葉の真意を悟ってしまった気がした。不意に、クラウスは恐ろしい想定をしてしまう。それがあり得ることなのかは分からないが、そうであれば辻褄が合う。だから、ただ、途方もなく恐ろしい。
 だって。さっき死んだのに、死んでなかったのは? いや、あれは確かに死んだのだ。殺した証明は、クラウスの掌に忌々しく刻み付けられているのだから。そう、死んだ上でジンは、きっと。

「お前は──何なんだ」

 クラウスの質問に、ずっと暗い表情を浮かべていたジンが、にっと、口角を吊り上げた。自虐的に歪んだ、ぞっとするような酷い、笑顔。

「さあ? 僕って何なんだろうね……?」

 突然、ジンが〈シュナイダー〉を発動させて、黒いナイフを手に取った。
 鋭利な刃先を凝視して背筋が凍る。クラウスはぎょっとして身構えたが、ジンが逆手に持って両手で掴んだそのナイフの切っ先を自分の喉元に向けたのを見て、息を呑む。だって、その動きは。
 待て、と言葉にする間もなく、黒いナイフが勢い良くジンの喉に突き立てられ、聞きたくもない音と共に皮膚を突き破り、深々と沈み込む。そこから湧き水のように鮮血が迸る。正面にいたクラウスはそれらを全身に纏うことになったが、突然のことに悲鳴もあげられず、目を閉じることだって出来ない。呼吸をするのさえ忘れていたように思う。
 ジンの咳き込む音と血の滴る音がする。やがて、ジンの身体が支えを失って後ろに倒れるのを、クラウスはスクリーン越しの映像か何かのように、呆然と眺めていた。

Re: 継ぎ接ぎバーコード【キャラ絵投稿しました】 ( No.18 )
日時: 2018/08/31 20:35
名前: ヨモツカミ
参照: https://twitter.com/tsugiba/status/1010754711572475905

“爬虫類の様な姿の男”という言葉だけでは1番想像しづらかったであろうトゥールです。
なんか目のバランス悪いけど気にしない。

【トゥール】
鋭い爪を携えた大きな蜥蜴の腕と足、割と器用な尻尾を持った翡翠バーコードの男。24歳。瞳は琥珀色で、爬虫類の様に瞳孔の形が変わって気持ち悪い。見える所では、頬や項、手足が深緑の鱗に覆われている。その姿を見られないよう、フード付きのローブを被っている。性格は大人しいが(というか根暗)、戦闘狂。
能力名は〈サウルス〉と言い、蜥蜴のような姿になり、爬虫類にできることは大体できる。

継ぎ接ぎバーコード2-4 ( No.19 )
日時: 2018/10/09 07:32
名前: ヨモツカミ

 現実味を感じられないほど、あっさりと。ほんの数秒の出来事。
 床を這う生き物の如く広まる血溜まりに沈むジンを、黙って見据えた。喉に深く突き立てられた黒のナイフが静かに消失するのを見て、確かに絶命したのだと理解する。
 放心したクラウスは、その場から動くこともできず、呆然と自分の両手に視線を落とした。噴き出した彼の赤色が服や腕、体全体にこびりついてしまっていて。鉄錆の臭いの充満した部屋に吐き気を覚える。
 ──これじゃ、オレが殺したみたいだ……。
 瞼に付着した血液が肌を伝って、目に入った。思わずきゅっ、と目を閉ざした時、部屋のドアがゆっくりと開かれる音を聞いた。


***


 生暖かい風が鱗の表面を撫でる。崩壊した街並みと暗く淀んだ曇天で、灰に染まる風景。屋上からそれらをぼんやり見下ろしながら、トゥールは嘆息した。
 死にそびれるのは、これで何度目になるのだろうか。もう生きるのを止めようと決意した日から、6年が経つというのに。尽く機会を逃してきて、のうのうと息をしてきた。
 “あの時”も今回も、殺してもらえなかったな、とトゥールは誰に言うでもなく吐き捨てる。桜色の髪をした不思議な少女と、継ぎ接ぎの少年に。
 トゥールは生きるのが苦痛だとか、消えてしまいたいとか、そういう意味で自らの生命の終わりを求めたわけではない。幼少から抱いてきたわだかまりの正体。それに答えを見出しただけ。

