複雑・ファジー小説

たゆたえばナンセンス【短編集】
日時: 2019/05/14 19:22
名前: ヨモツカミ

さて、君はどんな夢を見た? 忘れたなんて言わせないよ。
そのアホ面に紅茶をぶっかけてやれば思い出すかね。
ああ、今の質問は気にしないでくれ。だって意味なんかないんだ。
ささ、しっかり布団を掛けて。
今日はなんの話が聞きたい?


【ご挨拶】
息抜きになんとなく短い文章を書くことが多々あります。気分と雰囲気で綴る文章に終着点は無いし、続きもない。それでもせっかく書いたのに放置し続けるのもなあ。
ということで色々と飽きたら名前変えまくってるけど、ただの短編集です。


・最近読み返して気に食わなかったやつは消し消ししました。
・☆とあるのは雑談掲示板にて浅葱と共に開催しているSS練習スレ添へて、に投稿した作品です。
(添へて、に投稿した作品を自分の短編集等に載せたい場合は私達に一言声をかけてからにして下さい)
・新たに「あらすじ的な」を追加しましま。題名だけ見てもどんな話かわからないから、好みじゃないSSを読んで時間を無駄にしてしまうかも! そんなのやだ! って方の役に立てばいいなと思います。

【目次】
〈徒然と欠陥ハート〉あらすじ的な>>18
♯1 アリスの夢想録 >>1
♯2 ゆめできみをころしたい >>2
♯3 DELETE
♯4 DELETE
♯5 未完の隙間を埋めてくれ >>5

〈回答欄満た寿司排水溝〉あらすじ的な>>19
♯6 綻び朽ちゆく☆>>6
♯7 問一、勇気とは何であるか?☆>>7
♯8 アルミ缶の上にある未完 >>8
♯9 金星と僕らの自殺志願 >>9
♯10 生きをする夢 >>10
♯11 問二、将来の夢を答えなさい。>>11
♯12 夜這い星へ、 >>12

〈添付レートのような。〉あらすじ的な>>23
♯13 天駆ける幸福☆>>13
♯14 枯れた向日葵を見ろ☆>>14
♯15 鏡の国の偽りを見つけて☆>>15
♯16 問三、あなたらしい答えとは?☆>>16
♯17 七夜月アグレッシブ☆>>17

〈虚ろに淘汰。〉あらすじ的な>>27
♯18 泡沫に問うた。 >>20
♯19 狂愛に問うた。 >>21
♯20 雪を待つ絵師 >>22
♯21 幸福に問うた。 >>24

〈曖昧に合間に隨に〉あらすじ的な>>35
♯22 波間に隨に >>28
♯23 別アングルの人☆>>29
♯24 狭間に隨に >>30
♯25 トゥイードルの道化師 >>31
♯26 ドールハウス☆>>32

〈たゆたえばナンセンス〉あらすじ的な>>
♯27 知らないままで痛い☆
♯28 藍に逝く

Page:1 2 3 4 5 6 7



Re: 曖昧に合間に隨に【短編集】 ( No.33 )
日時: 2019/03/24 00:09
名前: 立花 ◆FaxflHSkao

 こんばんは、立花です。かれこれ一年間くらいヨモさんの短編集大好きだよって言い続けて、感想書きに行きたいって言い続けて、そんなこんなで平成が終わろうとしてまして。小説は読んでるけれど、ちゃんと文章にまとめることができなくて、本当に申し訳ないなってずっと思ってました。有言実行しない人間って嫌いと常々思ってるので完全にブーメランです。ツイッターとかで短い文字数で簡単に伝えるのもいいとは思うんですけど、好きっていうならやっぱちゃんと思いが全部吐き出せる、文字数とか気にしなくて大丈夫なこちらでと、そんな感じです。めったに感想なんて書かないので、だんだんよくわからない文章になるかもしれませんが、ご容赦ください。前置きで三百文字超えたよ、こわい。では、好きなお話をいくつかピックアップさせていただきまして。




