複雑・ファジー小説

あなたに出会う物語
日時: 2017/09/16 12:43
名前: ももた

小さな手……小さな温もり……
あなたはもう一度、私に会いに来てくれたのね。
あなたに最初の贈り物をあげましょう。
あなたの名は……

***

こんにちは、気まぐれなももたです。初心者で、更新は不規則ですが、頑張って書いていきます!

〈注意〉
本作は多少のグロ表現、下ネタ等を含みます。嫌な予感がした方は、ブラウザバック!

〈目次〉
Chapter1……>>1-5

Chapter2……>>6-11

Chapter3……>>12-25

Chapter4……>>26-32

Chapter5……>>33-39

Chapter6……>>40-45

Chapter7……>>46-54

Chapter8……>>55-


〈主要登場人物〉
以下、ネタバレを含むことがあります。本編を読んでからの閲覧を推奨します。プロフィールはストーリーの進行に合わせて更新します。

スノウ・ヴァイス(18)
ベース:白雪姫
呪い:???
反動:氷を操る
雪のように白い肌、黒檀のような黒く長い髪、血のように赤い唇の美しい少女。赤ん坊の頃から孤児院で育ち、周りからは優しく礼儀正しいと評判。

フレッグ・ポンド(18)
ベース:カエルの王様
呪い:満月の夜にカエルの姿になる
反動:身体能力が高い
短いブロンドの、麗しい青年。しかしある理由から、強いコンプレックスを抱いている。少し卑屈な面もあるが、勇敢な性格。ハンスから『ケロちゃん』と呼ばれるのを嫌がっている。

ハンス・クーヘン(28)
ベース:ヘンゼル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
赤い巻き毛で、長身の美しい青年。革命軍のリーダーを務めている。陽気でいたずら好きな性格。

マルガレーテ・クーヘン(28)
ベース:グレーテル
呪い:兄妹のどちらかが死ねば、もう片方も道連れに死ぬ
反動:悪魔を払う武器を操る
ハンスの双子の妹で、容姿が兄によく似ている。ハンスの右腕となって、常に彼を支えている。兄よりも男前な性格で、面倒見が良い。愛称は『メグ』

ローザ・フォン・ルーク(14)
ベース:いばら姫
呪い:悪夢しか見ることができない
反動:人の悪夢を盗ることができる
白銀色の髪に、赤い瞳が特徴的な美少女。身体があまり丈夫でない。穏やかで物静かな性格。実はとても寂しがり。

ジャクソン・ビーン(26)
ベース:ジャックと豆の木
呪い:豆の木に身体を寄生される
反動:身体を植物のように扱える
癖っ毛の黒髪で、あごひげを生やしており、右目に眼帯をつけている。女好きな性格で、マルガレーテに会うたびに口説いている。また、フレッグのことをいつも気にかけており、弟のように思っている。愛称はジャック。

アーサー・アルビオン(5)
スノウとともに、孤児院で育った子供。やんちゃ盛りで、遊ぶことと食べることが好き。人懐っこく、今や革命軍のマスコット。

イザーク・ゲルハルト(24)
ベース:死神の名付け親(落語『死神』の元ネタ)
呪い:???
反動:病気や怪我を、瞬時に治す
メガネの青年。誰にでも敬語で話し、大人しそうな印象がある。スノウの過去を知る人物で、過去には能力を活かして父の病院を手伝っていた。

エラ(18)
呪い:誰かを憎まずには生きていけない
反動:炎を操る。
リリスの娘で、スノウの双子の姉。見た目はスノウとそっくりだが、エラの方がボーイッシュ。リリスに育てられ、パンドラやスノウを憎むようになってしまった。

リリス(42)
国を治めるている。白雪姫の魔女の生まれ変わり。スノウとエラの母。額の石は血玉髄。

ブライア(32)
若作りとイタい服装が趣味。いばら姫の魔女の生まれ変わり。人を操る力を持つ。額の石は石榴。

ハッグ(34)
肥満体でお菓子好き。砂糖でできた悪魔を呼び出す力を持つ。ヘンゼルとグレーテルの魔女の生まれ変わり。額の石は琥珀石。

エビルダ(39)
派手な化粧の、妖艶な女性。フレッグに好意を寄せているらしい。人を動物の姿に変える力を持つ。カエルの王様の魔女の生まれ変わり。額の石は橄欖石。

リーパー(??)
見た目は20歳前後だが、実年齢は80を超えている。死神の名付け親の生まれ変わり。黒いローブと、胸のカンテラが特徴。額の石は紫水晶。

ティタン(51)
荘厳ないでたちの巨漢。鎧を着ている。額の石は瑠璃石。

パンドラ
1000年の間、国を治めていた正義の魔女。18年前に殺害された。現在は棺に閉じ込められ、転生の時を待っている。額の石は月長石。

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Re: あなたに出会う物語 ( No.50 )
日時: 2017/09/14 05:49
名前: ももた