 産まれて来なければよかった、ということ。

 翡翠バーコードである自分が、バケモノである自分が、家族を不幸に陥れた。きっとその事実を理解したときから、答えは出ていた。何処かでそれを見ないふりして、成長して、その過程で多くのヒトを屠ってきた。きっとこれからもトゥールは誰かの命を奪いながら、生きるだけだから。理由はいくらでもあって、逆に生きる理由も生かされる理由も、考えてもわからないのに、どうしてジンや少女はトゥールに手を下さないのか。

 ──まだだよ。まだ、あなたは死ぬべきじゃないよ。
 ──だから生きろ、トゥール!

 脳裏で木霊する、死を否定する言葉。それらはある種の呪いのようだ思った。
 何も言わずに、何も考えずに、トゥールの願う通りに殺してくれればいいのに。あの少女やジンにとってトゥールが生きている理由は。生かした理由は何だ。いずれ殺すなら、渡された猶予は何のためにある。自分はなんのために生きればいいのだろう。
 トゥールは曇天を見上げた。
 不意にクラウスの姿が思考の端にチラつく。
 ──アイツなら、なんて言うのだろう。昨日のことを話したら、どんな顔をするだろう。
 クラウスは6年前に出会った日、勝手に付いて来て、それを放っておく気にもなれなかったから、成り行きで行動を共にし続けてきた。勝手に、なんて言いながら、何時でも決別することは出来たのに、それをしなかったのも、今更出来なくなっているのもトゥールもクラウスも同じなのだが。
 ふう、と本日何度目になるかもわからない溜息を吐いて、トゥールはフェンスから少し身を乗り出した。下に広がる風景を見据える。きっと、ここからその身を投げ出せば、簡単に終わることができるのであろう。霞むほど遠くに見えた地上は、その気になれば無慈悲な程一瞬で届くのだ。それも、そんな勇気があればの話である。
 試しにトゥールはフェンスに足を引っ掛けてみる。人間とはかけ離れた、深緑の鱗に覆われ、鋭い爪を携えた大きな足。強く踏み締めれば、半壊したマンションのフェンス如き、容易く踏み抜ける。それを想像した途端、体の震えと、背筋を走る悪寒。冷や汗が滲んで、胸の内側から心臓が忙しなく殴りつけてくる。遥か遠くで霞んで見える地上の景色がぐにゃりと歪み、大口を開いて死に急ぐ馬鹿を待ち構える、バケモノのように思えてくる。

「は……」

 自嘲するように、気の抜けた笑いが溢れた。情けないことに、トゥールは幾らでも他人を殺すことは出来たくせに、自分を殺すことは出来やないのだ。肩を落として、臆病な蜥蜴男は踵を返すと、屋上を後にした。

 そろそろ2人とも起きているだろうか、等と考えながら階段を下り、狭い通路を進んで、710号室の戸を開け放つと、トゥールは瞠目した。
 ツン、と鼻に付く鉄分を多く含んだ咽るような匂い。──血の匂いだ。
 廊下にいる時点でこれだけはっきりと感じるのなら、出血量も相当なものだろう。どっちが、と咄嗟に考えて、クラウスの無事を案じる。早鐘を打つ心臓を落ち着けようと深呼吸すれば、肺を満たす血臭に怖気立つ。トゥールは眉を顰めながらも、恐る恐る廊下を進み、その臭いが寝室からのモノだと悟った。
 最悪の事態を想像して先程屋上で感じた恐怖とは別のものがトゥールの中を満たしていく。戸を開けないことには何もわからない。トゥールは意を決して寝室の戸に手を掛けた。
 蝶番を軋ませて開いたその先には、噎せ返るほどに濃い血の臭い。眼前に広がるのは、ぞっとするほど鮮やかな赤。