「 未完の隙間を埋めてくれ 」
 ヨモさんの文体が好きです、とそういえばいつから言っているのでしょう。カキコで書かれている作家さんの中で文体が好きな方が二人いまして、その一人がヨモさんです。文章が綺麗とか丁寧とか読みやすいとか、そういう感情を抱く作品はたくさんありますが、なによりも文章を読んで「好き」と思うのはきっとヨモさんの文体が最高オブ最高だから(語彙力)
 このお話の好きな部分は、ヨモさんの視覚や触覚の描写です。蜜柑の飴玉の味を、優しい甘酸っぱさと表現する部分や、小さくなってきたらつい噛み潰してしまうあの感じ。飴玉の優しさと対照的な人工的な空気。
 電車とかめったに乗らない人間なので、電車ってこんな感じなのかなって思いました。旅先で乗った電車は鉄の塊の中にぎゅうぎゅうに人が乗っていて、着替えの入った重たいリュックを背負って両手はお土産でいっぱいで、みんなスマホ見てたりぼうっと外を眺めてたり、都会って静かだなって田舎民は純粋にすげえなって思いました。
 女の子同士の難しい関係に悩んでいた、ってそう簡単に言えば、本当に簡単に言えばそんな短い言葉で片付くんだろうけど、相手の機嫌を損ねないように遠慮して上手く喜ばせる、嫌われないようなセリフを言い続ける機械にならなきゃいけない、面倒くさいなって今になってそう思えます。学生時代なんてすっごく短い一瞬の出来事のはずなのに、当時はすごく長く感じられて、これが自分が一番しんどい時期だって勘違いしちゃう。彼女が死ななくてよかった、とそう思える感情が本当に正解なのか。でも、やっぱりちょっとだけ寄り道して、人生のちょっとだけ楽しいことを知って、少しでも笑ってくれたらなって私はそう思いました。



「 アルミ缶の上にある未完 」
 わたしが我儘をいって書いてもらったこの作品。好きすぎて上手く感想をまとめられなくて、結局こんな遅くなってしまってすみません。三ツ矢サイダーシスコーン事件はヨモさんとぐっと親密な関係になるきっかけをいただけたっていうか、しょうみ私が少しだけ人のことを信じやすく馬鹿ってことがばれてしまった事件であったかなと。面白すぎていつ思い出してもあの口の中に残るゲテモノ感が忘れられないです。いつか私もけろっとした顔をしてヨモさんにお勧めしますね。
 ヨモさんの文体が好きというのはもう何度も言ってるのですが、一番好きだなっていうのはやっぱりこの描写力なんだなってこのお話を読んで思いました。蝉の一生をこんなにも簡潔に、儚く、主人公からの視点で説明的にならずにすっと入ってくるこの描写。もう好き。ナニコレ好き。
 あと炭酸の表現がめっちゃ好き、え、めっちゃ好き。語彙力吹っ飛ぶんですけど炭酸ってシュワシュワしてる美味しいとか思ったことがないので、苦手な人はこの刺激が痛くて好きじゃないんだなって驚きました。飲めない人はむかし「必要のない二酸化炭素をのむ理由がわからない」と言っていましたが、私は好きです。あの口の中でバチバチする感覚が好きなのは、人それぞれなんだなって。
 アルミ缶の上にある蜜柑は個人的に一番好きな駄洒落でして、くだらないといいながらも笑ってくれた彼女を見て喜ぶ彼の優しさが本当にカッコいい。夏の寂しさが溢れ出る作品で、お話が好きっていうか、もう文章が綺麗すぎて、好きとしか言えなくて申し訳ないです。なんていうか、ヨモさんの小説はもちろん上手いなって思うんですけど、それより素敵とか好きとかそういう感情が勝ってしまって上手く感想が言えないんです。最後の缶を蹴ったあとの描写も好きです。もう全部好きです。
 勝手に晴れ渡った空っていうのが、少年の感情を上手く表しているっていうか、自分の感情とはリンクしてないんだろうなって、睨みつけるのがもうぐっときました。語彙力が消えました何回目でしょうか。