「喰らいつけ!」

ジャクソンの手から伸びた蔓は、リーパーの元に届くと、花を咲かせた。花は、リーパーを飲み込もうとする。すると、リーパーはそれに動じず、ただ不敵な笑みを浮かべた。

「危ない!!」

リーパーが花を掴むすんでの所で、マルガレーテによって、蔓は切り落とされた。リーパーが手にした花は、急速に色を失う。

「触ると生気を吸われるんかいな!?」

ジャクソンは、後から冷や汗をかいた。そして、マルガレーテの後ろに退がる。

「ジャクソンとフレッグは、この男相手には不利だ。僕とメグで闘う。エラちゃんは、周りの雑魚どもを減らしてくれ!」

「「「「了解!」」」」

ハンスの指示で陣形を組み直す。エラは両手から炎を生み出し、襲いかかって来た死体に浴びせた。死体は暫くは動き回るが、燃え尽くされると崩れていった。

「後で弔ってあげるわ」

炎が有効であることを確認すると、エラは次々と炎を生み出しては、敵の数を減らしていった。

取り逃がした一体が、ハンスに背中から奇襲をかける。エラは手を伸ばそうとしたが、間に合いそうにない。

「はぁっ!」

それを、横から現れたフレッグが蹴りつけた。死体は形がひしゃげたが、それでもなお立ち向かってくる。

「フレッグ、下がりなさい!」

エラはその死体に火をつけた。パチパチと音を立てて燃え上がったかと思うと、すぐに崩れさる。

「何でハンスには従うのに、俺には命令口調なんだよ……」

「私がスノウの姉だからよ!」

フレッグは思った。この小姑を相手にするのは、大変そうだ。

こちらサイドの敵は、エラのおかげで数を減らしていた。マルガレーテ側は、ジャクソンが敵を拘束しているだけで、倒されている敵は少ないようだ。

「フレッグ、ジャックの方を手伝いなさい。こちら側は、すぐに片が付くわ」

「だから、その命令口調をどうにかしてくれよ……」

フレッグは文句を垂れながら、駆け抜ける。ハンスの背中は、放っておいても、あの火炎放射姫が殲滅するだろう。リーパーの手に触れぬよう、その脇を通り抜けていった。



***



「ハァ……ここまで来れば、大丈夫でしょう」

イザークは、息を整えながらアーサーを下ろした。3人が足を止めたのは、ゲルハルト廃病院。以前、アーサーが拉致された場所だ。ハンス達の現在位置と、アジトの、中間地点にある。内構造が分かる3人にとっては、良い隠れ蓑である。

「アーサー君も、よくやってくれましたね。偉かったですよ」

イザークはアーサーを褒めながら、アーサーの頭を撫でた。アーサーは、まだイザークに慣れていないのか、照れているのか、スノウの背後に潜り込んでしまった。イザークは、残念そうに苦笑する。