「……クラウス」

 ベッドの脇。今も喉や口元から赤色を溢れさせて横たわるジンと、全身血塗れのクラウスが人形のように座り込んでいる様子が視界に映る。彼の無事に安心した事実と、ぴくりとも動かないジンという、凄惨な光景に、現実を否定したくなる。
 トゥールが部屋に入ってくると、クラウスは弾かれたように顔を上げた。赤の中、見開かれた金色がトゥールを捉えて、時が止まってしまったかのように固まった。再び時が進むと、サッとクラウスの顔から血の気の引いていって、この世の終わりのような顔をした彼は、壊れたしたように喚き散らす。

「オレじゃない、ち、違う、オレじゃない、違う、違う違う違う違う違う違う違う違う! オレは殺してない! 殺してない、殺してない殺してない殺してない殺してないっ」
「クラウス、」
「違うんだよ、なぁ!? こんな、こんな姿じゃ、信じてもらえないかもしれないけど、でも違う、わかるだろ、違うんだ、殺したけど、殺したけどでも違う、殺した? 殺したけど、オレはこれは違うんだ殺してない、オレは違う!」

 落ち着かせるために駆け寄るべきかとも考えたが、トゥールの足は一歩後ろに引いていた。否定と自白が混ざって、彼の言葉の何が真実なのか理解できない。相当気が動転しているのだろう。狼狽しつつも、彼の精神を案じてその傍らへ寄り添おうとしたが、トゥールよりも先にクラウスが動いた。
 立ち上がり、覚束ない足取りで歩み寄ってくる。彼が一歩踏み出すごとに滴る赤色が、靴底にへばり着いた色彩が、床を染めていく。
 ベッタリと汚れた手でトゥールのローブを掴み、違うんだ、と鳴き声にも聞こえる掠れた声で訴えかけてくるのを落ち着かせようと、出来るだけ優しい声色で語りかけた。

「落ち着けクラウス。疑ったりなんてしない。ちゃんと聞くから、話してみろ」

 それでもローブを掴む手は震えていて、トゥールはクラウスの背中を軽く擦る。何処に触れても血が付着するのはもう諦めていた。
 とりあえず会話は出来るくらいに落ち着いたのか、まだ取り乱しているのか、クラウスは殆ど喚くように語り始める。

「自分でやったんだ、ジンが、喉を切ったんだ、でもオレ……その前にまた殺しちゃって、死んだんだ。確かに殺したのに、生き返って、それで自分でやったんだ、わかんないんだけど、自分で、」

 ぷつり、と唐突にクラウスの言葉が途切れた。どうした、とトゥールが声を掛けるも返事はなく、クラウスの首がゆっくりと、横たわるジンの方に向けられた。不思議に思いながらもトゥールもそちらに目をやる。
 それはなんとも異様な光景だった。動かないジンの心臓の辺りが鈍く黒い輝きを放ち、流れていた赤が逆流してゆくのだ。辺りに飛び散っていた血も一滴残らず。ミミズのように蠢いて、ジンの元へ還ってゆく。クラウスの全身とトゥールのローブに付着していたのも全て。光に引き寄せられる羽虫のように黒い輝き2群がって、ジンの中に還る。
 そして、全ての血液が体戻ると、何事もなかったかの様に、ジンはゆったりと上体を起こした。五体満足。傷1つない、正常な体で。

Re: 継ぎ接ぎバーコード2-5 ( No.20 )
日時: 2017/07/27 14:42
名前: ヨモツカミ

「やっぱり、死なないんだ……」

 クラウスが震えた声で言う。
 声に反応して、若干顔色の悪いジンが、こちらを見据えて微笑んだ。
 “無理かどうかなんて、僕が死ぬまで分からないよ”という発言の真意。もしかしたら彼は死なないのではないか、というクラウスの恐ろしい想定が真実になってしまった。

