複雑・ファジー小説
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- 「ヒロインは美少女だけですか?」
- 日時: 2017/08/06 19:55
- 名前: ハガ音 ◆KP4xtX9O.g (ID: dDPEYPay)
- 参照: http://www.kakiko.info/profiles/index.cgi?mode=view&no=11904
幼い頃から好きだった。
ずーっと、ずーっと、ずーーっと。
好きなのに、気付いてくれない。
だから君とわたし、二人であのセカイに飛ばされた時。
君のこと、独り占めできる、って思ったの。
でも君は、
ねぇ。
そばにいるのは、可愛い子じゃないと
だめなんですか____?
・
■登場人物
通津 和花(つづ のどか) 15 女子高校生
主人公。隼人の幼馴染で、幼い頃から隼人が好き。
春翅 隼人(はるばね はやと) 16 男子高校生
和花の幼馴染。ごく普通な男子高校生だが、昔からトラブルに巻き込まれやすい。
- Re: 「ヒロインは美少女だけですか?」 ( No.1 )
- 日時: 2017/01/01 07:26
- 名前: ハガ音 ◆KP4xtX9O.g (ID: dDPEYPay)
「隼人くんっ! あの、あの、い、一緒に、その……学校行こう……」
うろうろと視線を彷徨わせながら、わたしはそう言った。全くどうして、学校に行こうと言うだけで緊張してしまうのか。
「……え、あああー、おし、行こう和花。」
かくいう隼人くんも、どうやら何か考え事をしていたようで、ごまかし笑いをした。
わたしの名前は、通津和花。
春翅隼人くんの幼馴染で、そして隼人くんはわたしの好きな人でもある。
隼人くんは、正直に言うと特に目立ったところはない。
でも、できないことがあるわけではない。人より器用なだけ。
だけど、わたしはそんな隼人くんが好き。どんなに怖そうな人が相手でも、わたしを助けてくれる。どんなに自分が辛くても、他の人を一番に考えられる人。
優しい隼人くんの笑顔が、大好き。
大丈夫だよ、って微笑んでくれれば、どんなに辛くても頑張れた。
幼馴染だからとかじゃない。
隼人くんが優しくて、頼もしくて。
だから、好きなんだ。
たとえ隼人くんはわたしのことを好きじゃなくても
____無理やりにでも、振り向かせるくらいは、ね?
・
「泉みやびです! どうぞよろしくお願いします!」
にこり、と微笑む彼女は、テレビで映った時と同じように愛らしかった。
泉みやびちゃんは、今一番売れているモデルさんである。
腰までの地毛の金髪に、まるくてぱっちりして黒曜石みたいな真っ黒な瞳。白くてすべすべした肌に、愛嬌のある整った顔立ち。流石モデルというべきか、スタイルは抜群。
どこからどう見ても美少女な彼女が転校してくれば、誰だって気になるはずで、それはもちろん隼人くんも同じだった。
泉みやびちゃんを取り囲む円の中で朗らかに笑う隼人くんを見ていると、癒されるけど、やっぱり寂しい。わたしがほしい笑顔は、わたしにむけてくれる笑顔で十分。
他の子にむける笑顔なんて、いらない。
「なあなあ和花、みやびちゃん可愛かったな!」
「……そうだね。隼人くんは胸の大きい子が好きなんだね。」
ちげーよ! と顔を真っ赤にして否定する隼人くん。
「ふふ、冗談。だって隼人くんは____」
りぃい_ーー_ん。
りぃ__ーーん
__うしゃ__たす_て___い___
突如として。わたしと隼人くんの足元に、青白い光を放つ陣、のようなものが展開された。無論わたしは何もわからなくて、隼人くんの表情を伺う。
隼人くんは、少し興奮気味というか、信じられないっていう顔。
「嗚呼。ああ、勇者様ッ……!