「アーサー、ここまで運んでもらったんだから、『ありがとう』は?」

「あ……ありがとう」

スノウにたしなめられて、アーサーはペコリと頭を下げた。しかし、依然としてスノウから離れない。ずっとスノウの手を握っている。

「どういたしまして」

イザークはニコッと微笑んだ。そして今度は、スノウの方を見る。

「それにしても、革命軍にこんな小さな子がいたなんて……」

「この子は、私と同じ孤児院にいた子なの。私と一緒に、革命軍に保護されたのよ」

イザークは首をかしげる。

「あれ?僕が昔訪れた時は、もっとたくさんの子を預かっていたような……」

イザークは、スノウを預けにいった頃の記憶があるようだ。その時のことを思い出していると、スノウは悲しそうな顔をする。

「……みんな死んでしまったの。私達2人を残して」

無意識に、アーサーの手を握る手に力が入る。イザークは、申し訳なさそうに口を開いた。

「すみません、嫌なことを思い出させてしまいました」

「いいのよ。この子が生きているし、今は革命軍のみんなもいる。だから平気よ。私、こう見えても図太いのよ」

スノウはそう言って笑った。釣られてイザークも笑う。アーサーは『ずぶとい』の意味が分かっていないようで、キョトンとしていた。

「いいですね。頼れる場所があるというのは」

イザークは、少し遠い目をしていた。スノウはふと思い出す。彼は、13歳で親を失ってから、つい最近まで1人で生きていた。それなりに孤独だったのだろう。

「イザークさんも、革命軍を頼ればいいじゃない」

スノウは、さも当然のように言った。イザークは、少し寂しそうな顔をして答える。

「でも……時々迷うんです。このまま皆んなに埋もれていると、失う時に辛くなるんじゃないかって」

イザークは、父親のことを懐古しているのだろう。うつむき、下唇を噛んでいる。

スノウも、思い出す。ここに至るまで、親代わりだった人を失った。兄弟も失った。

しかし、手に入れたものもあった。ここでは、頼れる仲間が出来た。恋人も出来た。血の繋がりも出来た。

「……たとえ大切な人を失っても、心の中ではいつでも思い出せるでしょう?それに、思い出がなければ、失った時に、もっと後悔すると思うの」

スノウはそう言って笑う。イザークは最初、呆気にとられていた。しかし、彼女も辛い別れを乗り越えたからこそ、そんなことが言えるのだろう……と理解する。

「そうだね……」

イザークも笑って頷いた。しかし、その顔に影が広がる。

「どうしたの……」

「静かに!」

イザークはスノウの口に指を当て、あたりの気配を探る。スノウとアーサーには感知できず、2人は不安そうな顔をしていた。

ややあって

「後ろだっ!」

イザークは、スノウとアーサーを自分の方へ引き寄せた。直後、スノウのいた位置に、一陣の風が吹いた。

「どうしてここにいる、リーパー!!」

そこに現れたリーパーは、愉快そうに笑っていた。

Re: あなたに出会う物語 ( No.51 )
日時: 2017/10/07 23:13
名前: ももた

「はぁぁっ!」

「やぁっ!」

ハンスとマルガレーテは、同時にリーパーに飛びかかった。リーパーはまた腕を犠牲にし、身をかがめて移動する。2人は、はさみうちの状態を保ちながら、リーパーへの攻撃を断続的に続けていた。

「しつこい!」

リーパーが腕を振るうと、ハンスの背後に死体が現れた。マルガレーテは一瞬動揺するが、ハンスは迷わずリーパーに斬りかかる。カンテラを支える、鎖の一本を切り落とした。と同時に、フレッグが背後を狙った死体を蹴り飛ばしていた。

死体の兵士の偏りが生じたので、フレッグは移動している。ハンス達はリーパーの注意を引きつけるため、再度両側から切りかかった。その時、過程で不安定になったカンテラが、大きく揺れる。それに気がついたリーパーは、体勢を立て直すことに集中し、カンテラへの防御を固める。

(しまった!今の隙に、カンテラを叩き壊すんだった!)

一瞬の隙を見逃してしまったハンスは、強く後悔する。しかしそんな時間はなく、すぐに次の攻撃体勢に移った。マルガレーテの顔を、ちらりと見やる。

また合図をすると、ハンスは上段の構えをとった。マルガレーテは同時に、下段の構えをとる。

「っ!?」

どの方向に良ければいいかを迷ったリーパーは、一瞬だけ動きが止まった。ハンスはその高さで剣を……

(これは、伏せて避ければ……)

否、剣を振り下ろした。剣の軌道が読めなかったリーパーは、とっさに避けたため、その場に横転する。ハンスの攻撃と同時に、マルガレーテはリーパーの背中を切り裂いていたようで、背中の修復もせねばならない。

そして何より、今の一撃を避けきれなかったようで、カンテラを支える鎖をもう一本断ち切られていた。鎖はあと2本。リーパーが動くたび、カンテラは彼の身体から大きく離れる。

「くそっ!!」

リーパーは焦りを覚え始めた。と同時に、考えを巡らせる。

(この場から離脱し、スノウ様を追いかけたほうが得策ではないか?ジャックの首より、その方が価値がある。何より、向こうは足手まといを抱えた3人だけだ)

一度、思考を落ち着けたリーパーは、マルガレーテの剣先を冷静に見定め、身体を回転させて避けた。左手で、カンテラを抑えながら。

(3人はどこに隠れている?いや、彼らだったら、どこに隠れる?)