「――不死身、か」

 クラウスとは対象的に、落ち着き払った声でトゥールが言った。少し予想外な反応に、ジンはトゥールをじっと見つめる。

「……驚かないんだね」
「昔、そんな話を聞いたんだ。造り話みたいな、現実味に欠ける話だったから、適当に聞き流していたんだがな」

 誰に、とは言わなくともジンにはわかっていた。トゥールと彼女――桜色の少女が接触していたという事は、既にこのことを知っていてもおかしくはない。といっても、ちょっと口軽いな、とジンは小さく嘆息する。

「正確には不老不死だよ。僕は死なないしこれ以上歳を取ることもない。切り刻まれようが、首を折られようが、どんな殺され方したって死ぬことはない。飛び降りたってもちろん死ねない。ずっと、このままさ」

 生物の理に反する、あまりにも現実味のない話。それをジンは無表情に淡々と口にする。

「なにそれ――マジぞんび……チートかよ」
「最初は僕もそんなふうに思ったけどね。こんなの、呪いだよ……」

 クラウスが聞き返す前にジンは自分の服の襟元を引っ張って、心臓上に刻まれたバーコードを見せる。
 現れたのは、翡翠でも群青でも紅蓮でもない。
 それは、すべてを吸い込むような黒。闇色のバーコードが、刻まれていた。

「“漆黒バーコード”。それが、世界に2つだけの、不老不死の呪いだ」

 ジンと、桜色の少女に刻まれた。許されることの無い罪と、歪んだ愛情。
 クラウスは初めて目にするその吸い込まれるような黒に、言葉を失った。群青と翡翠と紅蓮以外の存在なんて、知る由もなかったのだから当然の反応だろう。トゥールは昨日の時点でそれを見ていたからあまり驚いた様子は無く、淡々と真実を受け止めといた。

「ジン、ホントに何者なのさ……」

 クラウスの声は、震えていた。それは人間がバーコードを見る時の目と、酷似している。要するにバケモノを見るような目。
 ――自分だってバケモノのくせに。どうしてそんな顔をするの。
 少し冷ややかな目でクラウスを見つめ返しながら、ジンは言う。

「……僕のバーコードなんてどうでもいい事だ」

 話をぶった切って、ジンは表情を変える。温度を感じさせない無機質な瞳。それは、トゥールが昨晩目の当たりにした、“死神”の顔だった。

「そんな事よりも――――」

 ジンはゆっくりとクラウスに歩み寄り眼前で止まると、あの黒いナイフを突きつけた。
 そして、表情を強張らせるクラウスに言い放つ。
 クラウスの質問に対する答え、出してなかったよね。
 お前を殺すのかって、さ。


* * *


 じゃ、二人共付いて来い。そう言ってボロマンションの階段を降りるジンの後に続いて、足を進めながらクラウスは混乱していた。
 それは、数分前の事。
 言葉を返すことも逃げ出すことも出来ずに硬直し、クラウスは突きつけられた刃先を凝視する。それを庇うように、トゥールがジンとの間に割って入った。

「邪魔なんだけど」

 煩わしそうな目でトゥールを睨みつけながらも、ジンはずっと、刃先はクラウスに向けていた。トゥールは何を言うでもなく、口を噤んだまま死神の双眸を睨み返す。

「僕は一応、クラウスの事を思ってやってるんだ」

 トゥールからクラウスに視線を戻したジンが、冷たい声で告げた。

「な、どこが……」
「お前は、紅蓮を抱えて生きる覚悟があるのか?」
「覚、悟……?」

 クラウスは、黒いナイフから視線を外し、ジンの顔を凝視した。

「殺すの、怖いんだろう? さっき僕を殺したくらいで、あんなに取り乱したんだ」

 クラウスは息を呑む。手の中で弱まっていく拍動と、容易く砕けたあの骨の音が、生々しく思い出されて、不意に吐き気に見舞われる。殺した瞬間の確かな高揚感と、途方もない絶望感が混合して、せり上がってきた胃液を飲み込んだ。