「 狂愛に問うた。 」
 虚ろに淘汰。シリーズは全部好きなんですけど、前も言ったんですがこれが一番好き。ほんとうどきどきするし、切ないし、報われるとかそういうの全部投げやってこの二人の幸せを願いたい。
 恋と依存の違い。傷つけようとして言ってるいるわけじゃないんだろうけど、彼女の台詞は胸が苦しくなるもので辛い。お互いを好き合ったらそれが絶対に「恋」になるわけじゃない。隣にいないと苦しくなるのは依存か、恋か。そんなの正解なんてないのに、少し突き放される言葉がもう泣ける。
 「私は、お前がいいから側にいるのに」がめっちゃもう無理好き。なにこれかっこよすぎ惚れる。好き。お互いがお互いを必要とするのはきっと依存なんだろうけど、恋って結局は依存の延長だと思うし、好きっていう感情が同性だからってだけで上手くいかなくなるなんて辛いし、障害があるからこそ二人で生きていってほしくて、二人で幸せになって笑っていてほしくて。気分でがーっと書いてこんな最高なお話書けるってヨモさんは神か(知ってる)
 花言葉はやっぱりしんどいし、好きだなって実感しました。どうか二人が狂おしく、永遠に愛し合えますように。

 最近ヨモさんいろいろ悩んでたいなのに、仕事でいっぱいいっぱいで何もできずに本当に申し訳ないです。
 上手く書けなかったんですが、ヨモさんの作品大好きですし、これからも応援してます。少しでもこれからの創作活動の背中を押せる感想になってたらいいなと思ってこちらのグダグダ文章を送らせていただきます。

Re: たゆたえばナンセンス【短編集】 ( No.34 )
日時: 2019/04/04 23:50
名前: ヨモツカミ

わー、コメントありがとう。ちょいちょい好きだって言ってくれて、その言葉だけでも本当に嬉しかったけど、こうしてスレにコメントくださるとより嬉しいですね。

私の文章を好きでいてくれてありがとう。
未完の隙間は2年前に書いた作品だって思うと恐ろしいけれど、読み返してみると細部の表現が今より上手い気がしました。はなちゃんの言うように視覚とか触覚の表現とか、憂鬱な女子高生の見てる世界が繊細に書かれていて、やだ、私上手いじゃないの、と思いました(
彼女にはきっと死ぬ勇気なんて無かったから、きっと代わりに飛び込んだ女の子がいなくても、死ねずに帰宅していました。そしてまた何気ない日常に帰っていく。彼女には、その息苦しい日常の中に何か小さな変化を見つけて笑って生きてほしいですね。
小ネタですが彼女の名前、鍋柄未完(ナベツカミカン)と言います。だから“未完の隙間”というワードが浮かびましたb


あの事件は凄惨でしたね……(笑)でも確かにあれでもっとはなちゃんと仲良くなれたのは事実で、悪いことをしたなと思いつついい思い出です(
本当に信じると思わなくて、人を騙しちゃ駄目だなって当たり前のことを学んだ事件でした。
そのときは笑顔で食べるねb
私は炭酸好きだから、苦手だという人になぜ苦手なのか聞いたり、自分で味わって飲んで研究しました。痛いから嫌いとか、喉越しがいいとか、ホント人それぞれで描写してて楽しかった。
こんなに好き好き言ってくれて本当に嬉しいな。私も私の書く文が好きだから、私もうまく言えないけど嬉しい。ありがとう。


読者置いてけぼり系で、自己満足で書いていた淘汰。シリーズを好きって言われるのがもう嬉しい。誰かのそばにいたいだけの〈藍微塵〉と、本気の恋を受け止めてもらいたい〈狂い咲き〉。多分二人が正しい意味で幸せになることってないです。でも、二人でいられる時間を少しでも尊いものとして大切にしてほしいなって感じ。