しばらくの自問自答の後、リーパーは考えがまとまったようだ。不敵な笑みを浮かべる。

「楽しかったよ、諸君。でも、今夜はお暇することにしよう……」

リーパーの姿が消え始めた。

「待て!!」

ハンスは剣を振るったが、その身体は捉えられず、空を切る。

「じゃあね。手土産に、白雪姫の心臓だけは頂いていくよ」

そう不穏な言葉を残し、リーパーの姿が消えた。残された英雄達に、死体の兵士が一斉に襲いかかる。

「ちっ!アイツ、スノウの所に行くつもりか!!」

フレッグは鬱陶しそうに、取り巻いてきた死体を壁に叩きつけた。グチャッという音を立てて、辺りに腐った肉片が撒き散らされる。

「フレッグ!すぐにスノウちゃん達をおいかけな!」

ハンスは叫んだ。この中で、スノウ達の元に追いつくことができるのは、彼をおいて居ない。

しかし、何故か死体たちは、フレッグに集まるように動いている。

「リーパーに操られているのか?くそっ!!」

フレッグは毒づきながら、死体達を投げ伏せた。数が多くて、フレッグは身動きがとれない。

「焼き尽くせ!」

フレッグに群がる死体達を、エラが焼き払う。包囲陣が解けた隙に、フレッグは混戦状態から脱した。

「行きなさい!納得がいかないけど、アンタにスノウを預けるわ」

「そりゃどうも」

エラに道を切り開かれ、フレッグは全速力で走り抜けた。まだ死体たちと戦う仲間を背に、スノウの元へと急いだ。



***



突如、スノウ達の前に現れたリーパーは、アーサーに手を伸ばそうとした。生気を吸い取る気だ。アーサーは、スノウと共にイザークに引き寄せられ、それを躱した。

「凍てつけ!」

スノウは氷を放つ。それはリーパーの左腕を氷漬けにしたが、リーパーが振りほどいたことで氷は消えてしまう。

「どうにか、カンテラを奪わないと……」

「そうですね!」

イザークは、無謀にもリーパーに正面から立ち向かい、カンテラを奪おうとする。一歩間違えれば、生気を吸い取られてしまうのに。

しかし、リーパーはそれを躱しただけで、イザークには指一本触れなかった。

「どういうこと?イザークさんは狙われていないの?」

イザークは、リーパーを追いかけながら説明する。

「生気は、余命が長ければ長いほど質がいい。逆に、余命が短ければ、取るだけ無駄なんです」

そう言って、イザークは自分の心臓を指した。そこには、彼の呪印があるはずだ。余命が短い……つまり、それが彼にかけられた呪いなのだろう。

しかし、ようやくスノウも理解する。リーパーにとって優先順位は、アーサー、スノウ、イザークの順なのだ。ならば、スノウはアーサーの側を離れるべきではない。

「アーサー、私から離れないでね!」

「うん!」

そして、リーパーの動きを目で追いながら、イザークの援護をする。リーパーの足元を狙って、何発もの氷の礫を放った。

「ええい、鬱陶しい!」

リーパーは、机の下に隠れた。イザークはそれを追うが

「いない!」

と叫び、すぐにスノウの元へと引き返した。スノウへ不意打ちをかけると踏んだのだ。果たしてその通り、リーパーはアーサーのすぐ隣に現れた。

「ふふふ……」

「アーサー!」

Re: あなたに出会う物語 ( No.52 )
日時: 2017/09/14 04:15
名前: ももた

フレッグがたどり着いた時、戦いは終わっていたようだ。廃病院から、3人が出てくる。しかし……

「スノウ!!」

その内の1人、スノウは、イザークにの腕に抱かれ、意識を失っていた。フレッグは慌てて駆け寄り、イザークから奪い取るようにスノウを自分の腕の中に収める。

フレッグは、スノウの身体を調べた。外傷は無いようである。

「何があった?」

怒りを帯びた低い声で、イザークに問いかける。イザークは申し訳なさそうに答えた。

「すみません、スノウさんは……」



***



リーパーの手は、アーサーを狙っていた。その生気を狙っていた。

「アーサー!」

しかし、それはスノウによって阻まれる。スノウは、リーパーの手と、アーサーの身体の間に、割って入った。そして……

「っ!?」

リーパーの手が、スノウに触れる。

「リーパーっ!!」

駆けつけたイザークが、蹴りを繰り出したことで、リーパーはスノウから直ぐに手を離した。イザークの蹴りは、鎖とカンテラの接合部に当たり、運良く鎖がカンテラから外れた。