「紅蓮が混じっている限り、結局お前は殺人鬼だよ。クラウスは、殺人鬼として生きたいの?」

 クラウスは、一瞬言葉に詰まる。
 だって、そんなの。

「……わからない」

 誰も殺したくなんて無い。その自分の意志を覆して、誰かを殺して楽しむ何かが、確かにクラウスの中に居る。母親を殺されて、施設につれてかれて翡翠バーコードになった日からずっと。深淵から時折頭をもたげて、クラウスに囁きかけるのだ。
 殺せ、と。
 必死で抗ってきたが、どうしても意識が呑まれてしまうことも多々あった。殺意が身体を蔓延ってゆく恐怖と至福。
 トゥールのことを殺しそうになったことだって何度もあった。血液が宙を舞う様子が、風に攫われる花弁のようで綺麗だと思えて……とどめを刺そうとする前に我に返ったり、クラウスが殺したくないのを理解してくれているから、トゥールが何度もそれを止めてくれていた。未遂に終わったとしても、幾度と無くトゥールの血を浴びて、その度に自分に恐怖してきた。
 いつか本当に殺してしまうかもしれないというのに、それをどうすることも出来ない自分に。

「でも……殺すこと以上に、怖いんだ。どうしようもなく……」

 恐らく、母が目の前で殺されたあの日からだろう。知らない男が身の丈程もある大きな刃物を振り下ろす情景。母の右肩から、胸を通って腰に振り切られる様子。後ろに崩れ落ちた母の、目を見開いた恐ろしい顔が。脳裏で再生されて声が震える。

「死ぬ事が、怖くて仕方ない」

 あの日を境に死ぬことを恐れて、生きることに執着するようになった。勿論誰だって死を恐れるものだろうが、他の何を犠牲にしても――殺してでも生きたいと願うようになったのは母の死が原因なのだろう。
 ジンの目の前でクラウスをかばうように立ち塞がるトゥールが、一瞬此方に顔を向けた。憐れむような眼。何処か同情とは違う、蔑みを含んだ気の毒そうな眼だった。
 彼がそんな顔をする理由も意味もよく理解していた。だから、クラウスは自嘲するような笑い声を零す。

「ヒヒ……オレ、最低だろ? 自分が死ぬのが怖いから、誰かを殺してでも生きたいだなんて」

 ずっとずっと、そうやって生きてきた。ただ、死にたくないというその一心で。この手を赤に浸しても、生きることに縋りついて、必死で見ないふりをしてきた。
 不意にクラウスの耳に届いたのは、へぇ、というジンの感嘆の声。

「いいんじゃないのか、人間らしくて」

 クラウスの言葉を聞いて、ジンが鼻で嗤う。トゥールと同じ蔑むような眼で、どこか楽しそうに。でもほんの一瞬その顔が陰って見えたのは、気のせいでは無いと思う。

「……オレ、人間じゃないよ」

 今はもう、と心の中で付け足した。

「バーコードも人間も、そんなに変わらないさ。能力が有るか無いか。その程度だよ」

 それだけ言うと、ジンは黒いナイフを仕舞い、クラウスとトゥールの横を通り抜けて、玄関へ向かった。

「まあ、お前ならなんとかなるかもしれない。生きてみろ、クラウス」

 “生きてみろ”。その言葉に困惑するクラウスを余所に一言、ジンが付いて来い、と言った。動揺しながらも、慌てて追いかけて、クラウスは言う。なんで、

「なんで殺さないんだよ? 皆、殺すつもりなんだろ!? お前は、何がしたいんだ!?」

 玄関で、ドアノブに手を掛けたまま、ジンが振り返った。なに、死にたいの? と笑ってから、やはり一瞬だけ辛そうな顔をしたように見えた。

「……今はまだ殺さないだけだ。いずれ殺すから、楽しみにしてなよ」

 言葉を失うクラウスを他所に、ジンは外へ出て行ってしまった。その後に、トゥールが何も言わずについて行く。だから仕方なくクラウスもそれを追いかけて、今に至る訳だ。

Re: 継ぎ接ぎバーコード2-6 ( No.21 )
日時: 2017/07/27 08:05
名前: ヨモツカミ
参照: https://t.co/jiN1O9eVDB