こんなに嬉しいコメントもらって、私は物書きとしてとても恵まれているなと思いました。ちゃんと読んでくれて、私の文がはなちゃんの心に響いたのだから、それだけで十分。はなちゃんも仕事忙しそうなのに読んで、感想書いてくれてありがとうね。私はひたすらに嬉しかったです。これからも私の文ではなちゃんが何か感じてくれたら嬉しいなって思いました。それではお互いにこれからも頑張っていきましょう。

Re: たゆたえばナンセンス【短編集】 ( No.35 )
日時: 2019/04/04 23:53
名前: ヨモツカミ

〈曖昧に合間に隨に〉
一生を24時間に換算すると、今は午前7時頃だという。
近いんだか遠いんだか、このよくわからない君との距離感が丁度いいようで、
少し遠く感じるようで。
手を伸ばしたくとも、曖昧なままの今を維持したくもあって、
午前0時の君はまだ、僕のことなんか知らないままでいて。

♯22 波間に隨に >>28
百合っぽいので苦手な人は注意。人魚姫モチーフの話。海の描写がしたかったのと、どこか切ない話が書きたかった。

♯23 別アングルの人☆>>29
第9回喝采に添へて、より。“小説の主人公”ではなく、別の登場人物の視点から書いてみたSS。ちょっと会話のキャッチボールが無理矢理な感じしちゃってあまり気に入ってないけど、テーマは好きな作品。

♯24 狭間に隨に >>30
2分くらいで読める短さ。何も考えずに、時間の流れが遅いなあと思いつつ書いた作品なのでこれと言って面白みはない。読まなくていいと思う。

♯25 トゥイードルの道化師 >>31
一文の目の「頭痛が痛い」みたいな表現がウケる(直せよ)(面白いから直さない)鏡の国のアリスをモチーフにした長編を書こうとしてた頃があったけど書けないからSSを書いたもの。やや読者置いてけぼり系。雰囲気をお楽しみください。

♯26 ドールハウス☆>>32
第12回玉響と添へて、より。双子のお人形さんの話。美醜、というテーマで書きました。これも2分くらいで読める短さ。

Re: たゆたえばナンセンス【短編集】 ( No.36 )
日時: 2019/04/08 00:09
名前: ヨモツカミ
参照: https://twitter.com/yomotsu_kami/status/1064132688888553472?s=19

♯27 知らないままで痛い

 もしも、私に明日が来ないとしたら──と、ふとした瞬間に考えてしまうことが増えた。
 肩で息をしながら、肌を伝う赤色をぼんやりと見つめた。手の甲の傷口から溢れ出て、色濃く線を残し、やがて薄まって朱色を引きながら、重力に従って落ちてゆく。
 命の色に彩られた大地には、分厚い鋼に身を包んだ死骸が無数に横たわっている。それを避けることもせず、漆黒に身を包んだ人型は、少し歩きづらそうに踏みつけながら、私の側までやってきて、拍手を送った。

「いやあ、鮮やかな剣さばきだったよ。ばっさばっさと躊躇なく人を斬り付けて、薙ぎ倒してね。とどめを刺す瞬間のお前、ありゃあ悪魔と見間違うほどだったさ」
「悪魔はお前だろうが」

 人に近い形をしているだけのそいつは、若い男の姿をしているくせに、老人のようにしゃがれた声で笑った。
 悪魔の間で流行りのジョークだよ。と、楽しげに言うが、私にはあまり面白さが理解できない。彼ら悪魔と人間では、笑いのツボが少し違うらしい。
 切っ先を地面に突き刺し、片膝を着いたままの私の手を引いて立たせると、悪魔は僅かに首を傾げてみせた。