「ちっ!」

リーパーは舌打ちをして、イザークから距離をとる。こうなっては、常に片手でカンテラを支えなくてはならない。

その隙をついてイザークは、スノウの側に駆け寄った。スノウは意識を失っていて、アーサーは隣で涙をこらえている。

「アーサー君、立って!僕についてきて!!」

イザークに声をかけられ、アーサーは突き動かされる。イザークはスノウを抱えると、場所を移動した。

リーパーは、少し遅れて彼らを追いかける。攻撃手段であるスノウを失った今、戦況はリーパーが優勢に傾いていた。余裕の笑みを浮かべながら、彼らを追った。

3人が、診察室に入っていくのが見えた。リーパーも、笑みを浮かべながらそれを追う。まるで、狩を楽しんでいるような気持ちだった。

ガチャッ

リーパーはドアノブをひねった。そして、ふと首をかしげる。そこには3人の姿はない。

部屋をよくよく観察すると、診察ベッドのある位置が、カーテンに締め切られて見えなくなっていた。リーパーは、とうとう追い詰めたと言わんばかりに、意気揚々とカーテンを開ける。しかし……

「いない!?ヤツら、一体どこへ……」

「こっちだ!!」

リーパーは、身体がぐらつくのを感じた。突如、後ろから現れたイザークに、両手を絡め取られ、そのまま組み伏せられる。その際、カンテラは無防備にも、床に投げ出されてしまった。

「馬鹿な!?キサマ、どこから……」

「流石に、ドアの裏には気がつかなかったみたいだね」

リーパーが目をやると、開けたはずのドアが閉まっている。そして先ほど死角となっていた位置に、スノウとアーサーがいた。

イザークは、リーパーの両手を背中に回し、リーパーの動きを封じていた。対抗手段のないリーパーは、悔しそうに歯ぎしりをする。

「アーサー君、今だ!」

イザークが叫ぶと、アーサーがこちらに走り寄ってきた。

「な……何をする気だ!?」

アーサーは診察ベッドに上り、リーパーを見下ろす。

「まさか……」

そして

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!!」

カンテラの上に飛び降りた。ガシャンと音を立てて、カンテラは割れる。閉じ込められていたのは人魂のようで、カンテラが割れた途端に、青い炎は霧散した。

途端、リーパーの身体がガクンと揺れる。

「リーパー!?」

危険を感じたイザークは、慌ててリーパーから離れた。アーサーの元に行き、後ろに下がらせる。

「ぐぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

リーパーは断末魔の叫びをあげた。彼の肌はみるみる干からび、やがて骨と皮だけになる。数十年分の歳月が一気に押し寄せ、身体はその急速な変化に耐えられなかったようである。悲鳴がかすれ、やがて消えた後、リーパーはそこで事切れていた。

「リーパー、死んだ?」

アーサーが、不安そうにイザークに問いかけた。

「死んだよ。アーサー君が倒したんだ。よくやったね」

イザークはアーサーの頭を撫でた。しかし、アーサーは笑顔1つ見せない。ずっと不安そうに、一点を見つめている。

「スノウ……」

アーサーが呟くと、イザークはアーサーの手を引いて、スノウの側に寄った。スノウは意識を失っているだけで、ちゃんと呼吸はしている。

「生きているよ。大丈夫」

イザークが自信を持って言うと、アーサーは安堵の表情を浮かべた。

「よかったぁ……」

そして、スノウに抱きついた。いつもなら、スノウの温かい手がアーサーを撫でてくれるが、今はそんなことはできない。その代わり、アーサーの耳に聞こえてくる彼女の心音が、アーサーの心を落ち着かせていた。