 階段を下りながら歩く、最後尾のクラウスが、前を征くトゥールにしか聞こえない声で、ぽつりと零す。

「オレ、生きてていいのかな」

 トゥールは何も答えなかった。その代わりに、軽く尻尾で顔面を叩かれる。……鱗でガサガサしていて、冷たい。変温動物の皮膚だ。
 下に着いて外に出ると、落ちてきそうな程重たげな雲に覆われて薄暗い空。この街はずっと曇っているな。なんてクラウスが空を見上げていると、ジンがピタリと歩みを止めた。
 そもそも、何処を目指して歩いているのか。クラウスがトゥールに話しかけようと、その横顔を覗き込む。そこで初めて、トゥールが針のように細くなった瞳孔で、何処か一点を睨みつけているのに気が付いた。

「トゥール?」

 クラウスが声を掛けると、トゥールは短くいる、と答えるだけだったが、その一言だけでも大体のことを察することは出来た。

「昨日、僕の腹を裂いてくれたのはてめぇだったな……」

 殺気立った声でジンが虚空にむけて話しかける。姿は見えずとも、その気配をはっきりと感じ取ったのだ。

「――可怪しいわねぇ。あれだけ切り刻んであげたのに、どうして生きてるのかしらぁ。面白い子ねぇ?」

 崩れた平屋の影から、細身の若い女が出てきた。暗い紫の髪をサイドテールにしていて、銀灰色の眼はギラギラと殺気を携えている。彼女の服は鮮やかな赤色をしている――ようにも見えたが、それらが全て血液の色だというのは、今もなお滴るのを見ればすぐにわかった。こびり付いた返り血に更に赤を重ねて、元の色なんて失われていた。

「お前らは下がってたほうがいい。紅蓮バーコードだ。あの女の〈能力〉は指先が鎌みたいになって、動きも素早くなるから、なかなか手強いよ」

 1歩前に踏み出して忠告するジンを無視して、トゥールもその隣に並ぶ。

「なるほど。アイツに昨日、体中引裂かれて、逃げていたら俺たちに出会ったわけか」

 数メートル程離れたところで嗤う女を睨みつけながら、ジンは舌打ちする。
 昨日の事。背後に気配を感じたときには手遅れで、ほとんど何が起こっているかもわからないまま背中に、腕に、膝に激しい痛みが走って、相手を視界に捉えた頃には胸を裂かれていた。彼女の素早い攻撃は、こうして面と向かっていても肉眼で追えるかは微妙な程だ。

「……煩いな、そーだよ。文句有るかよ」

 そんな話をしている間に、女は〈能力〉を発動し始めていて、両手の指先が伸びて鋭く弧を描く。ギラリと鈍い輝きを放つ5本の鎌の様に変わっていた。
 クラウスは、ジンに言われた通りにさっさと透明になって、近くの瓦礫の陰に隠れた。その事に女は気付き、不思議そうな顔をしていたが、あまり気に止めなかった。
 ――全部、引き裂けるならそれでよかったから。今はただ、抑えられない衝動に意識を沈め、気が済むまでそうしていたかったのだ。
 口元を歪めて、女は嗤う。血を求めるだけのバケモノの顔だ。

「アヒャヒャ! ショタと蜥蜴、まとめて引き裂いてやるわぁ!」
「誰がショタだ、気違いめ!」

 敵が接近してくるよりも先に、ジンは人差し指と中指を突き立てた両手を軽く振る。すると、虚空から無数の黒い刃が出現して、それらが女に向かって飛んでゆく。
 ――出せるナイフって、1本だけじゃなかったのか。トゥールは、ぼんやりと他人事のようにそう思って、黒く輝くナイフの1本1本を見つめていた。
 そのナイフの全てを見事な身のこなしで交わし、女はジンに接近して来る。それも、目で追えないほどの速さで。例えるなら、風の様に。