「震えているな。俺達悪魔には気温とかよくわからないが、寒いのかい」

 首を横に振ると、頬を伝っていた赤色がパタパタと地面に吸い込まれていった。

「怖いんだよ」

 悪魔は目を瞬かせた。心を理解できない悪魔は、いつも私の感情の動きに興味を示す。

「剣が首筋を掠めて、でも、ほんの僅かに、ほんの一瞬でも私の反応が遅れていたら……どうなっていたのだろう、と。考えてしまうんだ」
「ほう。痛いのは、怖いことなのかい?」
「そうだな。深い傷を負うと、死んでしまうかもしれないから」

 手の甲や、腕、肩。今回は浅い切り傷ができた程度だが、次に敵と相まみえたときにも、それで済むとは限らない。
 震えた指先で、剣の柄を強く握る。震えは止まらなかった。

「死ぬのは、とても怖いことだよ」

 当たり前に過ぎていく時間が終わる。そうすると、私はどうなってしまうのだろう。わからない。わからないから、怖い。

「わからんなあ。俺には分からんよ」
「そうだな。死という概念を持たぬお前にこんなことを話しても、意味などないか」
「でも、そうだなあ。俺は、寂しいよ」

 今度は私が目を瞬かせる番だった。
 悪魔は、本当に寂しそうな笑みを浮かべている。心を理解できないはずの悪魔が。どうして。

「お前が死んでしまえば、契約は終わり。お前との時間が終わっちまう」
「……そんなの、上級悪魔であるお前なら、またすぐに契約者が現れるだろう」
「お前みたいな楽しい奴にはもう、会えないよ」

 悪魔は笑った。何処か、涙を堪えてる風にも見えた。
 動揺を悟られないように、私も笑う。いつも悪魔が浮かべていた、嘲る顔を真似しながら。なんだかこれでは、私の方が悪魔みたいだ、とも思った。それでも構わないと思えた。国の裏切り者で、復讐のために悪魔に魂を売った私は、家族や仲間を殺してきた私は、もう既に悪魔と変わりないだろうから。

「なんだ。悪魔のくせに死を理解しているじゃないか。そう。死ねば時は止まる。もう明日は来ない。もう一緒に話せないし、一緒に笑えないし……一緒に、居られない」

 言いながら、私は自分の胸元に手を当てた。痛む。傷はないのに、痛い。この痛みは苦手だ。どんな切り傷よりも真っ直ぐに、それでいて冷たく心臓を抉るから。
 私は剣に付着していた汚れを指で拭き取って、鞘に収めた。知り合いの命の色は、私の指先をべっとりと汚して。なんだか、死して尚、すがりつくみたいに思えた。
 国を裏切るのか? 我らを裏切るのか? 我が友よ、考え直してくれ、と。声もなく訴えかけてきている気がする。嫌な幻聴だ。それに手遅れなのだ。悪魔との契約は、もう私に帰る場所はいらないという意思表示なのだから。
 指先から滴って、地に染み込んだ赤色を見つめながら、悪魔に語りかける。

「なあ、悪魔。お前が死なない存在でよかった。お前は、私を置いていったりしないからな」
「でも、お前はいつか死ぬから、俺を置いていくんだなあ」

 しゃがれ声は、いつになくもの淋しげで、いやに私の心臓を冷たく突き刺してくる。

「……そんなの、寂しいな」

 ぽつりと零れた悪魔の言葉に、私は思わず嘲笑の声を漏らした。

「おかしなことを言う。私が死ねば、私の魂が手に入る。お前の目的はそれだろう?」

 私の心を弄んで楽しんでいるのだろう。悪魔には、感情なんてないのだから。
 きっとこの性格の悪い悪魔は、私といるうちに覚えたその表情で、その仕草で、私を惑わせて楽しんでいる。そうに決まっている。
 きっとそう。
 悪魔の頬を伝う、色のない血の意味など、私にはわからなかった。
 ただ、もう一度。傷もないのに胸が痛んだ。