「さあ、外に出よう。みんなのところに帰るよ」

「うん!」

イザークは、アーサーからスノウの身体を受け取り、大切そうに抱えた。そして、アーサーから自分の顔が見えないようにして、下唇を強く噛んだ。

イザークは先ほどの戦いを反芻する。リーパーの手は、確かにスノウに届いていた。直ぐに引き剥がしたとはいえ……

(奪われた……)

イザークは心に悔しさを滲ませながら、廃病院を後にした。

Re: あなたに出会う物語 ( No.53 )
日時: 2017/09/15 00:49
名前: ももた

廃病院前で、フレッグはしゃがみこみ、スノウの肩を抱きながら、イザークから事の顛末を聞いていた。

「じゃ……スノウは、生気を奪われたって訳か……」

「はい……生気を失うということは、その分の寿命を失うということです。どれだけ盗られたのかは分かりませんが、スノウさんは、おそらく長くは……」

生きられない。イザークは、その言葉を繋げることが出来なかった。フレッグはうつむき、スノウを抱える腕に力を込める。イザークに顔を見られないようにしているのは、泣いているからかもしれない。

「馬鹿なスノウ……なんでそう簡単に、自分の命を投げ出せるんだ……」

言葉は怒っているようだが、守れなかったことに、自責の念があるのかもしれない。そして、永遠の別れが近づいてしまったことに、言いようのない不安を覚えているのかも……

(だったら、1日1日を幸せにしてやる……後悔がないように、隣で俺も生きる!)

決意を胸に、フレッグはスノウを抱いたまま立ち上がった。何も言わず、廃病院に背を向ける。イザークはそんな2人を、じっと見つめる。そこには、羨望にも似た眼差しが混ざっていた。