お願いします、セカイを、人々を、救ってください!!」
ステンドガラスの光に包まれて、銀髪の美少女が悲痛な面持ちで立っていた。
- Re: 「ヒロインは美少女だけですか?」 ( No.2 )
- 日時: 2017/05/14 12:57
- 名前: ハガ音 ◆KP4xtX9O.g (ID: dDPEYPay)
聖女セーラ。聖皇国スフィアの最高責任者。
その権力が王よりも強いのは、彼女の絶対的な癒しの力と、美しい美貌、高い知能によるものである。その癒しの力は人々を癒し、大地を潤し、その美しさはどの国の美姫と比べても勝るとも劣らない。腰までの緩やかにウェーブした銀髪に二重で大きい深い海のような藍色の瞳に、均整のとれた顔立ち。どこをとっても美しい。またその頭脳は彼女の魅力をより強いものとする。
そんな彼女の唯一の欠点といえば、惚れやすいことであった。
「勇者様。今日も鍛錬ですか?」
「え、ああ、セーラか。うん、鍛錬。」
聖女セーラは、勇者にベタ惚れだった。無論、そんなのは和花が許さないはずではあるのだが、和花は和花で____大変だったのだ。
和花には、加護というものがなかった。
勇者、つまり隼人に巻き込まれて転移した和花には女神の加護が与えられていなかったのである。故に手当たり次第に本を読んだり、とにかく追い出されたりして隼人の側を離れることにならないようにと頑張っているのである。
・
旧禁書庫、第三図書館。王城の中に唯一あるボロボロで古い場所。無駄に広いものの、埃を被っている。
和花は第一、第二図書館に入るのは拒否されたため、第三図書館に来ていた。
「……ふ、ぁ」
小さく欠伸をする。お世辞にもいい環境と言えない場所で、真夜中まで勉強し、早朝から勉強。そんな生活を毎日続けているせいで、和花はかなり消耗していた。隼人は何度か様子を見に来てくれるものの、心配をかけないようにとしている為に和花の不調には気づいていないようだった。
ズキズキと頭が痛み、若干寒気もする。風邪引いてるんだろうな、と思いつつも次の本を読み始める。
「ねぇ、体調不良者は図書館に来てほしくないんだけど」
パッと振り替えると、そこには図書館の司書が立っていた。
小柄で華奢な和花と同じような背格好で、前髪が長く正直目が見えない。この世界では珍しい綺麗な黒髪に、隼人のことを思い出し、涙腺が緩む。
「……すいません」
唯一元の世界から持ってくることのできた学生鞄から、マスクを取りだし身につける。
「……そういうことじゃなくて、えっと、伝わらないな……」
「どういうことですか?」
表情が見えないため解りづらいが、どうやら悩んでいるようだ。声にも全く感情が出ないので、本当に解りづらい。
あんまりここいちゃ駄目なのかな、と和花は立った。
が、歩き出すことはできなかった。足に力が入らず、仰向けに倒れていく。
下から見たことにより見えた黒曜石のような瞳と、整った顔立ちが歪み、司書さんが手を伸ばすのを見た後、和花の意識はブラックアウトした。
- Re: 「ヒロインは美少女だけですか?」 ( No.3 )
- 日時: 2017/05/14 13:01
- 名前: ハガ音 ◆qlZ12PpBk. (ID: dDPEYPay)
- 参照: http://携帯から
「ノドカ___……」
黒髪と黒目。
大好きな人の色。
好きな人に心配されるという状況に和花は不謹慎にも嬉しくなる。
「……日本語じゃない?」
あなたは、だれ。
・
和花は徐々に意識を取り戻した。
心配そうに和花の顔を覗きこむ隼人の顔があまりにも近く、思わず赤面。
「……隼人くん」
「和花。よかった……」
安心したようで、ほっとしている隼人に、心配してくれたんだ、と嬉しくなる。
「もう無理しないでくれよ、和花。心臓が持たない……」
慈しむように和花の頭を撫でる隼人に、「それは無理だ」とは言えなかった。