***
誰よりも臆病な復讐者と、心を理解できないはずの悪魔の話。
「血」という言葉を使うのは最後の悪魔の涙だけで、血っていうのは、生物の生きてる証だと思うので、そう考えると悪魔という存在と私の関係がいとをかし。

Re: たゆたえばナンセンス【短編集】 ( No.37 )
日時: 2019/05/14 19:21
名前: ヨモツカミ

♯28 藍に逝く

「あんなに元気な子だったのに。ちょっとびっくりしちゃうよね」

 そう言って、海月(みつく)は少し笑った。
 蝉時雨降り注ぐ夏休み。中学生の僕らはそれを連絡網で知らされた。近所の海で海水浴をしているときに、クラスメイトの女の子が心臓麻痺で亡くなったのだという。僕の隣の席の子だった。積極的に話しかけてきてくれて、いつも明るく笑っていた彼女のことを思い浮かべては、やはり実感が沸かなくて、心に曇天が広がるような感覚。空は僕の気も知らずに晴天の青が広がっていた。
 海月に誘われて、彼女が亡くなった海にやってきていたが、正直海なんか見たくは無かった。

 堤防の上を歩きながら、海月は人少ないね、と言う。見てみると、確かに夏休みの午前中にしては海水浴に来ている人の姿がほとんど見えない。あの子が死んじゃったからかなあ。海月にそう言われて、なるほど、と思う。

「お父さんにも、海にはいっちゃ駄目だって言われたもんね。みんなそうなのかな」
「来ちゃ駄目なのに、僕をこんなところに連れてきたのかい」
「どうせ暇でしょ?」

 僕は何も答えなかった。
 潮風は温く湿っていて、心地が悪い。

 海月は堤防の上で突然立ち止まって、海を見つめていた。黒いセミロングの髪が風に揺られていて、麦わら帽子を抑える手は、この直射日光に溶かされてしまうのではと思うほどに白い。その白い腕の生えるワンピースは白藍色をしていて、なんだかこの蒼穹に吸い込まれてしまいそうに思えた。

 紺碧の海と突き抜けるような青空に、白藍色のワンピースの少女は、やけに儚く映った。そのせいで、僕の心の曇天が、雨雲へと変わる。
 身近な人が死んだって事実が、僕を不安にさせた。海と空が、彼女をさらってしまうのではないかって。そんな気にさせる。

「海月!」
「わあ!」

 僕は堤防の下から腕を伸ばして、海月の手を掴んでいた。小さくて、温かい。彼女は確かにここにいる。

「もう、ビックリしたよ。突然どうしたの?」
「海月が、消えちゃうと思った」

 僕の声は情けないほどに震えていた。

「こんなに、海と空が青くて、海月も青いから、そのまま、溶けて消えちゃうんじゃないかって、思った。あの子みたいに。海がさらっていっちゃうのかなって、そんなの嫌だ」

 海月は一度大きく目を見開いて、それからゆっくり閉じた。次に開かれた暗褐色の瞳は穏やかに細められていて。

「何言ってるの? 私は、消えないよ。……消えたりなんかしない」

 海月は僕に掴まれていた手を、強く、強く。しっかりと握り返した。確かめるみたいに。僕と彼女がいること。彼女が僕の側に存在していることを。

「ずっとあなたの側にいるからね」

 海月はその時、僕に嘘を吐いたこと。僕は、気付けなかった。海月の言葉を信じて、彼女は何処にも行かないと思い込んで、疑いもしなかった。
 でも僕は知っているはずだった。海月の作り物の笑顔が、彼女が嘘をつくときの癖であることを。知っていたのに、知らないふりをした。
 海月は近い未来に、遠くへ行ってしまう。遠い、遠い。誰も知らないところ。海月の家族とお医者さんの言葉を信じたくない僕は、彼女の嘘さえも、知らないふり。

 蓋をして、気づかないふりをすれば、本当になくなるような気がした。

✽✽✽
カクヨムに掲載してたSSです。「淘汰」シリーズとほんのり繫がりがあります。

Page:1 2 3 4 5 6 7



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


E-Mail


URL


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大7000文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。