***



スノウは薄っすらと目を開けた。眼前にあるのは、白い天井。見覚えがある。医務室だ。スノウは、身体を起こそうとする。

「スノウさん!無理に起きようとしないでください!」

すると、イザークにそれを止められた。ずっと隣で看病をしていてくれていたようで、彼の机の上にはコーヒーの空き缶が何個も置かれている。

スノウは視線を天井に戻し、思い出す。確か、リーパーとの戦いの最中、リーパーの手に触れてしまい、そこで意識を手放したのだ。

「そうだ、リーパーは?」

「無事、倒しましたよ。誰も、酷い負傷はありません。だから、安心してください」

イザークが言うと、スノウは安心したように微笑む。イザークは申し訳なさを感じながら、スノウに例のことを伝えた。

「スノウさん、貴女がリーパーから受けた攻撃なんですが……アレで貴女は寿命を少し削られました。元々の寿命も、盗られた寿命も、どれだけかは分かりませんが……」

「そう……」

スノウは呟くように答える。ショックを受けているのか、しばらくは何も言わなかった。ややあって

「アーサーじゃなくて、良かったわ」

と、笑顔で呟く。

思わぬ反応に、イザークは目を見張っていた。屈託のないその笑顔に、イザークは胸を締め付けられる。

「全く、君は人が良すぎます……」

「そうかしら?」

スノウに何か温かいものをと思ったイザークは、魔法瓶から紅茶をカップに注ぐ。そして、スノウに差し出した。礼を述べて、スノウはそれを受け取る。

「本当ですよ……人のために、簡単に命を張ってしまうんだから」

「でも、イザークさんだって、みんなを大切にしてるじゃない」

「それは、君みたいになりたくて……」

言ってしまってから、イザークは赤面した。スノウはその真意を理解できず、首を傾げている。

「……ここに来てから、貴女には親切にしてもらいました。貴女には恋人がいるし、良くないと分かっていても好きになってしまったんです……」

スノウは突然の告白に驚いている。固まってしまった彼女を、イザークは抱きしめる。心臓を握り締められたように、胸が苦しかった。そして問いかける。

「この気持ちに、答えをくれませんか?」

偶然、その会話を、廊下で聞いてしまったフレッグがいた。

Re: あなたに出会う物語 ( No.54 )
日時: 2017/09/15 19:55
名前: ももた

イザークが廊下に出ると、フレッグに出くわした。フレッグは腕を組み、壁にもたれかかっている。イザークが前を通り過ぎようとすると、声をかけてきた。

「どういうつもりだ?」

「聞いていたくせに……人が悪いですよ」

イザークは視線を合わせずに答えた。気まずい沈黙が流れる。フレッグが医務室に入ろうとすると、イザークが再度口を開いた。

「これ以上、横恋慕したりしません。その代わり、スノウさんのこと、最期まで頼みますよ」

イザークはそう言い残して去っていった。静かな廊下には、彼の足音だけが響く。フレッグは、その背中を睨みつけながら呟いた。

「お前に言われるまでもない」



***



「ごめんなさい」

イザークの腕を振りほどきながらスノウの放った言葉は、拒絶だった。イザークは傷ついたようだが、大人しくスノウを放す。

「イザークさんは確かに良い人だけど……フレッグさんに抱くような感情は湧いてこないの。だから……」

「知ってますよ」

イザークはクスッと笑いながら言った。そして、スノウのベッドに、スノウに背中を向けるようにして腰掛ける。

「リリスが貴女にかけた呪いは、生涯ただ1人の人しか愛せないという呪いです。スノウさんはこの先、フレッグ君以外を好きになることはないんですよ……」

スノウは納得する。通りで、スノウは自分の呪いが分からなかったわけだ。革命軍に入った頃、スノウにはまだ、好きになるような相手はいなかった。フレッグのことを想うようになり、初めて呪いが発動したのだ。

「どうして、そんなことを知っているの?」

スノウが問いかけると、イザークは思い出させるように語る。

「僕は幼い頃、王宮によく出入りしていました。その頃、パンドラ様から、皆んなの呪いのことも聞いていたんです」

スノウも思い出した。パンドラが亡くなったのは、スノウ達の生まれた年、イザークが6歳だった頃だ。すでに物心がついているのは当然だろう。

「でも、女王はどうしてそんな呪いを?」

スノウは疑問に思った。他の仲間達の呪いは、普通に生きるのに支障をきたしたり、命に関わるものばかりだ。それらに比べると、スノウの呪いは、程度が軽い気がした。

「先代の白雪姫は、呪いをかけられた時、婚約者だった恋人を亡くしています。パンドラ様は彼女の生涯を見守っていましたが、孤独に浸っているようで気の毒だったと……」

スノウは、前世の白雪姫のことが容易に想像できた。愛しい人を失った悲しみを、他で補うこともできず、苦しみを背負ったのではないだろうかと。

「でも……負け惜しみかもしれませんが、フレッグ君よりも先に、僕と出会っていたら、結果はどうなっていたんでしょうね?」

イザークは悪戯っぽく笑った。そこには執着はなく、ただ潔さがあるだけだった。イザークは身を引いたのだ。

そして、イザークは医務室を後にした。廊下から話し声が聞こえた後、入れ替わるようにして、今度はフレッグが入ってくる。

「フレッグさん!もしかして、さっきの話、聞いていたの!?」

スノウは、シーツで顔を覆いながら叫んだ。呪いが発動しているということは……つまりそういうことだ。フレッグは目をそらしながら、素直に「ごめん」と謝る。

「でも、お前は大丈夫だ。俺はお前を1人にしない」

フレッグは、スノウの髪を撫でる。フレッグの約束は、必然的な事象も含んでいた。寿命の縮まったスノウは、フレッグより長く生きることはないだろうということだ。

いつになく優しいフレッグに、スノウは戸惑っている。ふと、スノウは何かを思い出したように、衣服を探る。

「そういえばコレ……日付が変わる前に渡さなくちゃ」

スノウが差し出したのは、以前雑貨屋で購入したロケットだ。フレッグはその意味が分からないのか、怪訝な顔をしている。

「もう!今日は貴方の誕生日でしょ?」

フレッグは、スノウに言われて初めて気がついた。任務に明け暮れていて、すっかり忘れていた。

「もっと、ちゃんと祝いたかったんだけど……」

「いいよ、気にしなくて。自分でも忘れてたくらいだ。ありがとう」

フレッグはロケットを受け取った。開けてみると、2層構造になっていた。1枚は革命軍にのみんなの写真、もう1枚はスノウと2人で撮った写真だ。

「私のと対になっているの。写真はメグさんが選んでくれて……気に入ってくれた?」

「当たり前だよ」

フレッグは、ロケットを両手で大切そうに持って、いつまでも眺めていた。写真の中のスノウは、仏頂面のフレッグと違って、花のような笑顔を見せている。この笑顔がいつまでも続くようにと、フレッグは胸の内に誓った。

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