そこで和花はセーラがいることに気づいた。
日本語で会話しているために内容がわからず、ムッとしている。怒っている顔も可愛いなんて、ズルいよな、とか思ってしまう。
和花はセーラと一言だけ話したことがある。
『私、本当の【愛】を見つけたいのです、邪魔しないでくださいね』
でも和花は、もしもセーラと隼人が恋人になったら、刺し違えてでもどちらかを殺す。勿論隼人も殺すかもしれない。
「勇者様……和花さまは、城にいる医者が診ます。王族を診るような医者ですから、大丈夫です」
「ありがとう、セーラ。でも和花はすぐ無理するから、様子見てから鍛練するよ。大丈夫、ちゃんと強くなるから」
和花は思う。
どうして隼人くんに戦いを強いるような人が。
隼人くんを好きになるのか。
そんなの許せないし、そんな権利はないのに。
私の方がずっと好きで、小さいときから___いいえ、生まれる前から、私はきっと隼人くんを愛していたのに。
ずるい。
隼人くん___『主人公』の『ヒロイン』は。
私では、駄目ですか。
・
「そうですか、風邪ですか」
「ええ、そうよ。なんで貴方、調子悪いって気付いていたなら報告しないのよ。あたしあの子のこと見極めないといけないんだから」
それとも、と朱色の髪の美女が続ける。
「惚れちゃったのかしら、あの化け物に」
「……___どうでしょうね」
- Re: 「ヒロインは美少女だけですか?」 ( No.4 )
- 日時: 2017/05/17 17:15
- 名前: ハガ音 ◆qlZ12PpBk. (ID: dDPEYPay)
- 参照: http://携帯から
異常に気付いたのは、熱が下がり、大分動けるようになったときだった。
「……!」
学生鞄が、ない。
唯一の元の世界から持ってきたものが無くなったと言うことよりも、鞄に着けていたストラップが心配だった。
小学生の頃、隼人に誕生日にもらった鈴のストラップ。小学生、それも低学年の頃の物なのでかなりぼろぼろだが、それでも和花にとってはかけがえのない宝物だった。
「探さなきゃ……!」
病室のドアをそっと開けて、廊下を駆ける。病み上がりに激しい運動は良くないとは思うが、あのストラップだけは___
「っわぶ!」
角を右に曲がったとき、人にぶつかった。
後でしっかり謝らなきゃと思いつつも、軽くすいませんと頭を下げて、再度駆け出そうとする。
「待って、貴女、勇者様の幼馴染みの方?」
ぶつかった人は、赤毛を三つ編みにして、ぐるぐる眼鏡をかけた女性。手には大量の本を持っている。
「……はい」
「やっぱり! ねえ、リュート見なかったかしら?」
リュート。聞いたことのある名前で、なんだったっけと考える。
「……えっと、第三図書館の司書さんのことでしょうか?」
「そうよ。 私はマリーヌ・トゥニア。 第一図書館の司書をしているわ。リュートは私の弟でね、探していたのよ」
大人しそうな見た目に反し、茶目っ気たっぷりで明るい性格のようだ。
「えっと、申し訳ないですが、見ていません。」
「いーえ、全然大丈夫よ! 急ぎの用ではないから」
「でも、何故私が知っていると思ったんですか?」
「あの子がたまに話してくれるのよ。『いつも僕のところの図書館に、勇者様の幼馴染みの方が来る』ってね! でも、その様子だとそこまで仲が良いわけではないのね」
ふふ、と、笑うマリーヌ。そうだ、と和花はストラップのことを思い出す。
「あの、私、探し物をしていて……。これくらいの黒い革鞄見てませんか、若しくは鈴のついた奴とか……凄く、大切なものなんです」
「! 革鞄…………あの子、また……!」
何か思い当たる節があったようで、マリーヌは表情を歪める。どういうことですか、と和花が言おうとすると、ぐんっ、と手を引っ張られる。
「着いてきて、案内するわ」
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