「――〈ウェルテクス〉……つむじ風、だな」

 冷静にぽつりと呟きつつ、引き裂かれる痛みを思い出して、ジンは咄嗟に右に転がって女との距離を取る。が、そもそも、彼女の狙いはジンではなく、その後ろで棒立ちのトゥールであった。
 ――何してんだこの蜥蜴! 避けろよ!
 そうは思っても、今更ジンがどうこうする暇なんてない。そしてトゥールも動く気配は無い。
 まさかあいつ、殺される気か。一瞬そんな考えが過ぎったが、それは杞憂であった。
 勢い良く振り下ろされた女の右腕を、トゥールはしっかりと受け止めていた。そのまま掴んだ右手を支点に、地面に勢い良く叩きつける。鈍い音。
 ぎゃ、というような声を上げて女が吐血したが、それでも自由な左手で、トゥールの両足首を切り裂いて反撃する。
 鋭い痛みによろめくトゥールを見て、ジンはナイフを投げようとして動きを止める。透明になっているクラウスが何処にいるか分からず誤射するかもと考えると、躊躇してしまう。そのもどかしさにジンは舌打ちした。
 女はトゥールが怯んだ隙に、掴まれていた腕を振り払って斬りかかろうとしたが、何を思ったのか動きを中断して、後方に飛び退いて距離を取った。それを不思議に思いながら見ていると、トゥールが唸るような声を上げた。

「俺の獲物だ――下がってろ、クラウス」

 凄みのある声に一瞬透明化が解けたのか、トゥールのすぐ横にクラウスの姿が視認出来たが、再びその姿は見えなくなる。
 女は透明化しているクラウスの気配に感づいて距離を取ったのか。ジンでも、目に見えない相手を気配だけで勘付く、というのは難しい。ちょっと面倒な相手に出会ってしまったな、と思わず舌打ちする。
 彼女は再度トゥールに接近し切りかかるが、それを上手く腕で払い除けて、彼は殴り掛かる。だが、彼女の素早さに翻弄され、トゥールの拳は空を掠める。激しく繰り返される攻防に介入する事も出来ず、ジンは黙って見守るしかなかった。

「……トゥールはさ」

 不意に気配もなく、真後ろで声がした。反射的にナイフを投げようと身体が動き、真後ろの奴の額に得物を突きつけた所で、クラウスだと気付いて、どうにか自分を制する。

「いきなり出てくるな! あと少しで脳天貫いていたぞ!」

 目を丸くさせて、驚いた表情のクラウスが、にへっと緊張感の無い笑顔を浮かべながらごめん、と短く謝罪する。

「……トゥールは、殺すの好きなんだ」

 つむじ風女と攻防を続けるトゥールを眺めながら、クラウスが言った。
 確かに、切り傷を増やしながらも、彼女を捉えるトゥールの両眼は、獲物を前にした捕食者の様に爛々と光を滾らせている。その様子は何処か狂気的に写った。
 クラウスが薄っすらと微笑んで、物騒だよなぁと零しながらジンを見る。

「初めて会った時も殺されそうになったし。なんでオレのこと殺さなかったんだか知らないけど。元々、バーコードの研究施設で逃げ出そうとする奴を殺す仕事してたんだってさ」

 ヤな仕事だね。クラウスが静かな声色で零した。

「……その仕事、知ってるよ」

 ジンはそう、短く返すことしか出来なかった。
 それは清掃員なんて呼ばれたりしていたが、脱走しようとするバーコードや、失敗作と判断されたバーコード、実験に使えないと判断された人間なんかも殺す。要らないモノを、片付ける仕事。クラウスが思っているよりも沢山、トゥールは死体に触れてきたはずだ。
 それをわざわざクラウスに教える必要は無いだろう。微笑んでるくせに、悲しそうに歪められた顔に、それ以上の事を言える気がしなかった。

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